2025年6月23日月曜日

年金保険の保険料


日本の年金制度は,先に被用者を対象とする厚生年金ができて,そのあとに厚生年金の被保険者以外の20歳以上60歳未満を対象とする国民年金ができました。


現在は,1階部分が国民年金,2階部分が厚生年金という2階建て構造となっています。


〈保険者〉

いずれも政府


〈保険料〉

国民年金 定額制

厚生年金 報酬比例(報酬が高いと多く拠出する方式)


それでは,今日の問題です。


第35回・問題55

公的年金制度に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 厚生年金保険の被保険者は,国民年金の被保険者になれない。

2 基礎年金に対する国庫負担は,老齢基礎年金,障害基礎年金,遺族基礎年金のいずれに対しても行われる。

3 厚生年金保険の保険料は,所得にかかわらず定額となっている。

4 保険料を免除されていた期間に対応する年金給付が行われることはない。

5 老齢基礎年金の受給者が,被用者として働いている場合は,老齢基礎年金の一部又は全部の額が支給停停止される場合がある。


知識がないと正解できない問題です。


年金保険は複雑ですが,すべての国民を対象とする皆年金は,自分の人生にも関係するだけに確実に覚えておきたいです。


それでは,解説です。


1 厚生年金保険の被保険者は,国民年金の被保険者になれない。


厚生年金の被保険者は,給与明細に厚生年金保険料と記載されているので,国民年金には加入していないと思う人が結構います。


国民年金は,日本国内に住所のある20歳以上60歳未満の者が加入します。


国民年金の被保険者は,第一号から第三号まであります。


第二号被保険者は,厚生年金の被保険者です。


第三号被保険者は,第二号被保険者(つまり厚生年金の被保険者)の被扶養配偶者です。


第一号被保険者は,第二号被保険者でも第三号被保険者でもない者です。


2 基礎年金に対する国庫負担は,老齢基礎年金,障害基礎年金,遺族基礎年金のいずれに対しても行われる。


これが正解です。基礎年金(つまり国民年金)には国庫負担があります。


現在の国庫負担割合は,2分の1です。


3 厚生年金保険の保険料は,所得にかかわらず定額となっている。


〈保険料〉

国民年金 定額制

厚生年金 報酬比例(報酬が高いと多く拠出する方式)


4 保険料を免除されていた期間に対応する年金給付が行われることはない。


国民年金も厚生年金も保険料免除の期間は,年金額の算定に関連します。


国民年金の場合,全額免除では,国庫負担分が将来受け取る年金額に関係します。


現在の老齢基礎年金の満額(年額)は,約80万円です。


40年間,全額免除の場合,半額の約40万円が支給されます。


厚生年金の場合は,免除された期間は,保険料納付があったものとして計算されます。


これは,産前産後休業・育児休業,特に育児休業の取得を促すための仕組みです。


5 老齢基礎年金の受給者が,被用者として働いている場合は,老齢基礎年金の一部又は全部の額が支給停止される場合がある。


被用者として働いている場合は,老齢基礎年金の一部又は全部の額が停止される制度は,在職厚生年金といいます。


つまり,この制度があるのは,厚生年金です。

2025年6月19日木曜日

社会保険の加入

 社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律の概要


施行は,一部を除き,2026年(令和8年)4月1日です。

社会保険の加入に関して,短時間労働者の賃金要件が撤廃されます。(施行日は未定)

現在は,月額88,000円に設定されています。これが106万円の壁です。


それでは,今日の問題です。


第35回・問題54 

社会保険制度の適用に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 週所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者は,雇用保険に加入することはできない。

2 労働者災害補償保険制度には,大工,個人タクシーなどの個人事業主は加入できない。

3 日本国内に住所を有する外国人には,年齢にかかわらず国民年金に加入する義務はない。

4 厚生年金保険の被保険者の被扶養配偶者で,一定以下の収入しかない者は,国民年金に加入する義務はない。

5 生活保護法による保護を受けている世帯(保護を停止されている世帯を除く。)に属する者は,「都道府県等が行う国民健康保険」の被保険者としない。


社会保険の加入について,バランスよく勉強できる問題だと思います。


それでは,解説です。


1 週所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者は,雇用保険に加入することはできない。


週所定労働時間は20時間以上あれば加入できる可能性があります。(雇用契約で判断)


2 労働者災害補償保険制度には,大工,個人タクシーなどの個人事業主は加入できない。


労災保険は,労働者保護の制度ですが,個人事情主も特別加入できます。


3 日本国内に住所を有する外国人には,年齢にかかわらず国民年金に加入する義務はない。


国民年金には国籍要件がありません。


日本国内に住所を有する外国人(20歳以上60歳未満)は加入義務があります。


4 厚生年金保険の被保険者の被扶養配偶者で,一定以下の収入しかない者は,国民年金に加入する義務はない。


 厚生年金保険の被保険者の被扶養配偶者で,一定以下の収入しかない者は,国民年金の第三号被保険者となります。


第三号被保険者は保険料負担がないために加入せずともよい,と勘違いしている人もいるので要注意です。


5 生活保護法による保護を受けている世帯(保護を停止されている世帯を除く。)に属する者は,「都道府県等が行う国民健康保険」の被保険者としない。


これが正解です。


国民健康保険の被保険者が生活保護を受けると保険証を返還し,医療を受ける時は医療券を発行してもらい,医療扶助(現物給付)を受けます。

2025年6月16日月曜日

労働者災害補償保険制度

 日本の社会保険は,5種類あります。


年金保険制度と医療保険制度は,従来あった制度を利用して,国民皆保険・皆年金を構成しているため,制度が複雑です。


それに比べると,戦後にできた労働保険(労災保険と雇用保険)は,制度がシンブルです。


今回は,そのうちの労災保険(労働者災害補償保険)です。


労災保険の特徴は,被保険者という概念がないことです。


すべての労働者(賃金の支払いを受ける者)は労災保険が適用されます。


保険事故は,業務災害と通勤災害です。


保険料は,災害の発生率によって上下するメリット制です。

発生率が高ければ保険料が上がり,低ければ保険料が下がります。


つまり,メリット制のメリットとは,事業者が労災防止に努めると保険料が下がるという意味です。


メリット制が適用されるのは,業務災害です。通勤災害は管理者の責任が及ばない場所で発生するため,メリット制は適用されません。


保険料負担は,事業主のみです。労働者負担はありません。この制度を取り入れているため,労災保険はすべての労働者に適用されます。


それでは,今日の問題です。


第35回・問題53

次のうち,労働者災害補償保険制度に関する記述として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 労働者の業務災害に関する保険給付については,事業主の請求に基づいて行われる。

2 メリット制に基づき,事業における通勤災害の発生状況に応じて,労災保険率が増減される。

3 保険料は,事業主と労働者が折半して負担する。

4 労働者災害補償保険の適用事業には,労働者を一人しか使用しない事業も含まれる。

5 労働者の業務災害に関する保険給付については,労働者は労働者災害補償保険又は健康保険のいずれかの給付を選択することができる。


この問題は,労災保険の特徴を表わす良い問題だと思います。


それでは,解説です。


1 労働者の業務災害に関する保険給付については,事業主の請求に基づいて行われる。


労災保険は,労災があった労働者が労働基準監督署に請求を行います。


事業主が請求してくれれば楽だと思うかもしれません。


しかし,メリット制によって保険料が上がることを避けたい事業主は,労災隠しをすることもあります。


労災隠しを防ぐためにも請求するのは,労働者本人であることが重要です。


2 メリット制に基づき,事業における通勤災害の発生状況に応じて,労災保険率が増減される。


メリット制が適用されるのは,業務災害です。


通勤災害にはメリット制はありません。


3 保険料は,事業主と労働者が折半して負担する。


労災保険の保険料は,事業主のみが負担します。


なお,事業主が保険料を滞納していても労災保険の補償を受けることができます。


4 労働者災害補償保険の適用事業には,労働者を一人しか使用しない事業も含まれる。


これが正解です。


一人でも労働者がいる事業場には,労災保険が適用されます。


5 労働者の業務災害に関する保険給付については,労働者は労働者災害補償保険又は健康保険のいずれかの給付を選択することができる。


健康保険が適用されるのは,労災保険が適用されない傷病です。


つまり,業務災害には健康保険は適用されません。多くの制度は,選択できるようには作られません。

それぞれの適用範囲は極めて明確です。

2025年6月12日木曜日

医療保険の組合

  

現役世代の公的医療保険を大きく分けると,健康保険と国民健康保険の2つがあります。

 

それぞれの保険者には,組合があります。

 

健康保険組合は,大企業などが独自に組合を作り,保険業務を行います。

 

国民健康保険は,同業者などが独自に組合を作り,保険業務を行います。

 

それでは,今日の問題です。

  

35回・問題52

公的医療保険における被保険者の負担等に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 健康保険組合では,保険料の事業主負担割合を被保険者の負担割合よりも多く設定することができる。

2 「都道府県等が行う国民健康保険」では,都道府県が保険料の徴収を行う。

3 「都道府県等が行う国民健康保険」の被保険者が,入院先の市町村に住所を変更した場合には,変更後の市町村の国民健康保険の被保険者となる。

4 公的医療保険の保険給付のうち傷病手当金には所得税が課せられる。

5 保険診療を受けたときの一部負担金の割合は,義務教育就学前の児童については1割となる。

(注) 「都道府県等が行う国民健康保険」とは,「都道府県が当該都道府県内の市町村とともに行う国民健康保険」のことである。

 

知識なしでは,5分の1以上の確率では正解できないかなり難しい問題です。

 

国家試験が終わると,いろいろな団体や個人が,いわゆる「難問・奇問」と位置づける問題がありますが,実は,このような問題の方が正解するのが難しいものです。

 

「難問・奇問」は,焦らないで冷静に考えると意外と正解できます。

 

今日の問題のような内容の問題は,どれだけ考えても知識なしでは,答えを導きだすことができません。

 

それでは解説です。

 

1 健康保険組合では,保険料の事業主負担割合を被保険者の負担割合よりも多く設定することができる。

 

これが正解です。

大企業などが独自に組織する健康保険組合は,かなり自由に運営することができます。

 

保険料も独自に設定することができます。

 

そのほかには,法定給付以外に組合独自の給付である「付加給付」を設定することもできます。

 

2 「都道府県等が行う国民健康保険」では,都道府県が保険料の徴収を行う。

 

社会保険の中で,都道府県が保険者となる制度は,国民健康保険のみです。

 

しかし,保険料の徴収を行うのは市町村です。

 

このような一般住民を対象とする事務は,都道府県には向きません。

 

3 「都道府県等が行う国民健康保険」の被保険者が,入院先の市町村に住所を変更した場合には,変更後の市町村の国民健康保険の被保険者となる。

 

国民健康保険には「住所地特例」という制度があり,入院前の市町村が引き続き保険者となります。

 

この制度は,介護保険でも採用されています。

 

4 公的医療保険の保険給付のうち傷病手当金には所得税が課せられる。

 

傷病手当金には,所得税はかかりません。

 

5 保険診療を受けたときの一部負担金の割合は,義務教育就学前の児童については1割となる。

 

一部負担金は,義務教育就学前の児童については2割です。

2025年6月8日日曜日

社会保障制度に関する事例問題の着眼点


2025年(令和7年)2月に実施された第37回国家試験から,令和元年度カリキュラムに沿った内容に移行しています。


大きな変更はなく,科目の再編が中心です。


全体の出題数は150問から129問になり,大きく減りましたが,「社会保障」の出題数は,7問から9問と2問も増えています。


増えた分は,事例問題(問題の類型ではタクソノミーⅢ型)で出題されてくると思うので,結構やっかいです。


タクソノミーⅢ型は,知識の総合問題だと言えるからです。


知識ゼロでは正解することは,困難です。


〈社会保障の事例問題の主な着眼点〉

1.けがの原点となった事故が起きたのは,仕事中だったか,プライベートだったのか

2.医療保険の場合,健康保険なのか,国民健康保険なのか

3.年金保険の場合は,何歳なのか

4.国民年金の場合は,第何号被保険者なのか


1の場合は,仕事中の事故なら,健康保険は適用されないからです。

2の場合,世帯主が健康保険加入者であれば,家族は被扶養者になる可能性がありますが,国民健康保険加入者の場合,被扶養者という制度はありません。

3の場合,介護保険の場合は,40~64歳は第二号被保険者,65歳以上は第一号被保険者,国民年金の場合は20歳以上~60歳未満が加入します。

4の場合,配偶者が厚生年金加入者(国民年金の第二号被保険者)の場合,被扶養配偶者は,第三号被保険者となる可能性があります。配偶者が国民年金加入者(国民年金の第一号被保険者)の場合,被扶養配偶者も第一号被保険者として加入します。これらの場合も年齢に注意します。


それでは,今日の問題です。


第35回・問題51

事例を読んで,社会保険制度の加入に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 Gさん(76歳)は,年金を受給しながら被用者として働いている。同居しているのは,妻Hさん(64歳),離婚して実家に戻っている娘Jさん(39歳),大学生の孫Kさん(19歳)である。なお,Gさん以外の3人は,就労経験がなく,Gさんの収入で生活している。 

1 Gさんは健康保険に加入している。

2 Hさんは国民健康保険に加入している。 

3 Jさんは健康保険に加入している。

4 Jさんは介護保険に加入している。

5 Kさんは国民年金に加入している。


最初に注意するのは,年齢などの属性です。


Gさん(76歳)は,被用者なので70歳になるまで,厚生年金に加入していたと考えられますが,70歳になった時点で厚生年金の加入権を失っています。医療保険は,74歳までは,健康保険に加入していました。75歳になった時点で健康保険から後期高齢者医療制度に変わっています。


Hさん(64歳),Jさん(39歳),Kさん(19歳)はいずれも就労経験はなく,Gさんの収入で生活しています。


これらを頭に入れておいて,各選択肢を考えていきます。


1 Gさんは健康保険に加入している。


Gさんが加入している医療保険制度は,後期高齢者医療制度です。


2 Hさんは国民健康保険に加入している。


これが正解です。


Gさんが75歳になるまでは,健康保険に加入していたので,被扶養者としてHさん自身は医療保険に加入する必要はありませんでした。


しかし,後期高齢者医療制度には被扶養者という制度がないために,Hさん,Jさん,Kさんは,全員,国民健康保険に加入しなければなりません。


3 Jさんは健康保険に加入している。


Jさんは,就労していないので,健康保険に加入できません。健康保険に加入するためには,現時点(2025年6月)では,月の収入として88,000円以上が必要です。


4 Jさんは介護保険に加入している。


この家族の中で,介護保険に加入しているのは,Gさん,Hさんの2人のみです。


Jさんは,40歳になると第二号被保険者となります。


5 Kさんは国民年金に加入している。


Kさんは,20歳になると,国民年金に加入します。


〈おまけ〉

Kさんが現時点で,事故や病気などになり,国民年金の障害等級表の1級,2級に相当する障害となった場合は,20歳になると,障害基礎年金が給付される可能性があります。


このように,障害基礎年金の場合,保険料を納付せずとも,保険料を受け取れる可能性があります。

この場合には,社会保険制度には珍しく所得制限が設けられています。所得が高いと,年金の減額や停止が行われます。


このほかにも学生納付特例制度を利用している最中に国民年金の障害等級表の1級,2級に相当する障害となった場合も障害基礎年金を受け取ることができます。受給するのに,保険料の追納は必要ありません。

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