2025年5月9日金曜日

逸脱行動論の基礎知識~特にラベリング理論

今回は,逸脱行動論を学びます。

 

逸脱行動論とは,人はどのようにして逸脱していくのかを論じたものです。

 

逸脱行動論にはいくつも種類がありますが,最近の国家試験では,ラベリング理論を学んでほしいと思っているのではないかと感じることがあります。

 

ラベリング理論

周りが逸脱者だとレッテルを貼ることで逸脱すると考える。

分化的接触論

(文化学習理論)

逸脱者と交流し,逸脱行為を学ぶことで逸脱すると考える。

機会構造論

合法的ではない機会に多く接触することで逸脱すると考える。

アノミー論

文化的発展によって人々の欲求が高まるが,その欲求を満たすことができないときに逸脱すると考える。

社会統制理論

人の絆があるとき,仕事や学業などに打ち込んでいるときは,逸脱が減ると考える。

漂流理論

非行少年が遵法的な世界と非行的な世界の間で揺れ動き漂っている中で逸脱が生じると考える。

 

 

ラベリング理論だけが,本人の理由によって,逸脱したり,逸脱が減少すると考えるのではなく,周りが逸脱者生み出す,という理論となっています。

 

つまり問題の根源は,本人ではなく,レッテルを貼る周りの人だということになります。

 

それでは今日の問題です。

 

35回・問題21

次の記述のうち,ラベリング論の説明として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 社会がある行為を逸脱とみなし統制しようとすることによって,逸脱が生じると考える立場である。

2 非行少年が遵法的な世界と非行的な世界の間で揺れ動き漂っている中で,逸脱が生じると考える立場である。

3 地域社会の規範や共同体意識が弛緩することから,非行や犯罪などの逸脱が生じると考える立場である。

4 下位集団における逸脱文化の学習によって,逸脱が生じると考える立場である。

5 個人の生得的な資質によって,非行や犯罪などの逸脱が生じると考える立場である。

 

この問題は,語尾がすべて「逸脱が生じると考える立場である」で統一されています。

こういったタイプは,日本的に判断することができません。そのため,知識の差が明確に生じます。

 

それでは,解説です。

 

1 社会がある行為を逸脱とみなし統制しようとすることによって,逸脱が生じると考える立場である。

 

これが正解です。

 

「社会がある行為を逸脱とみなし統制しようとする」という部分がレッテルを貼ることを意味しています。

 

2 非行少年が遵法的な世界と非行的な世界の間で揺れ動き漂っている中で,逸脱が生じると考える立場である。

 

これは,漂流理論です。

 

3 地域社会の規範や共同体意識が弛緩することから,非行や犯罪などの逸脱が生じると考える立場である。

 

これは,アノミー論です。

 

 

4 下位集団における逸脱文化の学習によって,逸脱が生じると考える立場である。

 

これは,分化的接触理論です。

 

5 個人の生得的な資質によって,非行や犯罪などの逸脱が生じると考える立場である。

 

これは,前説にありませんが,生来性犯罪者説です。これが正解になることはまずないでしょう。単なる数合わせのための出題です。

 

〈今日の一言〉

 

これからも逸脱行動論の出題の中心にはラベリング理論が据えられることでしょう。

2025年5月7日水曜日

社会的ジレンマ

今回は,社会的ジレンマを取り上げます。


社会的ジレンマとは,個々人の行動の結果が社会に不利益をもたらすことをいいます。


国家試験では,社会的ジレンマの例として

・フリーライダー

・囚人のジレンマ

・共有地の悲劇

が出題されています。


フリーライダーは,負担なしに公共財などを利用することをいいます。


囚人のジレンマは,二人の囚人が相棒を信じて黙秘すれば二人の利益になるものを,相棒を信じて良いものか,相棒が裏切るかもしれないので,先に裏切った方が良いのか,といった場面で悩むことをいいます。


共有地の悲劇は,みんなが利益を得ようとした結果,みんなの利益が低下してしまうことをいいます。


それでは,今日の問題です。


第35回・問題20

次の記述のうち,ハーディン(Hardin,G.)が提起した「共有地の悲劇」に関する説明として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 協力してお互いに利益を得るか,相手を裏切って自分だけの利益を得るか,選択しなければならない状況を指す。

2 財やサービスの対価を払うことなく,利益のみを享受する成員が生まれる状況を指す。

3 協力的行動を行うと報酬を得るが,非協力的行動を行うと罰を受ける状況を指す。

4 それぞれの個人が合理的な判断の下で自己利益を追求した結果,全体としては誰にとっても不利益な結果を招いてしまう状況を指す。

5 本来,社会で広く共有されるべき公共財へのアクセスが,特定の成員に限られている状況を指す。


社会的ジレンマの問題は,出題内容が決まっているので,知識さえあれば,それほど難しくないでしょう。


こういったタイプの問題で得点できないことは,不合格に直結します。


それでは,解説です。


1 協力してお互いに利益を得るか,相手を裏切って自分だけの利益を得るか,選択しなければならない状況を指す。


これは,囚人のジレンマです。


2 財やサービスの対価を払うことなく,利益のみを享受する成員が生まれる状況を指す。


これは,フリーライダーです。


3 協力的行動を行うと報酬を得るが,非協力的行動を行うと罰を受ける状況を指す。


これは,選択的誘因です。


4 それぞれの個人が合理的な判断の下で自己利益を追求した結果,全体としては誰にとっても不利益な結果を招いてしまう状況を指す。


これが「共有地の悲劇」です。


5 本来,社会で広く共有されるべき公共財へのアクセスが,特定の成員に限られている状況を指す。


このようなものはありません。公共財へのアクセス(利用すること)は,利用対象が限定されないのが特徴です。

2025年5月5日月曜日

社会的役割について

 

今回のテーマは,社会的役割です。

 

国家試験には,数多くの種類が出題されるので,覚えるのが大変だと思います。

 

しかし,出題確率は,「社会学と社会システム」の中では高い部類のものなので,参考書に書かれているものは確実に覚えておきたいです。

 

特に以下は確実に覚えておきたいです。

 

役割期待:役割に対する他者からの期待。

役割取得:役割を自分の内面に取り入れること。

役割葛藤:複数の役割期待の中で葛藤すること。

役割距離:役割期待に対して,少しだけずらすこと。

 

この中で,注意したいのは,役割距離です。

 

ブルーマーやゴッフマンなどの社会学者は,人の行為は,人との相互作用によって行われる「シンボリック相互作用論」を論じています。

 

特にゴッフマンは,人の行為は,観客に向けた演技(ドラマツルギー)だと論じました。

 

人は社会的動物です。

ほかの人がいるのといないのでは,行為も変わるでしょう。

 

例えば,大学生カップルの場合

 

彼女は彼氏の前では,彼女らしく演じます。

仮氏は彼女の前では,彼氏らしく演じます。

 

演じられるのは,他者の役割期待を知っているからです。

他者の役割期待を知ることが役割取得です。

 

役割距離は,他者からの役割期待からちょっとだけずらして演技します。

 

よく用いられるのは,「子どもが木馬に逆向きに座る」という例です。

 

親からの役割期待は,子どもは,子どもらしく木馬に乗って遊ぶことです。

 

子どもは,最初はおとなしく乗っていますが,慣れてくると,逆向きに乗ったり,立ち上がろうとしたりしだします。

 

これは,親に向かって,こんなことができるようになった,というアピールです。

親が見ていなければ,おそらくそういったことはしないでしょう。

 

重要なのは,役割期待からすこしだけずらすことです。

大きくずらすと逸脱者としてレッテルを貼られます。

子どもの場合は,親にこっぴどく怒られることになります。

 

ネットに投稿された世界びっくり映像などでは,カメラの前ではしゃぐ子どもがそのうちに失敗して,面白い映像になったりしていますが,親が撮影しているために起きることです。

 

それでは,今日の問題です。

 

35回・問題19

社会的役割に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 役割距離とは,個人が他者からの期待を自らに取り入れ,行為を形成することを指す。

2 役割取得とは,個人が他者との相互行為の中で相手の期待に変容をもたらすことで,既存の役割期待を超えた新たな行為が展開することを指す。

3 役割葛藤とは,個人が複数の役割を担うことで,役割の間に矛盾が生じ,個人の心理的緊張を引き起こすことを指す。

4 役割期待とは,個人が他者からの期待と少しずらした形で行為をすることで,自己の主体性を表現することを指す。

5 役割形成とは,個人が社会的地位に応じた役割を果たすことを他者から期待されることを指す。

 

社会的役割の問題には,たくさんの「役割〇〇」が出題されますが,多くの問題は落ち着いて考えると正解できます。

 

この問題は,入れ替えになっていることに気がつくことができれば,正解しやすくなります。

 

整理します。

 

役割距離

個人が他者からの期待と少しずらした形で行為をすることで,自己の主体性を表現すること。

役割取得

個人が他者からの期待を自らに取り入れ,行為を形成すること。

役割葛藤

個人が複数の役割を担うことで,役割の間に矛盾が生じ,個人の心理的緊張を引き起こすこと。

役割期待

個人が社会的地位に応じた役割を果たすことを他者から期待されること。

役割形成

個人が他者との相互行為の中で相手の期待に変容をもたらすことで,既存の役割期待を超えた新たな行為が展開すること。

 

ということで,正解は,選択肢3です。

3 役割葛藤とは,個人が複数の役割を担うことで,役割の間に矛盾が生じ,個人の心理的緊張を引き起こすことを指す。

 


〈今日の一言〉

 この問題の難易度が比較的低いのは,正解となった「役割葛藤」は「複数の役割を担うことで,役割の間に矛盾が生じ,個人の心理的緊張を引き起こす」が一般的な「葛藤」(コンフリクト)を推測できるからです。

 「役割〇〇」が連続することで,混乱を引き起こしがちですが,このように国家試験では,知識が不足していてもよくよく考えると正解できる問題もあります。

2025年5月3日土曜日

「ライフ」がつく用語の整理

今回は,「ライフ」がつく用語を学びます。

 

ライフスタイル

個々人の生き方や価値観のことです。

ライフイベント

進学,就職,結婚,子の誕生など,人生の中で重要な出来事(イベント)です。

ライフステージ

ライフイベントが起きる段階(ステージ)です。

ライフサイクル

人の誕生から死亡までをライフステージごとに分析するものです。

発達心理学のエリクソンは人生を8つの段階に分けて,それぞれの発達課題を設定しました。

ライフコース

人の生き方の多様化に伴い,ライフステージが明確にならなくなってきたことで,ライフステージを適用させないで人生を分析するものです。

 

それでは,この知識をもとに,今日の問題です。

 

35回・問題18

次の記述のうち,人々の生活を捉えるための概念の説明として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 生活時間とは,個々人の人生の横断面に見られる生活の様式や構造,価値観を捉える概念である。

2 ライフステージとは,生活主体の主観的状態に注目し,多面的,多角的に生活の豊かさを評価しようとする概念である。

3 生活の質とは,時間的周期で繰り返される労働,休養,休暇がどのように配分されているかに注目する概念である。

4 家族周期とは,結婚,子どもの出生,配偶者の死亡といったライフイベントの時間的展開の規則性を説明する概念である。

5 ライフスタイルとは,出生から死に至るまでの人の生涯の諸段階を示す概念である。

 

この問題の肝は,各選択肢が入れ替えになっていることに気がつくことができるかです。

 

整理すると以下のようになります。

 

生活時間

時間的周期で繰り返される労働,休養,休暇がどのように配分されているかに注目する概念。

ライフステージ

出生から死に至るまでの人の生涯の諸段階を示す概念。

生活の質

生活主体の主観的状態に注目し,多面的,多角的に生活の豊かさを評価しようとする概念。

家族周期

結婚,子どもの出生,配偶者の死亡といったライフイベントの時間的展開の規則性を説明する概念。

ライフスタイル

個々人の人生の横断面に見られる生活の様式や構造,価値観を捉える概念。

 

このようにまとめると何となくでも「そうだな」と思えるかもしれません。

 

しかし,もともと覚えていた表現と異なります。

 

丸暗記の勉強では,社会学や心理学などの科目で出題される問題に対応することができません。

 

もともとの知識を使って考えることが必要なことがわかるでしょう。詳しい知識は必要ありませんが,ことに聞かれれば,簡単にでも説明できる程度の理解が必要です。

 

ということで,今日の問題の正解は,選択肢4でした。

4 家族周期とは,結婚,子どもの出生,配偶者の死亡といったライフイベントの時間的展開の規則性を説明する概念である。

 

〈今日の一言〉

 

気をつけなければならないのは,ライフサイクルと家族周期の違いです。

 

ライフサイクルは,一人の人の人生周期であり,家族周期は,ライフサイクルのうち,家族の部分に着目したものです。

 

ライフサイクル 誕生から死まで

家族周期    結婚から配偶者の死まで

 

なお,この問題では出題されていませんが,必ず覚えておきたいのはライフコース(人生行路)です。

2025年5月1日木曜日

社会変動とは

 

社会変動とは,社会が変化していくことです。

 

社会変動は,どのように変化するのか,その順番が大切です。

順番を逆にして出題されることが多いからです。 

 

デュルケム

テンニース

スペンサー

機械的連帯

有機的連帯

ゲマインシャフト

ゲゼルシャフト

軍事型社会

産業型社会

  

この中で最も出題回数が多いのは,テンニースの「ゲマインシャフト → ゲゼルシャフト」です。

 

ドイツ語なので言葉が分かりにくいこともあり,国家試験で出題すると,受験者に差がつきやすいからでしょう。

 

覚えにくいからこそ,しっかり覚えなければならない筆頭の一つだと言えます。

 

 

それでは,今日の問題です。

 

35回・問題16 

社会変動の理論に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 ルーマン(LuhmannN.)は,社会の発展に伴い,軍事型社会から産業型社会へ移行すると主張した。

2 テンニース(TonniesF.)は,自然的な本質意志に基づくゲマインシャフトから人為的な選択意志に基づくゲゼルシャフトへ移行すると主張した。

3 デュルケム(DurkheimE.)は,産業化の進展に伴い,工業社会の次の発展段階として脱工業社会が到来すると主張した。

4 スペンサー(SpencerH.)は,近代社会では適応,目標達成,統合,潜在的パターン維持の四つの機能に対応した下位システムが分出すると主張した。

5 パーソンズ(ParsonsT.)は,同質的な個人が並列する機械的連帯から,異質な個人の分業による有機的な連帯へと変化していくと主張した。

 

 

人名が連続していますが,ここに出てくる人名くらいは覚えておきたいです。

 

正解は,前説でわかるかもしれませんが,表でまとめます。

 

人名

主張したもの

スペンサー

社会の発展に伴い,軍事型社会から産業型社会へ移行すると主張した。

テンニース

自然的な本質意志に基づくゲマインシャフトから人為的な選択意志に基づくゲゼルシャフトへ移行すると主張した。

ベル

産業化の進展に伴い,工業社会の次の発展段階として脱工業社会が到来すると主張した。

パーソンズ

近代社会では適応,目標達成,統合,潜在的パターン維持の四つの機能に対応した下位システムが分出すると主張した。

デュルケム

同質的な個人が並列する機械的連帯から,異質な個人の分業による有機的な連帯へと変化していくと主張した。

 

 

ということで,正解は,選択肢2です。

 

2 テンニース(TonniesF.)は,自然的な本質意志に基づくゲマインシャフトから人為的な選択意志に基づくゲゼルシャフトへ移行すると主張した。

 

なお,パーソンズが述べた「適応,目標達成,統合,潜在的パターン維持の四つの機能」をAGIL図式といいます。合わせて覚えておきたいです。

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