今日のテーマは,「面前DVは,心理的虐待です」です。
面前DVとは,子どもの前で配偶者から暴力を受けることをいいます。
児童虐待防止法ができた当時は,この考え方はなく,途中で加わりました。
その時に,自分のきょうだいへの虐待も,心理的虐待に含まれるようになりました。
この変更により,法ができた当初は,身体的虐待が最も多かったものが,現在では心理的虐待が最も多くなっています。
それでは,今日の問題です。
第33回・問題138
事例を読んで,Z配偶者暴力相談支援センターのH相談員(社会福祉士)によるこの時点での対応として,適切なものを2つ選びなさい。
〔事 例〕
Jさん(35歳)は夫(45歳)と娘(7歳)の3人暮らしである。日々の生活の中で,「誰のおかげで飯を食わせてもらっているのか。母親失格,人間としても駄目だ」等と毎日のように娘の前で罵倒され,娘もおびえでおり,Z配偶者暴力相談支援センターに相談に来た。H相談員に,夫の言葉の暴力に苦しんでいることを相談し,「もう限界です」と話した。Jさんは娘の成長にとってもよくないと思っている。
1 家庭裁判所に保護命令を申し立てるようJさんに勧める。
2 Jさんの希望があれば,Jさんと娘の一時保護を検討できるとJさんに伝える。
3 「身体的暴力はないのだから」と,もう少し様子を見るようJさんに伝える。
4 警察に通報する。
5 父親の行為は児童虐待の疑いがあるので,児童相談所に通告する。
この問題で得点するためには,児童虐待防止法には,通告義務があることと面前DVは心理的虐待であることを知っていることが必要です。
それでは解説です。
1 家庭裁判所に保護命令を申し立てるようJさんに勧める。
DV防止法にかかわる裁判所は,家庭裁判所ではなく,地方裁判所です。
保護命令の申立先が間違っています。
2 Jさんの希望があれば,Jさんと娘の一時保護を検討できるとJさんに伝える。
これが1つめの正解です。
困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(困難女性支援新法)が規定する女性相談支援センターがDV防止法に規定される配偶者暴力相談支援センターとしての役割を果たしています。
女性相談支援センターには,一時保護を行う施設が設置されます。これをDV被害者のシェルターとして活用します。
3 「身体的暴力はないのだから」と,もう少し様子を見るようJさんに伝える。
児童虐待防止法では,児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者には通告義務を規定しています。
身体的暴力はありませんが,面前DVはあります。
4 警察に通報する。
DV防止法では,「配偶者からの暴力を受けている者を発見した者は,その旨を配偶者暴力相談支援センター又は警察官に通報するよう努めなければならない」と通報の努力義務を規定しています。
DV防止法が規定する警察は通報先の一つですが,この事例の場合,Jさんは配偶者暴力相談支援センターに相談に来ています。
改めて警察に通報する必要があるのは,DVの制止,DV被害者の保護などを求める場合です。
現時点では,Jさんは安全な場所にいるので,警察に通報する優先度合いは低いと言えます。
5 父親の行為は児童虐待の疑いがあるので,児童相談所に通告する。
これが2つめの正解です。
夫による娘の前でのJさんへの罵倒は面前DVなので,児童虐待防止法の心理的虐待に当たります。
罵倒があったのかどうかにかわらず,「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者」には通告義務があります。
児童虐待防止法の通告先は,市町村,福祉事務所,児童相談所です。
〈今日の一言〉
児童虐待の事例問題で注意しなければならないのは,児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者」には通告義務があることです。