2023年9月30日土曜日

ソーシャルワーク専門職である社会福祉士に求められる役割等について

今回は社会保障審議会福祉部会に設置された福祉人材確保専門委員会による「ソーシャルワーク専門職である社会福祉士に求められる役割等について」を取り上げます。


ソーシャルワーク専門職である社会福祉士に求められる役割等について

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000199560.pdf


この報告書を根拠として,令和元年度カリキュラム改正が行われました。

そんなことで,前説なしで今日の問題です。


第32回・問題31

社会保障審議会福祉部会に設置された福祉人材確保専門委員会の「ソーシャルワーク専門職である社会福祉士に求められる役割等について」(2018年(平成30年))に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 社会福祉士には,地域課題の解決の拠点となる場づくり,ネットワーキングなどを通じて,地域住民の活動支援を行うことが求められている。

2 地域住民が主体的に地域課題を把握して解決を試みている場合は,社会福祉士はそれを見守ることに専念する。

3 地域課題の解決に必要な新たな社会資源の創出は,社会福祉士の専権的な職務である。

4 地域で表出されにくいニーズの発見は,民生委員に一任する。

5 社会福祉士は,地元の商店や営利企業との連携を控えることとされている。


それぞれの解説をするまでもない問題ですが,一つだけ解説したいと思います。


その前に,この問題の正解は,選択肢1です。

1 社会福祉士には,地域課題の解決の拠点となる場づくり,ネットワーキングなどを通じて,地域住民の活動支援を行うことが求められている。


地域課題の解決の拠点となる場づくりというのかちょっと引っ掛かるかもしれませんが,ほかの選択肢と比べてみると,最も適切なものだと言えるものは,この選択肢しかありません。


解説したいのは,選択肢3です。


3 地域課題の解決に必要な新たな社会資源の創出は,社会福祉士の専権的な職務である。


福祉ニーズを充足するために,時には新たな社会資源を創出することは,ソーシャルワークの機能の一つです。


しかし,社会福祉士は名称独占の資格であり,業務独占ではありません。


そのため,社会福祉士しかできない業務は存在しません。


〈今日の注意ポイント〉


解説したいのは,選択肢3です。


3 地域課題の解決に必要な新たな社会資源の創出は,社会福祉士の専権的な職務である。


福祉ニーズを充足するために,時には新たな社会資源を創出することは,ソーシャルワークの機能の一つです。


しかし,社会福祉士は名称独占の資格であり,業務独占ではありません。

そのため,社会福祉士しかできない業務は存在しません。

2023年9月29日金曜日

義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本指針

 今回は,文部科学省による「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本指針」を取り上げます。

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/__icsFiles/afieldfile/2017/04/17/1384371_1.pdf


おそらく,今後は二度と出題されないだろうと思います。

そのために,前説なしで,今日の問題です。



第32回・問題30 

文部科学省の「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本指針」(2017年(平成29年))で示された不登校児童生徒への支援に関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。

1 不登校児童生徒が学校へ登校するという結果を,第一の目標としている。

2 不登校児童生徒の意思を十分に尊重し,その状況によっては休養が必要な場合があることに留意する。

3 不登校児童生徒の実態に配慮した教育を実施する「特例校」の設置を促進している。

4 不登校児童生徒や保護者のプライバシーの保護に配慮して,学校や教育委員会による家庭訪問は控える。

5 「チーム学校」体制の整備を,スクールソーシャルワーカーのリーダーシップの下で推進する。


二度と出題されないと思われる問題を解く意義は,問題を解くことに慣れることにほかなりません。


それでは,脳をフル回転させて,一緒に考えていきましょう。


1 不登校児童生徒が学校へ登校するという結果を,第一の目標としている。


これは誤りですが,問題全体を見渡した場合,矛盾した内容が出題されていることに気が付きますか?


それはさておき,基本指針では,「支援に際しては、登校という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要がある」と示されています。


2 不登校児童生徒の意思を十分に尊重し,その状況によっては休養が必要な場合があることに留意する。


これが1つめの正解です。


この選択肢が正解なら,選択肢1は必ず誤りとなります。


不登校児童生徒が学校へ登校するという結果を,第一の目標としている。

 ↑       ↑       

 ↓       ↓       

不登校児童生徒の意思を十分に尊重し,その状況によっては休養が必要な場合があることに留意する。


この2つは,並び立たない内容です。

そのため,どちらかが正解であれば,どちらかが誤りとなります。


こういったことに気がつくことは,簡単ではありません。そのために問題を解いて問題慣れすることが大切です。

国家試験では時々見られます。


3 不登校児童生徒の実態に配慮した教育を実施する「特例校」の設置を促進している。


これが2つめの正解です。


特例校とは,不登校児童生徒の実態に配慮した特色ある教育課程を編成し,教育を実施する学校です。


この指針では,教育支援センターの設置の促進も求めています。


教育支援センターとは,不登校児童生徒の支援の中核となるもので,通所希望者に対する支援のみならず、通所を希望しない不登校児童生徒に対する訪問支援などを実施します。


教育支援センターという名称から,不登校児童生徒の支援が結びつかないので,注意が必要です。


4 不登校児童生徒や保護者のプライバシーの保護に配慮して,学校や教育委員会による家庭訪問は控える。


学校や教育委員会による家庭訪問で状況把握を促進することが示されています。


5 「チーム学校」体制の整備を,スクールソーシャルワーカーのリーダーシップの下で推進する。


チーム学校は,校長のリーダーシップの下、学校や教員がスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー等の専門スタッフ等と不登校児童生徒に対する支援等について連携・分担するチームです。


スクールソーシャルワークに限らず,ワーカーがリーダーシップを取るといった内容のものが正解になることはありません。


〈今日の注意ポイント〉


今日取り上げた指針自体は,今後出題されることはないと思いますが,この問題の中では,3点覚えておきたいものがあります。


・特例校

・教育支援センター

・チーム学校


これらは,スクールソーシャルワークに関連する問題で出題されることがあるかもしれません。


教育現場は,社会福祉士・精神保健福祉士にはスクールソーシャルワーカーとしての役割を期待しています。

2023年9月28日木曜日

持続可能な開発目標(SDGs)

 今回は,持続可能な開発目標(SDGs)を取り上げます。


ニュースなどで耳にすることがあっても,内容は詳しくは知らない人は多いのではないかと思います。

SDGsは,地球で暮らし続けていくための2030年までに達成すべき目標です。


国際連合広報センター

https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/sustainable_development_goals/


それでは,今日の問題です。


第32回・問題28

国際連合が掲げている「持続可能な開発目標」(SDGs)に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 2000年に制定されたミレニアム開発目標(MDGs)の目標を破棄し,それに代わる目標を掲げている。

2 経済成長,社会的包摂,人口増加抑制策の調和が,持続可能な開発を達成するために求められている。

3 持続可能な開発の達成には,政府の手を借りることなく民間セクターによる行動が必要とされている。

4 貧困に終止符を打つとともに,気候変動や環境保護への取組も求めている。

5 目標実現に向けた進捗状況のフォローアップと審査の責任は国際連合にあるとし,独立した国際的専門機関を設置している。

(注) 「持続可能な開発目標」(SDGs)とは,2015年の国際連合総会において採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」において掲げられた目標である。


SDGsは,令和元年度改正の国家試験の出題基準で示されているので,今後も出題される可能性が高いと考えられます。


この問題自体は,時代を考えると正解できそうです。


それでは,解説です。


1 2000年に制定されたミレニアム開発目標(MDGs)の目標を破棄し,それに代わる目標を掲げている。


SDGsは知っていても,MDGsというものがあったことを知っている人は多くなったのではないかと思います。


こういったところには,正解はないものです。


なお,この選択肢の誤りポイントは,MDGsで立てた目標のうち未達成だったものに対して,SDGsで新たな目標に立て直して立てて取り組むところです。



2 経済成長,社会的包摂,人口増加抑制策の調和が,持続可能な開発を達成するために求められている。


社会的包摂を入れているところから,正解ではないだろうと推測できると思いますが,正しくは,「経済」,「社会」,「環境の調和」です。


3 持続可能な開発の達成には,政府の手を借りることなく民間セクターによる行動が必要とされている。


国連で採択されたSDGsであるのに,民間セクターに委ねて政府が協力しないなら,あまりにも身勝手ではないかと思います。


正しくはあらゆる社会資源を活用して行動することの重要性を述べています。

これなら納得でしょう?


4 貧困に終止符を打つとともに,気候変動や環境保護への取組も求めている。


これが正解です。

言われてみると,とても自然な内容です。


5 目標実現に向けた進捗状況のフォローアップと審査の責任は国際連合にあるとし,独立した国際的専門機関を設置している。


目標実現に向けた進捗状況のフォローアップと審査の責任は各政府にあるとされています。


〈今日の注意ポイント〉


今日の問題のようなよくわからないものが出題されると焦ります。


しかし,一度答えを知るとそれ以外は正解にはならず,正解が圧倒的に正解に見えるのではないかと思います。


この問題でも正解の「貧困に終止符を打つとともに,気候変動や環境保護への取組も求めている」は,今,地球上で起きている問題を考えるととても自然な内容だと思いませんか。


今後,こういったタイプの問題が出題されなくなるかもしれませんが,出題されても怖がることなく,冷静に考えることを忘れずにいてほしいと思います。

2023年9月27日水曜日

事業経営の準則とは

今日のテーマは,「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(2018年(平成30年)12月,外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議決定)です。


今後再び出題されることは,ほぼありません。

問題を解くポイントを中心として解説したいと思います。


第32回・問題27

「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(2018年(平成30年)12月,外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議決定)に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 地域における外国人の活躍と共生社会の実現を図る地方公共団体の主体的で先導的な取組のために,社会福祉法人からの寄附金を募る。

2 災害時に避難所等にいる外国人被災者への情報伝達を支援する「災害時外国人支援情報コーディネーター」の養成研修を実施する。

3 外国人への行政・生活情報の提供において,個人情報保護の観点からソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の利用は極力避ける。

4 公営住宅法に基づき,外国人を含む住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録や住宅情報の提供,居住支援等を促進する。

5 外国人への情報提供及び相談を行う一元的な窓口として,厚生労働省の地方厚生局に「多文化共生総合相談ワンストップセンター(仮)」を設置する。


何とも難しい問題です。

国家試験では,こういった問題も出題されることがありますが,正解できなくても大丈夫です。みんなが解けません。


それでは,サクサク解説していきます。


1 地域における外国人の活躍と共生社会の実現を図る地方公共団体の主体的で先導的な取組のために,社会福祉法人からの寄附金を募る。


国が寄附金を募るというのは,聞いたことがありません。

それもそのはず。こんなことは法で認められません。


なぜなら,社会福祉法には「事業経営の準則」があるからです。


事業経営の準則

第六十一条 国、地方公共団体、社会福祉法人その他社会福祉事業を経営する者は、次に掲げるところに従い、それぞれの責任を明確にしなければならない。

一 国及び地方公共団体は、法律に基づくその責任を他の社会福祉事業を経営する者に転嫁し、又はこれらの者の財政的援助を求めないこと。

二 国及び地方公共団体は、他の社会福祉事業を経営する者に対し、その自主性を重んじ、不当な関与を行わないこと。

三 社会福祉事業を経営する者は、不当に国及び地方公共団体の財政的、管理的援助を仰がないこと。


この設問は,アンダーラインを引いた第2項「国及び地方公共団体は、法律に基づくその責任を他の社会福祉事業を経営する者に転嫁し、又はこれらの者の財政的援助を求めないこと」に抵触します。


2 災害時に避難所等にいる外国人被災者への情報伝達を支援する「災害時外国人支援情報コーディネーター」の養成研修を実施する。


これが正解です。

こういったものがあるそうです。


3 外国人への行政・生活情報の提供において,個人情報保護の観点からソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の利用は極力避ける。


これだけは,知識がなくても消去可能です。


4 公営住宅法に基づき,外国人を含む住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録や住宅情報の提供,居住支援等を促進する。


住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録や住宅情報の提供,居住支援等は,住宅セーフティ法に基づきます。


5 外国人への情報提供及び相談を行う一元的な窓口として,厚生労働省の地方厚生局に「多文化共生総合相談ワンストップセンター(仮)」を設置する。


仮称だった多文化共生総合相談ワンストップセンターは,現在は,一元的相談窓口に変わっています。あまりに長すぎたからでしょう。

一元的相談窓口を設置するのは,地方公共団体です。

2023年9月26日火曜日

厚生年金の5万円年金とは?

年金給付額として現役時代の6割を保障する施策が長く続きました。

 

それが変わったのは,2004年(平成16年)改正です。

それ以降は,5割ラインを維持する方針に変更されています。

 

さて,厚生年金で5万円が給付されるようになった,いわゆる「厚生年金の5万円年金」は,福祉元年と呼ばれた1973年(昭和48年)のことです。

 

この当時の給料の平均は,8.5万円程度だったことがわかります。

 

当時の厚生省は,被用者の標準的なモデルの年金額(月額)を想定していました。推移は以下のようになります。

 

モデル年金の月額

昭和40年(1965年)

1万円(1万円年金と呼ばれる)

昭和44年(1969年)

2万円(2万円年金と呼ばれる)

昭和48年(1973年)

5万円(5万円年金と呼ばれる)

昭和51年(1976年)

9万円

昭和55年(1980年)

13万円

平成元年(1989年)

20万円

 

それでは,今日の問題です。

 

32回・問題26

1973年(昭和48年)の「福祉元年」に実施した福祉政策に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 年金の給付水準を調整するために物価スライド制を導入した。

2 標準報酬の再評価を行い,厚生年金では「9万円年金」を実現した。

3 被用者保険における家族療養費制度を導入した。

4 老人医療費支給制度を実施して,60歳以上の医療費を無料にした。

5 老人家庭奉仕員派遣事業が法制化された。

 

福祉元年に関する出題です。

福祉元年に関する出題は多いですが,この問題はとても難しいです。

よくわからない「9万円年金」というものが出題されているからです。

 

しかし,答えは,極めてスタンダートです。

 

それでは,解説です。

 

1 年金の給付水準を調整するために物価スライド制を導入した。

 

これが正解です。物価に合わせて年金給付水準を調整する物価スライド制を導入したのは,1973年(昭和48年)です。

 

2 標準報酬の再評価を行い,厚生年金では「9万円年金」を実現した。

 

9万円年金が実現したのは,1976年(昭和51年)のことです。

福祉元年は,5万円の時代です。

 

3 被用者保険における家族療養費制度を導入した。

 

扶養者に対する医療の現物給付である家族療養費制度は,1942年(昭和12年)に導入したものです。意外と古いです。

 

4 老人医療費支給制度を実施して,60歳以上の医療費を無料にした


老人医療費を無料化したのは,福祉元年の時です。 

しかし,その対象となったのは70歳以上の高齢者です。

その後,1982(昭和57)年の老人保健法によって,無料化の時代は終わります。

 

5 老人家庭奉仕員派遣事業が法制化された。

 

老人家庭奉仕員派遣事業(ホームヘルパー)が法制化されたのは,老人福祉法が制定された1963年(昭和38年)です。

2023年9月25日月曜日

ベヴァリッジ報告が示した社会保障計画の方法

 1942年につくられたベヴァリッジ報告は,イギリスの福祉国家構想の礎となったものです。


〈ベヴァリッジ報告で示された社会保障計画の方法〉

①社会保険(基本ニーズに対応するもの) ※財源は保険料

②国家扶助(特別なニーズに対応するもの) ※財源は税

③任意保険(社会保険と国家扶助を補完するもの) ※民間保険


社会保障制度が,社会保険と国家扶助で構成されるのは,日本の社会保障制度に相通じるものがありますが,任意保険を位置づけたのは,慈善活動が盛んなイギリスらしい感じがします。


それでは,今日の問題です。


第32回・問題25 

「ベヴァリッジ報告」に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 福祉サービスの供給主体を多元化し,民間非営利団体を積極的に活用するように勧告した。

2 従来の社会民主主義とも新自由主義とも異なる「第三の道」路線を選択するように勧告した。

3 ソーシャルワーカーの養成・研修コースを開設して,専門性を高めるように勧告した。

4 衛生・安全,労働時間,賃金,教育で構成されるナショナル・ミニマムという考え方を示した。

5 社会保障計画は,社会保険,国民扶助,任意保険という三つの方法で構成されるという考え方を示した。


答えはすぐわかると思いますが,それ以外のものも合わせて解説します。


1 福祉サービスの供給主体を多元化し,民間非営利団体を積極的に活用するように勧告した。


のちの福祉多元主義につながる考え方を打ち出したのは,「ウルフェンデン報告」です。


福祉サービスの供給主体を多元化して,民間非営利団体を積極的に活用するように勧告したのは,グリフィス報告です。


2 従来の社会民主主義とも新自由主義とも異なる「第三の道」路線を選択するように勧告した。


第三の道を提唱したのは,ギデンズです。


3 ソーシャルワーカーの養成・研修コースを開設して,専門性を高めるように勧告した。


これは,ヤングハズバンド報告の内容です。


ヤングハズバンド報告が国家試験で出題されたのは,本当に久しぶりです。過去の出題を調べたら,第18回に出題されたのが最後で,約15年ぶりに出題されたことになります。


お久しぶり~という感じです。


4 衛生・安全,労働時間,賃金,教育で構成されるナショナル・ミニマムという考え方を示した。


ナショナル・ミニマムという考え方を示したのは,ウェッブ夫妻の「産業民主制論」です。


5 社会保障計画は,社会保険,国民扶助,任意保険という三つの方法で構成されるという考え方を示した。


これが正解です。


〈ベヴァリッジ報告で示された社会保障計画の方法〉

①社会保険

②国家扶助

③任意保険


2023年9月24日日曜日

社会福祉の理論

ソーシャルワーク専門職のグローバル定義

ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である。

社会正義、人権、集団的責任、および多様性尊重の諸原理は、ソーシャルワークの中核をなす。

ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学、および地域・民族固有の知を基盤として、ソーシャルワークは、生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける。

この定義は、各国および世界の各地域で展開してもよい。

 

赤字で示した「地域・民族固有の知」とは,世界各地に根ざし,人々が集団レベルで長期間受け継いできた知のことを指しています。

 

ソーシャルワークは,欧米生まれであるため,欧米の理論が中心となり,発展してきましたが,もちろん日本にも日本の固有の知があります。

 

国家試験には,日本古来の住民の互助について出題されたこともあります。

 

ここまで読んでいて,勘の良い人は,推測ができたかもしれませんが,本日のテーマ「社会福祉の理論」とは,日本の理論のことです。

 

出題基準では,

 

社会福祉の理論(政策論、技術論、固有論、統合論、運動論、経営論)

 

と示されています。 

 

系譜

特質

人物名

政策論

経済システム(資本主義)の中の社会(福祉)事業の位置づけを説明するもの。

大河内一夫

孝橋正一

技術論

ソーシャルワーク理論の科学化を志向するもの。

竹内愛二

統合論

政策論と技術論の折衷論。

島田啓一郎

木田徹郎

固有論

社会福祉の固有の視点を志向するもの。

岡村重夫

運動論

社会問題・生活問題の改善を求める運動を志向するもの。

一番ヶ瀬康子

真田 是

経営論

福祉政策(ニード論や供給体制)を志向するもの。

三浦文夫

 

国家試験では,それぞれの特徴的なところを出題してくると思うので,そのポイントを押さえて勉強すると良いと思います。

 

それでは,今日の問題です。

 

32回・問題24 

1950年代から1970年代にかけての社会福祉の理論に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 木田徹郎は,社会事業を,資本主義の維持という側面から,賃金労働の再生産機構における「社会的問題」の緩和・解決の一形式と捉えた。

2 三浦文夫は,政策範疇としての社会福祉へのアプローチの方法として,ニード論や供給体制論を展開した。

3 岡村重夫は,生活権を起点に据えた実践論・運動論を組み入れた社会福祉学が総合的に体系化されなければならないと論じた。

4 孝橋正ーは,社会福祉の固有の機能を,個人とそれを取り巻く環境との間の不均衡を調整し,環境への適応を促すことと論じた。

5 一番ヶ瀬康子は,政策論よりも援助技術論を重視すべきと論じた。

 

すごく難しい問題ですが,今後はこういった問題の出題頻度は高くなるのではないかと思います。

 

それではポイントを押さえながら,解説します。

 

1 木田徹郎は,社会事業を,資本主義の維持という側面から,賃金労働の再生産機構における「社会的問題」の緩和・解決の一形式と捉えた。

 

資本主義という言葉が入っているので,政策論の系譜であると推測できます。

 

政策論は,大河内一夫は孝橋正一です。

 

そのうち,「社会的問題」に対応するものが社会事業であることを述べたのは,孝橋正一です。

 

2 三浦文夫は,政策範疇としての社会福祉へのアプローチの方法として,ニード論や供給体制論を展開した。

 

これが正解です。

 

ニード論や供給体制論を展開したのは,経営論の系譜に位置づけられる三浦文夫です。

 

3 岡村重夫は,生活権を起点に据えた実践論・運動論を組み入れた社会福祉学が総合的に体系化されなければならないと論じた。

 

運動という言葉が入っているので,運動論の系譜であると推測できます。

 

運動論は,一番ヶ瀬康子や真田是などです。

 

そのうち,生活権を起点に据えた実践論・運動論を組み入れた社会福祉学が総合的に体系化されなければならないと論じたのは,一番ヶ瀬康子です。

 

4 孝橋正ーは,社会福祉の固有の機能を,個人とそれを取り巻く環境との間の不均衡を調整し,環境への適応を促すことと論じた。

 

固有という言葉が入っているので,固有論の系譜であると推測できます。

 

固有論を論じたのは,岡村重夫です。

 

5 一番ヶ瀬康子は,政策論よりも援助技術論を重視すべきと論じた。

 

一番ヶ瀬康子は,運動論の系譜の人です。

 

重視するのは,社会問題・生活問題の改善を求める運動です。

2023年9月23日土曜日

ニッポン一億総活躍プラン

 今回は,「ニッポン一億総活躍プラン」を取り上げますが,今後,直接的な内容が出題されることはほとんどないでしょう。


こういった問題を解くことの意味は,内容を覚えることではなく,勘を養うためだと言えます。今日の問題については,日本の今を知るという強い意味もあります。


そういったつもりで問題を読んでください。


第32回・問題23

「ニッポン一億総活躍プラン」(2016年(平成28年)6月閣議決定)の内容に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 地域資源の活用や自然環境を活用した第4次産業革命を実現すべきとした。

2 一億総活躍社会を実現するのは,次世代の役割であるとした。

3 地方創生は,一億総活躍社会を実現する上で最も緊急度の高い取組の一つであるとした。

4 一億総活躍社会は,政府に頼らず社会の側の責任において実現すべきとした。

5 「成長」か「分配」かという論争に終止符を打ち,「成長」に重点を置いた施策を推進するとした。


深く考えると正解することができないかもしれません。


正解は,選択肢3です。

3 地方創生は,一億総活躍社会を実現する上で最も緊急度の高い取組の一つであるとした。


地方創生は,一億総活躍社会を実現する上で最も緊急度の高い取組であるかはわからずとも,この問題が出題された当時は,「地方創生」がかなり盛んに叫ばれていたことを想起できたはずです。


悩むのは,選択肢1です。


1 地域資源の活用や自然環境を活用した第4次産業革命を実現すべきとした。


産業革命とは,工業化のことを意味しています。


地域資源の活用や自然環境の活用は,工業化っぽくありません。


第4次産業革命は。ドローンなどの活用です。これなら第4次産業革命っぽいです。


なお,産業革命を学術用語として初めて使用したのは,バーネット夫妻が設立した世界初のセツルメントであるトインビーホールという名称に名を遺す経済学者のアーノルド・トインビーです。

2023年9月22日金曜日

地域福祉計画で定める内容

 

今回は,社会福祉法に規定される地域福祉(支援)計画に定める内容を覚えたいと思います。

 

市町村地域福祉計画に定める内容

①地域における高齢者の福祉,障害者の福祉,児童の福祉その他の福祉に関し,共通して取り組むべき事項

②地域における福祉サービスの適切な利用の推進に関する事項

③地域における社会福祉を目的とする事業の健全な発達に関する事項

④地域福祉に関する活動への住民の参加の促進に関する事項

⑤地域生活課題の解決に資する支援が包括的に提供される体制の整備に関する事項

都道府県地域福祉支援計画に定める内容

①地域における高齢者の福祉,障害者の福祉,児童の福祉その他の福祉に関し,共通して取り組むべき事項

②市町村の地域福祉の推進を支援するための基本的方針に関する事項

③社会福祉を目的とする事業に従事する者の確保又は資質の向上に関する事項

④福祉サービスの適切な利用の推進及び社会福祉を目的とする事業の健全な発達のための基盤整備に関する事項

 

①は別にして,それ以外の内容は,市町村と都道府県の役割の違い明確に出ていることに気がつくでしょう。

 

市町村は,直接的な住民の支援に関係するもの。

都道府県は,間接的なもの。

 

特に都道府県の

③社会福祉を目的とする事業に従事する者の確保又は資質の向上に関する事項

④福祉サービスの適切な利用の推進及び社会福祉を目的とする事業の健全な発達のための基盤整備に関する事項

 

の2つは,都道府県の役割の特徴的な部分です。

 

これらのほかに特に覚えておきたいのは,市町村の

⑤地域生活課題の解決に資する支援が包括的に提供される体制の整備に関する事項

 

は要注意です。これは近年の法改正によって加わったものです。

 

それでは,今日の問題です。

 

32回・問題22 

社会福祉法の内容に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 福祉サービス利用援助事業は,第一種社会福祉事業である。

2 市町村は,地方社会福祉審議会を設置しなければならない。

3 市町村は,社会福祉事業等に従事する者の確保に関する基本指針を定めなければならない。

4 都道府県は,都道府県地域福祉支援計画を策定しなければならない。

5 共同募金は,都道府県を単位として毎年1回実施される。

 

知識ゼロでは,5分の1以上の確率では正解できない問題です。

こういった問題が国家試験の理想です。

 

知識ゼロの人でも正解できる問題は,その問題の設計にどこか欠陥があります。

 

それでは,解説です。

 

1 福祉サービス利用援助事業は,第一種社会福祉事業である。

 

社会福祉法が定める福祉サービス利用援助事業は,日常生活自立支援事業が相当し,第二種社会福祉事業です。

 

第一種社会福祉事業は,主に生活支援施設であり,経営は,国,地方公共団体,社会福祉法人が行うことを原則としています。

 

共同募金は,生活支援施設ではありませんが,第一種社会福祉事業です。

 

第二種社会福祉事業は,通所などの事業です。第一種社会福祉事業と異なり,経営主体は限定されず,多様な主体が経営することができます。

 

2 市町村は,地方社会福祉審議会を設置しなければならない。

 

〈地方社会福祉審議会〉

都道府県,指定都市,中核市に必置の機関です。

都道府県知事,指定都市・中核市の長の監督に属し,その諮問に答え,又は関係行政庁に意見を具申します。

 

3 市町村は,社会福祉事業等に従事する者の確保に関する基本指針を定めなければならない。

 

社会福祉事業等に従事する者の確保に関する事項を定めるのは,都道府県地域福祉支援計画です。

 

4 都道府県は,都道府県地域福祉支援計画を策定しなければならない。

 

地域福祉(支援)計画は,2000(平成12)年の社会福祉法で規定されたものです。

 

その時点では,策定は任意でした。

同法の2018(平成30)年の改正によって,策定が任意から努力義務に変更になっています。

 

5 共同募金は,都道府県を単位として毎年1回実施される。

 

これが正解です。

 

共同募金は,都道府県を単位として毎年1回実施される寄附金の募集です。

 

共同募金会以外の者は,共同募金を行うことはできません。

2023年9月21日木曜日

国家試験に出題される社会的ジレンマ

 社会福祉士の国家試験に出題される社会的ジレンマの例は,


 ・フリーライダー

・共有地の悲劇

・囚人のジレンマ

 

の3つです。

 

それでは,今日は前説なしに今日の問題です。

 

32回・問題20

次のうち,「囚人のジレンマ」に関する記述として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 合理的な仕組みに対して過剰な執着を持つ状況を指す。

2 一定期間,閉鎖的・画ー的に管理された場所で生活する状況を指す。

3 協力し合うことが互いの利益になるにもかかわらず,非協力への個人的誘因が存在する状況を指す。

4 二つの矛盾した命令を受けているため,そのいずれも選択することができない状況を指す。

5 非協力的行動を行うと罰を受け,協力的行動を行うと報酬を得ることで,協力的行動が促される状況を指す。

 

知識ゼロでは,5分の1以上の確率では正解できない問題です。

 

知識なしでも消去できる選択肢が含まれる問題もありますが,そういったものはあまり良い出来ではない問題だと言えます。この問題の出来具合は,中くらいといったところでしょう。

 

それでは解説です。

 

1 合理的な仕組みに対して過剰な執着を持つ状況を指す。

2 一定期間,閉鎖的・画ー的に管理された場所で生活する状況を指す。

4 二つの矛盾した命令を受けているため,そのいずれも選択することができない状況を指す。

 

これらはすべて解説する必要もないほどの嘘の選択肢です。

 

正解は,選択肢4です。

3 協力し合うことが互いの利益になるにもかかわらず,非協力への個人的誘因が存在する状況を指す。

 

囚人のジレンマは,以下のように説明されます。


状況

刑期

2人の刑期合計

ABとも黙秘

いずれも1年

2年

Aが黙秘

Bが自白

A15年,Bは無罪

15

Aが自白

Bが黙秘

Aは無罪Bは15年

15

ABとも自白

いずれも2年

4年


最も利益のあるのは,相棒を信じてABともに黙秘する場合です。

 

しかし,相手を信じれず,自白すると,2人とも黙秘した場合よりも,不利益となります。

 

5 非協力的行動を行うと罰を受け,協力的行動を行うと報酬を得ることで,協力的行動が促される状況を指す。

 

これは,選択的誘因と呼ばれるものです。

 

社会的ジレンマとともに覚えておきたいです。

2023年9月20日水曜日

社会的行為理論の整理

 今回は,社会的行為理論を整理してみたいと思います。


社会的行為と言えば,ウェーバーとハーバーマスのものが多く出題されていますので,それらは最低でも必ず押さえておくことが必要です。


ウェーバーとハーバーマスの社会的行為

https://fukufuku21.blogspot.com/2022/03/blog-post.html


〈コミュニケーション的行為論〉


ハーバーマスが提唱したものです。

この理論では,社会的行為は,行為者同士がコミュニケーションによってお互いを理解することを目的とするものだと考えます。


〈交換理論〉


ブラウが提唱したものです。

この理論では,社会的行為は,行為者が互いの利益を高めるために交換しあうものだと考えます。


〈集合行動論〉


たくさんの人がいろいろなことを提唱しています。

この理論は,人の集合行動の仕組みとその行為の意味を明らかにするものです。


〈象徴的相互作用論〉


ブルーマーが提唱したものです。

この理論では,社会的行為は,行為者の相互作用によって引き起こされるものであると考えます。


〈主意主義的行為理論〉


パーソンズが提唱したものです。


この理論では,社会的行為は,社会規範(理性や感情などを超えた意志)にしたがって行われるものであると考えます。


それでは,今日の問題です。


第32回・問題19 

次のうち,パーソンズ(Parsons,T.)の社会的行為論として,正しいものを1つ選びなさい。

1 コミュニケーション的行為論

2 交換理論

3 集合行動論

4 象徴的相互作用論

5 主意主義的行為理論





正解は「5 主意主義的行為理論」です。


主意主義的行為理論の主意主義とは,理性や感情などを超えた意志を重視するものです。


なお,理性や感情などを重視することは主知主義といいます。主知主義は覚える必要はありません。



〈今日の注意ポイント〉


社会的行為理論の代表は,ヴェーバーの4類型(目的合理的行為,価値合理的行為,伝統的行為,感情的行為)です。

ダークホースは,ハーバーマスのコミュニケーション的行為です。

これらは絶対に覚えないといけません。

それぞれを友達に簡単に説明できる程度(一言で良い)まで,理解できると完璧です。

2023年9月19日火曜日

家族の類型~ステップファミリーなど

家族の類型は,さまざまなものが出題されてきています。


ステップファミリーというものの出題されたことがあります。


ステップは「義理の」という意味で,再婚した夫婦の以前のパートナーとの間に生まれた子どもを伴った家族のことです。


なお,再婚相手の子は,再婚をもって自分の子になるのではなく,養子縁組することが必要です。


それでは,今日の問題です。


第32回・問題18 

次のうち,直系家族制についての記述として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 複数の子どもが,結婚後も親と同居することを原則とする。

2 夫婦の結婚とともに誕生し,一方の死亡によって家族が一代限りで消滅する。

3 跡継ぎとなる子どもの家族との同居を繰り返して,家族が世代的に再生産される。

4 離家した子どもの生殖家族が,親と頻繁な交際や相互援助を行う。

5 親の死亡をきっかけに,財産を均分相続して家族が分裂する。


直系家族制は知らずとも,直系がどのようなものであるかを思いだすことができれば,正解できるでしょう。


それでは,解説です。


1 複数の子どもが,結婚後も親と同居することを原則とする。


これは,複合家族制のことを述べたものです。


2 夫婦の結婚とともに誕生し,一方の死亡によって家族が一代限りで消滅する。


これは,夫婦家族制を述べたものです。


3 跡継ぎとなる子どもの家族との同居を繰り返して,家族が世代的に再生産される。


これが正解です。

言われてみると「なるほど直系だ」と思えるのではないでしょうか。


4 離家した子どもの生殖家族が,親と頻繁な交際や相互援助を行う。


これは,修正拡大家族のことを述べたものです。


離家した子どもの生殖家族は,核家族のことです。


核家族と修正拡大家族との違いは,核家族は,孤立化しやすいですが,修正拡大家族は,つながりがあるところです。


5 親の死亡をきっかけに,財産を均分相続して家族が分裂する。


これは,複合家族制のことを述べたものです。


〈今日の注意ポイント〉

家族社会学の出題頻度はそれほど高くありません。

そのため,過去問で学ぶには限界があります。

しかし,今日の問題でわかるかもしれませんが,勉強せずとも正解できる問題もあります。

なぜなら,社会学は社会で生じている現象を取り扱う学問なので,用語をよくよく考えてみると「なるほど。そうだ」と身近で実感できるものがあるからです。

重要なことは,決してひるまないことです。

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