2021年6月30日水曜日

質問紙を作成する場合の留意点

量的調査を行う場合,よく用いられるのは,質問紙を使ったアンケートでしょう。

 

余談ですが,アンケートはフランス語で調査を意味しています。

 

だから,本当は「アンケート調査」と言うと「調査調査」という重ね言葉となってしまいます。

 

質問紙を作成する場合の留意点 

ダブルバーレル質問

一つの質問に複数の要素を含んだ質問。

イエステンデンシー

「いいえ」と答えるよりも「はい」と答えることのほうが答えやすい傾向にあること。

キャリーオーバー効果

前の質問が次の質問に影響を与えること。

ステレオタイプ

特定の意味を含んだ言葉のこと。過去問では「市民運動」という表現と「草の根の市民運動」という表現を例に出題されている。

 

こういったものに配慮しながら,質問紙を作成することが必要です。


このほかにもいっぱいありますが,落ち着いて考えるとわかります。

 

それでは,今日の問題です。

 

30回・問題89 質問紙の作成に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 「糖尿病予防のために食事や運動に気を付けていますか」というように,複数の事柄は一つの質問文で尋ねる方が望ましい。

2 前の質問の回答が次の質問の回答に影響を与えることを促すような質問の順番にすることが望ましい。

3 「家事は一般的に夫婦で平等に分担すべきですか」という質問文では,回答者が自分の家庭でそうすべきだと考えているかどうかは分からない。

4 意識調査の質問では,回答を明確にするために「どちらともいえない」という選択肢を設けてはならない。

5 調査票のレイアウトや色を工夫することは,回答をゆがめることになるので行うべきではない。

 

解答テクニックを紹介すると,この科目では「望ましい」「望ましくない」「べきである」「べきではない」という表現がされる選択肢は正解になりにくい傾向があります。

 

それでは,解説です。

 

1 「糖尿病予防のために食事や運動に気を付けていますか」というように,複数の事柄は一つの質問文で尋ねる方が望ましい。

 

この質問がダブルバーレル質問です。

 

「食事」や「運動」というところがダブルバーレルになっています。

 

食事は気をつけているが,運動は気をつけていない。

食事は気をつけていないが,運動は気をつけている。

 

という人もいます。そういった人は,答えられなくなってしまいます。

 

こういった場合は,2つの質問に分けます。

 

2 前の質問の回答が次の質問の回答に影響を与えることを促すような質問の順番にすることが望ましい。

 

前の質問の回答が次の質問の回答に影響を与えることは,キャリーオーバー効果といいます。

 

キャリーオーバー効果を悪用すれば,結論的な質問を「はい」でも「いいえ」でも導くことができます。

 

そのため,キャリーオーバー効果が出ないように気をつけて問題を配置しなければなりません。

 

3 「家事は一般的に夫婦で平等に分担すべきですか」という質問文では,回答者が自分の家庭でそうすべきだと考えているかどうかは分からない。

 

これが正解です。

 

「家事は一般的に夫婦で平等に分担すべきですか」という質問文は,インパーソナル質問といいます。

 

インパーソナル質問では,個人的な考えはわかりません。

 

個人的な考えを知るためには「あなたは・・・」という質問である「パーソナル質問」で尋ねます。

 

4 意識調査の質問では,回答を明確にするために「どちらともいえない」という選択肢を設けてはならない。

 

「どちらともいえない」は,必要です。

 

そうでないとどちらでもない人は答えられません。

 

5 調査票のレイアウトや色を工夫することは,回答をゆがめることになるので行うべきではない。

 

質問票のレイアウトや色を配慮することは欠かせません。

 

文字が小さいと高齢者は読みにくいですし,紙の色と文字の色が同系色ならこれも読みにくいものになります。

2021年6月29日火曜日

質問紙調査について

今回は,前説なしで問題を紹介します。


第30回・問題88 質問紙調査の方法に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 郵送調査法は,返送時に氏名を記入する必要があるため,匿名性を確保するのが難しい。 

2 訪問面接調査法は,プライバシーに関わる質問をするのに適している。

3 複雑で難しい質問には,自記式で質問紙に記入する方法が適している。

4 留置調査法は,他記式なので,記入漏れや記入ミスを抑制できる。

5 調査対象者本人の回答であるかを確認するには,他記式による記入が望ましい。



この問題を正解するためには,それぞれの調査票についての知識があることは当然ですが,その知識を使って,答えを考えるというもう一段階高い問題となっています。


解説を一度聞くとそれほど難しくは感じないと思いますが,初見で答えを考えるのは意外と難しいものです。


この問題が難しい理由の一つは,自記式と他記式がわかりにくいことがあります。


勉強不足の人はおそらく間違えます。


自記式とは,調査対象者が記入する方法です。

他記式とは,調査者が記入する方法です。


それでは,解説です。


1 郵送調査法は,返送時に氏名を記入する必要があるため,匿名性を確保するのが難しい


郵送調査法は,調査票を郵送し,返送も郵送で行われるものです。


返送時に指名を記入する必要はありません。


郵送調査法は,匿名性の確保をしやすい調査法です。


2 訪問面接調査法は,プライバシーに関わる質問をするのに適している。


一見するとこれが正解だと思う人もいるはずです。


面接は対面で聞き取りしながら行うので,調査者に遠慮してしまうこともあります。


プライバシーにかかわるものは,匿名性が高い郵送調査法が適しています。


3 複雑で難しい質問には,自記式で質問紙に記入する方法が適している。


自記式は,調査対象者が記入するものです。

わかりやすい質問が適しています。


複雑で難しい質問は,調査対象者の理解度に合わせて適宜説明などを加える必要があるので,他記式が適していると言えます。


4 留置調査法は,他記式なので,記入漏れや記入ミスを抑制できる。


留置調査法は,調査票を配布して,後日回収する方法です。


まず間違いなのは,留置調査法は自記式であることです。


記入漏れや記入ミスなどを抑制するなら,他記式が向いています。


5 調査対象者本人の回答であるかを確認するには,他記式による記入が望ましい。


これが正解です。


留置調査法を考えるとわかりやすいでしょう。


自記式ですが,記入している場を調査員が確認しないので,別の人が記入しているかもしれません。


その点,他記式は調査者が記入するので,本人が回答したのかどうかは明らかでしょう。


2021年6月28日月曜日

横断調査と縦断調査

 今回は,横断調査と縦断調査を取り上げます。

 

横断調査

 ある時点で行う調査。

縦断調査

 一定の期間を開けて,複数回行う調査。

 同じ対象者(パネル)に対して複数回行うパネル調査は縦断調査の一つ。

 

 

それでは,今日の問題です。

 

30回・問題87 横断調査と縦断調査に関する次の記述.のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 トレンド調査とは,同一対象者を継時的に追跡することを通じて,調査対象者の変化を知ろうとする調査法である。

2 同じ調査票を用いて,4月にR市,5月にS市で調査を行えば,縦断調査といえる。

3 パネル調査では,調査の回数を重ねるにつれてサンプル数が増加する。

4 横断調査は,ある一時点での特定の市で実施する市民意識調査は含まれない。

5 横断調査では,因果関係を特定するに当たり制約が伴う。

 

結構難しい問題です。

 

応用力が必要な問題かもしれません。

 

それでは,解説です。

 

1 トレンド調査とは,同一対象者を継時的に追跡することを通じて,調査対象者の変化を知ろうとする調査法である。

 

同一対象者を継時的に追跡することを通じて,調査対象者の変化を知ろうとする調査法は,パネル調査です。

 

トレンド調査も縦断調査の一つですが,パネル調査と異なる点は,調査対象者は,同じ定義にあてはまる人であることです。

 

2 同じ調査票を用いて,4月にR市,5月にS市で調査を行えば,縦断調査といえる。

 

R市,S市を対象として調査を行っていますが,それぞれ一回きりの調査なので,横断調査です。

 

3 パネル調査では,調査の回数を重ねるにつれてサンプル数が増加する。

 

パネル調査は,同じ人に対して,経時的に調査を行うため,調査対象者の都合によって,2回目,3回目と人数が減っていきます。

 

減らないこともあるかもしれませんが,少なくとも増加するということはありません。

 

調査の回数を重ねるにつれてサンプル数が減少することは,パネルの摩耗,あるいはパネルの脱落といいます。

 

4 横断調査は,ある一時点での特定の市で実施する市民意識調査は含まれない。

 

1回きりの調査は,横断調査です。

 

市民意識調査を複数回行うと縦断調査となります。

 

5 横断調査では,因果関係を特定するに当たり制約が伴う。

 

これが正解です。

 

因果関係とは,原因と結果につながりがあることをいいます。

 

たとえば,「学習部屋」の有効性について調べたいとします。

 

学習部屋に毎日訪れている人を対象にして,複数の模試を受験した結果を調査します。

 

1回きりでは,対象者の成績が伸びたのかを検証するのは難しいと言えます。

 

間を空けて模試を受験してもらって,成績を比較します。

 

点数が伸びていれば,「学習部屋」は,学力を伸ばすのに有効だったという結論が導き出せそうです。

2021年6月27日日曜日

第34回国家試験の受験料値上げ

34回社会福祉士の国試の受験料は,値上げされる予定です。

 

現時点(2021/06/27)では,パブリックコメントを募集していますが,ほぼ改正案通りに決定されると考えて良いでしょう。

今回の値上げ理由は,コロナ対策により,国試を実施するための経費が増えるためです。


三福祉士の受験料(予定) 

社会福祉士

(一般受験者) 15,440円  19,370

(精神保健福祉士と同時受験者) 13,980円  16,840

(科目免除者) 13,020円  16,230

精神保健福祉士

(一般受験者) 17,610円  24,140

(社会福祉士と同時受験者) 14,160円  19,520

(科目免除者) 14,080円  18,820

介護福祉士

15,300円  18,380

 

近年の受験料(一般受験者)

20

11,100

21

11,100

22

9,600

23

9,600

24

5,580

25

7,540

26

7,540

27

7,540

28

7,540

29

7,540

30

15,440

31

15,440

32

15,440

33

15,440

34

19,370円?

 

上記のように社会福祉士の受験料が上がるのは,第30回以来です。第29回は7,540円だったものが,15,440円に大幅値上げされました。

 

このような変化があるときは,必ず何か起きます。

 

具体的に言えば,合格基準点の変化です。


自信のない人は受験をやめて,実力がある人が集まるととても厳しい試験となります。

覚悟が必要です。


第22回で受験料が引き下げられたのは,当時の民主党政権の事業仕分けで,社会福祉振興・試験センターの内部留保が問題視されたためです。

その時に「受験の手引き」が無料化されています。(それ以前は600円)

2021年6月26日土曜日

標本誤差と測定誤差

医療ソーシャルワーカーなど一部の職種を除けば,社会福祉士の資格を持たなくても仕事はできます。業務独占の資格ではないからです。


それにもかかわらず,ハードルの高い社会福祉士を目指すのはなぜなのでしょうか。


国家資格保持者であるという信頼感を得ることかもしれません。


外部から見るとそうかもしれません。


それと同時に,内部の変化は重要です。


社会福祉士を目指す過程で学ぶことは,経験では学ぶ機会はまずないと言えます。


現場で働く人にとって,身近な制度を知っているのは当然のことです。現場実践とは少しかけ離れたものを学ぶからこそ,社会福祉士を取得する意義があると考えます。


社会調査は,新しい科目では,社会福祉調査という科目になります。

以前のカリキュラムでは科目こそなかったですが,その当時は社会福祉調査という用語を使って出題されていました。


社会調査という用語に置き換わったことが,距離を感じることになった要因となったのではないかと思います。


カリキュラムには,社会福祉士に必要な知識・価値・実践力をつけるための内容が詰め込まれています。


ムダなものは一つもありません。


さて,今日のテーマは,標本誤差と測定誤差です。


社会福祉調査は,量的調査と質的調査に分類されます。


そのうち,量的調査は,母集団の性質を探るために行うものです。


母集団の成員をすべて調査すれば,全数調査となり,一部を取り出て調査すれば標本調査となります。



標本誤差とは,母集団だと性質のずれのことです。


標本誤差は,標本調査である限り,必ず発生します。そのため,いかに母集団とのずれが小さくなるように標本を抽出するかが重要です。


有意抽出と無作為抽出では,標本誤差が小さいのは,無作為抽出の場合です。


測定誤差とは,標本誤差以外の誤差(エラー)のことです。無回答や回答の内容を間違えた,記入箇所を間違えた,などです。


そういった誤差なので,全数調査,標本調査にかかわらず起きます。


それでは今日の問題です。


第30回・問題86 全数調査と標本調査に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 標本調査の場合,測定誤差は生じない。

2 無作為抽出による標本調査の場合,母集団の性質について統計的に推測できる。 

3 標本調査の場合,標本誤差は生じない。

4 全数調査の場合,測定誤差は生じない。

5 全数調査の場合,母集団から一部を取り出し,取り出した全員を対象に調査する。


問題に文句を言うと,美しくない選択肢の並びです。


1 標本調査の場合,測定誤差は生じない。

2 標本調査の場合,標本誤差は生じない。

3 全数調査の場合,測定誤差は生じない。

4 全数調査の場合,母集団から一部を取り出し,取り出した全員を対象に調査する。

5 無作為抽出による標本調査の場合,母集団の性質について統計的に推測できる。


こういった並びだとセンスがよいと思いますが,試験委員も受験者もそんなことは関係ないのでしょう。


それでは,解説です。


1 標本調査の場合,測定誤差は生じない。


測定誤差は,全数調査でも標本調査でも生じます。


2 無作為抽出による標本調査の場合,母集団の性質について統計的に推測できる。


これが正解です。


標本調査には,有意抽出と無作為抽出がありますが,母集団の性質を統計的に推測できるのは,無作為抽出です。


有意抽出は,抽出した標本に偏りが生じるので,母集団の性質とのずれが大きくなります。


3 標本調査の場合,標本誤差は生じない。


標本調査である限り,標本誤差をなくすことはできません。

それをいかに小さくするかが重要です。

そのためにさまざまな抽出方法が開発されています。


4 全数調査の場合,測定誤差は生じない。


全数調査でも標本調査でも測定誤差は生じます。


5 全数調査の場合,母集団から一部を取り出し,取り出した全員を対象に調査する。


全数調査は,母集団すべてを調査します。母集団の一部を取り出すのは標本調査です。


2021年6月25日金曜日

社会福祉調査における個人情報保護

 今回は,前説なしで問題です。


第30回・問題85 社会調査における個人情報保護に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 社会調査は公益性が高いため,調査で得られた個々の調査対象者の氏名,性別,年齢などの属性は,公表すべきである。

2 社会調査で得られたデータを共同研究者と検討する際には,調査対象者の意向にかかわらず,個人情報を秘匿しなくてよい。

3 社会調査の標本抽出が目的であれば,選挙人名簿あるいは住民基本台帳から自由に個人情報を得ることができる。

4 社会調査は,調査の目的,収集データの利用方法,そして結果の公表の方法をあらかじめ文書あるいは口頭で調査対象者に知らせ,了解を取った上で実施する。

5 量的な調査では,調査対象者の氏名や回答者番号が書かれた対象者リストと調査票を,一緒にまとめて管理しなければならない。


何の知識もなくても正解できる問題でしょう。


常識的に考えても


4 社会調査は,調査の目的,収集データの利用方法,そして結果の公表の方法をあらかじめ文書あるいは口頭で調査対象者に知らせ,了解を取った上で実施する。


これが正解だとわかるのではないでしょうか。


しかし,国家試験問題は,考えているほど確実に正解するのは簡単なものではありません。


ほかの選択肢があるからです。


この問題の中で注意しなければならないのは,以下の選択肢です。


5 量的な調査では,調査対象者の氏名や回答者番号が書かれた対象者リストと調査票を,一緒にまとめて管理しなければならない。


まず解答テクニックです。


この科目では「しなければならない」といった論調のものは正解にならない傾向があります。


この選択肢が正解にならない理由は,もし何かあった場合(何かとは情報の漏洩など),個人のプライバシーを侵害することになりかねないからです。


リスクは分散させるのが王道です。


2021年6月24日木曜日

統計法について

今回は統計法を取り上げますが,おそらく第34回国試では出題されないように思います。

 

国試で出題されたのは

23

26

30

32

 

の4回です。

 

30回と第32回と出題されているので,第34回に出題されるように思う人もいるかもしれませんが,もう出題する意義は果たしたように思います。

 

しかし,だからと言って勉強しないのは,出題された時に困るので,一応押さえておきたいと思います。

 

それでは,今日の問題です。

 

30回・問題84 現行の統計法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 一般統計調査は,行政機関が行う統計調査のうち基幹統計調査以外の調査のことをいう。

2 基幹統計調査である国勢調査は,10年ごとに無作為抽出による調査が行われる。

3 調査を実施する行政機関は,その機関内に統計委員会を置かなければならない。

4 基幹統計の公表の場合には,インターネットを利用した公表が禁じられている。

5 成年被後見人には,基幹統計調査の報告を求められることはない。

 

知識ゼロでも消去できる選択肢がありますが,この問題は決して簡単ではありません。

なぜなら,統計委員会がわからなければおそらく正解にたどりつけないからです。

 

統計委員会

(設置)

第四十四条 総務省に、統計委員会を置く。

 

それでは解説です。

 

1 一般統計調査は,行政機関が行う統計調査のうち基幹統計調査以外の調査のことをいう。

 

これが正解です。

 

確かに統計法ではこのように規定されていますが,一般統計調査を正解にする意義がないように思います。

 

つまり,この問題はほかの選択肢を消去することで正解にたどり着くというサバイバル問題なのです。

 

一つでも消去できないと正解できません。

 

それでは,一つひとつ消去していきましょう。

 

2 基幹統計調査である国勢調査は,10年ごとに無作為抽出による調査が行われる。

 

国勢調査は,わが国における最も規模の大きい全数調査です。

10年というのも間違っているのでは? と思う人もいるのではないでしょうか。

だって5年ごとに行われているでしょ?

 

10年ごとに大規模調査が実施され,中間年に簡易調査が実施されています。

5年ごとでも10年ごとでもどちらも言えることとなります。


国勢調査は,1920年(大正9年)に第1回が実施されています。

西暦の1桁が0の年が大規模調査,5の年が簡易調査ということになります。

 

2015年の簡易調査の時から,インターネットでの回答が可能となりました。まだ記憶に新しいところでしょう。

 

3 調査を実施する行政機関は,その機関内に統計委員会を置かなければならない。

 

これは知識がなければ消去することができません。

 

統計委員会が置かれるのは,総務省です。

 

4 基幹統計の公表の場合には,インターネットを利用した公表が禁じられている。

 

これを正解にする人は,めったにいないでしょう。

 

もちろんインターネットを利用した公表はできます。

 

5 成年被後見人には,基幹統計調査の報告を求められることはない。

 

報告を求められた個人が成年被後見人の場合は,法定代理人が本人に代わって報告します。

 

ということで,報告が求められます。

2021年6月23日水曜日

成年後見開始の審判の申立て

 〈成年後見開始〉

精神上の障害によって事理を弁識する能力を欠く常況にある者について,家庭裁判所は,本人,配偶者,四親等内の親族,未成年後見人,未成年後見監督人,保佐人,保佐監督人,補助人,補助監督人又は検察官の請求により,後見開始の審判をすることができます。


それでは,今日の問題です。


第30回・問題83 次の事例を読んで,Q市福祉課職員の対応として,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 Q市に居住するMさん(80歳,女性)は,40年前に離婚し,その後再婚した。再婚した夫には,再婚時に既に成人し家庭を設けている子がいたが,再婚に反対し,再婚後もMさんとの交流を拒絶している。その夫も5年前に亡くし,Mさんは2,000万円の財産を相続した。Mさんは,最近,認知症が進行し,悪質商法の被害にも遭っているようで,民生委員が心配してQ市福祉課職員にMさんの成年後見制度の利用に関して相談に来た。

1 民生委員に,成年後見開始の審判の申立てを依頼する。

2 Mさんに実子がいる場合,実子に成年後見開始の審判の申立てを命じる。 

3 再婚相手の子に,成年後見開始の審判の申立てを命じる。

4 市長申立てによる成年後見開始の審判の手続を検討する。

5 前夫が生存している場合,前夫に成年後見開始の審判の申立てを依頼する。


「申立てできるのは,だれ?」

という問題です。登場人数が多く,複雑ですね。冷静に考えてみましょう。


解説です。


1 民生委員に,成年後見開始の審判の申立てを依頼する。


民生委員は,申立てすることはできません。


2 Mさんに実子がいる場合,実子に成年後見開始の審判の申立てを命じる。


申立ては権利であって,義務付けするものではありません。


こういったときに用いられるのが市町村長申立てです。


3 再婚相手の子に,成年後見開始の審判の申立てを命じる。


再婚相手の子は,養子縁組をすることで,Mさんの子となります。


この事例では,Mさんとの交流を拒絶しているということからおそらく養子とはなっていないのではないかと考えられます。


しかし,もし養子になっていたとしても,選択肢2と同じように,家庭裁判所が申立てを命じるということはないので誤りです。


4 市長申立てによる成年後見開始の審判の手続を検討する。


これが最も適切です。


こういったときに行われるのが市町村長による申立てです。


四親等以内の親族がいたとしても,申立てすることができなければ,変わって市町村長が申立てを行います。


先日紹介したように,令和2年では,申立人と本人との関係で最も多いのは,市区町村長となっています。

https://fukufuku21.blogspot.com/2021/06/blog-post_21.html



5 前夫が生存している場合,前夫に成年後見開始の審判の申立てを依頼する。


前夫と再再婚していれば,配偶者として申立てを行うことができます。


しかし,この事例ではそのことを裏づける情報はありません。

2021年6月22日火曜日

成年後見人の事務

 成年後見人の事務は,

 

財産管理と身上監護です。

 

成年後見人の事務ではないものには,日常の生活の世話や介護(事実行為という),手術方法の同意などがあります。

 

成年後見制度に関して,2016(平成28)年に民法の改正がありました。

 

その時に手術方法の同意に関して今後検討することが付帯決議に含められたので,今後はその部分は変更されることがあるかもしれません。

 

この改正の時に,新しく加わったものがあります。

 

 

(成年後見人による郵便物等の管理)

第八百六十条の二 家庭裁判所は、成年後見人がその事務を行うに当たって必要があると認めるときは、成年後見人の請求により、信書の送達の事業を行う者に対し、期間を定めて、成年被後見人に宛てた郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第三項に規定する信書便物を成年後見人に配達すべき旨を嘱託することができる。

 

(成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限)

第八百七十三条の二 成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。

一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為

二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済

三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)

 

 

特に2つめの「成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限」は,実際の事務において重要です。

 

成年被後見人が亡くなると,後見契約は終了します。

そのため,財産管理はできなくなります。そのために,死後事務をどうするかは以前から課題となっており,そのためにこの規定を追加しました。

 

それでは,今日の問題です。

 

30回・問題82 次のうち,民法上,許可の取得などの家庭裁判所に対する特別な手続を必要とせずに,成年後見人が単独でできる行為として,正しいものを1つ選びなさい。

1 成年被後見人宛ての信書等の郵便物の転送

2 成年被後見人が相続人である遺産相続の放棄

3 成年被後見人の遺体の火葬に関する契約の締結

4 成年被後見人の居住用不動産の売却

5 成年被後見人のための特別代理人の選任

 

民法改正があったのは,2016(平成26)年,この問題が出題されたのは,2018(平成28)年です。

 

満を持して出題したというところでしょうか。

 

この問題のポイントは「家庭裁判所に対する特別な手続を必要とせずに,成年後見人が単独でできる行為」です。

 

このような問題の設定を忘れてはなりません。

 

それでは解説です。

 

1 成年被後見人宛ての信書等の郵便物の転送

 

信書等の郵便物の転送は,2016年改正で新しく加わったものです。

 

思わずこれを正解にしてしまいそうですが,家庭裁判所の許可が必要です。

 

2 成年被後見人が相続人である遺産相続の放棄

 

これが正解です。

 

成年被後見人が相続人である遺産相続の放棄は,財産管理に含まれます。

基本的な財産管理は,家庭裁判所の許可を必要としない成年後見人の事務です。

 

3 成年被後見人の遺体の火葬に関する契約の締結


成年被後見人の遺体の火葬に関する契約の締結も2016年の改正で加わったものです。

 

これも家庭裁判所の許可が必要です。

 

4 成年被後見人の居住用不動産の売却

 

財産管理のうち,成年被後見人の居住用不動産の売却は,家庭裁判所の許可が必要です。

 

(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)

第八百五十九条の三 成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。

 

5 成年被後見人のための特別代理人の選任

 

特別代理人は,成年後見監督人がされておらず,成年被後見人と成年後見人の利益が相反する場合に選任されます。

 

特別代理人の選任は,成年後見人が家庭裁判所に請求して,家庭裁判所が職権で選任します。

2021年6月21日月曜日

成年後見関係事件の概況

成年後見制度が2000(平成12)年に発足以来,裁判所では「成年後見関係事件の概況」を公表しています。

 

https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/kouken/index.html

 

〈主な内容〉 データは令和2年版のもの

 

1 過去5年における申立件数の推移

 平成28年 34,249

 平成29年 35,737

 平成30年 36,549

 令和元年 35,959

 令和2年 37,235

 ※最も多いのは後見開始。任意後見監督人選任は1,000件に満たない。

 

2 終局区分別件数

 認容 95.5

 却下 0.3

 

3 審理期間別の割合

 2か月以内に終局したもの 70.1

 4か月以内に終局したもの 92.4

 

4 申立人と本人との関係別件数・割合

 親族 52.8

 親族以外 27.0%  ※本人20.2

 多い順 ①市区町村長 ②子 ③本人

 

5 本人の男女別・年齢別割合

 (男女別)男性 43.4% 女性 56.6

 (年齢別)

男性 70歳代 27.6% 80歳以上 34.4

女性 70歳代 19.7% 80歳以上 63.0% 男女ともに80歳以上が最も多い。

 

6 開始原因別割合

 多い順 ①認知症 ②知的障害 ③統合失調症

 

7 主な申立ての動機別件数・割合

 多い順 ①預貯金等の管理・解約 ②身上保護 ③介護保険契約

 

8 鑑定期間別割合

 鑑定したもの 全体の6.1

 1か月以内 56.1% 1か月超え~2か月以内 33.2

 

9 鑑定費用別割合

 5万円以下 53.9% 5万円超え10万円以内 39.3

 

10 成年後見人等と本人との関係別件数・割合

 親族 19.7

  (内訳)

    子(54.0%)

    兄弟姉妹(14.0%)

    その他親族(17.0%)

    配偶者(7.8%)

    親(7.1%)

 親族以外 80.3

  (内訳)

    司法書士(37.9%)

    弁護士(26.2%)

    社会福祉士(18.4%)

 

11 成年後見制度の利用者数の推移

 平成28年末 203,551

 平成29年末 210,290

 平成30年末 218,142

 令和元年末 224,442

 令和2年末 232,287

 


令和2年の特徴は

市区町村長の申立てが近年多くなってきていましたが,この年に初めて最も多くなったことです。

 

これ以外は,近年の傾向ほぼ変わっていません。

 

それでは,今日の問題です。

 

30回・問題81 「成年後見関係事件の概況(平成281月~12)(最高裁判所事務総局家庭局)に示された,成年後見制度の最近の動向に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 「成年後見制度の利用者」は,約20万人である。

2 「成年後見関係事件」の申立件数は,約10万件である。

3 「成年後見人等」と本人との関係をみると,親族が「成年後見人等」に選任されたものが全体の約60%ある。

4 「成年後見関係事件」の「終局事件」のうち,鑑定を実施したものは,全体の約半数であった。

5 成年後見開始の申立ての動機としては,介護保険契約締結のためが最も多い。

 

 

答えはすぐわかると思いますが,解説します。

 

1 「成年後見制度の利用者」は,約20万人である。

 

これが正解です。この年の利用者数は,203,551人でした。

この年に20万人を超えています。

 

2 「成年後見関係事件」の申立件数は,約10万件である。

 

この年の申立件数は,37,235件でした。

 

3 「成年後見人等」と本人との関係をみると,親族が「成年後見人等」に選任されたものが全体の約60%ある。

 

この年は,親族28.1% 親族以外71.9%でした。

 

4 「成年後見関係事件」の「終局事件」のうち,鑑定を実施したものは,全体の約半数であった。

 

実際に鑑定したのは,この年は9.2%でした。

 

5 成年後見開始の申立ての動機としては,介護保険契約締結のためが最も多い。

 

最も多いのは,「預貯金等の管理・解約」です。

2021年6月20日日曜日

民法における扶養の規定

今回は民法が規定する扶養を学んでいきたいと思います。

 

民法の扶養の規定

(扶養義務者)

第八百七十七条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。

3 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。

 

(扶養の順位)

第八百七十八条 扶養をする義務のある者が数人ある場合において、扶養をすべき者の順序について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。扶養を受ける権利のある者が数人ある場合において、扶養義務者の資力がその全員を扶養するのに足りないときの扶養を受けるべき者の順序についても、同様とする。

 

(扶養の程度又は方法)

第八百七十九条 扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める。

 

(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)

第八百八十条 扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。

 

(扶養請求権の処分の禁止)

第八百八十一条 扶養を受ける権利は、処分することができない。

 

 

扶養義務があるのは,

・直系血族

・兄弟姉妹

 

家庭裁判所の審判によって扶養義務を負うことがあるのは,

・三親等内の親族

 

親族の範囲は

・六親等内の血族

・配偶者

・三親等内の姻族

 

四~六親等の血族も親族ですが,扶養の義務を負うことはありません。

 

それでは,今日の問題です。

 

30回・問題80 事例を読んで,次の親族関係における民法上の扶養に関する記述として,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 L(80)には長男(55)と次男(50)がいるが,配偶者と死別し,現在は独居である。長男は妻と子(25)の三人で自己所有の一戸建住居で暮らし,次男は妻と重症心身障害のある子(15)の三人でアパートで暮らしている。最近,Lは認知症が進行し,介護の必要性も増し,介護サービス利用料などの負担が増えて経済的にも困窮してきた。

1 長男と次男がLの扶養の順序について協議できない場合には,家庭裁判所がこれを定める。

2 長男及び次男には,扶養義務の一環として,Lの成年後見制度利用のための審判請求を行う義務がある。

3 長男の自宅に空き部屋がある場合には,長男はLを引き取って扶養する義務がある。

4 次男が生活に困窮した場合,Lは,長男に対する扶養請求権を次男に譲渡することができる。

5 長男の子と次男の子以外の者が全て死亡したときには,長男の子は次男の子を扶養する義務を負う。

 

 

この事例の登場人物は,

 

・本人

・長男

・次男

 

の3人です。

 

長男と次男は生まれた順番が違うだけで,民法上の子という立場は同じなので比較的シンプルな構成の事例です。

 

しかし,事例の場合は読み間違ったりする恐れがあるので,登場人物に印をつけたり,場合によっては,相関図を空きスペースに書き込むことなどの工夫をするようにしましょう。

 

それでは解説です。

 

1 長男と次男がLの扶養の順序について協議できない場合には,家庭裁判所がこれを定める。

 

これが正解です。

 

長男と次男は,直系親族なので,いずれも扶養義務があります。

長男が扶養の第一順位ではありません。

 

扶養の順位は,協議によって決めますが,決められない場合は,家庭裁判所が決定します。

これは,離婚したときの子の親権者の決定と同じ仕組みです。

 

2 長男及び次男には,扶養義務の一環として,Lの成年後見制度利用のための審判請求を行う義務がある。

 

成年後見等開始の審判の請求は,四親等以内の親族が行うことができます。

 

長男及び次男は,四親等以内の親族ですが,審判請求を行う権利を持っているだけであり,義務ではありません。

 

3 長男の自宅に空き部屋がある場合には,長男はLを引き取って扶養する義務がある。

 

一般的には,長男が親の扶養をしなければならないような風潮がありますが,民法上は,長子が優先されるということはありません。

 

それよりもこの事例で重要なことは,空き部屋があることは扶養の要件ではないことです。

 

4 次男が生活に困窮した場合,Lは,長男に対する扶養請求権を次男に譲渡することができる。

 

扶養請求権は,譲渡することができません。

 

5 長男の子と次男の子以外の者が全て死亡したときには,長男の子は次男の子を扶養する義務を負う。

 

長男の子と次男の子は,四親等なので扶養義務はありません。

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