2018年8月31日金曜日

貧困のとらえ方~その1

今回から科目は「低所得者に対する支援と生活保護制度」に移ります。

「更生保護制度」を除くと,学ばなければならない法制度が最も少ないのはこの科目です。


基本的には,

生活保護法

それに加えて

生活困窮者自立支援法
ホームレス自立支援法

の3つしかありません。

しっかり勉強すれば確実に点数が取れる科目です。

それにもかかわらず,あまり得意ではないと思っている人も多いようです。

その理由は,歴史と人名がかかわってくるからでしょう。

しかしそれらは極めて限定されています。

歴史は,恤救規則,救護法,旧・生活保護法,現・生活保護法の違い

人名は,貧困の発見と貧困の再発見

たったこれだけです。

極めて内容が限定されています。

メインである生活保護法でさえ,改正はめったにある制度ではありません。

そういったところでは,法制度系の科目の中では,過去問が有効に使えるものと言えるでしょう。

この科目の入り口である「貧困をどのようにとらえるか」を考えていきたいと思います。
貧困は,人の福祉ニーズの中では,最も古いものです。

特に近代化は貧困との闘いの歴史だと言えるでしょう。

まずは,人々は,貧困をどのようにとらえてきたのかを考えていきたいと思います。

それでは早速今日の問題です。

第22回・問題56 貧困に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 エンゲル(Engel,E.)は,家計調査に基づき,飲食物費が家計支出に占める割合が高いほど最低生活が充足されているとした。

2 ラウントリー (Rowntree,B.S.)は,貧困調査において,貧困をその程度に応じて第一次貧困と第二次貧困に区分した。

3 ウェッブ夫妻 (Webb,S.&B.)は,労働調査を通して「貧困の再発見」をした。

4 ルイス(Lewis,O.)は,貧困の多様性・広汎性・複合性を「相対的剥奪」という概念で整理した。

5 セン(Sen,A.)は,人々の社会への関与が遮断されている状態を指して,「社会的排除」という概念を提唱した。

歴史と人名が苦手な人にとっては,ダブルパンチを受けるような出題かもしれません。

しかし,この科目だけで学ぶものは一つもありません。

つまり特に勉強せずとも,歴史と人名は他の科目でしっかり押さえておけば,ケアできる領域なのです。

それでは,解説です。


1 エンゲル(Engel,E.)は,家計調査に基づき,飲食物費が家計支出に占める割合が高いほど最低生活が充足されているとした。

エンゲルは,エンゲル係数で知られます。

飲食物にかけるお金はどの家庭でもそれほど大きく違わないというところに着目しました。

収入が多ければ飲食物代の割合が下がり,少なければ割合が上がる,ということです。

この設問では,割合が高いほど最低生活が充足されている,と書いてありますが,割合が高ければ,飲食物代以外に使えるお金が少ないことを意味します。よって間違いです。


2 ラウントリー (Rowntree,B.S.)は,貧困調査において,貧困をその程度に応じて第一次貧困と第二次貧困に区分した。

これが正解です。

ブース,ラウントリーが行った19世紀後半から20世紀の初めに行った貧困調査は,極めて重要です。

絶対に覚えなければなりません。

ブースが行ったロンドン市民に対する調査では,実に30%もの市民が貧困線以下の生活を送っていることを明らかにしました。

しかもそれまで貧困は本人の問題だと考えられていたものが,この調査で雇用,環境の問題が貧困を原因であることを明らかにしたのです。

ラウントリーが行ったヨーク市の貧困調査は,マーケットバスケット方式と呼ばれる生活費を積み上げて,最低生活に必要な収入を割り出しました。

これによって,肉体をいしできるギリギリの貧困である第一次貧困と飲酒やギャンブルをしなければ何とか生活できるレベルの貧困である第二次貧困という概念を生み出しました。



この二つの貧困調査は,貧困に関する考え方を大きく変えることになり,「貧困の発見」と呼ばれます。ここから歴史は大きく変わっていきます。


3 ウェッブ夫妻 (Webb,S.&B.)は,労働調査を通して「貧困の再発見」をした。

さて,歴史を大きく変えるきっかけを作ったのは,ブース,ラウントリーの貧困調査でした。

それを福祉政策に組み入れることを考えたのは,ウェッブ夫妻です。

イギリスは今でも二大政党制となっており,ウェッブ夫妻の夫のほうであるシドニーは,労働党の支持母体であるフェビアン協会の設立者の一人です。

ウェッブ夫妻は,国が国民の最低生活を保障するという「ナショナルミニマム」という考え方を20世紀初頭に発表しました。

これがその後ベヴァリッジ報告の中で展開されて,イギリスの福祉国家を作り上げていきました。

貧困の再発見はもう少し先の話,1950年代にタウンゼントなどによってなされます。


4 ルイス(Lewis,O.)は,貧困の多様性・広汎性・複合性を「相対的剥奪」という概念で整理した。

ルイスは,「貧困の文化」という本を出版し,1960年代にベストセラーとなり,その当時大きな支持を集めました。メキシコの数家族だけを見て書いたものなので,普遍性があるかどうかは分かりません。

ルイスによる「貧困の文化」とは,貧困の文化は受け継がれるというものです。

貧困生活を送るとその文化を享受し,貧困生活から抜け出そうとしないことを貧困の文化と名付けました。

相対的剥奪はタウンゼントの貧困の概念です。よって間違いです。

これによって相対的貧困という周りのレベルと比べることでの貧困という新しい概念が生まれてきます。


5 セン(Sen,A.)は,人々の社会への関与が遮断されている状態を指して,「社会的排除」という概念を提唱した。

A.センは,ケイパビリティ・アプローチという概念を作り出した人です。

ものがあるかないかではなく,福祉的自由を使えないことを貧困としたのです。近くに働く場所がないために遠くに出稼ぎに出ることで家族に一緒にいることができないといったことを貧困と考える最も新しい貧困観です。

社会的排除は,1980年代にヨーロッパで生まれたものです。

今日は,歴史を取り上げましたが,実はこんな出題はこの科目ではほとんどされていません。

カリキュラムが新しくなった年の出題なのではりきったのではないでしょうか。

しかし,とてもよい問題だと思います。

2018年8月30日木曜日

障害者雇用率(法定雇用率)の徹底理解~その3

1か月以上にわたって,「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」に取り組んできました。

ずっと読んでいただいた方は,かなりこの科目に慣れてきたのではないでしょうか。

国試で大きな差が出るのは,法制度をいかにしっかり押さえているか,ということです。

歴史や人名は多くの受験者の方たちも苦手としています。

もちろんそういったところで点数を積み上げることは重要です。

しかしそれは法制度をしっかり押さえていることが前提です。

まだ勉強が進んでいないという方は,

人体の構造の機能及び疾病
心理学理論と心理的支援
社会理論と社会システム
現代社会と福祉

は飛ばしていきましょう。

現代社会と福祉は,本当は先に取り組んだほうが良い科目ですが,慣れないと難解に感じると思うので,この科目も飛ばしてしまいましょう。

こういったところで時間をかけすぎて,法制度を学ぶ時間がなくなってしまうのは,大きな戦略ミスとなります。

法制度をいかにしっかり押さえるか。

今の国試問題は,文字数がとても短くなってきているのが特徴です。

「のみ」「すべて」といった正誤が判別しやすい表現は極力避ける傾向にもあるようです。

法制度は,知っていれば簡単ですし,知らなければまったく解けないものとなります。

さて,今日も障害者雇用率の問題を紹介します。

気づいている方もいらっしゃると思いますが,前回の問題は「就労支援サービス」で出題されたものです。

今日も同じです。

第30回・問題143 障害者雇用率制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。(現在に合わせて一部改変)

1 2018年(平成30年)4月1日から,法定雇用率の算定基礎の対象に精神障害者が含まれている。

2 重度身体障害者は,障害者雇用率の算定上,一人をもって三人とみなされる。

3 特例子会社とは,事業内容を勘案して障害者の雇用義務を課さないと認められた子会社のことである。

4 法定雇用率未達成の事業主は,利益率に応じて障害者雇用納付金を納付しなければならない。

5 国や地方公共団体には,一般の民間企業より低い法定雇用率が課せられている。


今回取り上げる問題は,第30回国試で出題されたものです。

今改めて見ると,とても白々しい感じがしますね。

さて,正解は,選択肢1です。

勉強した人なら,すぐ正解にできたはずです。

2018年4月改正の法制度の中では,精神障害者が雇用義務化されて,障害者雇用率を算定するための算定基礎に精神障害者が加わることは,最もホットなテーマだったからです。

第27回でも同様に出題されていて,施策的にとても重要なのだ,ということを示唆していました。

3障害の中で精神障害者の雇用が進みにくいのは,病状が固定されていないという理由もあります。

しかし,近年は薬剤の開発が進み,服薬さえしっかりしていれば,精神症状は安定したものとなります。

日本では,統合失調症患者によるライシャワー事件をきっかけに,精神障害者を隔離する政策に逆戻りしてしまいましたが,ようやく近年地域移行が進んできました。

現在は,まだ正式な施策ではありませんが,「精神障害者アウトリーチ推進事業」という,地域生活をしている精神障害者に積極的に働きかけて,治療につなげていくという試みも始まっています。


さて,そうしてようやく,2018年4月にようやく精神障害者の雇用が義務化されたのです。

それでは解説です。


1 2018年(平成30年)4月1日から,法定雇用率の算定基礎の対象に精神障害者が含まれている。

これが正解ですね。

勉強している人にとっては,とても簡単な問題です。

しかし,知らなければ解けないものです。


2 重度身体障害者は,障害者雇用率の算定上,一人をもって三人とみなされる。

障害者雇用率を算定する際,ダブルカウント,ハーフカウントという仕組みがあります。

テレビのコメントで,当事者団体の代表者が「障害者雇用率はダブルカウント,ハーフカウントというものがあって,もともと信用できないものだと思っていた」と語っていらっしゃいました。

1人のひとなのに,障害の程度によって,2人と数えてみたり,働く時間によって0.5人と数えてみたり,数合わせだと思われて当然でしょう。

しかし,障害者雇用をすすめる上では,福祉政策による誘導は欠かせません。

その一つが重度身体障害者を雇用した場合,1人を2人とカウントするダブルカウントです。

よって間違いです。


3 特例子会社とは,事業内容を勘案して障害者の雇用義務を課さないと認められた子会社のことである。

特例子会社は,一定の要件を満たした子会社で雇用した障害者を親会社あるいはグループ全体の雇用として算定できる制度です。

よって間違いです。

全国の企業をみると,クリーニングや清掃などにかかわる会社が多いようです。


4 法定雇用率未達成の事業主は,利益率に応じて障害者雇用納付金を納付しなければならない。

障碍者雇用納付金は,制度の中心をなすものです。

法定雇用率を達成できなかった企業は,不足した人数に応じて障害者雇用納付金を納付しなければなりません。よって間違いです。

雇用義務は45.5人以上雇用する企業に課せられていますが,障害者雇用納付金の対象となるのは,101人以上を雇用する企業です。

達成企業には,納付金を財源として,調整金・報奨金を支給します。

納付金を納付しても雇用義務がなくなるわけではありません。


5 国や地方公共団体には,一般の民間企業より低い法定雇用率が課せられている。

白々しく感じるのは,この選択肢です。

・国・地方公共団体,特殊法人(44人以上) 2.5%。
・都道府県等の教育委員会(50人以上) 2.4%。
・一般の民間企業(45.5人以上) 2.2%。

となっています。よって間違いです。

それぞれ従来よりも0.2%ずつ引き上げられています。

いくら一般の民間企業よりも高い法定雇用率が課せられていても,水増しして報告していたらまったく意味がありません。


障害者雇用納付金は,実は障害者雇用をすすめる上では重要な制度です。

企業にとっては,障害者を雇用することで調整金・報奨金が支給されるので,納付金を納付するよりも,実は得だからです。

一か月以上「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」は今回で終了です。

次回からは,次の科目「低所得者に対する支援と生活保護制度」に移ります。

分野論の科目では覚えるべき法制度が少ないので,攻略は比較的簡単です。

2018年8月29日水曜日

障害者雇用率(法定雇用率)~その2

今回も法定雇用率とも言われる障害者雇用率について続けたいと思います。

障害者雇用率とは,障害者雇用促進法に規定される制度で,国,地方公共団体,民間企業に一定の割合以上の障害者を雇用を義務づけたものです。

少なくとも5年ごとに定めることになっています。平成30年に改定されました。

・国・地方公共団体,特殊法人(44人以上) →2.5%。
・都道府県等の教育委員会(50人以上) → 2.4%。
・一般の民間企業(45.5人以上) → 2.2%。

これらは,従来よりも0.2%ずつ引き上げられています。

この法定雇用率は,以下のように計算されます。

労働者(労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、安定した職業に就くことができない状態にある者を含む)の総数に対する,対象障害者である労働者(労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、安定した職業に就くことができない状態にある対象障害者を含む)の総数の割合

から算定されています。この対象障害者に今年から精神障害者が含まれることになったので,法定雇用率が改定されたのです。

雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会を実現するための制度です。

おバカな政治家が

障害者に限りがあるから,障害者が取り合いになるだろう。だから官庁が障害者雇用率を達成できなくても仕方がない。

といったような発言をしています。

それは採用の努力した結果ならまだしも,そうではないので問題になっているのだと思います。

いずれにしても,昨今の話題で,すっかり国民に障害者雇用率について浸透したと思います。

社会福祉士の国家試験を受験する人も興味深く報道を見守っているので,制度に対してとても詳しくなっているはずです。

そのために,多くの人が正解できるはずですから,絶対に落とさないようにしたいです。

それでは今日の問題です。

第27回・問題146 障害者雇用率制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 「障害者雇用促進法」の改正により,精神障害者が法定雇用率の算定基礎に加えられることになった。

2 障害者雇用納付金を納付すれば,障害者雇用義務が免除される。

3 身体障害者手帳1級を所持する障害者を雇用した場合,1人をもって3人分として実雇用率を算定できる。

4 法定雇用率が未達成の場合には,自動的に企業名が公表される。

5 特例子会社とは,事業内容を勘案して障害者の雇用義務を課さないと認められた子会社のことである。

3年前の問題なので,まだ精神障害者の雇用義務の部分が施行されていない時点でのものとなっています。

施行される前のものが出題されることはほとんどありませんが,精神障害者が算定基礎に加わるという出題は,第27回と第30回の2回も出題されています。

勉強している人は,とても簡単な問題だったと思います。

さて,それでは解説です。

1 「障害者雇用促進法」の改正により,精神障害者が法定雇用率の算定基礎に加えられることになった。

これが正解です。

今までは,身体障害者+知的障害者の一定割合から算定していましたが,

平成30年4月からは,

身体障害者+知的障害者+精神障害者の一定割合から算定されています。

これによって平成30年4月から障害者雇用率が引き上げられています。


2 障害者雇用納付金を納付すれば,障害者雇用義務が免除される。

101人以上を雇用する一般企業は,雇用しなければならない障害者の不足分に対して,障害者雇用納付金を納付しなければなりません。

納付をもって雇用義務がなくなるわけではなく,雇用義務を果たしていないための違反金です。

よって間違いです。

納付金を財源として,雇用率を上回った企業には調整金(101人以上の企業),報奨金(100人以下の企業)が給付されます。

3 身体障害者手帳1級を所持する障害者を雇用した場合,1人をもって3人分として実雇用率を算定できる。

障害者雇用率は,ダブルカウント,ハーフカウントという算定方法があります。

重度障害者を雇用した場合,1人を2人として算定。よって間違いです。

短時間の雇用の場合は,1人を0.5人として算定。

重度障害者の雇用促進,数多く障害者を雇用するための制度です。


4 法定雇用率が未達成の場合には,自動的に企業名が公表される。

自動的ではなく,改善が見られない場合です。

よって間違いです。

5 特例子会社とは,事業内容を勘案して障害者の雇用義務を課さないと認められた子会社のことである。

特例子会社は,要件を満たす子会社で雇用した障害者を親会社,あるいはグループ全体の雇用として算定できる制度です。

よって間違いです。職種によっては,数多く障害者を雇用できるものもあります。そこに着目した制度です。








2018年8月28日火曜日

障害者雇用促進法の徹底理解~障害者雇用率(法定雇用率)

障害者雇用促進法は,障害者の職業リハビリテーションを行うとともに障害者の雇用を義務づけた法律です。

障害者雇用促進法は「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」と「就労支援サービス」の2つの科目の出題基準に含まれています。

そのためかなりの高確率で出題されます。

平成28年改正によって,平成30年から精神障害者の雇用が義務化されて,算定基礎に精神障害者が含まれました。

そのことによって障害者雇用率が,それぞれ0.2%ずつ引き上げられています。

・国・地方公共団体,特殊法人(44人以上) →2.5%。
・都道府県等の教育委員会(50人以上) → 2.4%。
・一般の民間企業(45.5人以上) → 2.2%。

法定雇用率を0.2%ずつ引き上げても,実は本来よりも低い割合なので,3年後にもう一度引き上げる予定となっています。


法定雇用率を理解するポイント

・国,地方公共団体等には,一般企業よりも高い法定雇用率が設定されている。

・一般企業が法定雇用率を下回る場合は,不足している人数に応じて障害者雇用納付金を支払わなければならない。

・法定雇用率を下回る場合は,厚生労働大臣から雇い入れ計画作成を命じられる。実務を担当するのはハローワーク。障害者雇用状況報告を行うのもハローワーク。

・障害者雇用納付金を支払っても雇用義務がなくなるわけではない。

・雇用状況が改善されない企業に対して適正実施勧告を行い,それでも改善されないと企業名が公表される。

・特定子会社,ダブルカウント・ハーフカウントなど算定するするときの仕組みがある。

ネットで調べると出てきますが,年に何社か公表されています。

厚生労働省によると,国・地方公共団体は適正実施勧告を行ったところはないそうです。
今見ると恥ずかしいですね。

今後は果たしてどうなることでしょうか。


さて,今日の問題です。

第26回・問題62 「障害者雇用促進法」が定める事業主の雇用義務に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 民間企業における法定雇用率は1.8%である。

2 法定雇用率を下回っている場合は障害者雇用納付金を徴収する仕組みがある。

3 障害者を雇用する事業所においては,障害者雇用推進者を選任し,障害のある従業員の職業生活に関する相談指導を行わせるよう努めなければならない。

4 精神障害者保健福祉手帳を所持している従業員を,雇用している障害者の数に算定することはできない。

5 都道府県知事は雇用率未達成の事業主に対して,雇入れ計画の作成を命ずる。 

(注) 「障害者雇用促進法」とは,「障害者の雇用の促進等に関する法律」のことである。

答えは,すぐ分かりますね。

正解は,選択肢2です。

それでは解説です。


1 民間企業における法定雇用率は1.8%である。

民間企業の法定雇用率は,2.2%です。

出題当初は2.0%でした。平成30年4月から精神障害者が雇用義務化されたことにともにい,精神障害者が算定基礎に加わったための引上げです。


2 法定雇用率を下回っている場合は障害者雇用納付金を徴収する仕組みがある。
これが正解です。

法定雇用率を下回った企業から障害者雇用納付金を徴収し,上回った企業に障害者雇用調整金として支給します。

この仕組みがあるため,一般企業では,虚偽の報告して調整金を受け取る詐欺事件が起きます。お金が生じるところには,さまさまな詐欺事件が起きます。

他には労災保険の労災隠しがよく行われます。労災の発生率が高くなると保険料が上がるためです。


3 障害者を雇用する事業所においては,障害者雇用推進者を選任し,障害のある従業員の職業生活に関する相談指導を行わせるよう努めなければならない。

職業生活に関する相談指導を行うのは障害者職業生活相談員です。

よって間違いです。


4 精神障害者保健福祉手帳を所持している従業員を,雇用している障害者の数に算定することはできない。

この問題が出題されたときはまだ精神障害者の雇用義務がなかったので,このような出題になっていますが,雇用義務がなくても雇用率に算定することはできました。

もちろん対象となるのは,精神障害者保健福祉手帳を所持する者です。病院に通院したことがあるだけでは算定できません。


5 都道府県知事は雇用率未達成の事業主に対して,雇入れ計画の作成を命ずる。

雇入れ計画の作成を命ずるのは,厚生労働大臣です。よって間違いです。実際の事務はハローワークが行っています。



2018年8月27日月曜日

国試問題を分析してみた~その2

前回は,第25回と直近の第30回国試問題を比べてみました。

明らかに問題の作り方が違うことが分かるでしょう。

今回はさらに古い問題を紹介したいと思います。

第15回・問題21 イギリスにおける貧困と公的扶助に関する次の記述を古いものから年代順に並べた場合,その組み合わせとして正しいものを一つ選びなさい。

A ラウントリー(Rowntree,B.)は,ヨーク市の貧困調査を通じて労働者家族がその一生の中で経過する貧困の循環(ライフサイクル)を指摘した。

B 新救貧法において,労働能力のある貧民の救済は労役場への収容を原則とし,院外救済を禁止した。

C マルサス(Malthus,T.)は,『人口論』(初版)で,人口は幾何級数的に増加するが,食物は算術級数的にしか増加しないとし,人口増加の「自然法則」を根拠に,救貧法に異議を唱えた。

D ギルバート法では,労役場の非人間的な状況を改善するため,労役場を労働能力のない貧民の救済の場とし,労働能力のある貧民は救貧法外の雇用若しくは院外救済で行うとした。

1 「B→C→A→D」
2 「C→B→A→D」
3 「C→B→D→A」
4 「C→D→A→B」
5 「D→C→B→A」

旧カリキュラム時代には,このような歴史の問題のようなものが出題されていました。

このような問題が出題されたことがあるので,年号を覚えるための語呂合わせがあるのだと思います。

この問題を正しく並べることは,とても難しいです。

しかし,答えは分かります。

なぜなら,最も新しい時代の出来事は,ラウントリーによる貧困調査なので,選択肢3と5が残ります。

そして,次に新しい出来事は,新救貧法です。

その時点で,選択肢3が消去できて,選択肢5が残ります。

この問題の答えは,選択肢5です。

このような組み合わせ問題は,第20回国試を最後になくなりました。

カリキュラムは,第22回から今のものになりましたが,第21回国試は,既に新しい国試を見据えて作られています。

新しいカリキュラムはこのように出題します

ということをその前に示唆して,新しい国試に切り替わったと言えます。

さて,話を戻します。

旧カリキュラムの時の出題は,答えがはっきり分からなくても解ける問題があったということを示したいのです。

それは,あまり良い試験ではありません。

第15回国試は,国試の正答と合格基準点を公表した初めての国試です。

第15回国試では,合格基準点が91点,合格率は31.4%。

ただし,不適切問題が4問あったため,全員に4点加点されています。

現在の国試問題も正解がすぐ分かる問題であれば他の選択肢がよく分からなくても正解することはできます。

しかし,順番の並び替えは,ポイントさえ押さえておけば,今日の問題のように正解できます。
内容については問われていないからです。

第30回国試でも実は似たような問題が出題されています。

第30回・問題131 高齢者に関わる保健医療福祉施策に関する次の記述のうち,施策の開始時期が最も早いものを1つ選びなさい。
1 老人福祉法による70歳以上の者に対する老人医療費支給制度
2 老人保健制度
3 老人福祉法による65歳以上の者に対する健康診査
4 介護保険制度
5 高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)

正解は選択肢3です。

最も早いものはどれか,という出題は,今まで見られなかったタイプの問題スタイルです。

試験委員も苦労してさまざまな新しいスタイルの問題を出題してきます。

国家試験問題をつくるということはとても大変なことなのだと思います。

第15回と第30回国試問題をみると,年号を覚えなければならないと思うかもしれません。

もちろん年号を覚えていれば,安心でしょう。不安材料はなるべく消去しておきたいです。

しかし,本当に時間をかけて勉強しておきたいのは,法制度です。

優先度合いを間違うと,取り返しのつかないことになってしまいます。

年号をきっちり覚えることに時間はかけていてはもったいないです。

少なくても第15回のような問題は出題されないと断言できます。

2つの問題はタイプが似たように見えるかもしれませんが,内容はまったく違います。

第30回の出題スタイルは,これからも出題されるかもしれませんが,このような問題を正解するためには,年号を覚えるのではなく,その施策の内容を覚えることです。

第30回の国試のポイントは,老人保健は当初老人福祉法に含まれていたということです。

頭を柔らかくして問題を見てみると,老人医療費無料化は,老人福祉法を改正することで実現したことを考えると,答えにつながるヒントはあったかもしれません。


<今日のまとめ>

歴史は多くの人が苦手としています。

そういった問題で得点できれば,ほかの人と差をつけられるのは間違いありません。

しかし,ほかの人が正解できる問題を確実に正解していくことが,実は本当は一番大切なことなのです。

いつの時代も国試は難しいです。なぜなら試験委員は手を変え品を変え出題してくるからです。

それでも,出題基準の範囲をしっかり確実に覚えていけば,合格基準点を超えられます。

そこが最も重要なことです。

2018年8月26日日曜日

国試問題を分析してみた

現行カリキュラムは,第22回から始まっています。

障害者に対する支援と障害者自立支援制度は,第22~24回は専門科目の中で出題されて,第25回から共通科目に引っ越した科目です。

社会福祉士の国家試験は,一部精神保健福祉士と共通です。

精神保健福祉士にもこの科目を出題するための引っ越しなのです。

その第25回国試は,実は悪夢のような魔の国試になりました。

合格基準点は,過去最低の72点。合格率は18.8%です。

つまり,72点以上得点できた人は,18.8%しかいなかったということです。

第30回国試の合格基準点は,99点,合格率は30.2%でした。

試験センターは,受験者の得点データは一切発表していません。

しかし,データがなくても,この2回はまったく別な問題なのだろう,ということが予想できるでしょう。

第30回国試は,合格基準点が90点程度,合格率を30%程度に近づけるべくチャレンジしたと思われます。

そこに,受験料値上げがあり,いわゆる記念受験組が受験しなかったという別の要素が加わったことが思惑よりも大きく上方に振れてしまったと考えています。

第25回は,かなり試験センターは反省したのではないかと思います。

そのため,第26回は,試験委員が大きく入れ替わっています。

第31回の試験委員は,第30回とほとんど変わっていないので,試験センター内ではあまり問題視されていないように思うのです。

そこが第30回国試の基本ラインとそれほど変更しないだろうという根拠です。


さて,それでは,悪夢の第25回問題を見てみましょう。

第25回・問題59 障害者就労を支援する連携機関,専門職及び事業に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 地域の関係機関との連携による障害者就労支援チームは,障害者職業センターが中心となって設置する。
2 公共職業安定所(ハローワーク)は,職場適応援助者(ジョブコーチ)の養成,研修を行っている。
3 障害者就労支援基盤整備事業は,福祉施設や学校等の関係者に対する,一般雇用についての理解の促進,就労支援に関する理解,ノウハウの向上を図り,障害者の福祉から一般雇用への移行を推進する基盤を整備することを目的とする。
4 障害者職業カウンセラーは,障害者就業・生活支援センターに配置され,就業に関する相談支援等を行う。
5 公共職業安定所(ハローワーク)は,精神障害者及び事業主に対して,主治医等の医療関係者との連携のもと,新規雇入れ,職場復帰,雇用継続等のための支援ニーズに対して,専門的・総合的な援助を行う精神障害者総合雇用支援事業を実施している。


この問題の文字数は,365字です。選択肢3と選択肢5が特に長いです。

答えは,選択肢3です。

試験委員は,障害者就労支援基盤整備事業がとても重要だと考えて,この選択肢を正解にしたと思います。

この問題の難易度はとても難しいですが,その理由はあります。

選択肢5の精神障害者総合雇用支援事業も同じように重要だと考えて,勉強した人でも知らない事業を2つ出題してしまったことにあります。

第25回以前の国試の特徴は,正解選択肢が他の選択肢よりも長くなる傾向にありました。

つまり,みんなに知ってもらいたいものは,力が入って長くなってしまったのではないでしょうか。

それだけ試験委員は純粋でまじめだということです。

内容が分からなくても,制度の内容を丁寧に紹介したものは,正解になりがちだったということです。

近年の傾向に従って,この問題を書き換えてみるとこんな感じになります。

1 障害者就労支援チームは,障害者職業センターが中心となって設置する。
2 公共職業安定所(ハローワーク)は,職場適応援助者(ジョブコーチ)の養成,研修を行っている。
3 障害者就労支援基盤整備事業は,障害者の福祉から一般雇用への移行を推進する基盤を整備することを目的とする。
4 障害者職業カウンセラーは,障害者就業・生活支援センターに配置される。
5 公共職業安定所(ハローワーク)は,精神障害者総合雇用支援事業を実施している。

これでも207字です。しかし,それぞれの選択肢には特別な色合いがなくなって,今風になったのではないでしょうか。

第30回問題と比べてみましょう。

第30回・問題58 「障害者総合支援法」で位置づけられている施設として,正しいものを1つ選びなさい。
1 地域活動支援センター
2 身体障害者福祉センター
3 児童発達支援センター
4 地域障害者職業センター
5 市町村保健センター

必要最低限の言葉で,構成されていることが分かるでしょう。

文字数がどうのこうのというレベルではなくなっています。

選択肢1が正解です。


<今日のまとめ>

国家試験がどうなろうと,合格基準点が上がろうとも下がろうとも,受験生がやらなければならないのは,たった一つです。

題基準として示されているものを一つひとつ確実に押さえていくこと

今は,おかしな言い回しはほとんどないので,基礎力をいかにつけるか,ということが合格に必要なのです。

合格基準点が上がったり下がったりするのは,受験生にとって迷惑な話です。

それをもろともしないような点数がとれるように頑張りましょう。

2018年8月25日土曜日

国試問題の基本ライン~近年の国試の特徴

第30回国試は,合格基準点が過去最高の99点になったことで,さまざまな論議を呼び起こしました。

第31回国試は,それを受けてどのように変わるのかは分かりませんが,試験委員の構成メンバーはほとんど入れ替わっていないことから,基本的なことは踏襲されると思います。

基本ライン(チームfukufuku21の考察の結果による)

①問題文の中に,3つ以上の要素は作らない。

②誰でも間違いだと分かるような言い回しをしない。

③表現はそろえる。

といった内容です。

①については,

Aは,Bをいう。

という表現にする,ということです。

Aは,〇〇なので,Bである。
Aは,BやCをいう。
AはBであるが,CはAでない。

という問いかけはほとんど見られません。

②については,

「すべて」「のみ」などの表現はほとんど見られなくなってきています。

第30回で,「のみ」が使われているのは,たった一か所

育児休業中,C さんの厚生年金保険の保険料は,事業主負担分のみ免除される。
です。

「すべて」は一か所も使われていません。

現行カリキュラム第1回の第22回では
のみ 3か所
すべて 4か所
といった感じです。

旧カリキュラムの第15回をみると
のみ 8か所
すべて 5か所

間違い選択肢の常とう手段である表現を入れなくても作問できる技術を持ち始めたということなのだと思います。

③については

1 〇〇ではない。
2 〇〇ではない。
3 〇〇ではない。
4 〇〇である。
5 〇〇である。

というような表現のばらつきは避ける傾向にあるようです。

第30回では

1 勉強不足に原因がある
2 問題が難しかったことに原因がある
3 電車が遅れ遅刻したことに原因がある
4 運が悪かったことに原因がある
5 教師の指導力不足に原因がある

これは「原因がある」とそろっています。

1 都道府県は,発達障害者支援センターを設置しなければならない
2 都道府県は,身体障害者更生相談所を設置しなければならない
3 市町村は,児童相談所を設置しなければならない
4 市町村は,婦人相談所を設置しなければならない
5 市町村は,保健所を設置しなければならない

これは「設置しなければならない」とそろっています。

表現をそろえられると迷いやすくなります。

これらの基本ラインは踏襲しつつも,点数が取りにくい問題をつくるとすると,間違い選択肢は,思いっきりでたらめなものを組み込む方法があります。

受験生は,それをされるとさに混乱します。

たった1つの選択肢で,問題の難易度は大きく変わるのです。

国試は,本来は学んだことを問うものです。

五者択一(あるいは択二)でなければ,でたらめな出題をする必要はありません。

そういう面では,試験委員にとっては,でたらめ選択肢を入れることは,心苦しいものなのかもしれません。

しかし,①~③の基本ラインで出題してくれるなら,正解選択肢はシンブルになっているので,知識のある人は正解できるものとなります。

知識の差で,点数は大きく差がつく試験となります。

2018年8月24日金曜日

障害者の定義のまとめ

障害者に対する支援と障害者自立支援制度をずいぶん長く紹介してきました。
いよいよ大詰めになってきました。

さて,今回は各法規における障害者の定義をまとめていきたいと思います。

障害者基本法・障害者差別解消法・障害者優先調達推進法
<障害者>
身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者であって,障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの。


障害者雇用促進法
<障害者> 
身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害があるため,長期にわたり,職業生活に相当の制限を受け,又は職業生活を営むことが著しく困難な者。


障害者総合支援法
<障害者>
身体障害,知的障害,精神障害,難病のある者のうち,18歳以上の者。


身体障害者福祉法
<身体障害者>
身体上の障害がある18歳以上の者であって,都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けた者。


知的障害者福祉法
<知的障害者>
規定なし。


精神保健福祉法
<精神障害者>
統合失調症,精神作用物質による急性中毒又はその依存症,知的障害,精神病質その他の精神疾患を有する者。


発達障害者支援法
<発達障害者>
 発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受ける者。

※発達障害とは?
自閉症,アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害,学習障害,注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。

障害者手帳には3種類があります。
身体障害者手帳(身体障害者)
療育手帳(知的障害者)
精神障害者保健福祉手帳(精神障害者)

このうち,障害者の定義で,手帳を持っていることをもって,障害者だとされるものは,身体障害者のみです。

それでは,今日の問題です。

第29回・問題61 障害者の法律上の定義に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 障害者基本法における「障害者」には,一時的に歩行困難になった者も含まれる。

2 発達障害者支援法における「発達障害者」とは,発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいう。

3 「障害者総合支援法」における「障害者」は,20歳以上の者とされている。

4 知的障害者福祉法における「知的障害者」とは,児童相談所において知的障害であると判定された者をいう。

5 「精神保健福祉法」における「精神障害者」とは,精神障害がある者であって精神障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいう。

(注) 「精神保健福祉法」とは,「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」のことである。

このように並べられると,すべてが正しく見えてくるものです。

「福祉行財政と福祉計画」と同じ原理ですね。

しかし,援助対象者はたまたま障害をもっている「Aさん」という一人のクライエントです。

障害で縦割りになっていても,対象者が変わるわけではありません。

そういった面で,障害者総合支援法が,3障害の福祉サービスを一元化したというのは,日本の福祉行政の中では,活気的なものだと言えるでしょう。

それでは,解説しながら,それぞれをしっかり押さえていきましょう。

1 障害者基本法における「障害者」には,一時的に歩行困難になった者も含まれる。

障害者基本法の障害者の定義
身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者であって,障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの。

「継続的に」です。「一時的」ではありません。よって間違いです。

2 発達障害者支援法における「発達障害者」とは,発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいう。

これが正解です。社会的障壁とは,いわゆるバリアを意味します。障害者基本法の2011年の改正で初めて加わったものに続き,発達障害者も2016年改正で加わりました。


3 「障害者総合支援法」における「障害者」は,20歳以上の者とされている。

障害者総合支援法の障害者は,18歳以上が対象です。よって間違いです。

それ未満は,児童福祉法が適用されます。


4 知的障害者福祉法における「知的障害者」とは,児童相談所において知的障害であると判定された者をいう。

知的障害者福祉法では,知的障害者の定義はありません。

よって間違いです。


5 「精神保健福祉法」における「精神障害者」とは,精神障害がある者であって精神障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいう。

精神保健福祉法の精神障害者は,統合失調症,精神作用物質による急性中毒又はその依存症,知的障害,精神病質その他の精神疾患を有する者です。


<今日のまとめ>

障害にはさまざまなものがあります。

定義を間違いなく,理解していくのは,とても大変だと思いますが,ポイントを押さえましょう。


<社会的障壁が定義に含まれるもの>
障害者基本法の障害者(障害者差別解消法・障害者優先調達推進法) 
 ※この3法は定義がまったく一緒です。
知的障害者福祉法の発達障害者

<障害者手帳の交付が条件になっているもの>
身体障害者


同じところ,違うところに着目することで,効率よく覚えることができて,さらには間違いにくくなります。



2018年8月23日木曜日

障害者虐待防止法の徹底理解

2006年に国連で採択された「障害者権利条約」に日本が批准したのは2014年のことです。

世界人権宣言や障害者の権利宣言に代表される「〇〇宣言」は,国連が世界各国に呼びかける程度のものであり,法的拘束力を持ちません。

しかし,条約や規約は法的拘束力を持つため,それらに規定された内容に違反する施策があった場合は,国連に報告されてペナルティを受けることになります。

そのために日本は,採択された2007年に署名したものの国内法を整備しながら,2014年にようやく批准することになったのです。

この間,整備された国内法は・・・

障害者基本法改正(2011)
障害者虐待防止法(2011)
障害者総合支援法(2012)
障害者差別解消法(2013)
障害者雇用促進法改正(2013)
障害者優先調達推進法(2014) → 成立したのは批准後

障害者権利条約の批准に向けて,障害者施策が大きく動いたことが分かるでしょう。

さて,今回取り上げるのは,このうちの障害者虐待防止法です。

障害者の定義は,障害者基本法と同じです。

日本には虐待防止に関する法制度は,児童虐待防止法(以下,児),高齢者虐待防止法(以下,高),障害者虐待防止法(以下,障),そしてDV防止法があります。

DV防止法はちょっと趣きが他法とは違うので,虐待防止3法というとらえ方をして良いと思います。

今回は,3法を比較検討してみます。


虐待の種類

(高・障) 「身体的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」の5つ。

(児) 「身体的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」「性的虐待」の4つ。


虐待の定義

(児) 保護者(親権を行う者,未成年後見人その他児童を現に監護する者)によるもの。

(高) 養護者によるもの&養介護施設従事者等によるもの

(障) 養護者によるもの&障害者福祉施設従事者等によるもの&使用者によるもの。



虐待を発見した時の対応

(児) 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は,速やかに,これを市町村,都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村,都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。

(高) 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は,当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は,速やかに,これを市町村に通報しなければならない。養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は,速やかに,これを市町村に通報するよう努めなければならない。

(障) 「養護者」による障害者虐待(十八歳未満の障害者について行われるものを除く)を受けたと思われる障害者を発見した者は,速やかに,これを市町村に通報しなければならない。

「障害者福祉施設従事者等」による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は,速やかに,これを市町村に通報しなければならない。

「使用者」による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は,速やかに,これを市町村又は都道府県に通報しなければならない。


通報等を受けた場合の措置

(児) 市町村又は都道府県の設置する福祉事務所が通告を受けたときは,市町村又は福祉事務所の長は,必要に応じ近隣住民,学校の教職員,児童福祉施設の職員その他の者の協力を得つつ,当該児童との面会その他の当該児童の安全の確認を行うための措置を講ずるとともに,必要に応じ一時保護等の措置を採る。

(高) 市町村は養護者による高齢者虐待を受けた旨の届出を受けたときは,速やかに,当該高齢者の安全の確認その他当該通報又は届出に係る事実の確認のための措置を講ずるとともに,当該市町村と連携協力する者「高齢者虐待対応協力者」という)とその対応について協議を行う。

(障) 
(養護者による虐待)
市町村は,通報又は障害者からの養護者による障害者虐待を受けた旨の届出を受けたときは,速やかに,当該障害者の安全の確認その他当該通報又は届出に係る事実の確認のための措置を講ずるとともに,当該市町村と連携協力する者(「市町村障害者虐待対応協力者」という)とその対応について協議を行う。

(障害者福祉施設従事者等による虐待)
市町村が通報若しくは届出を受け,又は都道府県が報告を受けたときは,市町村長又は都道府県知事は,障害者福祉施設の業務又は障害福祉サービス事業等の適正な運営を確保,社会福祉法,障害者総合支援法による権限を行使する。

(使用者による虐待)
市町村は,通報又は届出を受けたときは,厚生労働省令で定めるところにより,当該通報又は届出に係る使用者による障害者虐待に関する事項を,当該使用者による障害者虐待に係る事業所の所在地の都道府県に通知しなければならない。

都道府県は,通報,届出,通知を受けたときは,使用者による障害者虐待に関する事項を,都道府県労働局に報告しなければならない。


3法を比べてみると,障害者虐待防止法が少し複雑になっていることが分かります。

これは,障害者の状況がいろいろあることを物語っています。

特に特徴的なのは,使用者による虐待があることでしょう。そのため,都道府県は都道府県労働局に報告義務があります。


それでは,今日の問題です。

第25回・問題62 「障害者虐待の防止,障害者の養護者に対する支援等に関する法律」に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 市町村長は,毎年度,障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の状況,虐待があった場合に採った措置等を公表しなければならない。

2 養護者による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は,速やかに,市町村に通報しなければならない。

3 市町村障害者虐待防止センターの長は,精神障害者,知的障害者に対する後見開始等の審判の請求をすることができる。

4 都道府県及び都道府県障害者権利擁護センターは,使用者による障害者虐待の通報を受けたときは,公共職業安定所(ハローワーク)に報告しなければならない。

5 地域の住民による虐待は,この法律における障害者虐待に当たる。


答えは,すぐ選択肢2だと分かるでしょう。

なぜなら発見者は,通報義務があるからです。

注意すべき点は「虐待を受けたと思われる」になっているところです。

虐待の事実があるかどうかではなく,疑われる場合に通報義務があります。

それでは解説です。


1 市町村長は,毎年度,障害者福祉施設従事者等による障害者虐待の状況,虐待があった場合に採った措置等を公表しなければならない。

公表するのは,都道府県知事です。よって間違いです。


2 養護者による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は,速やかに,市町村に通報しなければならない。

これが正解です。


3 市町村障害者虐待防止センターの長は,精神障害者,知的障害者に対する後見開始等の審判の請求をすることができる。

後見開始の申立て権者は,「本人」「配偶者」「四親等以内の親族」「検察官」等です。よって間違いです。


4 都道府県及び都道府県障害者権利擁護センターは,使用者による障害者虐待の通報を受けたときは,公共職業安定所(ハローワーク)に報告しなければならない。

使用者による虐待の通報先は,都道府県労働局です。よって間違いです。


5 地域の住民による虐待は,この法律における障害者虐待に当たる。

障害者虐待防止の定義は,養護者によるもの&障害者福祉施設従事者等によるもの&使用者によるものです。地域住民による虐待は障害者虐待には当たりません。

よって間違いです。

2018年8月22日水曜日

障害者基本法の徹底理解~その2

試験センターが発表する出題基準が示している法制度は「児童と家庭に対する支援と児童・家庭福祉制度」は11で多いですが,「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」も同じように11の法律が示されています。

出題基準の範囲をしっかり押さえていくことが合格に欠かせない勉強法となります。

出題基準で示されている法制度

・障害者総合支援法
・身体障害者福祉法
・知的障害者福祉法
・精神保健福祉法
・児童福祉法(障害児支援関係)
・発達障害者支援法
・障害者基本法
・障害者虐待防止法
・医療観察法
・バリアフリー法
・障害者雇用促進法


歴史や人名を覚えるのが苦手

という受験生は多いですが,歴史や人名は出題されても1科目1問程度です。

そこに時間をかけすぎて,本来しっかり覚えなければならず,そして分量が多い法制度にかける時間が足りなくなる,というのは絶対に避けなければなりません。


障害者に対する支援と障害者自立支援法は実に11もの法制度が示されています。

その中でも最もボリュームのあるものは,障害者総合支援法です。障害福祉サービスを規定しているので覚える分量も出題される分量も多くあります。


前回から取り上げている障害者基本法は,障害者施策の方向性を定めるものです。

低所得者,児童,地域,などの分野論の法律も理念を定めていますが,それぞれの施策の方向性を示す基本法があるのは,障害者だけです。

障害者施策はそれだけ多岐にわたるものだと言えるでしょう。

地域も地域共生社会を標榜するなら,本当は内閣府が所管するような基本法があってしかるべきところです。

地域共生社会を実現するためには,厚生労働省の範疇では収まらないように思ったりもしています。

内閣府が所管する法律には,子ども・子育て支援法もあります。

子ども・子育て支援も厚生労働行政のみではうまく進まないからでしょう。

さて,障害者基本法は,出題基準でも最後のほうに示されているので地味な印象がありますが,障害者施策を下で支える重要な位置づけとなっています。


国試では,障害者基本法単体の出題は多くはありませんが,この科目で得点力を上げるためには,法律の性格を知っておくことが大切です。

そうすると知らない内容が出題されても慌てることなく,落ち着いて問題に取り組むことができます。

それでは今日の問題です。


第28回・問題62 現行の障害者基本法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 社会的障壁の除去について規定されている。

2 中央心身障害者対策協議会を置くことが規定されている。

3 市町村の行う地域生活支援事業について規定されている。

4 心身障害者本人に対する自立への努力について規定されている。

5 市町村障害者計画の策定は,市町村の判断に委ねると規定されている。

障害者基本法の性格を押さえている良い問題だと思います。

さて,解説です。


1 社会的障壁の除去について規定されている。

障害者基本法は,1993年に成立し,2004年と2011年に改正されています。

2004年改正では,障害者差別の禁止が盛り込まれたことが特徴です。

2011年改正では,障害者権利条約の批准に向けて合理的配慮が盛り込まれたことが特徴です。
社会的障壁の除去は,2011年改正によって加わったものです。よって正解です。
社会的障壁(いわゆるバリア)の除去のために合理的配慮が必要なのです。


2 中央心身障害者対策協議会を置くことが規定されている。

心身障害者対策という名称で心身障害者対策基本法の時代のものでありそうな感じがすると思います。その通りです。

現在は,障害者政策委員会と名称が変わっています。

この委員会は,障害者施策の推進を監視するために内閣府に置かれています。


3 市町村の行う地域生活支援事業について規定されている。

実際の事業は,理念法である障害者基本法には示されていません。

よって間違いです。

障害者総合支援法に示されています。


4 心身障害者本人に対する自立への努力について規定されている。

これは前回の問題と同じです。

今は削除されている事項です。

よって間違いです。


5 市町村障害者計画の策定は,市町村の判断に委ねると規定されている。

障害者計画は,策定義務があります。よって間違いです。


<今日の一言>

今日の問題は,実に端的にまとめた問題だと思います。

まず余計な言い回しは一切ありません。言い回しで煙に巻くような試験ではなくなっていることがよく分かるでしょう。そして障害者基本法の性格がしっかり分かるものとなっています。


知っている人は解ける

知らない人は解けない

勉強した人も解けないような問題もありますが,それらは勉強していない人も解けません。


別な言い方をすると,言い回しで煙に巻くような問題は,文章に破たんをきたすことがあるので,勘の良い人は,勉強が足りなくても解けてしまいます。

今は,国語的に解ける問題はほとんどなくなっていると言っても良いと思います。

合格に必要なことは,出題基準に沿ってしっかり学んでいくことです。

試験委員は,第30回と第31回ではほとんど入れ替わっていないので,今の路線が大きく変わることはないと考えて良いです。

2018年8月21日火曜日

障害者基本法の徹底理解

今回は障害者基本法を学びます。

障害者基本法は,1970年・昭和45年に心身障害者対策基本法として成立したものを1993年・平成5年に改正したものです。

障害者基本法は,その名のとおり,障害者施策に関する理念法です。

そのため細かい施策は他法で定めているため,障害者基本法はわずか36条からなるものとなっています。


障害者基本法のポイント

・目的は「障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進すること」。

・所管は内閣府(厚生労働省ではない)。

ここで分かることは,自立と社会参加支援であることから,障害者施策は多岐にわたり,厚生労働省の所管ではなく,各省庁を通したものとして想定されているということです。

実際に近年成立の障害者優先調達推進法は,自治体に対する努力義務を課していることから,地方自治に踏み込むため,総務省の協力なしには進まないことになります。

バリアフリー新法は国土交通省,といったように関係各省庁との連携によって,自立と社会参加が実現します。

ほかにも選挙への配慮,防災・防犯,消費者としての保護,国際協調など,社会保障の一環として,給付,あるいは福祉サービスの提供によってニーズ充足する厚生労働省の範疇をはるかに超えます。

そのため内閣府に「障害者政策委員会」が置かれて,障害者基本計画の実施状況を監視させています。

さて,それでは今日の問題です。


第22回・問題135 障害者基本法に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 国及び地方公共団体の責務規定として,障害者の福祉を増進し,及び障害を予防することが定められている。

2 都道府県及び市町村は,それぞれ都道府県障害者計画又は市町村障害者計画を策定するよう努めることとされている。

3 国及び地方公共団体は,「障害者の日」の趣旨にふさわしい事業を実施するよう努めなければならない。

4 自立への努力として,障害者は,その有する能力を活用することにより,進んで社会経済活動に参加するよう努めなければならない,と規定されている。

5 国及び地方公共団体は,障害のある児童及び生徒と障害のない児童及び生徒との交流及び共同学習を積極的に進めることによって,その相互理解を促進しなければならない。


1993年に作られた障害者基本法は,2004年と2011年に大きな改正がなされています。


それでは解説です。


1 国及び地方公共団体の責務規定として,障害者の福祉を増進し,及び障害を予防することが定められている。

「障害者の福祉を増進し,及び障害を予防すること」は,2004年改正以前のものです。現在は,
障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に実施する責務を有する。

と変更されています。よって間違いです。

以前のものは覚える必要はありません。今のものを覚えておけば,間違いだと分かるからです。

2 都道府県及び市町村は,それぞれ都道府県障害者計画又は市町村障害者計画を策定するよう努めることとされている。

障害者計画は,都道府県・市町村ともに策定義務があります。よって間違いです。


3 国及び地方公共団体は,「障害者の日」の趣旨にふさわしい事業を実施するよう努めなければならない。

障害者の日ではなく,障害者週間です。よって間違いです。


4 自立への努力として,障害者は,その有する能力を活用することにより,進んで社会経済活動に参加するよう努めなければならない,と規定されている。

現在はこの規定はありません。よって間違いです。


5 国及び地方公共団体は,障害のある児童及び生徒と障害のない児童及び生徒との交流及び共同学習を積極的に進めることによって,その相互理解を促進しなければならない。

これが正解です。このような規定はいかにも理念法である障害者基本法らしいです。

教育は文部科学省の管轄になります。

2018年8月20日月曜日

発達障害者支援法の徹底理解

今回は,発達障害者支援法を紹介します。

同法が成立したのは,平成16(2008)年なので,障害者関連では比較的新しい法律です。

日本の障害者の法律は,障害種別で発展してきたことは今まで紹介してきたとおりですが,発達障害について,認識されたのは比較的最近であることが分かります。

そのため,社会福祉士の国試でも,発達障害,特に自閉症,学習障害に対する正しい認識を広げるために,これらは,環境,つまり育て方の問題ではなく,脳機能の障害である,ということを何度も何度も繰り返して出題されてきています。


さて,発達障害者支援法です。

発達障害者は,障害者総合支援法では,精神障害者(発達障害者を含む)と規定されています。

そのため,発達障害者は障害者総合支援法が規定する障害福祉サービスを利用することができます。

発達障害者支援法は,サービスを規定するものではなく,就労支援,発達障害に対する正しい理解の普及などを目的としています。


発達障害とは
自閉症,アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害,学習障害,注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。

発達障害とは「脳機能の障害」だと明記されています。

DSM-5では,アスペルガー症候群という診断名はなくなり,自閉症スペクトラム障害となりましたが,同法ではそのままアスペルガー症候群が使われています。


発達障害者とは
発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるもの。

社会的障壁は,平成28年改正で加わったものです。


発達支援とは
発達障害者に対し,その心理機能の適正な発達を支援し,及び円滑な社会生活を促進するため行う個々の発達障害者の特性に対応した医療的,福祉的及び教育的援助。


同法で,重要な役割を果たしているのが,発達障害者支援センターです。


発達障害者支援センターの業務
一 発達障害の早期発見,早期の発達支援等に資するよう,発達障害者及びその家族その他の関係者に対し,専門的に,その相談に応じ,又は情報の提供若しくは助言を行うこと。

二 発達障害者に対し,専門的な発達支援及び就労の支援を行うこと。

三 医療,保健,福祉,教育,労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体並びにこれに従事する者に対し発達障害についての情報の提供及び研修を行うこと。

四 発達障害に関して,医療,保健,福祉,教育,労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体との連絡調整を行うこと。


発達障害者本人,あるいは家族に対する相談・助言とともに,就労支援,従事者研修,連絡調整など,活動は広範囲にわたります。

設置は都道府県が自ら行うか,センターを指定します。

従事者研修を行うことが含まれているので市町村の範疇ではないことが分かります。

発達障害者支援センターの設置は,都道府県の役割ですが,市町村の役割は多岐にわたります。


発達障害者支援法における市町村の役割

早期の発見
健康診査を実施する際に,早期発見に留意する。

早期の発達支援
発達障害児の保護者の相談,支援センター等の紹介,助言。

保育
発達障害児の健全な発達が他の児童と共に生活することを通じて図られるよう適切な配慮をする。


教育(国,都道府県を含む)
特性を踏まえた十分な教育を受けられるようにするため,可能な限り発達障害児が発達障害児でない児童と共に教育を受けられるよう配慮する。


就労支援(都道府県を含む)
発達障害者が就労のための準備を適切に行えるようにするための支援が学校において行われるよう必要な措置を講じる。


それでは今日の問題です。


第22回・問題134 発達障害者支援法に関する次の記述のち,正しいものを一つ選びなさい。

1 発達障害とは,環境との相互作用によって生じる障害であって,その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものである。

2 市町村は,発達障害者の就労を支援するため必要な体制の整備に努めるとともに,公共職業安定所等の相互の連携を確保しつつ,発達障害者の特性に応じた適切な就労の機会を確保しなければならない。

3 市町村は,発達障害者への相談支援,就労支援,発達支援等を行う発達障害者支援センターを設置しなければならない。

4 市町村は,保育の実施に当たっては,発達障害児の健全な発達が他の児童と共に生活することを通じて図られるよう適切な配慮をするものとする。

5 発達支援とは,発達障害者に対し,その発達障害の特性に相応した心理的援助を行うことをいう。 


実は,発達障害者支援法が,一問まるごと出題されたのは,この時の一回きりです。

それでは解説です。


1 発達障害とは,環境との相互作用によって生じる障害であって,その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものである。

発達障害は「脳機能の障害」です。

育て方が悪いと言われてどれだけのお母さんが辛い思いをしてきたことでしょうか。

「脳機能の障害」です。「環境との相互作用」ではありません。

もう一度言います。

発達障害は「脳機能の障害」です。


2 市町村は,発達障害者の就労を支援するため必要な体制の整備に努めるとともに,公共職業安定所等の相互の連携を確保しつつ,発達障害者の特性に応じた適切な就労の機会を確保しなければならない。

市町村も就労の支援を行いますが,他の制度でも同様ですが,

体制の整備や確保といったものは,市町村の役割ではなく,国か都道府県の役割です。

しっかり覚えておきましょう。

もちろん,この設問も間違いです。国及び都道府県の役割です。

制度は違っても,国,都道府県,市町村の役割はほとんど共通です。

そこが理解できると得点力は格段に上がります。


3 市町村は,発達障害者への相談支援,就労支援,発達支援等を行う発達障害者支援センターを設置しなければならない。

発達障害者支援センターを設置するのは,都道府県です。

しかし,必置ではなく,任意設置です。

よって間違いです。


4 市町村は,保育の実施に当たっては,発達障害児の健全な発達が他の児童と共に生活することを通じて図られるよう適切な配慮をするものとする。

これが正解です。

制度を知っていれば,すぐ正解にできるものだと思います。


5 発達支援とは,発達障害者に対し,その発達障害の特性に相応した心理的援助を行うことをいう。


発達支援とは
発達障害者に対し,その心理機能の適正な発達を支援し,及び円滑な社会生活を促進するため行う個々の発達障害者の特性に対応した医療的,福祉的及び教育的援助

心理的援助は含まれていません。よって間違いです。


発達障害者支援法の出題は少ないですが,条文はたった25条しかありません。

そのため,出題ポイントは極めて限定されるせっかくなのでしっかり押さえておきたいです。

2018年8月19日日曜日

児童福祉法に規定される障害児支援の徹底理解~その3

児童福祉法に規定される障害者支援の徹底理解の最終回です。

少しは理解が進んできたでしょうか。

覚えるポイント
障害児通所支援と障害児入所支援を整理すること

まだ整理が十分ではないという方は,前回と前々回を復習しましょう。

https://fukufuku21.blogspot.com/2018/08/blog-post_17.html

https://fukufuku21.blogspot.com/2018/08/blog-post_18.html



それでは,早速今日の問題です。


第27回・問題61 児童福祉法における障害児支援に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 児童発達支援は,肢体不自由のある児童を通わせ,医療などのサービスを提供することをいう。

2 保育所等訪問支援の目的は,障害が疑われる児童の早期発見である。

3 放課後等デイサービスは,障害児の生活能力の向上のために必要な訓練,社会との交流の促進などを図るためのサービスを提供することをいう。

4 福祉型障害児入所施設は,医療の提供が必要な障害児を対象としている。

5 児童発達支援センターには,福祉型児童発達支援センター,医療型児童発達支援センター,発達障害者支援センターの三つがある。


知識ゼロで正誤が判断できそうなものは,選択肢4くらいでしょうか。福祉型と言いながら医療となっているからです。

それ以外は知識ゼロでは分からないのではないでしょうか。

知識がある人と知識がない人ではこのような問題でどんどん差がついていきます。

それでは解説です。


1 児童発達支援は,肢体不自由のある児童を通わせ,医療などのサービスを提供することをいう。

肢体不自由児に対する医療を含めた通所サービスは,医療型児童発達支援です。

よって間違いです。児童発達支援は,通所で日常生活の基本動作の指導,知識技能の付与,集団生活への適応訓練などを行います。

医療型児童発達支援は,これに医療が加わります。


2 保育所等訪問支援の目的は,障害が疑われる児童の早期発見である。

保育所等訪問支援は,障害児が通所している保育所等を訪問して,障害児以外の児童との集団生活に適応するための支援を実施します。

2018年改正では,訪問先に乳児院と児童養護施設が追加されています。

障害の早期発見ではありません。よって間違いです。


3 放課後等デイサービスは,障害児の生活能力の向上のために必要な訓練,社会との交流の促進などを図るためのサービスを提供することをいう。

「放課後や休日に」という条件は省かれていますが,これが正解です。

放課後等デイサービスとは,放課後や休日に,生活能力向上のための訓練,社会交流の促進などを行います。


4 福祉型障害児入所施設は,医療の提供が必要な障害児を対象としている。

福祉型障害児入所施設は,入所して日常生活の基本動作の指導,知識技能の付与,集団生活への適応訓練などを行います。よって間違いです。

医療の提供が必要な障害児を対象としているのは,医療型障害児入所施設です。


5 児童発達支援センターには,福祉型児童発達支援センター,医療型児童発達支援センター,発達障害者支援センターの三つがある。

児童発達支援センターは,児童発達支援の福祉型児童発達支援センターと医療型児童発達支援の医療型児童発達支援センターの2つがあります。

発達障害者支援センターは,発達障害者支援法に基づくセンターです。児童発達支援センターではありません。よって間違いです。

ずいぶん上手にまとめた問題だと思います。

発達障害者支援センターは,発達障害者・家族に対する相談・助言,就労支援。そして関係機関や団体の従事者に対する情報提供,研修などを行います。

研修を行うというところから想像がつくと思いますが,設置するのは市町村ではありません。市町村は専門職に対する研修等は実施しないからです。

設置しているのは,都道府県(及び指定都市)はセンターを指定するか,自ら運営します。

ただし必置ではありません。

2018年8月18日土曜日

児童福祉法に規定される障害児支援の徹底理解~その2

今回も障害児支援を続けます。

前回のものですが,念のために確認しておきましょう。

児童福祉法に規定される障害児支援の徹底理解
https://fukufuku21.blogspot.com/2018/08/blog-post_17.html

https://fukufuku21.blogspot.com/2018/08/blog-post_18.html

それでは今日の問題です。

第26回・問題61改 2012年(平成24年)に改正された児童福祉法に基づく障害児サービスの再編に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。(現在の制度に合わせて一部改変)

1 障害児入所支援費は,市町村に支給申請をすることとなった。

2 児童心理治療施設の入所サービスは,障害児入所支援となった。

3 肢体不自由児通園施設の通所サービスは,障害児通所支援となった。

4 放課後等デイサービスは,児童デイサービスとなった。

5 第一種自閉症児施設の入所サービスは,医療型児童発達支援となった。


この科目は,ちょっとマニアックな問題があるのが特徴です。

7問科目にしては少々細かいところをついてきたように感じますが,基本を押さえれば何とかなります。

それでは,解説です。


1 障害児入所支援費は,市町村に支給申請をすることとなった。

障害児通所支援 → 市町村

障害児入所支援 → 都道府県

これは変わっていません。よって間違いです。

入所は,何度も同じことを書きますが,子どもを親から引き離すことを意味するので,高度な判断が必要なのです。

市町村の体力ではそこまで担うことができないのが現実です。


2 児童心理治療施設の入所サービスは,障害児入所支援となった。

出題当時は,児童心理治療施設は情緒障害児短期治療施設という名称でした。

情緒障害は,医学用語ではなく行政用語です。

つまり法律上の障害児ではありません。

そのため児童福祉法改正でも,児童心理治療施設はそのまま児童心理治療施設です。

それよりも,児童心理治療施設は通所あるいは入所で情緒障害を治療するものなので,障害児通所支援,障害児入所支援には位置づけられるはずがないのです。

よって間違いです。


3 肢体不自由児通園施設の通所サービスは,障害児通所支援となった。

これが正解です。通所系サービスは。障害児通所支援となっています。

おそらく今後は「旧制度は何であったのか」という細かい出題はしてこないと思います。

この出題当時は,まだ旧制度を知っている受験者がいたと思いますが,今はもうそんな人は少ないからです。


4 放課後等デイサービスは,児童デイサービスとなった。

児童デイサービスは,障害者自立支援法に規定されていたサービスです。

2012年の児童福祉法改正に伴い廃止されて,児童福祉法に基づく障害児通所支援の放課後等デイサービス等に再編されています。よって間違いです。

5 第一種自閉症児施設の入所サービスは,医療型児童発達支援となった。

これは,制度を知らない人は絶対に分からないものでしょう。

児童発達支援は,通所サービスです。

その時点で,間違いだと分かるでしょう。よって間違いです。

覚える必要はありませんが,第一種自閉症児施設の入所サービスは,障害児入所支援のうちの医療型障害児入所支援に再編されています。

第二種自閉症児施設は,福祉型障害児入所支援に再編されています。

ここまでは覚えることは必要ありません。


それよりもしっかり押さえておかなければならないのはこれです。

児童発達支援=通所

これが本当に大切です。

整理ポイントの第一番目に位置するものです。


<今日のまとめ>

障害児支援は,

障害児通所支援と障害児入所支援に整理されています。

児童発達支援は,分かりにくいかもしれませんが,障害児通所支援です。

児童発達支援=通所

これは絶対に押さえておいていただきたいポイントです。

2018年8月17日金曜日

児童福祉法に規定される障害児支援の徹底理解

今回から3回にわたって,障害児に対する支援をご紹介していきます。

障害児の支援は,児童福祉法に規定されています。

そのために,18歳以上の知的障害者のために1960年に精神薄弱者福祉法(現・知的障害者福祉法)が作られたのでしたね。

https://fukufuku21.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html

障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)にも,かつて児童を対象としたサービスがありました。

それは児童デイサービスです。

障害児支援が大きく変わった2012年の児童福祉法改正の際に,児童デイサービスは廃止されて,新たに児童福祉法で放課後等デイサービスに改変されています。

障害児支援も成人と同じように障害別に発展してきましたが,このこの改正では障害別を廃止して,一元化されました。

2018年にまた改正があり,医療を必要とする児童のケアに関して改正されています。

障害児支援を押さえていきましょう。

2012年の改正で,

障害児通所支援と障害児入所支援

の2つに再編されています。

障害児通所支援は,市町村が支給決定します。

障害児入所支援は,都道府県が支給決定します。

この違いは,児童の入所は親から切り離されることになるため,極めて高度な判断が求められるために,都道府県の役割なのです。

さて,まずは障害児通所支援からです。

障害児通所支援
・児童発達支援
・医療型児童発達支援
・居宅訪問型児童発達支援(2018年に加わったもの)
・放課後等デイサービス
・保育所等訪問支援

この5つです。

数があるものは数も一緒に覚えておくと,問題を解きやすくなります。


児童発達支援とは,通所で日常生活の基本動作の指導,知識技能の付与,集団生活への適応訓練などを行います。医療型はこれに治療が加わります。

医療型児童発達支援とは,肢体不自由児に対して,通所で児童発達支援と治療を行います。

居宅訪問型児童発達支援とは,通所できない児童の家に訪問して児童発達支援を行うものです。

放課後等デイサービスとは,放課後や休日に,生活能力向上のための訓練,社会交流の促進などを行います。

保育所等訪問支援とは,障害児が利用している保育所等を訪問して,障害児以外の児童との集団生活への適応のための専門的支援を実施します。

2018年改正では,訪問先に乳児院と児童養護施設が追加されています。


障害児通所支援は以上です。旧制度では「児童デイサービス」「知的障害児通園施設」「難聴幼児通園施設」「肢体不自由児通園施設」「重症心身障害児通園事業」だったものです。これから整理されて児童通所支援に再編されました。


障害児通所支援を利用する場合は,障害児相談支援(ケアマネジメント)を利用できます。

障害児入所支援を利用する場合は,障害児相談支援は利用しません。

先述のように児童の入所は高度な判断が求められるからです。


さて,次は障害児入所支援です。

障害児入所支援
福祉型障害児入所支援と医療型障害児入所支援があります。

入所して日常生活の基本動作の指導,知識技能の付与,集団生活への適応訓練などを行います。医療型はこれに治療が加わります。



<覚え方ポイント>

児童発達支援という名称は,障害児通所支援の名称です。

児童発達支援は通所サービスであるにもかかわらず,「入所」といった文言があった場合は,即刻消去できます。

児童発達支援=通所

これをしっかり頭に叩き込みまょう!!

児童発達支援という名称には通所も入所もイメージできる言葉が含まれていないので,こういったところが国試ではねらわれるポイントとなります。


それでは,ようやく今日の問題です。

第25回・問題61 児童福祉法における障害児支援サービスに関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。(一部改変)

1 この法律で,障害児とは,身体に障害のある児童又は知的障害のある児童をいう。

2 放課後等デイサービスは,就学している障害児につき,放課後又は休業日に主に見守りの支援を行うものである。

3 障害児通所支援とは,放課後等デイサービス,児童発達支援,医療型児童発達支援のことをいう。

4 保育所等訪問支援は,障害児の指導に経験のある保育士等が保育所等を訪問して,障害児以外の児童との集団生活への適応のための専門的な支援等を行うものである。

5 障害児相談支援とは,障害児入所施設への入所の相談に応じて障害児支援利用計画を作成することをいう。


苦手意識があると難しく感じると思いますが,整理して押さえておけば何とかなります。

それでは解説です。


1 この法律で,障害児とは,身体に障害のある児童又は知的障害のある児童をいう。

いきなり定義で,びっくりした人もいるでしょう。

正解は何かはすぐ分からなくても,間違いだとは何となく分かるのではないでしょうか。発達障害がない,と思えるからです。

もちろん間違いです。

身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む),難病等がその範囲です。


2 放課後等デイサービスは,就学している障害児につき,放課後又は休業日に主に見守りの支援を行うものである。

放課後等デイサービスは,見守り支援ではありません。

就学している障害児につき,放課後又は休業日に主に生活能力向上のための訓練,社会交流の促進などを行います。よって間違いです。


3 障害児通所支援とは,放課後等デイサービス,児童発達支援,医療型児童発達支援のことをいう。

障害児通所支援は,5つの種類がありました。

この3つのほかに,保育所等訪問支援と居宅型児童発達支援が加わります。

よって間違いです。


4 保育所等訪問支援は,障害児の指導に経験のある保育士等が保育所等を訪問して,障害児以外の児童との集団生活への適応のための専門的な支援等を行うものである。

これが正解です。

2018年改正で,保育所等訪問支援の訪問先には,乳児院と児童養護施設が加わっています。


5 障害児相談支援とは,障害児入所施設への入所の相談に応じて障害児支援利用計画を作成することをいう。

障害児相談支援は,障害児通所支援を行う場合に利用するケアマネジメントです。障害児入所支援では利用しません。よって間違いです。

障害児入所支援の場合に利用しないのは,障害児の入所は親から引き離すことを意味するので,極めて高度な判断が求められるからです。



<今日のまとめ>

以下,ポイントをもう一度まとめます。


障害児支援

障害児の支援に関するものは,児童福祉法に規定されます。

障害児通所支援と障害児入所支援に分けられます。



障害児通所支援

障害児通所支援には5つの種類があります。

①児童発達支援

②医療型児童発達支援

③居宅型児童発達支援

④放課後等デイサービス

⑤保育所等訪問支援



障害児入所支援

障害児入所支援には2つの種類があります。

①福祉型障害児入所施設

②医療型障害児入所施設



障害児相談支援

障害児相談支援は,障害児通所支援を利用する場合に利用します。

障害児入所支援を利用する場合は利用しません。

障害児入所支援では障害児相談支援を利用しない理由は,障害児の入所は高度な判断が求められるからです。


これだけはしっかり押さえておきましょう。

2018年8月16日木曜日

精神保健福祉法の徹底理解

今回は,精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)を学んでいきましょう。

精神保健福祉法の歴史をひもとくと,精神衛生法として成立し,精神保健法となり,そして精神保健福祉法となっています。

ここで流れを確認しておきましょう。

https://fukufuku21.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html


精神保健福祉法は学ぶべきポイントが多いわりに,精神保健福祉士とすみわけがなされているのか,実は社会福祉士の国試ではほとんど出題されたことがないのです。

その中で唯一一問出題されたのが今回取り上げる精神保健福祉法が規定する入院形態に関する問題です。

種類は4つあります。覚えるのは面倒ですが,第31回は出題されそうなので,一応押さえておきたいところです。


①任意入院
任意入院は,看護職員によって入院患者が殺された宇都宮病院事件によって,精神衛生法が精神保健法に改正されたときにできた制度です。

本人の同意で入院するものです。それまで本人の意思で入院するというものがなかったというのはちょっとびっくりですが,精神障害者に対する施策は,隔離だったということなのでしょう。

入院は自分の意思で行われるので,退院も自分の意思でできます。

しかし,悲しいですが退院制限というものがあります。

精神保健指定医が退院制限する場合は,72時間が限度です。

精神保健指定医ではない場合は,12時間が限度です。

退院制限があるのは,任意入院のみです。

任意入院以外は,医師の判断で退院の可否が決まるからです。


②医療保護入院
自傷他害の恐れはないものの入院が必要な時,本人の同意がなくても,家族等の同意で行う入院です。


③措置入院/緊急措置入院
措置入院は,自傷他害の恐れがある場合,都道府県知事の措置による入院です。

ただし簡単に措置入院が行われるものではありません。

精神保健指定医が2人以上で診察を行ったうえで,その診察結果が一致して初めて実施されます。

緊急措置入院は,ライシャワー駐日大使が精神障害者によって刺された事件によって,精神衛生法が改正されてできた制度です。

措置入院の一形態で,緊急を要する時に,精神保健指定医の診断は1人で措置入院を行うことができますが,入院時間は72時間が限度です。


④応急入院
応急入院は,精神保健法の成立によってできた制度です。

入院治療が必要な場合,本人や家族等の同意がなくても,精神保健指定医が必要性を認めることで行われる入院です。

精神保健指定医が診断した場合は72時間を限度,精神保健指定医ではない場合は,12時間が限度です。

さて,ここで整理しましょう。


任意入院と医療保護入院
 本人あるいは家族等の同意で行う入院です。


措置入院,緊急措置入院,応急入院
 本人あるいは家族の意思とは別に行われる入院です。


退院制限があるのは,任意入院のみ。


入院に時間の制限があるもの
 緊急措置入院,応急入院。


措置入院に時間の限度が設けられていない
 理由は,精神保健指定医2人の判断が一致した場合に行われるからです。


時間の限度を整理すると,

72時間と12時間しかありません。

24時間,36時間といったものが問題文の中に出てきたらすぐさま消去できます。


72時間・12時間法則は,入院も退院も共通

時間の限度を精神保健指定医とそれ以外という視点で整理すると,

精神保健指定医 → 72時間

それ以外 → 12時間



それでは今日の問題です。

第27回・問題60

事例を読んで,Gさんの入院に対する対応として,適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕
 Gさん(28歳)は精神障害があり家族はいない。過去に放火をしたため「医療観察法」による通院処遇を3年間受けて,2年前に裁判所から処遇終了の決定を受けている。現在は地域活動支援センターを利用している。最近,Gさんの状態が悪化したため,通院している精神科病院で精神保健指定医の診察を受けたところ,「自傷他害のおそれはないが入院が必要」と診断された。Gさんは入院に同意できる状態ではないが,後見人は入院に同意している。

1 「医療観察法」による鑑定入院の命令

2 「医療観察法」による入院処遇の決定

3 「精神保健福祉法」による措置入院

4 「精神保健福祉法」による医療保護入院

5 「精神保健福祉法」による応急入院


医療観察法は,「更生保護制度」で学びますが,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者を対象としたものです。

それでは解説です。


1 「医療観察法」による鑑定入院の命令

鑑定入院は,精神障害があるかどうか判断するために入院させるためのものです。医療観察法による処遇は終了しているので,当てはまりません。


2 「医療観察法」による入院処遇の決定

入院処遇は,鑑定したあとに入院させて治療するものです。選択肢1と同様に当てはまりません。


3 「精神保健福祉法」による措置入院

ここからが本番です。措置入院は,自傷他害の恐れがある場合,都道府県知事の措置によって行われる入院です。

この場合は,「自傷他害のおそれはない」という精神保健指定医が診断しているので当てはまりません。


4 「精神保健福祉法」による医療保護入院

 これが正解です。本人が同意できないときに,家族等の同意によって入院するものです。後見人は家族等に含まれます。


5 「精神保健福祉法」による応急入院

 本人や家族等の同意がなくても,精神保健指定医が必要性を認めることで行われる入院です。この場合は,後見人が同意しているので当てはまりません。


<今日のまとめ>

同意という視点で整理してみましょう。

任意入院 → 本人の同意で入院

医療保護入院 → 本人の同意がない時に,家族等の同意による入院


措置入院/緊急措置入院 → 自傷他害のおそれがあるために,同意に関係なく都道府県知事の措置による入院。


応急入院 → 同意に関係なく行われる入院。

措置入院(緊急措置入院)は,都道府県知事の措置によって入院する制度です。

しかし応急入院は,同意でもなく措置でもなく,12時間という時間制限はありますが,精神保健指定医でなくても,応急入院は行われます。


相模原事件から早2年。

試験に出題されるかどうかにかかわりなく,しっかり押さえておきたいところです。

2018年8月15日水曜日

知的障害者福祉法の徹底理解

知的障害者福祉法は,児童福祉法に規定される児童福祉施設に入所する児童が成人になっても利用できる施設の創設を目的に1960(昭和35)に精神薄弱者福祉法として成立したものです。

同法では,都道府県に対して,知的障害者更生相談所の設置を義務づけています。

知的障害者更生相談所は,専門的な知識及び技術を必要とする相談・指導業務,医学的・心理学的・職能的判定業務などを実施します。

また,療育手帳の判定・交付を行います。

市町村は,障害福祉サービスにかかる支給を決定する際,特に専門的な知見が必要な場合には知的障害者更生相談所に意見を求めます。市町村はその意見をもとに支給を決定します。

これらの仕組みは,身体障害者更生相談所と同じです。

まとめて押さえておきましょう。

それでは,今日の問題です。

第30回・問題62 知的障害者更生相談所の業務などに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 緊急時に知的障害者の一時保護を行う。

2 知的障害者の医学的,心理学的及び職能的判定を行う。

3 成年後見人の選任を行う。

4 社会福祉士を配置しなければならない。

5 精神保健福祉士を配置しなければならない。

答えは,選択肢2ですね。

ほかの選択肢はそんなに難しくないので,正解率は高かったのではないでしょうか。

問題の作られ方は第31回もおそらく一緒だと思いますが,間違い選択肢にはもう少し引っかかりそうな選択肢が配置されるはずです。

どんな問題であっても正解選択肢は奇をてらったものにはならないはずですから,基本を押さえれば,絶対に正解できます。

それでは,一応ほかの選択肢も見ていきましょう。


1 緊急時に知的障害者の一時保護を行う。

緊急時の一時保護が業務にあるのは,児童相談所です。よって間違いです。

児童相談所で実施する一時保護は原則2か月以内で実施されます。


3 成年後見人の選任を行う。

成年後見人の選任は,家庭裁判所の職権で行います。よって間違いです。

職権で選任した者は,職権で解任することができます。


4 社会福祉士を配置しなければならない。
5 精神保健福祉士を配置しなければならない。

知的障害者更生相談所に配置されるのは,知的障害者福祉司です。


<今日の一言>

知的障害者更生相談所と身体障害者更生相談所は,内容がそっくりです。どちらも巡回相談を行うのも同じです。

対象が知的障害者か身体障害者であるかの違いです。

ついでに身体障害者更生相談所も覚えてしまいましょう。

実際に,全国の自治体では半数以上が両更生相談所の所在地が一緒になっており,施策上も一体的になっているところが多いようです。

気を付けなければならないのは,身体障害者手帳は法で規定されているものであるのに対し,療育手帳は通知に基づいて交付されています。

その関係で,名称も判定基準も自治体によって違いがあります。

知的障害者福祉司と身体障害者福祉司の任用資格について述べて今日を締めくくりたいと思います。

社会福祉士は両福祉司の任用資格があり,実務経験がなくても社会福祉士であれば両福祉司に任用されます。

これは児童相談所に設置される児童福祉司も同様です。

三福祉司に社会福祉主事が任用されるためには,それぞれの福祉に関して2年間以上の実務経験が必要とされます。

社会福祉士が必置となっている基幹は現時点では介護保険法に規定される地域包括支援センターしかありませんが,実は任用に関しては,国家資格である社会福祉士はかなり高いところに位置付けされているのです。


※この投稿は本来,8/14に投稿予定だったものですが,都合により一日ずれました。

ご期待されていた方にはお詫びいたします。

2018年8月13日月曜日

身体障害者福祉法の徹底理解

我が国の障害者福祉は,障害別に分けて発展してきました。

身体障害者福祉法

精神薄弱者福祉法(現・知的障害者福祉法)

精神保健福祉法

の3つがあります。

さて,今回は身体障害者福祉法を押さえていきましょう。

まずは,各法における定義を整理してみましょう。

身体障害者
 身体上の障害がある18歳以上の者であって,都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けた者。

知的障害者
 規定なし。

精神障害者
 統合失調症,精神作用物質による急性中毒又はその依存症,知的障害,精神病質その他の精神疾患を有する者。


定義上,障害者手帳の交付を受けた者に限定しているのは,身体障害者福祉法のみです。

知的障害者には療育手帳,精神障害者には精神障害者保健福祉手帳がありますが,それらの交付を受けても受けなくても知的障害者は知的障害者,精神障害者は精神障害者であるのとは対照的です。

 これは,身体障害者福祉法は,職業的リハビリテーションを目的に成立したところにつながっています。

同法制定によって,身体障害者更生援護施設の設置が国に義務付けられました。

その時に規定された身体障害者更生援護施設には,①身体障害者更生指導施設,②中途失明者更生施設,③身体障害者収容授産施設,④義肢装具製作施設,⑤点字図書館,⑥点字出版施設,があります。

 身体障害者更生援護施設は,2006年改正によって,「身体障害者社会参加支援施設」と変更されて,現在は,身体障害者福祉センター,補装具製作施設,盲導犬訓練施設,視聴覚障害者情報提供施設となっています。


それでは今日の問題です。

【24-132改】 身体障害者福祉法に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。(現在の制度に合わせて,一部改変)

1 市町村は,援護の実施責任者の観点から,身体障害者の福祉に関する必要な情報の提供を当該市町村以外の一般相談支援事業者等に委託することはできない。

2 都道府県が設置する身体障害者更生相談所並びに市町村が設置する福祉事務所には,身体障害者福祉司を置かなければならない。

3 身体に障害のある15歳未満の者の保護者が身体障害者手帳の交付を受けた場合,本人が満15歳に達したときは,保護者は身体障害者手帳を都道府県知事に返還しなければならない。

4 身体障害者福祉法における障害の認定において,両眼の視野がそれぞれ20度以内のもので永続するものは視覚障害に該当する。

5 身体障害者社会参加支援施設とは,身体障害者福祉センター,補装具製作施設,盲導犬訓練施設及び視聴覚障害者情報提供施設をいう。


答えは,すぐわかることでしょう。

選択肢5が正解です。

身体障害者社会参加支援施設は,身体障害者福祉センター,補装具製作施設,盲導犬訓練施設,視聴覚障害者情報提供施設の4種類です。身体障害者福祉法が制定された時に国に設置が義務付けられた「身体障害者更生援護施設」が2006年改正で身体障害者社会参加支援施設と変更されています。

それでは他の選択肢も見ていきましょう。

1 市町村は,援護の実施責任者の観点から,身体障害者の福祉に関する必要な情報の提供を当該市町村以外の一般相談支援事業者等に委託することはできない。

委託することはできます。よって間違いです。

2 都道府県が設置する身体障害者更生相談所並びに市町村が設置する福祉事務所には,身体障害者福祉司を置かなければならない。

身体障害者福祉法によって身体障害者更生相談所は都道府県に設置が義務付けられています。そして身体障害者福祉司が配置されます。

市町村の設置する福祉事務所に身体障害者は任意設置です。

よって間違いです。

3 身体に障害のある15歳未満の者の保護者が身体障害者手帳の交付を受けた場合,本人が満15歳に達したときは,保護者は身体障害者手帳を都道府県知事に返還しなければならない。

障害児は,身体障害者手帳の交付がなくても児童福祉法によって障害児サービスを利用することができます。しかし,交付を受けると,割引サービスなどが受けられます。

そのため,障害児であっても交付を受けることができます。

15歳未満の場合は,保護者が手帳を保管しますが,15歳になると本人に渡さなければなりません。よって間違いです。

4 身体障害者福祉法における障害の認定において,両眼の視野がそれぞれ20度以内のもので永続するものは視覚障害に該当する。

障害認定では,両眼の視野がそれぞれ10度以内です。よって間違いです。



<今日の一言>

今日の問題は,全体に難しいです。

しかし,実は障害者に対する支援と障害者自立支援制度は,「障害者総合支援法」が中心であり,それらの法が独立して出題されたことはほとんどありません。

身体障害者福祉法 → 1問

知的障害者福祉法 → 1問

精神保健福祉法 → 1問

児童福祉法 → 3問

発達障害者支援法 → 1問

障害者基本法 → 2問

といった具合で,極めて出題が少ないことがわかると思います。

あとは,手帳に関する問題が2問

定義に関する問題が1問

基本は,障害者総合支援法

それ以外は,それほど掘り下げてこないので,基本ポイントをしっかり押さえておくことです。

必須のポイントは

定義と手帳です。

2018年8月12日日曜日

障害者総合支援法の徹底理解~相談支援~その2

今回も相談支援を続けます。

障害者の相談支援は,2種類あります。

覚えていれば,ものすごく単純なのです。しかし,逆にしっかり押さえないと混乱の元になります。

前回のものを読んでいない方は,ここで確認しておいてください。

https://fukufuku21.blogspot.com/2018/08/blog-post_11.html

さて,それでは改めて今日の問題です。

第29回・問題59 「障害者総合支援法」に規定されている特定相談支援事業として行うこととされているものを2つ選びなさい。

1 基本相談支援
2 障害児相談支援
3 地域移行支援
4 地域定着支援
5 計画相談支援

これが今の国試です。

知識ゼロなら,絶対に解けません。

日本語的に解ける,ということは絶対にありません。

今の国試問題は,文章的なほころびが出ないように,文章がどんどん短くなり,とうとう文章ではない問題が出題されるようになってきました。

知識がある人は解ける
知識がない人は解けない

日本語の言い回しでけむに巻くようなものはありません。

知識がある人は解ける
知識がない人は解けない

国試の正しい姿だと思っています。

今日の問題は,いかにも解ける人は解ける。
解けない人は解けない問題です。

答えは,選択肢1の基本相談支援と選択肢5の計画相談支援です。

選択肢2の障害児相談支援は,児童福祉法に規定され,指定障害児相談支援事業者が行います。

選択肢3と選択肢4は,指定一般相談支援事業者が行う地域相談支援です。


<今日のまとめ>

国家試験は,難しそうに感じているかもしれません。

実際に簡単な試験ではないことは確かです。

合格率が30%というのは,本当に厳しい数字です。

しかし,問題一つひとつを見ていくと,決して深い問い方はしていません。

得点するのに必要なことは,基本的なものを確実に,そしてしっかり押さえていくことです。

<相談支援で必要な知識>

地域相談支援 → 指定一般相談支援事業者 → 指定は都道府県

計画相談支援 → 指定特定相談支援事業者 → 指定は市町村

このほかに,児童福祉法に規定される障害児相談支援があります。

内容は計画相談支援とほぼ同じですが,計画相談支援は通所と入所を利用する場合,どちらも場合も利用するのに対し,障害児相談支援は,通所の場合のみ利用し,入所の場合は利用しない点です。

障害児の入所の場合は,親と離れることを意味するので,高度な判断が求められるので,児童相談所が行うためです。

市町村が指定する指定障害児相談支援事業者では,荷が重すぎます。

2018年8月11日土曜日

障害者総合支援法の徹底理解~相談支援

障害福祉サービスになじみがない人にとっては,障害者総合支援法は難しく感じることでしょう。

その中でも,相談支援は,介護保険制度と違って2本立てになっているために,しっかり整理することが求められます。

<相談支援事業>
地域相談支援 病院等に入院等をしている障害者の地域移行のための相談支援です。

計画相談支援 障害福祉サービス利用のためのケアマネジメントです。

このほかに児童福祉法に規定される障害児のケアマネジメントを行う障害児相談支援があります。

まずは,地域相談支援です。
もともとは,精神障害者の地域移行事業から始まったものです。
地域相談支援では
基本相談支援 
地域移行支援
地域定着支援
を行います。

それぞれは名称のまま内容です。基本相談支援は,基本的な相談支援,地域移行支援は,病院等に入院等をしている障害者が地域生活に移行するための相談支援,地域定着支援は,地域移行して地域で生活を送る障害者の地域生活を継続できるように支援します。
具体的な相談内容については,国試では出題されません。ぞれぞれの内容がわかっていれば対応できます。

ここからが混乱のもとになることです。

地域相談支援を行う事業者は,指定一般相談支援事業者です。

指定するのは,都道府県です。

歴史でみたように,ライシャワー事件をきっかけに,日本の精神障害者は施設収容が処遇の中心となりました。

精神障害者の地域移行は,障害者の権利を守るために重要ではあるものの,国にとってまたライシャワー事件のようなことが起きたら大変なことになります。

そこで,指定は市町村ではなく,都道府県が行っているというのが本音のところかと思います。

もう一度繰り返します。

地域相談支援 → 指定一般相談支援事業者 → 指定は都道府県

紙に書いて,トイレにでも貼っておきましょう。

さて,次は計画相談支援です。

計画相談支援は,
基本相談支援
サービス利用支援
継続サービス利用支援

基本相談支援は,地域相談支援と内容は同じです。
サービス利用支援は,ケアマネジメントです。
継続サービス利用支援は,モニタリングを行って,サービス等利用計画(ケアプラン)を見直します。

介護保険の居宅介護支援と違うのは,施設入所支援を利用しても,計画相談支援を行う点です。

介護保険は施設入所すると施設ケアマネがかかわり,居宅ケアマネの手から離れます。
障害者総合支援法の特徴がここに現れていると言えます。

というのは,日中活動と夜間サービスが分かれているのです。

施設入所である施設入所支援は,主に夜間にサービスを行うものであり,日中は,生活介護や就労支援サービスなど別なサービスを利用します。

そのため,施設入所支援を利用しても,ケアマネジメントを行う理由です。

さて,計画相談支援を行う事業者は,指定特定相談支援事業者です。
指定は市町村です。

地域計画支援が「一般相談支援」,計画相談支援が「特定相談支援事業」になっている理由は,地域計画支援事業が先に行われていたために,地域相談支援を「一般」にして,後からできた計画相談支援を「特定」にしたというものです。

計画相談支援はケアマネジメントです。介護保険のケアマネジメントを行う居宅介護支援も2018年から指定が市町村に移行されて,介護保険と障害福祉サービスのケアマネジメントを行う事業者の指定はどちらも市町村に統一されたことになります。覚えやすくなったと言えます。

さて,それでは今日の問題です。

第25回・問題57 障害者総合支援法のもとでの相談支援に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 支給決定プロセスにおいて,サービス等利用計画案は支給決定がなされた後に作成されるものである。

2 相談支援専門員は,指定計画相談支援においてサービス等利用計画を作成し,地域移行支援と地域定着支援を行う。

3 地域定着支援は,障害者支援施設に入所している障害者や精神科病院等に入院している精神障害者に対して,住居の確保や新生活の準備等について支援するものである。

4 相談支援専門員は,サービス利用支援においてサービス等利用計画を変更するとともに,関係者との連絡調整を行う。

5 基幹相談支援センターは,虐待防止等権利擁護のために必要な援助を行うことが期待されている。

難しいかもしれませんが,内容が分からなくても選択肢5が正解っぽく感じるはずです。

ここだけ文章が違っています。今の国試はこんなほころびはほとんどありませんから,内容をしっかり覚えておかなければ得点には絶対に結びつきません。

正解はもちろん選択肢5です。基幹相談支援センターは,市町村に任意設置の機関で,介護保険の地域包括支援センターと同様の役割があります。

さて。解説です。

1 支給決定プロセスにおいて,サービス等利用計画案は支給決定がなされた後に作成されるものである。

サービス等利用計画は,介護保険の居宅サービス計画です。

支給決定の前にサービス等利用計画案が作成されて,支給決定した後にサービス等利用計画が作成されます。よって間違いです。

2 相談支援専門員は,指定計画相談支援においてサービス等利用計画を作成し,地域移行支援と地域定着支援を行う。

計画相談支援では,サービス利用支援と継続サービス利用支援を行います。地域移行支援と地域定着支援を行うのは,地域相談支援です。よって間違いです。

3 地域定着支援は,障害者支援施設に入所している障害者や精神科病院等に入院している精神障害者に対して,住居の確保や新生活の準備等について支援するものである。

障害者支援施設に入所している障害者や精神科病院等に入院している精神障害者に対して,住居の確保や新生活の準備等について支援するのは,地域移行支援です。よって間違いです。

4 相談支援専門員は,サービス利用支援においてサービス等利用計画を変更するとともに,関係者との連絡調整を行う。

サービス等利用計画を変更するのは,継続サービス利用支援です。よって間違いです。

5 基幹相談支援センターは,虐待防止等権利擁護のために必要な援助を行うことが期待されている。

これが正解です。

どうでしたか。

内容が分かれば,難しそうであっても得点できます。

すべての問題は,こんな感じです。

決して尻込みすることなく,こつこつ頑張っていきましょう。

2018年8月10日金曜日

社会福祉士の国試に関する都市伝説(デマ)~その2

社会福祉士の国家試験の合格率は,第30回が高くなったとは言え,それでも30%程度です。

試験を実施している社会福祉振興・試験センターが今後どのように方針を変えるか分かりませんが,少なくても40%や50%も合格させるつもりはないだろうと思います。

つまり,同じ福祉の国家資格である介護福祉士や精神保健福祉士とは違うということです。

そこを押さえておくことは自分が合格するためにとても大切です。

さて,今日も国試にかかわる都市伝説を続けます。


3か月あれば合格できる

試験合格者によるアドバイスで最もありがたくないのは,これだと思っています。

チームfukufuku21は,このことについて何度か書いてきましたが,とても根強いものです。

試験勉強で大切なのは,かけた時間ではなく,どんな勉強をしたのかです。

3か月神話を鵜呑みにすると大変なことになります。


3年間の過去問を3回繰り返せば合格できる

「3か月で合格できる」よりは,少し具体的な方法論だと思います。

しかし,3年間の過去問を本当に丁寧に解けばよく分かりますが,繰り返し出題されているものは,ほんの一部です。数えたことはありませんが,3年間の問題で重なっているものは,5分の1もないでしょう。


50歳代の合格率は3%

国家試験センターは,合格者の年代別の割合は発表していますが,受験者の年代別の割合は発表していません。

つまり,年代別の合格率は分かりません。

ここに恣意的なものを感じるのです。

もしかすると,大学生が大半を占める20歳代の合格率よりも,それ以上の年代の方が合格率が高いのではないかと思うのです。

30歳代以上の受験者の多くは,一般養成施設で受験資格を得た人だと思います。

学校別の合格率が発表されていますが,全受験者の合格率よりも下回る大学は半分くらいありますが,一般養成施設でその数字を下回っているところはほとんどありません。

そこから想像すると,20歳代よりも30歳代以上の方が合格率が高いかもしれない,という仮説はあながち間違いではないように思います。

どちらにしても50歳代の合格率が3%というデータを表すものは発表されていないわけですから,完全なデマであることは間違いありません。


前回と今回の2回にわたり,都市伝説をまとめてみました。

合格に必要なものは,地道な勉強しかありません。

そこに必要なのは,一つひとつを確実に覚えていくための工夫です。

介護福祉士の資格を持っている人も多いと思いますが,国試問題の作られ方はまったく違うので,その延長で考えると失敗のもとです。

制度をいかに正確に押さえていくかは,合否を分ける要素です。


次回からは,また問題を解きながら,勉強法をお伝えしていきたいと思います。

制度間でつながる法則性,歴史問題を押さえるための時間軸など,過去問はヒントの宝庫ですが,それらは3年間の過去問を3回解くだけでは分かり得ないものです。

2018年8月9日木曜日

社会福祉士の国試に関する都市伝説(デマ)~その1

厚生労働省から

第31回社会福祉士国家試験の施行について
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000171154_00008.html

が発表されて,さらに受験の手引きも届き,国試に向けて気合いが入ってきたところだと思います。

国試までの6か月は,短いようですが,実際にはとても長い期間です。

決して焦らず,落ち着いて集中できれば,合格をつかむだけの時間はあります。

多くの人にそう言えるのは,この時点までです。

一日中勉強できる環境にある人ならいざ知らず,一般的には,勉強を始める時期が遅くなれば遅くなるだけ,合格できる確率が下がっていきます。

今日も「今日の問題」をお休みして,国試について考えてみようと思います。

さて,今日のテーマは「社会福祉士の国試に関する都市伝説(デマ)」です。

今まで聞いたことがあるものをまとめてみました。


ソ教連(日本ソーシャルワーク教育学校連盟)の模試は,国家試験を作っている先生が作っているらしい

ソ教連(日本ソーシャルワーク教育学校連盟)は,社養協(日本社会福祉士養成校協会),精養協(日本精神保健福祉士養成校協会)などが合併してできた団体です。

どこから,こんなデマが出るのかは分かりませんが,国家試験の試験委員は,国家試験対策にかかわる仕事は一切できません。

過去には,試験副委員長だった先生が,試験委員になる前に過去問解説本を書いていたことが問題となり,辞任に追い込まれたことがあります。

ソ教連の模試は,過去に試験委員だった人でさえ一切担当していません。

ソ教連模試の試験委員
https://www.spw-mosi.com/exam/pages/moshigaiyou

第31回社会福祉士国家試験の施行について
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000171154_00008.html

で国試の試験委員が発表されていますが,それと比べてみても当然同じ人の名前はありません。


ソ教連(日本ソーシャルワーク教育学校連盟)の模試から,国家試験の問題が出題される。

このデマは,ある研修講師が受講生に対して言ったものです。

この当時は,まだ社養協の時代でした。

1月の直前対策だったこともあり,この言葉を聞いた受講生は焦り,まだ残っていた社養協模試を慌てて購入しました。

当然,そこから重点的に出題されるはずはありません。

かけた時間が無駄になりました。

直前には新しいことをやっては絶対にだめです。最後の総仕上げをする時。

その時期に,新しいものを購入して勉強するのは,試験対策としては絶対にやってはいけないことです。

ソ教連は,社会福祉士等を養成する学校の集まりですが,民間団体です。

その年の国試に直結するような特別な情報を持ち合わせているはずはありません。

因みに,第30回国試に向けた模試の平均点は,第29回に比べて5点も下がっています。

問題の傾向をもし知っていたなら,実際の国試結果と真逆になるような平均点にはならないはずです。

この反省をもとに,第31回対策用の模擬試験問題がどのように修正されるのか注目したいところです。

受験生は,試験前はとてもナーバスになります。

それを知ってか知らずか,無神経な発言をする試験対策講師には,憎しみさえも抱いています。


<今日のまとめ>

受験生の中で広がる「〇〇らしい」

はほとんど信用性の低いものです。


一番多いのは

「〇〇が出題されるらしい」

だと思います。

社会福祉士の国試は,出題範囲が広いことが特徴です。

予測してそこが当たることもあるかもしれません。

しかし,いわゆる「ヤマをはって」絞り込んだ勉強で合格できるものではありません。

今必要なのは,確実に一つひとつ覚えていくことです。ヤマをはることではありません。

それができた人は必ず合格基準点を超えることができます!!

2018年8月8日水曜日

第31回国試の傾向予測

第31回国試(2019年2月実施)の「受験の手引き」が試験センターから発送されています。

早い方では,先週のうちに届き始めています。

一方,厚生労働省からも

第31回社会福祉士国家試験の施行について
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000171154_00008.html

が発表されています。

受験者数は,第26回以降,45,000人前後で推移していましたが,第30回は,第29回よりも2,000人ほど減って,43,937名でした。

なぜ受験者数が減ったと思いますか?

実は,受験料が約2倍に値上げされたのです。

そのため,いわゆる「記念受験組」の受験が減ったのだと思われます。

受験料は前回と同じです。

ということは,前回と同じように,いわゆる「記念受験組」の受験は一定数抑制されることが予測されます。

記念受験組が減るということは,受験者はしっかり勉強してきた人で構成されることを意味します。

記念受験組は,福祉系大学等で受験資格を得ながらも,既に一般企業等に就職が決まり,社会福祉士の資格を必要としていない人,通信教育等で受験資格を得ながらも,受験勉強が進んでいないものの,次回のために一応受験しておく,といった人たちです。

記念受験組の存在は,国試会場では目障りですが,合格率を一定のところに保つためには,重要な役割を果たしています。


現行カリキュラムでの合格基準点と合格率の推移

第22回 84点  合格率 27.5% 
第23回 81点  合格率 28.1%
第24回 81点  合格率 26.3%
第25回 72点  合格率 18.8%
第26回 84点  合格率 27.5%
第27回 88点  合格率 27.0%
第28回 88点  合格率 26.2%
第29回 86点  合格率 25.8%
第30回 99点  合格率 30.2%

第25回が極端に落ち込んでいることが分かると思います。

その教訓をもとに,それ以降は合格基準点をできる限り90点に近づけていくように出題を工夫してきたことが予想されます。

一方合格率は,魔の第25回を除くと,第29回が最も低くなっていることが分かります。

問題全体の文字数を少なくことで,解きやすい問題にしているにもかかわらず,第29回は,合格基準点も合格率も下がってしまったことに,試験センターは危機感を覚えたのでしょう。

さらに解きやすい問題にチャレンジしたのが第30回です。

そこに,受験料の値上げという別の要素が加わったことで,もともと目論んでいたものよりも,合格基準点を上げざるを得なかったと思われます。

もし,受験者数が減っていなければ,合格基準点は確実にあと数点は低かったはずです。
記念受験組が最下層を形成してくれるためです。

2つの要素が絡み合って,第30回の異常な合格基準点が上がってしまったと考えています。

今回も記念受験組がどのような行動をとるかによって,また結果が大きく変化します。

昨年から引き上げられたこの金額に慣れてくれていれば,受験するでしょうし,高いと思えば,受験回避するでしょう。

記念受験組が少なくなれば,また過酷な試験となる可能性があります。

さて,試験委員も発表されています。

試験委員は,偶数年務めることが多いようです。

試験委員長に着目すると,

4年ずつ務めてきていましたが,前委員長の古川孝順先生は,第19回~第25回までの7年間という半端な年で終わっています。本当は,もう一年続けることを予定していたものを,第25回の責任を取って変わったのではないかと予測しています。

第26回以降は,坂田周一先生が務めています。

第26回以降の安定した問題は,坂田組が作ってきたと言えます。

第30回は,記念受験組が受験しなかったという予想外のことが起きましたが,問題自体はある程度,試験センターの眼鏡にかなったものだったということではないでしょうか。

これらから考えられることは,第31回国試もサバイバルゲームになる可能性があるということです。

難しい問題も混ぜては出題されると思いますが,基本ラインは変わらないと考えています。

つまり,誰もが解ける問題で得点できないという問題がより多い人が不合格になるということです。

確実な知識をつけていくことが,合格への近道です。


<今日のおまけ>

第31回の国試会場は,受験票が届かないとどこになるか分かりませんが,第30回の会場データはこちら

https://fukufuku21.blogspot.com/2018/02/30.html
試験会場は,試験センターでは発表しないので,貴重なデータだと思います。

2018年8月7日火曜日

障害者総合支援法の整理~障害児支援~その2

障害児が利用できるサービスの多くは,児童福祉法に規定されています。

障害者総合支援法の中でも以下の訪問系サービスは,障害児でも利用できます。

居宅介護
行動援護
同行援護
重度障害者等包括支援

しかし重度訪問介護は含まれないことに注意しましょう。

ただし,15歳以上の障害児は,重度訪問介護も含めたそれ以外の障害福祉サービスも児童相談所長が必要だと認めた時,市町村に通知することで利用できます。

それでは今日の問題です。

第28回・問題59 事例を読んで,F君が利用できる「障害者総合支援法」に基づく障害福祉サービスとして,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 F君(9歳,男児)は,自閉症を伴う知的障害があり,特別支援学校小学部第3学年に在学中である。以前,障害福祉サービスの利用を申請し障害支援区分3(行動関連項目の合計点は10点)の認定を受けていたが,現在,サービスは利用していない。最近になって,時々激しい自傷行為や物を壊す行動がみられるようになり,両親は,F君が日常生活を安全に過ごす方法として障害福祉サービスの利用を検討している。

1 生活介護

2 重度訪問介護

3 療養介護

4 同行援護

5 行動援護 

15歳以上ならこれらすべての障害福祉サービスは利用できる可能性があります。

しかしF君は,9歳の障害児です。

年齢の区分で,生活介護,重度訪問介護,療養介護は利用できません。

残るのは同行援護と行動援護ですね。


この2つは本当に紛らわしいです。


同行援護は,視覚障害者の外出支援です。

行動援護は,知的障害者・精神障害者の外出支援です。


F君は,知的障害児なので,使えるのは行動援護だということになります。

よって正解は5です。


児童福祉法に基づく障害児支援はまた別の機会に紹介します。



<今日の一言>

障害児が使える障害福祉サービスは,訪問系サービスです。

しかし,重度訪問介護は対象外です。

なぜか過去問では,重度訪問介護は障害児も対象となる,といった間違い選択肢として出題されることが多いです。

15歳以上になると使えるサービスの種類は増えますが,15歳未満の障害児が使えるサービスは限られます。

しっかり覚えておきましょう。

2018年8月6日月曜日

障害者総合支援法の整理~障害児支援

障害児支援は,基本的には児童福祉法が対応しますが,障害者総合支援法に規定されるサービスが使えるものもあります。

それでは早速今日の問題です。

第24回・問題131 障害児支援に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 自立支援医療の一つである育成医療の支給認定の有効期間は,2年間である。

2 児童心理治療施設は,日常生活における基本動作の指導,独立自活に必要な知識技能の付与又は集団生活への適応のための訓練を行う施設である。

3 15歳以上の障害児から重度訪問介護の申請があった場合,児童相談所長が利用することが適当であると認め,市町村長に通知した場合,障害児であっても障害者の手続きに沿って支給の要否が決定される。

4 都道府県は,障害児の保護者から補装具費の申請があった場合は,所得の状況に関係なく,補装具の購入の必要があると認められたとき補装具費を支給する。

5 障害児の保護者から,行動援護の申請があった場合,市町村は障害支援区分の認定を行い,区分2以上の障害児を対象とする。

とても難しい問題だと思います。

知らなければ正解できない問題でしょう。

それでは解説です。

1 自立支援医療の一つである育成医療の支給認定の有効期間は,2年間である。

育成医療の有効期間は,原則3か月,最長1年となっています。

よって間違いです。

2 児童心理治療施設は,日常生活における基本動作の指導,独立自活に必要な知識技能の付与又は集団生活への適応のための訓練を行う施設である。

出題当時は,情緒障害児短期治療施設となっていました。現在は法改正により児童心理治療施設に変更されています。

情緒障害という用語は医学用語にはありません。

さて,児童心理治療施設は児童福祉法に規定される児童福祉施設です。心理的問題によって日常生活に支障がある児童に対して心理治療を行います。

日常生活における基本動作の指導,独立自活に必要な知識技能の付与又は集団生活への適応のための訓練を行う施設は,福祉型児童発達支援センターです。

よって間違いです。


3 15歳以上の障害児から重度訪問介護の申請があった場合,児童相談所長が利用することが適当であると認め,市町村長に通知した場合,障害児であっても障害者の手続きに沿って支給の要否が決定される。

これが正解です。

重度訪問介護は,児童は対象としません。

しかし15歳以上の場合,必要と認められる時には利用できます。


4 都道府県は,障害児の保護者から補装具費の申請があった場合は,所得の状況に関係なく,補装具の購入の必要があると認められたとき補装具費を支給する。

補装具は,2018年4月から購入だけはなく貸与も対象になりました。

所得によっては支給されないのが特徴です。よって間違いです。


5 障害児の保護者から,行動援護の申請があった場合,市町村は障害支援区分の認定を行い,区分2以上の障害児を対象とする。

行動援護は,前回紹介したように,障害支援区分3以上が対象です。

しかし,障害児が障害者総合支援法のサービスを利用する場合は,障害支援区分認定は行わず,それに相当する程度の障害がある場合に利用できます。

よって間違いです。

2018年8月5日日曜日

障害者総合支援法の整理~障害支援区分

法制度は,その適用範囲を明確に定めるところに特徴があります。

そうでなければ法を適切に運用することができないからです。

障害者総合支援法に規定される障害福祉サービスには,大きく分けると介護給付と訓練等給付があります。

介護給付の利用を希望する場合は,障害支援区分認定を受けなければなりません。

訓練等給付の利用を希望する場合は,障害支援区分認定は基本的に受けなくても利用できます。

「基本的に」というのは,訓練等給付の一つである共同生活援助(グループホーム)で身体介護を必要とする場合は,障害支援区分認定が必要だからです。

これはおそらく障害者自立支援法の時に存在していた介護給付の一つである共同生活介護(ケアホーム)を障害者総合支援法で共同生活援助に一元化した時の名残ではないかと思います。

さて,今日のテーマは,障害支援区分です。

介護給付を利用する場合,障害支援区分認定を受ける必要があるのは,介護給付のサービスは,障害支援区分で〇以上という線引きがなされているためです。

1~6まであり,最も重度なのは6です。

介護給付は,9種類しかないためなのか,障害支援区分の問題は比較的頻繁に出題されています。

居宅介護 1以上

行動援護 3以上

同行援護 視覚障害であり,同行援護アセスメント表に該当すれば利用可

重度訪問介護 4以上

重度障害者等包括支援 6

生活介護 3以上(施設入所する場合は4以上)
 ※50歳以上の場合は,2以上(施設入所する場合は3以上)

療養介護 6(ALSで気管切開で人工呼吸器利用している場合),筋ジスの場合は5以上

短期入所 1以上

施設入所支援 生活介護利用者は4以上(50歳以上の場合は,3以上)


それでは,今日の問題です。


第27回・問題57 「障害者総合支援法」における障害福祉サービスに関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 視覚障害者に対する同行援護は,障害支援区分2以上の者が対象である。

2 50歳以上の者に対する生活介護は,障害支援区分2(障害者支援施設に入所する場合は区分3)以上の者が対象である。

3 居宅介護や重度訪問介護において,一定の研修を修了した介護職員が,医師の指示の下で喀痰吸引と摘便を実施できるようになった。

4 医療型短期入所は,医療機関及び医師の常動配置のある障害者支援施設において実施できる。

5 重度の肢体不自由者のみが対象であった重度訪問介護は,行動障害を有する障害支援区分3以上の者も利用できるようになった。


勉強不足の人はまったく解けませんが,勉強していても解きにくい極めて難易度が高い問題の一つでしょう。

しかしポイントはあります。

それでは解説です。


1 視覚障害者に対する同行援護は,障害支援区分2以上の者が対象である。

同行援護は,介護給付の中でもちょっと変わっていて,視覚障害であり,同行援護アセスメント表に該当すれば利用可です。障害支援区分認定は受けなければなりませんが,〇以上はされていません。

よって間違いです。


2 50歳以上の者に対する生活介護は,障害支援区分2(障害者支援施設に入所する場合は区分3)以上の者が対象である。

これが正解です。50歳未満の場合は,3以上,施設入所する場合は4以上です。

年齢によって違うのは,生活介護のみです。


3 居宅介護や重度訪問介護において,一定の研修を修了した介護職員が,医師の指示の下で喀痰吸引と摘便を実施できるようになった。

摘便は医療的ケアではなく,医療行為なので実施できません。よって間違いです。


4 医療型短期入所は,医療機関及び医師の常動配置のある障害者支援施設において実施できる。

短期入所には,福祉型と医療型があり,医療型は,病院,診療所,介護老人保健施設で実施します。よっ間違いです。


5 重度の肢体不自由者のみが対象であった重度訪問介護は,行動障害を有する障害支援区分3以上の者も利用できるようになった。

重度訪問介護は,4以上です。

2018年8月4日土曜日

障害者総合支援法を整理しよう~その2

障害者総合支援法は,障害種別に分かれていたサービスを一元化して提供していることに特徴があります。

その分,覚えるのはシンプルになったと言えるでしょう。

しかし,他領域の人にとってはなじみがない用語も多いと思います。

ここで注意というか,勉強のコツを一つお知らせします。

勉強中に「ハッと」思うようなこと,「覚えにくい」と最初に思ったところは,しるしをつけておきましょう。

自分が思うことは,多くの人も同じように思うはずです。

そこが国試で問われるポイントになります。

多くの場合は,それは正解選択肢ではなく,間違い選択肢として上手に使われることになります。

そこをうまくすり抜けて正解にたどり着けた人だけが得点できます。

それでは今日の問題です。

第23回・問題131 障害者総合支援法に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。(現在の制度に合わせて一部改変)

1 生活介護は,障害者等に対して居宅において入浴,排せつ又は食事の介護等を提供する。

2 地域活動支援センターは,障害者等をセンターに通わせ,創作的活動又は生産活動の機会の提供,社会との交流の促進等を担う施設である。

3 訓練等給付費及び特例訓練等給付費の支給は,自立訓練,就労移行支援,就労継続支援,共同生活援助,施設入所支援の給付である。

4 自立支援医療費の支給対象者と認定された障害者等は,自ら医療機関を選び,その医療機関を市町村等に届けなければならない。

5 都道府県は,指定特定相談支援事業者から計画相談支援給付費の請求があったとき,審査した上で指定相談支援に要した費用を支払う。


制度を覚えていなければ,ほとんど得点できないかもしれません。

それでは解説です。


1 生活介護は,障害者等に対して居宅において入浴,排せつ又は食事の介護等を提供する。

これは間違いです。これが「はっと」するものの筆頭のように思います。

生活介護という名称から,居宅での介護のように思われやすいと思います。

しかし,介護保険サービスの訪問介護に当たるものは,障害福祉サービスでは「居宅介護」と言います。

生活介護は,何と施設で行う介護です。

ここが介護保険と違う大きな特徴です。

それはなにかと言うと,夜間と日中活動に分かれていることです。

施設入所は,施設入所支援ですが,それは主に夜間に実施されるものであり,日中活動は別のサービスとして提供されます。

つまり,施設入所している場合は,日中はいろいろなサービスが選べることとなります。
その中の一つが「生活介護」です。

利用パターンとしては

施設入所支援 + 生活介護

施設入所支援 + 就労継続支援

といったことが考えられます。

このため,障害福祉サービスでは,施設入所していても,居宅生活を送っていても,ケアマネジメント機関である「指定特定相談支援事業者」がケアマネジメントを行います。

ここが,介護保険サービスでは,居宅では居宅ケアマネが担当し,施設では施設ケアマネが担当する,というように分けられているのと違う点です。

違うと言えば,重度訪問介護の訪問先には医療機関があります。これは2018年から加わったものですが,障害者の場合は,その利用者のことをよく知っているヘルパーの方がサービスを提供しやすい(逆に言うと重度障碍者の場合は知らないと介護が難しい)という現実があるためです。


2 地域活動支援センターは,障害者等をセンターに通わせ,創作的活動又は生産活動の機会の提供,社会との交流の促進等を担う施設である。

これが正解です。

地域活動支援センターの基本サービスは,創作的活動又は生産活動の機会の提供,社会との交流の促進等です。

Ⅰ型からⅢ型まであり,それぞれ基本サービスに加えて,Ⅰ型は相談支援等,Ⅱ型は機能訓練・入浴サービス,Ⅲ型は授産をそれぞれ行います。

地域活動支援センターは,介護給付,訓練等給付ではなく,地域生活支援事業の市町村の必須事業です。


3 訓練等給付費及び特例訓練等給付費の支給は,自立訓練,就労移行支援,就労継続支援,共同生活援助,施設入所支援の給付である。


今の国試問題は,文章が短くなっているので,このような列挙するような問題はあまり出題されないと思いますが,従来では,列挙型は3つくらいまでは正解,4つ以上は間違いという傾向がありました。ここではそうなっていませんが最後の部分が「及び〇〇」が怪しかったのです。

今はおそらくこの手の出題はほとんどしてこないと思われるので,難易度は一段高くなったと言えるでしょう。
昔話は,この辺くらいにしておくことにして,本題に戻ります。

自立訓練,就労移行支援,就労継続支援,共同生活援助は,訓練等給付

施設入所支援は,介護給付
です。よって間違いです。

この当時ならではの問題でしょう。


4 自立支援医療費の支給対象者と認定された障害者等は,自ら医療機関を選び,その医療機関を市町村等に届けなければならない。

自立支援医療は,今まで何度も紹介してきましたが,提供する医療機関はどのようになっているのかについては,この時一回だけの出題です。

答えは間違いです。自立支援医療受給者証には,有効期間と医療機関名が書かれているので,そこで医療を受けます。

日本の医療保険はフリーアクセス(自由に医療機関を選べる)が特徴ですが,医療保険ではないのでフリーアクセスではないのです。


5 都道府県は,指定特定相談支援事業者から計画相談支援給付費の請求があったとき,審査した上で指定相談支援に要した費用を支払う。

これは本当に間違いやすいので,今後もずっと出題されるのではないかと思います。


計画相談支援 → 指定特定相談支援事業者 → 市町村

地域相談支援 → 指定一般相談支援事業者 → 都道府県

よって間違いです。


<今日の一言>

障害福祉サービスになじみがない方は,表になったものなど整理されたもので覚えることをおすすめします。

国試では,深くは出題されないので,全体像を押さえおくことが何よりも大切です。

合格するには,毎日少しずつでも勉強することが大切です。

何となく勉強するのがいやだなあ,と思っているとあっと言う間に何日も過ぎ去ります。




2018年8月3日金曜日

障害者総合支援法を整理しよう

「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」の中心的法制度は,障害者総合支援法です。

障害者福祉は発展過程で見てきたように,障害別に制度がつくられて来ました。

その大きな要因は,最初にできた法制度が身体障害者の職業リハビリテーションを目的とした身体障害者氏福祉法だからです。

3障害がようやく一元化したのが,障害者自立支援法です。

障害者分野以外の人には,一元化されても分かりにくいかもしれませんが,一元化されたことで制度がとてもシンプルになっています。

その分,覚えるポイントも極めて少なくなっています。

障害者総合支援法は,障害者自立支援法を改正して,2012年に成立し,2018年に初めて改正されています。

それでは早速今日の問題です。

第26回・問題57 「障害者総合支援法」に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 就労移行支援は,通常の事業所に雇用されることが困難な障害者に対して,雇用契約の締結等による就労の機会を提供するとともに,必要な訓練等の便宜を供与することである。

2 障害福祉サービスの利用者負担額と補装具の利用者負担額を合算して一定の額を超える場合,特定障害者特別給付費が支給される。

3 市町村は,地域生活支援事業としてサービス管理責任者研修を実施し,事業所や施設のサービスの質の確保を図らなければならない。

4 市町村は,介護給付費の支給申請があったときは,障害者又は障害児の心身の状況,その置かれている環境等について調査を実施し,要介護認定を行わなければならない。

5 障害者又は障害児の保護者の居住地が明らかでないとき,介護給付費の支給決定は,現在地の市町村が行う。

今まで学んできたことで分かるものと分からないものがあるかもしれません。

すぐさま消去できるのは,選択肢3でしょう。

それでは解説です。


1 就労移行支援は,通常の事業所に雇用されることが困難な障害者に対して,雇用契約の締結等による就労の機会を提供するとともに,必要な訓練等の便宜を供与することである。

障害者総合支援法の特徴は,就労支援施策が強化されていることです。

就労移行支援

就労継続支援(A型・B型)

就労定着支援(2018年に追加)

このうち

雇用契約 → 就労継続支援A型

この図式は頭に叩き込みましょう。

よって間違いです。


2 障害福祉サービスの利用者負担額と補装具の利用者負担額を合算して一定の額を超える場合,特定障害者特別給付費が支給される。

特定障害者特別給付費は,低所得者が施設入所した時にいわゆるホテルコストの負担を軽減するために給付されるものです。

よって間違いです。

この時1回しか出題されたことがありません。


3 市町村は,地域生活支援事業としてサービス管理責任者研修を実施し,事業所や施設のサービスの質の確保を図らなければならない。

研修事業は,サービス管理責任者(サビ管)に限らず,都道府県の役割です。よって間違いです。


4 市町村は,介護給付費の支給申請があったときは,障害者又は障害児の心身の状況,その置かれている環境等について調査を実施し,要介護認定を行わなければならない。

これはうっかりすると間違ってしまいそうですね。

要介護認定ではなく,障害支援区分認定です。

よって間違いです。


5 障害者又は障害児の保護者の居住地が明らかでないとき,介護給付費の支給決定は,現在地の市町村が行う。

これが最も難しいものだったと思います。

結果的にこれが正解です。

消去法でもこれが残ると思いますが,ヒントはあります。

なぜなら,障害者総合支援法の実施主体は市町村なので,障害者又は障害児の保護者の居住地が明らかでないときの介護給付費の支給決定は,都道府県ではなさそうだ,と想像できるからです。


<今日の一言>

得点力を上げるためのコツは,もちろんしっかり覚えることが大切です。

しかし,それと同時に高めなければならないのは,推測力です。

多くの問題を解くことで,似たような事象から,推測していきます。

これを意識することで,あと数点の壁は必ず越えることができます。

逆に言うと,これができないとあと数点の壁に泣きます。

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