今回は,発達障害者支援法を紹介します。
同法が成立したのは,平成16(2008)年なので,障害者関連では比較的新しい法律です。
日本の障害者の法律は,障害種別で発展してきたことは今まで紹介してきたとおりですが,発達障害について,認識されたのは比較的最近であることが分かります。
そのため,社会福祉士の国試でも,発達障害,特に自閉症,学習障害に対する正しい認識を広げるために,これらは,環境,つまり育て方の問題ではなく,脳機能の障害である,ということを何度も何度も繰り返して出題されてきています。
さて,発達障害者支援法です。
発達障害者は,障害者総合支援法では,精神障害者(発達障害者を含む)と規定されています。
そのため,発達障害者は障害者総合支援法が規定する障害福祉サービスを利用することができます。
発達障害者支援法は,サービスを規定するものではなく,就労支援,発達障害に対する正しい理解の普及などを目的としています。
発達障害とは
自閉症,アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害,学習障害,注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。
発達障害とは「脳機能の障害」だと明記されています。
DSM-5では,アスペルガー症候群という診断名はなくなり,自閉症スペクトラム障害となりましたが,同法ではそのままアスペルガー症候群が使われています。
発達障害者とは
発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるもの。
社会的障壁は,平成28年改正で加わったものです。
発達支援とは
発達障害者に対し,その心理機能の適正な発達を支援し,及び円滑な社会生活を促進するため行う個々の発達障害者の特性に対応した医療的,福祉的及び教育的援助。
同法で,重要な役割を果たしているのが,発達障害者支援センターです。
発達障害者支援センターの業務
一 発達障害の早期発見,早期の発達支援等に資するよう,発達障害者及びその家族その他の関係者に対し,専門的に,その相談に応じ,又は情報の提供若しくは助言を行うこと。
二 発達障害者に対し,専門的な発達支援及び就労の支援を行うこと。
三 医療,保健,福祉,教育,労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体並びにこれに従事する者に対し発達障害についての情報の提供及び研修を行うこと。
四 発達障害に関して,医療,保健,福祉,教育,労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体との連絡調整を行うこと。
発達障害者本人,あるいは家族に対する相談・助言とともに,就労支援,従事者研修,連絡調整など,活動は広範囲にわたります。
設置は都道府県が自ら行うか,センターを指定します。
従事者研修を行うことが含まれているので市町村の範疇ではないことが分かります。
発達障害者支援センターの設置は,都道府県の役割ですが,市町村の役割は多岐にわたります。
発達障害者支援法における市町村の役割
早期の発見
健康診査を実施する際に,早期発見に留意する。
早期の発達支援
発達障害児の保護者の相談,支援センター等の紹介,助言。
保育
発達障害児の健全な発達が他の児童と共に生活することを通じて図られるよう適切な配慮をする。
教育(国,都道府県を含む)
特性を踏まえた十分な教育を受けられるようにするため,可能な限り発達障害児が発達障害児でない児童と共に教育を受けられるよう配慮する。
就労支援(都道府県を含む)
発達障害者が就労のための準備を適切に行えるようにするための支援が学校において行われるよう必要な措置を講じる。
それでは今日の問題です。
第22回・問題134 発達障害者支援法に関する次の記述のち,正しいものを一つ選びなさい。
1 発達障害とは,環境との相互作用によって生じる障害であって,その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものである。
2 市町村は,発達障害者の就労を支援するため必要な体制の整備に努めるとともに,公共職業安定所等の相互の連携を確保しつつ,発達障害者の特性に応じた適切な就労の機会を確保しなければならない。
3 市町村は,発達障害者への相談支援,就労支援,発達支援等を行う発達障害者支援センターを設置しなければならない。
4 市町村は,保育の実施に当たっては,発達障害児の健全な発達が他の児童と共に生活することを通じて図られるよう適切な配慮をするものとする。
5 発達支援とは,発達障害者に対し,その発達障害の特性に相応した心理的援助を行うことをいう。
実は,発達障害者支援法が,一問まるごと出題されたのは,この時の一回きりです。
それでは解説です。
1 発達障害とは,環境との相互作用によって生じる障害であって,その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものである。
発達障害は「脳機能の障害」です。
育て方が悪いと言われてどれだけのお母さんが辛い思いをしてきたことでしょうか。
「脳機能の障害」です。「環境との相互作用」ではありません。
もう一度言います。
発達障害は「脳機能の障害」です。
2 市町村は,発達障害者の就労を支援するため必要な体制の整備に努めるとともに,公共職業安定所等の相互の連携を確保しつつ,発達障害者の特性に応じた適切な就労の機会を確保しなければならない。
市町村も就労の支援を行いますが,他の制度でも同様ですが,
体制の整備や確保といったものは,市町村の役割ではなく,国か都道府県の役割です。
しっかり覚えておきましょう。
もちろん,この設問も間違いです。国及び都道府県の役割です。
制度は違っても,国,都道府県,市町村の役割はほとんど共通です。
そこが理解できると得点力は格段に上がります。
3 市町村は,発達障害者への相談支援,就労支援,発達支援等を行う発達障害者支援センターを設置しなければならない。
発達障害者支援センターを設置するのは,都道府県です。
しかし,必置ではなく,任意設置です。
よって間違いです。
4 市町村は,保育の実施に当たっては,発達障害児の健全な発達が他の児童と共に生活することを通じて図られるよう適切な配慮をするものとする。
これが正解です。
制度を知っていれば,すぐ正解にできるものだと思います。
5 発達支援とは,発達障害者に対し,その発達障害の特性に相応した心理的援助を行うことをいう。
発達支援とは
発達障害者に対し,その心理機能の適正な発達を支援し,及び円滑な社会生活を促進するため行う個々の発達障害者の特性に対応した医療的,福祉的及び教育的援助。
心理的援助は含まれていません。よって間違いです。
発達障害者支援法の出題は少ないですが,条文はたった25条しかありません。
そのため,出題ポイントは極めて限定されるせっかくなのでしっかり押さえておきたいです。
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