2022年7月31日日曜日

被保護者就労準備支援事業

今回は,「被保護者就労準備支援事業」を取り上げます。


〈対象者〉

就労に向けた複合的な課題があるため,直ちに就職することが困難な被保護者で,生活習慣の形成・改善を行い,社会参加に必要な基礎技能等を習得することにより就労が見込まれる者のうち,本事業への参加を希望する者。

 

〈事業内容〉


以下の(1)(3)の支援について、対象の状態や課題に応じて、効果的と考えられる支援メニューを企画・立案し、計画的かつ一貫して実施すること。

 

(1) 日常生活自立に関する支援

適切な生活習慣の形成を促すことを目的とし、以下に掲げるような支援を実施する。

(支援例)

・対象者への電話、自宅訪問等による起床や定時通所の促し

・うがい、手洗いや規則正しい起床・就寝、バランスのとれた食事の摂取などに関する助言・指導

・適切な身だしなみに関する助言・指導 等

 

(2) 社会生活自立に関する支援

社会的能力の形成を促すことを目的とし、以下に掲げるような支援を実施する。

(支援例)

・対象者が不安やストレスを感じる場面や状況の把握、対応方法に関する助言

・朝礼、終礼の実施(一日の振り返り)

・挨拶の励行等、基本的なコミュニケーション能力の形成

・地域の事業所での職場見学

・地域のイベント等の準備手伝い等の地域活動への参加 等

(3) 就労自立に関する支援

一般就労に向けた技法や知識の習得等を促すことを目的とし、以下に掲げるような支援を実施する。

(支援例)

・実施主体が運営する飲食店や地域の協力事業所等における就労体験

・模擬面接の実施

・履歴書の作成訓練

・ビジネスマナー講習の実施

・キャリア・コンサルティングを通じた本人の適性確認

・基礎技能・基礎能力の習得に必要な訓練 等


 

 

今日の問題は,これらを知らなくてもおそらく正解できます。

 

正解するのに重要なことは,出題の意図を考えることです。

 

それでは今日の問題です。

 

31回・問題144 被保護者就労準備支援事業(一般事業分)に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 日常生活自立に関する支援は含まれない。

2 公共職業安定所(ハローワーク)に求職の申込みをすることが義務づけられている。

3 社会生活自立に関する支援が含まれている。

4 公共職業訓練の受講が義務づけられている。

5 利用するためには医師の診断書の提出が義務づけられている。

 

正解は,選択肢3です。

3 社会生活自立に関する支援が含まれている。

 

自立支援プログラムを学ぶとわかりますが,自立には

・日常生活自立

・社会生活自立

・経済的自立

 

の3つがあります。自立というと「経済的自立」のイメージが強いですが,自立支援プログラムは,就労による経済的自立のみを目指すものではありません。

 

被保護者就労準備支援事業は,経済的自立を目指すものですが,ベースとなるのは,日常生活自立,そして社会生活自立です。

 

それらが確立して,ようやく経済的自立に結びついていきます。

 

2 公共職業安定所(ハローワーク)に求職の申込みをすることが義務づけられている。

4 公共職業訓練の受講が義務づけられている。

5 利用するためには医師の診断書の提出が義務づけられている。

 

これらの内容がわからなくても,素直に考えると選択肢3を選べるはずです。

 

余計なことを考えると間違えるので,注意が必要です。 国家試験は,多くの人が思うほどいじわるではありません。

2022年7月30日土曜日

男性の育児休業取得率

今回は,男性の育児休業取得率です。    まずは統計データです。




















出典は,厚生労働省ホームページ「令和3年度雇用均等基本調査」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r03.html


令和になってからの伸び率が著しいことがわかります。


学校の先生は,変化のあるものが出題されると言います。


しかし,動きが大きいものや順位が変わるものは,出題しにくいものです。


第31回・問題143 日本の労働に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。 

1 「平成29年労働力調査年報」(総務省)によれば,2017年(平成29年)平均の完全失業率は5%を超えている。

2 厚生労働省発表の平成29年分の一般職業紹介状況によると,2017年(平成29年)の有効求人倍率は1倍を下回っている。

3 「平成29年版厚生労働白書」によれば,2015年(平成27年)の日本の労働者1人平均年間総労働時間は,ドイツより少ない。

4 「平成28年度雇用均等基本調査」(厚生労働省)によれば,男性の育児休業取得率は10%を超えている。

5 「平成29年労働組合基礎調査」(厚生労働省)によれば,2017年(平成29年)の単一労働組合の推定組織率(雇用者数に占める労働組合員数の割合)は25%を下回っている。


古い統計です。

男性の育児休業取得率の表を見ると,この問題が出題された頃は,2%程度しかありません。

その後,急に伸びて,令和2年から10%を超えています。


男性の育児休業取得率を出題するなら,あと何年か10%を超えた時だと思います。


この問題の正解は,選択肢5です。


5 「平成29年労働組合基礎調査」(厚生労働省)によれば,2017年(平成29年)の単一労働組合の推定組織率(雇用者数に占める労働組合員数の割合)は25%を下回っている。












出典は,厚生労働省ホームページ「令和3年労働組合基礎調査の概況」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/roushi/kiso/21/index.html


男性の育児休業取得率と異なり,データににほとんど変化がありません。(平成28年は17.3%)


だから出題して,そして正解にすることができると考えています。


この問題で特に覚えておきたいのは,選択肢1です。


1 「平成29年労働力調査年報」(総務省)によれば,2017年(平成29年)平均の完全失業率は5%を超えている。


労働環境の悪化から,完全失業率が高いと思うのは間違いです。


10年以上,5%を超えたことはありません。近年は3%前後で推移しています。

今は,人を確保できなくて閉鎖する事業所も出てきた時代です。当然と言えば当然でしょう。

2022年7月29日金曜日

児童相談所が対応した児童虐待相談

 児童虐待の悲しい報道がなされるたびに,「またか」と思う人は多いのではないかと思います。


生命にかかわるような重大な虐待が増加しているのかは分かりませんが,児童相談所が対応した児童虐待相談はとんでもなく増加しています。














出典はいずれも厚生労働省ホームページ「児童虐待相談対応件数の動向」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/dv/index.html


相談経路で最も多いのは,警察等で,約半数を占めます。


平成21年度はわずか14.9%です。相談件数が増加している理由は,警察等が多くなっているからだということがわかるでしょう。


それでは,今日の問題です。


第31回・問題142 「平成28年度福祉行政報告例」(厚生労働省)における児童相談所の相談に関する統計の説明のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 児童相談所が対応した児童虐待相談件数は,10万件を超えている。

2 児童相談所が対応した虐待相談を虐待種別でみると,身体的虐待が最も多い。

3 児童相談所が対応した相談のうち,児童福祉法に基づく入所措置をとったものは3割程度である。

4 児童相談所が受け付けた相談の相談経路は,学校が最も多い。

5 児童相談所が受け付けた障害相談の内訳でみると,肢体不自由相談が最も多い。


かなり古い統計ですが,傾向は今とまったく同じです。


それでは解説です。


1 児童相談所が対応した児童虐待相談件数は,10万件を超えている。


これが正解です。この年では12万件でした。


2 児童相談所が対応した虐待相談を虐待種別でみると,身体的虐待が最も多い。


当初は身体的虐待が多かったのですが,近年は心理的虐待が最も多くなっています。


その理由は,心理的虐待の定義が変わり,いよゆる面前DVやほかのきょうだいに対する虐待が心理的虐待とされるようになったからです。


3 児童相談所が対応した相談のうち,児童福祉法に基づく入所措置をとったものは3割程度である。


入所措置をとったのは,5%もありません。


4 児童相談所が受け付けた相談の相談経路は,学校が最も多い。


相談経路で最も多いのは,警察等です。約半数が警察等です。


5 児童相談所が受け付けた障害相談の内訳でみると,肢体不自由相談が最も多い。


最も多いのは,知的障害相談です。


2022年7月28日木曜日

障害児通所支援

障害児支援は,障害児通所支援と障害児入所支援に分かれています。


以前は,障害種別に分かれていたので,サービスがいっぱいありましたが,今はとてもシンプルです。


その分,以前から比べると覚えるのが楽になったと言えますが,サービス名から想像するのがちょっと難しいものがあります。


その筆頭が,児童発達支援でしょう。


児童発達支援は,「発達」という名称から発達障害に関するものだと思ってしまうのです。


障害児の通園施設です。


医療の機能があるのは「医療型児童発達支援」です。


これは,以前の「肢体不自由児通園施設」から移行したものだとイメージするのも一つの手でしょう。

それでは今日の問題です。


第31回・問題141 事例を読んで,Hちゃんが利用するサービスとして,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 Hちゃん(3歳)が交通事故に遭い,下肢に障害を有する状態となった。退院するに当たり,医療相談室のソーシャルワーカーが家族面接を行い,肢体不自由のある子どものリハビリテーションに対応したサービスを利用していくことが確認された。

1 養育支援訪問事業

2 放課後等デイサービス

3 児童自立生活援助事業

4 養育医療

5 医療型児童発達支援


改めてこの問題を見ると,結構難しいです。


なぜなら「医療」がつくサービスが2つあるからです。


知識不足では正解するのはかなり難しいように思います。


それでは,解説です。


1 養育支援訪問事業


養育支援訪問事業は,児童福祉法に規定されるもので,乳児家庭全戸訪問事業の結果,養育支援を特に必要だと判断した場合,その家庭に保健師などが訪問して養育指導を行います。


2 放課後等デイサービス


放課後等デイサービスも児童福祉法に規定されるもので,放課後や休日に,生活能力の向上のために必要な訓練,社会との交流の促進その他を行います。


3 児童自立生活援助事業


児童自立生活援助事業も児童福祉法に規定されるもので,措置解除された児童(義務教育を終えた者)を自立援助ホームで,日常生活上の援助及び生活指導並びに就業の支援を行います。


4 養育医療


養育医療は,母子保健法に規定されるもので,未熟児に対する医療を提供するものです。


障害者総合支援法の自立支援医療の育成医療と混乱しないように注意が必要です。

育成医療は,障害児に対する治療を行います。



5 医療型児童発達支援


これが正解です。


医療型児童発達支援は,肢体不自由児の児童発達支援と治療を行うものです。

この問題の場合,治療というのがリハビリテーションを指しています。

2022年7月27日水曜日

特別養子と普通養子

今回は特別養子を取り上げます。


それを理解するためには,普通養子を理解しておかなければなりません。


普通養子は,養親の養子となっても実親との親子関係は残ります。

養親の戸籍には「養子」と記載されます。養子が大きくなった時,自分の戸籍を見て,自分が養子だったことを知ったという話がありますが,これは普通養子です。

実親との親子関係は残るので,実親の遺産を相続することができます。


特別養子は,実親との関係がなくなります。養親の戸籍には,「長男」などと記載されます。














成立の要件

 「特別養子縁組」の成立には,以下のような要件を満たした上で,父母による養子となるお子さんの監護が著しく困難又は不適当であること等の事情がある場合において,子の利益のため特に必要があると家庭裁判所に認められる必要があります。

(1)実親の同意

 養子となるお子さんの父母(実父母)の同意がなければなりません。ただし,実父母がその意思を表示できない場合又は,実父母による虐待,悪意の遺棄その他養子となるお子さんの利益を著しく害する事由がある場合は,実父母の同意が不要となることがあります。

(2)養親の年齢

 養親となるには配偶者のいる方(夫婦)でなければならず,夫婦共同で縁組をすることになります。また,養親となる方は25歳以上でなければなりません。ただし,養親となる夫婦の一方が25歳以上である場合,もう一方は20歳以上であれば養親となることができます。

(3)養子の年齢

 養子になるお子さんの年齢は,養親となる方が家庭裁判所に審判を請求するときに15歳未満である必要があります。ただし,お子さんが15歳に達する前から養親となる方に監護されていた場合には,お子さんが18歳に達する前までは,審判を請求することができます。

(4)半年間の監護

 縁組成立のためには,養親となる方が養子となるお子さんを6ヵ月以上監護していることが必要です。そのため,縁組成立前にお子さんと一緒に暮らしていただき,その監護状況等を考慮して,家庭裁判所が特別養子縁組の成立を決定することになります。

出典は,いずれも厚生労働省ホームページ「特別養子縁組制度について」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169158.html


それでは,今日の問題です。


第31回・問題140 民法の規定に基づいて,養親となる者の請求により特別養子縁組を成立させることができる組織・機関の名称として,正しいものを1つ選びなさい。

1 法務省

2 児童相談所

3 福祉事務所

4 家庭裁判所

5 地方検察庁


答えは,選択肢4です。


家庭裁判所が特別養子縁組を成立させます。


なお,特別養子になることができるのは,請求時に15歳未満である者です。

2022年7月26日火曜日

市区町村子ども家庭総合支援拠点












出典は,厚生労働省ホームページ「市町村・都道府県における子ども家庭総合支援体制の整備に関する取組状況について(追加資料)」(平成30年10月)

https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000365204.pdf

この図を見ると,市区町村での子ども家庭支援は,子育て世代包括支援センター(母子健康包括支援センター)と市区町村子ども家庭総合支援拠点の2つを一体的に運営することを考えているようです。

子育て世代包括支援センター(母子健康包括支援センター)は,母子保健,市区町村子ども家庭総合支援拠点は児童福祉の領域のものです。


縦割り行政と言われる行政の専門性の中では珍しい取り組みなのかもしれません。


それでは今日の問題です。


第31回・問題139 次の説明文に該当するものとして,最も適切なものを1つ選びなさい。

 コミュニティを基盤にしたソーシャルワークの機能を担い,すべての子どもとその家庭及び妊産婦等を対象として,その福祉に関し必要な支援に係る業務全般を行う。

 また,その支援に当たっては,子どもの自立を保障する観点から,妊娠期(胎児期)から子どもの社会的自立に至るまでの包括的・継続的な支援に努める。

 さらに,児童福祉法等の一部を改正する法律(2016年(平成28年))を踏まえ,要支援児童若しくは要保護児童及びその家庭又は特定妊婦等を対象とした,要支援児童及び要保護児童等並びに特定妊婦等への支援業務について強化を図る。 

1 児童家庭支援センター

2 母子健康包括支援センター(子育て世代包括支援センター) 

3 市区町村子ども家庭総合支援拠点

4 地域子育て支援拠点事業

5 要保護児童対策地域協議会


迷うのは,

2 母子健康包括支援センター(子育て世代包括支援センター) 

3 市区町村子ども家庭総合支援拠点


の2つだと思います。

もしまったく見当がつかないなら,根拠法を考えてみることをおすすめします。

母子健康包括支援センター(子育て世代包括支援センター)は,母子保健法に基づいて設置されています。

子どもの社会的自立までは担わないだろうという推測が成り立ちます。


ということで正解は,選択肢3です。

3 市区町村子ども家庭総合支援拠点


総合という名称からも幅広い支援を行うことが推測できそうです。


一応そのほかの選択肢も説明します。


1 児童家庭支援センター

児童家庭支援センターは,地域の児童の福祉に関する各般の問題につき、児童に関する家庭その他からの相談のうち、専門的な知識及び技術を必要とするものに応じ、必要な助言を行うとともに、市町村の求めに応じ、技術的助言その他必要な援助、児童相談所、児童福祉施設等との連絡調整その他厚生労働省令の定める援助を総合的に行います。


4 地域子育て支援拠点事業

地域子育て支援拠点事業は,乳児又は幼児及びその保護者が相互の交流を行う場所をつくる事業です。


5 要保護児童対策地域協議会

要保護児童対策地域協議会は,「要保護児童・要支援児童・保護者・特定妊婦」(支援対象児童等への適切な支援を図るために必要な情報の交換,支援対象児童等に対する支援の内容に関する協議を行います。

2022年7月25日月曜日

母子及び父子並びに寡婦福祉法

母子及び父子並びに寡婦福祉法は,最初は母子を対象として成立し,その後寡婦が加わり,さらに現在は,父子も加わりました。


この法律では,

母子福祉資金・父子福祉資金・寡婦福祉資金

母子家庭日常生活支援事業

母子家庭就業支援事業

母子家庭自立支援給付金

母子・父子福祉施設


などが規定されています。


それでは今日の問題です。


第31回・問題138 母子及び父子並びに寡婦福祉法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 地方公共団体は,母子家庭・父子家庭が民間の住宅に入居するに際して,家賃の補助等の特別の配慮をしなければならない。

2 この法律にいう児童とは,18歳に満たない者をいう。

3 この法律にいう寡婦とは,配偶者と死別した女子であって,児童を扶養した経験のないものをいう。

4 都道府県は,児童を監護しない親の扶養義務を履行させるために,養育費の徴収を代行することができる。

5 都道府県は,母子家庭の母親が事業を開始・継続するのに必要な資金を貸し付けることができる。


なかなかの難問です。


それでは,解説です。


1 地方公共団体は,母子家庭・父子家庭が民間の住宅に入居するに際して,家賃の補助等の特別の配慮をしなければならない。


特別の配慮をしなければならないのは,公営住宅の供給を行う場合です。


2 この法律にいう児童とは,18歳に満たない者をいう。


母子及び父子並びに寡婦福祉法は,児童を20歳未満に規定している珍しい法律です。このほかに20歳未満に規定しているものとしては,児童扶養手当法があります。

3 この法律にいう寡婦とは,配偶者と死別した女子であって,児童を扶養した経験のないものをいう。


寡婦とは,配偶者のない女子であつて、かつて配偶者のない女子として児童を扶養していたことのあるものです。


4 都道府県は,児童を監護しない親の扶養義務を履行させるために,養育費の徴収を代行することができる。


扶養義務の履行については,以下のように規定されています。


国及び地方公共団体は、母子家庭等の児童が心身ともに健やかに育成されるよう、当該児童を監護しない親の当該児童についての扶養義務の履行を確保するために広報その他適切な措置を講ずるように努めなければならない。


5 都道府県は,母子家庭の母親が事業を開始・継続するのに必要な資金を貸し付けることができる。


これが正解です。

母子福祉資金の貸付けには,母子家庭の母親が事業を開始し、又は継続するのに必要な資金が含まれます。


2022年7月24日日曜日

児童虐待が疑われる事例での対応

今回は,前説なしに問題を解いてみてください。

 

31回・問題137 Ⅹ保育園に転園して間もないGちゃん(5歳)は,父親が迎えに来るとおびえた表情をする。母親の顔にはあざができていることもあった。今朝,Gちゃんを送ってきた母親の顔は腫れており,保育士が声を掛けると避けて,すぐに帰ってしまった。お昼寝の時間になり,Gちゃんは保育士の耳元で,昨夜,父親が母親を激しく殴ったことを打ち明けた。Gちゃんが寝た後,保育士はこのことを園長に報告した。

 次の記述のうち,保育所の初動対応として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 職員会議を開いて全職員にこのことを伝え,意見を聞いて対応を検討する。

2 園長から児童相談所に通告する。

3 母親が迎えに来たら,詳しい状況を聞くことにする。

4 Gちゃんの家庭の様子を,近隣に住んでいる他の園児の保護者に聞く。

5 父親と連絡を取り,Gちゃんの話を伝え,状況を尋ねる。

 

児童虐待防止法では,以下の規定があります。

 

児童虐待に係る通告

児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は,速やかに,これを市町村,都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村,都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。

 

児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者には,通告義務が課せられています。

 

ただし,通告しなかったからといって,罰則はありません。

 

正解は,選択肢2です。

 

2 園長から児童相談所に通告する。

 

「児童虐待防止法に基づく」と設問になくても,児童虐待防止法に規定された対応が必要です。

 

虐待事例では,以下が対応の基本です。

 

正解を2つ選ぶ問題の場合は,

①通報

②協議

 

を選ぶので良いですが,1つ選ぶ場合は,

①通報

 

が最も優先されます。

 

これが虐待が疑われる事例問題の基本です。

状況確認よりも通報が優先されます。


そのため,以下はすべて最も優先されるものではありません。

1 職員会議を開いて全職員にこのことを伝え,意見を聞いて対応を検討する。

3 母親が迎えに来たら,詳しい状況を聞くことにする。

4 Gちゃんの家庭の様子を,近隣に住んでいる他の園児の保護者に聞く。

5 父親と連絡を取り,Gちゃんの話を伝え,状況を尋ねる。


選択肢4と5はもともと適切になることはありませんが,選択肢1と3は,どちらが優先されるかは明確ではないと思いませんか?

それでも出題することができるのは,圧倒的に正解が別にあるからです。

事例問題で正解になるのは明快な根拠があります。そこに気がつかないとミスすることになるので注意が必要です。

2022年7月23日土曜日

障害児入所施設

障害児支援は,2012年(平成24年)の児童福祉法改正で,障害児通所支援と障害児入所支援に再編されています。

出典は,厚生労働省ホームページ「障害児支援施策」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000117218.html


障害種別になっていたものを一元化したのがよくわかるでしょう。


障害児通所支援は,市町村が支給決定します。

障害児入所支援は,都道府県が支給決定します。


このように役割が分かれているところが複雑です。だから出題されます。


旧制度で,(医)と書かれているのが医療のサービスを提供していた施設です。


日本初の肢体不自由児施設は,整枝療護園です。


国家試験でも何度も出題されていますが,高木憲次先生が創設したものです。


日本初の重症心身障害児施設は,島田療育園(現在は島田療育センター)です。一度しか出題されたことはありませんが,今日のテーマを理解するのにとても重要な施設となっています。


医療型障害児入所施設は,児童福祉施設でありながら,医療法の病院でもあります。


島田療育園を創設した小林提樹先生は,重症心身障害児施設を創設したかったのですが,児童福祉施設としては認められなかったため,医療施設として開設し,その後に児童福祉法が改正されて児童福祉施設になりました。


多くの人は,制度ができた後に参入してきますが,制度ができる前には,いろいろな苦労があるものです。


近年は,制度を作るために,先にモデル事業の予算をつけて,その実績をもとに制度化していくことが多いですが,地方の取り組みや民間の取り組みを国が認めて制度化したものはいっぱいあります。


それでは,今日の問題です。


第31回・問題136 医療型障害児入所施設に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 医療法に規定する病院として必要な設備を設けることとなっている。

2 環境上の理由により社会生活への適応が困難になった児童が入所対象である。

3 児童の遊びを指導する者を配置しなければならない。

4 障害児入所給付費に関する事務は市町村が行っている。

5 虐待を受けた児童ではないことが入所の要件となっている。


前説によって,想像がつくと思いますが,正解は選択肢1です。


1 医療法に規定する病院として必要な設備を設けることとなっている。


医療型障害児入所施設は,児童福祉法が規定する児童福祉施設ですが,同時に医療法が規定する病院でもあります。


先人の苦労がよくわかると思いませんか。


それでは,ほかも解説します。


2 環境上の理由により社会生活への適応が困難になった児童が入所対象である。


入所対象は,医療を必要とする障害児です。


3 児童の遊びを指導する者を配置しなければならない。


児童の遊びを指導する者が配置されるのは,児童遊園と児童館です。


4 障害児入所給付費に関する事務は市町村が行っている。


市町村がかかわるのは,障害児通所支援です。

障害児入所支援は,都道府県の役割です。


5 虐待を受けた児童ではないことが入所の要件となっている。


虐待の有無は入所要件ではありません。

2022年7月22日金曜日

高齢者虐待が疑われる事例問題の対策

高齢者虐待防止法には,以下の規定があります。

 

養護者による高齢者虐待に係る通報等


第7条 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は,当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は,速やかに,これを市町村に通報しなければならない。

2 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は,速やかに,これを市町村に通報するよう努めなければならない。

3 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は,前二項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。

第8条 当該通報又は届出を受けた市町村の職員は,その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない。


 

細かい話を言えば,児童虐待防止法と障害者虐待防止法では,虐待を受けたと思われる者を発見した場合に通告(通報)の義務が規定されていますが,高齢者虐待防止法で通報義務があるのは,生命又は身体に重大な危険が生じている場合です。

 

それ以外の場合は,努力義務となっています。

 

ちょっと異なりますが,いずれにせよ,通報するのはかなり優先度の高いものとなります。

 

なぜなら,生命又は身体に重大な危険が生じているかどうかはわからないことが多いからです。

 

ここを押さえておかないと虐待が疑われる事例問題では間違う恐れがあるので注意が必要です。

 

それでは,今日の問題です。

 

31回・問題135 事例を読んで,R市の地域包括支援センターのC社会福祉士の対応に関する次の記述のうち,現時点で最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 Dさん(70歳,男性)は,脳梗塞の後遺症で右半身に麻痺があり,軽度の認知症がある。要介護2の認定を受けており,週2回デイサービスを利用している。この地区のE民生委員からC社会福祉士に電話があり,「隣家の人から,頻繁に同居の息子Fさん(43歳)の大声がしてDさんのことが心配だという連絡があった。Fさんは無職で日中は家に居るが,自分は家に入れてもらえないので状況を確認してほしい」とのことであった。

1 家に他人を入れたくないようなので,警察官に同行してもらう。

2 隣家の人から様子を心配する電話があり訪問したことを告げて,現在の状況を調査する。

3 隣家の人に事情を話し,変化があったら報告するように頼む。

4 虐待に迅速に対応できるよう,Dさんの保護に必要な居室を確保する。

5 R市の虐待防止担当者に通報し,Dさんの担当の介護支援専門員,デイサービススタッフ,E民生委員などと対応を協議する。

 

この問題についてある先生がとても興味深いことを言っていたことを思い出します。

 

選択肢3の「隣家の人に事情を話し,変化があったら報告するように頼む」についてです。

 

「変化があったら報告する」という依頼方法について,これでは何も手を打っていないことと同じである,ということでした。連絡してもらいたいなら,具体的な事態をいくつか想定しておいて,それを伝えておかなければならない。

 

同じようにクライエントや部下に対して「困ったことがあったら相談してください」という言い方も具体的に伝えないといけません。

 

それをせずに何か問題が発生した時「なぜ連絡(相談)してくれなかったのですか」と言いますが,「変化がないと思ったから」「困っているかどうかわからなかったから」ということもあります。

 

もし相談等がなかったとしたら,それは自分の伝え方に誤りがあると考えるのが大切です。

 

といったことでした。

 

それでは解説です。

 

1 家に他人を入れたくないようなので,警察官に同行してもらう。

 

警察に援助を要請するのは,立入調査する市町村です。

 

2 隣家の人から様子を心配する電話があり訪問したことを告げて,現在の状況を調査する。

 

隣家の人から様子を心配する電話があり訪問したことを告げるのは,高齢者虐待防止法では,「当該通報又は届出を受けた市町村の職員は,その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない」。と警鐘を鳴らすとても危険なことです。

 

地域包括支援センターの職員は,通報又は届出を受けた職員ではないので,この規定に抵触するものではありませんが,とても危険な言動であることを忘れてはなりません。

 

場合によっては,逆恨みによって隣家の人に危害が及ぶ危険性があるのです。

 

3 隣家の人に事情を話し,変化があったら報告するように頼む。

 

先に述べたように,本当に報告してほしい場合は,具体的にその内容を伝える必要があります。

 

そもそも隣家の人を巻き込むこと自体が不適切です。

 

4 虐待に迅速に対応できるよう,Dさんの保護に必要な居室を確保する。

 

居室の確保を行うのは,通報を受けた市町村です。

 

5 R市の虐待防止担当者に通報し,Dさんの担当の介護支援専門員,デイサービススタッフ,E民生委員などと対応を協議する。

 

これが正解です。

 

この問題では,正解を1つ選ぶ問題で,必要な要素を2つ入れた文章になっています。

 

これをばらすと

 

①通報

②協議

 

の2つの要素があります。

 

正解を2つ選ぶ問題の場合は,

①通報

②協議

 

を選ぶので良いですが,1つ選ぶ場合は,

①通報

 

が最も優先されます。

 

これが虐待が疑われる事例問題の基本です。

状況確認よりも通報が優先されます。

2022年7月21日木曜日

老人福祉法のポイント

 高齢者の介護ニーズ等に対応する法制度は,介護保険法が中心です。


しかし,老人福祉法も重要です。


介護保険サービスには,介護保険法によって規定されているサービスもありますが,中には,老人福祉法に規定されているものを指定して,介護保険サービスに位置づけているものもあります。


特別養護老人ホーム,老人デイサービスセンターなどがそうです。


これらは,介護保険では,それぞれ介護老人福祉施設,通所介護となります。


老人福祉法が規定する老人福祉施設

・老人デイサービスセンター

・老人短期入所施設

・養護老人ホーム

・特別養護老人ホーム

・軽費老人ホーム

・老人福祉センター

・老人介護支援センター


老人福祉法が規定する老人ホームには,このほかに有料老人ホームがありますが,これは老人福祉施設に含まれません。


老人福祉法が出題されるとき,養護老人ホームを絡めることが多い傾向にあります。


いかにも福祉っぽい施設だからでしょう。


養護老人ホームの入所要件は,65歳以上で,環境上の理由及び経済的理由により,居宅で養護を受けることが困難なものです。


経済的理由というところがポイントです。


養護老人ホームは,救護法で養老院として規定され,生活保護法で養老施設となり,老人福祉法で養護老人ホームとなったという経過をたどっています。


老人福祉は,高齢者の救貧対策から始まったことがわかるでしょう。

老人福祉法によって,救貧から社会福祉制度になりました。


養護老人ホームと特別養護老人ホームは,市町村長の措置によって入所します。


介護保険制度が始まった時,養護老人ホームは介護も提供していましたが,2005年の老人福祉法の改正によって,介護を提供する際は,特定施設入居者生活介護として指定を受けて,介護保険サービスとして介護を提供しています。


特別養護老人ホームは,老人福祉法ができたときに,創設されたものです。入所要件は,65歳以上者で,身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とし,かつ居宅で介護を受けることが困難なものです。


それでは,今日の問題です。


第31回・問題134 老人福祉法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 社会福祉法人は,厚生労働大臣の認可を受けて,養護老人ホーム又は特別養護老人ホームを設置することができる。

2 有料老人ホームの設置者は,あらかじめその施設を設置しようとする地域の市町村長に法定の事項を届け出なければならない。

3 民生委員は,老人福祉法の施行について,市町村長,福祉事務所長又は社会福祉主事の指示に従わなければならない。

4 都道府県は,老人福祉施設を設置することができる。

5 国は,教養講座,レクリエーションその他広く老人が自主的かつ積極的に参加できる事業の実施に努めなければならない。


なかなかの難問です。


それでは,解説です。


1 社会福祉法人は,厚生労働大臣の認可を受けて,養護老人ホーム又は特別養護老人ホームを設置することができる。


養護法人ホーム等の設置は,認可主義が取られていることは適切ですが,認可するのは都道府県知事です。


厚生労働大臣が認可するには,数が多すぎます。


注意したいのは,市町村長ではないことです。認可等の事務は基本的には市町村が行うことはありません。


市町村が行うのは,基礎的地方公共団体としての役割,つまり基本的な住民サービスです。


2 有料老人ホームの設置者は,あらかじめその施設を設置しようとする地域の市町村長に法定の事項を届け出なければならない。


有料老人ホームの届出先は,都道府県知事です。認可,許可,認証,届出,指定等は基本的に都道府県の役割です。


3 民生委員は,老人福祉法の施行について,市町村長,福祉事務所長又は社会福祉主事の指示に従わなければならない。


民生委員は,生活保護法と同様に,老人福祉法でも協力機関です。


4 都道府県は,老人福祉施設を設置することができる。


これが正解です。


何となく舌足らずのような感じがしますが,法の規定のままの表現です。


舌足らずになっている理由は,以下の規定から切り取ったものだからです。


・都道府県は、老人福祉施設を設置することができる。

・国及び都道府県以外の者は,厚生労働省令の定めるところにより,あらかじめ,厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出て,老人デイサービスセンター、老人短期入所施設又は老人介護支援センターを設置することができる。

・市町村及び地方独立行政法人は,厚生労働省令の定めるところにより,あらかじめ,厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出て,養護老人ホーム又は特別養護老人ホームを設置することができる。

・社会福祉法人は,厚生労働省令の定めるところにより,都道府県知事の認可を受けて,養護老人ホーム又は特別養護老人ホームを設置することができる。


都道府県は,認可や届出がなくても老人福祉施設を設置することができる,という意味なのです。


社会福祉法人の場合,養護老人ホーム又は特別養護老人ホームを設置するときは,都道府県知事の認可を受けること,老人デイサービスセンター、老人短期入所施設又は老人介護支援センターを設置するときは,都道府県知事へ事前に届出ることがそれぞれ必要です。


5 国は,教養講座,レクリエーションその他広く老人が自主的かつ積極的に参加できる事業の実施に努めなければならない。


教養講座,レクリエーションその他の事業の実施に努めなければならないのは,地方公共団体です。

2022年7月20日水曜日

地域包括支援センターの規定

 地域包括支援センターは,現時点(2022年7月)では,社会福祉士の配置義務がある唯一の機関です。


2005年に創設されていますが,地域包括支援センターに続く2つめは未だにありません。


地域包括支援センターは,介護保険制度の地域支援事業の包括的支援事業に位置づけられています。


障害者総合支援法の地域生活支援事業は,都道府県が実施する事業と市町村が実施する事業がありますが,介護保険の地域支援事業に都道府県の役割はほとんどありません。


それでは今日の問題です。


第31回・問題133 地域包括支援センターに関する介護保険法の規定についての次の記述のうち,正しいものを2つ選びなさい。

1 市町村は,地域包括支援センターを設置しなければならない。

2 地域包括支援センターの設置者は,包括的支援事業に関して,都道府県が条例で定める基準を遵守しなければならない。

3 地域包括支援センターの設置者若しくはその職員又はこれらの職にあった者は,正当な理由なしに,その業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。

4 都道府県は,定期的に,地域包括支援センターにおける事業の実施状況について,評価を行わなければならない。

5 地域包括支援センターの設置者は,自ら実施する事業の質の評価を行うことにより,その事業の質の向上に努めなければならない。


この問題は,不適切問題となったものです。


不適切問題があるとその問題は全員が正解したものとして取り扱われ,1点くれます。


その科目が0点だった人にとっては救われますが,そうではない人にとっては,全員に加点されることから,合格基準点も上がるため,決して良いことではありません。


自分だけに加点してくれればよいのですが,そんな都合の良いことはないので,不適切問題があることは,実は受験者にとってはとても辛い事態になりかねません。


それでは,解説です。


1 市町村は,地域包括支援センターを設置しなければならない。


地域包括支援センターの設置は,実は任意です。


この出題があるまで知らなかった人も多かったのではないかと思います。


2 地域包括支援センターの設置者は,包括的支援事業に関して,都道府県が条例で定める基準を遵守しなければならない。


条例で基準を定めるのは,市町村です。


地域支援事業には都道府県の役割はほとんどありません。


唯一あるのは,市町村が行う介護予防・日常生活支援総合事業等に関して,情報の提供その他市町村に対する支援に努めることのみです。


3 地域包括支援センターの設置者若しくはその職員又はこれらの職にあった者は,正当な理由なしに,その業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。


これは正解です。


4 都道府県は,定期的に,地域包括支援センターにおける事業の実施状況について,評価を行わなければならない。


評価を行うのは市町村です。


また評価の実施は,義務ではなく努力義務です。


5 地域包括支援センターの設置者は,自ら実施する事業の質の評価を行うことにより,その事業の質の向上に努めなければならない。


本来,もう1つの正解はこの選択肢になる予定でした。


不適切となった理由は,以下の通りです。


正 自ら実施する事業の質の評価を行うことにより


誤 自らその実施する事業の質の評価を行うことその他必要な措置を講ずることにより


その他必要な措置を講ずることが抜けていたためです。


受験者の立場ではどちらでもよいと思いますが,政策上では「その他必要な措置を講ずること」を加えていることはとても重要なことです。


「質の評価」だけではなく,ほかの代替する方法でも良いことを意味するからです。


そういった意味で,この問題を作った試験委員は大チョンボをしたと言えます。


近年,不適切問題はあまりないのですが,うっかりミスは受験者だけではなく,試験委員にもあるようです。


2022年7月19日火曜日

介護サービス相談員派遺等事業

「介護サービス相談員派遺等事業」は,以前の「介護相談員派遺等事業」から変わったものです。


この変更によって「介護相談員」は「介護サービス相談員」という名称に変わり,派遣先に住宅型有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)が加わっています。


介護相談員もわかりにくい名称でしたが,介護サービス相談員も相変わらずわかりにくい名称です。


介護サービス相談員派遺等事業は,介護保険の地域支援事業の任意事業だということもあり,実際に実施している市町村は少なく,そのため介護保険関係で働いている人でさえ,知らない人も多いようです。


介護サービス相談員は,専門職のように思う人も多いと思いますが,専門職ではなくボランティアです。



出典は,厚生労働省ホームページ「介護サービス相談員、及び介護サービス相談員派遣等事業について」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000114158_00001.html


それでは,今日の問題です。なお,出題されたのはまだ「介護相談員派遣等事業」のときです。


第31回・問題132 介護相談員に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 介護相談員派遣等事業の実施主体は,都道府県である。

2 介護相談員派遣等事業は,苦情に至る事態を防止すること及び利用者の日常的な不平・不満又は疑問に対応して改善の途を探ることを目指すものである。

3 介護相談員の登録は,保健・医療・福祉分野の実務経験者であって,その資格を得るための試験に合格した者について行われる。

4 介護相談員派遣等事業は,介護保険制度における地域支援事業として実施が義務づけられている。

5 介護相談員が必要と判断した場合,相談者の同意がなくても,その相談者に関する情報を市町村等に提供することができる。


介護サービス相談員は,専門職っぽい名称なので引っ掛けで出題されることが多いですが,この時は,一問丸ごと出題されています。


それでは,解説です。


1 介護相談員派遣等事業の実施主体は,都道府県である。


介護サービス相談員派遣等事業は,市町村が実施主体です。


介護サービス相談員派遣等事業は,介護保険の地域支援事業に位置づけられています。


障害者総合支援法の地域生活支援事業は,都道府県が実施する事業と市町村が実施する事業がありますが,介護保険の地域支援事業には,市町村が実施する事業しかありません。


2 介護相談員派遣等事業は,苦情に至る事態を防止すること及び利用者の日常的な不平・不満又は疑問に対応して改善の途を探ることを目指すものである。


これが正解です。

ただし,介護サービス相談員はボランティアなので,橋渡し役の位置づけにとどまることを押さえておきたいです。


3 介護相談員の登録は,保健・医療・福祉分野の実務経験者であって,その資格を得るための試験に合格した者について行われる。


介護サービス相談員は,都道府県等が実施する養成研修を受講したものが市町村に登録して活動します。試験なんてありません。


4 介護相談員派遣等事業は,介護保険制度における地域支援事業として実施が義務づけられている。


介護サービス相談員派遣等事業は,地域支援事業の任意事業です。



5 介護相談員が必要と判断した場合,相談者の同意がなくても,その相談者に関する情報を市町村等に提供することができる。


介護サービス相談員でなくても,同意なしに個人情報を第三者に提供することが認められることはめったにありません。


それはどんな時でしょうか。


①クライエントその他の人に危害が及ぶことが予測される場合


②法令で定められている場合


介護サービス相談員が持つ情報は,この問題に従えば「利用者の日常的な不平・不満又は疑問」です。


これを同意なしに市町村等に提供する重大事案とはならないでしょう。


ということで,同意がなければ第三者に提供することができない類いの情報です。

2022年7月18日月曜日

要介護認定について

介護保険は,介護保険の被保険者が,指定事業者が提供する介護サービスを利用した場合,介護保険の保険給付を受けられるものです。


本来は,保険者は被保険者に対して給付を行うのですが,それでは面倒なことが多いので,保険者にとっても被保険者にとっても利便性の高い制度を作り上げられています。


制度の根本を押さえておかないと思わぬところでのミスにつながるので注意が必要です。


それでは今日の問題です。


第31回・問題130 介護保険制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 被保険者は,都道府県に対して,当該被保険者に係る被保険者証の交付を求めることができる。

2 要介護認定は,その申請のあった日にさかのぼってその効力を生ずる。

3 介護給付を受けようとする被保険者は,要介護者に該当すること及びその該当する要介護状態区分について,主治の医師の認定を受けなければならない。

4 要介護認定は,要介護状態区分に応じて市町村の条例で定める期間内に限り,その効力を有する。

5 市町村は,政令で定めるところにより一般会計において,介護給付及び予防給付に要する費用の額の100分の25に相当する額を負担する。


注意したいことがあります。


選択肢5です。


公費負担の分は,一般会計から介護保険特別会計に繰り入れます。

公費負担分を含めた財布(特別会計)に入れたお金(財政)で介護保険は運営されます。


介護保険というと,特別会計だと単純に覚えていると間違えますので要注意です。


それでは,解説です。


1 被保険者は,都道府県に対して,当該被保険者に係る被保険者証の交付を求めることができる。


被保険者証を交付するのは,保険者である市町村です。


2 要介護認定は,その申請のあった日にさかのぼってその効力を生ずる。


これが正解です。


要介護認定には,時間がかかるので,申請日にさかのぼって適用する仕組みになっています。


3 介護給付を受けようとする被保険者は,要介護者に該当すること及びその該当する要介護状態区分について,主治の医師の認定を受けなければならない。


要介護状態区分の認定を行うのは市町村です。


4 要介護認定は,要介護状態区分に応じて市町村の条例で定める期間内に限り,その効力を有する。


要介護認定の有効期間は,国が定めた期間内で有効です。


5 市町村は,政令で定めるところにより一般会計において,介護給付及び予防給付に要する費用の額の100分の25に相当する額を負担する。


市町村の公費負担割合は,100分の12.5です。


先に述べたように,100分の12.5にあたる分を一般会計から特別会計に繰り入れて,運用します。

2022年7月17日日曜日

介護保険制度の任意事業

介護保険の任意事業には,以下のものがあります。

 

介護給付費等適正化事業

介護保険事業の運営の安定化のため,認定調査状況のチェック,ケアプラン点検,住宅改修等の点検等を行うもの。

家族介護支援事業

介護を行う家族に対して,介護知識や技術に関する教室や介護者同士の交流会の開催等を行うもの。

その他の事業

介護保険事業の運営の安定化及び被保険者の地域における自立した日常生活の支援のために行うもの。

 

その他の事業の中には,介護サービス相談員派遺等事業(旧介護相談員派遺等事業)もあります。

 

介護サービス相談員派遺等事業の概要

 

出典は,厚生労働省ホームページ「介護サービス相談員、及び介護サービス相談員派遣等事業について」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000114158_00001.html

 

介護サービス相談員派遺等事業は,また改めて取り上げます。

 

それでは,今日の問題です。

 

26回・問題133 介護保険制度における保険者としての市町村の役割に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 要介護認定において,限界集落や離島,豪雪地帯などの地理的特性や,同居家族の有無などの家庭環境,所得などの経済的状況等に配慮した独自の認定基準を,地域ごとに条例により定めることができる。

2 地域支援事業の任意事業として,介護方法の指導,介護者の健康相談実施,認知症見守り支援事業等の家族介護支援事業を実施することができる。

3 地域密着型サービスに関し,その適正な事業運営に資するとともに,地域に開かれたサービスとすることでサービスの質の確保と向上を図るために,運営適正化委員会を設置しなければならない。

4 介護保険施設に入所している低所得の要介護者等について,入所中の居住費及び食費の負担に関し,一般会計を財源として特定入所者介護サービス費(いわゆる補足給付)の給付を行うことができる。

5 介護保険財政の安定化を図るため,財政安定化基金を設置して,保険料未納により収入不足が生じた場合に交付金を交付したり,給付費の増大のために収支不均衡が生じた場合に資金を貸与したりするなどの事業を行うことができる。

 

 

この問題は,過去にも取り上げたことがありますが,重要なのでもう一度取り上げました。

 

正解は,選択肢2です。

 

2 地域支援事業の任意事業として,介護方法の指導,介護者の健康相談実施,認知症見守り支援事業等の家族介護支援事業を実施することができる。

 

任意事業が出題されることはそれほど多くないこともあり,家族介護支援事業が出題されたのはこの時1回だけです。

 

それではほかの選択肢も確認します。

 

1 要介護認定において,限界集落や離島,豪雪地帯などの地理的特性や,同居家族の有無などの家庭環境,所得などの経済的状況等に配慮した独自の認定基準を,地域ごとに条例により定めることができる。

 

要介護認定の認定基準は,厚生労働省が定めるので全国同じです。

 

市町村が独自に定めることはできません。

 

3 地域密着型サービスに関し,その適正な事業運営に資するとともに,地域に開かれたサービスとすることでサービスの質の確保と向上を図るために,運営適正化委員会を設置しなければならない。

 

運営適正化委員会を設置・運営するのは,都道府県社会福祉協議会です。

 

4 介護保険施設に入所している低所得の要介護者等について,入所中の居住費及び食費の負担に関し,一般会計を財源として特定入所者介護サービス費(いわゆる補足給付)の給付を行うことができる。

 

特定入所者介護サービス費(いわゆる補足給付)の給付は,市町村が行うのは適切ですが,財源は一般会計ではなく,介護保険特別会計です。

 

 

5 介護保険財政の安定化を図るため,財政安定化基金を設置して,保険料未納により収入不足が生じた場合に交付金を交付したり,給付費の増大のために収支不均衡が生じた場合に資金を貸与したりするなどの事業を行うことができる。

 

財政安定化基金は,都道府県が設置します。また,設置は任意ではなく義務です。

2022年7月16日土曜日

介護保険制度の包括的支援事業

 介護保険制度の地域支援事業は,


①介護予防・日常生活支援総合事業

②包括的支援事業

③任意事業


があります。前回まで数回にわたって「①介護予防・日常生活支援総合事業」を取り上げてきました。


今回は,「②包括的支援事業」です。

地域包括支援センター事業

介護予防ケアマネジメント業務

要支援者(予防給付を利用しない場合),基本チェックリスト該当者に対する訪問型サービス,通所型サービス,その他の生活支援サービス等のケアマネジメント。

総合相談・支援業務

高齢者の相談受付・支援等。

権利擁護業務

高齢者の権利擁護の支援,虐待防止等。

包括的・継続的ケアマネジメント支援業務

社会資源を活用したケアマネジメント体制の構築。

地域の介護支援専門員の資質向上のための後方支援。

在宅医療・介護連携推進事業

高齢者などが医療機関を退院する際における医療関係者と介護関係者の連携の調整や相互の紹介など。

生活支援体制整備事業

生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)及び生活支援サービスの提供主体による情報共有・連携強化の場としての協議体の設置。

認知症総合支援事業

認知症初期集中支援チーム編成と認知症地域支援推進員の配置。

地域ケア会議推進事業

地域包括ケアシステム構築に向けた多職種で協働し地域課題を地域づくりや政策形成などを行う地域ケア会議を推進する事業。




全部で8つもあるので覚えるのは大変です。

しかし,事業名はその内容を示しているので,おおよそこんな内容のものがあったということがわかっていれば国家試験では対応可能です。

問題の中に答えが必ずあるからです。



それでは,今日の問題です。



第29回・問題131 介護保険制度の地域支援事業における包括的支援事業に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 総合相談支援業務では,日常生活自立支援事業や成年後見制度といった権利擁護を目的とするサービスや制度を利用するための支援などが行われる。

2 包括的・継続的ケアマネジメント支援業務では,地域内の要介護者などやその家族に対し,日常的な介護予防に関する個別指導や相談などが実施される。

3 在宅医療・介護連携推進事業では,高齢者などが医療機関を退院する際,必要に応じ,医療関係者と介護関係者の連携の調整や相互の紹介などが行われる。

4 生活支援体制整備事業では,生活支援コーディネーターと生活支援サービスの提供主体による情報共有・連携強化の場として,地域ケア会議が設置される。

5 認知症総合支援事業では,民生委員や地域内のボランティアによる認知症初期集中支援チームが設置される。





今,改めて問題を見ると知識があるのでそれほど難しくはないですが,この問題が出題された当時は,とてつもなく難しい問題に思えました。

こんなところまで出題するのか,と思ったものです。

第28回国試では地域支援事業が出題されていましたが,地域支援事業は,地域包括支援センター以外はノーマークだった人が多かったのではないかと思います。

近年では,介護給付の内容よりもむしろ地域支援事業の出題が出題されています。

それでは,解説です。





1 総合相談支援業務では,日常生活自立支援事業や成年後見制度といった権利擁護を目的とするサービスや制度を利用するための支援などが行われる。


日常生活自立支援事業や成年後見制度といった権利擁護を目的とするサービスや制度を利用するための支援などを行うのは,権利擁護業務です。

総合相談支援業務は,地域内の要介護者などやその家族に対し,日常的な介護予防に関する個別指導や相談などを行うものです。


2 包括的・継続的ケアマネジメント支援業務では,地域内の要介護者などやその家族に対し,日常的な介護予防に関する個別指導や相談などが実施される。


地域内の要介護者などやその家族に対し,日常的な介護予防に関する個別指導や相談などを実施するのは,総合相談業務です。

包括的・継続的ケアマネジメント支援業務は,社会資源を活用したケアマネジメント体制の構築,地域の介護支援専門員の資質向上のための後方支援などを行います。


3 在宅医療・介護連携推進事業では,高齢者などが医療機関を退院する際,必要に応じ,医療関係者と介護関係者の連携の調整や相互の紹介などが行われる。

これが正解です。


在宅医療・介護連携推進事業は,高齢者などが医療機関を退院する際,必要に応じ,医療関係者と介護関係者の連携の調整や相互の紹介などを行うものです。


4 生活支援体制整備事業では,生活支援コーディネーターと生活支援サービスの提供主体による情報共有・連携強化の場として,地域ケア会議が設置される。

生活支援体制整備事業で設置されるのは,協議体です。


5 認知症総合支援事業では,民生委員や地域内のボランティアによる認知症初期集中支援チームが設置される。


認知症総合支援事業によって,認知症初期集中支援チームが設置されるのは,適切ですが,構成メンバーは医療,保健,福祉などの専門職です。

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