高齢者虐待防止法には,以下の規定があります。
養護者による高齢者虐待に係る通報等
第7条 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は,当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は,速やかに,これを市町村に通報しなければならない。 2 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は,速やかに,これを市町村に通報するよう努めなければならない。 3 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は,前二項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。 第8条 当該通報又は届出を受けた市町村の職員は,その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない。 |
細かい話を言えば,児童虐待防止法と障害者虐待防止法では,虐待を受けたと思われる者を発見した場合に通告(通報)の義務が規定されていますが,高齢者虐待防止法で通報義務があるのは,生命又は身体に重大な危険が生じている場合です。
それ以外の場合は,努力義務となっています。
ちょっと異なりますが,いずれにせよ,通報するのはかなり優先度の高いものとなります。
なぜなら,生命又は身体に重大な危険が生じているかどうかはわからないことが多いからです。
ここを押さえておかないと虐待が疑われる事例問題では間違う恐れがあるので注意が必要です。
それでは,今日の問題です。
第31回・問題135 事例を読んで,R市の地域包括支援センターのC社会福祉士の対応に関する次の記述のうち,現時点で最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
Dさん(70歳,男性)は,脳梗塞の後遺症で右半身に麻痺があり,軽度の認知症がある。要介護2の認定を受けており,週2回デイサービスを利用している。この地区のE民生委員からC社会福祉士に電話があり,「隣家の人から,頻繁に同居の息子Fさん(43歳)の大声がしてDさんのことが心配だという連絡があった。Fさんは無職で日中は家に居るが,自分は家に入れてもらえないので状況を確認してほしい」とのことであった。
1 家に他人を入れたくないようなので,警察官に同行してもらう。
2 隣家の人から様子を心配する電話があり訪問したことを告げて,現在の状況を調査する。
3 隣家の人に事情を話し,変化があったら報告するように頼む。
4 虐待に迅速に対応できるよう,Dさんの保護に必要な居室を確保する。
5 R市の虐待防止担当者に通報し,Dさんの担当の介護支援専門員,デイサービススタッフ,E民生委員などと対応を協議する。
この問題についてある先生がとても興味深いことを言っていたことを思い出します。
選択肢3の「隣家の人に事情を話し,変化があったら報告するように頼む」についてです。
「変化があったら報告する」という依頼方法について,これでは何も手を打っていないことと同じである,ということでした。連絡してもらいたいなら,具体的な事態をいくつか想定しておいて,それを伝えておかなければならない。
同じようにクライエントや部下に対して「困ったことがあったら相談してください」という言い方も具体的に伝えないといけません。
それをせずに何か問題が発生した時「なぜ連絡(相談)してくれなかったのですか」と言いますが,「変化がないと思ったから」「困っているかどうかわからなかったから」ということもあります。
もし相談等がなかったとしたら,それは自分の伝え方に誤りがあると考えるのが大切です。
といったことでした。
それでは解説です。
1 家に他人を入れたくないようなので,警察官に同行してもらう。
警察に援助を要請するのは,立入調査する市町村です。
2 隣家の人から様子を心配する電話があり訪問したことを告げて,現在の状況を調査する。
隣家の人から様子を心配する電話があり訪問したことを告げるのは,高齢者虐待防止法では,「当該通報又は届出を受けた市町村の職員は,その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない」。と警鐘を鳴らすとても危険なことです。
地域包括支援センターの職員は,通報又は届出を受けた職員ではないので,この規定に抵触するものではありませんが,とても危険な言動であることを忘れてはなりません。
場合によっては,逆恨みによって隣家の人に危害が及ぶ危険性があるのです。
3 隣家の人に事情を話し,変化があったら報告するように頼む。
先に述べたように,本当に報告してほしい場合は,具体的にその内容を伝える必要があります。
そもそも隣家の人を巻き込むこと自体が不適切です。
4 虐待に迅速に対応できるよう,Dさんの保護に必要な居室を確保する。
居室の確保を行うのは,通報を受けた市町村です。
5 R市の虐待防止担当者に通報し,Dさんの担当の介護支援専門員,デイサービススタッフ,E民生委員などと対応を協議する。
これが正解です。
この問題では,正解を1つ選ぶ問題で,必要な要素を2つ入れた文章になっています。
これをばらすと
①通報
②協議
の2つの要素があります。
正解を2つ選ぶ問題の場合は,
①通報
②協議
を選ぶので良いですが,1つ選ぶ場合は,
①通報
が最も優先されます。
これが虐待が疑われる事例問題の基本です。
状況確認よりも通報が優先されます。