今回は,ベヴァリッジ報告を取り上げたいと思います。
ベヴァリッジは,5大巨悪(5つの巨人)を以下の方法で根絶することを考えました。
窮乏 ➡ 社会保険制度
疾病 ➡ 保健・医療制度
無知 ➡ 教育・科学制度
不潔 ➡ 住宅・環境制度
無為(怠惰) ➡ 労働・完全雇用制度
窮乏は,古くからある福祉ニーズです。
それまでのイギリスの救貧法や慈善組織協会(COS)は,生活に困窮する人を救済する救貧でした。
ベヴァリッジは,窮乏を社会保険制度で根絶しようと考えました。
社会保険制度は,防貧的に機能するので,ベヴァリッジは伝統的な救貧ではなく,防貧を目指していたことがわかると思います。
それでは今日の問題です。
第27回・問題23 社会的リスクに関する次の記述のうち,「ベヴァリッジ報告」で想定されていなかったものを1つ選びなさい。
1 疾病により労働者の収入が途絶えるおそれ
2 勤務先の倒産や解雇により生計の維持が困難になるおそれ
3 老齢による退職のために,稼働収入が途絶えるおそれ
4 保育や介護の社会化が不充分なため,仕事と家庭の両立が困難になるおそれ
5 稼得者の退職や死亡により被扶養者の生活が困窮するおそれ
この問題を目にしたとき,何と面白い問題を作ったものだと感じたことを思い出します。
今改めて考えると,「タクソノミーⅡ型」に分類される問題です。
5大巨悪「窮乏」「疾病」「無知」「不潔」「無為(怠惰)」の知識を照らし合わせて,これらに当てはまらないものを考えます。
1 疾病により労働者の収入が途絶えるおそれ
2 勤務先の倒産や解雇により生計の維持が困難になるおそれ
3 老齢による退職のために,稼働収入が途絶えるおそれ
5 稼得者の退職や死亡により被扶養者の生活が困窮するおそれ
これらは,すべて「窮乏」に関連します。
正解は,選択肢4です。
4 保育や介護の社会化が不充分なため,仕事と家庭の両立が困難になるおそれ
5大巨悪には,ワークライフバランス(仕事と生活の調和)に関連しそうなものはありません。
この問題は,5大巨悪の詳しい内容がわからずとも正解できる可能性があります。ベヴァリッジ報告が出された1942年当時と現代社会で変わったものは何かを考えた場合,選択肢4がクローズアップされてくるからです。
なお,社会福祉士の国家試験にはまだ出題されたことがありませんが,仕事と家庭の両立の間で葛藤することをワーク・ファミリー・コンフリクトといいます。
公認心理師では,以下のような問題が出題されています。
第1回・追加 ワーク・ファミリー・コンフリクトとして、不適切なものを1つ選べ。
① 仕事が忙しすぎたり、家事・育児の負担が大きい。
② 徹夜で家族の看病をして、職場で居眠りをしてしまう。
③ 仕事で疲れ切ってしまい、家族に食事を作る気力が出ない。
④ 仕事で大事な会議がある日に、子どもが熱を出したため会議に出席できない。
⑤ 教師が、教師として自分の子どもにも接してしまい、親として接することが難しい。
正解は,選択肢1です。
選択肢1だけ,「仕事が忙しいこと」と「家事・育児の普段が大きいこと」を述べているもので,役割葛藤の内容が述べられていません。