2023年5月31日水曜日

教育扶助には,小中学校への入学準備金は含まれない!

生活保護法の扶助は8種類ありますが,注意すべきものがいくつかあります。

 

その一つが「小中学校への入学準備金」です。

 

小中学校への入学準備金は教育扶助のように思いがちですが,生活扶助の「一時扶助」として給付されます。

 

間違いやすいものの一覧を紹介します。


小中学校等の入学にかかる費用は,教育扶助ではありません。


高等学校の授業料も教育扶助ではありません。


介護保険料は,介護扶助ではありません。


入院した時の生活費は,医療扶助ではありません。


施設入所した時の生活費は,介護扶助ではありません。


いかにも引っ掛けられそうだと思いませんか。


正しくは以下のとおりです。

小中学校等の入学にかかる費用

生活扶助

高等学校の授業料

生業扶助

介護保険サービスの利用料

介護扶助

介護保険料

生活扶助

入院した時の生活費

生活扶助

施設入所した時の生活費

生活扶助

 

こういったことを正しく覚えることが重要です。

それを今日の問題で確認します。

 

31回・問題65 生活保護の扶助の種類とその内容に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 介護扶助には,介護保険の保険料は含まれない。

2 生業扶助には,就職のための就職支度費は含まれない。

3 葬祭扶助には,遺体の検案のための費用は含まれない。

4 生活扶助には,小学生の子どもの校外活動参加のための費用が含まれる。

5 教育扶助には,小中学校への入学準備金が含まれる。

 

この問題は問題のつくりがとても上手だと思います。

試験委員のセンスを感じます。

 

それでは,解説です。

 

1 介護扶助には,介護保険の保険料は含まれない。

 

これが正解です。

 

知識不足だとこの選択肢は選べないでしょう。

 

介護扶助は,介護保険サービスを利用した時の利用料を給付するものです。

介護保険の保険料は,生活扶助の介護保険料加算として給付されます。

 

2 生業扶助には,就職のための就職支度費は含まれない。

 

就職支度費は,生業扶助に含まれます。

 

高等学校等就学費は生業扶助に含まれることも覚えておきたいです。

 

3 葬祭扶助には,遺体の検案のための費用は含まれない。

 

遺体の検案のための費用は,葬祭扶助に含まれます。

 

4 生活扶助には,小学生の子どもの校外活動参加のための費用が含まれる。

 

小学生の子どもの校外活動参加のための費用は,教育扶助に含まれます。

 

5 教育扶助には,小中学校への入学準備金が含まれる。

 

ようやく今日のテーマが登場しました。

 

小中学校への入学準備金は,教育扶助には含まれません。

生活扶助の一時扶助として給付されるからです。


この問題には出題されていませんが,介護保険の保険料も注意が必要です。

介護保険の保険料は,介護扶助ではなく,生活扶助の介護保険料加算として給付されます。

2023年5月30日火曜日

生活保護法が規定する扶助の種類

 生活保護の扶助の種類は現在8つあります。

 

そのうち,間違いやすいものは以下の通りです。

 

〈間違いやすいもの〉

小中学校等の入学にかかる費用

生活扶助

高等学校の授業料

生業扶助

介護保険サービスの利用料

介護扶助

介護保険料

生活扶助

入院した時の生活費

生活扶助

施設入所した時の生活費

生活扶助

 

それでは,今日の問題です。

 

26回・問題65 生活保護における扶助の種類とその内容に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 光熱費・家具什器等の世帯単位の経費は,生活扶助の第1類費に含まれる。

2 被保護者が,入退院,通院をした場合に要した交通費は,生活扶助に含まれる。

3 介護施設に入所している被保護者の基本的な日常生活に要する費用は,介護扶助に含まれる。

4 小・中学校の入学準備金は,生活扶助に含まれる。

5 介護保険の保険料は,介護扶助に含まれる。

 

これはかなりの難問です。知識がないと5分の1以上の確率で正解するのは難しいです。

知識なしの人が消去できるものがないためです。

 

それでは,解説です。

 

1 光熱費・家具什器等の世帯単位の経費は,生活扶助の第1類費に含まれる。

 

生活扶助の世帯単位の経費は,第2類です。

個人単位の経費が,第1類です。

 

2 被保護者が,入退院,通院をした場合に要した交通費は,生活扶助に含まれる。

 

入退院,通院をした場合に要した交通費は,医療扶助に含まれます。

 

3 介護施設に入所している被保護者の基本的な日常生活に要する費用は,介護扶助に含まれる。

 

介護施設に入所している被保護者の基本的な日常生活に要する費用は,介護施設入所者基本生活費といい,生活扶助に含まれます。

 

4 小・中学校の入学準備金は,生活扶助に含まれる。

 

これが正解です。

 

この問題の難易度が高いのは,これが正解だからです。

 

小・中学校の入学準備金のように,一時的な需要に対応するのは一時扶助ですが,一時扶助は生活扶助に含まれるのが注意ポイントです。

 

なかなか憎らしい出題です。 

 

5 介護保険の保険料は,介護扶助に含まれる。

 

介護保険の保険料は,生活扶助の介護保険料加算が対応します。

介護扶助は,介護保険サービスを利用した際の利用料を給付するものです。

2023年5月29日月曜日

生活保護法が規定する基本原理・原則~申請保護の原則

申請保護の原則

保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。

但し,要保護者が急迫した状況にあるときは,保護の申請がなくても,必要な保護を行うことができる。

 

生活保護の申請権者

要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族

 

扶養義務者以外では,同居の親族が申請することができます。

 

親族であっても,同居していなければ申請権者にはならないことが注意ポイントです。

 

それでは,今日の問題です。

 

2問あります。

 

26回・問題64 生活保護法で規定されている基本原理,原則に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 保護は,個人を単位としてその要否及び程度を定めるものとされている。ただし,これによりがたいときは,世帯を単位として定めることができる。

2 生活保護法により保障される最低限度の生活は,肉体的な生存を維持する程度とされている。

3 保護の申請は,要保護者,その扶養義務者のほか,要保護者の同居の親族がすることができる。

4 保護は,都道府県知事の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度のものとされている。

5 生活保護法は,最低限度の生活を保障するとともに,社会的包摂を助長することを目的とすると定めている。

 

正解はすぐわかると思いますが,解説です。

 

1 保護は,個人を単位としてその要否及び程度を定めるものとされている。ただし,これによりがたいときは,世帯を単位として定めることができる。

 

保護は世帯を単位として行われます。

 

これによりがたいときは,個人を単位として定めることができます。

 

2 生活保護法により保障される最低限度の生活は,肉体的な生存を維持する程度とされている。

 

生活保護法は,日本国憲法第25条「生存権」(すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する)に基づきます。

 

そのため,生活保護法により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければなりません。

 

3 保護の申請は,要保護者,その扶養義務者のほか,要保護者の同居の親族がすることができる。

 

これが正解です。

 

4 保護は,都道府県知事の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度のものとされている。

 

基準及び程度の原則

保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者が金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。

 

基準を定めるのは,厚生労働大臣です。

ここを変えて出題されることが多いことを覚えておきたいです。

 

5 生活保護法は,最低限度の生活を保障するとともに,社会的包摂を助長することを目的とすると定めている。

 

生活保護法の目的は,最低限度の生活保障と自立の助長です。

 

 

2問目です。

 

28回・問題65 生活保護法における扶養義務者に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 近年の法改正により,保護の開始の決定をしようとするときは,一定の扶養義務者に対する書面による通知を行う仕組みが導入された。

2 保護の実施機関は,家庭裁判所の審判を経ずに,直系血族及び兄弟姉妹以外の者に扶養義務を負わせることができる。

3 保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の親族の申請に基づいて開始される。

4 夫婦間と子の老親に対する関係は,生活保護法の規定に基づき,その他の範囲に比べて強い扶養義務が課せられている。

5 被保護者に対して扶養義務者が扶養の義務を履行しないとき,国は,その費用の全部又は一部をその扶養義務者から徴収することができる。

 

この問題は1問目よりも難しい内容となっています。

なぜなら,消去法で答えを出すタイプだからです。

 

1 近年の法改正により,保護の開始の決定をしようとするときは,一定の扶養義務者に対する書面による通知を行う仕組みが導入された。

 

これが正解です。

国家試験は,このように新しい制度をお披露目する場にもなります。一度出題すると,その後の受験者はそれを勉強するので,周知するのに効果的だからです。知っておいてもらいたいものがある時は,このような出題があることを覚えておきたいです。

 

2 保護の実施機関は,家庭裁判所の審判を経ずに,直系血族及び兄弟姉妹以外の者に扶養義務を負わせることができる。

 

扶養義務があるのは,直系血族及び兄弟姉妹以外の者と3親等以内の親族です。

 

3親等以内の親族の場合は,家庭裁判所の審判によって定めます。

 

3 保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の親族の申請に基づいて開始される。

 

うっかりすると正解に見えますが,親族のところに「同居の」が抜けています。

 

生活保護の申請権者

要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族

 

4 夫婦間と子の老親に対する関係は,生活保護法の規定に基づき,その他の範囲に比べて強い扶養義務が課せられている。

 

夫婦間と子の老親に対する関係は,その他の範囲に比べて強い扶養義務が課せられているのは適切ですが,この規定があるのは民法です。

 

5 被保護者に対して扶養義務者が扶養の義務を履行しないとき,国は,その費用の全部又は一部をその扶養義務者から徴収することができる。

 

(費用等の徴収)

被保護者に対して民法の規定により扶養の義務を履行しなければならない者があるときは,その義務の範囲内において,保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は,その費用の全部又は一部を,その者から徴収することができる。

 

この選択肢は,以上のように,誤りポイントが2つあります。近年は,1つの選択肢には1つの誤りポイントとなっているので,珍しい問題です。

2023年5月28日日曜日

生活保護法が規定する基本原理・原則~基準及び程度の原則

生活保護法が規定する基本原理・原則には,基準及び程度の原則がありますが,国家試験では気をつけないとミスします。

 

基準及び程度の原則

保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者が金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。

 保護基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これをこえないものでなければならない。

 

アンダーラインの「こえないもの」というところが要注意ポイントです。

 

こえるもの

 

と出題されることがあるからです。

 

生活保護は,最低限度の生活保障なので,それを上回ることも下回ることもないように生活保護基準は設定されなければなりません。

 

同じように,気をつけなければならない出題には,「加算」があります。

 

加算とは,特別の状態にある者に最低生活より高い生活水準を保障するための特別経費を支給するものである。

 

特別ニーズを持つ人を対象に各種加算が設定されていますが,加算することで最低限度の生活を保障しています。そのため,この文章は誤りです。

 

基準及び程度の原則で「こえないものでなければならない」と規定されていることは,最低限度の生活保障のためであることを心に刻んでおいてください。

 

そうしないと「こえるものでなければならない」と出題されたとき,文章に引っ掛かりを感じないために正解だと思ってしまいます。

 

それでは,今日の問題です。

 

35回・問題64 現行の生活保護法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 生活保護は,日本国憲法第21条が規定する理念に基づいて行われる。

2 生活保護が目的とする自立とは,経済的自立のみを指している。

3 能力に応じて勤労に励み,支出の節約を図り,生活の維持及び向上に努めなければ,保護を申請できない。

4 補足性の原理によって,扶養義務者のいる者は保護の受給資格を欠くとされている。

5 保護の基準は,保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,これを超えないものでなければならない。

 

生活保護法が規定する基本原理・原則は,ほぼ毎回のように出題されているので,確実に正解できるように理解しておきたいです。

 

それでは解説です。

 

1 生活保護は,日本国憲法第21条が規定する理念に基づいて行われる。

 

32回国試では,第26条と出題されたものが,この時は第21条と出題されました。

 

21条でも第26条でもなく,日本国憲法第25条が規定する「生存権」が現行の生活保護法の根拠です。

 

これは,中学校でも学びます。

 

2 生活保護が目的とする自立とは,経済的自立のみを指している。

 

生活保護の自立というと,経済的自立をイメージする人が多いこともあり,このような出題は多いですが,就労できない高齢者や障害者などに自立はあり得ないことになってしまいます。

 

現代の自立の概念は,就労による経済的自立のほかに,社会の一員として生活できる「社会生活自立」,自分のことは自分でできる「日常生活自立」も含まれます。

 

これだと,経済的自立はできなくても,自立はできることになります。

 

3 能力に応じて勤労に励み,支出の節約を図り,生活の維持及び向上に努めなければ,保護を申請できない。

 

能力に応じて勤労に励み,支出の節約を図り,生活の維持及び向上に努めることは,被保護者の義務ですが,申請の際の要件ではありません。

 

4 補足性の原理によって,扶養義務者のいる者は保護の受給資格を欠くとされている。

 

補足性の原理

保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。扶養義務者による扶養が保護に優先して行われる。

 

補足性の原理は,扶養義務者による扶養が保護に優先して行われることであり,扶養義務者がいる者は保護しないという意味ではありません。

 

扶養義務者が扶養できない場合は,保護を受けることができます。

 

5 保護の基準は,保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,これを超えないものでなければならない。

 

これが正解です。

 

正しく「超えないもの」となっています。

 

今回は,正しく出題されていますが,次に出題する時は「こえるもの」と出題される可能性が高いと思います。

 

基準及び程度の原則が出題されたときは,正しく「こえないもの」となっているかどうかを気をつけるようにします。

2023年5月27日土曜日

生活保護法が規定する無差別平等

 今回も生活保護法が規定する基本原理・原則を取り上げます。


まずは,復習です。

https://fukufuku21.blogspot.com/2023/05/blog-post_26.html


現生活保護法の特徴はいくつもありますが,そのうち,「無差別平等の原理」はとても重要です。


旧生活保護法でも「無差別平等」は示されましたが,「原理」ではなく,「原則」であるため,実際には,欠格条項がありました。


現在の生活保護法は,日本国憲法第25条が規定する「生存権」を保障するための制度であり,欠格条項は一切ありません。


それでは今日の問題です。


第33回・問題64 生活保護法が規定する基本原理・原則に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 すべて国民は,この法律及び地方公共団体の条例の定める要件を満たす限り,この法律による保護を受けることができる。

2 必要即応の原則とは,要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において保護を行うことをいう。

3 民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,すべてこの法律による保護に優先して行われる。

4 保護の決定は,生活困窮に陥った原因に基づいて定められている。

5 行政庁が保護の必要な者に対して,職権で保護を行うのが原則とされている。


原理」と「原則」の違いは,「原理」は例外がないものであるのに対し,「原則」は例外があることです。


それでは解説です。


1 すべて国民は,この法律及び地方公共団体の条例の定める要件を満たす限り,この法律による保護を受けることができる。


この文章は,「すべて国民は,この法律及び地方公共団体の条例の定める要件を満たす限り,この法律による保護を受けることができる」


のアンダーラインの部分が余計です。


過去では,「この法律の定める要件を満たす限り」の部分をいろいろ変えて出題しています。つまりここが注意ポイントです。


2 必要即応の原則とは,要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において保護を行うことをいう。


必要即応の原則

保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行うものとする。


基準及び程度の原則

保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者が金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。


3 民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,すべてこの法律による保護に優先して行われる。


これが正解です。


補足性の原理

保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。扶養義務者による扶養が保護に優先して行われる。


4 保護の決定は,生活困窮に陥った原因に基づいて定められている。


無差別平等の原理

困窮に陥った理由により差別を受けることなく,また信条・性別・社会的身分によって差別されることなく,保護を受けることができる。


5 行政庁が保護の必要な者に対して,職権で保護を行うのが原則とされている。


申請保護の原則

保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し,要保護者が急迫した状況にあるときは,保護の申請がなくても,必要な保護を行うことができる。


〈今日の一言〉


生活保護法の基本原理・原則は,今日の問題のように,法の条文がそのまま出題されます。


やさしくかみ砕いて理解するのも良いですが,もともとの条文を覚えることを忘れないようにしてください。

2023年5月26日金曜日

生活保護法の基本原理・原則

 

<生活保護法の基本原理・原則>

 

国家責任の原理  国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行う。

 

保護は国の責任で行います。国家責任は,GHQの指令書「社会救済(SCAPIN775)」で要求されたもので,旧・生活保護法から貫かれています。

 

 

無差別平等の原理  困窮に陥った理由により差別を受けることなく,また信条・性別・社会的身分によって差別されることなく,保護を受けることができる。

 

無差別平等もGHQの指令書「社会救済(SCAPIN775)」で要求されたもので,旧・生活保護法から貫かれています。

 

旧法と現行法の違いは,旧法は欠格条項があるのに対して,現行法で本来の無差別平等が実現しています。

 

 

最低生活の原理  この法律により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。

 

最低限度の生活保障は,憲法第25条「生存権」が根拠となっています。最低限度の生活は「健康で文化的」な生活です。

 

 

補足性の原理  保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。扶養義務者による扶養が保護に優先して行われる。

 

保護は最低限度の生活を送るのに不足する分を扶助するものです。

 

 

申請保護の原則  保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し,要保護者が急迫した状況にあるときは,保護の申請がなくても,必要な保護を行うことができる。

 

 

保護は申請に基づき行われますか,急迫した場合は職権保護も行われます。職権保護は,恤救規則以来ずっとあります。

 

しかし現・生活保護法がそれまでと違う点は,「国民は保護を受ける権利があること」が前提としていることです。

 

 

基準及び程度の原則  保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者が金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。

 保護基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これをこえないものでなければならない。

 

保護は「最低限度の生活保障」(ナショナルミニマム)です。

 

基準のラインで保護がなされます。

 

この基準をこえても下回ってもだめなのです。

生活扶助には各種加算があります。加算がある理由は加算がないと基準を下回ってしまうからです。

 

必要即応性の原則  保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行うものとする。

 

保護は,個別の必要(ニード)を考慮して行います。有効且つ適切に行うもので画一的に行うものではありません。

 

 

世帯単位の原則  保護は,世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し,これによりがたいときは,個人を単位として定めることができる。

 

保護は世帯単位が原則ですが,家族の抱えている問題によっては世帯分離も行われます。

 

 

それでは,今日の問題です。

 

32回・問題64 生活保護法が規定する基本原理・原則に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 日本国憲法第26条に規定する理念に基づく。

2 保護は,世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。

3 保障される最低限度の生活とは,肉体的に生存を続けることが可能な程度のものである。

4 生活困窮に陥った年齢によって,保護するかしないかを定めている。

5 生活保護の基準は,厚生労働省の社会保障審議会が定める。

 

基本原理・原則は,出題頻度が極めて高いにもかかわらず,言葉が分かりにくいこともあり,難しいと思う人が多いようです。

 

それでは解説です。

 

1 日本国憲法第26条に規定する理念に基づく。

 

26条ではなく,第25条です。

 

25条は,生存権を規定しています。

 

こんな問題を出題するのは変だと思っていましたら,第35回では,第21条と出題されていました。

 

少なくとも第25条くらいは覚えておいてほしいものです。

 

2 保護は,世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。

 

これが正解です。

 

世帯単位の原則です。

 

 

3 保障される最低限度の生活とは,肉体的に生存を続けることが可能な程度のものである。

 

最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものです。

 

 

4 生活困窮に陥った年齢によって,保護するかしないかを定めている。

 

現・生活保護法には,無差別平等の原理が規定されています。

 

5 生活保護の基準は,厚生労働省の社会保障審議会が定める。

 

保護基準を定めるのは,厚生労働大臣です。

2023年5月25日木曜日

旧生活保護法はなぜ廃止されたのか?

旧生活保護法(昭和21年・1946年)は,GHQが責任を示した「社会救済に関する覚書」(SCAPIN775)

①無差別平等の原則

②公私分離

③必要充足の原則

 

3原則に基づいて成立したものです。

 

しかし,保護請求権を認めていない,民間人である方面委員を市町村長の補助機関として位置づけて保護を実施する,欠格条項がある,などの問題点がありました。

 

これらを見ると気づく人もいると思いますが,旧生活保護法のこれらは戦前の救護法から引き続いて規定されたものです。

 

しかし,欠格条項があったとは言え,無差別平等の原則が規定されたことは,救護法から大きく前進したと言えるでしょう。

 

その後,日本国憲法が施行され,第25条生存権(最低限度の生活保障)を具現化するものとして,現生活保護法が作られます。

 

それでは今日の問題です。

 

24回・問題56 旧生活保護法(昭和21年)の内容に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 第1条の保護の目的は,最低生活の保障と無差別平等であった。

2 保護を行う責任は,都道府県知事によることとされていた。

3 教育及び住宅に関する保護は,生活扶助に含まれていた。

4 国家責任を明確にする目的から,保護費のすべてを国が負担していた。

5 数次の基準改訂を行い,エンゲル方式による最低生活費の算定方式の導入を行った。

 

この問題はかなりの難問です。

この科目の問題は,それほど難易度が高いものは出題されませんが,ちょっと目先を変えて出題したために,とんでもなく難しくなりました。

 

それでは,解説です。

 

1 第1条の保護の目的は,最低生活の保障と無差別平等であった。

 

こういった出題があると,何条に何が規定されているのかも覚えなければならない,と思う人もいるかもしれません。

 

しかし,そこが問われているわけではありません。今までで条項の知識が問われたのは,日本国憲法第25条「生存権」のみです。

 

最低生活の保障は,現生活保護法が規定しているものです。

旧生活保護法は,日本国憲法が施行される前に作られたものであることを考えると最低生活の保障が旧法で規定されていたことは考えにくいと判断できそうです。

 

旧法の第1条

この法律は,生活の保護を要する状態にある者の生活を,国が差別的又は優先的な取扱をなすことなく平等に保護して,社会の福祉を増進することを目的とする。

 

ということで,旧法の第1条には「無差別平等」が規定されています。

 

2 保護を行う責任は,都道府県知事によることとされていた。

 

旧法は,SCAPIN775を受けて成立したものであることを紹介しました。

 

SCAPIN775が国家責任と公私分離を示した理由は,日本国政府が保護は民間に任せて,それに対して補助するという及び腰の対応にくぎを刺すためです。

 

3 教育及び住宅に関する保護は,生活扶助に含まれていた。

 

これが正解です。

 

この問題の難易度が高くなった理由は,これが正解だったためです。

 

これを正解だと思えるためには,各法で規定された扶助の種類を理解しておくことが必要でした。

 

救護法 生活扶助,医療扶助,生業扶助,助産扶助

 

旧生活保護法 救護法 + 葬祭扶助

 

現生活保護法 旧法 + 住宅扶助と教育扶助

 

現在は,介護保険に伴い介護扶助が加わり,8つの扶助となっています。

 

住宅扶助と教育扶助が旧法では生活扶助に含まれていたかはわからなかったとして新法でこの2つが加わったことを考え合わせると,正解になりそうだと推測することが可能です。

 

4 国家責任を明確にする目的から,保護費のすべてを国が負担していた。

 

この問題は少し作り方が下手です。

 

選択肢2では,保護を行う責任は誰? と出題しながら,この選択肢では「国家責任」と出題しています。

 

他の問題にヒントになるものが存在してはいけませんが,この問題では,同じ問題の中にヒントを出してしまうという初歩的なミスを犯してしまっています。

 

旧法の国の負担割合は,10分の8でした。

 

現在は4分の3です。

 

5 数次の基準改訂を行い,エンゲル方式による最低生活費の算定方式の導入を行った。

 

エンゲル方式は,現生活保護法で導入されたものです。

 

〈生活扶助基準の改訂方法の変遷〉

 

標準生計貴方式(昭和21年~22年)

  ↓  ↓

マーケットバスケット方式(昭和23年~35年)

  ↓  ↓

エンゲル方式(昭和36年~39年)

  ↓  ↓

格差縮小方式(昭和40年~58年)

  ↓  ↓

水準均衡方式(昭和59年~)

2023年5月24日水曜日

恤救規則と救護法

 社会福祉士の国家試験で出題される日本の救貧制度 

法律名

成立年

恤救規則

1874年(明治7年)

救護法

1929年(昭和4年)

旧生活保護法

1946年(昭和21年)

現生活保護法

1950年(昭和25年)

 

この表には成立年を入れていますが,それを覚えても正解できる問題はほとんどありません。

 

重要なのはその内容です。

 

この4つの制度のうち,旧生活保護法以前と現生活保護法の間で区切ることができます。

 

旧生活保護法までは,職権保護であったのに対し,現生活保護法は,日本国憲法の第25条「生存権」に基づき制定され,保護を受けることは国民の権利となりました。

 

そして,救護法と旧生活保護法は,勤労意欲がないなどの者は保護しないという欠格条項があったのに対し,現生活保護法は,困窮に至った理由は問わない無差別平等の原理が貫かれます。

 

それでは今日の問題です。

 

28回・問題63 現在の生活保護法成立前の公的扶助制度に関する記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 恤救規則(1874年(明治7年))は,高齢者については65歳以上の就労できない者を救済の対象とした。

2 救護法(1929年(昭和4年))は,救護を目的とする施設への収容を原則とした。

3 救護法(1929年(昭和4年))における扶助の種類は,生活扶助,生業扶助,助産の3種類であった。

4 旧生活保護法(1946年(昭和21年))は,勤労を怠る者は保護の対象としなかった。

5 旧生活保護法(1946年(昭和21年))は,不服申立ての制度を規定していた。

 

恤救規則は,明治になって早い時期に成立した制度です。

 

救済の対象は,極めて限定的でした。

 

それでは,解説です。

 

1 恤救規則(1874年(明治7年))は,高齢者については65歳以上の就労できない者を救済の対象とした。

 

恤救規則が救済したのは,70歳以上の就労のできない者でした。

 

2 救護法(1929年(昭和4年))は,救護を目的とする施設への収容を原則とした。

 

明治初期に成立した恤救規則は,救済対象が極めて限定されていました。

そのあと,何とか恤救規則に変わる法案が提出されましたが,それらはすべて廃案になりました。

 

そのため,恤救規則は,救護法(1929年(昭和4年))が成立するまで存続しました。

 

救護法では,救護施設として,養老院,孤児院などが規定されました。

 

しかし,原則は居宅での救護です。

 

貧困の多くは貨幣的ニードです。つまり,金銭が給付されれば,ニードを充足します。

施設救護,施設保護を原則とする福祉政策は,別の意味合いとなるでしょう。

 

たとえば,イギリスのワークハウスは,スティグマを付与するように機能していました。

貧困に陥る理由を本人の怠惰などによると考える古い貧困観の時代の施策です。

 

3 救護法(1929年(昭和4年))における扶助の種類は,生活扶助,生業扶助,助産の3種類であった。

 

救護法の扶助の種類は

・生活扶助

・医療扶助

・生業扶助

・助産扶助

 

の4つです。

 

生産手段を持たない労働者は,労働力を商品にして,給与の支払いを受けます。

 

病気などによって労働ができなくなることは,貧困に陥るリスクとなります。

 

そのため,社会保障制度では,医療保障は極めて重要です。

 

日本の社会保険制度は現在5つありますが,そのうち,健康保険制度が最初にできたことからもわかるように,医療保障は極めて重要です。

 

4 旧生活保護法(1946年(昭和21年))は,勤労を怠る者は保護の対象としなかった。

 

これが正解です。

 

旧生活保護法には,「無差別平等」の原則がありました。

 

しかし,旧生活保護法には,救護法に引き続き,勤労を怠る者,素行不良者などは保護しない欠格条項が設けられていました

 

現生活保護法は,旧法と異なり,無差別平等は「原理」です。原則は例外が認められますが,原理は,例外は認められません。

 

貧困に陥った理由は問われず,貧困であれば保護されます。

 

5 旧生活保護法(1946年(昭和21年))は,不服申立ての制度を規定していた。

 

不服申立て制度が規定されたのは,現生活保護法です。

 

旧生活保護法までは,職権保護でした。

 

日本国憲法第25条生存権に基づいて成立した現生活保護法は,申請保護を原則として,不服申立て制度が認められたことが特徴です。

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