2018年4月21日土曜日

絶対に覚えておきたい社会的役割~②役割距離

役割理論に関する用語はたくさんあります。

そのうち,絶対に覚えておきたいのは,

第1位 役割期待
第2位 役割距離
第3位 役割取得
第4位 役割葛藤

の4つです。※順位は,国家試験での出題回数です。

このうち,今回紹介する役割距離は,最も理解が面倒なものではないでしょうか。

なぜなら,提唱したのはちょっとくせ者のゴフマン(ゴッフマン)だからです。

ゴフマンが社会学で用いた「ドラマツルギー」という概念は,演劇理論を社会学に応用したもので,人の行為は,周囲にいる人に関連しているというものです。

つまり,ゴフマンは,人の行為は,あたかも舞台の上の俳優のように,観衆(オーディエンス)に向けて演じられたもの(パフォーマンス)である,と考えました。

人は社会化されることで,他人の役割期待を察知しながら生きています。

そして,役割期待に応えるために,役割を演技する「役割演技」を行います。

さて,ここからが今日のテーマ「役割距離」です。

役割距離とは・・・

人は他人の役割期待に対して,それに一致するように役割を演じています。

しかし,いつも役割を演じているわけではありません。それでは疲れてしまいますし,自分が目立つ存在になることもできません。

そこで,人は役割期待に対して,ちょっと距離を置いた行動をとります。

これが役割距離です。

役割距離は,役割を演じているときの緊張感や葛藤を緩和することで心に余裕を持たせる,ちょっと悪ぶって見せることで,人とは違うのだということを感じさせる,人が緊張している中でふざけてみせることで,自分は余裕があるのだということを印象づける,自分が緊張する場面で冗談を言うことで,自分の有能感を印象づける,などさまざまな場面で,さまざまな意味をもって演じられます。

役割距離は,役割距離に対して,ちょっとだけ距離をおくことが大切です。

ちょっと悪ぶる。

ちょっとふざける。などです。

役割期待から距離を取りすぎると,役割期待を演じられていないので,人から「逸脱者」としてのレッテルを貼られることになり,自分にとって好ましいイメージを他人に呈示するという当初の目的から離れてしまいます。


ゴフマンは,役割距離について「子どもが木馬に乗る」という例を挙げて説明しています。

子どもはかわいくおとなしく(つまり子どもらしい様子で)木馬に乗ることを期待されています。

しかし,少し大きくなると,素直にその役割を演じず,後ろ向きに乗ったり,木馬の上に立ったり,危ない行為をします。これは,自分はこんなこともできるようになったのだ,ということを親に呈示しているのです。

おそらく,親というオーディエンスがいないと,ちょっと危なげなパフォーマンスはしないでしょう。

これが,ゴフマンのいう「ドラマツルギー」です。

パフォーマーとオーディエンスの相互作用での行為です。

役割距離については「外科医が手術室で冗談を言う」という例もあります。

外科医の役割期待は,手術を成功させることです。

外科医が手術中に冗談を言うのは,冗談を言うことで緊張感を和らげる,緊張感があふれる中での冗談を言えるのは余裕があるからだという自分の有能さを知らしめるといった意味があります。

さて,それでは役割距離に関する出題を見てみましょう。

■人間は,一定の場面にふさわしく見える自分を演技によって操作する場合があるが,これを「役割距離」という。

一定の場面にふさわしく見える自分から距離を取って演じることが役割距離です。よって間違いです。

■夫に求められる手段的役割と妻に求められる表出的役割の違いを,「役割距離」と呼ぶことができる。

おそらく今ならこの問題は出題されにくいのではないかと思います。手段的役割は夫の役割,表出的役割は妻の役割と分類したのは,パーソンズです。手段的役割は目的を達成するもの,表出的役割は維持する役割です。

ジェンダーっぽいですね。

どちらにしても役割距離とはまったく関係がありません。

■個人が担う複数の役割を両立させていく際の困難さを規定する役割間の類似度を,「役割距離」という。

これもまったく違います。

といった感じで出題されています。

役割距離は,勉強不足の人にとっては,意味が分かりづらいので,間違い選択肢として出題するには好都合であるのが分かると思います。

こういったところを正しく理解している,していない,が得点に大きくかかわります。


(2019/08/01追記)

社会的役割についての投稿記事はいくつかありますが,そのうち,アクセス数が最も多いのは「役割距離」です。役割距離を理解するのは容易なことではないことを物語っています。


(2021/02/14追記)

現時点では最も新しい第33回国試では,以下のような出題がありました。

第33回・問題19 次のうち,ゴッフマン(Goffman,E.)が提示した,他者の期待や社会の規範から少しずらしたことを行うことを通じて,自己の存在を他者に表現する概念として,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 役割取得
2 役割距離
3 役割葛藤
4 役割期待
5 役割分化

「3.役割距離」が正解です。役割距離は理解しにくいので受験者に差がつきやすいと言えます。そのために役割距離の出題回数が多いのでしょう。

極めて地味ですが,こういったものを一つずつ確実に覚えていくことが合格には欠かせません。

最新の記事

その分野の基本法をまず押さえよう!

  勉強にはいろいろなやり方がありますが,枝葉だけを見ていると見えるものも見えなくなってしまうものもあります。   法制度は,必然性があって出来上がるものです。   法制度を勉強する時には,必ずそれを押さえておくようにしましょう。   そうすれば,試験当日...

過去一週間でよく読まれている記事