2018年9月30日日曜日

生活保護法の徹底理解~国・都道府県・市町村の役割~その2

福祉事務所は,都道府県・市には設置義務があり,町村は任意で設置できます。

全国に約900町村ありますが,そのうち福祉事務所を設置しているのは,43町村です。

とても数が少なく感じると思いますが,2000年以前はわずか2町村でした。

その後設置数が増えてきています。

都道府県別にみると島根県と鳥取県の町村が多く設置しています。

逆に都道府県の設置する福祉事務所は減少しています。

なぜなら平成の大合併によって,郡部の町村の中で市になったところがあるからです。

それはさておき,福祉事務所は町村の任意設置なので,大半の町村は設置していません。

第27回と第29回で,福祉事務所を設置していない町村に関する選択肢が続けざまに出題されました。

第30回ではとうとう一問丸ごと福祉事務所を設置していない町村が出題されています。

試験委員は意識しているのか,していないのか分かりませんが,鳥瞰してみると,毎回の国試に何らかのつながりがあるように思います。

さて,それでは第30回国試問題です。

第30回・問題66 福祉事務所を設置していない町村の役割・機能に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 町村は,社会福祉主事を置くことができる。

2 町村は,生活保護法における保護の変更の申請を受け取ったときは,保護の変更を決定することができる。

3 保護の実施機関は,町村に対し被保護者への保護金品の交付を求めることはできない。

4 町村は,被保護者に対し必要な指導又は指示をすることができる。

5 保護の開始の申請は,町村を経由して行うことができない。

保護の実施機関は,都道府県知事,市長,福祉事務所を設置する町村長です。

保護の実施機関と福祉事務所を設置していない町村長では明らかに違うことがあります。


保護の実施機関は,決定権を持つ

保護の実施機関ではない町村長は,決定権を持たない

しっかりその点は押さえておきましょう。

つまり・・・

機関とは,決定権を持つもの,という意味です。

この問題は,第30回国試ではありますが,その割に洗練されていない印象があります。

とてもマニアックな話ですが,それは以下の理由によります。

①表現がそろっていない。

②問題文の長さがバラバラ。

問題文によって,統一するのは難しいとは思いますが,せめて「できる」と「できない」は混在させず,

1 できる
2 できる
3 できる
4 できない
5 できない

に並べ替えるだけで,問題文としては少し整って見えます。

このことによって,勉強不足の人は,混乱しやすくなります。

同じリズムの文章を見ると,それに〇×をつけるのは,かなり難しくなります。

それでは,解説です。


1 町村は,社会福祉主事を置くことができる。

これが正解です。

福祉事務所を設置していなくても,任意で社会福祉主事を置くことができます。


2 町村は,生活保護法における保護の変更の申請を受け取ったときは,保護の変更を決定することができる。

福祉事務所を設置していない町村長は,決定権を持ちません。

よって保護の決定も変更もすることができません。

間違いです。


3 保護の実施機関は,町村に対し被保護者への保護金品の交付を求めることはできない。

これも間違いです。

「保護の実施機関又は福祉事務所長から求められた場合において,被保護者等に対して,保護金品を交付すること」と規定されています。


4 町村は,被保護者に対し必要な指導又は指示をすることができる。

これも間違いです。

指導又は支持をすることができるのは,保護の実施機関です。


5 保護の開始の申請は,町村を経由して行うことができない。

これも間違いです。

「保護の開始又は変更の申請を受け取った場合において,これを保護の実施機関に送付すること」と規定されています。


<今日の一言>

国試会場は,とにかく緊張します。

平静心を保つのは本当に難しいです。
実は,この問題は実はちょっとしたほころびがあります。


2 町村は,生活保護法における保護の変更の申請を受け取ったときは,保護の変更を決定することができる。
5 保護の開始の申請は,町村を経由して行うことができない。

この2つの選択肢です。

申請と変更という違いはありますが,町村が申請及び変更申請を受け取ることがテーマになります。

受け取ることができれば,選択肢5は間違いになります。
受け取ることができなければ,選択肢2は間違いになります。

このように,他の選択肢から類推できる問題は,問題文としての質はあまり高いとは言えません。

国試会場でこのような問題を見たとき,「問題を作るのが下手」と心の中で笑いましょう。それによって,気持ちがかなり楽になるはずです。

実力通りの力を国試で発揮するのは決して簡単なことではありません。
雰囲気に呑まれないのは,言うほど簡単ではありません。

後から落ち着いて読めば解けた,ではだめなのです。

しっかり勉強した人なら,合格点に到達できなくても,その後に落ち着いて読めば,合格点に到達できる点数が取れる方が多いはずです。

それだけ国試会場で実力を発揮するのは,簡単ではないということなのでしょう。

試験委員を笑えるくらいの気持ちをもって,国試に臨みたいものです。

2018年9月29日土曜日

生活保護法の徹底理解~国・都道府県・市町村の役割~その2

保護の実施機関は,都道府県知事,市長,福祉事務所を設置する町村長です。

国・都道府県・市町村の役割が少しややこしいのは,福祉事務所を設置しない町村の役割があるからです。

まずは復習です。


福祉事務所を設置しない町村長

その町村の区域内において特に急迫した事由により放置することができない状況にある要保護者に対して,応急的処置として,必要な保護を行うものとする。

保護の実施機関又は福祉事務所の長が行う保護事務の執行を適切ならしめるため,次に掲げる事項を行うものとする。

一 要保護者を発見し,又は被保護者の生計その他の状況の変動を発見した場合において,速やかに,保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を通報すること。

二 第二十四条第十項の規定により保護の開始又は変更の申請を受け取った場合において,これを保護の実施機関に送付すること。

三 保護の実施機関又は福祉事務所長から求められた場合において,被保護者等に対して,保護金品を交付すること。

四 保護の実施機関又は福祉事務所長から求められた場合において,要保護者に関する調査を行うこと。


それでは今日の問題です。

第29回・問題63 生活保護制度について,国,都道府県及び市町村の役割に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 国は,居住地がないか,又は明らかでない被保護者の保護に要する費用の全額を負担する。

2 厚生労働大臣以外の者は,生活保護法に基づく医療機関を指定することができない。

3 都道府県知事は,生活保護法に定める職権の一部をその管理に属する行政庁に委任することができない。

4 人口5万人未満の市は,福祉事務所を設置しなくてもよい。

5 福祉事務所を設置していない町村の長は,特に急迫した事由により放置することができない状況にある要保護者に対して応急的な処置として必要な保護を行う。

すぐ答えは分かると思いますが,解説です。


1 国は,居住地がないか,又は明らかでない被保護者の保護に要する費用の全額を負担する。

これは間違いです。

居住地がないか,又は明らかでない被保護者の保護に要する費用は,国が4分の3,都道府県が4分の1を負担します。


2 厚生労働大臣以外の者は,生活保護法に基づく医療機関を指定することができない。
これも間違いです。

指定は,厚生労働大臣,都道府県知事が行います。


3 都道府県知事は,生活保護法に定める職権の一部をその管理に属する行政庁に委任することができない。

これも間違いです。

法では「都道府県知事は、この法律に定めるその職権の一部を、その管理に属する行政庁に委任することができる」と規定しています。


4 人口5万人未満の市は,福祉事務所を設置しなくてもよい。

これも間違いです。規模に関わりなく,市には設置義務があります。

5 福祉事務所を設置していない町村の長は,特に急迫した事由により放置することができない状況にある要保護者に対して応急的な処置として必要な保護を行う。

これが正解です。

結局極めて基本的なものが正解になっています。


<今日の一言>

国試は,

少しずつ重なっていて,少しずつ違う

少しずつ重なっている部分が正解選択肢になります。
少しずつ違うところが間違い選択肢になります。

知らないものが出題されても,落ち着いて読めば,多くの場合はそこには答えはないものです。

つまり,基礎的なものをしっかり押さえることができれば,必ず得点力になります。

そこには応用も何もありません。ひたすら基礎力をつけていきましょう。

まだまだ時間はあります。

あきらめちゃだめです。

2018年9月28日金曜日

生活保護法の徹底理解~国・都道府県・市町村の役割~その1

今回から,国・都道府県・市町村の役割を押さえていきたいと思います。

国家試験では,第27回,第29回,第30回と出題されているので,第31回には出題されない可能性が高いですが,一応押さえていきたいと思います。

保護の実施機関は,都道府県知事,市長,福祉事務所を設置している町村長です。

補助機関は社会福祉主事,協力機関は民生委員です。


複雑なのは,福祉事務所を設置していない町村にも保護の役割があることです。


福祉事務所を設置しない町村長

その町村の区域内において特に急迫した事由により放置することができない状況にある要保護者に対して,応急的処置として,必要な保護を行うものとする。

保護の実施機関又は福祉事務所の長が行う保護事務の執行を適切ならしめるため,次に掲げる事項を行うものとする。

一 要保護者を発見し,又は被保護者の生計その他の状況の変動を発見した場合において,速やかに,保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を通報すること。

二 第二十四条第十項の規定により保護の開始又は変更の申請を受け取った場合において,これを保護の実施機関に送付すること。

三 保護の実施機関又は福祉事務所長から求められた場合において,被保護者等に対して,保護金品を交付すること。

四 保護の実施機関又は福祉事務所長から求められた場合において,要保護者に関する調査を行うこと。

驚くほどたくさんありますね。

それでは今日の問題です。


第27回・問題66 生活保護制度について,国,都道府県及び市町村の役割とその運用に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 都道府県知事は,市町村の行う生活保護に関する事務について監査を実施することができない。

2 福祉事務所を設置していない町村の長は,保護の実施機関ではないことから,生活保護の決定及び実施に関する事務を行わない。

3 市町村長は,保護施設の運営について,必要な指導をしなければならない。

4 都道府県は,居住地がないか,又は明らかでない被保護者の保護につき市町村が支弁した保護費,保護施設事務費及び委託事務費の4分の1を負担する。

5 国,都道府県及び市町村以外は,保護施設を設置することができない。

第27回の国試問題ですが,問題文にばらつきがあります。

1 できない。
2 行わない。
3 しなければならない。
4 負担する。
5 できない。

選択肢4が少し趣きが違います。

答えは,選択肢4「負担する」です。

試験センターは,このように表現にばらつきがあると,それがヒントになることにとうとう気がついてしまったようです。

現在は,表現はそろえるようになっています。

つまり,肯定形なら肯定形で統一,否定形なら否定形で統一,というように工夫してきているようです。ただしそれが徹底されているわけではありませんので,突破口は残っています。

おそらくこの出題傾向は,今後も変わることはないと思いますので,勘で「答えはこれかな?」と選ぶことはほとんどできないでしょう。

しかし,基本的な知識があれは,必ず対処可能です。

それでは,答えは分かっていますが,解説します。


1 都道府県知事は,市町村の行う生活保護に関する事務について監査を実施することができない。

都道府県知事は,監査を実施しなければなりません。

よって間違いです。


2 福祉事務所を設置していない町村の長は,保護の実施機関ではないことから,生活保護の決定及び実施に関する事務を行わない。

前説のように,福祉事務所を設置していない町村の長も行うべき事務はたくさんあります。

よって間違いです。


3 市町村長は,保護施設の運営について,必要な指導をしなければならない。

保護施設の保護施設に配置する職員及びその員数などは,厚生労働大臣が定める基準に従って,都道府県が条例で定めます。

つまり保護施設は都道府県が所轄庁なので,必要な指導は都道府県が行います。

よって間違いです。

保護施設は,最も多い救護施設でさえ,全国には約180しかありません。
市町村がかかわるほどのものではないことは分かるでしょう。


4 都道府県は,居住地がないか,又は明らかでない被保護者の保護につき市町村が支弁した保護費,保護施設事務費及び委託事務費の4分の1を負担する。

これが正解です。保護に要する費用は,国が4分の3,福祉事務所を設置する自治体が4分の1を支弁します。

しかし,居住地がないか,又は明らかでない被保護者の保護に要する費用は,都道府県が負担します。


5 国,都道府県及び市町村以外は,保護施設を設置することができない。

保護施設については,後日改めて詳しく紹介していきますが,設置できるのは極めて限定されています。

保護施設の設置主体

都道府県
市町村
地方独立行政法人
社会福祉法人
日本赤十字社

この5つのみです。

よって間違いです。また改めて紹介しますが,最後の部分を医療法人,特定非営利活動法人などど変えて出題されています。

保護施設の設置主体の出題があったときは,一番最後の部分を特に注意してみればよいということになります。


<今日の一言>

保護の費用の負担についてです。

国の費用負担は,4分の3です。制度ができたときは,10分の8だったので,それから比べると少なくなっています。しかし,それでも他制度よりも国の負担率は高いです。

これは「国家責任の原理」に関係していると考えられます。

国の費用負担が4分の3なのは,生活困窮者自立支援法の必須事業である「自立相談支援事業」と「住宅確保給付金」も同じです。

そのほかの事業では,費用負担が5割を超えるものは,おそらくないのではないでしょうか。少なくとも国試で出題されるものについてはありません。

もちろん,保護観察のように,地方の費用負担はなく,国がすべてを負担するものはあります。

2018年9月27日木曜日

生活保護法の徹底理解~生活保護の実施~その3

今回が生活保護の実施の最終回です。

今日は前説なしで,事例問題です。

問題28・問題66 事例を読んで,Gさんの保護を行う実施機関として,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
単身のGさんは,非正規雇用でP市の会社で働いていたが雇用期間が満了しそれまで住んでいたQ市のアパートを退去した。1か月後,野宿をしていたR市にある河川敷で体調をくずし倒れた。通報によりS市の医療機関に救急搬送され入院した。Gさんは,T市に住民登録をしているが,医療費と生活費の捻出が困難な状況にある。

1 P市の実施機関である。
2 Q市の実施機関である。
3 R市の実施機関である。
4 S市の実施機関である。
5 T市の実施機関である。

保護は,居住地の保護の実施機関が行います。

居住地がない,又は居住地が不明な場合は,現在地の保護の実施機関が行います。

今日の問題の答えは,Gさんが救急搬送された現在地であるR市なので,正解は選択肢3です。

もう一つ,事例問題を行きます。

第22回・問題61 35歳独身のDさん(本籍地P市)は,Q市の会社で働いていたが,解雇されるまで住んでいたR市のアパート(住所地)を出ざるを得なくなった。新たな仕事は見つからずS市にある公園で野宿を続けていた。ある日公園で倒れていたところを警察官が発見し,通報により救急車で隣県T市の病院に搬送された。Dさんは,病院で肝硬変で当面入院が必要と診断されたが,医療費と生活費の捻出が困難なため生活保護の申請に至った。
 次のうち,Dさんに対して生活保護を実施する福祉事務所の所在地として,適切なものを一つ選びなさい。

1 P市(Dさんの本籍地)
2 Q市(会社の所在地)
3 R市(Dさんの住所地)
4 S市(野宿をしていた公園の所在地) 
5 T市(搬送された病院の所在地)

Dさんは,本籍地はあっても居住地はありません。

そのため,一つ目の問題と同じように,現在地の保護の実施機関が保護を行います。

そうすると,Dさんが野宿していたS市ということになります。選択肢4が答えです。


<今日の一言>

第22回と第28回の2回しか出題されたことがないタイプの問題ですが,問題を解く時のポイントは,保護の実施機関は,居住地であるか,現在地か,というところに集約されるのが分かると思います。

事例は,5つの市が出てくるので,複雑そうに見えます。

しかし,ポイントは「居住地があるのかないのか」だけです。

それだけを見極めれば,答えは引き出せるでしょう。

次回からは,法制度に関する科目の出題基準には,必ず含まれる「国・都道府県・市町村」の役割を押さえていきましょう。

2018年9月26日水曜日

生活保護法の徹底理解~生活保護の実施~その2

生活保護法には,基本原理と基本原則という軸があるので,国試問題を解く時にもそれを軸にすれば解きやすいと思います。

生活保護法の基本原理・基本原則
https://fukufuku21.blogspot.com/2018/09/1_9.html

じっかり押さえたところで,今日の問題です。

第29回・問題69 生活保護の決定と実施に関する次の記述のうち,正しいものを2つ選びなさい。

1 他の法律に定める扶助は,生活保護法による保護に優先して行われる。

2 生活に困窮していても借金がある場合は,保護を受けることができない。

3 資力調査等に日時を要する場合は,保護の開始の申請から60日まで保護の決定を延ばすことができる。

4 急迫した状況にある場合は,資産等の調査を待たずに保護を開始することができる。

5 生活保護法による生活扶助は,居宅よりも保護施設において行うことが優先される。


問題自体は,そんなに難易度は高くはないと思いますが,「2つ選ぶ」という大きな落とし穴があるので気を付けなければなりません。

それでは解説です。


1 他の法律に定める扶助は,生活保護法による保護に優先して行われる。

これは正解です。保護の補足性の原理です。何のひねりもありません。

2 生活に困窮していても借金がある場合は,保護を受けることができない。

これは間違いです。

無差別平等の原理です。原理は,例外のないルールです。

困窮に至った理由は問われず,困窮の事実をもって保護します。


3 資力調査等に日時を要する場合は,保護の開始の申請から60日まで保護の決定を延ばすことができる。

これは間違いです。

「通知は,申請のあった日から十四日以内にしなければならない。ただし,扶養義務者の資産及び収入の状況の調査に日時を要する場合その他特別な理由がある場合には,これを三十日まで延ばすことができる」と規定されています。

通知の期限については,「はじめまして」です。今までは出題されていません。

しかし,60日は長すぎると感じることでしょう。待つ身は長いです。

60日と言えば,かつては国試が終わってから合格発表まで約60日でした。

今は約1か月半です。それでも長いです。


4 急迫した状況にある場合は,資産等の調査を待たずに保護を開始することができる。
これは正解です。

申請保護の原則です。

原則は,例外のあるルールです。

原則は「申請保護」,例外は「職権保護」です。


5 生活保護法による生活扶助は,居宅よりも保護施設において行うことが優先される。
これは間違いです。

生活扶助を目的とする施設は,救護施設と更生施設の2つがあります。

しかし,原則は,居宅での保護です。


<今日の一言>

「魔の第25回」以降,正解を2つ選ぶ問題が出現しました。

事例問題は,2つ選ぶのは結構難しいですが,一般的な一問一答式の問題はそれほど難しくはありません。

しかし,注意すべきなのは,突然2つ選ぶ問題が出てくるので,見落としがちであることです。

特に今日の問題のように,選択肢1が正解なら,そのあとの選択肢はしっかり見ないで答えを記入してしまうおそれがあります。

2つ選ぶ問題は,全体では10~15問程度なので,注意しないと見逃してしまいがちです。

模擬試験を受験するなどして,自分なりの対策を立てて実践するのも一つの手です。

国試会場は,とにかく冷静になるのは難しいので,事前の練習は欠かせません。

2018年9月25日火曜日

生活保護法の徹底理解~生活保護の実施~その1

生活保護法は,1946年・昭和21年に作られましたが,1950年・昭和25年に新しい法律に置き換えられています。

旧法は,欠格条項や保護請求権が認められていないといった欠陥があったためです。

現行法で,ようやく本来の無差別平等となり,そして保護請求権が認められています。

さて,今回から生活保護の実施について取り組んでいきたいと思います。

今までの知識でも十分対応可能だと思います。

それでは,今日の問題です。

第29回・問題65 生活保護の実施に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 保護の実施機関は,厚生労働省の地方厚生局である。

2 保護の実施機関は,被保護者に対して生活の維持のための指導をしてはならない。

3 保護の実施機関は,被保護者であった者について,保護を受けていた当時の雇主から報告を求めることができない。

4 扶養義務者がいる要保護者は,生活保護を受給することができない。

5 生業扶助には,高等学校就学費が含まれる。

勉強が進んでいる人にとっては,答えはすぐ分かることでしょう。

それでは解説です。


1 保護の実施機関は,厚生労働省の地方厚生局である。

これは間違いです。現行法の保護の実施機関は,福祉事務所の設置者,つまり都道府県知事,市長,福祉事務所を設置する町村長です。

歴史をひもとけば,実施機関は以下のようになっています。

恤救規則 → 内務省
救護法 → 市町村長
旧・生活保護法 → 市町村長
現・生活保護法 → 都道府県知事,市長,福祉事務所を設置する町村長

恤救規則が成立した1874年・明治7年は,まだ市町村制がなかった時代です。

市町村制が敷かれたのは1889年・明治22年です。ただし北海道,沖縄県,島嶼に市町村制が導入されるのはもう少し先の話です。


2 保護の実施機関は,被保護者に対して生活の維持のための指導をしてはならない。

被保護者の権利及び義務には,「指示等に従う義務」があります。

被保護者に対し,必要な指導又は指示をしたときには,これに従わなければならない,と規定されています。

もちろん,指導も指示も行うことができます。

よって間違いです。


3 保護の実施機関は,被保護者であった者について,保護を受けていた当時の雇主から報告を求めることができない。

被保護者が保護を受けていた当時の雇主に報告を求めることができます。

よって間違いです。

保護を決定する際も雇主に報告を求めることができますが,受給期間中にも報告を求めることができます。


4 扶養義務者がいる要保護者は,生活保護を受給することができない。

保護の補足性の原理では,「扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする」としていますが,扶養義務者がいることは,保護の受給要件ではありません。

よって間違いです。


5 生業扶助には,高等学校就学費が含まれる。

これが正解です。

何度も何度も繰り返し出題されている通り,高等学校就学費は,生業扶助から給付されています。

繰り返し出題されているのは,生活保護は,単に最低限度の生活保障だけではなく,自立助長も目的にしていることを広く知ってほしい,という試験委員の意図が見えてくるような気がします。

2018年9月24日月曜日

生活保護法の徹底理解~被保護者の権利及び義務~その4

イギリスやフランスに代表される革命によって,市民は自由権を獲得していきました。

資本主義の発展とともに,その仕組みによって,貧困が生まれていきます。

資本主義国は,経済政策の一環として,所得保障を行っていきました。

現在では,所得保障のみならず,福祉サービスも提供するようになり,資本主義国は,福祉国家となっていきました。

エスピン-アンデルセンは,福祉国家の成り立ちを分析して,福祉レジームとして分類しました。

それぞれの国々の事情によって発展してきたもので,どれが良いか悪いか,といったものではありません。

社会福祉士は,社会福祉士及び介護福祉士法によって,「相談援助を業とする者」と規定されています。

顕在化している問題だけではなく,その背後にあるもの,潜在ニーズ解説を図ろうとすると,マクロ的な視点も必要です。

リッチモンドに始まるミクロソーシャルワークは,欧米で発展していきました。

しかし,今はソーシャルワークもその国々に合ったものが求められています。

社会福祉全般を学ぶ国家資格は,社会福祉士しかありません。

そのために覚えることは広範囲にわたりますが,社会福祉士の資格を持ったソーシャルワーカーは,より国民のニーズを解決できる力を身につけることができます。

これから,国試までは短いようですが,とても長いです。

勉強して何になるのだろうか,という疑問も生まれていくことでしょう。

しかし,今勉強していることは,ソーシャルワーカーとしてのバックボーンとなるものです。

自問自答しながらもしっかり前を向いて,目標に突き進んでください。

チームfukufuku21は,社会福祉士を目指すすべての人を応援しています。

さて,被保護者の権利及び義務は,今回が最終回です。

生活保護,不正受給があると,社会の批判にさらされることが多くあります。人気芸能人の身内が生活保護受給者であったことがバッシングを受けたことは,記憶に新しいと思います。

不正受給や無駄なものは,徹底して排除しなければなりません。多くの被保護者はスティグマを感じながら,生活しています。不正受給者ではありません。

保護の現業員は,社会福祉主事でなければなりません。社会に出てから社会福祉主事任用資格を得ようとするとかなり大変です。大学に進学した人なら,実は社会福祉主事任用資格はとても簡単に取得することができます。

指定科目を3科目以上履修することで取得できるからです。

せっかく福祉事務所で社会福祉主事として働いているなら,社会福祉士を目指してほしいと思います。人事異動で保護事務を行っている人もいると思いますが,福祉を学んで保護事務に当たってくれたら,この国はもっともっと豊かな国になれるように思います。

前置きが長くなりましたが,今日の問題です。

第28回・問題68 生活保護法における被保護者の権利及び義務に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 被保護者は,保護を受ける権利を相続させることができる。

2 被保護者が急迫の場合等で資力があるにもかかわらず保護を受けたときであっても,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内の金額を返還する義務はない。

3 国民健康保険料(税)の滞納を理由とする保護金品の差押えは許されている。

4 保護の実施機関は,保護施設に入所中の被保護者が,保護施設の管理規程に従わない場合には,保護の変更,停止又は廃止をすることができる。

5 被保護世帯の高校生のアルバイト収入は,届出の義務はない。

第28回の問題なので,今の出題スタイルにかなり近くなってきていますが,表現にばらつきがあるところがまだ洗練されていないように感じます。

それはさておき,解説です。

1 被保護者は,保護を受ける権利を相続させることができる。

譲渡禁止です。

今回は,「〇〇に限り」といった付け加えがありません。

あってもなくても,譲渡はできないので間違いですが,余計な言い回しがないと,日本語としての引っかかりがないので,知識がないと解けない問題となります。

逆に知識のある人は,すぐ分かります。


2 被保護者が急迫の場合等で資力があるにもかかわらず保護を受けたときであっても,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内の金額を返還する義務はない。

費用返還義務です。

もちろん費用は変換しなければなりません。よって間違いです。


3 国民健康保険料(税)の滞納を理由とする保護金品の差押えは許されている。

差押禁止です。

差し押さえはいかなる場合であっても禁止されています。よって間違いです。


4 保護の実施機関は,保護施設に入所中の被保護者が,保護施設の管理規程に従わない場合には,保護の変更,停止又は廃止をすることができる。

これが正解です。指示等に従う義務です。

今までの出題と違って「直ちに」となっていないところがとても憎らしいと思いませんか?


指示等に従う義務
被保護者は,保護の実施機関が,被保護者に対し,必要な指導又は指示をしたときは,これに従わなければならない。
2 保護施設を利用する被保護者は,その保護施設の管理規程に従わなければならない。
3 保護の実施機関は,被保護者が前二項の規定による義務に違反したときは,保護の変更,停止又は廃止をすることができる。
4 保護の実施機関は,前項の規定により保護の変更,停止又は廃止の処分をする場合には,当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければならない。この場合においては,あらかじめ,当該処分をしようとする理由,弁明をすべき日時及び場所を通知しなければならない。

第26回でも出題されていたものが,今回は正解になっています。

出題範囲が狭いので,同じものの表現を少し変えて,正解にしたり間違いにしたり,いろいろ行っていることがよく分かるでしょう。

過去問を中途半端に勉強した人は,

被保護者が文書による指導・指示に従わない場合は,保護の実施機関は直ちに保護の停止・廃止の処分を行わなくてはならない。

が間違いなので,今回の

保護の実施機関は,保護施設に入所中の被保護者が,保護施設の管理規程に従わない場合には,保護の変更,停止又は廃止をすることができる。

も間違いだと早合点してしまいそうな出題です。

この問題で確実に正解できることが合格をつかみます。

決して深い理解も応用力も求められているわけではありません。


5 被保護世帯の高校生のアルバイト収入は,届出の義務はない。

これねも間違いです。

届出の義務です。

高校生のアルバイトも収入です。もちろん届け出ることが必要です。


<今日の一言>

被保護者の権利と義務を4回にわたって紹介してきました。

すべて同じような問題だったことが分かるでしょう。

社会福祉士の国家試験問題は,出題範囲が広いことが特徴です。

しかし,一つひとつの科目をよく見てみると,実はそれほどは広くはありません。
しかも深い知識は必要とされていません。

基本事項が押さえられれば,必ず正解できます。

国試までの期間は,十分とは言えませんが,合格するために必要な基本事項を覚えるための時間はあります。

今,本格スタートすればまだ間に合います。

受験するか,しないか迷っているのは,実にもったいないことです。

2018年9月23日日曜日

生活保護法の徹底理解~被保護者の権利及び義務~その3

前々回と前回で被保護者の権利及び義務の出題は,すべて網羅しました。

ここで終わっても良いのですが,今回も続けたいと思います。

権利は,「不利益変更の禁止」「公課禁止」「差押禁止」「譲渡禁止」です。

義務は,「生活上の義務」「届出の義務」「指示等に従う義務」「費用返還義務」です。

この言葉を見て,だんだんどんなことを意味しているのか分かってきたのではないでしょうか。

法制度は・・・

知っている人は解ける。
知らない人は解けない。

はっきり差が出る領域です。

さて,それでは今日の問題です。

第26回・問題66 生活保護法で規定されている被保護者の権利及び義務に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 被保護者は,給付される保護金品に対して租税その他の公課を課せられることがない。

2 被保護者が文書による指導・指示に従わない場合は,保護の実施機関は直ちに保護の停止・廃止の処分を行わなくてはならない。

3 収入,支出その他生計の状況について変動があったときは,速やかに被保護者の住所地を担当する民生委員に届け出なければならない。

4 被保護者は,絶対的扶養義務関係にある同居の親族に限り,保護を受ける権利を譲り渡すことができる。

5 被保護者が生活の維持向上に向けて努力を怠っていると認められる場合は,福祉事務所長はその費用の全部又は一部を,その者から徴収することができる。

国試は,

少しずつ重なっていて,少しずつ違う

チームfukufuku21がずっと主張してきたものです。

先生によっては,応用力が大切だ,とおっしゃる方もいます。

「少しずつ違う」の部分に着目しての指導でしょう。

しかし,多くの場合は,「少しずつ重なっている」部分に正解があります。

そのため,「少しずつ違う」の部分は,内容がよく分からなくても,基本をしっかり押さえれば,答えは分かることになります。

基礎力がついていることを試すのが国試です。それが6割程度の合格基準です。

応用力がなければ正解にたどり着けない問題は存在しない,と言い切れます。

あくまでも基礎力が必要なのです。正しい理解が必要なのです。

愚直ですが,出題基準に沿って作られた参考書をひたすら覚えていくことです。
それ以上の知識が必要ではありませんし,深い理解が必要なわけではありません。

ひたすら覚えていくだけです。基礎力があれば,6割ラインは必ず越えられます。

今日の問題もそんな問題です。

それでは解説です。


1 被保護者は,給付される保護金品に対して租税その他の公課を課せられることがない。

これが正解です。

公課禁止です。

勉強している人は,すぐ正解できるでしょう。


2 被保護者が文書による指導・指示に従わない場合は,保護の実施機関は直ちに保護の停止・廃止の処分を行わなくてはならない。

これは間違いです。

指示等に従う義務
被保護者は,保護の実施機関が,被保護者に対し,必要な指導又は指示をしたときは,これに従わなければならない。
2 保護施設を利用する被保護者は,その保護施設の管理規程に従わなければならない。
3 保護の実施機関は,被保護者が前二項の規定による義務に違反したときは,保護の変更,停止又は廃止をすることができる。
4 保護の実施機関は,前項の規定により保護の変更,停止又は廃止の処分をする場合には,当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければならない。この場合においては,あらかじめ,当該処分をしようとする理由,弁明をすべき日時及び場所を通知しなければならない。

長い規定になっているのは,極めて重要だからです。

流れは

被保護者が指導・指示に従わなかった

 ↓  ↓

処分の理由の通知

 ↓  ↓

弁明の機会

 ↓  ↓

弁明が認められなければ,保護の変更等を行う

といった流れになります。

ちゃんと弁明の機会が設けられているのです。

「直ちに」に保護の変更等が行われるようなものではないことが分かることでしょう。


3 収入,支出その他生計の状況について変動があったときは,速やかに被保護者の住所地を担当する民生委員に届け出なければならない。

これは間違いです。

届出の義務ですが,うっかりちゃんは,引っかかってしまうような作問です。

届出の義務
被保護者は,収入,支出その他生計の状況について変動があったとき,又は居住地若しくは世帯の構成に異動があったときは,すみやかに,保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。

届出するのは,民生委員ではなく,保護の実施機関又は福祉事務所長です。

近年の問題は,文字数が少なくなっているので,最後にどんでん返しがあるような作問はありませんが,この当時はこのようないやらしい問題があったのです。


4 被保護者は,絶対的扶養義務関係にある同居の親族に限り,保護を受ける権利を譲り渡すことができる。

これは間違いです。

譲渡の禁止です。

第20回の問題とそっくりです。

直系血族及び兄弟姉妹の絶対的扶養義務者に限り,保護を受ける権利を譲渡することができる。

しかし少し違います。しかし応用などではなく,保護を受ける権利は,誰にも譲り渡すことはできません。譲渡禁止が,被保護者の権利に含まれる理由は,禁止しないと,貧困ビジネスのようなものがはびこってしまうからだと考えています。

しかし譲渡禁止は,誰に対しても譲渡禁止は譲渡禁止なのです。貧困ビジネスの相手だけではなく,扶養義務者であっても譲渡禁止は譲渡禁止です。


5 被保護者が生活の維持向上に向けて努力を怠っていると認められる場合は,福祉事務所長はその費用の全部又は一部を,その者から徴収することができる。

これは間違いです。

被保護者から,費用を徴収することは絶対にありません。

生活保護の原理の中には「最低生活の原理」があります。

最低限度の生活保障ですから,費用を徴収することは,最低生活の原理に反してしまいます。

もし徴収することがあるとしたら,不正受給の場合でしょう。


<今日の一言>

「低所得者に対する支援と生活保護制度」は覚えるべき法制度は少ないので,科目としての難易度はそれほど高くはありません。

それでも,国試会場では答えを選ぶ時に迷うことがあるでしょう。

その時は,生活保護の原理・原則を思い出すのもよいかもしれません。

生活保護法は,日本国憲法第25条の生存権規定に基づくと明記されています。

そのため,生存権を脅かすような制度にはなっていないのです。

基礎力を養うことで,6割ラインは必ず越えられます。

これからは,どれだけ勉強しても,焦りが高まってくる時です。

模試を受けた時に,知らないものが出題されたとき,勉強不足を実感するかもしれません。

それが参考書に載っていないものだったら,自分が選んだ参考書が間違いだったと思ってしまうかもしれません。

しかし,参考書に載っていないのは,それはそれほど重要なものではないからです。

基礎力を養えば,必ず合格ラインは超えられます。

チームfukufuku21は,そのための考え方の基礎となるものもお伝えしていきたいと考えています。

決して焦らず,できることを精いっぱい頑張っていきましょう。





2018年9月22日土曜日

生活保護法の徹底理解~被保護者の権利及び義務~その2

前回から,被保護者の権利及び義務に入りました。

まずは,復習からです。

権利は,「不利益変更の禁止」「公課禁止」「差押禁止」「譲渡禁止」です。

義務は,「生活上の義務」「届出の義務」「指示等に従う義務」「費用返還義務」です。

不利益変更の禁止
被保護者は,正当な理由がなければ,既に決定された保護を,不利益に変更されることがない。

公課禁止
被保護者は,保護金品を標準として租税その他の公課を課せられることがない。

差押禁止
被保護者は,既に給与を受けた保護金品又はこれを受ける権利を差し押えられることがない。

譲渡禁止
保護又は就労自立給付金の支給を受ける権利は,譲り渡すことができない。

生活上の義務
被保護者は,常に,能力に応じて勤労に励み,自ら,健康の保持及び増進に努め,収入,支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り,その他生活の維持及び向上に努めなければならない。

届出の義務
被保護者は,収入,支出その他生計の状況について変動があったとき,又は居住地若しくは世帯の構成に異動があったときは,すみやかに,保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。

指示等に従う義務
被保護者は,保護の実施機関が,被保護者に対し,必要な指導又は指示をしたときは,これに従わなければならない。
2 保護施設を利用する被保護者は,その保護施設の管理規程に従わなければならない。
3 保護の実施機関は,被保護者が前二項の規定による義務に違反したときは,保護の変更,停止又は廃止をすることができる。
4 保護の実施機関は,前項の規定により保護の変更,停止又は廃止の処分をする場合には,当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければならない。この場合においては,あらかじめ,当該処分をしようとする理由,弁明をすべき日時及び場所を通知しなければならない。

費用返還義務
被保護者が,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けたときは,保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して,すみやかに,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。

決して,難しい内容ではないので,2~3回目に入れれば十分に頭に入ると思います。

それでは,今日の問題です。

第24回・問題60 被保護者の権利義務に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 急迫の場合等において資力があるにもかかわらず保護を受けたときは,受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。

2 保護金品を標準として租税その他の公課を課せられないという権利があるが,過去の税滞納を理由とする保護金品の差し押さえは許されている。

3 勤労に励み支出の節約を図るなど生活の維持向上に努めている場合,保護の実施機関による指導又は指示に従う義務が免除される。

4 収入,支出その他生計の状況について変動があった場合には届出義務が課せられており,これを果たさなかった場合,直ちに保護は変更,停止又は廃止される。

5 正当な理由がなければ保護を不利益に変更されないという権利があるが,地方公共団体における予算の不足はこの正当な理由に当たる。

前回出題されたのは,

権利
不利益変更
差押禁止
公課禁止
譲渡禁止

義務
届出の義務

今回の問題では

権利
不利益変更の禁止
差押禁止
公課禁止

義務
生活上の義務
指示等に従う義務
費用返還義務

と出題されて,2回合わせて権利と義務がそろいました。

重なっているものもありますが,不利益変更の禁止に少しひねりが加わっているので,正解するのは決して簡単ではないです。

それでは,解説です。

1 急迫の場合等において資力があるにもかかわらず保護を受けたときは,受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。

これが正解です。

費用返還義務です。


2 保護金品を標準として租税その他の公課を課せられないという権利があるが,過去の税滞納を理由とする保護金品の差し押さえは許されている。

これは間違いです。

公課禁止は,保護金品に対して,税金がかけられないという意味です。

差押禁止は,とのようなものに対しても差押禁止です。

公課禁止とは言っても,消費税等の間接税は免除されているわけではありません。所得税などがかけられることはないという意味です。


3 勤労に励み支出の節約を図るなど生活の維持向上に努めている場合,保護の実施機関による指導又は指示に従う義務が免除される。

これは間違いです。

生活等の義務です。

義務は,何があったからと言って,免除されるわけではありません。


4 収入,支出その他生計の状況について変動があった場合には届出義務が課せられており,これを果たさなかった場合,直ちに保護は変更,停止又は廃止される。

これは間違いです。

届出の義務です。

「直ちに」というところで間違いだと思えると思います。

うっかりミスもあります。直ちに変更,停止又は廃止されるものではなく,まずは指導などが行われます。


5 正当な理由がなければ保護を不利益に変更されないという権利があるが,地方公共団体における予算の不足はこの正当な理由に当たる。

これは間違いです。

不利益変更の禁止です。

不利益変更を禁止しているのは,保護の実施機関の裁量によって,変更されてしまうと生活が安定しなくなってしまうからです。

正当な理由は,保護の実施機関側の都合ではなく,被保護者側の状況の変化によるものです。例えば,世帯人員が減った,収入が増えた,といった極めて合理的な理由です。

予算不足は正当な理由には当たりません。なぜなら,保護は「国家責任」で行われるものだからです。

もし予算が不足した場合は,補正予算を組んで,地方公共団体の財政支援を行わなければなりません。


<今日の一言>

被保護者の増加に伴い,保護費が上昇している,と言われます。

しかし,実際に保護費は,約3兆8千億円くらいです。

そのうち,半分は医療扶助に使われています。

無駄な与薬,ジェネリック医薬品の使用などによって,抑制できるのではないでしょうか。

2018年9月21日金曜日

生活保護法の徹底理解~被保護者の権利及び義務~その1

今回から,被保護者の権利及び義務に取り組みたいと思います。

現行カリキュラムで出題されたのは,第24回,第26回,第28回の3回です。

この順番でいくと,第30回で出題されても良かったはずですが,出題されませんでした。

そうなるとしばらく出題されない可能性もありますが,しっかり押さえておきたいです。

権利
「不利益変更の禁止」「公課禁止」「差押禁止」「譲渡禁止」

義務
「生活上の義務」「届出の義務」「指示等に従う義務」「費用返還義務」

このように書くと種類だけを一生懸命覚える人がいると思いますが,国試では
被保護者の権利は,「不利益変更の禁止」「公課禁止」「差押禁止」である。

といったように,種類を減らしたり,増やしたりするような出題はされません。

それぞれの内容が問われます。

それでは,法の確認です。


不利益変更の禁止
被保護者は,正当な理由がなければ,既に決定された保護を,不利益に変更されることがない。

公課禁止
被保護者は,保護金品を標準として租税その他の公課を課せられることがない。

差押禁止
被保護者は,既に給与を受けた保護金品又はこれを受ける権利を差し押えられることがない。

譲渡禁止
保護又は就労自立給付金の支給を受ける権利は,譲り渡すことができない。

生活上の義務
被保護者は,常に,能力に応じて勤労に励み,自ら,健康の保持及び増進に努め,収入,支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り,その他生活の維持及び向上に努めなければならない。

届出の義務
被保護者は,収入,支出その他生計の状況について変動があったとき,又は居住地若しくは世帯の構成に異動があったときは,すみやかに,保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。

指示等に従う義務
被保護者は,保護の実施機関が,被保護者に対し,必要な指導又は指示をしたときは,これに従わなければならない。
2 保護施設を利用する被保護者は,その保護施設の管理規程に従わなければならない。
3 保護の実施機関は,被保護者が前二項の規定による義務に違反したときは,保護の変更,停止又は廃止をすることができる。
4 保護の実施機関は,前項の規定により保護の変更,停止又は廃止の処分をする場合には,当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければならない。この場合においては,あらかじめ,当該処分をしようとする理由,弁明をすべき日時及び場所を通知しなければならない。

費用返還義務
被保護者が,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けたときは,保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して,すみやかに,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。

内容自体は,一度頭に入れておけば,それほど複雑なものではないので,国試では対応できることでしょう。

さて,それでは今日の問題です。

第20回・問題25 被保護者の権利及び義務に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 収入,支出その他生計の状況について変動があったときは,すみやかに保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。

2 どのような理由であっても,既に決定された保護は不利益に変更されることはない。

3 既に給与を受けた保護金品を差し押さえられることはあっても,保護金品を受ける権利を差し押さえられることはない。

4 給与を受けた保護金品のうち現金については,租税その他の公課を課せられる。

5 直系血族及び兄弟姉妹の絶対的扶養義務者に限り,保護を受ける権利を譲渡することができる。

この問題は,旧カリ時代のものです。

この科目は旧カリ時代からも出題の内容がほとんど変わりません。変化が少ない科目なのです。

さて,早速解説です。

1 収入,支出その他生計の状況について変動があったときは,すみやかに保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。

これが正解です。「届出の義務」ですね。

2 どのような理由であっても,既に決定された保護は不利益に変更されることはない。

権利のうちの「不利益変更の禁止」です。「どのような理由があっても」ではなく,「正当な理由がなければ」です。よって間違いです。

正当な理由とは,被保護者の収入が増えた,世帯人員が減ったなどの理由です。


3 既に給与を受けた保護金品を差し押さえられることはあっても,保護金品を受ける権利を差し押さえられることはない。

権利のうちの「差押禁止」です。

差押はどのような場合であっても認められません。よって間違いです。


4 給与を受けた保護金品のうち現金については,租税その他の公課を課せられる。

権利のうちの「公課禁止」です。よって間違いです。


5 直系血族及び兄弟姉妹の絶対的扶養義務者に限り,保護を受ける権利を譲渡することができる。

権利のうちの「譲渡禁止」です。誰であろうと,譲渡は禁止されています。よって間違いです。


<今日の一言>

覚え方のミスマッチ

法制度は,基本を押さえれば,正解にたどりつくことができます。

得点力を上げるには,それしかありません。

しかし,そこには「覚え方のミスマッチ」という恐ろしい落とし穴があります。

このブログでは,過去問を使って解説を繰り返しています。

その理由は,国試で問われるポイントはいつも一緒である,ということからです。

先述のような

被保護者の権利は,「不利益変更の禁止」「公課禁止」「差押禁止」である。
といったように,種類を減らしたり,増やしたりするような出題はされません。

これが「覚え方のミスマッチ」です。

国試問題をしっかり押さえていれば,ミスマッチは起きません。

チームfukufuku21は,正しい覚え方を伝えていきますので,ぜひご参考にしていただけましたら幸いです。

2018年9月20日木曜日

生活保護法の徹底理解~扶助の種類~その7

今回は,扶助の種類の最終回です。

国試に合格するために必要なことは

基本事項をしっかり覚えること

ひたすらコツコツしっかり身につけていくことです。

国試の特徴は・・・

少しずつ重なっていて,少しずつ違う

8~9割は過去に出題されたものの範囲から出題されます。

過去に出題されたものとは,旧カリ時代の国試を含めたものであり,直近の3年間という意味ではありません。

1~2割は,今まで出題されたことのないものを混ぜて出題されています。

それが,

少しずつ重なっていて,少しずつ違う

という意味です。

このタイプの問題には,2つのタイプがあります。

①誰もが解けなくて良いタイプ
②しっかり基礎が身についていれば解けるタイプ

①は,対策を取りようがないタイプです。

全体の正解率や合格基準点をそろえるために出題されるのではないかと思います。

つまり,正解は教科書や参考書に載っていないものを配置するものです。

合格基準点が99点という過去最高点となった第30回にはほとんど見られませんでした。

合格基準点が上がった要素はいくつかありますが,その一つがこれだと思います。

②は,新しいものが含まれていても,正解選択肢は,今までに出題実績のある内容のものが設定されます。

基本事項をしっかり押さえれば必ず得点できます。

国試合格のためには,基本事項をしっかり押さえることが何よりも大切です。

先生によっては

「基本的な内容だけだと応用が利かない。深い理解がなければ,得点できない」

と指導される方もいらっしゃると聞きます。

しかし,近年の国試の傾向を考えると,深い理解がなければ解けない問題はほとんどありません。

正解選択肢は重要なので,正解選択肢として出題されます。

多くの試験委員が大切だと考えるポイントは,大きく変わりません。

そのため,正解選択肢は,過去にも出題されたことのある内容になる傾向があるのです。

すべての選択肢の正誤を分かるためには,深い理解が必要かもしれませんが,それは過去問題集を作成する先生に任せておけばよいです。

国試に合格するためには,正解選択肢が分かればよいのです。


さて,今日の問題です。この問題は②のタイプです。

第29回・問題66 現行の生活保護基準に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 生活扶助基準第一類は,所在地域によらず設定されている。

2 生活扶助基準第一類は,男女の性別ごとに設定されている。

3 生活扶助基準第一類は,年齢によらず設定されている。

4 生活扶助基準第二類は,世帯人員別に設定されている。

5 生活扶助基準第二類は,生活保護の受給期間に応じて設定されている。

第29回の問題なので,無駄な言い回しはなくなっています。

文字数は,141字で,前回よりも32字減っています。

無駄な言い回しがないことは,日本語的に破たんすることがないので,知識がない人は解きにくいものとなります。

今回の問題は,生活扶助の基準生活費の第一類と第二類に限定した問題です。

今まで,基準生活費について,最も多く出題されてきたのは,

第1類は,個人別

第2類は,世帯人員別

というものでした。

2つある場合は,両方覚えるとあいまいになりがちなので,片方だけをしっかり覚えましょう,と呼びかけました。

そうすると,覚えていないものはそれとは違うもの,と認識できるので絶対にあいまいになりません。

この問題の難易度はそんなに易しいものではありません。

なぜなら,選択肢5が参考書などには出ていないものだからです。

なぜ出ていないのでしょう?

それでは,解説です。


1 生活扶助基準第一類は,所在地域によらず設定されている。

保護費には,給地区分というものがあり,地域別によって3給地に分かれていて6区分となっています。

生活扶助,住宅扶助,葬祭扶助の3つの扶助に給地区分があります。よって間違いです。


2 生活扶助基準第一類は,男女の性別ごとに設定されている。

実は,以前は男女の性別で違っていました。

なぜ違っていたかと言えば,男女では必要な栄養量が差異があるからでした。

現在では男女の体格差が少なくなっていることから,男女差は廃止されています。よって間違いです。


3 生活扶助基準第一類は,年齢によらず設定されている。

第一類は,個人別の経費です。男女差はなくなっても,年代によって必要な栄養量等には違いがあります。よって間違いです。


4 生活扶助基準第二類は,世帯人員別に設定されている。

これが正解です。

第二類は,世帯人員別,つまり世帯の人数別によって設定されています。

第一類と第二類のどちらを覚えるかは,個人の好みですが,あいまいにならないようにしっかり覚えることが大切です。


5 生活扶助基準第二類は,生活保護の受給期間に応じて設定されている。

受給期間に応じて設定されていません。よって間違いです。


勉強不足の人は,これを正解だと思う人もいるでしょう。

なぜなら,受給抑制のための政策によって設けられたのではないか,と思えるからです。
しかし,基本原理には「最低生活の原理」があります。

もし,支給費を引き下げるのなら,収入が増えたときです。

受給期間が長くなることによる逓減性が設けられると最低生活の原理に反してしまいます。

原理は,例外のないルールです。政策ににって変更できるものではありません。

受給期間による保護費が参考書等に出ていないのは,でたらめだからです。

しっかり勉強した人にとってはそんなに難しくないものであっても,このような選択肢を入れ込むことで,正解率は大きく下がります。



2018年9月19日水曜日

生活保護法の徹底理解~扶助の種類~その6

「低所得者に対する支援と生活保護制度」は,覚えるべき法制度は,基本的に生活保護法だけです。

この法律は大きな改正はないので,過去問を使って勉強することが有効的です。

今まで見てきたように,出題されるポイントは,ほとんど変化していません。


国家試験に出題される問題には意味がある!


社会福祉士の国試で問うこと,それぞれの問題を出題することは,社会福祉士に求められる,価値,知識,介入(技術)でなければなりません。


そのため,この科目は法制度がほとんど固定しているため,同じような問題になるのではないかと考えています。


制度は,変わったところが出題される

といった意味のアドバイスをする方がいます。

しかし,制度改正に関しては,その制度の根本にかかわる変更でなければ,すぐ出題されることはありません。

制度の根本とは,例えば,定義,保険者,支給要件,理念法といったものです。

それらにしても,すぐ出題されるものは極めて少ないものです。

4月改正のものがその年度に出題されるものは,1問あるかないか,というレベルです。

もちろん制度改正は知っておかなければなりません。

しかし,それは国試のため,というよりも社会福祉士として最新の法制度をアップデートしておくためのものと言えます。

制度改正があって,すぐ出題されたものとしては,

発達障害者福祉法における発達障害者の定義があります。

これは根本です。

制度改正があっても,施行前のものもめったに出題されることもありません。

近年では,障害者虐待防止法(定義),生活困窮者自立支援法(法律の名称),障害者雇用促進法(精神障害者が算定基礎に加わる)の3つのみです。

これからを知っている人なら

最新の法制度はほとんど出ないよ

と言うのではないでしょうか。


多くの科目は,7問しかないので,出題基準に沿ってまんべんなく出題しようとすると,最新の制度改正を組み込む余地が少ない,ということも関係しているように思います。


これからの時期は,あれも覚えなければならない,これも覚えなければならない,という焦りが高まってくる時です。

模擬試験を受けると,最新の制度改正が多く出題されています。

そのため余計な焦りが高まります。

「この制度は知らない。勉強不足だ」と思ってしまうでしょう。

ある程度,ボリュームがある参考書なら,施行前の法制度でもすでに予測して掲載されています。

模試に出題されていても,参考書に掲載されていないものは,それほど重要ではない,と言えます。

「こういった制度改正があるのか」といったくらいに,模試についている解説を押さえておく程度で良いと思います。それ以上深める必要はありません。

模試には,このような特徴があるので,本試験よりも点数が低くなります。

国試は,社会福祉士にとって必要だから出題されます。

もし,知らない法制度が出題されたとしたら,出題者の意図を考えてみましょう。

なぜその問題を出題しようと思ったのか,その選択肢の組み立てはどうしてこのようなものになっているのか。

それらを考えることで得点力は確実に上がります。

過去問に取り組むときも,これを意識することをおすすめします。

模試の中には,国試の組み立てと違う問題もあるので,出題意図を考える訓練をするなら,過去問でなければなりません。

それでは,今日の問題です。

第27回・問題65 生活保護の種類と内容に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 生活扶助は,衣食住その他日常生活の需要を満たすために必要なものを給付する。

2 居宅において生活扶助を行う場合の保護金品は,被保護者に対し個々に交付することを原則とする。

3 住宅扶助は,宿所提供施設を利用する現物給付によって行うことを原則とする。

4 出産扶助は,金銭給付によって行うことを原則とする。

5 医療扶助は,金銭給付によって行うことを原則とする。


第27回の国試問題です。

文字数がかなり短くなり,余計な言い回しはほとんど見られなくなってきています。

前回の問題と比べると一目瞭然です。

第25回・問題66 生活保護における各種の扶助に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 生活扶助には,基準生活費に当たる第1類費や第2類費のほか,各種の加算があり,うち,母子加算は,母子世帯のほか父子世帯も対象としている。
2 生活扶助は,個々人に必要な生活費としての側面もあるため,世帯員が複数の場合,個人に対して金銭が給付されるのが原則である。
3 教育扶助は,高校や大学での修学にも対応できるよう,義務教育終了後においても支給される。
4 医療扶助は,医療保険制度による指定医療機関に委託して行われ,現物給付を原則としている。
5 生業扶助は,現に就いている生業の維持を目的とするため,生業に就くために必要な技能の修得はその範囲に含まれない。

第25回は273字,第27回は173字です。

たった100字だと思うかもしれませんが,知識のある人にとっては大きく違います。

この問題では,答えが分かる人は瞬時に正解を選べることでしょう。

それでは解説です。


1 生活扶助は,衣食住その他日常生活の需要を満たすために必要なものを給付する。
これは間違いです。

国試会場では,これを正解にした人もいたのではないかと思います。

どこが間違っているかと言えば,

生活扶助は,「衣食」の需要に給付されるものです。

「住」の需要は,住宅扶助が給付されます。


2 居宅において生活扶助を行う場合の保護金品は,被保護者に対し個々に交付することを原則とする。

生活扶助は,世帯に対して給付されます。よって間違いです。これは落ち着いて読めば消去できるでしょう。


3 住宅扶助は,宿所提供施設を利用する現物給付によって行うことを原則とする。

ここから,現物給付,金銭給付の選択肢が続きます。

原則,現物給付なのは「医療扶助」「介護扶助」のみです。

それ以外は,すべて金銭給付です。

住宅扶助ももちろん金銭給付です。よって間違いです。


4 出産扶助は,金銭給付によって行うことを原則とする。

出産扶助は,原則金銭給付です。よって正解です。


5 医療扶助は,金銭給付によって行うことを原則とする。

医療扶助は,原則現物給付です。よって間違いです。


<今日の一言>

第27回の合格基準点は,88点でした。

88点でもそれまでよりは高いのですが,第30回国試に比べると,10点も低くなっています。

その違いは,いくつか述べることができますが,その一つには,第27回は,問題文が短くなったとは言え,選択肢1,2はまだ少し長めだったこともあると思います。

今は,各選択肢の長さには,大きなばらつきがありません。

今は,さらに短い問題があり,とうとう文章問題ではないものも登場しています。

それについては,今後解説する機会もあるでしょう。

それはさておき,国試問題はしっかり基礎を覚えたら,確実に得点できます。

なぜなら,試験委員が変わっても,国試に出題したいポイントはそれほど大きくは変わらないからです。

もし出題意図がピンボケな問題があった場合は,国試には使われずお蔵入りとなることでしょう。



2018年9月18日火曜日

生活保護法の徹底理解~扶助の種類~その5

今回も扶助の種類に取り組みたいと思います。

それでは早速今日の問題です。

第25回・問題66 生活保護における各種の扶助に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 生活扶助には,基準生活費に当たる第1類費や第2類費のほか,各種の加算があり,うち,母子加算は,母子世帯のほか父子世帯も対象としている。

2 生活扶助は,個々人に必要な生活費としての側面もあるため,世帯員が複数の場合,個人に対して金銭が給付されるのが原則である。

3 教育扶助は,高校や大学での修学にも対応できるよう,義務教育終了後においても支給される。

4 医療扶助は,医療保険制度による指定医療機関に委託して行われ,現物給付を原則としている。

5 生業扶助は,現に就いている生業の維持を目的とするため,生業に就くために必要な技能の修得はその範囲に含まれない。

この問題は,合格基準点が過去最低の72点となった第25回のものです。

近年とは,問題の感じが違うと思いませんか。

問題文が説明的になっているのです。

今風に,問題をつくり直してみましょう。

第25回・問題66 生活保護における各種の扶助に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 生活扶助の母子加算は,父子世帯も対象としている。
2 生活扶助は,世帯員が複数の場合,個人に対して金銭が給付されるのが原則である。
3 教育扶助は,義務教育終了後においても支給される。
4 医療扶助は,医療保険制度による指定医療機関に委託して行われる。。
5 生業扶助は,生業に就くために必要な技能の修得はその範囲に含まれない。

文字数では110字ほど短縮されています。

文字数が短くなれば,文章の不自然さがなくなるので,日本語的に解けることはまずありません。

知識がある人は解ける。

知識がない人は解けない。



知識がなくても解けるような問題ではだめなのです。

また

知識があっても解けない問題ではだめなのです。

受験する人にとっては過酷ですが,正しい国試のすがたになってきたと言えるでしょう。

それでは解説です。

1 生活扶助には,基準生活費に当たる第1類費や第2類費のほか,各種の加算があり,うち,母子加算は,母子世帯のほか父子世帯も対象としている。

これが正解です。

母子加算は,当初は母子家庭を対象としていましたが,一時期廃止されて,それが復活した際,母子家庭も対象としました。

第1類費は,個人の消費のために支給されます。年齢別によって金額が異なります。

第2類費は,世帯の消費のために支給されます。世帯人数によって金額が異なります。


2 生活扶助は,個々人に必要な生活費としての側面もあるため,世帯員が複数の場合,個人に対して金銭が給付されるのが原則である。

生活保護の原理・原則の中に「世帯単位の原則」があります。

原則は世帯単位,例外事項は個人単位です。

よって間違いです。


3 教育扶助は,高校や大学での修学にも対応できるよう,義務教育終了後においても支給される。

教育扶助は,義務教育に支給されます。高校等は,生業扶助の高等学校等就学費が支給がされます。


4 医療扶助は,医療保険制度による指定医療機関に委託して行われ,現物給付を原則としている。

これを正解にした人が多かったと思いますが,正解ではありません。

医療扶助=現物給付

の部分は合っていますが,医療扶助を行う指定医療機関は,医療保険制度ではなく,生活保護法の指定医療機関,あるいは医療保護施設で実施します。

今では考えられない引っ掛けです。


5 生業扶助は,現に就いている生業の維持を目的とするため,生業に就くために必要な技能の修得はその範囲に含まれない。

生業扶助は,被保護者の就労支援なので,極めて重要です。

生業扶助は

生業に必要な資金,器具又は資料

生業に必要な技能の修得

就労のために必要なもの

とされています。

生業に就くために必要な技能の修得も含まれます。

よって間違いです。



2018年9月17日月曜日

生活保護法の徹底理解~扶助の種類~その4

今日も扶助の種類を続けます。

早速,今日の問題です。

第24回・問題59 生活保護における扶助の種類とその内容に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 死亡した被保護者が単身世帯の場合には,行旅死亡に準じて取り扱われ葬祭扶助は行われない。

2 医療扶助により,入院中の被保護者に対しては入院患者日用品費が支給される。

3 教育扶助により,高等学校等就学費が支給される。

4 住宅扶助によって家賃,間代,地代は支給されるが,敷金,礼金,不動産手数料等は支給されない。

5 生業扶助は要保護者の稼働能力を引き出し,それを助長することによって,その自立を図ることを目的としている。


初めて出題されたのは葬祭扶助です。

そのほかのものは,何度か見ましたね。

それでは解説です。

1 死亡した被保護者が単身世帯の場合には,行旅死亡に準じて取り扱われ葬祭扶助は行われない。

行旅死亡とは,名前や住所が判明せず,行き倒れになることです。

行旅死亡の場合は,行旅病人及行旅死亡人取扱法(明治32年)が適用され,行き倒れになった市町村が火葬と埋葬を行います。

被保護者が死亡した場合は,葬祭を取り扱った人に対して,葬祭扶助が支給されます。よって間違いです。

実は,単身世帯の被保護者がなくなった場合も,行旅病人及行旅死亡人取扱法は適用されます。

どのような場合かと言うと,遺品整理などです。生活保護法には規定がないので,市町村が責任を持って遺品整理を行うことになります。


2 医療扶助により,入院中の被保護者に対しては入院患者日用品費が支給される。

入院患者日用品費は,被保護者が入院した場合の生活扶助の一般生活費です。医療扶助ではありません。よって間違いです。


3 教育扶助により,高等学校等就学費が支給される。

高等学校等就学費は,生業扶助です。よって間違いです。


4 住宅扶助によって家賃,間代,地代は支給されるが,敷金,礼金,不動産手数料等は支給されない。

住宅扶助によって,敷金,礼金,不動産手数料等も支給されます。よって間違いです。


5 生業扶助は要保護者の稼働能力を引き出し,それを助長することによって,その自立を図ることを目的としている。

これが正解です。生業扶助は要保護者の稼働能力を引き出し,それを助長することによって,その自立を図ることを目的としたものです。

2018年9月16日日曜日

生活保護法の徹底理解~扶助の種類~その3

まずは,前回の復習からです。

原則,現物給付なのは,医療扶助と介護扶助のみ

それ以外は,原則金銭給付です。

そして,〇で囲むこと。

こうすることで,ポイントがはっきりします。

それでは,早速今日の問題です。

第23回・問題59 生活扶助に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 生活扶助は,原則として金銭給付によって行うものとされる。 

2 生活扶助における基準生活費は,世帯を単位として算定された第1類に定める額である。 

3 入院患者日用品費は,原則として入院時の付添費,給食費に対応するものである。 

4 加算とは,特別の状態にある者に最低生活より高い生活水準を保障するための特別経費を支給するものである。 

5 一時扶助とは,要否判定前に一時的に支給されるものである。

答えはすぐ分かることでしょう。

しかし,一応解説します。


1 生活扶助は,原則として金銭給付によって行うものとされる。 

これが正解です。

医療扶助と介護扶助は,原則現物給付です。

それ以外は,原則金銭給付,つまり生活扶助は原則金銭給付です。


2 生活扶助における基準生活費は,世帯を単位として算定された第1類に定める額である。 

基準生活費は,個人を単位とする第1類,世帯を単位とする第2類があります。

よって間違いです。

これは何度も入れ替えて出題されるので,しっかり押さえておきたいです。

個人 → 第1類
世帯 → 第2類

このように対になる2つがある場合,2つとも覚えようとすると,あいまいになりがちです。

2つある場合は。片方だけ覚えて,もう一つは「別な方」と覚えると良いです。

個人 → 第1類
世帯 → 第2類

どちらに着目して覚えるか決めて,片方だけ覚えましょう。


3 入院患者日用品費は,原則として入院時の付添費,給食費に対応するものである。 

入院患者日用品費は,入院した場合の一般生活費です。よって間違いです。


4 加算とは,特別の状態にある者に最低生活より高い生活水準を保障するための特別経費を支給するものである。 

加算が設けられているのは,加算がないと最低生活を下回ってしまうからです。

よって間違いです。

「最低生活の原理」は,最低生活で保障するわけで,例外はないのです。


5 一時扶助とは,要否判定前に一時的に支給されるものである。

一時扶助は,保護を受けている者が,一時的に必要となった場合に給付されるものです。

入学準備金,出産する場合の子どもの服代などです。

要否判定前に一時的に支給されるものがあるのかどうかは知りませんが,もしそのようなものがあったとしたら,介護保険や障害福祉サービスのように「特例〇〇」という名称になるのではないでしょうか。

2018年9月15日土曜日

生活保護法の徹底理解~扶助の種類~その2

現在の生活保護法は,第二次世界大戦で疲弊した日本の社会不安と混乱の中で成立したものです。制度発足直後の昭和26年には,24パーミルを記録しています。

近年は保護率が高まり,17パーミルとなっていますが,当初は今よりもはるかに高かったのです。

さて,今回も扶助の種類を続けます。

第21回・問題26 生活保護制度における扶助の範囲と方法に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 生活扶助は,衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なものや移送について行うものであり,原則として金銭給付である。

2 教育扶助は,幼稚園,小学校,中学校,高等学校等の修学費について行うものであり,原則として金銭給付である。

3 住宅扶助は,家賃等の住居費用,家屋に必要な水道設備等の修理,補修費用等について行うものであり,原則として現物給付である。

4 医療扶助は,診察,薬剤又は眼鏡等の治療材料等について行うものであり,原則として金銭給付である。

5 介護扶助は,要介護者に対して居宅介護,住宅改修等を,また要支援者に対して介護予防,介護予防住宅改修等を行うものであり,原則として金銭給付である。

この問題も前回に引き続き,旧カリキュラム時代の問題です。

それほど,長い言い回しはしていませんが,現在ならおそらく以下のようなものになるのではないでしょうか。

問題26 生活保護制度における扶助の方法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 生活扶助は,原則として金銭給付である。
2 教育扶助は,原則として金銭給付である。
3 住宅扶助は,原則として現物給付である。
4 医療扶助は,原則として金銭給付である。
5 介護扶助は,原則として金銭給付である。

とても今っぽいと思いませんか?

これだと,選択肢2も正解になってしまうので,これを間違いにするためには,

1 生活扶助は,原則として金銭給付である。
2 教育扶助は,原則として現物給付である。
3 住宅扶助は,原則として現物給付である。
4 医療扶助は,原則として金銭給付である。
5 介護扶助は,原則として金銭給付である。

としなければなりません。

正解は,選択肢1です。

なぜ上記では,選択肢2を金銭給付から現物給付に変えなければならなかったかと言えば,この選択肢だけ,金銭給付か,現金給付か,というところがポイントではなく,高等学校というところが間違いポイントになっていたためです。


原則,現物給付なのは,医療扶助と介護扶助のみ。

それ以外は,すべて原則金銭給付です。

勉強する時のポイントは,できるだけシンプルに覚えることです。

生活扶助は,原則金銭給付。
教育扶助は,原則金銭給付。

といったように8種類すべてを覚えるためには,8種類を覚えなければなりません。
そうではなく,

原則,現物給付なのは,医療扶助と介護扶助のみ!!

と覚えれば,たった一文で覚えられます。

問題文が長い方向に戻って出題されることは考えにくいですが,第30回の反省をもとにそのようなこともなくはないかもしれません。

そこで,長い問題文を読むときのポイントをお伝えしておきます。

1 生活扶助は,衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なものや移送について行うものであり,原則として金銭給付である。
2 教育扶助は,幼稚園,小学校,中学校,高等学校等の修学費について行うものであり,原則として金銭給付である。
3 住宅扶助は,家賃等の住居費用,家屋に必要な水道設備等の修理,補修費用等について行うものであり,原則として現物給付である。
4 医療扶助は,診察,薬剤又は眼鏡等の治療材料等について行うものであり,原則として金銭給付である。
5 介護扶助は,要介護者に対して居宅介護,住宅改修等を,また要支援者に対して介護予防,介護予防住宅改修等を行うものであり,原則として金銭給付である。

ポイントは,ずばり

原則,現物給付なのは,医療扶助と介護扶助のみ

という知識が必要です。

問題文をざっと見た時,扶助の方法は,現金給付なのか,金銭給付なのかを聞いている文章だということが分かります。

細かく文章を読む必要はありません。

生活扶助 金銭給付

教育扶助 金銭給付

住宅扶助 現物給付

医療扶助 金銭給付

介護扶助 金銭給付

ここの部分を〇で囲みます。

すると,

生活扶助 金銭給付

教育扶助 金銭給付

が残り,後はすべて消去できます。

その時点で,

1 生活扶助は,衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なものや移送について行うものであり,原則として金銭給付である。

2 教育扶助は,幼稚園,小学校,中学校,高等学校等の修学費について行うものであり,原則として金銭給付である。

を詳しく読みます。

そこで,選択肢2の中に教育扶助は義務教育なのに「幼稚園」と「高等学校」が含まれているので間違いだと判断します。

そして選択肢1が残ります。

このようなやり方をしないと,実に簡単な問題でも引っ掛けられます。

文章が長いと,その中に引っ掛けが多く含まれる可能性があるので,疑心暗鬼になり迷います。

迷いの道に入り込むと,そこから出てくるのは,至難の業となります。

<今日の一言>

第30回国試の合格基準点は,今までで最高の99点となりました。

とてもびっくりです。

これによって,どんな勉強をしたら良いか,分からなくなったという人もいることでしょう。

出題基準は変わっていないので,覚える内容は一切変わりません。

解ける問題は,確実に得点するということが必要なのです。

<例1>
生活保護制度における扶助の範囲と方法に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 生活扶助は,衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なものや移送について行うものであり,原則として金銭給付である。
2 教育扶助は,幼稚園,小学校,中学校,高等学校等の修学費について行うものであり,原則として金銭給付である。
3 住宅扶助は,家賃等の住居費用,家屋に必要な水道設備等の修理,補修費用等について行うものであり,原則として現物給付である。
4 医療扶助は,診察,薬剤又は眼鏡等の治療材料等について行うものであり,原則として金銭給付である。
5 介護扶助は,要介護者に対して居宅介護,住宅改修等を,また要支援者に対して介護予防,介護予防住宅改修等を行うものであり,原則として金銭給付である。

<例2>
生活保護制度における扶助の方法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 生活扶助は,原則として金銭給付である。
2 教育扶助は,原則として現金給付である。
3 住宅扶助は,原則として現物給付である。
4 医療扶助は,原則として金銭給付である。
5 介護扶助は,原則として金銭給付である。

どちらが解きやすいか,といえば明らかに<例2>でしょう。
そのため,例2のように出題すると,正解率が上がるのです。

しかし,覚えておくべきものは,何ら変わっていません。

教育扶助は義務教育の分に給付されることは他の時に覚えておかなければならないからです。

合格基準点が上がろうと下がろうと,勉強することはまったく変わることはありません。

90点が99点になったから覚えることが多くなるのか。

90点が72点になったから覚えることが少なくなるのか。

そんなことは一切ありません。

取れる問題は確実に取る。

そのためには,覚え方はシンブルに,しかも確実に覚えていくことが必要です。

チームfukufuku21は,そのためのポイントをお伝えしていきたいと思います。

2018年9月14日金曜日

生活保護法の徹底理解~扶助の種類~その1

「低所得者に対する支援と生活保護制度」で,覚えるべき法制度の中心は,生活保護法です。前回まで,基本原理・原則を取り上げましたが,ほとんど同じ内容で出題されていることが分かることでしょう。

基本原理が4つ,基本原則が4つ,合わせて8つを入れ替わり立ち代わり出題するだけなので,似たようなものになるのは当然のことでしょう。

今回からは扶助の種類を学んでいきます。

扶助の種類も8つです。

8つの種類を覚えるのは面倒な感じがしますが,歴史的変遷をたどって覚えると比較的頭に入りやすいと思います。


救護法(1929) 
生活扶助,医療扶助,助産扶助,生業扶助,それに埋葬費


旧・生活保護法(1946) 
救護法の4種類に葬祭扶助が加わる。


現・生活保護法(1950) 
旧法の5種類に,住宅扶助と教育扶助が加わる。現在はさらに介護扶助が加わって8種類となる。

決め手は,出発点の救護法の4種類をしっかり覚えておくことでしょう。

それでは,前説なしに問題に入りたいと思います。

第19回・問題24 生活保護制度における扶助の種類と範囲に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 教育扶助は,義務教育に伴って必要な教科書その他の学用品及び通学用品について行うものであり,学校給食については該当しない。

2 医療扶助は,診察,薬剤,医学的処置,手術及び治療並びに施術,看護等について行うものであり,治療材料については該当しない。

3 要介護者に対する介護扶助は,居宅介護支援計画に基づく居宅介護,福祉用具,住宅改修,施設介護,移送について行うものであり,介護保険料については該当しない。

4 生業扶助は,生業に必要な資金や技能の修得,就労のために必要なものについて行うものであり,高等学校等就学費については該当しない。

5 葬祭扶助は,死体の運搬,火葬,納骨その他葬祭のために必要なものについて行うものであり,埋葬については該当しない。

これは,旧カリキュラム時代の問題です。しっかり理解しておけば,決して難しくはないですが,日本語的に解けないように表現や語尾をそろえているのが,現在の国家試験のスタイルに近いので,勉強不足の人はまず解けない良問だと思います。

このような問題で得点できるかできないかが,合格できる30%に入るか入らないかの大きな分かれ道となります。

それでは解説です。


1 教育扶助は,義務教育に伴って必要な教科書その他の学用品及び通学用品について行うものであり,学校給食については該当しない。

教育扶助は,現・生活保護法で規定されたものです。

教育扶助でいつも問われるのは,義務教育にかかる経費が対象であって,高校等は対象にならないことです。

高校は,後から出てくる生業扶助の高等学校等就学費が対応しています。

さて,問題に戻ると,教育扶助は学用品,通学用品,そして学校給食も該当します。

よって間違いです。


2 医療扶助は,診察,薬剤,医学的処置,手術及び治療並びに施術,看護等について行うものであり,治療材料については該当しない。

医療扶助は,救護法で規定されたものです。

医療扶助は,診療費,薬剤費,治療材料費,施術費,移送費等を給付するものです。

よって間違いです。


3 要介護者に対する介護扶助は,居宅介護支援計画に基づく居宅介護,福祉用具,住宅改修,施設介護,移送について行うものであり,介護保険料については該当しない。

介護扶助は,介護保険法に伴い規定されたもので,8種類の中では最も新しいものです。

結論をいうと,これが正解です。

介護扶助は,介護保険サービスを利用した時の自己負担分を給付するものです。

生活保護受給者は,第2号被保険者ではありませんので,介護保険料の納付はありません。

しかし,65歳になると第1号被保険者となるので,介護保険料の納付が必要となります。

介護保険料は,生活扶助の介護保険料加算が対応します。

介護保険サービスの本人負担分 → 介護扶助。

介護保険料 → 生活扶助の介護保険料加算。

しっかり整理して覚えましょう。


4 生業扶助は,生業に必要な資金や技能の修得,就労のために必要なものについて行うものであり,高等学校等就学費については該当しない。

生業扶助は,救護法ですでに規定されていたものです。

生活保護の目的の一つである「自立の助長」のためには,極めて重要なものです。

教育扶助は,義務教育でかかる学用品費等に対応するものなので,高校については対象外です。
しかし,現在は高校の進学率は100%に近くなっており,高校卒業でなければ職種や求人数は限定されてしまいます。

そこで,現在は高校進学は自立の助長という観点から,生業扶助の高等学校等就学費が対応しています。

よって間違いです。

高校就学にかかる費用は,生業扶助が支給されることをしっかり押さえましょう。

何度も何度も繰り返し出題されています。


5 葬祭扶助は,死体の運搬,火葬,納骨その他葬祭のために必要なものについて行うものであり,埋葬については該当しない。

葬祭扶助が規定されたのは,旧・生活保護法です。しかし,救護法では,埋葬費が支給されていました。そこから埋葬費も含まれるという想像ができるでしょう。

もちろん埋葬費も含まれます。

よって間違いです。

今日の問題で出題されたのは,8つのうち

教育扶助
医療扶助
介護扶助
生業扶助
葬祭扶助

の5つです。

特に覚えておきたいのは


義務教育 → 教育扶助

高校 → 生業扶助の高等学校等就学費

介護保険サービスの自己負担分 → 介護扶助

介護保険料 → 生活扶助の介護保険料加算

高等学校等就学費に「等」がついているのは,高校のほかに高等専門学校(高専)や専修学校(中卒で入学できるもの)などが含まれるからです。



2018年9月13日木曜日

生活保護の原理・原則~その5

今日が生活保護の原理・原則の最終回です。

基本原理・基本原理は以下の通りです。

基本原理
①国家責任の原理
②無差別平等の原理
③最低生活の原理
④保護の補足性の原理

基本原則
①申請保護の原則
②基準及び程度の原則
③必要即応の原則
④世帯単位の原則


早速問題です。

第28回・問題64 生活保護法が規定する基本原理,原則に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 すべて国民は,この法律及び地方公共団体の条例の定める要件を満たす限り,この法律による保護を受けることができる。

2 この法律による保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行われる。

3 この法律は,地方公共団体が生活に困窮するすべての住民に対し,必要な保護を行い,その自立を助長することを目的としている。

4 生活保護の基準は,最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,且つ,これをこえるものでなければならない。

5 この法律は,生活困窮に陥った原因によって,保護するかしないかを定めている。

前回までとほとんど変わらない出題スタイルが続きます。

落ち着いて読めば,正解できることでしょう。

しかし,国試会場では,平常心でいられるのは本当に難しいものです。

試験会場独特の雰囲気,静寂の中で発生する周りの受験者や試験官の音,など,緊張感を高めるための要素満載です。

それに勝つには,「これだけ勉強したのだから,私は大丈夫だ」と思える強い心です。
そう思えるようにベターを尽くしましょう!!

それでは解説です。


1 すべて国民は,この法律及び地方公共団体の条例の定める要件を満たす限り,この法律による保護を受けることができる。

無差別平等に関する問題です。

②無差別平等の原理
 すべて国民は,この法律の定める要件を満たす限り,この法律による保護を,無差別平等に受けることができる。

「この法律」は正しいですが,そのあとの「地方公共団体」が余計です。よって間違いです。


2 この法律による保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行われる。

これが正解です。

必要即応の原則に関する問題です。

3 この法律は,地方公共団体が生活に困窮するすべての住民に対し,必要な保護を行い,その自立を助長することを目的としている。

国家責任の原理に関する問題です。

①国家責任の原理
 この法律は,日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き,国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする。

目的は,最低限度の生活保障自立の助長です。

よって間違いです。

4 生活保護の基準は,最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,且つ,これをこえるものでなければならない。

基準及び程度の原則に関する問題です。

②基準及び程度の原則
 保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。
2 前項の基準は、要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて,且つ,これをこえないものでなければならない。

「こえるもの」ではなく,「こえないもの」でなければなりません。よって間違いです。


5 この法律は,生活困窮に陥った原因によって,保護するかしないかを定めている。

無差別平等の原理に関する問題です。

②無差別平等の原理
 すべて国民は,この法律の定める要件を満たす限り,この法律による保護を,無差別平等に受けることができる。

現・生活保護法は,欠格条項のない本来の無差別平等です。

この場合の無差別平等とは,困窮に陥った理由にかかわらず,困窮の事実に基づいて保護を実施するという意味です。

よって間違いです。

原則は例外のあるルールですが,原理は例外のないルールです。

無差別平等の原理は,例外のない無差別平等なのです。


もう一問です。

第30回・問題65 現行の生活保護法に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 保護は,個人を単位として行われるが,特別の場合には世帯を単位として行うこともできる。

2 補足性の原理により,素行不良な者は保護の受給資格を欠くとされている。

3 保護の基準は,国会の審議を経て,法律で定めることとなっている。 

4 「要保護者」とは,現に保護を受けている者と定義されている。

5 最低限度の生活を保障するとともに,自立を助長することを目的としている。


第30回国試問題です。現時点での最新の問題ですが,第20回に出題された問題と比べてもまったく出題スタイルが変わっていないことが分かります。

若干違うとすれば,今の国試スタイルである,各選択肢の長さはどれもほぼ同じといったところでしょうか。

選択肢1がほかの選択肢に比べると若干長くなっていますが,これ以上短くすることができないぎりぎりラインだったのでしょう。

それでは解説です。


1 保護は,個人を単位として行われるが,特別の場合には世帯を単位として行うこともできる。

世帯単位の原則に関する問題です。

④世帯単位の原則
 保護は,世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し,これによりがたいときは,個人を単位として定めることができる。

原則は世帯単位です。個人は例外です。

よって間違いです。


2 補足性の原理により,素行不良な者は保護の受給資格を欠くとされている。

補足性の原理及び無差別平等の原理に関する問題です。

これは間違いです。

④保護の補足性の原理
 保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2 民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3 前二項の規定は,急迫した事由がある場合に,必要な保護を行うことを妨げるものではない。

また,現行の生活保護法は,欠格条項のない無差別平等によって保護を行います。

欠格条項が設けられていたのは,旧・生活保護法です。


3 保護の基準は,国会の審議を経て,法律で定めることとなっている。 

基準及び程度の原則に関する問題です。

②基準及び程度の原則
 保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。
2 前項の基準は、要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて,且つ,これをこえないものでなければならない。

保護基準は,厚生労働大臣が定めます。法で定めるものではありません。


4 「要保護者」とは,現に保護を受けている者と定義されている。

これは今まで出題されたことがないものです。

要保護者とは・・・
「要保護者」とは,現に保護を受けているといないとにかかわらず,保護を必要とする状態にある者をいう。

よって間違いです。


5 最低限度の生活を保障するとともに,自立を助長することを目的としている。

法の目的に関する問題です。

①国家責任の原理
 この法律は,日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き,国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする。

法の目的は,最低限度の生活保障と自立の助長です。

よって正解です。


<今日の一言>

「生活保護の原理・原則」と聞くととても難しそうに感じるでしょう。

勉強していない人は,ほとんど得点できないと思います。

しかし,しっかり勉強すれば得点できます。

こういう問題を確実に正解できることが合格できる30%の中に入るために極めて重要です。

原理は,例外のないルール

原則は,例外のあるルール

これを頭の片隅に入れておくと,試験委員は苦労して問題を作っていることが実感できることでしょう。

「試験委員の皆さん,ご苦労さん」と思えるでしょう。

心に余裕をもつことは,最後の最後に大きな力を生み出します。

2018年9月12日水曜日

生活保護の原理・原則~その4

今日も生活保護の原理・原則を続けます。

基本原理
①国家責任の原理
②無差別平等の原理
③最低生活の原理
④保護の補足性の原理

基本原則
①申請保護の原則
②基準及び程度の原則
③必要即応の原則
④世帯単位の原則


早速問題です。

第26回・問題64 生活保護法で規定されている基本原理,原則に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 保護は,個人を単位としてその要否及び程度を定めるものとされている。ただし,これによりがたいときは,世帯を単位として定めることができる。

2 生活保護法により保障される最低限度の生活は,肉体的な生存を維持する程度とされている。

3 保護の申請は,要保護者,その扶養義務者のほか,要保護者の同居の親族がすることができる。

4 保護は,都道府県知事の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度のものとされている。

5 生活保護法は,最低限度の生活を保障するとともに,社会的包摂を助長することを目的とすると定めている。


同じような出題が続きます。

それでは解説です。


1 保護は,個人を単位としてその要否及び程度を定めるものとされている。ただし,これによりがたいときは,世帯を単位として定めることができる。

世帯単位の原則に関する出題です。

④世帯単位の原則
「保護は,世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し,これによりがたいときは,個人を単位として定めることができる」と規定されています。

よって間違いです。


2 生活保護法により保障される最低限度の生活は,肉体的な生存を維持する程度とされている。

最低生活の原理に関する出題です。

③最低生活の原理
「この法律により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない」と規定されています。

よって間違いです。


3 保護の申請は,要保護者,その扶養義務者のほか,要保護者の同居の親族がすることができる。

申請保護に関する出題です。これが正解です。

①申請保護の原則
 保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し,要保護者が急迫した状況にあるときは,保護の申請がなくても,必要な保護を行うことができる。


4 保護は,都道府県知事の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度のものとされている。

基準及び程度の原則に関する出題です。

②基準及び程度の原則
「保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする」と規定されています。

よって間違いです。


5 生活保護法は,最低限度の生活を保障するとともに,社会的包摂を助長することを目的とすると定めている。

生活保護法の目的に関する問題です。

「この法律は,日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き,国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする」と規定されています。

よって間違いです。

もう一問です。

第27回・問題64 生活保護法の目的,基本原理,原則に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 生活保護が目的とする自立とは,保護の廃止を意味する経済的自立のことである。

2 窮迫の状況の場合でも,申請の手続きをとらなければ保護を行うことはできない。

3 保護基準は,社会保障審議会が定める。

4 必要即応の原則とは,要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において保護を行うことをいう。

5 民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,生活保護に優先して行われる。

同じような問題ですが,少しずつ変えてくるのが国試の常とう手段です。

ここであわててしまうと,正解できる問題も正解できなくなってしまうので要注意です。

進学塾では,同じような問題を何度も何度も繰り返し解き,そして模擬試験も受けまくります。

そのようにして,確実な実力をつけていきます。


それでは,解説です。

1 生活保護が目的とする自立とは,保護の廃止を意味する経済的自立のことである。

これが今までと違うものです。

生活保護の目的は,「最低限度の生活保障」と「自立の助長」だと覚えていて,この問題を見た時,自立の内容が分からないと思ったら,試験委員に負けます。

どんなに勉強しても知らないものは出題されます。第30回はそのようなものが少なかったために,正解率が極端に上がってしまったのです。

第31回国試以降は,必ず同じような出題があるでしょう。

さて,問題に戻ります。

自立には,就労による経済的自立(就労自立)のみならず,健康で生活を管理できる日常生活自立,社会の一員として生活できる社会生活自立もあります。

よって間違いです。


2 窮迫の状況の場合でも,申請の手続きをとらなければ保護を行うことはできない。

申請保護の原則に関する問題です。

①申請保護の原則
「保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し,要保護者が急迫した状況にあるときは,保護の申請がなくても,必要な保護を行うことができる」と規定されています。

よって間違いです。


3 保護基準は,社会保障審議会が定める。

基準及び程度の原則に関する問題です。

②基準及び程度の原則
「保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする」と規定されています。

保護基準を定めるのは,社会保障審議会ではなく,厚生労働大臣です。

よって間違いです。


4 必要即応の原則とは,要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において保護を行うことをいう。

必要即応の原則と基準及び程度の原則に関する問題です。

選択肢3の解説のように,不足分を補う程度の保護を行うことを規定しているのは,基準及び程度の原則です。

よって間違いです。

③必要即応の原則
 保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行うものとする。


5 民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,生活保護に優先して行われる。

これが正解です。保護の補足性の原理に関する問題です。

④保護の補足性の原理
「民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする」と規定されています。


<今日の一言>

国試は,いつも少しずつスタイルを変えて出題される。

国試問題は,出題基準に沿って出題されます。

つまり,出題基準にあるものの中から,手を変え品を変え出題してくるのです。

勉強がある程度進んでいる人は,今日の問題の2問目の選択肢1の解説を読んでピンと来た人もいることでしょう。

「経済的自立」「日常生活自立」「社会生活自立」は,生活保護受給者に対して実施している自立支援プログラムの目的です。

自立の概念は,経済的自立にとどまらないのです。これも合わせて覚えておきましょう。

2018年9月11日火曜日

生活保護の原理・原則~その3

今日も生活保護の原理・原則を続けます。

生活保護の原理・原則

 ↓   ↓

https://fukufuku21.blogspot.com/2018/09/1_9.html

早速今日の問題です。

第22回・問題60 生活保護法における基本原理及び原則に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 無差別平等の保護とは,生活に困窮した国民は無条件で保護を受ける資格があるという意味である。

2 保護の申請は,要保護者の扶養義務者には認められていない。

3 急迫した事由がある場合には,保護の要件を満たしていなくとも申請を受け付けた上で緊急的に保護を開始することができる。

4 保護は,個人を単位としているが,特別の場合には世帯を単位とすることもできる。

5 民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,生活保護法による保護に優先して行われる。


しっかりポイントを押さえれば,難易度は高くはありません。

それでは解説です。

1 無差別平等の保護とは,生活に困窮した国民は無条件で保護を受ける資格があるという意味である。

無差別平等の原理に関する出題です。

「すべて国民は,この法律の定める要件を満たす限り,この法律による保護を,無差別平等に受けることができる」と規定されています。無

条件ではありません。

よって間違いです。


2 保護の申請は,要保護者の扶養義務者には認められていない。

保護申請の原則に関する問題です。

「保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする」と規定されています。

申請は扶養義務者にも認められています。

よって間違いです。


3 急迫した事由がある場合には,保護の要件を満たしていなくとも申請を受け付けた上で緊急的に保護を開始することができる。

これも申請保護の原則に関する問題です。

「要保護者が急迫した状況にあるときは,保護の申請がなくても,必要な保護を行うことができる」と規定されています。

よって間違いです。


4 保護は,個人を単位としているが,特別の場合には世帯を単位とすることもできる。
世帯単位の原則に関する出題です。

原則は世帯単位です。

よって間違いです。

5 民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,生活保護法による保護に優先して行われる。

これが正解です。

保護の補足性の原理に関する問題です。

「民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする」と規定されています。


それでは,今回ももう一問です。


第23回・問題58 生活保護法における基本原理及び基本原則に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 法第1条は,最低限度の生活と無差別平等の保障を生活保護法の目的としている。 

2 法第4条は,民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助を受けていることを保護の要件としている。

3 法第7条は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて保護を開始するとしている。

4 法第9条は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別に定められた範囲で,保護を画一的に行うと規定している。

5 法第10条は,世帯を単位として保護を行うことを規定しているが,世帯の基本的考え方はあくまでも同居の親族に限られる。


この問題では,「法●条は」という出題がされています。

こんな出題があると,「第●条=●●原理」「第●条=●●原則」と覚えなければならないと思うかもしれません。しかしそんなところには問題の本質はおかれていません。

このように少しずつ変化させて,問題の難易度を調整するのです。

問題の内容自体はそれほど難しくはありませんが,ちょっとした変化によって,とてつもなく難しくなるのが国試というものです。

変化球を投げられても動じないことが大切です。

同じようでも同じには出題されてこないことを心に銘記しておきましょう。

それでは解説です。


1 法第1条は,最低限度の生活と無差別平等の保障を生活保護法の目的としている。

生活保護法の目的は「最低限度の生活保障」と「自立の助長」です。

よって間違いです。


2 法第4条は,民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助を受けていることを保護の要件としている。

保護の補足性の原理に関する問題です。

「民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする」と規定されていますが,扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助を受けていることを保護の要件とはしていません。

よって間違いです。


3 法第7条は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて保護を開始するとしている。

申請保護の原則に関する問題です。

これが正解です。


4 法第9条は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別に定められた範囲で,保護を画一的に行うと規定している。

必要即応の原則に関する問題です。

「保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行うものとする」と規定されています。画一的に保護を行うものではありません。

よって間違いです。


5 法第10条は,世帯を単位として保護を行うことを規定しているが,世帯の基本的考え方はあくまでも同居の親族に限られる。

世帯単位の原則に関する問題です。

住居と生計を同じくしていれば親族でなくても同一世帯だとみなされます。

また,出稼ぎなど同居していなくても同一世帯だとみなされます。よって間違いです。

<今日の一言>

生活保護の原理・原則はそんなに難しくはありませんし,出題頻度か極めて高いです。

しっかり押さえて得点できるようにしましょう。

こういったものを確実に得点できることが,合格できる30%に入るためにはとても大切です。

誰もが解けないような超難易度が高い問題を正解できると気持ちが良いですが,合格にはみんなが解ける問題が正解できることが何よりも大切なのです。

2018年9月10日月曜日

生活保護の原理・原則~その2

生活保護には,原理・原則があります。

原理と原則の違いは,

原理 → 例外のないルール

原則 → 例外のあるルール

こんな押さえ方で十分でしょう。

基本原理
①国家責任の原理
②無差別平等の原理
③最低生活の原理
④保護の補足性の原理

基本原則
①申請保護の原則
②基準及び程度の原則
③必要即応の原則
④世帯単位の原則


それでは,今日の問題です。

第20回・問題22 生活保護法の原理・原則等に関する次の記述のうち,適切なものを一つ選びなさい。

1 保護の目的は,最低限度の生活保障ではなく,自立の助長である。

2 保護は,性別,社会的身分,信条,人種等を問わず,自立意欲を有しているかどうかによって,無差別平等に行う。

3 民法の扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,原則として保護に優先して行われる。

4 保護は,申請行為が前提とされ,申請によらない保護は行われない。

5 保護は,個人又は世帯の必要に即応して,画一的に行われる。

この問題は,旧カリ時代の問題です。

この科目については,旧カリキュラムでも現行カリキュラムでも出題のされ方は,ほとんど一緒です。

それでは解説です。


1 保護の目的は,最低限度の生活保障ではなく,自立の助長である。

保護の目的は,最低限度の生活保障と自立の助長です。

よって間違いです。


2 保護は,性別,社会的身分,信条,人種等を問わず,自立意欲を有しているかどうかによって,無差別平等に行う。

原理は,例外のないルールです。

無差別平等の原理は,困窮に至った理由は問わず,困窮の事実に基づいて保護を実施します。自立意欲の有無は問われません。

よって間違いです。

いろいろなことを出題してきますが,無差別平等の原理なのですから,例外はないのです。


3 民法の扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,原則として保護に優先して行われる。

これが正解です。

「保護の補足性の原理」です。


4 保護は,申請行為が前提とされ,申請によらない保護は行われない。

「申請保護の原則」に関する出題です。

原則は,例外のあるルールです。申請保護が原則ですが,急迫している場合は,申請によらない保護である「職権保護」が行われます。

よって間違いです。


5 保護は,個人又は世帯の必要に即応して,画一的に行われる。

「必要即応の原則」に関する出題です。

③必要即応の原則
 保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行うものとする。

国試では,「必要即応の原則」に関しては,その言葉の印象から「保護は急いで行わなければならないので,画一的に行う」といったように出題されます。

これがその問題です。

この原則を定めている理由は,保護は画一的に行ってはならない,ということを明らかにするためです。

よって間違いです。


原理・原則の内容を簡単にでも覚えておけば,そんなに難しくはないと思います。

第●条 =●●の原則

といった覚え方は,まったく意味がありません。

必要なのは何条の規定なのか,ではなく,その内容です。

それではもう一問です。


第21回・問題24 生活保護法の基本原則に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 保護は,要保護者とその扶養義務者の申請にもとづいて開始することを原則とし,それ以外の同居の親族等による申請は認められない。

2 無差別平等が原則なので,個々の世帯状況に配慮して保護の種類や方法の決定を行うことは許されない。

3 保護基準は,最低限度の生活水準を超えるものでなければならない。

4 生活保護の要否や程度の決定は,原則として世帯を単位として行うが,ここでいう世帯とは,同じ住居で居住し,生計を一つにしている親族を意味している。

5 保護基準には,保護の要否を判定するとともに,保護費の支給の程度を決定するという2つの機能がある。


これも旧カリ時代の問題です。第20回の問題を解けても,この問題は解けません。

原理・原則全体を理解していることが必要です。

過去問をちょこっと解いたくらいで国試合格できないのは,今始まったことではなく,過去にさかのぼれば第19回国試からはっきりその意図が見えてきています。

3年間の過去問を3回解けば合格できるよ

という都市伝説は,第18回国試以前のものであると言えます。

さて,解説です。


1 保護は,要保護者とその扶養義務者の申請にもとづいて開始することを原則とし,それ以外の同居の親族等による申請は認められない。

申請保護の原則についての問題です。

①申請保護の原則
 保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し,要保護者が急迫した状況にあるときは,保護の申請がなくても,必要な保護を行うことができる。

保護申請は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族が行うことができます。
よって間違いです。

2 無差別平等が原則なので,個々の世帯状況に配慮して保護の種類や方法の決定を行うことは許されない。

「無差別平等の原理」と「必要即応の原則」のミックス問題です。

無差別平等の原理とは,困窮に至った理由を問わず,困窮の事実に基づいて保護を行うという原理です。

必要即応の原則は,保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行うという原則です。

まったくのでたらめ問題です。

よって間違いです。

3 保護基準は,最低限度の生活水準を超えるものでなければならない。

基準及び程度の原則に関する問題です。

保護基準は,最低限度の生活水準を超えたらだめです。よって間違いです。超えても超えなくてもだめです。


4 生活保護の要否や程度の決定は,原則として世帯を単位として行うが,ここでいう世帯とは,同じ住居で居住し,生計を一つにしている親族を意味している。

「世帯単位の原則」についての問題です。

世帯は親族だけではなく,同じ住居で居住し,生計を一つにしていると同一世帯になります。また,同居していなくても,出稼ぎなどをしている親族は,同一世帯となります。

よって間違いです。


5 保護基準には,保護の要否を判定するとともに,保護費の支給の程度を決定するという2つの機能がある。

これが正解です。

保護基準は,最低限度の生活を送るための金額を設定するものです。

要保護者の所得を調査し,それよりも下回っていれば保護を決定します。

それよりも上回っていたら保護しません。

また,最低限度の生活を送るための金額よりもいくら下回っているか,によって,その不足している金額を支給します。

言い回しは面倒ですが,設問にある2つの機能は,保護基準の中にあります。

2018年9月9日日曜日

生活保護の原理・原則~その1

生活保護には,原理・原則と呼ばれるものがあります。

基本原理

①国家責任の原理
②無差別平等の原理
③最低生活の原理
④保護の補足性の原理



基本原則
①申請保護の原則
②基準及び程度の原則
③必要即応の原則
④世帯単位の原則


原理と原則の違いは,正式にあるのだと思いますが,国家試験で問われることはないと思います。

大体のイメージとしては,原理は例外のないルール,原則は例外のあるルールといった感じで良いではないかと思います。

法学者ではないので,これで十分でしょう。

<基本原理>

①国家責任の原理
 この法律は,日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き,国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする。

この原理は,生活保護制度の根本となるもので,法の目的でもあります。

はるか昔,マルクスは,資本家(ブルジョアジー)と労働者(プロレタリアート)の闘争が,共産主義を生み出すと考えました。マルクスによると共産主義は資本主義よりも上の社会であるとされました。

その時代は,国民は権利として自由をつかみ取った結果としての古典的自由主義の時代です。国家による干渉は最少のものにとどめられます。

その結果,発生したのは貧困問題です。一方では共産主義を実現し,もう一方ではナショナルミニマム(国家による最低生活の保障)を資本主義に取り入れて,修正資本主義を実現します。

現在では,多くの共産主義国家は崩壊し,資本主義国家は福祉国家に生まれ変わりました。

生活保護法は,日本国憲法第25条の理念に基づき,「貧困に陥った場合でも,国家責任で最低生活を保障します」と高らかに宣言したものです。

資本主義国家が資本主義国家であり続けるためには,国家責任で最低限度の生活保障が必要なのです。

保護を受けることがスティグマに感じるような世の中であっては絶対にならないのです。


②無差別平等の原理
 すべて国民は,この法律の定める要件を満たす限り,この法律による保護を,無差別平等に受けることができる。

多くの場合,法の名称は変更しても改正して,法は存続します。

しかし,1946年に成立した生活保護法は廃止して,1950年に新しく同じ名称の法として成立させています。

改正レベルで対応できなかった理由はたくさんありますが,その一つとして旧法では,無差別平等でありながら,実際には救護法に引き続き,欠格条項があったことがあります。

無差別平等の原理とは,困窮に陥った理由は問わないというものです。

原理は,例外のないルールです。どんな場合であっても,困窮に陥った理由は問われることなく,困窮の事実に基づいて保護が実施されます。


③最低生活の原理
 この法律により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。

憲法第25条の「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という生存権を保障するものが生活保護法なので,最低生活も一緒なのは当然のことです。

国試では,「肉体を維持するのに必要な」といったように出題されますが,それではだめなのです。「健康で文化的」でなければなりません。

以前は,エアコンは被保護世帯には認められるものではありませんでした。その結果として脱水による死亡事件が発生しました。

「健康で文化的」はあいまいなものではありますが,少なくとも,「肉体の維持」ではないことは間違いありません。

生活保護の不正受給などがあると,被保護者に対するバッシングが起こります。不正受給は徹底的に排除されなければなりませんが,一般的な被保護者に対して肩身の狭い思いをさせることがあってはなりません。

なぜそう思うかと言えば,「健康」には心の健康もあるからです。

スティグマを感じながらの生活の中で,心の健康を保つのはとても大変なことだと思います。中にはスティグマを感じない人もいるでしょう。

しかしそれはほんの一部の人です。

表には出てこないスティグマに思いを馳せることができるのが,社会福祉士なのではないでしょうか。


④保護の補足性の原理
 保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2 民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3 前二項の規定は,急迫した事由がある場合に,必要な保護を行うことを妨げるものではない。

保護の補足性とは,さまざまなものを活用して,それでも最低生活に足りない場合,足りない分を給付するというものです。

また第2項の規定によって,生活保護法は,最後に機能するため,セーフティネットだと言われます。

扶養義務者による扶養は生活保護よりも優先されますが,扶養を受けなければ保護を受けられないというものではありません。


基本原則

①申請保護の原則
 保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し,要保護者が急迫した状況にあるときは,保護の申請がなくても,必要な保護を行うことができる。

「但し」以降は,例外事項です。原則は申請ですが,職権による保護もあるという例外です。

②基準及び程度の原則
 保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。
2 前項の基準は、要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて,且つ,これをこえないものでなければならない。

基準及び程度の原則が国試で問われることの一つには,「基準は誰が定めるのか」があります。

何度も「都道府県知事が定める」と出題されていますが,地方公共団体が条例で定めるものではありません。

定めるのは「厚生労働大臣」です。生活保護法の目的の一つには「最低限度の生活保障」があります。

保護は国家責任で行われるものですから,基準を定めるのも国でなければならないのです。

また,保護は,最低限度の生活保障(ナショナルミニマム)は,基準を上回っても,下回ってもだめです。基準ライン上で保護しなければなりません。

国試では「こえなければならない」と出題されますが,超えたらだめなのです。

イギリスの改正救貧法(1834年)では,「劣等処遇の原則」が規定されます。

救貧のレベルは,自活している最下層の生活よりも下回るものでなければならないというものです。

生活保護の給付が最低賃金を上回ることを理由として,生活扶助の金額の引き下げを行います。

多くの人は,それで納得することでしょう。しかし,保護基準は最低生活を保障するものです。

見方を変えれば,最低賃金が低すぎることで,最低生活を送れていないのです。

逆転現象を解消するには,保護基準を上回るように最低賃金を引き上げることも一つの方法です。

しかし,保護基準を引き下げるのは,最低賃金を引き上げるのは政策上困難であること,また,最低賃金が最低生活以下だとしたら,その人たちへの補償,つまり保護をする必要が出てくるからでしょう。


③必要即応の原則
 保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行うものとする。

国試では,「必要即応の原則」に関しては,その言葉の印象から「保護は急いで行わなければならないので,画一的に行う」といったように出題されます。

この原則を定めている理由は,保護は画一的に行ってはならない,ということを明らかにするためです。


④世帯単位の原則
 保護は,世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し,これによりがたいときは,個人を単位として定めることができる。

いかにも,原則という感じですね。例外のあるルールです。

原則は,世帯単位,例外は個人単位です。

次回からは,実際の問題で学んでいきましょう。

2018年9月8日土曜日

生活保護制度の特質~その3

今回は,生活保護制度の特質の最終回です。

生活保護制度の特質とは・・・

・事前の拠出を前提としない。
・個別のニーズに合わせて給付される。
・救貧的に機能する。
・資力調査(ミーンズテスト)を行う。

2回の国試問題のエッセンスはこのようになります。

さて,それでは今日の問題です。

第29回・問題67 日本の公的扶助と公的年金保険の特質に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 公的扶助は扶養義務者の扶養を優先するが,公的年金保険は扶養義務者の扶養を優先することなく給付される。

2 公的扶助は個人単位で給付されるが,公的年金保険は世帯単位で給付される。

3 公的扶助は画一的に給付されるが,公的年金保険は所得に応じて給付される。

4 公的扶助は原則として金銭で給付されるが,公的年金保険は原則として現物により給付される。

5 公的扶助は貧困予防のための給付であるが,公的年金保険は貧困救済のための給付である。


設問が毎回少しずつ違っていることに気が付きましたか?

第22回 社会保険と生活保護
第25回 社会保険と公的扶助
第29回 公的扶助と公的年金保険

設問はとてもうまいと思います。

結局は,同様のことを問うわけですが,設問を変えるとそれに振り回される人が出てくるからです。

公的扶助は英語のPublic Assistanceを訳したもので,日本では生活保護に当たります。

それでは解説です。


1 公的扶助は扶養義務者の扶養を優先するが,公的年金保険は扶養義務者の扶養を優先することなく給付される。

これが正解です。新しい内容が出てきました。

扶養義務者の扶養が優先されるということです。

ただし,優先されるのであって,扶養義務者の扶養を受けることが生活保護受給の要件ではないことに注意しましょう。

つまり,以下のような間違い選択肢のパターンです。

扶養義務者の扶養を受けることが優先されるので,扶養を受けないと生活保護は受給できない

といったことです。

現在の国試問題は極力短く作られるので,

生活保護は,扶養義務者の扶養が受けられない者は受給できない。

といったものになるかもしれません。

扶養義務者の扶養が優先されることは「補足性の原則」といいます。


2 公的扶助は個人単位で給付されるが,公的年金保険は世帯単位で給付される。

さて,またまた新しいものが出てきました。

公的扶助は,世帯単位で給付されます。よって間違いです。

世帯単位で給付することを「世帯単位の原則」といいます。


3 公的扶助は画一的に給付されるが,公的年金保険は所得に応じて給付される。

これは,今までに出題されたものと同じですね。

公的扶助は,個別のニーズに合わせて給付されます。

よって間違いです。


4 公的扶助は原則として金銭で給付されるが,公的年金保険は原則として現物により給付される。

これは,特質とは言えないので,エッセンスには入れませんでしたが,今までに出題されたものと同じですね。

公的年金も現金給付です。

よって間違いです。

5 公的扶助は貧困予防のための給付であるが,公的年金保険は貧困救済のための給付である。
これも今までと同じです。公的扶助は救貧的に機能します。よって間違いです。

今日の問題で出題されたものを補足してまとめます。


生活保護の特質とは・・・

・事前の拠出を前提としない。

・個別のニーズに合わせて給付される。

・救貧的に機能する。

・資力調査(ミーンズテスト)を行う。

・扶養義務者の扶養を優先する(補足性の原理)

・世帯を単位として給付する(世帯単位の原則)

このようにまとめることができますが,次回から紹介する生活保護の原理・原則を使えば,同様の問題は多様に変化させて出題することができます。

ということで,今日はこれで終わりです。

次回からは,生活保護の原理・原則に関する問題を徹底的に分析していきます。
出題ポイントは決まっていますので,しっかり押さえていきましょう。

2018年9月7日金曜日

生活保護制度の特質~その2

前回から,生活保護制度の特質に取り組んでいます。

今回も前説なしで,問題に入りたいと思います。

第25回・問題63 我が国における社会保険と公的扶助の性質・機能の違いに関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 社会保険は原則として金銭給付により行われ,公的扶助は原則として現物給付により行われる。

2 社会保険は保険料の拠出を給付の前提とし,公的扶助は事前の納税を給付の前提としている。

3 社会保険では個別の事情に応じた給付が行われるのに対し,公的扶助では最低限度の生活を保障するために定型的に一律の給付が行われる。

4 社会保険は貧困に陥った後に給付が開始され,公的扶助は貧困に陥らないように事前に支給される。

5 社会保険では保有する資産に関係なく給付が行われるが,公的扶助では資産調査を経て給付が行われる。


この問題は,史上最も合格基準点が低かった第25回の問題です。

この国試はとても難解な問題が多かったですが,この問題は前回紹介した第22回とほとんど変わりありません。

このような問題をしっかり得点できることが合格の第一歩です。

それでは解説です。


1 社会保険は原則として金銭給付により行われ,公的扶助は原則として現物給付により行われる。

これは間違いです。

たとえば,社会保険の一つである医療保険は,療養の給付は現物給付ですが,出産育児一時金,出産手当金などは現金給付です。

公的扶助(生活保護)は,原則金銭給付が多いですが,原則現物給付とするものには,医療扶助と介護扶助があります。


2 社会保険は保険料の拠出を給付の前提とし,公的扶助は事前の納税を給付の前提としている。

これも間違いです。

社会保険は保険料の拠出を給付の前提とします。

しかし,公的扶助は事前の納税を給付の前提としません。


3 社会保険では個別の事情に応じた給付が行われるのに対し,公的扶助では最低限度の生活を保障するために定型的に一律の給付が行われる。

これも間違いです。

社会保険は,保険事故が生じた場合,その事実に基づき給付されます。

公的扶助では,最低限度の生活を送るのに不足する分らを給付します。


4 社会保険は貧困に陥った後に給付が開始され,公的扶助は貧困に陥らないように事前に支給される。

これも間違いです。

前回紹介したように,社会保険は防貧的機能があり,貧困に陥らないように給付されます。

公的扶助は救貧的機能があり,貧困に陥った後に給付されます。


5 社会保険では保有する資産に関係なく給付が行われるが,公的扶助では資産調査を経て給付が行われる。

これが正解です。

社会保険は,保険事故が生じたという事実に基づき給付されます。資産のありなしは関係しません。

公的扶助では,ミーンズテストと呼ばれる資産調査を行ったうえで給付します。

今は不正受給を防止するため,勤務先に給与のことで確認することもできるようになっています。

さらには,保護が廃止された後でも,保護を受けていた期間について,職場に確認できる規定があります。


<今日の一言>

前回の問題と今回の問題を重ねてみるととてもよく似ていることが分かると思います。

この科目は,出題範囲が狭いので,このような出題が多いのです。

そのめ過去問を勉強するのがとても有効な科目です。

最新の記事

その分野の基本法をまず押さえよう!

  勉強にはいろいろなやり方がありますが,枝葉だけを見ていると見えるものも見えなくなってしまうものもあります。   法制度は,必然性があって出来上がるものです。   法制度を勉強する時には,必ずそれを押さえておくようにしましょう。   そうすれば,試験当日...

過去一週間でよく読まれている記事