生活保護には,原理・原則と呼ばれるものがあります。
基本原理
①国家責任の原理
②無差別平等の原理
③最低生活の原理
④保護の補足性の原理
基本原則
①申請保護の原則
②基準及び程度の原則
③必要即応の原則
④世帯単位の原則
原理と原則の違いは,正式にあるのだと思いますが,国家試験で問われることはないと思います。
大体のイメージとしては,原理は例外のないルール,原則は例外のあるルールといった感じで良いではないかと思います。
法学者ではないので,これで十分でしょう。
<基本原理>
①国家責任の原理
この法律は,日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き,国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする。
この原理は,生活保護制度の根本となるもので,法の目的でもあります。
はるか昔,マルクスは,資本家(ブルジョアジー)と労働者(プロレタリアート)の闘争が,共産主義を生み出すと考えました。マルクスによると共産主義は資本主義よりも上の社会であるとされました。
その時代は,国民は権利として自由をつかみ取った結果としての古典的自由主義の時代です。国家による干渉は最少のものにとどめられます。
その結果,発生したのは貧困問題です。一方では共産主義を実現し,もう一方ではナショナルミニマム(国家による最低生活の保障)を資本主義に取り入れて,修正資本主義を実現します。
現在では,多くの共産主義国家は崩壊し,資本主義国家は福祉国家に生まれ変わりました。
生活保護法は,日本国憲法第25条の理念に基づき,「貧困に陥った場合でも,国家責任で最低生活を保障します」と高らかに宣言したものです。
資本主義国家が資本主義国家であり続けるためには,国家責任で最低限度の生活保障が必要なのです。
保護を受けることがスティグマに感じるような世の中であっては絶対にならないのです。
②無差別平等の原理
すべて国民は,この法律の定める要件を満たす限り,この法律による保護を,無差別平等に受けることができる。
多くの場合,法の名称は変更しても改正して,法は存続します。
しかし,1946年に成立した生活保護法は廃止して,1950年に新しく同じ名称の法として成立させています。
改正レベルで対応できなかった理由はたくさんありますが,その一つとして旧法では,無差別平等でありながら,実際には救護法に引き続き,欠格条項があったことがあります。
無差別平等の原理とは,困窮に陥った理由は問わないというものです。
原理は,例外のないルールです。どんな場合であっても,困窮に陥った理由は問われることなく,困窮の事実に基づいて保護が実施されます。
③最低生活の原理
この法律により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。
憲法第25条の「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という生存権を保障するものが生活保護法なので,最低生活も一緒なのは当然のことです。
国試では,「肉体を維持するのに必要な」といったように出題されますが,それではだめなのです。「健康で文化的」でなければなりません。
以前は,エアコンは被保護世帯には認められるものではありませんでした。その結果として脱水による死亡事件が発生しました。
「健康で文化的」はあいまいなものではありますが,少なくとも,「肉体の維持」ではないことは間違いありません。
生活保護の不正受給などがあると,被保護者に対するバッシングが起こります。不正受給は徹底的に排除されなければなりませんが,一般的な被保護者に対して肩身の狭い思いをさせることがあってはなりません。
なぜそう思うかと言えば,「健康」には心の健康もあるからです。
スティグマを感じながらの生活の中で,心の健康を保つのはとても大変なことだと思います。中にはスティグマを感じない人もいるでしょう。
しかしそれはほんの一部の人です。
表には出てこないスティグマに思いを馳せることができるのが,社会福祉士なのではないでしょうか。
④保護の補足性の原理
保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2 民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3 前二項の規定は,急迫した事由がある場合に,必要な保護を行うことを妨げるものではない。
保護の補足性とは,さまざまなものを活用して,それでも最低生活に足りない場合,足りない分を給付するというものです。
また第2項の規定によって,生活保護法は,最後に機能するため,セーフティネットだと言われます。
扶養義務者による扶養は生活保護よりも優先されますが,扶養を受けなければ保護を受けられないというものではありません。
基本原則
①申請保護の原則
保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し,要保護者が急迫した状況にあるときは,保護の申請がなくても,必要な保護を行うことができる。
「但し」以降は,例外事項です。原則は申請ですが,職権による保護もあるという例外です。
②基準及び程度の原則
保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。
2 前項の基準は、要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて,且つ,これをこえないものでなければならない。
基準及び程度の原則が国試で問われることの一つには,「基準は誰が定めるのか」があります。
何度も「都道府県知事が定める」と出題されていますが,地方公共団体が条例で定めるものではありません。
定めるのは「厚生労働大臣」です。生活保護法の目的の一つには「最低限度の生活保障」があります。
保護は国家責任で行われるものですから,基準を定めるのも国でなければならないのです。
また,保護は,最低限度の生活保障(ナショナルミニマム)は,基準を上回っても,下回ってもだめです。基準ライン上で保護しなければなりません。
国試では「こえなければならない」と出題されますが,超えたらだめなのです。
イギリスの改正救貧法(1834年)では,「劣等処遇の原則」が規定されます。
救貧のレベルは,自活している最下層の生活よりも下回るものでなければならないというものです。
生活保護の給付が最低賃金を上回ることを理由として,生活扶助の金額の引き下げを行います。
多くの人は,それで納得することでしょう。しかし,保護基準は最低生活を保障するものです。
見方を変えれば,最低賃金が低すぎることで,最低生活を送れていないのです。
逆転現象を解消するには,保護基準を上回るように最低賃金を引き上げることも一つの方法です。
しかし,保護基準を引き下げるのは,最低賃金を引き上げるのは政策上困難であること,また,最低賃金が最低生活以下だとしたら,その人たちへの補償,つまり保護をする必要が出てくるからでしょう。
③必要即応の原則
保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行うものとする。
国試では,「必要即応の原則」に関しては,その言葉の印象から「保護は急いで行わなければならないので,画一的に行う」といったように出題されます。
この原則を定めている理由は,保護は画一的に行ってはならない,ということを明らかにするためです。
④世帯単位の原則
保護は,世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し,これによりがたいときは,個人を単位として定めることができる。
いかにも,原則という感じですね。例外のあるルールです。
原則は,世帯単位,例外は個人単位です。
次回からは,実際の問題で学んでいきましょう。
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