来年の国試を受験される方は,今の時期が最も個人差が大きい時です。
試験勉強は,4月前から始めてきた人,夏から始めた人,さらにはまだ勉強を始めていないという人もいるかもしれません。
しかし,最後にたくさんの時間をかけられる人なら,9月から勉強を始めても何とかなるかもしれませんが,それほどの時間をかけられない人なら,もう勉強を始めていないとかなり厳しい時期に入ってきています。
3か月で合格できる
過去問を3回繰り返せば合格できる
実際にそうやって合格した人もいるでしょう。
しかしそれは過去の話です。
学習の基本は,出題基準の範囲をしっかり覚えること
これだけは合格するために必要なことです。
勉強方法はさまざまあるでしょう。
しかし,出題基準で示された範囲を覚えないで合格することは難しいです。
特に合格が厳しい勉強法は,3年間の過去問で合格しようと思うことです。
なぜなら,3年間に出題されるものは,出題範囲のほんの一部にすぎないからです。
それにもかかわらず,3年間の過去問を3回繰り返す,といった勉強法のアドバイスがあるのはなぜだと思いますか?
過去問で出題されたものを覚えていくのはもちろん大切な勉強法の一つです。
しかし,重要なのは,実際の国家試験に慣れること。
このために過去問を使った勉強法の意味があるといっても良いでしょう。
3年間の過去問で出題されるものを考えた時,例えば,7問出題される科目であれば,21問あることになります。
21問は覚えなければならない全体から見ると,科目にもよりますが,3分の1程度しかありません。
3年間の過去問だけの知識だけだと50点をとるのも難しいと言えます。
しかも近年の国試問題は,日本語的に解ける問題はほとんどありませんから,過去問で国試問題に慣れるだけでは,得点はとれないことになります。
だかせこそ,出題範囲をしっかり押さえていくことがますます重要になるのです。
問題文が短くなっていることにチームfukufuku21は着目していますが,国試問題の傾向が変わるとおのずと適切な勉強法は変わってくるはずです。
その中で最も不適切なアドバイスは
3年間の過去問を3回繰り返せば合格できる
だと思っています。
ただし,過去問で合格できないかと言えば,そんなことはありません。
現行カリキュラムは,第22回~第30回まで9回実施されています。
過去問がどんどん蓄積されています。
過去問は,古くなると制度が変わるので,制度系の科目は使えなくなるものが増えるので,出版されているものを古本屋などで購入して勉強することは絶対におすすめできません。
学校によっては,最新のものに修正して過去問を提供してくれるところもあります。
そういうものが手に入る人は,それを十二分に活用しましょう。
9年間の過去問は,ほとんど出題基準のほとんどをカバーします。
中には,出題基準に入っているのにもかかわらず,一度も出題されたことがないものもあります。
そこは,ほとんど無視しても良い範囲です。
今は現行カリキュラムで実施される国試の終盤に入ってきているところです。
もしかすると,そういった理由から今まで出題されなかった範囲から出題してくることもあるかもしれません。
しかしそれはほとんど無視してもほかの部分で十二分にカバーできます。
最新の情報に修正されたものが入手できない人は,過去問はせいぜい昨年か一昨年に出版されたものの範囲で納めておくことが無難です。
さて,前回から科目は「低所得者に対する支援と生活保護制度」に取り組んでいます。
この科目の出題範囲は,極めて限定され,さらに中心である生活保護法は大きな改正は行われていないという特徴があります。
過去問を使って効率よく勉強できる代表的な科目だと言えるでしょう。
それに加えて,理論的なもの,つまり「貧困のとらえ方」をしっかり理解できると満点に近い点数が取れる科目に必ずなります。
縦軸(時間軸)
・かつては個人の問題によって貧困に陥ると考えられていた。
・ブースの貧困調査によって,雇用や環境に陥ることが分かった(貧困の発見)。
・ラウントリーの貧困調査によって,最低生活費という概念が生まれた。(絶対的貧困の第一次貧困と第二次貧困)
・タウンゼントらの調査によって,豊かな世界の中にも貧困があることが明らかになった。(貧困の再発見及び相対的貧困)
・タウンゼントは,周りの人と比べて自分ができないこと(お金がないために我慢しなければならないこと)があったときのことを相対的剥奪と名付けて,新しい貧困観を生み出した。
・A.センは,物があるかないかではなく,福祉的自由を使うことができないとき,たとえば身近に適切な仕事が得られないために遠くに出稼ぎにいくことで,愛する人と一緒に生活することができないといった状況を貧困ととらえるケイパビリティ・アプローチを提唱した。
・一人当たりの可処分所得(税金などを引いた分)を順に並べて中央値の半分に満たない所得で生活している人の割合である相対的貧困率というもので表すことで,相対的貧困の国際比較ができるようになった。
これらが,19世紀から21世紀にかけて行われてきたことの軸です。
それでは今日の問題です。
第27回・問題63 貧困と格差に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 一人当たり可処分所得を低い順に並べ,中央値の半分に満たない人の割合を相対的貧困率という。
2 ジニ係数は,その数値が小さくなるほど,所得分布が不平等であることを表す。
3 タウンゼント(Townsend,P)は,栄養学の観点から科学的,客観的に貧困を定義する絶対的貧困の概念を主張した。
4 貧困の再発見とは,貧困線付近の低所得世帯より公的扶助世帯の方で可処分所得が上回ってしまい,いつまでも公的扶助から抜け出せないことをいう。
5 生活保護世帯の子どもが成長し,再び生活保護世帯になるという貧困の連鎖については,日本では確認されていない。
答えは,すぐ分かることでしょう。
一応解説していきます。
1 一人当たり可処分所得を低い順に並べ,中央値の半分に満たない人の割合を相対的貧困率という。
これが正解です。日本の相対的貧困率は高い部類に入ります。
注意すべき点は,中央値であって,平均値ではないことです。
中央値は,中央値よりも高い人と低い人の数は常に同じになりますが,平均値(算術平均)は,所得が極端に高い人,いわゆる外れ値の人がその集団に含まれると,中央値よりも高い方にずれます。
平均値を出すことは多いと思いますが,その集団を正しく知るためには,平均値だけではなく中央値,最頻値なども知る必要があります。これらは「社会調査の基礎」で学びます。
2 ジニ係数は,その数値が小さくなるほど,所得分布が不平等であることを表す。
ジニ係数は,この科目よりも「社会理論と社会理論」で出題されることが多いものです。
所得格差を表すもので,0に近いと格差が小さいこと,1に近いと格差が大きいことを示します。よって間違いです。
ジニ係数が出題される時は,
格差が小さいのは0,あるいは1のどっち?
というようにいつも出題されます。
格差が大きいのは,1に近い方です。現在の日本は,0.3と0.4の間くらいにあります。
3 タウンゼント(Townsend,P)は,栄養学の観点から科学的,客観的に貧困を定義する絶対的貧困の概念を主張した。
タウンゼントらの調査によって,豊かな世界にも貧困があることが分かりました。
それを貧困の再発見といいます。
周りと比べることと自分が劣っている時,相対的貧困といいます。
絶対的貧困の概念は,ブース,ラウントリーの貧困調査の時代からあります。
ラウントリーは,マーケットバスケット方式という科学的な方法を用いて,絶対的貧困のラインを定めました。
よって間違いです。
4 貧困の再発見とは,貧困線付近の低所得世帯より公的扶助世帯の方で可処分所得が上回ってしまい,いつまでも公的扶助から抜け出せないことをいう。
貧困の再発見とは,豊かな世の中にも貧困があることが明らかになったことをいいます。
よって間違いです。時代は1950年代のことです。
5 生活保護世帯の子どもが成長し,再び生活保護世帯になるという貧困の連鎖については,日本では確認されていない。
生活困窮者自立支援法の任意事業には,「学習支援事業」があります。
貧困家庭の子どもに対する学習を支援するものですが,これは貧困家庭の子どもの学力が低い傾向にあり,その結果として,成人してからも貧困になるといった貧困の連鎖を断ち切るものとして実施されているものです。
よって間違いです。
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