19世紀は,各国で産業革命が起こります。
この産業革命とは,工業化を意味しています。
大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。
そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。
これらは,怠惰によって貧困に陥るという古典的な貧困観から,社会の構造,環境によって貧困が起きることを明らかにしました。
これを「貧困の発見」といいます。
その後,時代は進み,貧困は過去のものだと思われるようになった1950~60年代,豊かさを謳歌する中で,貧困が起きていることが見えて来ました。
これを「貧困の再発見」といいます。
物があっても,自分が生活する社会と比べて,劣っている場合,貧困だと見ます。
ハイソサエティの国や地域と貧困にあえぐ国や地域では,貧困線が異なります。
ブース,ラウントリーらの時代の「絶対的貧困」から「相対的貧困」の時代へ移り変わっていることを示しているでしょう。
さて,タウンゼントは,相対的貧困を「相対的剥奪」という概念を用いて説明しました。
相対的剥奪とは,生活する社会で豊かな社会生活を送るために一般的になっている慣習などを行うことができないために社会から締め出されている状態をいいます。
例えば,お金がなくて地域の会の懇親会に参加できない,といったことです。
懇親会に出なくても別に良いですが,自分の意思で参加しないのと,本当は参加したいのにあきらめざるを得ない,というのではまったく異なります。
これが社会的剥奪です。
タウンゼントは,具体的に相対的貧困の指標を示しましたが,日本には合わないものもあります。
例えば,家族で出かける外食の頻度などです。
それでは,今日の問題です。
第30回・問題28 貧困に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 ポーガム(Paugam,S)は,車輪になぞらえて,経済的貧困と関係的・象徴的側面の関係を論じた。
2 タウンゼント(Townsend,P)は,相対的剥奪指標を用いて相対的貧困を分析した。
3 ピケティ(Piketty,T.)は,資産格差は貧困の世代間連鎖をもたらさないと論じた。
4 ラウントリー(Rowntree,B.S)は,ロンドン市民の貧困調査を通じて「見えない貧困」を発見した。
5 リスター(Lister,R.)は,社会的降格という概念を通して,現代の貧困の特徴を論じた。
ものすごく難しい問題に見えますが,正解は選択肢2です。
2 タウンゼント(Townsend,P)は,相対的剥奪指標を用いて相対的貧困を分析した。
落ち着いて問題を読めば正解できるでしょう。
タウンゼントは勉強の過程で必ず目にしていたはずです。
1 ポーガム(Paugam,S)は,車輪になぞらえて,経済的貧困と関係的・象徴的側面の関係を論じた。
3 ピケティ(Piketty,T.)は,資産格差は貧困の世代間連鎖をもたらさないと論じた。
5 リスター(Lister,R.)は,社会的降格という概念を通して,現代の貧困の特徴を論じた。
出来の悪い模擬試験なら,こういったものを正解にすることがありますが,国家試験ではこういったものを正解にすることはほとんどありません。
選択肢3は消去できそうです。
貧困は次の世代の貧困を生み出すからです。これを「貧困の再生産」といいます。
ポーガムとリスターは,入れ替えた問題となっています。
正しくは,以下のようになります。
ポーガム(Paugam,S)は,社会的降格という概念を通して,現代の貧困の特徴を論じた。
リスター(Lister,R.)は,車輪になぞらえて,経済的貧困と関係的・象徴的側面の関係を論じた。