皆さんが受験しようとしているのは,社会福祉士の国家試験です。
社会福祉士のあるべき姿を示すのが国試です。
「自分はこう考える」ではなく,国が考える社会福祉士像に合致させなければなりません。
社会福祉士としての素養を問うわけですから,出題される問題にはすべて意図があります。
どの科目であっても,それは貫かれます。
国試が始まった当初は,「あるべき姿」は明確なものではなかったかもしれません。
しかし現在は回を重ねるたびに洗練されてきています。
中には「変な問題だ」と思うものもあるかもしれません。
しかし,そんな評論家のようなことを思っても,国試合格のためには意味がありません。
「社会調査の基礎」は,現行カリキュラムで加わった科目です。
社会調査の知識は新しい社会福祉士像として必要だったからにほかなりません。
はっきり言うと,この科目を苦手としている受験生は多いです。
0点を恐れる人も多いかもしれません。
量的調査の検定のような問題ばかりなら0点になってしまうかもしれませんが,決してそんな領域ではありません。
得点できる領域も存在しています。
それが質的調査です。
さて,今日のテーマは「アクション・リサーチって何?」です。
言葉からイメージしにくいかもしれませんが,ほかの調査手法と大きく違う点は,調査の過程を通して,問題解決を図ることを重視することです。
そのため,調査手法には,PDCAサイクルが用いられます。
アクション・リサーチの「アクション」とは,PDCAサイクルのA(実行)を指しています。
問題解決の実行があってこそ,アクション・リサーチと言えます。
社会福祉士像に重なるところがあると思いませんか?
国試では,第23回,第27回,第28回の3回の出題なので,出題確率は33.3%ということになります。
確率面で言えば,第31回に必ず出題されるかどうかわからないものと言えますが,社会福祉士として覚えておかなければならない領域であることは間違いありません。
それでは今日の問題です。
第22回・問題82 アクション・リサーチと参与観察に関する次の記述のうち,適切なものを一つ選びなさい。
1 アクション・リサーチでは,量的調査の手法を適用することは望ましくない。
2 アクション・リサーチでは,研究者の質問に対する調査対象者の回答の本音が何であるかを,臨床心理学の方法に基づいて解釈する。
3 アクション・リサーチでは,調査を行う研究者が当事者と協働して,両者が関与する問題の解決も目指しつつ調査や実践を進める。
4 参与観察では,調査者が調査対象者となる個人とラポールを築くことができるので,他の調査手法よりも客観的な結果を導くことができる。
5 参与観察とアクション・リサーチの違いは,前者が実践的な問題解決を重視するのに対し,後者は観察に基づく理論的研究を重視することにある。
参与観察は,観察法で既に学びました。
参与観察と非参与観察の違いについて整理しておきましょう。
アクション・リサーチと参与観察をセットにした問題はこの時の1回だけですが。試験委員の出題意図(社会福祉士としてのあるべき姿)を考えたとき,正解にもっていきたいのは,アクション・リサーチだと思いませんか?
国試で正解を選ぶ時に迷った場合は,出題意図を考えると,正解を見つけやすいものです。
第32回国試以降を受験される方は,過去問を解く時は,ぜひその視点で問題を見ていただきたいと思います。問題を解く勘がつきます。
それでは解説です。
1 アクション・リサーチでは,量的調査の手法を適用することは望ましくない。
これは間違いです。
アクション・リサーチでは問題点を明らかにすることが欠かせません。
そのためにアンケートなどを実施することもあります。
2 アクション・リサーチでは,研究者の質問に対する調査対象者の回答の本音が何であるかを,臨床心理学の方法に基づいて解釈する。
これは間違いです。
これは,アクション・リサーチとは何かを理解していない受験生を引っ掛けるためのでたらめ選択肢です。
第30回国試は,このようなでたらめ選択肢はほとんど見られませんでしたが,第31回国試では一定程度のでたらめ選択肢を混ぜてくることが予測されます。
しかし知識がちゃんとある方は,このようなトラップはうまく避けることができるでしょう。恐れる必要は一切ありません。自信をもちましょう。
3 アクション・リサーチでは,調査を行う研究者が当事者と協働して,両者が関与する問題の解決も目指しつつ調査や実践を進める。
これが正解です。
アクション・リサーチそのものです。その過程には,PDCAサイクルが用いられます。
4 参与観察では,調査者が調査対象者となる個人とラポールを築くことができるので,他の調査手法よりも客観的な結果を導くことができる。
これは間違いです。
調査者が調査対象者となる個人とラポールを築くことができる
この部分は合っているでしょう。
しかし,親密になりすぎるいわゆる「オーバーラポール」といったこともあります。
そうなると客観的になることは難しくなります。
オーバーラポールでなくても,参与観察は調査対象者に主体的にかかわっていくので,単に客観的なものを求めるだけなら,非参与観察の方が適切です。
5 参与観察とアクション・リサーチの違いは,前者が実践的な問題解決を重視するのに対し,後者は観察に基づく理論的研究を重視することにある。
これも間違いです。
アクション・リサーチは問題解決を重視したものです。
<今日の一言>
国試で大きな成果を挙げるために必要なことは,自分に自信をもつことです。
国家試験は,正解を選び出す作業の繰り返しです。
間違い選択肢が存在しなければ,問題は成り立ちません。
現在の国試では,選択肢の内容を入れ替える手法はほとんど見られません。
この方法だと,これはこれ,これはこれ,と連鎖的に間違い選択肢を消去できます。
今は,「セット入れ替え作問法」が見られるだけです。
セット入れ替え作問法
https://fukufuku21.blogspot.com/2019/01/blog-post_5.html
しっかり勉強してきた人が問題文を読んだとき「何,これ?」と思う問題の多くは,でたらめ選択肢です。
でたらめ選択肢を混ぜられると知識のない人はそこに引き寄せられます。
もっともらしく見えるからです。
そのトラップに決してはまらず,慎重に,そして大胆に答えを選んでいきましょう。
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