2021年9月30日木曜日

サッチャーとブレア

イギリスの政策は,サッチャーとブレアの違いを押さえておきたいです。


資本主義の制度上の欠陥を補うためものが福祉制度です。


資本主義で得た利益を用いて,社会保障を行います。


国が潤っている時は,福祉に多くのお金を使うことができます。


しかし,経済が停滞すると,そうはいきません。


イギリスは,世界に先駆けて産業革命を成し遂げ,大英帝国を築きました。


しかし,今のような労働者を守るような体制はなく,貧困に陥るのは,個人に問題があるからだと考えられていました。それを改めるきっかけとなったのが,19世紀後半に実施されたブースやラウントリーが行った貧困調査です。


20世紀に入ると,救貧法が廃止され,それに代わってさまざまな制度を充実させていきます。

これができたのは,国の経済が潤っていたためです。


次第に経済の中心はアメリカに移り,イギリスはかつての輝きを失い,福祉が国を転覆させかねないようなところまで行きつきます。


そこに登場したのがサッチャーです。


国民の生活に国の関与をなるべく小さくする政策を打ち出していきます。


批判があっても新自由主義的な政策をすすめたことで鉄の女と呼ばれました。


20世紀終盤に登場したのがブレアです。


労働党の党首なので,サッチャーが登場する以前の社会民主主義な政策を取りたいところだったと思いますが,もう以前のようなお金はありません。


そこで打ち出したのが,ギデンズが提唱した「第三の道」です。


第三の道とは,従来のように,福祉ニーズに対してそのまま給付するのではなく,ポジティブ・ウェルフェアと呼ばれる就労に力を注ぐものです。


税金を払ってくれるくらいまでの就労ができればよいのですが,そこまでに至らずともお金を投入することがなくなるだけでも国は助かります。


整理できたところで,今日の問題です。


第22回・問題25 福祉を取り巻く現代社会の動向に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 ウルリッヒ・ベック(Beck,U.)は,『危険社会」の中で,現代社会は,核兵器や環境破壊などの問題が深刻化したため,個人の生活がこれまで以上に集合体に依存するようになっていると主張した。

2 アンソニー・ギデンズ(Giddens,A.)は,社会民主主義的な福祉国家でもなく,サッチャリズムに象徴される市場原理主義でもない「第三の道」という考え方を提唱して,イギリスのブレア政権の福祉政策のあり方に影響を与えた。

3 ダニエル・ベル(Bell,D.)は,『ポスト工業化社会の到来』の中で,ポスト工業化の時代には「新しい知識階級」が,金融や情報に関する新しい技術を駆使しながら「経済学化様式」に立脚した意思決定を行うと主張した。

4 ジョセフ・スティグリッツ(Stiglitz,J.)の著書の題名になった「底辺への競争」という現象は,経済のグローバル化によって途上国が一層,底辺化することである。

5 ロバート・ピンカー(Pinker,R.)は,福祉サービスはインフォーマル部門,ボランタリー部門,公共部門という3つの部門によって多元的に供給されるという福祉多元主義の考え方を示した。



たくさんの人の名前が出てきてそれだけで混乱しそうな問題です。


しかし,答えは選択肢2です。


2 アンソニー・ギデンズ(Giddens,A.)は,社会民主主義的な福祉国家でもなく,サッチャリズムに象徴される市場原理主義でもない「第三の道」という考え方を提唱して,イギリスのブレア政権の福祉政策のあり方に影響を与えた。


サッチャーとブレアの政治手法の違いは,何度も問われています。


サッチャーは,国の立て直しのために「小さな政府」を目指しました。


ブレアは,社会民主義的な「大きな政府」でもなく,新自由主義的(ここでは市場原理主義)な「小さな政府」でもなく,「第三の道」を目指しました。


ブレアに影響を与えたのが,この選択肢に出てくるギデンズです。


それでは,ほかの選択肢も確認します。


1 ウルリッヒ・ベック(Beck,U.)は,『危険社会」の中で,現代社会は,核兵器や環境破壊などの問題が深刻化したため,個人の生活がこれまで以上に集合体に依存するようになっていると主張した。


なんだかよくわからない文章だと思いませんか。


「核兵器や環境破壊などの問題が深刻化したため」という部分が妙に説明的です。


現代社会は,企業のような集合体に依存することから個人主義へと移ります。


産業革命は,大きな資本によって産業化が進みました。財を持たない人は,労働力をお金に変えます。


しかし現代社会は,資本がなくても知恵があれば,財をなすことが可能です。さらに現代ではインターネットが普及し,個人主義が一層進んでいます。


集合体に依存する人もいますが,そうでない人もいっぱい生まれています。


3 ダニエル・ベル(Bell,D.)は,『ポスト工業化社会の到来』の中で,ポスト工業化の時代には「新しい知識階級」が,金融や情報に関する新しい技術を駆使しながら「経済学化様式」に立脚した意思決定を行うと主張した。


「経済学化様式」とは,産業革命に代表されるような,より効率的なものを目指すものです。


ポスト工業化(ポスト産業化)の時代では,効率的なものだけではなく,便利なもの,生活の満足を高めるもの,などが重要になります。


ものづくりの時代から情報化の時代への変化するためです。それをベルは「社会学化様式」と呼びました。


人から「いいね」をたくさんもらうことに価値があるのは,社会学化様式だからです。


4 ジョセフ・スティグリッツ(Stiglitz,J.)の著書の題名になった「底辺への競争」という現象は,経済のグローバル化によって途上国が一層,底辺化することである。


底辺への競争は,近年の首脳会議や閣僚会議の議題に上がってきているテーマです。


法人税を引き下げることで自国に企業を誘致する戦略を取ると,その時は良いですが,さらに引き下げる国が出てくるとそちらに流れます。


底辺への競争とは,限りなくゼロに向かって競争することです。


そのため,そこに終止符を打つために,各国首脳は,法人税を一定以上にすることを話し合っているのです。


グローバル化の時代は,世界基準で判断しなければなりません。「自国ファースト」という自国がよければ,ほかの国のことは知らないという政策は不適切です。


5 ロバート・ピンカー(Pinker,R.)は,福祉サービスはインフォーマル部門,ボランタリー部門,公共部門という3つの部門によって多元的に供給されるという福祉多元主義の考え方を示した。


ピンカーが福祉多元主義の考え方を示したのは正しいですが,福祉サービスの提供主体は

・インフォーマル部門

・ボランタリー部門

・公共部門

・私的部門

・企業福祉


があると述べています。


ボランタリー部門と私的部門のどこが違うのかと言えば,ボランタリーは,非営利組織です。


日本で言えば,NPO法人のようなものです。


私的部門は,慈善活動です。


今日の日本では慈善活動はあまり発達していませんが,歴史的に見た場合は,イギリスのCOSなどが位置づけられます。


企業福祉は,従業員に対して,給与のほかに,企業が提供するものです。


2021年9月29日水曜日

厚生省の設置

 現在の厚生労働省の成り立ちです。

 

1917(大正6)年

内務省に救護課設置。

1919(大正8)年

救護課を社会課に改称。

1920(大正9)年

社会局に昇格。

1938(昭和13)年

内務省から独立して,厚生省を設置。

 

救護課を設置したところからスタートします。

 

救護課は,軍事救護法(1917年)の事務を取り扱うために設置したものです。救護法ではありません。軍事救護法です。

 

社会課に改称したきっかけは,米騒動です。

 

内務省から独立したのは,日中戦争に大きくかかわります。

 

それでは,今日の問題です。

 

22回・問題24 20世紀前半における福祉制度の発達過程に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 スウェーデンでは自由民主党政権が誕生(1920年)し,同政権によって同国の自由主義的福祉政策の基本的な枠組みが形成されて福祉国家の基礎となった。

2 アメリカではニューディールの一環として,公的扶助,失業保険,医療保険,福祉サービスの4本柱を内容とする社会保障法(1935年)が制定された。

3 ドイツでは第二次世界大戦後の基本法において,ようやくすべての国民に「人間としての尊厳を有する生活」を保障する生存権が確定した。

4 日本では工場労働者の最低就業年齢や最長労働時間など労働者の保護を定めた工場法が,第一次世界大戦後に初めて制定された。

5 日本では1938年に厚生省が設置され,また,私設社会事業への届出義務,改善命令,監督・指示,寄付金募集,補助等を定めた社会事業法が制定されている。

 

下手な選択肢が混じった問題です。

 

そのため,落ち着いて解けば,正解できる確率が上がります。

 

先に言えば「ようやく」と「初めて」です。

 

それでは,解説です。

 

1 スウェーデンでは自由民主党政権が誕生(1920年)し,同政権によって同国の自由主義的福祉政策の基本的な枠組みが形成されて福祉国家の基礎となった。

 

スウェーデンの政権を正しく知っている人は,そんなに多くはないでしょう。

これを正解にするような問題を作るとしたら,その試験委員はバランスを欠いています。

 

つまりこういったタイプの選択肢は正解にはなりにくいということです。

 

この問題を見たとき,「ああ,なるほどね」と思ったことがあります。

 

ちゃんと読めば,正解できるように問題は作られるのだということです。

 

自由主義と福祉国家は,イデオロギーが異なります。

 

ここで「ああ,なるほどね」と思った人はかなり理解が進んでいると言えます。

 

イギリスのサッチャー元首相は,保守党です。自由民主党のような党名をつける政党は,保守寄りの政策を取ります。

 

そういったことが頭に浮かべば,消去できることでしょう。

 

スウェーデンが長く政権を持ったのは,労働者よりの政党です。

 

2 アメリカではニューディールの一環として,公的扶助,失業保険,医療保険,福祉サービスの4本柱を内容とする社会保障法(1935年)が制定された。

 

この問題が出題された時は,難しいと思った人が多かったと思います。

 

しかし,よくよく読めば「医療保険」がおかしいと思えるはずです。アメリカは,公的な医療保障が発達していないのが特徴の国です。

 

社会保障法には,医療保険は含まれていません。

 

社会保障制度の中でも医療保障は,その国の特徴が出やすいものです。

 

これから各国の社会保障を勉強する際には,医療保障について整理しておくと良いと思います。

 

3 ドイツでは第二次世界大戦後の基本法において,ようやくすべての国民に「人間としての尊厳を有する生活」を保障する生存権が確定した。

 

これが「ようやく」です。

 

もしこの選択肢が正しければ,「ようやく」はなくても文章は成り立ちます。下手だと思いませんか。

 

生存権は,1919年のワイマール憲法で規定されています。

 

これが世界で初めての生存権を規定したものです。

 

4 日本では工場労働者の最低就業年齢や最長労働時間など労働者の保護を定めた工場法が,第一次世界大戦後に初めて制定された。

 

これが「初めて」です。

 

もしこの選択肢が正しければ,「初めて」がなくても文章は成り立ちます。実に下手です。

 

工場法が制定されたのは,第一次世界大戦より前である1911年です。

 

工場法は,戦後の労働基準法が制定されるまで存続しました。

 

5 日本では1938年に厚生省が設置され,また,私設社会事業への届出義務,改善命令,監督・指示,寄付金募集,補助等を定めた社会事業法が制定されている。

 

これが正解です。1938(昭和13)年は,これらのほかに,国民健康保険法が成立した年でもあります。

 

社会事業法は,それまで民間の自発的な活動だった社会事業に国の関与を認めたものでもありますが,同時に補助も行うものでした。

 

戦後,日本国憲法の規定によって,社会事業団体への補助ができなくなりました。そのために,新しく作られたのが,社会福祉事業法(現・社会福祉法)によって設立された社会福祉法人です。

2021年9月28日火曜日

イギリスの貧困調査

 歴史は苦手だという人は多いと思いますが,イギリスは極めて重要です。

 

さまざまなものを体験しながら,福祉国家を作り上げていったからです。

 

後から続くものは当然だと思うものでも,最初に始めるのはとても難しいものです。

 

社会理論で絶対に覚えたい5人衆~(番外編)ラウントリー

https://fukufuku21.blogspot.com/2018/04/201804125.html

 

まずは上記の記事を読みましょう。

 

それでは今日の問題です。

 

 

22回・問題23 イギリスの救貧法等の福祉制度の発達過程に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 エリザベス救貧法(1601年)では,労働能力のない貧民のうち親族による扶養を受けられない者に対して救済策が設けられたが,労働能力のある貧民については対象外とされた。

2 救貧法改正(1834年)によって,救貧行政の担当が中央政府から地方政府に変更され,中央政府は関与しないことになった。

3 チャールズ・ブース(Booth,C.)の『ロンドン民衆の生活と労働』における分析では,ロンドンの民衆が貧困となった原因で2番目に多いのは「環境の問題」であることが判明した。

4 「救貧法に関する王立委員会報告」(1909年)は多数派報告と少数派報告からなり,多数派報告は救貧法を解体してより普遍的な方策が必要であると主張した。

5 20世紀初頭のイギリスでは,公的年金と失業保険から構成される国民保険法が成立するなど積極的な社会改革が進められた。

 

上記の記事を読めば答えはわかるでしょう。

 

それでは解説です。

 

1 エリザベス救貧法(1601年)では,労働能力のない貧民のうち親族による扶養を受けられない者に対して救済策が設けられたが,労働能力のある貧民については対象外とされた。

 

エリザベス救貧法の救済の対象

・労働能力のない貧民

・労働能力のある貧民

・親が育てられない児童

 

ということで,労働能力のある貧民も救済の対象です。

 

2 救貧法改正(1834年)によって,救貧行政の担当が中央政府から地方政府に変更され,中央政府は関与しないことになった。

 

改正救貧法のポイントは2つです。

 

・救済基準の全国一律化

・劣等処遇の原則

 

それまでの救貧法は,教会区によって救済基準がバラバラでしたが,改正救貧法によって,中央政府がかかわることになり,全国の救済基準が統一化されました。

 

3 チャールズ・ブース(Booth,C.)の『ロンドン民衆の生活と労働』における分析では,ロンドンの民衆が貧困となった原因で2番目に多いのは「環境の問題」であることが判明した。

 

2番目に多いものを問うか,と思ってしまいますが,これが正解です。

 

〈貧困の原因〉

1位は雇用の問題(臨時就労や低賃金など)

2位は環境の問題(疾病や大家族など)

3位は習慣の問題(飲酒や浪費など)

  

4 「救貧法に関する王立委員会報告」(1909年)は多数派報告と少数派報告からなり,多数派報告は救貧法を解体してより普遍的な方策が必要であると主張した。

 

救貧法に関する王立委員会報告は,多数派報告と少数派報告があります。

 

そのうち,多数派報告は救貧法を改正することを提言し,少数派報告は救貧法を廃止することを提言しました。

 

少数派報告は,国民の支持を集め,救貧法廃止につながっていきます。

 

5 20世紀初頭のイギリスでは,公的年金と失業保険から構成される国民保険法が成立するなど積極的な社会改革が進められた。

 

世界で初めての社会保険を作ったのは,ドイツです。

 

失業保険を初めて作ったのは,イギリスです。

 

国民保険法は,医療保険と失業保険で構成されています。

 

公的年金ではなく,医療保険です。

 

今日の問題を詳しく学びたい人はこちらの記事も合わせてお読みください。

https://fukufuku21.blogspot.com/2018/05/311_6.html

2021年9月27日月曜日

社会福祉の原理と政策

37回の国家試験から新しいカリキュラムによって実施されます。

 

現時点(2021年9月)では,第22回から実施されている平成19年度改正の旧カリキュラムの国家試験は,残り3回ということになります。

 

できるだけその間に合格したいものです。

 

「現代社会と福祉」という科目は「社会福祉の原理と政策」という科目に生まれ変わります。

「社会福祉の原理と政策」の科目の概要

 https://fukufuku21.blogspot.com/2020/03/blog-post_12.html

 

内容をザーッとみる限りでは,以前の「社会福祉原論」に近いような感じです。

 

ある程度難しい内容の出題が予測されるでしょう。

 

今日の問題のような出題です。

 

22回・問題22 福祉制度及び福祉政策に関連する諸概念に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 社会保障制度審議会は,「1950年の勧告」で,社会保障制度とは,疾病,負傷,分娩,廃疾,死亡,老齢,失業,多子に対し,保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講ずることであると規定した。

2 社会保障制度審議会は,「1950年の勧告」で,社会福祉を,公的年金を受給している者,身体障害者,児童その他援護育成を要する者を対象として,必要な生活指導,更生補導その他援護育成を行うことと規定した。

3 社会保障制度審議会は,「1995年の勧告」において,「1950年の勧告」当時の社会保障の理念は最低限度の生活の保障であったが,現在では広く国民に健やかで安心できる生活を保障することが社会保障の基本的理念であるとした。

4 イギリスにおけるソーシャルポリシー(社会政策)は,所得保障,医療保障及び教育保障から構成されている。これに対してドイツを中心に発達した社会政策は当初,教育・就業上の事故を対象とする社会保険を内容とするものであった。

5 ティトマス(Titmuss,R.)の「福祉の社会的分業」の考え方によれば,福祉制度,財政福祉,社会福祉,市民福祉及び企業福祉の4つに分けられ,第二次世界大戦後は社会福祉から市民福祉へと変化しつつあるとされた。

()1 「1950年の勧告」とは,「社会保障制度に関する勧告」のことである。

2 「1995年の勧告」とは,「社会保障体制の再構築に関する勧告安心して暮せる21世紀の社会を目指して」のことである。

 

この問題でも出題されように一般的には「制度・政策」というような言い方をします。

 

しかし,本来は,「政策」が先にあって,それが具現化されるものが「制度」です。

 

「政策・制度」では,ゴロが良くないので「制度・政策」と表現するのでしょう。

 

福祉政策は,どのように制度を設計するのか,の設計図です。

 

福祉政策のもとになるのが,福祉哲学でしょう。

 

こういったことを学ぶのが,令和元年改正のカリキュラムだということになるでしょう。

 

国家試験の問題数がどうなるのかはわかりませんが,勉強せずとも正解できるような現代社会の問題を切り取ったような出題は少なくなるのではないかと思います。

 

そういった意味で,覚悟が必要だと思うのです。

 

 

それでは解説です。

 

1 社会保障制度審議会は,「1950年の勧告」で,社会保障制度とは,疾病,負傷,分娩,廃疾,死亡,老齢,失業,多子に対し,保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講ずることであると規定した。

 

50年勧告は,社会保障制度の範囲とその方向性を示したものです。

 

社会保障制度の範囲(50年勧告)

 

社会保障制度とは,疾病,負傷,分娩,廃疾,死亡,老齢,失業,多子その他困窮の原因に対し,保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講じ,生活困窮に陥った者に対しては,国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに,公衆衛生及び社会福祉の向上を図り,もってすべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすることをいうのである。

 

 

具体的には

・社会保険

・公的扶助

・公衆衛生

・社会福祉

 

の4つを示しています。

 

問題文には,公衆衛生と社会福祉が抜け落ちています。

 

これをみて「あれっ」と思った人もいるでしょう。

 

「狭義の社会保障は,5つではなかったのか」と思う人はすごいです。

 

現在は,上記の4つ「老人保健」を加えて5つになっていますが,この当時は人生50年の時代です。老人保健を考えなければならないほど長生きする時代ではなかったのです。

 

 

2 社会保障制度審議会は,「1950年の勧告」で,社会福祉を,公的年金を受給している者,身体障害者,児童その他援護育成を要する者を対象として,必要な生活指導,更生補導その他援護育成を行うことと規定した。

 

50年勧告では,社会福祉を定義しています。

 

社会福祉の定義(50年勧告)

 

社会福祉とは,国家扶助の適用をうけている者,身体障害者,児童,その他援護育成を要する者が,自立してその能力を発揮できるよう,必要な生活指導,更生補導,その他の援護育成を行うことをいうのである。

 

 

日本の社会保障制度を3つに分けると以下のようになります。

・社会保険制度

・社会福祉制度

・生活保護制度

 

問題の「公的年金を受給している者」は,社会保険制度の対象です。

 

 

3 社会保障制度審議会は,「1995年の勧告」において,「1950年の勧告」当時の社会保障の理念は最低限度の生活の保障であったが,現在では広く国民に健やかで安心できる生活を保障することが社会保障の基本的理念であるとした。

 

これが正解です。

 

95年勧告は,21世紀に向けた新しい時代の社会保障制度のあり方を示したものです。

 

その中には,介護保険の創設が提言されています。

 

4 イギリスにおけるソーシャルポリシー(社会政策)は,所得保障,医療保障及び教育保障から構成されている。これに対してドイツを中心に発達した社会政策は当初,教育・就業上の事故を対象とする社会保険を内容とするものであった。

 

社会保険はドイツが発祥ですが,最初は疾病保険(医療保険),労災保険年金保険から始まりました。

現在のドイツは,この3つに「失業保険」「介護保険」を加えて,5種類の社会保険を整備しています。

イギリスの社会保障は,所得保障,医療保障及び教育保障もありますが,これだけにとどまりません。

 

5 ティトマス(Titmuss,R.)の「福祉の社会的分業」の考え方によれば,福祉制度,財政福祉,社会福祉,市民福祉及び企業福祉の4つに分けられ,第二次世界大戦後は社会福祉から市民福祉へと変化しつつあるとされた。

 

ティトマスは,財政福祉,社会福祉,企業福祉の3つがあると述べています。

 

これを知らないとしても,市民福祉,つまりボランタリーなものが中心になるということは考えにくいと言えるでしょう。

2021年9月26日日曜日

地位と役割

地位とは,社会学的には,集団の中で置かれている立場のことをいいます。

 

役割とは,地位に伴う期待です。

 

ある地位にいる人は,その地位に合った役割を担います。

 

役割は,誰かから教えられることもあるかもしれませんが,多くの場合,生まれ育つ中で身につけていきます。これを「役割取得」といいます。

 

それでは今日の問題です。

 

22回・問題21 地位役割に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 社会的地位の中でも世代から世代へと継承されるような地位を,獲得的地位という。

2 いったん就いた社会的地位が変わることがないことを,地位不変の法則という。

3 同じ社会の中で,人々が他者の役割期待を察知できるのは,共通の社会観範を内面化しているためである。

4 一つの社会的地位には,一つの対の役割が対応し,教師という社会的地位は,生徒に対する役割と対になっており,保護者や校長に対する役割を含まない。

5 伝統的社会でも近代的社会でも,業績主義的地位が重視され,属性主義的地位は軽視されてきた。

 

面白い問題です。

 

これももしかすると,前回紹介したタクソノミーⅡ型(設問で与えられた情報を理解・解釈してその結果に基づいて解答する問題)の問題かもしれません。

https://fukufuku21.blogspot.com/2021/09/blog-post_25.html

 

それでは,解説です。

 

1 社会的地位の中でも世代から世代へと継承されるような地位を,獲得的地位という。

 

獲得的地位とは,自分の力で獲得した地位のことです。

 

世代から世代へと継承されるような地位は,生得的地位といいます。

 

2 いったん就いた社会的地位が変わることがないことを,地位不変の法則という。

 

いったん就いた社会的地位は,変わることがないということはありません。

 

絶対的権力をもって地位を築いたとしても,革命が起きれば失脚します。

 

そんな過激なことではなくても,家族の中での妻や夫といった地位も伴侶を失えば,役割は変わります。

 

それでは「地位不変の法則」とは何でしょうか?

 

実は,こんな用語はありません。近年は,このような存在しない用語を出題する言葉遊びのようなものを出題することはなくなりました。

 

意味がない出題は避けるようになったのではないかと思います。

 

ただし,存在する用語の説明をでたらめなものにして出題することはよくあります。

 

 

3 同じ社会の中で,人々が他者の役割期待を察知できるのは,共通の社会観範を内面化しているためである。

 

これが正解です。

 

役割期待とは,地位に対する人々の期待です。

 

社会規範とは,社会の中のルールのことです。法や規則なども社会規範に含まれますが,社会規範はそういったものだけではなく,社会の中で自然と作られていくものです。

 

「言わなくてもわかる」というのは,社会規範を共有しているためです。社会規範を共有していないと「言わなければわからない」ということになります。

 

世代が違う人や外国人労働者などは,同じ社会規範を共有していないので,「言わなくてもわかる」といった甘い期待は許されません。

 

 

4 一つの社会的地位には,一つの対の役割が対応し,教師という社会的地位は,生徒に対する役割と対になっており,保護者や校長に対する役割を含まない。

 

地位に対する役割は,いくつもあるのが一般的です。

 

5 伝統的社会でも近代的社会でも,業績主義的地位が重視され,属性主義的地位は軽視されてきた。

 

業績主義とは,実力によって地位が変わることです。

 

属性主義とは,生まれたその地位を引き継ぐことです。

 

伝統的社会では「属性主義的」,近代的社会では「業績主義的」なものを重視する傾向にあります。

 

日本の江戸時代をイメージするとわかりやすいでしょう。

家柄によって,仕事や地位が決まります。

2021年9月25日土曜日

都市的生活様式(アーバニズム)

都市的生活様式=アーバニズムは,都市化の進行による生活の変化を表わしたもので,近隣住民への無関心などを特徴とします。

 

近年は,あまり出題されないと思ったら,第33回国試では,以下のように出題されました。

 

 

33回・問題16 都市化の理論に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 フィッシャー(Fiscer,C.)は,都市の拡大過程に関して,それぞれ異なる特徴を持つ地帯が同心円状に構成されていくとする,同心円地帯理論を提起した。

2 ワース(WirthL.)は,都市では人間関係の分節化と希薄化が進み,無関心などの社会心理が生み出されるとする,アーバニズム論を提起した。

3 クラッセン(Klaassen,L.)は,大都市では類似した者同士が結び付き,ネットワークが分化していく中で多様な下位文化が形成されるとする,下位文化理論を提起した。

4 ウェルマン(Wellman,B.)は,大都市では,都市化から郊外化を経て衰退に向かうという逆都市化(反都市化)が発生し,都市中心部の空洞化が生じるとする,都市の発展段階論を提起した。

5 バージェス(Burgess,E.)は,都市化した社会ではコミュニティが地域や親族などの伝統的紐帯から解放されたネットワークとして存在しているとする,コミュニティ解放論を提起した。

 

 

こういった問題が出題されるとやっぱり人名を覚えなければならないと思うかもしれません。

 

もちろん覚えたほうが良いかもしれませんが,人名を入れ替える問題は,はっきり言えば駄作です。

 

知識だけを説いているからです。

 

国家試験の問題には,3種類のタイプがあります。

 

タクソノミーⅠ型(単純な知識の想起によって解答できる問題)

タクソノミーⅡ型(設問で与えられた情報を理解・解釈してその結果に基づいて解答する問題)

タクソノミーⅢ型(理解している知識を応用して具体的な問題解決を求める問題)

 

33回国試の問題は,タクソノミーⅠ型が多かったと言えます。

ボーダーラインが上がったことの理由の一つかもしれません。

 

この問題の正解は,選択肢2です。

2 ワース(WirthL.)は,都市では人間関係の分節化と希薄化が進み,無関心などの社会心理が生み出されるとする,アーバニズム論を提起した。

 

この問題の中で,手がかりになり得るのは,コミュニティ解放論です。そこに気が付くことができれば,正解できる可能性が高まります。

 

それでは,今日の問題です。

 

22回・問題20 産業化・都市化に伴う社会関係の変化に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 社会結合の型は,ゲゼルシャフトからゲマインシャフトへ変化する。

2 第二次的関係よりも第一次的関係が優位になる。

3 核家族的世帯は減少し,三世代世帯が増加する。

4 地域における隣人ネットワークが活性化し,その量も増加する。

5 親族ネットワークの量は縮小し,選択的になり,居住地も拡散する。

 

この問題は,おそらくタクソノミーⅡ型を目指して作られたものだと思います。

単純な知識だけでは解けません。さまざまなことを考えなければ解けません。

 

受験生にとっては大変ですが,出来が素晴らしいです。張り切ったなぁと思います。それに比べると第33回国試の問題は,試験委員の手抜き問題のように見えてしまいます。

 

それでは,解説です。

 

1 社会結合の型は,ゲゼルシャフトからゲマインシャフトへ変化する。

 

ゲマインシャフトとゲゼルシャフトは,社会集団の古典です。

 

ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへ

https://fukufuku21.blogspot.com/2021/09/blog-post_22.html

 

ここで述べたように,社会は,ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへ変化します。

 

2 第二次的関係よりも第一次的関係が優位になる。

 

第一次的関係,第二次的関係とは何だろう? わからないと思うと迷いの森に入り込んでしまいます。

 

タクソノミーⅡ型ですから,知識を応用させなければなりません。

 

さて,どんな知識を使いましょうか?

 

第一次集団,第二次集団というのがありました。

 

第一次集団は,対面的な関係の集団です。

 

第二次集団は,学校,会社,組合などのように,特定の利害関心に基づいて組織された集団です。

 

第一次集団をテンニースに重ね合わせると「ゲマインシャフト」,マッキーバーに重ね合わせると「コミュニティ」に近い概念です。

 

第二次集団をテンニースに重ね合わせると「ゲゼルシャフト」,マッキーバーに重ね合わせると「アソシエーション」に近い概念です。

 

このようなことを考えると

 

第一次的関係 → 第二次的関係 

 

になるように思います。

 

数字の順番も参考になりそうですね。

 

第二次産業から第一次産業へ

 

ではなく

 

第一次産業から第二次産業へ

 

です。

 

この「第一次産業から第二次産業へ」というのが,今日の問題の設問に含まれている「産業化」という意味です。「産業化」とは,つまり「工業化」という意味です。

 

 

3 核家族的世帯は減少し,三世代世帯が増加する。

 

これはないだろうとわかるでしょう。

 

三世代世帯は減少し,核家族は増加します。

 

なぜでしょう?

 

産業社会では,多くの人材を必要とします。そのため,郡部から都市部に人口が流入します。

 

親は故郷にいるので,三世代世帯を構成するのは困難です。

 

4 地域における隣人ネットワークが活性化し,その量も増加する。

 

アーバニズムの特徴の一つは,近隣への無関心です。これもあり得ません。

 

5 親族ネットワークの量は縮小し,選択的になり,居住地も拡散する。

 

これが正解です。

 

よく考えなければ,正解だと思えないかもしれません。

 

かつては,きょうだいが,5人も6人もいるような家庭は珍しくありませんでした。

 

この子どもたちが結婚すると,親族はたくさんできます。

 

現代でも子どもが多い家庭はあるかもしれませんが,それは一般的ではありません。

 

一人っ子同士が結婚すると,親族はお互いの親だけです。お年玉をくれる人は少ないです。

 

多子社会では,おじさん,おばさんはいっぱいいます。お年玉をくれる人は多いです。

 

「選択的」という意味はわかりにくいですが,結婚は,お見合いではなく,恋愛結婚だという意味かもしれません。

 

お見合いだと紹介者が知っている人に限定されるので,そんなに遠くの人とは結婚することはなさそうです。

 

居住地が拡散するというのは,郡部の親元から離れて,都市で生活することを意味します。

 

そして,その子ども同士で結婚すると,親の住んでいるところは,遠いところになることもあります。両方の親が同じ市町村に住んでいるのは,レアだということになるでしょう。

 

という思考をめぐらせて,選択肢5が正解だということになります。

 

<今日の一言>

 

社会福祉士の国家試験は,今日の問題のように,考えさせる問題はそれほど多くはありません。作るのが難しいからでしょう。

 

試験委員は,その領域の専門家ではありますが,国試問題をつくることに関しては,素人です。そう思うと気持ちも楽になりませんか? 

 

日本語的に解けてしまうような問題を見たら,「へたくそ!」と笑えるくらいの気持ちの余裕を持って国家試験に臨みたいものです。

2021年9月24日金曜日

社会化について

今回は,社会化を詳しく学びます。


社会化とは,社会に対応するために社会のルールなどを内面化することをいいます。


一次的社会化は,人生最初の社会化の段階です。小さな子どものときに社会のルールを学ぶ過程です。一次的社会化の主な担い手は家族です。


二次的社会化は,学校などで学ぶ社会のルールを学ぶ過程です。二次的社会化の主な担い手は,学校や地域社会です。


予期的社会化は,社会に出る最終的な準備の段階です。将来は医師になりたい,アイドルになりたい,教師になりたい,という将来像によって,学ぶべき内容が異なります。


予期的社会化の主な担い手は,準拠集団です。


準拠集団は,前回学びました。

https://fukufuku21.blogspot.com/2021/09/blog-post_23.html


それでは,今日の問題です。


第22回・問題19 「社会化」に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 乳幼児期,児童期など子どもの発達の初期において,家族は重要な社会化の担い手である。

2 社会化の過程でジェンダー規範の内面化が始まるのは,思春期である。

3 社会化の過程は,乳幼児期から青年期に至るまでに完了する。

4 社会化は世代間の対立を導き,文化の継承を阻害する。

5 社会化は,人と人との直接的な相互行為の中でのみ生じる。


ここで注意を一つします。


用語の意味は,おおよそをつかむことができれば,それで良しとします。


真面目な人は,勉強の過程で知らないことが出てくると調べると思いますが,国家試験の会場では調べることもできません。人に聞くこともできません。


意味がわからないと思うと混乱し,ミスする原因です。


もしこの問題で,社会化という意味がわからないと思うと,冷静に考えることができなくなってしまうことでしょう。


もともと心理学や社会学などの用語は,誰かがそう述べたにすぎません。


自然科学は

1日は約24時間である。

インスリンは,膵臓のランゲルハンス島から分泌される。


といったように,誰の目にも明らかですが,心理学や社会学のような学問領域のものは,誰かが定義づけなければ,その現象をとらえることもできません。


それでは,解説です。


1 乳幼児期,児童期など子どもの発達の初期において,家族は重要な社会化の担い手である。


前説で述べたように,一次的社会化の主な担い手は家族です。


ということで,これが正解です。


2 社会化の過程でジェンダー規範の内面化が始まるのは,思春期である。


ジェンダー規範とは,男性はこういうものである,女性はこういうものである,といった社会的性差に関する社会のルールです。


ジェンダー規範の内面化とは,ジェンダー規範を受け入れることを意味しています。


女の子は人形で遊ぶ,男の子は車のおもちゃで遊ぶ,女の子はスカートをはく,男の子はスカートははかない,といったジェンダー規範は,生まれたその日から始まっていると言えるでしょう。


3 社会化の過程は,乳幼児期から青年期に至るまでに完了する。


社会化は,死ぬまで続きます。


たとえば,定年になった後,会社とは別な世界で生きていくことになります。


属する社会になじむために,社会化が求められます。


4 社会化は世代間の対立を導き,文化の継承を阻害する。


社会化は,社会のルールを学ぶものです。


その地域社会のルールを学ぶことも社会化です。


15歳になったら,お祭りで神輿担ぎをするといった伝統がある地域で,自分はいやだと拒否すると気まずかったりすることもあるでしょう。


参加すれば,文化の伝承が促進されるでしょう。年長者からさまざまなことを学ぶこともできます。


5 社会化は,人と人との直接的な相互行為の中でのみ生じる。


「のみ」はわかりやすいので,近年の国試ではなるべく使わないようにしているみたいです。


お祭りの神輿担ぎに参加せずとも,その周りで見ていても,ルールは学べます。


このように間接的であっても社会化されます。

2021年9月23日木曜日

社会集団の種類

社会学における社会集団は,古典的な研究テーマです。

 

そのため,さまざまな人たちがさまざまなことを提唱しています。

 

しかし,社会福祉士の国家試験で重要なのは,誰が提唱したか,ではなく,それはどのようなものか,ということを押さえることです。

 

サムナー 内集団,外集団

マートン 準拠集団

クーリー 第一次集団

 

このような覚え方をしても,国家試験では何の役にも立たないでしょう。

 

それでは,今日の問題です。

 

22回・問題18 社会集団に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 社会集団は,成員であることの自己認知とともに他者からの認知があり,また,成員間の相互作用が存在するなどの特徴をもっている。

2 準拠集団は,個人の態度形成や行動の準拠となる集団であり,非所属集団は含まない。

3 第一次集団は,学校,会社,組合などのように,特定の利害関心に基づいて組織された集団である。

4 インフォーマル・グループは,その内部において,短期の目的達成のためのあまり親密ではない対面的接触が多く見られる。

5 将来所属することが確実視される集団の価値や行動様式をあらかじめ学習しておくことを,一次的社会化という。

 

この問題には,人の名前は一切出ていません。

 

国家試験がどのように出題されているかを知らないで覚えるのは非効率的ですし,得点力もつきません。

 

覚え方のミスマッチは怖いです。

 

この問題は,答えがすぐわからないタイプの問題です。

 

つまり,ほかの選択肢を適切に消去することによってのみ,答えが見つかるというタイプの問題です。

 

そのため,一つでも消去できない選択肢があると正解するのはかなり困難です。

 

それでは解説です。

 

1 社会集団は,成員であることの自己認知とともに他者からの認知があり,また,成員間の相互作用が存在するなどの特徴をもっている。

 

これが正解です。

 

社会集団の特質について,ドーンと出題されています。

これを正解だとすぐ思える人は少ないでしょう。

 

答えがわからない時は,冷静に△をつけて,次の選択肢に進みます。

勉強した人なら,ほかの選択肢は消去できるので,結果的にこの選択肢が残ります。

 

2 準拠集団は,個人の態度形成や行動の準拠となる集団であり,非所属集団は含まない。

 

社会集団のうち,今までの国家試験で最も出題回数が多いのは,準拠集団です。

一問丸ごと準拠集団が出題されたこともあります。

 


13回・問題53 準拠集団とは,自分の態度や判断の形成に影響を与える集団のことである。準拠集団に関する次の記述のうち,最も適切なものを一つ選びなさい。

1 現在は所属していない団体や組織であっても,将来所属したいと思っている集団等は準拠集団になり得る。

2 家族,友人,知人などの身近な所属集団は,人の価値観や態度に大きな影響を与えるが,準拠集団とはいえない。

3 現在所属している団体が準拠集団なので,将来,その集団に所属したいと思っている団体や組織などは,準拠集団とはいえない。

4 過去に所属したことがあるが,現在は所属していない団体や組織は,準拠集団とはいえない。

5 準拠集団は,将来に向けた態度や判断に影響を与えるだけで,現状に対する不満や剥奪感の形成とは無関係である。


 

この問題は,すごいと思いませんか?

 

準拠集団の意味を設問の中に含んでおり,そこから答えを考えよ,というものです。

 

ここにあるように,準拠集団とは,自分の態度や判断の形成に影響を与える集団のことです。

単純にそれだけのことです。

 

13回の問題の答えは,選択肢1です。

 

1 現在は所属していない団体や組織であっても,将来所属したいと思っている集団等は準拠集団になり得る。

 

ということで,第22回の選択肢2は誤りです。準拠集団は自分に影響を与える集団であり,自分が所属している(あるいは過去に所属していた,将来所属する可能性がある)ことなどは関係ありません。

 

3 第一次集団は,学校,会社,組合などのように,特定の利害関心に基づいて組織された集団である。

 

第一次集団は,対面的な関係の集団です。マッキーバーに重ねると「コミュニティ」に近い概念です。

 

学校,会社,組合などのように,特定の利害関心に基づいて組織された集団は,第二次集団といいます。

 

マッキーバーに重ね合わせると「アソシエーション」に近い概念です。

 

マッキーバーについて,少し補足すると,家族は,コミュニティではなく,アソシエーションに分類されることは覚えておきたいです。

 

4 インフォーマル・グループは,その内部において,短期の目的達成のためのあまり親密ではない対面的接触が多く見られる。

 

インフォーマル・グループは,非公式的グループです。

むしろ親密です。

 

5 将来所属することが確実視される集団の価値や行動様式をあらかじめ学習しておくことを,一次的社会化という。

 

社会化とは,社会に対応するために社会のルールなどを内面化することをいいます。

 

一次的社会化は,人生最初の社会化の段階です。小さな子どものときに社会のルールを学ぶ過程です。

 

二次的社会化は,学校などで学ぶ社会のルールを学ぶ過程です。

 

予期的社会化は,社会に出る最終的な準備の段階です。将来は医師になりたい,アイドルになりたい,教師になりたい,という将来像によって,学ぶべき内容が異なります。

 

ということで,将来所属することが確実視される集団の価値や行動様式をあらかじめ学習しておくことは,予期的社会化に含まれるでしょう。

 

<今日のおまけ>

 

今日の問題では,「社会化」は,人が社会のルールを学び,社会に適応することの意味で使われています。

 

別な意味での「社会化」もあります。

 

あるものが社会全体の問題や社会資源などになるといった意味合いのものです。

 

この意味で使う場合の逆の意味は「個人化」ということになります。

 

最もよく知られたものには,介護保険制度が導入された目的の一つである「介護の社会化」です。

 

介護は,長い間,家族が担い手でした。それを社会サービスとして社会化したのです。

 

かつて使われた言葉には「施設の社会化」というのもあります。

 

これは,入所施設は施設で完結していたことに由来します。現在は,ショートステイなど地域の社会資源として活用されています。これが「施設の社会化」です。

 

どちらも今となっては古臭い使い方です。

次回,社会化を詳しく学びます。

2021年9月22日水曜日

ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへ

 今回は,社会変動を取り上げたいと思います。

 

社会変動とは,社会が変化していくことです。

 

社会変動は,どのように変化するのか,その順番が大切です。

 

 

デュルケム

テンニース

スペンサー

機械的連帯

有機的連帯

ゲマインシャフト

 ゲゼルシャフト

軍事型社会

 

 産業型社会

 

この中で最も出題回数が多いのは,テンニースの「ゲマインシャフト → ゲゼルシャフト」です。

 

ドイツ語なので言葉が分かりにくいこともあり,国家試験で出題すると,受験者に差がつきやすいからでしょう。

 

覚えにくいからこそ,しっかり覚えなければならない筆頭の一つだと言えます。

 

それでは,今日の問題です。

 

22回・問題17 近代の社会変動に閲する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 ジンメル(Simmel,G.)は,社会は分業の体系であると考え,同質な個人の連帯である機械的連帯から異質な個人の分業による有機的連帯に変化していくと考えた。

2 マルクス(Marx,K.)は,階級闘争が歴史を動かしていると考え,孤立する労働者を結びつける政治的リーダーたる前衛党が登場し,資本主義を打倒する闘争を指揮すると考えた。

3 ヴェーバー(Weber,M.)は,官僚制による合理化が一層進行するが,それに反対して情熱的に異議を唱えるカリスマが多数登場するようになると考えた。

4 テンニース(Tönnies,F.)は,どのような意志により人々が結合するかをとらえようとし,本質意志に基づく基礎社会から選択意志に基づく派生社会へと変化すると考えた。

5 デュルケム(Durkheim,E.)は,経済的繁栄によって人々の欲望が過度に肥大化し,どこまでいっても満足できないアノミーに陥り,それがいらだちや焦燥感をもたらすと考えた。

 

人名を覚えるのが苦手な人はいやになってしまうような問題でしょう。

 

正解を先に言うと,選択肢5です。

 

5 デュルケム(Durkheim,E.)は,経済的繁栄によって人々の欲望が過度に肥大化し,どこまでいっても満足できないアノミーに陥り,それがいらだちや焦燥感をもたらすと考えた。

 

アノミーは,以前はよく出題されていましたが,近年は出題されていません。

 

最後に出題されたのは,

 

23回・問題16

 

2 市場の無規制的な拡大で,人々の欲望が他律的に強化され異常に肥大化していく中で,消費の焦燥感や挫折感,幻滅などが生じることを経済的アノミーという。

 

これも正解です。経済的という言葉がついていますが,述べられている内容は,ほぼ同じです。

 

アノミーもわかりにくいので国試の出題に向いていると思いますが,現代の問題に置き換えたとき,ホットなテーマではないので出題されなくなったのかしれません。

 

それでは解説です。

 

1 ジンメル(Simmel,G.)は,社会は分業の体系であると考え,同質な個人の連帯である機械的連帯から異質な個人の分業による有機的連帯に変化していくと考えた。

 

「機械的連帯から有機的連帯へ」と述べたのは,デュルケムです。

 

近年では,以下のように出題されています。

 

デュルケム(DurkheimE.)が論じた有機的連帯とは,教会を中心とした共助のことをいう。

 

有機的連帯は,第22回で出題されているように,異質な個人の集まりによる社会です。

 

具体的に例を挙げると,革靴の製造です。

 

機械的連帯では,革靴の製造者が集まり,革のなめしから販売までをそれぞれが担います。

分業はされていません。これが同質な個人の連帯という意味です。

 

有機的連帯は,革のなめし,なめした革の販売,靴の製造,靴の販売といったように専門業者がそれぞれの専門分野で活動します。

 

機械的連帯と有機的連帯では,どちらがたくさんの靴を作れるでしょうか。

 

おそらく有機的連帯でしょう。

 

有機的連帯は,産業化の表れでもあります。

 

こんな出題があります。

 

1 デュルケム(Durkheim, E.)は,異質な個人の分業による有機的な連帯から,同質的な個人が並列する機械的連帯へと変化していくと考えた。

 

有機的連帯と機械的連帯が理解できれば,この社会変動はあり得ないことだと感じるでしょう。

 

もちろん中には,個人で革のなめしから販売まで行う靴職人もいるでしょう。

 

しかし,それでは製造する数に限界があるので,ものすごく高い靴になってしまい,誰もが購入できるものではなくなってしまうでしょう。

 

因みに

 

デュルケム(DurkheimE.)が論じた有機的連帯とは,教会を中心とした共助のことをいう。

 

は誤りです。

 

教会を中心とするということは,信者という同質な個人の集まりです。そういった意味で有機的連帯というよりは機械的連帯だと言えるでしょう。

 

 

2 マルクス(Marx,K.)は,階級闘争が歴史を動かしていると考え,孤立する労働者を結びつける政治的リーダーたる前衛党が登場し,資本主義を打倒する闘争を指揮すると考えた。

 

マルクスは,階級闘争が歴史を動かすと述べたのは,正しいです。

資本主義よりも共産主義が上の社会だと考えました。

 

理想は良かったのですが,適度な競争は人のモチベーションを高めるという面を考慮していないところに問題があったのではないかと思います。

 

古典的な資本主義のままだとマルクスの理論は適切だったと思いますが,資本主義国家は,その制度の欠陥を社会保障制度の整備によって補っていったのです。

 

孤立する労働者を結びつける政治的リーダーたる前衛党が登場し,資本主義を打倒する闘争を指揮すると考えたのは,レーニンです。

 

3 ヴェーバー(Weber,M.)は,官僚制による合理化が一層進行するが,それに反対して情熱的に異議を唱えるカリスマが多数登場するようになると考えた。

 

ヴェーバー(ウェーバー)は,出題頻度が高い人です。

 

勉強不足だと思うと深みにはまります。知らないのは勉強不足ではなく,嘘の文章だからです。

 

ウェーバーほど出題頻度の高い人は,出題ポイントが明確です。

 

官僚制

社会的行為

 

です。

 

 

4 テンニース(Tönnies,F.)は,どのような意志により人々が結合するかをとらえようとし,本質意志に基づく基礎社会から選択意志に基づく派生社会へと変化すると考えた。

 

本質意思と選択意思という部分は適切ですが,テンニースが述べたのは「ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへ」です。


 

<今日の一言>

 

社会変動は,どのように変わるのか,その順番を覚えることが特に重要です。

2021年9月21日火曜日

文化資本とは?

社会資本や社会関係資本は知っていても,文化資本を知っている人はそれほど多くはないかもしれません。

 

簡単に言えば,文化資本とは,文化的なものが世代継承されていくことです。

 

文化的なものは,いっぱいあります。

 

・骨董品

・本

・知識

・地位

・所作  など

 

これらは,だれもが持てるものではありません。

 

自分でこれらを獲得する人もいるでしょう。しかし,自分で積極的に獲得するのではなく,その家に生まれたことで自然に獲得していく人もいるでしょう。所作などのように親から子へ,子から孫へ伝えられていくものもあるでしょうし,その家に生まれたから興味をもつということもあるでしょう。

 

社会資本はインフラ,社会関係資本はソーシャルキャピタルです。

 

文化資本は,こういった社会的なものではなく,文化的意味合いのものです。

 

それでは,今日の問題です。かなりマニアックです。

 

22回・問題16 文化をめぐる次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 身体的振る舞いや家財道具,獲得した制度資格など文化的要素を帯びるものが本人や家族で蓄積・継承されて,文化現象や社会的格差を再生産することがあり,それらは文化遺産と呼ばれる。

2 現代国家における支配と従属の関係は文化の側面にも見られ,ある国のメディア情報や商品・ライフスタイルの浸透を通じて,他国の慣習や価値観が支配されていくことは,文化帝国主義と呼ばれる。

3 産業の変化を支える科学・技術の発展に伴い物質文化の展開は急速に進むが,政治・法律や教育など非物質文化は技術変動についていけず,変化の速度に時間的な違いが出てくることは,文化摩擦と呼ばれる。

4 ある社会において中心的位置にある支配的文化に対して,異議を申し立てて批判や抵抗をし,それらとは異なる新たな価値を創造・提起していこうとする文化的な働きのことは,文化伝播と呼ばれる。

5 ある文化には,個人のパーソナリティ同様,首尾一貫して統合的に理解できる思想や行動のパターンがあり,他の文化と比較しながらそれを類型化しようとする場合,文化的ヘゲモニーと呼ばれる。

 

変な問題ですね。

 

こんな問題は必ずしも正解できなくても良いですが,冷静に読めば,正解できる可能性を高めることができることを教えてくれる問題です。

 

それでは,解説です。

 

1 身体的振る舞いや家財道具,獲得した制度資格など文化的要素を帯びるものが本人や家族で蓄積・継承されて,文化現象や社会的格差を再生産することがあり,それらは文化遺産と呼ばれる。

 

何のことを言っているのか,わからないという人が多かったのではないかと思います。

 

しかし,少なくとも文化遺産ではないということはわかるはずです。それで十分です。

 

文化遺産は,ユネスコの世界遺産の種類です。

 

身体的振る舞いや家財道具,獲得した制度資格など文化的要素を帯びるものが本人や家族で蓄積・継承されて,文化現象や社会的格差を再生産することこそが今日のテーマの文化資本です。

 

2 現代国家における支配と従属の関係は文化の側面にも見られ,ある国のメディア情報や商品・ライフスタイルの浸透を通じて,他国の慣習や価値観が支配されていくことは,文化帝国主義と呼ばれる。

 

これが正解です。

 

文化帝国主義は知らなくても帝国主義は知っていることでしょう。

 

帝国主義の文化版が文化帝国主義です。

 

知っていることを手掛かりにすれば,何とか意味がわかります。

 

諦めたら,その時点で終わります。

 

 

3 産業の変化を支える科学・技術の発展に伴い物質文化の展開は急速に進むが,政治・法律や教育など非物質文化は技術変動についていけず,変化の速度に時間的な違いが出てくることは,文化摩擦と呼ばれる。

 

何のことを述べているのかわからなくても,文化摩擦は知っているでしょう。

 

産業の変化を支える科学・技術の発展に伴い物質文化の展開は急速に進むが,政治・法律や教育など非物質文化は技術変動についていけず,変化の速度に時間的な違いが出てくることは,文化遅滞です。

 

文化遅滞は,以前は何度か出題されていましたが,この第22回が最後の出題となっています。そのため,とても古臭ささを感じます。

 

4 ある社会において中心的位置にある支配的文化に対して,異議を申し立てて批判や抵抗をし,それらとは異なる新たな価値を創造・提起していこうとする文化的な働きのことは,文化伝播と呼ばれる。

 

これも何だか変な文章です。

 

ある社会において中心的位置にある支配的文化に対して,異議を申し立てて批判や抵抗をし,それらとは異なる新たな価値を創造・提起していこうとする文化的な働きのことは,抵抗文化といいます。

 

5 ある文化には,個人のパーソナリティ同様,首尾一貫して統合的に理解できる思想や行動のパターンがあり,他の文化と比較しながらそれを類型化しようとする場合,文化的ヘゲモニーと呼ばれる。

 

これが最もわけがわからないものでしょう。

 

覚える必要性はまったくありませんが,ヘゲモニーとは「覇権」と訳されるものです。

 

文化的ヘゲモニーは,支配層によって文化や思想が牛耳られていることを意味した用語です。

 

<今日の一言>

 

今日の問題で出題されたもののうち,その後に出題されたことがあるのは,文化資本だけです。

 

しかし,文化資本が正解になったことは今までにはありません。

 

とは言っても,社会的格差を考えたときは重要な概念であることは間違いありません。

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