発達理論で最も有名なのは,エリクソンの発達理論でしょう。
ここでは詳しく紹介しませんが,乳児期から老年期まで8段階に分けて,それぞれに発達課題を設定していることが特徴です。
それでは,今日の問題です。
第22回・問題10 発達理論に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 ヴィゴツキー(Vygotsky,L.)によれば,子どもの知的発達には,独力で問題解決できる水準と,他者からの援肋などによって達成が可能な水準があると考えられる。
2 ピアジェ(Piaget,J.)によれば,感覚運動期→前操作期→具体的操作期→形式的操作期という段階を経て,運動能力は発達すると考えられる。
3 ゲゼル(Gesell,A.)によれば,個体の行動や能力などの発達は,個体内の神経生理学的成長よりも環境の影響を強く受けると考えられる。
4 ボウルビィ(Bowlby,J.)によれば,乳児の成人への接近や接触要求の行動は生得的なものではなく,学習による行動であると考えられる。
5 エリクソン(Erikson,E.)によれば,各発達段階で生じる欲求には階層性があり,各階層の欲求が順に満たされることで自己実現が可能になると考えられる。
難易度がかなり高い問題です。
この国試を受験した人の中で,正解できた人はそれほど多くはなかったのではと思います。
しかし,今見ると正解できる人は結構増えたのではないかと思います。
というのは,正解はこれだからです。
1 ヴィゴツキー(Vygotsky,L.)によれば,子どもの知的発達には,独力で問題解決できる水準と,他者からの援肋などによって達成が可能な水準があると考えられる。
ヴィゴツキーの発達理論は,この時のたった1回しか出題されたことがありません。
しかし,今なら参考書に書いてあるので,勉強することができます。
子どもの知的発達には,独力で問題解決できる水準と,他者からの援肋などによって達成が可能な水準がある,というのは「発達の最近接領域」といいます。
ほかの選択肢も確認します。
難しいですが,落ち着いて問題を読めば,手がかりが見えてくるように問題が設計されていることを意識してみたいと思います。
2 ピアジェ(Piaget,J.)によれば,感覚運動期→前操作期→具体的操作期→形式的操作期という段階を経て,運動能力は発達すると考えられる。
ピアジェの発達理論は,エリクソンと同じくらい重要なものです。
この選択肢の発達段階は間違っていませんが,発達するのは,知的能力です。
3 ゲゼル(Gesell,A.)によれば,個体の行動や能力などの発達は,個体内の神経生理学的成長よりも環境の影響を強く受けると考えられる。
発達理論には,環境優位説と成熟優位説,そしてその折衷である輻輳説があります。
環境優位説の提唱者は,ワトソンです。ワトソンは学習理論で有名ですが,環境優位説は,人は環境によってどんな人にもなると考えるものです。
成熟優位説の提唱者は,ゲゼルです。一卵性双生児の研究を通して,人の発達する時期は,DNA的に決まっていると論じました。
輻輳説の提唱者は,シュテルンです。輻輳説は,環境優位説と成熟優位説は相互にかかわっていると考えるものです。
ゲゼルは,成熟優位説の人なので,重要なのは,個体内の神経生理学的成長です。
4 ボウルビィ(Bowlby,J.)によれば,乳児の成人への接近や接触要求の行動は生得的なものではなく,学習による行動であると考えられる。
ボウルビィは,愛着理論(アタッチメント)を提唱した人です。
接触要求などの行動は,生まれ持った生得的なものだと考えます。
このような行動を行うことで,親の養育行動を促すのです。
愛着理論は,生物が生きていくためにDNAに組み込まれているものを明らかにしたものだと言えるでしょう。
赤ちゃんがかわいらしい顔をしているベビーシェマも同様です。
「チコちゃんに叱られる」によると,ネコがかわいいのは,大きくなってもベビーシェマのままだからということです。
5 エリクソン(Erikson,E.)によれば,各発達段階で生じる欲求には階層性があり,各階層の欲求が順に満たされることで自己実現が可能になると考えられる。
自己実現という用語から,マズローのことを述べているものだろうと推測することが可能です。
エリクソンの発達理論で示されている発達課題は,必ず覚えておきたいです。