ソーシャルワークにおけるネットワーキングとは,福祉課題を解決するために様々な機関,住民たちが連携することをいいます。
誰かが「それは良いことだ,やろう」と思っても,人を動かすのは,決して簡単なことではありません。
社会福祉士が連携の専門家だとしたら,ネットワーキングは,社会福祉士が最も得意としなければならないソーシャルワークスキルかもしれません。
今日取り上げる問題は,根回しの重要性を考えさせるような出題となっています。
問題としては決して難しい問題ではかもしれませんが,なかなか良い出題だと思います。
それでは,今日の問題です。
第30回・問題40 事例を読んで,住民による支え合いの地域づくりを目指した対策のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
N市は戦後,大都市の郊外に発展した地域で,近年,高齢化が進展し,高齢者の単身世帯が増加している。そこで,N市の社会福祉協議会は民生委員協議会と協力して,65歳以上の一人暮らし高齢者の生活実態調査を行った。その結果,近隣による見守りを希望する高齢者が多数いることが分かった。社会福祉協議会のソーシャルワーカー(社会福祉士)はその結果を基に,自治会に見守りを依頼したところ,自治会長は,事前に相談がなかったことを問題にした。そこで,ソーシャルワーカーは,次の対策を考えた。
1 見守りの対象を75歳以上の高齢者に引き上げる。
2 地域包括支援センターの専門職による連携で見守る。
3 新聞配達業者,郵便局,生活協同組合などに協力を呼び掛ける。
4 市に対して,見守り活動を直接運営するように働き掛ける。
5 「見守りを考える会」の発足に向けて,自治会を含む関係団体と再度協議を行う。
「なんて面倒な自治会長なのだろうと」思う人もいるでしょう。
しかし,自治会長が問題にしているのは,見回りの協力ではなく,事前に相談がなかったことです。
筋さえ通せば,何とかなりそうです。
交渉力のつけ方については専門家に譲るとして,落としどころ(つまり妥協点)を想定しない交渉はあり得ません。
WIN-WINの関係性です。
自治会長 → 事前に相談がなかったことを問題にしている。
ソーシャルワーカー → 自治会に見回りをしてほしい。
ここで頭の柔らかさが交渉力に関連するように思います。
何度も言いますが,自治会長は,見守りの協力の是非を問題にしているわけではありません。
そこに気が付けば,この場面でのベスト対応は
5 「見守りを考える会」の発足に向けて,自治会を含む関係団体と再度協議を行う。
ということになります。
しかし,これでは
3 新聞配達業者,郵便局,生活協同組合などに協力を呼び掛ける。
は完全に不適切とは言い切れません。
そこで,この問題では「住民による支え合いの地域づくりを目指した対策」というように答えを限定しているのです。
この大前提を忘れると,選択肢3を選んでしまう恐れがあります。
<今日の一言>
この問題は,それほど難しい問題ではありませんが,ネットワーキングの難しさを考えさせてくれる問題です。
絶対に忘れてはならないのは,正しいと思うことを実践するのは簡単ではないことです。
そのため根回しの重要性を考えさせるために出題したと思います。