2021年5月9日日曜日

ネットワーキングは難しい

ソーシャルワークにおけるネットワーキングとは,福祉課題を解決するために様々な機関,住民たちが連携することをいいます。


誰かが「それは良いことだ,やろう」と思っても,人を動かすのは,決して簡単なことではありません。


社会福祉士が連携の専門家だとしたら,ネットワーキングは,社会福祉士が最も得意としなければならないソーシャルワークスキルかもしれません。


今日取り上げる問題は,根回しの重要性を考えさせるような出題となっています。


問題としては決して難しい問題ではかもしれませんが,なかなか良い出題だと思います。


それでは,今日の問題です。


第30回・問題40 事例を読んで,住民による支え合いの地域づくりを目指した対策のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 N市は戦後,大都市の郊外に発展した地域で,近年,高齢化が進展し,高齢者の単身世帯が増加している。そこで,N市の社会福祉協議会は民生委員協議会と協力して,65歳以上の一人暮らし高齢者の生活実態調査を行った。その結果,近隣による見守りを希望する高齢者が多数いることが分かった。社会福祉協議会のソーシャルワーカー(社会福祉士)はその結果を基に,自治会に見守りを依頼したところ,自治会長は,事前に相談がなかったことを問題にした。そこで,ソーシャルワーカーは,次の対策を考えた。

1 見守りの対象を75歳以上の高齢者に引き上げる。

2 地域包括支援センターの専門職による連携で見守る。

3 新聞配達業者,郵便局,生活協同組合などに協力を呼び掛ける。

4 市に対して,見守り活動を直接運営するように働き掛ける。

5 「見守りを考える会」の発足に向けて,自治会を含む関係団体と再度協議を行う。



「なんて面倒な自治会長なのだろうと」思う人もいるでしょう。


しかし,自治会長が問題にしているのは,見回りの協力ではなく,事前に相談がなかったことです。


筋さえ通せば,何とかなりそうです。


交渉力のつけ方については専門家に譲るとして,落としどころ(つまり妥協点)を想定しない交渉はあり得ません。


WIN-WINの関係性です。


自治会長 → 事前に相談がなかったことを問題にしている。


ソーシャルワーカー → 自治会に見回りをしてほしい。


ここで頭の柔らかさが交渉力に関連するように思います。


何度も言いますが,自治会長は,見守りの協力の是非を問題にしているわけではありません。


そこに気が付けば,この場面でのベスト対応は


5 「見守りを考える会」の発足に向けて,自治会を含む関係団体と再度協議を行う。


ということになります。


しかし,これでは


3 新聞配達業者,郵便局,生活協同組合などに協力を呼び掛ける。


は完全に不適切とは言い切れません。


そこで,この問題では「住民による支え合いの地域づくりを目指した対策」というように答えを限定しているのです。


この大前提を忘れると,選択肢3を選んでしまう恐れがあります。


<今日の一言>


この問題は,それほど難しい問題ではありませんが,ネットワーキングの難しさを考えさせてくれる問題です。


絶対に忘れてはならないのは,正しいと思うことを実践するのは簡単ではないことです。


そのため根回しの重要性を考えさせるために出題したと思います。

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