2022年11月30日水曜日

バウチャーの長所

今回もバウチャーです。


今日の問題を解く前に前回の復習です。

https://fukufuku21.blogspot.com/2022/11/blog-post_29.html


それでは今日の問題です。


第33回・問題26 福祉政策における資源供給の在り方に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 現金よりも現物で給付を行う方が,利用者の選択の自由を保障できる。

2 バウチャーよりも現金で給付を行う方が,利用者が本来の目的以外に使うことが生じにくい。

3 日本の介護保険法における保険給付では,家族介護者に対して現金給付が行われることはない。

4 負の所得税は,低所得者向けの現金給付を現物給付に置き換える構想である。

5 普遍主義的な資源の供給においては,資力調査に基づいて福祉サービスの対象者を規定する。


3年間の過去問だけでは合格できる情報量にはまったく足りません。


この出題の前にバウチャーが出題されたのは,なんと10年前の第24回です。その前は第21回に出題されています。


3年間の過去問をしっかりやれば正解できると言う人がいますが,それは完全に過去の話です。


さて,この問題の正解は,選択肢3です。

3 日本の介護保険法における保険給付では,家族介護者に対して現金給付が行われることはない。


国試には


言い切り表現に正解少なし


という傾向がありますが,制度は言い切っていても正解になることがあります。


ドイツの介護保険には家族介護者に対する現金給付がありますが,日本の介護保険はこの制度を採用していません。


なぜなら,介護保険は,それまで家族が担っていた介護を社会化することが目的にあったからです。


それではほかの選択肢も解説します。


1 現金よりも現物で給付を行う方が,利用者の選択の自由を保障できる。


利用者の選択の自由を保障できるのは,現金給付です。


2 バウチャーよりも現金で給付を行う方が,利用者が本来の目的以外に使うことが生じにくい。


利用者が本来の目的以外に使うことが生じにくいのは,バウチャーです。


4 負の所得税は,低所得者向けの現金給付を現物給付に置き換える構想である。


負の所得税とは,所得控除される金額までに至らなかったその差額分を給付するものです。


5 普遍主義的な資源の供給においては,資力調査に基づいて福祉サービスの対象者を規定する。


普遍主義では,資力調査を用いません。

資力調査に基づいて資源を配分するのは,選別主義です。


普遍主義と選別主義では,どちらが優れているのかということはありません。


ニーズに合わせて適切な配分方法が異なるからです。選別主義のほうが普遍主義に比べると資源を厚く配分することができます。

2022年11月29日火曜日

バウチャーとは

バウチャーとは,金券といった意味ですが,政策手法としてのバウチャーは,使い道を決めて給付する補助金をいいます。


金銭給付は何に使うかは給付を受けた者が自由に決めることができるのに対し,バウチャーは,利用券といったような形で給付されるので,目的以外には利用することができません。


施設等に補助金を出すのではなく,バウチャーの形にすれば,ほど良い競争が生じます。


何に使うかは決まっていますが,どこで使うかは個人の自由だからです。


それでは今日の問題です。


第24回・問題28 福祉政策の手法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 準市場(擬似市場)では,営利事業者の参入が認められず,非営利の事業者が価格に関する規制を受けずに相互に自由に競争する。

2 特定補助金は,自治体の福祉行政の独自の展開を促進する有効な手段であることから,我が国では,福祉行政の地方分権化の推進のために,一貫して特定補助金の拡大が図られてきた。

3 バウチャーの支給という方式の長所は,現物給付方式の場合よりも,受給者に対して物品や事業者の選択を広く認めることができる一方で,現金給付方式のように支給されたお金が他の目的のために使われてしまうということが起きない点にある。

4 ニューパブリックマネジメント(NPM)の考え方では,新自由主義的な改革の行き過ぎの反省に基づき,民営化した施設の再公営化や,効率性より公平性を重視した行政運営を推進すべきものとされる。

5 社会福祉の計画化の一環として老人福祉法では,市町村は在宅福祉サービス整備計画を,都道府県は施設福祉サービス整備計画を算定するものとされ,市町村と都道府県の分担関係が明らかにされている。


難易度が高い問題ですが,今なら正解できるでしょう。正解はバウチャーである選択肢3です。


3 バウチャーの支給という方式の長所は,現物給付方式の場合よりも,受給者に対して物品や事業者の選択を広く認めることができる一方で,現金給付方式のように支給されたお金が他の目的のために使われてしまうということが起きない点にある。


バウチャーの特徴を端的に示している文章です。


それでは,ほかの選択肢も確認します。


1 準市場(擬似市場)では,営利事業者の参入が認められず,非営利の事業者が価格に関する規制を受けずに相互に自由に競争する。


準市場(疑似市場・擬似市場)が出題されたら,わが国の介護保険を思い起こします。


営利企業の参入が認められ,価格は介護報酬という公定価格です。


2 特定補助金は,自治体の福祉行政の独自の展開を促進する有効な手段であることから,我が国では,福祉行政の地方分権化の推進のために,一貫して特定補助金の拡大が図られてきた。


特定補助金とは,国が使い道を決めて,地方公共団体に交付するものです。

地方分権化の中で縮小されてきています。


4 ニューパブリックマネジメント(NPM)の考え方では,新自由主義的な改革の行き過ぎの反省に基づき,民営化した施設の再公営化や,効率性より公平性を重視した行政運営を推進すべきものとされる。


ニューパブリックマネジメント(NPM)は,新自由主義的な改革の中で生まれてきたもので,行政に民間の経営手法を取り入れたものです。


5 社会福祉の計画化の一環として老人福祉法では,市町村は在宅福祉サービス整備計画を,都道府県は施設福祉サービス整備計画を算定するものとされ,市町村と都道府県の分担関係が明らかにされている。


このような分担はありません。

2022年11月28日月曜日

プログラム評価と評価の構成要素

プログラム評価とは,目標を達成するためのプログラムの実施とその結果の因果関係を評価するものです。

 

プログラム評価の主な構成要素

ニーズ評価

プログラムの対象者のニーズを評価する。

セオリー評価

プログラムが目的を達成するものとして適切に設計されているかを評価する。

プロセス評価

プログラムを実施したプロセス(過程)を評価する。

アウトカム・インパクト評価

プログラムのアウトカム(成果)やインパクト(効果)を評価する。

効率性評価

投入したコスト(費用)に対して十分な成果があったのかを評価する。

 

今日の問題は2つあります。

 

まずは1問目です。

 

30回・問題29 福祉サービスのプログラム評価の方法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 サービスを提供する群と提供しない群に分けて比較する評価は行われない。

2 評価者は,評価指標の策定に当たり,利害関係者と協議してはならない。

3 評価の次元は,投入,過程,産出,成果,効率性である。

4 プログラムの効率性は,産出された物やサービスの量のことである。

5 科学的な評価研究の結果を,実際のプログラム運営管理に活用してはならない。

 

プログラム評価の内容がわからなくても消去法で正解できそうな内容です。

 

それでは,解説です。

 

1 サービスを提供する群と提供しない群に分けて比較する評価は行われない。

 

サービスを提供する群と提供しない群に分けて比較するのは,集団比較実験計画法といいます。

 

しかし,介入が必要なのに適切な介入をしないのは,倫理的に問題があるので,プログラムが終了した後には,本来必要だったサービスを提供することが必要です。

 

2 評価者は,評価指標の策定に当たり,利害関係者と協議してはならない。

 

プログラム評価は,抜き打ちの監査とは異なります。プログラム評価のうちのプロセス評価は,サービスの提供過程も評価します。

 

その時に,評価対象の人と協議して評価指標を作るとより適切なものとなります。

 

3 評価の次元は,投入,過程,産出,成果,効率性である。

 

とても難しいですが,これが正解です。

 

投入:プログラムに投入する予算・マンパワーなど

過程:プログラムの実施過程

産出:プログラムの実施によって得られたもの

成果:プログラムの目標に対する達成度合い

効率性:投入したものと成果の効率

 

こんな感じになるでしょう。

 

4 プログラムの効率性は,産出された物やサービスの量のことである。

 

産出された物やサービスの量のことは,産出にあたります。

 

5 科学的な評価研究の結果を,実際のプログラム運営管理に活用してはならない。

 

科学的に得られた評価手法は,妥当性の高いものと言えるので,活用できるなら活用します。

 

それでは,もう1問です。

 

34回・問題41 事例を読んで,N市社会福祉協議会の職員であるC社会福祉士が企画したプログラム評価の設計に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 N市社会福祉協議会は,当該年度の事業目標に「認知症の人に優しいまちづくり」を掲げ,その活動プログラムの一つとして認知症の人やその家族が,地域住民,専門職と相互に情報を共有し,お互いを理解し合うことを目指して,誰もが参加でき,集う場である「認知症カフェ」の取組を推進してきた。そこで,C社会福祉士は,プログラム評価の枠組みに基づいて認知症カフェの有効性を体系的に検証することにした。

1 認知症カフェに参加した地域住民が,認知症に対する理解を高めたかについて検証するため,ニーズ評価を実施する。

2 認知症カフェの取組に支出された補助金が,十分な成果を上げたかについて検証するため,セオリー評価を実施する。

3 認知症カフェが,事前に計画された内容どおりに実施されたかを検証するため,プロセス評価を実施する。

4 認知症カフェに参加する認知症の人とその家族が,認知症カフェに求めていることを検証するため,アウトカム評価を実施する。

5 認知症カフェが,目的を達成するプログラムとして適切に設計されていたかを検証するため,効率性評価を実施する。

 

この問題は,1問目よりもきっちり出題されています。4年の期間のうちにプログラム評価の内容が定まってきたのかもしれません。

 

それでは解説です。

 

1 認知症カフェに参加した地域住民が,認知症に対する理解を高めたかについて検証するため,ニーズ評価を実施する。

 

認知症カフェに参加した地域住民が,認知症に対する理解を高めたかについて検証するのは,アウトカム・インパクト評価です。

 

2 認知症カフェの取組に支出された補助金が,十分な成果を上げたかについて検証するため,セオリー評価を実施する。

 

認知症カフェの取組に支出された補助金が,十分な成果を上げたかについて検証するのは,効率性評価です。

 

3 認知症カフェが,事前に計画された内容どおりに実施されたかを検証するため,プロセス評価を実施する。

 

これが正解です。プロセス評価はわかりやすいです。これを正解にしてくれたのは有難い問題だったと言えます。

 

4 認知症カフェに参加する認知症の人とその家族が,認知症カフェに求めていることを検証するため,アウトカム評価を実施する。

 

認知症カフェに参加する認知症の人とその家族が,認知症カフェに求めていることを検証するのは,ニーズ評価です。

 

5 認知症カフェが,目的を達成するプログラムとして適切に設計されていたかを検証するため,効率性評価を実施する。

 

認知症カフェが,目的を達成するプログラムとして適切に設計されていたかを検証するのは,セオリー評価です。

2022年11月27日日曜日

プロセス評価とは

近年の国家試験では,かなり頻回に「評価」が問われています。

やりっぱなしはよくないということなのでしょう。


さて,今日のテーマは「プロセス評価」です。


プロセス評価は,政策やサービスのプログラムが提供される過程を評価するものです。


それでは,今日の問題です。


第27回・問題29 福祉サービスの評価に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 プロセス評価は,プログラムが適切な手順や方法で実施されたかどうかに着目して行われる。

2 評価において,サービス利用者の主観は排除すべきものである。

3 事業が,サービスの量や結果にかかわらず,以前よりも少ない費用で実施されるとき,その事業は効率的と評価できる。

4 パブリックコメントとは,地方自治体が自らの実施した福祉サービスの評価結果を公表する制度である。

5 第三者評価制度は,法令に定められた福祉サービスの運営基準が遵守されているかを確認するための仕組みである。


この科目が嫌いな人にとっては本当に嫌になるような問題かもしれません。


正解は,選択肢1です。

1 プロセス評価は,プログラムが適切な手順や方法で実施されたかどうかに着目して行われる。


いろいろな評価がありますが,そのうちでもプロセス評価は,わかりやすいものではないかと思います。


プロセスは,「過程」の意味なので,過程を評価することが直観的にわかります。


それではほかの選択肢も確認します。


2 評価において,サービス利用者の主観は排除すべきものである。


サービス利用者の主観は,評価では重要です。

だからこそ,プロセス評価が必要です。


結果は同じであっても,サービスを提供する過程に不適切なことがあると,満足度は下がります。


3 事業が,サービスの量や結果にかかわらず,以前よりも少ない費用で実施されるとき,その事業は効率的と評価できる。


一読すると適切であるように思う人もいるかもしれません。


しかし,効率的だと評価するためには,以前よりも少ない費用でサービスの量や結果が以前と同じであることが必要です。


4 パブリックコメントとは,地方自治体が自らの実施した福祉サービスの評価結果を公表する制度である。


パブリックコメントとは政策を作る段階で,市民から意見を求めることをいいます。


国のパブリックコメントは,政府の行政情報の検索・案内サービスである「e-Gov」(イーガブ)に掲載されています。

https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public


5 第三者評価制度は,法令に定められた福祉サービスの運営基準が遵守されているかを確認するための仕組みである。


第三者評価では,法令に定められた福祉サービスの運営基準が遵守されているかを確認することも行いますが,それだけにとどまらず,サービスの提供内容なども評価します。


2022年11月26日土曜日

疑似市場(準市場)とは

疑似市場(準市場)とは,公的サービスの提供において部分的に市場メカニズムを取り入れた方式の総称です。

 

疑似市場が問われた場合,日本の介護保険制度を思い浮かべることをおすすめします。

 

介護保険制度では,市場に参入することは比較的自由にできますが,提供するサービスの価格は介護報酬という公定価格です。

 

それでは今日の問題です。

 

28回・問題29 福祉サービスにおける準市場(疑似市場)に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

1 利用者のサービス選択を支援する仕組みが必要である。

2 サービスの質のモニタリングは不要である。

3 同一地域におけるサービスの供給者は1つに限定される。

4 営利事業者やNPOが参入できないよう,規制される。

5 自治体が,福祉サービスの購入者となることが前提である。

 

さて,介護保険制度を思い浮かべたでしょうか。

 

それで,消去できる選択肢があります。

2 サービスの質のモニタリングは不要である。

3 同一地域におけるサービスの供給者は1つに限定される。

4 営利事業者やNPOが参入できないよう,規制される。

 

残るは2つです。

1 利用者のサービス選択を支援する仕組みが必要である。

5 自治体が,福祉サービスの購入者となることが前提である。

 

介護保険制度を考えたとき,介護サービスの公表制度や第三者評価制度があります。

 

これらは,「利用者のサービス選択を支援する仕組み」に当たります。

 

そういうことで,正解は選択肢1です。

1 利用者のサービス選択を支援する仕組みが必要である。

 

繰り返しになりますが,利用者のサービス選択を支援する仕組みとして,介護保険制度では介護サービスの公表制度や第三者評価制度が設けられています。

 

5 自治体が,福祉サービスの購入者となることが前提である。

 

これがどうもよくわからないものでしょう。

 

国家試験を解説しようと思うと,答えは分かるのだけれど,解説に困るというものがあります。

 

ネットで調べてみると,準市場で福祉サービスを購入するのは,イギリスの「国民保健サービス及びコミュニティケア法」のように,原則は中央政府であるようです。

 

イギリスでは,中央政府がサービスを購入することで財政に責任を持ち,民間がサービスを提供する,というサービスの購入者と提供者を分離させました。

 

ということで,準市場では中央政府がサービスを購入するのが前提だとしておきましょう。

しかしおそらくもう二度と出題されないように思います。

2022年11月25日金曜日

公共財の特徴は,非競合性と非排除性です

公共財とは,道路や公園など,多くの人が利用可能なもののことです。


公共財の特徴


〈非競合性〉

 非競合性とは,誰かかが利用していても他の人も利用できることをいいます。


〈非排除性〉

 非排除性とは,特定の人に提供しても,他の人も利用できることをいいます。


それでは,今日の問題です。


第22回・問題30 福祉政策と市場とのかかわりに関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 福祉政策における公共財の供給とは,経済社会における「家計の失敗」を原因として概念化されたものであり,あらゆる供給セクターを通じて行われる福祉サービス供給の総称である。

2 公共財は,競合性と排除性によって特徴づけられるので,必要な人があまねく消費するためには各人に公平に分配するための福祉政策が必要になる。

3 価値財は教育サービスのように公的に提供されるものもあるが,基本的には個人の価値観に基づいて消費されるので市場における供給が基本であり,公的供給は二次的である。

4 福祉政策は,必要な人が市場を通じて財やサービスを適正な価格で入手できるように,独占禁止などの必要な税制を行い適正な競争環境を整えることを主な目的としている。

5 公的サービスの提供において部分的に市場メカニズムを取り入れた方式を総称して疑似市場といい,我が国の介護保険制度における介護サービスの提供にはこの疑似市場の要素が導入されている。


今から比べると文章が長い問題です。


以前は,国家試験の問題の文字数は潤沢に使えたようです。


今はこんなに長くはないですが,それでも最も少なかった第30回に比べると格段に長くなってきているので,問題を早く正確に読むという訓練は欠かせません。


時間切れとなって,最後の科目はマークできずに不合格になってしまうというのは悲しすぎます。


それでは解説です。


1 福祉政策における公共財の供給とは,経済社会における「家計の失敗」を原因として概念化されたものであり,あらゆる供給セクターを通じて行われる福祉サービス供給の総称である。


なんだかよくわからない文章です。


前述のように今はこんなに長い文章では出題されないので,もう少しシンプルに考えることができます。


公共財がたとえわからなくても,「公共」というイメージから「あらゆる供給セクターを通じて行われる福祉サービス供給」は,公共財とは言わないだろうと推測することができます。


2 公共財は,競合性と排除性によって特徴づけられるので,必要な人があまねく消費するためには各人に公平に分配するための福祉政策が必要になる。


公共財の特徴は,前説のように,非競合性と非排除性です。


3 価値財は教育サービスのように公的に提供されるものもあるが,基本的には個人の価値観に基づいて消費されるので市場における供給が基本であり,公的供給は二次的である。


価値財は,義務教育のように,政府が重要だと認めたものを公的に供給するものをいいます。


市場に供給を任せると財の供給が広く行き渡らずデメリットがあると考えられられる際に,公的に供給します。


トピック的なもので価値材の例を挙げると,新型コロナワクチンの接種です。市場に供給を任せると,接種が行き渡らないために公費で実施しています。


4 福祉政策は,必要な人が市場を通じて財やサービスを適正な価格で入手できるように,独占禁止などの必要な税制を行い適正な競争環境を整えることを主な目的としている。


福祉政策の中には,適正な競争環境を整えることもあるかもしれませんが,それは手段であり目的ではありません。


福祉政策の主な目的は,福祉を必要とする人に対して,適切なサービスを提供できるようにすることです。


ただし,福祉とは社会福祉のことだけではなく,もっと広い概念です。


5 公的サービスの提供において部分的に市場メカニズムを取り入れた方式を総称して疑似市場といい,我が国の介護保険制度における介護サービスの提供にはこの疑似市場の要素が導入されている。


これが正解です。


疑似市場(準市場)とは,公的サービスの提供において部分的に市場メカニズムを取り入れた方式の総称です。


疑似市場の例には,出題された介護サービスのほかに医療サービスなどもあります。


市場への参入は自由ですが,提供されるサービスの価格は,介護報酬,診療報酬という公定価格となっています。


この部分が疑似市場です。


介護サービスの利用は,介護保険以前は自治体に相談して行政処分として利用するサービスを決定するという措置制度でした。


介護保険制度は,利用者は事業者と直接契約して利用します。そのため,利用者が事業者を選択するための情報が必要となります。


その辺りのことは,次回に詳しく取り組みたいと思います。

2022年11月24日木曜日

イギリスの国民保健サービスおよびコミュニティケア法

イギリスは,ベヴァリッジ報告以来,福祉国家として発展していきましたが,その一方で,次第に国際的な競争力が低下していきました。


そこに登場してきたのが鉄の女と称されたサッチャー首相です。


サッチャー首相が目指したのは,国が社会保障に使うお金を削減する「小さな政府」です。


サッチャー首相に対する評価は未だに分かれますが,時代が彼女を必要としていたことは間違いないことでしょう。


1988年に出されたグリフィス報告は,サッチャー首相の方針と必ずしも一致していたものではないようですが,1990年に,「国民保健サービス及びコミュニティケア法」として実現しています。


グリフィス報告が提言したのは,

・国は財政の責任を持つ。

・具体的なサービスは,公的部門だけではなく民間部門も担う。


といったことです。


「国は財政の責任を持つ」という点が,「小さな政府」を目指すサッチャー首相の方針と異なると言えますが,ともあれ,この提言をもとに「国民保健サービス及びコミュニティケア法」(NHS及びコミュニティケア法)として結実しています。


多様な主体がサービスを提供することになるので,コミュティケアにケアマネジメントという手法が取り入れられたことも特徴の一つです。


それでは,今日の問題です。


第23回・問題27 海外の社会保障・福祉に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 アメリカでは1996年に,「就労から福祉」へという変化をもたらすことを目的として,それまでのAFDC(要扶養児童家族扶助)が廃止されTANF(貧困家族一時扶助)に移行した。

2 スウェーデンでは,1992年のエーデル改革によってそれまで市が担当していた社会福祉サービスを県に移管し,医療サービスと実施責任を一体化した。

3 イギリスの1990年「国民保健サービス及びコミュニティケア法」では,サービスの購入者(財政)と提供者を分離し,民間のサービスを積極的に活用することが盛り込まれた。

4 韓国では2008年から,税方式に基づく「老人長期療養保障法」が施行された。

5 タイでは2002年に,新たな医療保険制度として,受診時に自己負担金30バーツを課す「30バーツ医療制度」が創設された。


かなりの難問です。


この当時の合格基準点が近年よりもずっと低かった理由がよくわかるような気がします。


さて,この問題の正解は,選択肢3です。


3 イギリスの1990年「国民保健サービス及びコミュニティケア法」では,サービスの購入者(財政)と提供者を分離し,民間のサービスを積極的に活用することが盛り込まれた。


国(中央政府)は財政に責任を持ちますが,民間がサービスを提供することで市場原理が働き,その結果として財政の引き締めが期待できます。


どこの国でも公的サービスはコストが高くなるもののようです。


それでは,ほかの選択肢も確認します。


1 アメリカでは1996年に,「就労から福祉」へという変化をもたらすことを目的として,それまでのAFDC(要扶養児童家族扶助)が廃止されTANF(貧困家族一時扶助)に移行した。


AFDCを廃止してTANFを創設したのは適切ですが,「就労から福祉へ」が間違っています。


正しくは,「福祉から就労へ」です。


ものすごい引っ掛けだと思いません。


2 スウェーデンでは,1992年のエーデル改革によってそれまで市が担当していた社会福祉サービスを県に移管し,医療サービスと実施責任を一体化した。


スウェーデンのエーデル改革は,高齢者や障害者の長期にわたる医療ニーズへの対応を日本の都道府県にあたるランスティング(現在のレギオン)から,日本の市町村にあたるコミューンに権限移譲したものです。


この改革によって,医療サービスはランスティング(レギオン)が担い,福祉サービスはコミューンが担うという役割分担ができました。


4 韓国では2008年から,税方式に基づく「老人長期療養保障法」が施行された。


韓国の「老人長期療養保障法」は,介護保険制度の根拠法です。


つまり税方式ではなく,社会保険方式だということになります。


5 タイでは2002年に,新たな医療保険制度として,受診時に自己負担金30バーツを課す「30バーツ医療制度」が創設された。


タイの医療保障制度である「30バーツ医療制度」は,社会保険方式ではなく,社会扶助方式を採用しています。


〈今日の一言〉


この問題の難易度が高い理由は

韓国の老人長期療養保障法

タイの30バーツ医療制度


という聞き慣れないものが出題されていることが影響しています。


しかし,多くの場合,こういった聞き慣れないものを出題するのは,数合わせのためです。


今回の社会福祉士の国家試験では5つの選択肢を必要とします。


新しいカリキュラムによる国家試験のあり方検討会では4択も検討されましたが,今後も5択は継続するようです。


聞き慣れないものの多くは数合わせのための出題なので,それが正解になることは少ないことを覚えておきたいです。

2022年11月23日水曜日

スウェーデンのエーデル改革

スウェーデンは,高福祉・高負担の国として知られます。


しかし,近年の社会支出の国際比較では,実はフランスのほうが高くなっています。


<社会支出の比較>


フランス > スウェーデン > ドイツ > イギリス > 日本 > アメリカ


日本はかなり低い位置にあることがわかります。


さて,今回のテーマは「スウェーデンのエーデル改革」です。


エーデル改革は,高齢者や障害者の長期にわたる医療ニーズへの対応を日本の都道府県にあたるランスティングから,日本の市町村にあたるコミューンに権限移譲したものです。


この改革によって,医療サービスはランスティングが担い,福祉サービスはコミューンが担うという役割分担ができました。


なお,ランスティングは2019年にレギオンという名前に変わっています。コミューンは現在もそのままの名称です。


それでは今日の問題です。



第30回・問題27 各国の福祉改革に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 スウェーデンのエーデル改革は,高齢者の保健医療は広域自治体,介護サービスはコミューンが実施責任を負うとする改革であった。

2 イギリスのブレア内閣の社会的排除対策は,財政の効率化,市場化,家族責任など「大きな社会」理念に基づくものであった。

3 日本の介護保険制度は,給付に要する費用の全額を保険料の負担として,財源の安定を目指した。

4 ドイツの介護保険制度は,障害者の介護サービスを除外して創設された。

5 アメリカのTANF(貧困家族一時扶助)は,「就労から福祉へ」の政策転換であった。


保健医療,介護サービスと言い換えられているので,少し戸惑いましたが,正解は確実に選択肢1です。


1 スウェーデンのエーデル改革は,高齢者の保健医療は広域自治体,介護サービスはコミューンが実施責任を負うとする改革であった。


この問題が出題された時,なぜランスティングと出題したのかが不思議でしたが,1990年代後半から,ランスティングをレギオンに移行させる実験が行われ,2019年に完全に移行したようです。


これではランスティングと出題するわけにはいきません。


それでは,このほかの選択肢も確認します。


2 イギリスのブレア内閣の社会的排除対策は,財政の効率化,市場化,家族責任など「大きな社会」理念に基づくものであった。


イギリスの政策は,サッチャー首相によるものとブレア首相によるものが出題されます。


大きな政府は,サッチャー政権以前のイギリスです。


サッチャー首相は,小さな政府を目指しました。


ブレア首相は,ブレーンであるギデンズの政策を取り入れ,大きな政府でも小さな政府でもなく,「第三の道」を目指しました。


3 日本の介護保険制度は,給付に要する費用の全額を保険料の負担として,財源の安定を目指した。


ドイツの介護保険制度は,公費を用いず,全額を保険料で運営していますが,日本の介護保険制度は,保険料だけではなく,公費を半分使って運営しています。


4 ドイツの介護保険制度は,障害者の介護サービスを除外して創設された。


日本の介護保険制度は,ドイツを参考にして作られましたが,ドイツとの相違点はいくつも見られます。


ドイツの介護保険制度は,日本と異なり,高齢者・障害者,さらには年齢にかかわらず,介護ニーズがある人が利用できる制度です。


5 アメリカのTANF(貧困家族一時扶助)は,「就労から福祉へ」の政策転換であった。


アメリカのTANFが出題されたのは,本当に久しぶりです。


TANFは,クリントン大統領がそれまであった「要扶養児童家庭扶助」(AFDC)を廃止して導入したものです。


国家試験の出題に従えば,AFDCは「福祉」,TANFは「就労」です。


TANFは,受給要件に職業訓練を受けることなどを義務づけたからです。AFDCはこういった要件がなかったために受給者が増大したという背景があります。

2022年11月22日火曜日

社会的排除と社会的包摂

今回は,社会的排除と社会的包摂について学びましょう。

 

社会的排除

社会的包摂

何かの理由があって社会から締め出される過程に着目した概念です。

1970年代から80年代にかけて,ヨーロッパで起きた失業から生じた貧困問題によって生じてきました。

社会的排除とは逆の概念で,誰もが社会から排除されない社会の実現を目指すものです。

 

 

 

それでは,今日の問題です。

 

26回・問題22 社会的排除と社会的包摂に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 社会的排除は,社会関係や活動に参加できない状態を意味するもので,排除に至るプロセスを問うものではない。

2 貧困は,生活資源の欠乏から生ずる生活困難を意味するものであって,社会関係上における人々の不利といった社会的排除とは無関係である。

3 社会環境のあり方が,人々のケイパビリティを制約したり,社会的排除による社会参加の機会のはく奪を生むことがある。

4 発達した福祉国家においては,人々は,生活保障のための諸制度から排除されることはない。

5 社会的包摂政策は,労働への参加など,社会参加の機会を促進するためのもので,所得の保障は含まない。

 

問われている内容は,なかなかの難問です。

 

しかし,正解するのはそれほど難しくありません。

 

正解は,選択肢3です。

3 社会環境のあり方が,人々のケイパビリティを制約したり,社会的排除による社会参加の機会のはく奪を生むことがある。

 

内容がわからずとも,ほかの選択肢は消去できますし,この選択肢は選びやすいからです。

 

今後は,試験委員に対して支援を行うので,作問技術が低い問題に出会うことはあまりなくなることでしょう。

 

それでは改めて解説です。

 

1 社会的排除は,社会関係や活動に参加できない状態を意味するもので,排除に至るプロセスを問うものではない。

 

社会的排除は,社会関係や活動に参加できない状態を意味するものというのは適切ですが,排除に至るプロセスに着目しているところが特徴です。

 

2 貧困は,生活資源の欠乏から生ずる生活困難を意味するものであって,社会関係上における人々の不利といった社会的排除とは無関係である。

 

ブースやラウントリーらが貧困調査を実施した当時は,絶対的貧困の時代でした。

 

1960年代頃に貧困の再発見をしたティトマスは,相対的剥奪と概念を用いて,貧困を論じました。

 

この概念に基づくと,自分が生活している社会で一般的な社会生活を送ることができないと貧困となります。

 

そこから社会的排除に至ることは容易に想像できます。

 

3 社会環境のあり方が,人々のケイパビリティを制約したり,社会的排除による社会参加の機会のはく奪を生むことがある。

 

ケイパビリティとは,潜在能力を意味します。環境によって教育を受けられなければ,潜在能力が一つ欠けます。

 

女性や黒人の社会進出を認めない社会であれば,自由に仕事を選ぶこともできません。

 

このようにケイパビリティに制約を受けることになります。

 

それでも社会進出しようとすると,強制的に排除する力も発生するかもしれません。

 

4 発達した福祉国家においては,人々は,生活保障のための諸制度から排除されることはない。

 

これまで述べてきたように,社会的排除は,制度が高度に発達した福祉国家でも発生します。

 

5 社会的包摂政策は,労働への参加など,社会参加の機会を促進するためのもので,所得の保障は含まない。

 

稼働できる人ばかりだと労働の機会を促進することで社会的包摂は実現するかもしれません。

 

しかし,疾病,障害,老齢などで稼働できない人は,所得補償が必要です。

2022年11月21日月曜日

ベヴァリッジが根絶しようとしたもの

今回は,ベヴァリッジ報告を取り上げたいと思います。

 

ベヴァリッジは,5大巨悪(5つの巨人)を以下の方法で根絶することを考えました。

 

窮乏  社会保険制度

疾病  保健・医療制度

無知  教育・科学制度

不潔  住宅・環境制度

無為(怠惰)  労働・完全雇用制度


窮乏は,古くからある福祉ニーズです。

  

それまでのイギリスの救貧法や慈善組織協会(COS)は,生活に困窮する人を救済する救貧でした。

 

ベヴァリッジは,窮乏を社会保険制度で根絶しようと考えました。

 

社会保険制度は,防貧的に機能するので,ベヴァリッジは伝統的な救貧ではなく,防貧を目指していたことがわかると思います。

 

それでは今日の問題です。

 

27回・問題23 社会的リスクに関する次の記述のうち,「ベヴァリッジ報告」で想定されていなかったものを1つ選びなさい。

1 疾病により労働者の収入が途絶えるおそれ

2 勤務先の倒産や解雇により生計の維持が困難になるおそれ

3 老齢による退職のために,稼働収入が途絶えるおそれ

4 保育や介護の社会化が不充分なため,仕事と家庭の両立が困難になるおそれ

5 稼得者の退職や死亡により被扶養者の生活が困窮するおそれ

 

この問題を目にしたとき,何と面白い問題を作ったものだと感じたことを思い出します。

 

今改めて考えると,「タクソノミーⅡ型」に分類される問題です。

 

5大巨悪「窮乏」「疾病」「無知」「不潔」「無為(怠惰)」の知識を照らし合わせて,これらに当てはまらないものを考えます。

 

1 疾病により労働者の収入が途絶えるおそれ

2 勤務先の倒産や解雇により生計の維持が困難になるおそれ

3 老齢による退職のために,稼働収入が途絶えるおそれ

5 稼得者の退職や死亡により被扶養者の生活が困窮するおそれ

 

これらは,すべて「窮乏」に関連します。

 

正解は,選択肢4です。

4 保育や介護の社会化が不充分なため,仕事と家庭の両立が困難になるおそれ

 

5大巨悪には,ワークライフバランス(仕事と生活の調和)に関連しそうなものはありません。


この問題は,5大巨悪の詳しい内容がわからずとも正解できる可能性があります。ベヴァリッジ報告が出された1942年当時と現代社会で変わったものは何かを考えた場合,選択肢4がクローズアップされてくるからです。


なお,社会福祉士の国家試験にはまだ出題されたことがありませんが,仕事と家庭の両立の間で葛藤することをワーク・ファミリー・コンフリクトといいます。


公認心理師では,以下のような問題が出題されています。


第1回・追加 ワーク・ファミリー・コンフリクトとして、不適切なものを1つ選べ。

① 仕事が忙しすぎたり、家事・育児の負担が大きい。

② 徹夜で家族の看病をして、職場で居眠りをしてしまう。

③ 仕事で疲れ切ってしまい、家族に食事を作る気力が出ない。

④ 仕事で大事な会議がある日に、子どもが熱を出したため会議に出席できない。

⑤ 教師が、教師として自分の子どもにも接してしまい、親として接することが難しい。


正解は,選択肢1です。

選択肢1だけ,「仕事が忙しいこと」と「家事・育児の普段が大きいこと」を述べているもので,役割葛藤の内容が述べられていません。

2022年11月20日日曜日

タウンゼントはよく出題されます。

 試験対策の先生が「これはよく出題されます」と言うことがあります。このような話を聞くと,この「よく」というのは,出題回数が何回くらい以上だと「よく」と言えるのかと思います。


タウンゼントは,第4,10,14,19,20,23,26,27,30,34回に出題されています。


タウンゼントは,「超よく出題されます」と言えるでしょう。これを覚えずに何を覚えるのでしょう。


タウンゼントが提唱した「相対的剥奪」は,ブース,ラウントリーの絶対的貧困の概念と異なり,自分が生活している環境と比べて,劣っている場合に貧困となる相対的貧困に関連する概念です。


初めて国試に登場したのは,以下の問題です。


第4回・問題131 相対的剥奪(relative deprivation)の概念に関する次の記述のうち,正しいものに〇,誤っているものに×をつけた場合,その組み合わせとして正しいものを一つ選びなさい。

A 貧困理論で,P. B. タウンゼント(Townsend,P. B. )が提出した概念である。

B 社会で慣習になっているか,広く是認されている生活を営むのに必要な生活資源を欠いている状態である。

C 社会システム理論で,T.パーソンズ(Parsons,T.)が唱えた概念である。

D 人が自分の置かれている状態を,絶対的な水準ではなく,準拠集団との比較において劣っていると感じている状態である。


(組み合わせ)

 A B C D

1 〇〇〇×

2 〇〇×〇

3 〇×〇〇

4 ×〇〇×

5 ×〇×〇


今はない〇×式の組み合わせ問題です。選択肢C以外はすべて正しいと考えられるので,正解は2ということになるでしょう。


これをもとに今日の問題です。


第30回・問題28 貧困に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 ポーガム(Paugam,S)は,車輪になぞらえて,経済的貧困と関係的・象徴的側面の関係を論じた。

2 タウンゼント(Townsend,P)は,相対的剥奪指標を用いて相対的貧困を分析した。

3 ピケティ(Piketty,T.)は,資産格差は貧困の世代間連鎖をもたらさないと論じた。

4 ラウントリー(Rowntree,B.S)は,ロンドン市民の貧困調査を通じて「見えない貧困」を発見した。

5 リスター(Lister,R.)は,社会的降格という概念を通して,現代の貧困の特徴を論じた。



多くの人が苦手とする人名問題です。


今となってはいずれの人名も参考書に書かれていると思いますが,ポーガムとピケティはこの時初めて出題した人名です。


リスターは,第27回に出題されて2回目の登場です。


しかし,そんなよく知らない人は正解ではなく,「よく出題されています」のタウンゼントが正解です。


社会福祉士の国家試験は,多くの人が思うほど意地悪ではない,というのが私たちチームfukufku21の見解です。


それでは解説です。


1 ポーガム(Paugam,S)は,車輪になぞらえて,経済的貧困と関係的・象徴的側面の関係を論じた。


ポーガムが論じたのは,社会的降格という概念を通した現代の貧困の特徴です。


2 タウンゼント(Townsend,P)は,相対的剥奪指標を用いて相対的貧困を分析した。


前説のとおり,これが正解です。


第4回国試の問題に従えば,相対的剥奪は,社会で慣習になっているか,広く是認されている生活を営むのに必要な生活資源を欠いている状態です。


自分が身を置いている社会によって貧困のレベルが異なるのが,相対的貧困です。


3 ピケティ(Piketty,T.)は,資産格差は貧困の世代間連鎖をもたらさないと論じた。


ピケティは知らずとも,貧困の世代間連鎖があるのは経験的にわかるはずです。


貧乏な家庭はそこから這い上がるのはなかなか難しいことです。


そのために,生活困窮者自立支援法によって「子どもの学習・生活支援事業」が実施されています。


4 ラウントリー(Rowntree,B.S)は,ロンドン市民の貧困調査を通じて「見えない貧困」を発見した。


ロンドン市民に対して貧困調査を行ったのは,ブースです。ラウントリーが行ったのは,ヨーク市です。


5 リスター(Lister,R.)は,社会的降格という概念を通して,現代の貧困の特徴を論じた。


リスターが論じたのは,貧困には,物質面の欠乏と非物質的な欠乏があることです。

2022年11月19日土曜日

資源の配分における貢献原則とニーズ原則~その2

今回も貢献原則とニーズ原則に関する問題です。


まずは,前回のものを復習です。

前回の問題

https://fukufuku21.blogspot.com/2022/11/blog-post_18.html


それでは今日の問題です。


第22回・問題26 福祉政策における需要とニーズ(必要)の概念に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 ニーズ(必要)に応じた分配とは,人々の出身,能力,貢献などとは無関係に,各人が必要とする資源を分配することを意味する。

2 福祉サービスの需要のうち,その存在が気付かれていないものを無効需要ないし潜在需要といい,気付かれているものを有効需要という。

3 必要即応の原則とは,福祉サービスは,年齢や性別など個人や世帯の相違を考慮して有効かつ適切に提供すべきことを意味し,社会福祉法で定められている。

4 福祉サービスに対する行政需要とは,国民の政府に対する要求や要望のうち,市場を通じて供給することが特に可能な消費者の需要のことである。

5 ブラッドショー(Bradsbaw,J.)のいう「エクスプレスト・ニード」とは,専門家が自らの経験に基づいて感じとったニーズ(必要)のことを意味する。


答えはすぐわかると思いますが,決して簡単なものではありません。


なぜなら,消去法では正解することができないからです。


それでは解説です。


1 ニーズ(必要)に応じた分配とは,人々の出身,能力,貢献などとは無関係に,各人が必要とする資源を分配することを意味する。


これが正解です。


ニーズ原則(必要原則)について述べたものです。


ニーズ原則(必要原則)は,必要としている人に資源を配分する原則で,社会扶助,特に公的扶助がその代表です。


2 福祉サービスの需要のうち,その存在が気付かれていないものを無効需要ないし潜在需要といい,気付かれているものを有効需要という。


これは,その後は一度も出題されていないものです。


潜在需要は,その存在が気付かれていないものであることは適切ですが,有効需要は,その存在が気付かれているだけではなく,利用することが可能なことをいいます。


3 必要即応の原則とは,福祉サービスは,年齢や性別など個人や世帯の相違を考慮して有効かつ適切に提供すべきことを意味し,社会福祉法で定められている。


必要即応の原則が定められているのは,生活保護法です。必要即応の原則は,保護の原理・原則の一つです。


4 福祉サービスに対する行政需要とは,国民の政府に対する要求や要望のうち,市場を通じて供給することが特に可能な消費者の需要のことである。


行政需要は,行政に対する要望のことです。


5 ブラッドショー(Bradsbaw,J.)のいう「エクスプレスト・ニード」とは,専門家が自らの経験に基づいて感じとったニーズ(必要)のことを意味する。


ブラッドショーのニーズの分類は,このように英語でも出題されるので要注意です。


エクスブレスト・ニードは,表出されたニードのことです。つまりニーズを感じ取るのは専門家ではなく,本人だということになります。その上で,ニーズを充足するために行動することが表出されたニードです。

2022年11月18日金曜日

資源の配分における貢献原則とニーズ原則

今回は,資源の配分における「貢献原則」と「ニーズ原則(必要原則)」を取り上げたいと思います。


貢献原則は,多く貢献した人に多くの資源を配分する原則です。


ニーズ原則(必要原則)は,必要としている人に資源を配分する原則です。


貢献原則は,社会保険,特に厚生年金がその代表です。

多く拠出した(つまり多く貢献した)人は,多く給付されます。


ニーズ原則(必要原則)は,社会扶助,特に公的扶助がその代表です。


拠出せずとも困窮の事実に基づいて(つまりニーズに応じて)給付されます。


どちらが優れていて,どちらが劣っているというものではありません。制度に応じてより適切な配分の方法を考えます。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題25 福祉サービス利用者のニーズに関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

1 政府による資源配分では,ニーズ原則が貫かれている。

2 ニーズの質や水準にかかわりなく,サービスに定額の負担を課すことを,普遍主義という。

3 ニーズ充足の評価には,主観的評価も含まれる。

4 サービス情報が公開されていれば,ニーズが潜在化することはない。

5 その人の主観的な欲求が表現されたもの以外は,ニーズとはみなせない。


内容がわからなくても,正解するのは,それほど難しくない問題かもしれません。


正解は,選択肢3です。


3 ニーズ充足の評価には,主観的評価も含まれる。


主観的評価とは,「満足した」「良かった」というようなものです。


たとえば,身体の清潔が保てないというニーズがある場合,清潔になればそれだけで良いわけでありません。


清潔になっても,乱暴に扱われては良くないですね?


サービスには,どのようにサービスが提供されたのか,というプロセス評価が求められます。


その時の評価軸に「主観的評価」が必要です。


それでは,そのほかの解説です。


1 政府による資源配分では,ニーズ原則が貫かれている。


早速今日のテーマが登場しました。


資源配分には,ニーズ原則(必要原則)のほかに,貢献原則があります。


2 ニーズの質や水準にかかわりなく,サービスに定額の負担を課すことを,普遍主義という。


普遍主義とは,資力調査(ミーンズテスト)を行わずにサービスを提供することをいいます。


普遍主義の対義語は選別主義です。


ニーズの質や水準にかかわりなく,サービスに定額の負担を課すことは,応益負担だと言えます。


応益負担は,サービスを利用するとそれに応じた対価を負担するものです。


応益負担の対義語は応能負担です。応能負担は所得に応じて対価を負担します。


4 サービス情報が公開されていれば,ニーズが潜在化することはない。


サービス情報が公開されていても,サービスがあることが周知されていないとニーズがあることに気がつかないかもしれません。


5 その人の主観的な欲求が表現されたもの以外は,ニーズとはみなせない。


ブラッドショーが論じたニーズでは,その人の主観的な欲求が表現されたものとして,感得されたニード表出されたニードがあります。


それだけではなく,他者からの視点である「比較ニード」と「規範的ニード」もあります。


「比較ニード」と「規範的ニード」もニードです。

2022年11月17日木曜日

ブラッドショーの論じたニードの分類

ブラッドショーは,ニーズを4つに分類しています。













これをもとに,今日の問題です。

 

31回・問題105 ブラッドショウ(BradshawJ.)のニード類型論に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 規範的ニードは,同じ特性を持つ別の人や地域などとの比較により明らかにされる。

2 規範的ニードは,「望ましい」基準との対比において,専門家や行政官などが存在を認めたニードを指す。

3 規範的ニードは,クライエントとの契約によってその内容が定まる。

4 比較ニードは,クライエントによって体感的に自覚される。

5 比較ニードは,その存在が社会的に認知されているニードを指す。

 

なかなかの難問です。

 

正解は,選択肢2です。

 

2 規範的ニードは,「望ましい」基準との対比において,専門家や行政官などが存在を認めたニードを指す。

 

こういった問題の難易度が高いのは,問題によって表現が変わるからです。

 

「言い回しが変わるとわからなくなる」と言う人がいますが,それは理解不足を示しています。

 

「比較ニード」と「規範的ニード」は,専門職がニードを判定するための物差しです

関連記事

https://fukufuku21.blogspot.com/2020/06/blog-post_22.html

 

それではほかの選択肢も確認します。

 

1 規範的ニードは,同じ特性を持つ別の人や地域などとの比較により明らかにされる。

 

これは,比較ニードについて述べたものです。

 

3 規範的ニードは,クライエントとの契約によってその内容が定まる。

 

規範的ニードの内容は,社会的に望ましい状態(社会規範)に照らしてみて,不足している部分です。

 

4 比較ニードは,クライエントによって体感的に自覚される。

 

これは,感得されたニードについて述べたものです。

 

5 比較ニードは,その存在が社会的に認知されているニードを指す。

 

これは,規範的ニードについて述べたものです。

2022年11月16日水曜日

福祉元年について

まずは戦後の社会保障制度の変遷を考えてみたいと思います。

 

昭和20年代は,国民全体が貧しく,救貧の時代です。救貧の中心的制度は,公的扶助です。

 

昭和30年代に入ると,高度経済成長の時代になり,防貧の時代になります。防貧の中心的制度は,社会保険です。

 

日本に限らず,世界の資本主義国家は,社会保障制度を整えて,福祉国家に変遷していきます。

もし,資本主義国家が福祉国家にならなかったとしたら,世界中が共産主義の国になっていたかもしれません。

 

昭和40年代に入っても,高度経済成長は続きます。

 

昭和48年(1973年)は,給付内容の拡大が図られ,「福祉元年」と呼ばれました。

 

この時に行われたもののうち,代表的なものは,以下の2つです。

 

70歳以上の医療費の自己負担分を支給する「老人医療費無料化」。

②物価に合わせて年金の給付額が変動する「物価スライド」。

 

①「老人医療費無料化」は,昭和57年(1982年)の老人保健法成立に伴い,老人医療費の一部負担が導入されて終わりました。

 

②「物価スライド」は,平成16年(2004年)に,給付額を緩やかに変動させる「マクロ経済スライド」という仕組みに変更されています。

 

昭和50年代は,社会保障制度の見直しの時期に入ります。その一つが老人保健法による「老人医療費の一部負担」の導入です。

 

平成時代以降は,少子高齢化に対応する施策が実施されていきます。

 

それでは,今日の問題です。

 

32回・問題26 1973年(昭和48年)の「福祉元年」に実施した福祉政策に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 年金の給付水準を調整するために物価スライド制を導入した。

2 標準報酬の再評価を行い,厚生年金では「9万円年金」を実現した。

3 被用者保険における家族療養費制度を導入した。

4 老人医療費支給制度を実施して,60歳以上の医療費を無料にした。

5 老人家庭奉仕員派遣事業が法制化された。

 

聞いたことがないものが含まれるこの問題は,正解がわからないと消去法では答えられないというかなり難易度が高い問題だと言えます。

 

それでは,解説です。

 

1 年金の給付水準を調整するために物価スライド制を導入した。

 

これが正解です。

 

前説の通り,福祉元年では,物価スライドが導入されています。

 

物価スライドは,平成16年から,給付額を緩やかに変動させる「マクロ経済スライド」に変わっています。

 

2 標準報酬の再評価を行い,厚生年金では「9万円年金」を実現した。

 

「9万円年金」がよくわからないものでした。

 

当時の厚生省は,被用者の標準的なモデルの年金額(月額)を想定していました。

 

推移は以下のようになります。

 

モデル年金の月額

昭和40年(1965年)

1万円(1万円年金と呼ばれる)

昭和44年(1969年)

2万円(2万円年金と呼ばれる)

昭和48年(1973年)

5万円(5万円年金と呼ばれる)

昭和51年(1976年)

9万円

昭和55年(1980年)

13万円

平成元年(1989年)

20万円

 

福祉元年に実現したのは5万円年金,9万円(9万円年金と呼ばれたかは不明)になったのは,昭和51年(1976年)のことです。

 

3 被用者保険における家族療養費制度を導入した。

 

家族療養費は,家族に対する療養の給付(医療の現物支給のこと)です。

導入されたのは,昭和17年(1942年)の健康保険法の改正によるものです。

 

4 老人医療費支給制度を実施して,60歳以上の医療費を無料にした。

 

老人医療費支給制度を実施したのは適切ですが,年齢は70歳以上です。

 

5 老人家庭奉仕員派遣事業が法制化された。

 

老人家庭奉仕員派遣事業とは,現在のホームヘルプサービスです。

 

昭和30年代から先進的な自治体が実施していた事業を昭和38年(1963年)に老人福祉法で法制化しました。

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