社会福祉士の国家試験で出題される社会保障制度審議会の勧告は,1950年勧告,1962年勧告,1995年勧告の3つです。
これらの内容は,前回紹介しました。
今日の問題に取り組む前に復習しておきましょう。
https://fukufuku21.blogspot.com/2022/11/19506295.html
それでは,今日の問題です。
第25回・問題22 社会福祉制度と社会保障等の政策の関連についての次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 社会保障制度審議会の「1962年の答申・勧告」では,社会保障に関する施策を「貧困階層に対する施策」「低所得階層に対する施策」「一般所得階層に対する施策」に区分し,社会福祉対策を,「低所得階層に対する施策」として位置づけた。
2 「21世紀福祉ビジョン」(1994(平成6)年)は,「年金」「医療」「福祉等」の給付費が当時,およそ6:3:1の割合であったのを,将来的には「年金」から「福祉等」へ資金を移す施策を講じておよそ5:3:2の割合とする必要があると提起した。
3 孝橋正一は,「新・社会事業概論」(1977(昭和52)年)において,社会事業が,一般対策(社会保険,公衆衛生教育等)に対して,並立的補充関係,補足的補充関係,又は代替的補充関係にあると論じた。
4 社会保障制度審議会の「1995年の勧告」では,格差拡大と貧困問題が深刻化するなかで,社会福祉は,貧困・低所得対策を重視していくべきであると指摘した。
5 ティトマス(Titmuss,R.)の「福祉の社会的分業(Social Division of Welfare)」の考え方によれば,福祉制度は,政府部門・非営利部門,営利部門,インフォーマル部門の四部門から構成される。
近年には見られないほどの難問です。合格基準点が過去最低の72点となった「魔の第25回国試」らしい問題です。
正解は,選択肢1です。
1 社会保障制度審議会の「1962年の答申・勧告」では,社会保障に関する施策を「貧困階層に対する施策」「低所得階層に対する施策」「一般所得階層に対する施策」に区分し,社会福祉対策を,「低所得階層に対する施策」として位置づけた。
1962年勧告の提言内容
貧困階層に対する施策は,生活保護制度(財源は公費)
低所得階層に対する施策は,社会福祉制度(財源は公費)
一般所得階層に対する施策は,社会保険制度(財源は保険料)
わが国の社会保障制度は,社会保険制度,社会福祉制度,生活保護制度で構成されますが,社会保険制度は,国民の大多数である一般所得者階層を対象としたものです。
医療保障は,国の考え方が出やすいものです。
〈医療保障の国際比較〉
日本 社会保険制度
イギリス 税負担(国民保健サービス) ※基本的に自己負担なし
スウェーデン 税負担
ドイツ・フランス 社会保険制度
アメリカ 国民全体に対する医療保障はなく,民間の医療保険に加入する。公的な医療保障制度は,メディケア(高齢者・障害者等に対する医療保障),メディケイド(低所得者に対する医療扶助)のみ。
それではほかの選択肢も確認します。
2 「21世紀福祉ビジョン」(1994(平成6)年)は,「年金」「医療」「福祉等」の給付費が当時,およそ6:3:1の割合であったのを,将来的には「年金」から「福祉等」へ資金を移す施策を講じておよそ5:3:2の割合とする必要があると提起した。
21世紀福祉ビジョンは,近年出題されたことがありませんが,実はかなり重要です。
このビジョンが出された当時の社会保障給付費の部門別構成比
年金:5
医療:4
福祉その他:1
将来の部門別構成比
年金:5
医療:3
福祉その他:2
この提言に沿って,現在まで調整が行われてきて,現在では,ほぼこの構成比となっています。
具体的には,介護保険を創設することで,医療を減らして,福祉その他を増やしました。
3 孝橋正一は,「新・社会事業概論」(1977(昭和52)年)において,社会事業が,一般対策(社会保険,公衆衛生教育等)に対して,並立的補充関係,補足的補充関係,又は代替的補充関係にあると論じた。
孝橋先生は,社会政策が資本主義の基本問題である社会問題を対象とするのに対して,社会事業は「関係的・派生的な社会的問題」を対象とするという前提に立って理論を形成しました。
社会事業が,一般対策に対して,並立的補充関係,補足的補充関係,又は代替的補充関係にあると論じたのは,仲村優一先生です。
覚え方のポイントは,孝橋先生は「社会的問題」という用語を用いていることです。
仲村先生の覚え方ポイントは「並立的」「補足的」という用語です。
国家試験はマークシートなので,ポイントだけを押さえておけば,人名問題は対応できます。
4 社会保障制度審議会の「1995年の勧告」では,格差拡大と貧困問題が深刻化するなかで,社会福祉は,貧困・低所得対策を重視していくべきであると指摘した。
1995年勧告は,最低限度の生活保障から一歩進めて,21世紀にふさわしい社会保障制度の在り方を示したものです。
1950年勧告のベースになっているのは,憲法の「生存権」であるのに対し,1995年勧告のベースになっているのは,憲法の「幸福追求権」などです。
かなり異なっていることがわかるのではないでしょうか。
5 ティトマス(Titmuss,R.)の「福祉の社会的分業(Social Division of Welfare)」の考え方によれば,福祉制度は,政府部門・非営利部門,営利部門,インフォーマル部門の四部門から構成される。
ティトマスが提唱した福祉制度は,財政福祉,社会福祉,企業福祉の3つです。前回学びました。