社会福祉士の国家試験は難しいように感じますが,決して難しいことを聞いているわけではありません。
今日のテーマは,ロールズが提唱した「格差原理」です。
「正義論」という書籍の中で述べられたものですが,なんと800ページを超える超分厚い本です。
受験ワークブックの共通科目と専門科目の2冊を1冊にまとめたほどのボリュームがあります。
これだけ分厚い本なので,どこからでも出題できそうですが,決してそんなことはありません。
これは,正義論に限ったものではありません。社会福祉士の国試に出題されるポイントは極めて固定的です。
そこを押さえると得点できます。
格差原理とは
格差はあっても良いが,その格差は,最も不遇な人を恩恵があるように使われる場合に認められる。
これを押さえたところで今日の問題です。
第30回・問題22 ロールズ(Rawls,J.)が論じた「正義」に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 成員の快楽の総和を最大化する社会が,最も望ましいと論じた。
2 社会で最も不遇な人の最大の便益となるように,資源配分の是正が行われるべきであると論じた。
3 諸個人に対する平等な基本的自由の実現が不可能であることを前提に,正義を論じた。
4 「無知のヴェール」に包まれた個人を想定した議論では,功利主義的な社会が構想されることになると論じた。
5 「さまざまな生き方」を選べる基本的なケイパビリティを平等に配分することが,正義であると論じた。
格差原理のことがわかっている人にとっては,とても簡単な問題だと思います。
しかし,わかっていない人にとっては,答えの見当をつけるのはかなり困難なのではないかと思います。
正解は,選択肢2です。
2 社会で最も不遇な人の最大の便益となるように,資源配分の是正が行われるべきであると論じた。
アメリカは,成功を夢見てアメリカに渡ってきた人も多くいる国です。
ロールズは,アメリカの哲学者です。格差があることは当然のこととして,格差を不遇な人に使うことを考えたのが格差原理です。
1 成員の快楽の総和を最大化する社会が,最も望ましいと論じた。
これは,最大多数の最大幸福で知られる功利主義です。
ロールズの正義論は,功利主義に異を唱えたものです。
3 諸個人に対する平等な基本的自由の実現が不可能であることを前提に,正義を論じた。
ロールズが目指したのは,格差を最も不遇な人々に使われることで,諸個人に対する平等な基本的自由を実現することでした。
4 「無知のヴェール」に包まれた個人を想定した議論では,功利主義的な社会が構想されることになると論じた。
「無知のヴェール」とは,個人の属性を覆い隠すものです。そのため,自分の属性に有利になる行動(つまり功利主義)はできません。
5 「さまざまな生き方」を選べる基本的なケイパビリティを平等に配分することが,正義であると論じた。
ケイパビリティ(潜在能力)は,アマルティア・センが論じたもので,格差原理ではありません。
ケイパビリティは,福祉的自由の集合体だと考えるものです。
たとえば,お金があってスマホを購入できてもそれを使える環境がないと使えません。それを使える環境があることで使用することができます。これがケイパビリティの例です。
人前に出るのに恥ずかしくない服を持っていること,出稼ぎせずとも家族の身近で仕事ができることもケイパビリティです。