2022年11月13日日曜日

わが国の救貧制度の歴史

社会福祉士の国家試験で,近代日本(明治以降)の救貧制度が問われるのは,

①恤救規則

②救護法

③旧・生活保護法

④新・生活保護法

の4つです。


それでは前説なしにそれぞれに関連した今日の問題です。


第27回・問題25 救貧制度の対象者として,正しいものを1つ選びなさい。

1 恤救規則(1874年(明治7年))では,身寄りのある障害者も含まれた。

2 軍事救護法(1917年(大正6年))では,戦死した軍人の内縁の妻も含まれた。

3 救護法(1929年(昭和4年))では,労働能力のある失業者も含まれた。

4 旧生活保護法(1946年(昭和21年))では,素行不良な者も含まれた。

5 現行生活保護法(1950年(昭和25年))では,扶養義務者のいる者も含まれる。


この問題はセンスの良いものです。

歴史問題のように見せかけて,実は現在の制度が問われています。

それで正解はわかってしまいますが,選択肢5が正解です。

5 現行生活保護法(1950年(昭和25年))では,扶養義務者のいる者も含まれる。


救護法及び旧生活保護法では,扶養義務者のいる者は救済しませんでした

しかし,現行生活保護法で,補足性の原理「扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする」が規定されていますが,扶養義務者が扶養できない場合は,保護の対象となります。


それでは,ほかの選択肢を確認します。


1 恤救規則(1874年(明治7年))では,身寄りのある障害者も含まれた。


恤救規則の対象は,無告の窮民(頼るものがない人)です。身寄りのあるものは救済しませんでした。


2 軍事救護法(1917年(大正6年))では,戦死した軍人の内縁の妻も含まれた。


軍事救護法の対象は,日露戦争で多く発生した傷痍軍人(戦死も含む)本人,その家族です。


内縁の妻が対象になるかはわからないと思いますが,官僚制の一つには文書主義です。文書がない内縁の妻を救済しようと思っても,内縁関係を証明できないのでかなりハードルが高くなってしまいます。という理由ではないと思いますが,ともかく内縁の妻は対象外でした。

★官僚制:ウェーバーが示したもので,組織を機能させる原理のこと。


3 救護法(1929年(昭和4年))では,労働能力のある失業者も含まれた。


救護法及び旧生活保護法では,労働能力のある失業者は含まれていませんでした。


国家試験にはたった一度しか出題されたことはありませんが,,労働能力のある失業者がわが国で初めて対象となったのは,「活困窮者緊急生活援護要綱」(1945・昭和20年)です。

そういった意味ではこの要綱は重要ですが,国家試験でほとんど出題されていないのは,法ではないからなのかもしれません。


4 旧生活保護法(1946年(昭和21年))では,素行不良な者も含まれた。


救護法及び旧生活保護法では,素行不良者は,救済の対象とされませんでした。

旧生活保護法は,無差別平等が規定されていましたが,実際には,救護法に引き続き,欠格条項が規定されていました。現生活保護法と異なり,旧生活保護法の無差別平等は,原理ではないからです。


旧生活保護法

第一条

この法律は,生活の保護を要する状態にある者の生活を国が差別的又は優先的な取扱をなすことなく平等に保護して,社会の福祉を増進することを目的とする。

第二条

左の各号に該当する者には,この法律による保護は。これをなさない。

一 能力があるにもかかわらず,勤労の意思のない者,勤労を怠る者その他生計の維持に努めない者

二 素行不良な者


これに対して,現生活保護法には「無差別平等の原理」が規定されています。


現生活保護法

第二条 すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。


原理とは,例外を認めないものです。つまり,困窮に至った理由は問われることなく,困窮の事実に基づき,最低限度の生活を保障するために保護を実施します。

生活に問題がある場合には,保護を実施したあとで「自立の助長」に向けて,必要な指導,指示が行われます。

なお,自立とは,経済的自立に限定されるものではありません。
自立には,自分のことは自分でできる「日常生活自立」,社会の一員として生活できる「社会生活自立」もあります。

就労できない高齢者や障害者などは就労による経済的自立を望むことはできません。しかし,この考え方によれば,そういった被保護者であっても自立は可能です。

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