2022年11月24日木曜日

イギリスの国民保健サービスおよびコミュニティケア法

イギリスは,ベヴァリッジ報告以来,福祉国家として発展していきましたが,その一方で,次第に国際的な競争力が低下していきました。


そこに登場してきたのが鉄の女と称されたサッチャー首相です。


サッチャー首相が目指したのは,国が社会保障に使うお金を削減する「小さな政府」です。


サッチャー首相に対する評価は未だに分かれますが,時代が彼女を必要としていたことは間違いないことでしょう。


1988年に出されたグリフィス報告は,サッチャー首相の方針と必ずしも一致していたものではないようですが,1990年に,「国民保健サービス及びコミュニティケア法」として実現しています。


グリフィス報告が提言したのは,

・国は財政の責任を持つ。

・具体的なサービスは,公的部門だけではなく民間部門も担う。


といったことです。


「国は財政の責任を持つ」という点が,「小さな政府」を目指すサッチャー首相の方針と異なると言えますが,ともあれ,この提言をもとに「国民保健サービス及びコミュニティケア法」(NHS及びコミュニティケア法)として結実しています。


多様な主体がサービスを提供することになるので,コミュティケアにケアマネジメントという手法が取り入れられたことも特徴の一つです。


それでは,今日の問題です。


第23回・問題27 海外の社会保障・福祉に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 アメリカでは1996年に,「就労から福祉」へという変化をもたらすことを目的として,それまでのAFDC(要扶養児童家族扶助)が廃止されTANF(貧困家族一時扶助)に移行した。

2 スウェーデンでは,1992年のエーデル改革によってそれまで市が担当していた社会福祉サービスを県に移管し,医療サービスと実施責任を一体化した。

3 イギリスの1990年「国民保健サービス及びコミュニティケア法」では,サービスの購入者(財政)と提供者を分離し,民間のサービスを積極的に活用することが盛り込まれた。

4 韓国では2008年から,税方式に基づく「老人長期療養保障法」が施行された。

5 タイでは2002年に,新たな医療保険制度として,受診時に自己負担金30バーツを課す「30バーツ医療制度」が創設された。


かなりの難問です。


この当時の合格基準点が近年よりもずっと低かった理由がよくわかるような気がします。


さて,この問題の正解は,選択肢3です。


3 イギリスの1990年「国民保健サービス及びコミュニティケア法」では,サービスの購入者(財政)と提供者を分離し,民間のサービスを積極的に活用することが盛り込まれた。


国(中央政府)は財政に責任を持ちますが,民間がサービスを提供することで市場原理が働き,その結果として財政の引き締めが期待できます。


どこの国でも公的サービスはコストが高くなるもののようです。


それでは,ほかの選択肢も確認します。


1 アメリカでは1996年に,「就労から福祉」へという変化をもたらすことを目的として,それまでのAFDC(要扶養児童家族扶助)が廃止されTANF(貧困家族一時扶助)に移行した。


AFDCを廃止してTANFを創設したのは適切ですが,「就労から福祉へ」が間違っています。


正しくは,「福祉から就労へ」です。


ものすごい引っ掛けだと思いません。


2 スウェーデンでは,1992年のエーデル改革によってそれまで市が担当していた社会福祉サービスを県に移管し,医療サービスと実施責任を一体化した。


スウェーデンのエーデル改革は,高齢者や障害者の長期にわたる医療ニーズへの対応を日本の都道府県にあたるランスティング(現在のレギオン)から,日本の市町村にあたるコミューンに権限移譲したものです。


この改革によって,医療サービスはランスティング(レギオン)が担い,福祉サービスはコミューンが担うという役割分担ができました。


4 韓国では2008年から,税方式に基づく「老人長期療養保障法」が施行された。


韓国の「老人長期療養保障法」は,介護保険制度の根拠法です。


つまり税方式ではなく,社会保険方式だということになります。


5 タイでは2002年に,新たな医療保険制度として,受診時に自己負担金30バーツを課す「30バーツ医療制度」が創設された。


タイの医療保障制度である「30バーツ医療制度」は,社会保険方式ではなく,社会扶助方式を採用しています。


〈今日の一言〉


この問題の難易度が高い理由は

韓国の老人長期療養保障法

タイの30バーツ医療制度


という聞き慣れないものが出題されていることが影響しています。


しかし,多くの場合,こういった聞き慣れないものを出題するのは,数合わせのためです。


今回の社会福祉士の国家試験では5つの選択肢を必要とします。


新しいカリキュラムによる国家試験のあり方検討会では4択も検討されましたが,今後も5択は継続するようです。


聞き慣れないものの多くは数合わせのための出題なので,それが正解になることは少ないことを覚えておきたいです。

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