2024年4月27日土曜日

その分野の基本法をまず押さえよう!

 

勉強にはいろいろなやり方がありますが,枝葉だけを見ていると見えるものも見えなくなってしまうものもあります。

 

法制度は,必然性があって出来上がるものです。

 

法制度を勉強する時には,必ずそれを押さえておくようにしましょう。

 

そうすれば,試験当日,忘れたとしても手掛かりをつかむことができることでしょう。

 

今見ている「保健医療と福祉」の基本法は,医療法です。

 

一度は目を通しておくと良いです。

 

福祉分野の人にとって医療法はなじみが少ないものだからです。

 

さて,それでは今日の問題です。

 

26回・問題73 

我が国の医療提供施設に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 病院とは,医療法上,病床数10床以上を有する医業又は歯科医業を行う施設のことである。

2 病院施設の中の一般病院数の年次推移をみると,最近10年間の総数は増加し続けている。

3 臨床研修を修了した医師又は歯科医師が診療所を開設するときは,都道府県知事に開設の許可を得なければならない。

4 地域医療支援病院の承認要件には,救急医療を提供する能力を有することが含まれる。

5 病床種別の中で病院病床数を比較すると,療養病床の方が一般病床よりも多い。

 

医療法は,戦後にできたものです。

 

医療法ができて,病院,診療所が明確になりましたが,医療法ができるまでは現在の診療所も病院と呼んでいた時代が続きます。

 

診療所で診療を受けても「病院に行ってきた」という人が今でも多いのはそのためです。

 

 

さて,それでは詳しく見ていきましょう。

 

1 病院とは,医療法上,病床数10床以上を有する医業又は歯科医業を行う施設のことである。

 

医療法では,病院は20床以上。

 

診療所は,入院設備がない,あるいは19床以下。

 

と分けられています。

 

よって×。

 

2 病院施設の中の一般病院数の年次推移をみると,最近10年間の総数は増加し続けている。

 

医療法の第1次改正では,都道府県の医療計画策定によって,病院数の総量規制が行われました。

 

総量規制が導入される前に,駆け込み増床で多くの病院ができました。

 

今では,どこかの病院がベッドを返上しないとベッド数は増やすことができません。

つまり,病院数は増えることはあり得ないのです。

 

もし病院数が増えることがあるとすると,今の病院を分割することになります。

そんなことは意味がありません。

 

 

病院数は平成2年の約1万病院をピークとして減少し,現在は8千病院ほどとなっています。

 

ということで増加し続けているではなく,減少し続けています。

 

よって×。

 

 

3 臨床研修を修了した医師又は歯科医師が診療所を開設するときは,都道府県知事に開設の許可を得なければならない。

 

 

臨床研修は,昭和43年に創設されて,平成16年の改正で義務化されています。

 

研修は義務化されていますが,研修を受けたことを登録することは義務化されていません。

 

しかし,登録しておかないと,開設する時に都道府県知事の許可が必要となります。

 

つまり研修修了者であって登録者であると許可がいらないということになります。

 

よって×。

 

 

難しいですね。

 

4 地域医療支援病院の承認要件には,救急医療を提供する能力を有することが含まれる。

 

地域医療支援病院は,平成9年の第3次改正で新設されたものです。

 

国試では,第2次改正の時に創設された特定機能病院と混同させるように出題されてきますので,注意です。

 

地域医療支援病院は,都道府県知事の承認を受けます。

 

地域の中核病院です。

 

救急医療の提供も承認の条件です。

 

 

それに対して,特定機能病院は厚生労働大臣の承認を受けます。

 

高度医療の提供能力が求められます。

 

承認されているのは大学病院であることが多いことからもよくわかることでしょう。

 

 

さて,問題に戻ります。

 

救急医療を提供する能力を有することが含まれるのは,地域医療支援病院です。よって正解です。

 

5 病床種別の中で病院病床数を比較すると,療養病床の方が一般病床よりも多い。

 

これからどんどん機能分化されていくことになりますが,

 

現在は,一般病床約90万床に対して,療養病床は約30万床です。

 一般病床は療養病床の3倍もあります。

 

よって×。

 

 

入試などと違い,社会福祉士国試は,人よりも多く点数を取らなければならないという試験ではありません。

 

簡単に得点できるものではないかもしれません。しかし確実に知識を積み重ねることで,合格基準点を超えることができます。

 

今の時期は,とにかく基礎力を蓄える時です。

2024年4月26日金曜日

閑話休題~覚え方を工夫しよう!

丸覚えはすぐ忘れます


覚えるのが得意な人がいます。


覚えるのが得意ではないという人との差はどこにあるのでしょうか。


どうやら覚え方の構造に違いがありそうです。


試験勉強のあるある

年齢とともに記憶力が落ちてきている。覚えてもすぐ忘れてしまう


記憶力は年齢とともに衰えるのは生理的に誰でも起きることです。


しかし,記憶力の低下は,人生経験の中で培われてきた知識で補うことができます。


つまりは力技で覚えようとするのではなく,覚え方を工夫することです。


例(一般論)


鳥取と島根がどっちがどっちなのかがわからないという場合の覚え方。


カギは山口県です。


鳥取と島根はわからなくても,


山口県は本州の西端なので覚えやすいのではないでしょうか。


山口県に接しているのは,「鳥取」と「島根」のうち,どちらでしょうか。


答えは「島根」です。鳥取の「鳥」の字には「山」の字はつかないのに対し,島根の「島」の字には,「山」の字がつきます。


これで山口にくっついているのは「島根」というイメージができれば,もう一生忘れることはないでしょう。


覚え方は人それぞれだと思いますが,丸覚えは非効率的,しかも忘れやすいです。


一番よくないのは,「島根は左,鳥取は右」といった覚え方です。


その時覚えていても,数日経てば「左はどっちだったっけ?」となってしまいます。


社会福祉士の国試は,引っ掛けポイントにあふれています。

似たようなものが2つある場合は,混同しやすいので,そういうところが狙われます。


例(社会福祉士)


左右差があるものは,間違いを引き起こしやすいです。


例えば,肺は右肺と左肺に分かれ,右は三葉,左は二葉である。という文章は,先ほどの鳥取と島根のように「右は三葉,左は二葉」と覚えているとすぐ忘れます。


左肺の方の容量が小さいのは,左に心臓があるからである,と覚えればもう絶対に忘れないでしょう。


覚えてもすぐ忘れるのは,年のせいだけではありません。


覚え方に工夫をプラスすることで必ず覚えられます。


<今日の一言>


覚え方を工夫すれば,記憶力は高まる!!



丸覚えはすぐ忘れます。


勉強は暗記だと思っていると丸覚えが近道だと思うかもしれません。

暗記はすぐ忘れます。しかも別の言い回しをされると対応が難しくなります。


なぜこうなっているのだろうと考えることは遠回りに見えるかもしれません。


しかし実は合格に向けての近道です。

覚え方を工夫すれば,必ず覚えられます。

2024年4月25日木曜日

診療報酬制度はしっかり覚えたい

ソーシャルワーカーにとって,クライエントの経済的な問題の解決は重要です。診療報酬の出題は,比較的込み入ったものも出題されています。

診療報酬は,医療機関の収入であるのと同時に,クライエントの自己負担に直結するからです。


今日は,その診療報酬制度についての問題です。


第26回・問題72 

我が国の診療報酬制度に関する次の記述のうち,正しいものを2つ選びなさい。

1 診療報酬の改定は,中央社会保険医療協議会の答申を経て行われる。

2 診療報酬の審査・支払権限は,健康保険組合等の保険者にある。

3 外来診療報酬については,1日当たり包括払い制度がとられている。

4 診療報酬は,健康保険と国民健康保険では異なった内容となっている。

5 診療報酬点数表において,1点単価は1円とされている。


この問題自体は,そんなに難しくないものでしょう。

しかし注意なのは2つ選択なければならないことです。


2つ選択しなければならない問題が突然出題されるようになったのは,第25回からです。

2つ選択する問題は,組み合わせが10通り(5×4÷2=10)もあります。


そのため五者択一よりも正解率が下がります。

ミスも起きます。

第36回から2つというように注意を促すようになりましたが,それでも1つしか選ばなかったというミスは起きます。


試験センターが目指している国試の姿は,


さて,それでは詳しく見ていきますね。


1 診療報酬の改定は,中央社会保険医療協議会の答申を経て行われる。


診療報酬改定は,2年ごとに行われています。

診療報酬改定は,中央社会保険医療協議会(中医協)の答申を経て,厚生労働大臣が決定します。


よって〇。


2 診療報酬の審査・支払権限は,健康保険組合等の保険者にある。


これにひっかけられた人は結構いたのではないかと思います。


なぜなら,診療報酬の審査等は,社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険組合団体連合会(国保連)が行っているからです。


しかし,それは保険者が委託しているからであり,審査・支払権限自体は保険者にあります。


よって正解。


3 外来診療報酬については,1日当たり包括払い制度がとられている。


診療報酬の支払い方法には,出来高払い制度と包括払い制度があります。


外来は基本的に出来高払い制度です。包括払いだと,必要な検査などがある時とない時の整合性がとれないことになってしまいます。


出来高払い制度は,過剰診療を生み出すことにつながります。そのため,包括払い制度は日本では高齢者医療で始まりましたが,現在では急性期病院でも採用されています。


しかし,外来が包括払い制度をとると,本来行わなければならない必要な検査はお金がかかり,それが病院の持ち出しになるとすれば,そういうものはどんどんカットしなければなりません。


そんなことがあっては隠れた病気を見落としてしまうことになります。


4 診療報酬は,健康保険と国民健康保険では異なった内容となっている。


日本の医療保険制度は,全国どこでどんな医療機関で診療を受けても同じ金額であることが特徴です。


イギリスには,国民保健サービス(NHS)という税財源で行われている医療制度があります。これは日本と違い,どこでも自由に診療が受けられるわけではないかかりつけ医であるGPというシステムを取っています。


そのため,GPの診療を受けるために長期間待たなければならないこともよくあるようです。それを嫌ってお金がある人は民間の保険に加入します。GPが使える薬と民間保険で使える薬にも違いがあります。


話は戻りますが,日本は国民皆保険制度をとっています。診療報酬は全国一律1点10円で,これは健康保険制度でも国民健康保険制度でも一緒です。


よって×。


5 診療報酬点数表において,1点単価は1円とされている。


介護報酬は地域によって少し違いますが,診療報酬は全国一律1点10円です。


よって×。


基本的にそれほど難しくない問題だったと思いますが,それでも緊張感漂う試験会場では正しく答えを導きだすのは簡単なことではないです。


だからこそ模試受験が大切なのです。試験に慣れるのは本当に容易なことではありません。

なぜそうなっているのだろうとしっかり考えながら,勉強することが国試突破には極めて重要です。


これを心がければ,少々わからない問題が出題されても,想像力で正解できる確率が高まります。

2024年4月24日水曜日

国民医療費の概況

 今回は,国民医療費の概況からの出題です。


過去問で出題ポイントを押さえて,実際の概況を見てみることをおすすめします。


表やグラフになっているので,覚えやすいはずです。


それでは今日の問題です。


第26回・問題71 

2010年度(平成22年度)までの「国民医療費の概況」(厚生労動省)に関する次の記述のうち, 正しいものを1つ選びなさい。

1 国民医療費に占める公費負担医療給付分の割合は,過去4年間一貫して減少し続けている。

2 薬局調剤医療費は,過去4年間一貫して減少し続けている。

3 財源別国民医療費では,患者負担は,過去4年間一貫して増加し続けている。

4 制度区分別国民医療費では,医療保険等給付分の次に比率が多いのは,後期高齢者医療給付分である。

5 75歳以上の人口一人当たり国民医療費は,年間100万円を超えている。


古い問題ですが,今も使えます。


国民医療費の範囲

含まれるもの

医科診療や歯科診療にかかる診療費、薬局調剤医療費、入院時食事・生活医療費、訪問看護医療費等が含まれる。


含まれないもの

正常な妊娠・分娩に要する費用、健康の維持・増進を目的とした健康診断、予防接種等に要する費用、固定した身体障害のために必要とする義眼や義肢等の費用。


※これらが国民医療費に含まないのは,傷病の治療費に限っているためです。


それでは詳しく見ていきましょう。


1 国民医療費に占める公費負担医療給付分の割合は,過去4年間一貫して減少し続けている。


一貫して減少するには,何かの理由があります。

減少する何かは思い当たるものがありましたか?


データを見れば一目瞭然ですが,減るわけがない,と思うことが肝心です。

もちろん一貫して減少していません。


2 薬局調剤医療費は,過去4年間一貫して減少し続けている。


これも1と同じように一貫して減少するには,何かの理由があります。


もちろん誤りです。


3 財源別国民医療費では,患者負担は,過去4年間一貫して増加し続けている。


財源別では,公費と保険料はいずれも一貫して増加しています。しかし,患者負担は一貫していないのです。


診療報酬のマイナス改定の時は減り,プラス改定の時は増える


というのが基本的な構図です。

これは覚えておきたいです。


「一貫して」というのは,間違い選択肢を作るときの常とう手段です。


「一貫して」が間違いになる確率が高い理由


①本当は,その逆。

 例:一貫して増えている ⇒ 一貫して減少している。

②一貫していない

 例:2000年以降国民医療費は,一貫して増えている。


「一貫して」は,とても便利な言葉です。いろいろな間違いのバリエーションを広げることができるからです。


4 制度区分別国民医療費では,医療保険等給付分の次に比率が多いのは,後期高齢者医療給付分である。


2番目に多いのは,後期高齢者医療給付分です。


よって正解です。


国民医療費の概況をしっかり見ていた人はわかったと思いますが,難しいですね。


このような2番目を問うものは出題されないでしょう。


5 75歳以上の人口一人当たり国民医療費は,年間100万円を超えている。


65歳未満 約20万円

65歳以上 約70万円

75歳以上 約90万円


100万円は超えていません。


よって×。


国民医療費に関するものとしては,ほかに以下のようなものも押さえておきましょう。

覚える数値はおおよそで大丈夫です。


国民医療費の診療種類別構成割合

 入院医療費約40%,入院外医療費(外来)約40%,歯科診療医療費約5%,薬局調剤医療費約15%


国民医療費の傷病分類別構成割合

 循環器系の疾患約20%,新生物約10%。

※循環器系が最も多いところに注意!


国民医療費の年齢階級別構成割合

 75歳以上約40%,70歳以上約50%,65歳以上約60%。


「保健医療と福祉」は,出題範囲が狭いので,覚えなければならないことも少ないのが特徴の科目です。


しかしその分,他の科目と違って掘り下げて出題されることが多くあります。なぜならほかの科目と違って,普段の日常生活の中で得られる情報が多いため,掘り下げないと勉強しなくても点数が取れてしまう恐れがあるからです。


勉強したら点数が取れる。

勉強が足りない人は点数が取れない。


これが国家試験の理想形です。

2024年4月23日火曜日

現場を知っていることで引っ掛けられることもある

福祉現場を知らないよりは,知っていた方が法制度の理解はしやすいので有利だと思います。学生もおそらく自分が実習した領域は他の領域よりもきっと理解しやすいはずです。


しかし,実際に働いていることで,逆に間違ってしまうこともあるので注意したいです。


例えば,今日の問題で取り上げる「生活福祉資金貸付制度」です。


この制度の対象世帯は,低所得者世帯,障害者世帯,高齢者世帯となっています。


母子世帯は対象世帯に入っていません。


母子世帯には,母子父子寡婦福祉資金があるからです。


ただし,母子世帯であっても同資金を利用できない時に生活福祉資金を利用する場合もあります。


しかし,制度上は,母子世帯は対象としていないと覚えなければなりません。


今日の問題です。


第26回・問題69 

生活福祉資金貸付制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 生活福祉資金の借入れの申込みは民生委員を介して行わなければならない。

2 生活福祉資金の貸付金を償還期限までに返却しなかった場合,延滞利子を付して返済しなければならない。

3 連帯保証人を立てないと生活福祉資金の貸付を受けることができない。

4 生活福祉資金は重複貸付が禁止されているため,総合支緩資金の貸付を受けた場合,教育支援資金の貸付を受けることはできない。

5 生活福祉資金の借入れの申込み先は福祉事務所である。


生活福祉資金貸付制度は,生活困窮者自立支援法が出来たことで平成27年に多少変更されています。


変更点は,


生活困窮者自立支援制度の利用の要件化

総合支援資金・緊急小口資金等(臨時特例つなぎ資金を含む)の貸付は,自立相談支援事業の利用を要件とする(原則)。


緊急小口資金の見直し

公共料金の必要最小限の滞納分の解消などで緊急的支援が必要な場合,生活困窮者自立支援制度と連携して貸付対象とする。


それでは詳しく見ていきます。


1 生活福祉資金の借入れの申込みは民生委員を介して行わなければならない。


生活福祉資金を利用するに当たっては,民生委員の支援を受けますが,申し込みの際に民生委員を介する必要はありません。


よって×。


利用前なら,自分の地区の担当している民生委員は誰かも知らないかもしれません。


2 生活福祉資金の貸付金を償還期限までに返却しなかった場合,延滞利子を付して返済しなければならない。


これはその通りです。正解です。


ただし,手続きをして認められれば,返済の猶予や免除があります。

その手続きをしないと,この選択肢のように,延滞利子を付して返済することとなります。


この選択肢を出題した意味がわかるでしょう。


3 連帯保証人を立てないと生活福祉資金の貸付を受けることができない。


連帯保証人を立てなければならない資金も中にはありますが,多くの資金の貸付には連帯保証人を立てなくても利用できます。


ただしその場合は有利子になります。


緊急小口資金・教育支援費・就学支度費は,もともと保証人不要で無利子で貸し付けが受けられます。


よって×。


4 生活福祉資金は重複貸付が禁止されているため,総合支緩資金の貸付を受けた場合,教育支援資金の貸付を受けることはできない。


必要であれば,重複して貸付を受けることはできます。


よって×。

これは何度も出題されています。


5 生活福祉資金の借入れの申込み先は福祉事務所である。


生活福祉資金の実施主体は,都道府県社協です。


窓口は市町村社協です。


窓口が市町村社協ですし,パンフレットを配布しているのも市町村社協なので実施主体も市町村社協だと思われがちですが,実施主体は都道府県社協です。間違えないように注意してください。

2024年4月22日月曜日

社会福祉士が忘れてならないもの

今日は,自立支援プログラムです。

出題されるポイントは,明確です。


さて,それでは今日の問題です。


第26回・問題68 

事例を読んで,自立支援プログラムによる支緩の進め方に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事例)

 Cさんは重いうつ病を発症し療養に専念するために退職したが,経済的に困窮したため生活保護を申請した。保護開始後,Cさんは療養を要するものの病状は安定してきた。しかしCさんには,なお就労に対する躊躇があるようである。

1 Cさんには,できるだけ早期に保護から脱却することを目指す就労支援プログラムへの参加が提案された。

2 Cさんの自立支援プログラムへの参加は,ケースワーカーの判断で決定された。

3 Cさんの自立支援の内容は,共通の統一した支援目標に基づき作成されることになった。

4 Cさんに対しては,自立支援プログラムに参加することが,生活保護を継続するための必要条件であるとの説明がなされた。

5 Cさんには,ボランティア活動や試行雇用の機会の提供を視野に入れた自立支援プログラムが提案された。

 

まずは,自立支援プログラムを勉強しましょう。


自立支援プログラムとは

生活保護受給者への就労支援であり,福祉事務所が事前に類型化した自立支援プログラムを実施する人を選んで,本人の同意を得て実施するものです。


ポイントは,自立支援プログラムは,本人の同意を得て実施するものであり,実施を拒否したからといって,保護の停止&廃止が行われるものではありません。


それでは詳しく見ていきましょう。



1 Cさんには,できるだけ早期に保護から脱却することを目指す就労支援プログラムへの参加が提案された。


Cさんはうつ病です。回復期が大切です。

焦っちゃだめです。

よって×。



2 Cさんの自立支援プログラムへの参加は,ケースワーカーの判断で決定された。


自立支援プログラムは,あくまでも本人の同意を得て実施されるものです。

よって×。



3 Cさんの自立支援の内容は,共通の統一した支援目標に基づき作成されることになった。


自立支援プログラムは類型化して作成されています。つまりプログラムは何種類かありますが,個別に作っているわけではありません。共通の統一した支援目標に基づき作成されるのであれば個別化は完全になくなってしまいます。

よって×。


もともと自立支援プログラムが始まった背景には,優れたケースワーカーの取組みをみんなで共有しようとしたことがあります。


類型化されたプログラムを使って支援したとしても,支援目標は個別化されるものだと思います。


 4 Cさんに対しては,自立支援プログラムに参加することが,生活保護を継続するための必要条件であるとの説明がなされた。


自立支援プログラムの参加を拒否しても,保護が廃止されることを意味するものではありません。


保護は最低限度の生活保障です。


もし,参加を拒否することによって保護が廃止されるのだったら,


「自立支援プログラムへの参加を拒否しましたね。あなたは自立する意欲はありません。よって保護しません。死んでください」ということにつながってしまいます。



5 Cさんには,ボランティア活動や試行雇用の機会の提供を視野に入れた自立支援プログラムが提案された。


自立支援プログラムは,就労に結びつけるためのきっかけとなるものです。


ここに優秀ケースワーカーの実践力がプログラムとなって活かされてきます。


正解はこの選択肢しか有り得ません。


絶対に覚えておいていだたきたいのは,保護の廃止は,最低限度の生活保障として機能するセーフティネットの役割を放棄することになることです。


セーフティネットは最後の最後に機能するものです。

その先はありません。

2024年4月21日日曜日

国家試験突破の秘策~クイズのように解く

中学受験を目指す小学生は,


考えることを徹底的に訓練します。


国語では,わからない言葉があっても文章の前後の言葉から推測する。

算数では,類似の問題から解き方の糸口を見つけ出す。

社会では,知っている情報を繋ぎ合わせて推論する(暗記だけではない)。

理科では,発生する事象を想像してみる。


などです。


有名中学になればなるほど,教科書通りの問題は出題しません。

電車の中などの塾の問題を見たことがある人はこの意味がよくわかることでしょう。


中学受験の塾に通っている成績優秀な小学生に社会福祉士の国試問題を解かせたら,

半分取れた,という話を以前聞いたことがあります。


その話は眉唾物だとずっと思っていました。

少し誇張があるとは今でも思っていますが,もしかするとそういうこともあるのかなぁ,と思います。


というのは,


内容がわからなくても,クイズのように問題を読む


からです。


私たちはややもすると


覚えること,問題を解くことに躍起になって,大事なものが見えなくなってきているのかもしれません。


さて,今日の問題です。


第26回・問題67 

福祉事務所に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 福祉事務所の現業を行う所員の定数については,特に法令上の定めはない。

2 指導監督を行う所員,現業を行う所員,事務を行う所員はいずれも社会福祉法で定める社会福祉主事でなければならない。

3 市の設置する福祉事務所の長は,市長の指揮監督を受けて,所務を掌理する。

4 都道府県及び市町村は,福祉事務所を設置しなければならない。

5 福祉事務所に置かれる社会福祉主事は,18歳以上の者でなければならない。


この問題自体の難易度はまったく難しくないと思います。

しかし小学生なら福祉事務所も社会福祉主事も当然知らないことでしょう。

小学生ならどのように解くでしょうか。


それでは,詳しく見て行きましょう。


1 福祉事務所の現業を行う所員の定数については,特に法令上の定めはない。


社会福祉法

第十六条 所員の定数は、条例で定める。ただし、現業を行う所員の数は、各事務所につき、それぞれ次の各号に掲げる数を標準として定めるものとする。

一 都道府県の設置する事務所にあつては、生活保護法の適用を受ける被保護世帯(以下「被保護世帯」という。)の数が三百九十以下であるときは、六とし、被保護世帯の数が六十五を増すごとに、これに一を加えた数

二 市の設置する事務所にあつては、被保護世帯の数が二百四十以下であるときは、三とし、被保護世帯数が八十を増すごとに、これに一を加えた数

三 町村の設置する事務所にあつては、被保護世帯の数が百六十以下であるときは、二とし、被保護世帯数が八十を増すごとに、これに一を加えた数


と定められています。


よって×。


国試では具体的な数字を覚えることは求められません。

ご安心ください。


社会福祉主事の数は,「基準を標準として」定めることになります。

「基準に従い」ではありませんのでしっかり覚えておきましょう。


易しすぎる問題の時には,間違い選択肢になっているものを次に出題する時の布石にする可能性が高いです。


「基準を標準として」

福祉サービスの利用定員などが「基準を標準として」とするものが多いです。


2 指導監督を行う所員,現業を行う所員,事務を行う所員はいずれも社会福祉法で定める社会福祉主事でなければならない。


社会福祉主事でなければならないのは,指導監督を行う所員(査察指導員),現業を行う所員(ケースワーカー)です。


所の長,事務を行う所員は,社会福祉主事でなくてもよいことになっています。


よって×。


3 市の設置する福祉事務所の長は,市長の指揮監督を受けて,所務を掌理する。


所務を掌理するとは難しい言葉ですが,管理することなのだという想像はつくでしょう。

福祉事務所に限らず,指揮監督を受けるのは,設置した者です。


市が設置した福祉事務所なのに,都道府県知事の指揮監督を受けることはありません。


よって正解です。


4 都道府県及び市町村は,福祉事務所を設置しなければならない。


これは超頻出ですね。


今まで何度出題されたかわからない,間違い選択肢の常とう手段と言えます。


都道府県及び市は必置ですが,町村は任意設置ですね。


よって×。


5 福祉事務所に置かれる社会福祉主事は,18歳以上の者でなければならない。


その問題が出題されたときは,社会福祉主事の年齢は20歳以上でしたが,成年年齢が18歳となったことから,社会福祉主事も18歳以上になっています。


ということで,今は正解です。


それでは,小学生の解き方です。


1 福祉事務所の現業を行う所員の定数については,特に法令上の定めはない。

2 指導監督を行う所員,現業を行う所員,事務を行う所員はいずれも社会福祉法で定める社会福祉主事でなければならない。

3 市の設置する福祉事務所の長は,市長の指揮監督を受けて,所務を掌理する。

4 都道府県及び市町村は,福祉事務所を設置しなければならない。

5 福祉事務所に置かれる社会福祉主事は,18歳以上の者でなければならない。


「1245は『ない』で終わっているけれど,3だけがちょっと違うよね」


「これが答えじゃない?」


秒殺です。


恐ろしや~小学生

2024年4月20日土曜日

第26回国試は国試突破のヒント満載!

ずっと第26回国試を見てきています。

なぜこんな古い問題を引っ張ってきているのか不思議に思っている人もいるでしょう。


直近3年間の国試よりもそれ以前の国試から同様の問題が出題されることが多い傾向があります。それに加えて,第26回は仕切り直しの回です。

第25回の反省でスタンダードな出題が多いために,過去問を使っての勉強にとても向いた問題がそろっています。


それでは,今日の問題です。


第26回・問題66 

生活保護法で規定されている被保護者の権利及び義務に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 被保護者は,給付される保護金品に対して租税その他の公課を課せられることがない。

2 被保護者が文書による指導・指示に従わない場合は,保護の実施機関は直ちに保護の停止・廃止の処分を行わなくてはならない。

3 収入,支出その他生計の状況について変動があったときは,速やかに被保護者の住所地を担当する民生委員に届け出なければならない。

4 被保護者は,絶対的扶養義務関係にある同居の親族に限り,保護を受ける権利を譲り渡すことができる。

5 被保護者が生活の維持向上に向けて努力を怠っていると認められる場合は,福祉事務所長はその費用の全部又は一部を,その者から徴収することができる。


よくぞここまでスタンダードな問題をそろえたと思います。


第25回では,本来合格すべき実力をもった人も不合格になった国試です。


それでもあきらめることなく,勉強を続けて受験した人はとてもよい点数で合格しました。


スタンダードな問題をそろえたのは,前回のしょく罪であったように思えます。


それ以来,勉強した人は得点できるような出題が続いています。良い時代になったものです。


だからと言って勉強不足の人を簡単に合格させてくれるような試験ではないことは間違いありません。


被保護者の権利及び義務


不利益変更の禁止

被保護者は,正当な理由がなければ,既に決定された保護を,不利益に変更されることがない。


公課禁止

被保護者は,保護金品を標準として租税その他の公課を課せられることがない。


差押禁止

被保護者は,既に給与を受けた保護金品又はこれを受ける権利を差し押えられることがない。


譲渡禁止

保護又は就労自立給付金の支給を受ける権利は,譲り渡すことができない。


生活上の義務

被保護者は,常に,能力に応じて勤労に励み,自ら,健康の保持及び増進に努め,収入,支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り,その他生活の維持及び向上に努めなければならない。


届出の義務

被保護者は,収入,支出その他生計の状況について変動があつたとき,又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは,すみやかに,保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。


指示等に従う義務

①被保護者は,保護の実施機関が,被保護者に対し,必要な指導又は指示をしたときは,これに従わなければならない。

②保護施設を利用する被保護者は,保護施設の管理規程に従わなければならない。

③保護の実施機関は,被保護者が義務に違反したときは,保護の変更,停止又は廃止をすることができる。

④保護の実施機関は,保護の変更,停止又は廃止の処分をする場合には,当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければならない。この場合は,あらかじめ,当該処分をしようとする理由,弁明をすべき日時及び場所を通知しなければならない。


費用返還義務

被保護者が,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けたときは,保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して,すみやかに,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。


覚えるべき項目はこれだけです。


これをもとに詳しくみていきましょう。


1 被保護者は,給付される保護金品に対して租税その他の公課を課せられることがない。


公課禁止です。これが正解です。


2 被保護者が文書による指導・指示に従わない場合は,保護の実施機関は直ちに保護の停止・廃止の処分を行わなくてはならない。


指示等に従う義務④保護の実施機関は,保護の変更,停止又は廃止の処分をする場合には,当該被保護者に対して弁明の機会を与えなければならない。この場合は,あらかじめ,当該処分をしようとする理由,弁明をすべき日時及び場所を通知しなければならない。


「直ちに」ではありません。「弁明の機会」が与えられています。


よって×。


職権保護は現行法に残っていますが,それは国民の権利を擁護するためのものです。指示等に従う義務のこの項も国民の権利性を色濃く出していると思いませんか?


生活保護法は憲法第25条の生存権規定に基づくものです。直ちに保護の停止・廃止の処分を行うことはありえません。


3 収入,支出その他生計の状況について変動があったときは,速やかに被保護者の住所地を担当する民生委員に届け出なければならない。


届出の義務

被保護者は,収入,支出その他生計の状況について変動があつたとき,又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは,すみやかに,保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。


よって×。


余談です。


法律用語には,

①ただちに

②すみやかに

③遅滞なく

があります。


最もスピードが求められるのは「①ただちに」です。届出の義務は「②すみやかに」です。なるべく早く,という意味です。こんなところにも権利性が見えてきます。


「③遅滞なく」は,福祉計画でよく見られます。滞りなく,という意味でスピードは求められません。「遅滞なく都道府県知事に提出しなければならない」といった具合です。少々遅くても提出すればよいわけです。


保護を受けることが国民の権利だったなら「遅滞なく」でも良いのでは,と思われるかもしれません。


しかし,「遅滞なく」では,「少々遅くても」の少々の範囲があいまいなので,被保護者の現況を把握するためには,不適切なのです。


4 被保護者は,絶対的扶養義務関係にある同居の親族に限り,保護を受ける権利を譲り渡すことができる。


譲渡の禁止

保護又は就労自立給付金の支給を受ける権利は,譲り渡すことができない。


誰に対しても譲渡することはできません。よって×。


5 被保護者が生活の維持向上に向けて努力を怠っていると認められる場合は,福祉事務所長はその費用の全部又は一部を,その者から徴収することができる。


指示等に従う義務及び費用返還義務はありますが,被保護者が生活の維持向上に向けて努力を怠っているからといって,返還しなければならない,という規定ありません。


今日の問題はとても優れているものだと思います。



まず1つめの選択肢です。


公課禁止は,生活保護は,最低限度の生活保障(ナショナルミニマム)なので,税金が課せられると最低限度の基準を下回ってしまうからです。


ここで「あれ?」と思う人もいると思います。

あれとは消費税のことです。


この問題をクリアするためには

①受給者証を示して,消費税を免除する

②あらかじめ消費税分を多く給付しておく

といった方法が考えられます。


日本政府が選んだ方法は②です。

生活保護法に照らし合わせると消費税も払うことは必要とされない,と考えられます。

しかし日本の官僚は極めて優秀なので,効率的な手法を考えます。


それが②の方法です。個別対応で免除するのではなく,先に消費税分を多く給付しておけば,個別対応する手間が必要なくなります。福祉政策を国民に受け入れやすくするためには工夫が必要です。


①を選択すれば,「私は被保護者です」と宣言することになり,スティグマ感を強めることになります。さらに各事業所では,一般世帯と被保護世帯に対して別の対応が必要となり,課税システムが複雑となります。



公課禁止から考えると,被保護者から消費税徴収は整合性はないと言えるのかもしれませんが,それを荒立てても誰の利益にはなりません。


2つめの選択肢


被保護者が文書による指導・指示に従わない場合は,保護の実施機関は直ちに保護の停止・廃止の処分を行わなくてはならない。


保護を受けることは国民の権利です。権利を突然奪うことはあり得ません。


ちゃんと弁明のチャンスを与えることによって,国民の権利を守っているのです。


今日の問題を教材に学生に考えさせる教員もいることでしょう。国試はいろいろ学ぶ情報の宝庫です。


今日の問題で,考えておきたいものは5つめの選択肢です。


被保護者が生活の維持向上に向けて努力を怠っていると認められる場合は,福祉事務所長はその費用の全部又は一部を,その者から徴収することができる。


法制度にあいまいさがあると「ストリートレベルの官僚」(法を実行する官僚)の恣意的な運用を認めてしまうことになります。

「被保護者が生活の維持向上に向けて努力を怠っている」とストリートレベルの官僚がどのように判定するのでしょうか。


法はこのようなあいまいさは許されません。

もしそのようなあいまいさが残る法は,極めて危険なものとなります。


生活保護は,最低限度の生活保障です。給付される額は最低限度の生活を守るためのものです。もしそこから徴収するようなことがあれば,「あなたは努力していないので,生きる権利はありません。死になさい」と言っていることと同じです。


社会福祉士の国試には,医師の国家試験にあるようないわゆる「ドボン問題」(合格基準点に到達していても間違っていたら不合格とする問題のこと)はありません。


しかし,もしドボン問題を設定するなら,この選択肢でしょう。

今日の問題自体は決して難しくはありませんが,実は社会福祉士としての資質を問う問題だと考えられます。

2024年4月19日金曜日

あと数点得点を上げる勉強法

 あいまいな知識が4,000あるより

確実な2,000の知識が必要です!


確実な知識は,法制度にかかわるもののほうがつけやすいです。


理論系は,確実な知識にするのはそんなに簡単ではありません。


今は,どの辺りの科目をやっていますか? 


参考書は国試の出題順に作られているものが多いので,医学概論は別にして,理論系科目が続きます。


心理学と社会学,そしてその次の原理,理論系科目が続きます。


そこに時間をかけすぎて,得点しやすい科目が手薄になってしまうのは,もっとも不適切な勉強法です。


法制度は勉強すればそのまま得点になります。


不合格になる人の多くは,理論系も法制度系も確実な知識になっていない状態で国試に臨む傾向があります。


本来得点できなければならない問題は確実に得点する。


当たり前に思えるかもしれませんが,意外とこれができていない人が多いです。


勉強時間には科目ことにメリハリをつけて行うこと。


結局は,これが一番得点を上げるための方法だと言えます。


それでは今日の問題です。


第26回・問題65 

生活保護における扶助の種類とその内容に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 光熱費・家具什器等の世帯単位の経費は,生活扶助の第1類費に含まれる。

2 被保護者が,入退院,通院をした場合に要した交通費は,生活扶助に含まれる。

3 介護施設に入所している被保護者の基本的な日常生活に要する費用は,介護扶助に含まれる。

4 小・中学校の入学準備金は,生活扶助に含まれる。

5 介護保険の保険料は,介護扶助に含まれる。


「貧困に対する支援」は,法制度が単純な科目なので,勉強した分,すぐ実力に変わる科目です。


歴史も出題されますが,他の科目とつながるものが多いのが特徴です。


この科目に勉強時間をかけないのは実にもったいないことです。


生活保護には,現在は8つの扶助があります。


それぞれはそんなに複雑ではないので,すぐ覚えることができることでしょう。


さて,それでは詳しく見ていきましょう。


1 光熱費・家具什器等の世帯単位の経費は,生活扶助の第1類費に含まれる。


生活扶助の基準生活費には,個人単位の第1類と世帯単位の第2類があります。

よって×。


2 被保護者が,入退院,通院をした場合に要した交通費は,生活扶助に含まれる。


医療扶助にかかる費用は,生活保護費全体の半分を占めます。


入退院,通院をした場合に要した交通費,つまり移送費は医療扶助に含まれます。


よって×。


3 介護施設に入所している被保護者の基本的な日常生活に要する費用は,介護扶助に含まれる。


介護扶助は,介護保険のサービスを受けたときの利用料に対して給付されるものです。


生活保護を受けていない一般の人のホテルコストは,介護保険から給付されず自己負担となっています。


なぜなら施設入所した方が,生活費が安くなる,ということでは居宅生活者とのバランスが取れないためです。


生活保護の居宅生活者には生活扶助から基準生活費が給付されます。


施設入所すると基準生活費は給付されず,その代わりに介護施設入所者基本生活費が給付されます。


よって×。


4 小・中学校の入学準備金は,生活扶助に含まれる。



生活扶助には,臨時に必要になった場合に給付される一時扶助費があります。

これには,入学準備金も含まれます。


よって〇。


5 介護保険の保険料は,介護扶助に含まれる。


介護扶助は,先述したように,介護保険のサービスを受けたときの利用料に対して給付されるものです。


よって×。


介護保険料は,生活扶助の介護保険料加算が対応します。


今日の問題は,知識がないと正解できません。しっかり覚えたいです。

2024年4月18日木曜日

再チャレンジされる方へ

 今年の国試が終わってから2か月が経ちました。


この間,問題を改めて解いてみましたか。


タイプ1

後から問題を読んだら解けた問題があり,そこで点数が取れていたら合格基準点を上回っていたという方。


タイプ2

後から問題を読んでも,合格基準点は上回ることができなかったという方。



タイプ1の方へ

数点差でだめだった,というタイプは間違いなくこのタイプです。もちろん知識はたくさんあることに越したことはありません。

しかし,先日ご紹介したようにあいまいな知識が4,000あるよりも確実な知識が2,000あるほうが得点力は確実につきます。


「知識をもっとつけなければ・・・」

複数の参考書を使おうと思っている人は気を付けましょう。


二兎を追うものは一兎を得ず


複数の参考書を使う意味を逆説的に言うと・・・


①両方に書かれているものは,必要,つまり出る確率が高いもの。

②どちらかにしか書かれていないものは,出る確率が低いもの。


②は覚えない。


覚える量を絞り込むという使い方です。


しかし,2つの参考書を比べるのは時間がもったいないです。

2種類の参考書をもつのはナンセンスであることがわかることでしょう。


なお,要点まとめになっているようなものをもう一冊もつのは悪くないと思います。


タイプ2の方へ

タイプ2の場合は,合格するだけの知識が不足していたタイプです。まずは基礎力をつけることから始めなければなりません。


だからと言って国試に合格された方と比べて決して勉強不足ではないと思います。何度か受験されている方は特にそうです。


問題を見ると毎年まったくわからない出題があり,「どれだけ勉強したら合格点に達するのだろうか」と不安になる方もいらっしゃることでしょう。


しかし・・・


勉強法さえ間違えなければ,合格基準点は確実に超えることができます。


間違った勉強法とは・・・


3年間の過去問を完全に覚えても絶対に合格できる知識はつかない


過去問は国試合格のヒントが満載です。そこに目を向けることなく,過去問で勉強するなら,その時間は参考書を覚える時間に使ったほうが良いです。


なぜなら・・・


国試は同じような問題でありながら,同じように出題されることは決してないからです。


チームfukufuku21は,問題の解き方のヒントを一緒に考えていきたいと思っています。


それでは,今日の問題です。


第26回・問題62 

「障害者雇用促進法」が定める事業主の雇用義務に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 民間企業における法定雇用率は1.8%である。

2 法定雇用率を下回っている場合は障害者雇用納付金を徴収する仕組みがある。

3 障害者を雇用する事業所においては,障害者雇用推進者を選任し,障害のある従業員の職業生活に関する相談指導を行わせるよう努めなければならない。

4 精神障害者保健福祉手帳を所持している従業員を,雇用している障害者の数に算定することはできない。

5 都道府県知事は雇用率未達成の事業主に対して,雇入れ計画の作成を命ずる。



この問題は,タイプ1の方にとっては,そんなに難しくないことでしょう。


この問題の正解が分からなければ,タイプ2の方だと言えます。まずは基礎知識をつけましょう。そうしないと試験委員のトラップに引っ掛けられて迷いの道に深く深く入り込みます。


それでは,詳しく見ましょう。



1 民間企業における法定雇用率は1.8%である。


法定雇用率は,数年ごとに見直されています。


現在の法定雇用率は,各自で調べてください。


なお,この問題が出題された時点では,民間企業の法定雇用率は2.0%だったので,誤りです。


精神障害者は,精神保健福祉手帳を持っている精神障害者を雇用した場合は,法定雇用率の算定ができます。


2 法定雇用率を下回っている場合は障害者雇用納付金を徴収する仕組みがある。


障害者を雇用するには,一般企業にとって痛みを伴います。


そのため,障害者を社会全体で支えるために,法定雇用率を達成できなかった企業からは,不足した障害者の数に応じて納付金を徴収し,法定雇用率を達成した企業に調整金を支給する「障害者雇用納付金制度」を設けています。


よって正解です。


法定雇用率を達成できないと納付金を納付することになります。しかしそれはペナルティの意味であり,障害者の雇用義務が免除されたという意味ではないので注意です。


3 障害者を雇用する事業所においては,障害者雇用推進者を選任し,障害のある従業員の職業生活に関する相談指導を行わせるよう努めなければならない。


障害者雇用推進者を聞いたことがある人はそんなにいないかもしれません。


一定以上の障害者を雇用する事業主に対して,障害者雇用推進者を選任するように努めなければならない,とされています。つまり努力義務です。


障害者雇用推進者の業務は,障害者の雇用の促進,雇用の継続を図るために必要な施設などの整備などです。どちらかいうと管理的な業務と言えるでしょう。


それに対して,障害者職業生活相談員があります。


障害者職業生活相談員の業務は,当該事業所に雇用されている障害者である労働者の職業生活に関する相談及び指導です。


問題では,障害のある従業員の職業生活に関する相談指導とあるので,障害者雇用推進者ではなく,障害者職業生活相談員であることが分かります。


よって誤りです。


4 精神障害者保健福祉手帳を所持している従業員を,雇用している障害者の数に算定することはできない。


精神障害者の場合は,精神障害者保健福祉手帳を所持している従業員を算定することができます。


よって誤りです。


なお,発達障害者は,雇用義務もなく,算定対象とすることもできません。


5 都道府県知事は雇用率未達成の事業主に対して,雇入れ計画の作成を命ずる。


実雇用率の低い事業主に対して,「雇入れ計画」の作成を命ずることがあります。


命ずるのは,厚生労働大臣です。

よって誤りです。


雇入れ計画が適切でなかった場合,改善を勧告することがあります。

勧告に従わなかった場合,企業名を公表することがあります。


雇入れ計画の作成を命じられても,多くの企業は,それに対応しているので,実際に企業名を公表されているのは,数社だけです。


障害者の就労支援に関しては,障害者雇用促進法と障害者総合支援法の2つの法律があります。


障害者雇用促進法は,一般就労に向けたもの

障害者総合支援法は,福祉的就労に向けたもの


という違いがあります。


どちらも覚えるポイントは,とても少ないので,得点出来るようにしっかり覚えていきましょう。

2024年4月17日水曜日

生存権は20世紀的権利です

 現・生活保護法は憲法第25条の理念を具現化するものです。


この第25条は「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」としています。いわゆる生存権です。


古典的な市民権は,自由権です。国家からの干渉を受けない自由を求めて,フランス革命などの市民革命が起きました。自由権は市民が主役です。


それに対して,生存権を含む社会権は,歴史的に見れば,比較的新しい権利です。


さて,現・生活保護法ができる前に,1946年に旧・生活保護法が成立しています。


あとで基本原理・原則を紹介しますが,その中の一つに無差別平等があります。


困窮に陥った原因は問わない,という原則ですが,旧法でも無差別平等が規定されていましたが,実際には働く気のない者や素行が悪い者は保護しないこととなっていました。


前置きはこの辺までにして,今日の問題に入りましょう。


第26回・問題64 

生活保護法で規定されている基本原理,原則に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 保護は,個人を単位としてその要否及び程度を定めるものとされている。ただし,これによりがたいときは,世帯を単位として定めることができる。

2 生活保護法により保障される最低限度の生活は,肉体的な生存を維持する程度とされている。

3 保護の申請は,要保護者,その扶養義務者のほか,要保護者の同居の親族がすることができる。

4 保護は,都道府県知事の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度のものとされている。

5 生活保護法は,最低限度の生活を保障するとともに,社会的包摂を助長することを目的とすると定めている。


生活保護法の基本原理・原則はかなりの確率で出題されます。


必ず覚えておきましょう。


生活保護の原理は,


国家責任

無差別平等

最低生活

保護の補足性


です。


生活保護の原則は,


申請保護の原則

基準及び程度の原則

必要即応の原則

世帯単位の原則


です。


このうち分かりにくいのは,保護の補足性,基準及び程度の原則,必要即応の原則でしょう。


保護の補足性とは

使えるものは活用して,それでも最低限度の生活に不足する場合に保護すること。扶養義務者の扶養が生活保護法による保護に優先して行われることも補足性の原理。


基準及び程度の原則とは

厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者が金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。

前項の基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて,且つ,これをこえないものでなければならない。


注意すべきなのは,


これをこえないものでなければならない


生活保護の基準は,最低限度の生活ですから,これをこえても下回ってもだめで,その基準ライン上でなければなりません。


話は飛びます。


イギリスの改正救貧法では,劣等処遇の原則が示されますが,これは自活する労働者よりも下の基準となります。そのライン上ではだめです。


必要即応の原則

保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行うものとする。


それでは詳しく見ていきましょう。


1 保護は,個人を単位としてその要否及び程度を定めるものとされている。ただし,これによりがたいときは,世帯を単位として定めることができる。


世帯単位の原則があります。


よって×。


2 生活保護法により保障される最低限度の生活は,肉体的な生存を維持する程度とされている。


最低限の生活は,憲法第25条の「健康で文化的な生活」を維持するものです。これは簡単ですね。


「肉体的な生存を維持する」でぴーんと来た人は,かなり勉強が進んでいる方です。この調子でがんばりましょう。


産業革命は多くの雇用を生み出しました。


それと同時に多くの貧困も生み出しました。ブースによるロンドンの調査,ラウントリーによるヨークの調査で,貧困が発見されました。


ラウントリーは,マーケットバスケット方式という科学的手法で,肉体的な生存を維持する程度の貧困を「第一次貧困」,ギャンブルや飲酒などをしなければ生活できる程度の貧困を「第二次貧困」としました。


因みにこの時代の貧困は「絶対的貧困」です。

周りの人と比べて劣っていることを貧困「相対的貧困」の概念が生まれてくるのは1950年なので,かなり後の時代です。


3 保護の申請は,要保護者,その扶養義務者のほか,要保護者の同居の親族がすることができる。


これが正解です。旧・生活保護法までは,職権保護でした。


現行法で保護請求権が認められて,不服申立制度ができました。


ただし,現在でも職権保護は残ります。


 4 保護は,都道府県知事の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度のものとされている。


保護は国家責任によって行われます。基準を定めるのは,厚生労働大臣です。


よって×。


最低限度の生活は,地域によって変わるので,生活扶助,住宅扶助,葬祭扶助には地域ごとに給地区分があります。



 5 生活保護法は,最低限度の生活を保障するとともに,社会的包摂を助長することを目的とすると定めている。



社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)の概念が生まれたのは1980年代のヨーロッパです。


誰もが排除されず,包み込まれる社会の実現を目指すものです。


助長するのは自立です。


よって×。


自立は,就労による経済的自立だけではありません。

日常の生活管理ができる日常生活自立

社会の中で生活できる社会生活自立


もあります。

2024年4月16日火曜日

どのくらいの知識量があれば合格できるか?

社会福祉士の国試の特徴は・・・


出題範囲が広い


ケアマネ試験と社会福祉士国試の試験の違い


ケアマネ ⇒ 基本は介護保険法

社会福祉士 ⇒ 社会保障制度全般


法制度だけでもこれだけ違います。


これにソーシャルワーク理論,心理学・社会学,福祉政策などが加わります。


ケアマネと同じように短期決戦で国試に臨むことの危険性がよくわかることでしょう。


社会福祉士の試験のもう一つの特徴は・・・


深い知識は求められない


一見すると深そうに見えるかもしれません。


しかしそれほど深い知識は求められていないのです。

それなのに,なぜ簡単には解けないのでしょうか。


試験委員は,国試問題を作る時は,過去問の焼き直しをしないからです。


法制度のように法の条文を変えて出題するものは大きくは変化しません。


しかし心理学や社会学などの理論に基づくものは,法の条文のように定型文がないため,表現が変わります。


そのため,丸暗記は通用しません。


国試に詳しいある方に,伺ったところ,国試合格に必要な知識は,19科目で2,000~4,000だとのことです。


19科目あるので,1科目に割ると,100~200という数になります。


この数が多いか少ないかは,人によって感じ方が違うと思いますが,「意外と少ない」と感じる人が多いように感じます。


少なくても済む理由は,科目ごとに内容が完全に独立しているわけではなく,それぞれが関連し合っているからです。


国試で重要なのは,必要以上の多くの知識を持つことではありません。


想像力=創造力


テキストを読むだけが勉強ではなく,日常にあるものすべてが勉強です。


特に社会科学系の知識は,日常から得られるものは多いです。


勉強することで情報の感度が上がると,今まで素通りしていた情報が耳にとどまるようになります。


その積み重ねは実に大きいと思います。


先生によっては「参考書をひたすら読むこと」と言う人もいるかもしれません。


その方法も決して間違いではありません。参考書は正しい文章で書かれているので,間違いの文章に出会うと「違和感」を感じるようになります。


これが参考書をひたすら読むこと,という勉強法の意味だと考えます。


頭に残るまで読むということになると,人によって違いは大きいと思いますが,少なくても3回は必要だと思います。せっかくなら,自分なりに理解しながら読んでいきたいものです。


それでは,今日の問題です。


第26回・問題63 

2001年度(平成13年度)以降の生活保護の全国的な動向に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 被保護世帯及び被保護人員ともに2008年のリーマンショックを契機に増加に転じた。

2 医療扶助費の生活保護費全体に占める割合は,他法の医療制度の充実により,この間,大きく減少する領向にある。

3 保護廃止人員は,一貫して増加している。

4 保護受給期間別の被保護世帯数の推移をみると「3年~5年未満」が一貫して多い。

5 世帯類型別にみた被保護世帯の構成比をみると,「その他の世帯」の割合が大きく増加している。



今日から「貧困に対する支援」に入ります。


この科目を苦手とする人もいると思いますが,覚えなければならないものはとても数少ないです。


その点では,得点しやすい科目になりますし,問題によっては,満点を取ることも十分可能な科目です。


この科目のメインの法制度である生活保護法の出題ポイントはほぼ決まっています。


それでは詳しく見ていきましょう。


1 被保護世帯及び被保護人員ともに2008年のリーマンショックを契機に増加に転じた。


昭和の最末期から平成初期にかけてバブル景気というものがありました。ところが近年ではバブル景気と呼ばず,平成景気と呼ぶらしいです。


第29回国試でそのように出題されてびっくりした人もいたのではないかと思います。


いつ平成景気が終わったのかは諸説ありますが,少なくとも1991年前半には終わっていました。


この好景気の期間は,平成と比べると昭和の方が長いので,平成景気と呼ぶのは違和感があります。いわゆるバブル景気が終わったことに国民が気づくのはまだ先のことです。そういった意味では,「平成景気」という名称は適切なのかもしれません。


バブルの象徴として紹介されるのは,ジュリアナ東京というディスコです。開業したのは1991年5月,閉店したのは1994年8月です。実はバブルがはじけたあとです。


バブルがはじけて企業ががたついていた時期でも,バブルの味を覚えた人は消費をすぐ引き締めることはしません。


法人税収入より消費税の方が安定した税収となることがわかると思います。


保護率を示したグラフを見るとすぐ分かりますが,平成景気後もしばらく保護率は低下し,1995年の0,7パーセントを底として上昇し,現在では1.5パーセントを超えたところにあります。


リーマンショックも大きかったですが,そこから上昇が始まったわけではありません。

もっと前から上昇しています。


よって×。


平成景気後,「失われた30年」とも言われる1990年代以降は,企業がそれまでの経営システムを大きく変え,雇用形態も変えました。


2 医療扶助費の生活保護費全体に占める割合は,他法の医療制度の充実により,この間,大きく減少する領向にある。


生活保護費は約4兆円です。社会保障給付費が120兆円を超える中,生活保護費の占める割合はほんのわずかです。


生活扶助基準を引き下げても全体から比べると大した額にはなりません。


医療扶助費は全体の約半分を占めますので,約2兆円です。もし生活保護費を本気で引締めするのであれば,医療扶助が効果的です。


よって×。


扶助費を多い順から並べると,医療扶助,生活扶助,住宅扶助の順ですが,実にこの3つで90%を占めます。


3 保護廃止人員は,一貫して増加している。


保護の廃止理由で一般多いのは,死亡です。


これがわかっていると,廃止人員が一貫して増加するとは考えにくいです。


実際には増えたり,減ったりして推移しています。


よって×。



4 保護受給期間別の被保護世帯数の推移をみると「3年~5年未満」が一貫して多い。



以前は,5~10年未満が最も多い時もありましたが,近年多いのは1~3年未満です。


よって×。



5 世帯類型別にみた被保護世帯の構成比をみると,「その他の世帯」の割合が大きく増加している。


最も多い世帯は「高齢者世帯」です。


高齢者世帯はもともと数が多いので,当然割合も大きくなります。


その他の世帯は,割合は少ないものの,2005年から2013年までで,一番伸び率が大きく,実に7倍にもなっているそうです。


ミクロの視点で見ていると,よく分からないものでも,全体を俯瞰してみると分かることはよくあります。

2024年4月15日月曜日

時間をどれだけかけるか,ではなく,どんな勉強をするか

 国試勉強にどれだけ時間をかけたら合格できる?


ネットで合格者の声を探すと,10月以降は毎日3時間,週末は8時間勉強しました,といった情報を見つけることができます。


そんな情報を見ると,そんなに時間をかけないと合格できないのか,と思ってしまいます。


重要なのは,時間ではなく,勉強の質です。


どんなに時間をかけても,覚えるポイントがずれていたり,すべての分野を丸暗記するような勉強なら,どんなに勉強に時間をかけても,臨むような成果は出ないでしょう。


一つひとつは時間がかかったとしても,理解を深めた勉強をすることが国試突破の決め手となります。


法制度は,法律の条文を崩して出題することはそうそうしないので丸暗記でも対応できます。


しかし,国が求めているのは,丸暗記でしか対応できない社会福祉士ではなく,クライエントのニーズ充足のための方法論をたくさんもった社会福祉士です。


時には,ニーズ充足のために扇のかなめになることや職場改善,ひいてはコミュニティへの働きかけなども必要です。


法制度に精通するのはあくまでもクライエントのニーズ充足のためであり,社会福祉士にはそれよりももっと先があるはずです。


社会福祉士がソーシャルワーカーだとするならば,ソーシャル=社会,ワーカー=働く人,つまり社会のために働く人,クライエントは社会全体の人ということになります。


そう考えると,地域包括などの相談機関や福祉施設の相談員に限らず,社会に向けてもっともっともっと大きな役割を果たすことができるように思います。


想像力=創造力を求めているように思えてなりません。


試験委員も過去問の焼き直しで作問しているのではなく,想像力を最大限に発揮して出題してきます。


国試は,試験委員との知恵比べです!!


丸暗記だけの知識で対応できる試験ではないことは間違いありません。


それでは今日の問題です。


第26回・問題61 

2012年(平成24年)に改正された児童福祉法に基づく障害児サービスの再編に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 障害児入所支援費は,市町村に支給申請をすることとなった。

2 情緒障害児短期治療施設の入所サービスは,障害児入所支援となった。

3 肢体不自由児通園施設の通所サービスは,障害児通所支援となった。

4 放課後等デイサービスは,児童デイサービスとなった。

5 第一種自閉症児施設の入所サービスは,医療型児童発達支援となった。


この問題は第26回です。つまり平成26年1月に実施されたものです。


それに対してこの問題は,平成24年4月に施行されたも法改正を出題しています。

これでわかるように,最新の法改正はまず出題されない,ということです。


それにもかかわらず,「何月までに成立したものは出題されるよ。押さえておいてください」と言う先生が多いこと多いこと。


その先生が資格を取った昔はそうだったかもしれませんが(昔の問題がどうなっていたのかはわかりません),今はほとんど出題されない時代です。


前のカリキュラムの国試よりも科目数が少なく,1科目あたりの問題数が多かったために,最新の改正などを出題しやすかったのかもしれません。


いずれにしても出るか出ないかわからないものに時間をかけるよりも出題される確率の高いものをしっかり押さえた方が,国試合格のためには重要な気がします。


中途半端な知識が4,000あるよりも,確実な知識が2,000あった方が,国試では間違いなく得点は伸びます!


2012年の改正ポイントは,従来は障害種別に分かれていたことから,身近な地域で支援が受けられるように障害児施設を一元化したことです。


障害児通所支援は,従来の児童デイサービス,知的障害児通園施設,難聴幼児通園施設,肢体不自由児通園施設,重症心身障害児通園事業を再編し,児童発達支援(福祉型,医療型),医療型児童発達支援,放課後等デイサービス,保育所等訪問支援となりました。


この時創設されたのは放課後等デイサービスと保育所等訪問支援です。


障害児入所支援のうち,福祉型は,従来の知的障害児施設・第2種自閉症施設・盲ろうあ児施設・肢体不自由児療護施設を再編したもの,医療型は,第1種自閉症施設・肢体不自由児施設・重症心身障害児施設を再編したものです。


そのほかの改正ポイントでは,障害児相談支援事業があります。


障害児通所支援で利用します。障害児入所支援では利用しません。窓口は障害児相談支援事業者で市町村が指定します。


特定相談支援事業者ではありませんので注意しましょう。


児童福祉法は,平成28年にも改正されています。


このときの改正の趣旨は以下のとおりです。


 全ての児童が健全に育成されるよう,児童虐待について発生予防から自立支援までの一連の対策の更なる強化等を図るため,児童福祉法の理念を明確化すると ともに,子育て世代包括支援センターの法定化,市町村及び児童相談所の体制の強化,里親委託の推進等の措置を講ずる。


さて,それでは詳しくみていきましょう。


1 障害児入所支援費は,市町村に支給申請をすることとなった。


児童福祉法は,かなりの頻度で改正されてきています。その時々の要請に合わせて改正されてきたからこそ,1947年にできた古い法律ですが,今日まで生き延びてきたのだと思います。


この時の改正では,入所支援と通所通所に再編されました。


支給申請は,通所支援は市町村,入所支援は都道府県となります。


よっで×。


市町村と都道府県の役割を整理してみると,市町村は基礎的自治体としてサービスを提供し,都道府県が市町村の支援する,ととらえるのがよいと思います。


2 情緒障害児短期治療施設の入所サービスは,障害児入所支援となった。


情緒障害児短期治療施設は,平成29年4月から児童心理治療施設と名称が変わっています。


旧名には短期という名称がついていましたが利用期間に定めはありません。


入所だけではなく,通所で利用していることもあります。


施設のことを理解しておけば,入所支援というのはちょっと変だな,と思えるのではないでしょうか。

児童心理治療施設は再編されていません。


よって×。



3 肢体不自由児通園施設の通所サービスは,障害児通所支援となった。


これが正解です。


4 放課後等デイサービスは,児童デイサービスとなった。


児童デイサービスは,放課後等デイサービスと児童発達支援に再編されています。


よって×。


5 第一種自閉症児施設の入所サービスは,医療型児童発達支援となった。


医療型児童発達支援は,障害児通所支援です。


第一種自閉症児施設の入所サービスは,障害児入所支援に再編されています。


よって×。


<今日の一言>


短期間で得点力を伸ばせるのは法制度です。丸暗記が通用するからです。

しかし国試突破には,想像力=創造力が必要です。これには訓練が必要です。


私たちと一緒に想像力=創造力をはぐくんでいきましょう。

2024年4月14日日曜日

国,都道府県,市町村の役割の覚え方

法制度は,領域が違っても共通項があります。

国,都道府県,市町村の役割もその一つです。


地方自治法では以下のように定められています。


第一条の二  地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。

○2  国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。


基本的には,国が資本指針を定めて,基礎的自治体である市町村がサービス提供を行い,都道府県は,広域的な立場から指定や人材育成等を行って市町村の支援を行っています。


これらを押さえながら今日の問題を見ましょう。


第26回・問題58 

「障害者総合支援法」における行政の役割に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 都道府県知事は,障害福祉サービス事業者の指定を行う。

2 地域生活支援事業の実施については,市町村は必ず行わなければならないが,都道府県はその判断に任されている。

3 厚生労働大臣は,「障害福祉サービス等の提供体制を整備するために障害者基本計画を定める。

4 都道府県知事は,障害福祉サービス受給者証を交付する。

5 都道府県は,基幹相談支援センターを設置しなければならない。


国,都道府県,市町村の役割についての出題です。


先ほどの知識で推測できるもの,他領域の似たような制度から推測できるもの,障害者総合支援法を知らなければわからないものに分けられます。


なるべく法則を見つけて,「効率的」そして「確実」に押さえていくことが,こつです。


それでは詳しく見ていきましょう。


1 都道府県知事は,障害福祉サービス事業者の指定を行う。


障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)は介護保険を参考に作られたことは以前述べました。


そのため,とてもよく似た制度となっています。


高齢者分野で働いている人は,介護保険を下敷きにして,どこが同じでどこが違うのかを押さえていきましょう。



障害福祉サービス事業者の指定は,都道府県の役割です。


よって正解です。



介護保険と違って,地域密着型サービスがないので,ここはシンプルです。


この先がちょっと複雑になります。


地域計画相談(地域移行支援・地域定着支援)事業所の指定は都道府県。

計画相談支援(サービス利用支援・継続サービス利用支援)事業所の指定は市町村。


地域計画相談は介護保険にはないもので,病院・施設等から地域生活に移行し定着するための支援事業です。指定されるのは指定一般相談支援事業者です。


計画相談支援は,介護保険では居宅介護支援にあたります。指定されるのは,指定特定相談支援事業所です。



2 地域生活支援事業の実施については,市町村は必ず行わなければならないが,都道府県はその判断に任されている。


地域生活支援事業は,介護保険の地域支援事業にあたるものです。


地域生活支援事業には,市町村,都道府県ともに必須事業と任意事業があります。


よって×。


市町村事業と都道府県事業の違いは,市町村事業は,障害者が地域生活を送るために必要な支援を行うのに対し,都道府県事業は専門性の高い支援しているのが特徴です。


3 厚生労働大臣は,「障害福祉サービス等の提供体制を整備するために障害者基本計画を定める。


障害者に関する法律は,障害者基本法と障害者総合支援法を整理する必要があります。


計画に関しては・・・


障害者基本法は,


国・・・・・・障害者基本計画

都道府県・・・都道府県障害者計画

市町村・・・・市町村障害者計画



障害者総合支援法は,


国・・・・・・基本指針

都道府県・・・都道府県障害福祉計画

市町村・・・・市町村障害福祉計画



障害者総合支援法において国が策定するのは「基本指針」です。


よって×。



4 都道府県知事は,障害福祉サービス受給者証を交付する。



これも介護保険と同様ですね。


都道府県知事ではなく市町村長なので×。



5 都道府県は,基幹相談支援センターを設置しなければならない。



基幹相談支援センターは,介護保険では地域包括支援センターに相当するものです。


設置者は介護保険と同じ市町村です。


よって×。


委託できるのも同じですが,介護保険と違うのは,地域包括支援センターの設置は任意であるのに対し,基幹相談支援センターの設置は,努力義務であることです(令和4年~)。


<今日の一言>


勉強していくと知識がつながっていきます。それまでは辛いですが,耐えて耐えて辛抱して勉強を続けていきましょう!

2024年4月13日土曜日

法制度は勉強したらすべて得点力になる!

社会福祉士の国試の特徴は,出題範囲が広いことです。


中心は法制度


歴史・人名が苦手だと思う人は,法制度はしっかり押さえておきたいです。


歴史・人名を覚えることに時間をかけすぎて,本来得点していかなければならない法制度系の勉強時間が少なくなってしまうことは絶対に避けなければなりません。


法制度は,知っているか知っていないか,の差です。

法制度は,勉強した分が得点力になります。


今日は,障害者福祉の問題です。中心は障害者総合支援法です。


法の目的,支給決定のプロセス,サービス内容の種類,配置職員,サービス事業者の指定,審査請求制度は絶対に覚えておかなければならないものです。


障害者分野にいない人にとってはなじみがないものが多いかもしれません。

しかし,法体系は介護保険を参考にして作られた経緯があるだけに,似た部分があります。


高齢者分野に従事する人は両制度の同じようなところ,違うところを比較しながら覚えていくと理解しやすいと思います。



それでは,今日の問題です。


第26回・問題57 

「障害者総合支援法」に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 就労移行支援は,通常の事業所に雇用されることが困難な障害者に対して,雇用契約の締結等による就労の機会を提供するとともに,必要な訓練等の便宜を供与することである。

2 障害福祉サービスの利用者負担額と補装具の利用者負担額を合算して一定の額を超える場合,特定障害者特別給付費が支給される。

3 市町村は,地域生活支援事業としてサービス管理責任者研修を実施し,事業所や施設のサービスの質の確保を図らなければならない。

4 市町村は,介護給付費の支給申請があったときは,障害者又は障害児の心身の状況,その置かれている環境等について調査を実施し,要介護認定を行わなければならない。

5 障害者又は障害児の保護者の居住地が明らかでないとき,介護給付費の支給決定は,現在地の市町村が行う。


障害者総合支援法は,障害者自立支援法を改正して2012年に成立しました。自立支援法は2010年に改正されていますが,その時に相談支援が強化されています。


障害者総合支援法には,自立支援給付と地域生活支援事業があります。


この部分は介護保険とそっくりですね。

それでは詳しく見ていきましょう。


1 就労移行支援は,通常の事業所に雇用されることが困難な障害者に対して,雇用契約の締結等による就労の機会を提供するとともに,必要な訓練等の便宜を供与することである。



障害者自立支援法が成立したときの特徴はいくつかありますが,特にサービスを日中活動と生活の場に分けたこと,就労支援を強化したことがあります。


出題される障害者の就労支援に関する法律は,障害者雇用促進法,そして障害者総合支援法の2つがあります。


それらをしっかり覚えておきたいです。このように書くと難しそうに感じるかもしれませんが,総合支援法によるものは,訓練等給付の就労支援事業が中心なのでとてもシンプルです。


これ以外が障害者雇用促進法によるものとなります。


障害者総合支援法による就労支援は,


就労移行支援事業


就労継続支援事業(A型・B型)


などがあります。


就労移行支援は,一般企業等への就労を希望する人に,一定期間,就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行うものです。利用期間には定めがあります。


就労継続支援事業は,一般企業等での就労が困難な人に,働く場を提供するとともに,知識及び能力の向上のために必要な訓練を行うものです。利用期間の定めはありません。


A型は雇用型,B型は被雇用型です。



さて,問題に戻ります。

雇用契約の締結等と書かれているので,就労継続支援A型だとわかります。


よって×。


2 障害福祉サービスの利用者負担額と補装具の利用者負担額を合算して一定の額を超える場合,特定障害者特別給付費が支給される。


特定障害者特別給付費は,低所得の障害者が入所等のサービスを受けた時,食事または居住にかかる費用に対して支給されるものです。


よって×。


3 市町村は,地域生活支援事業としてサービス管理責任者研修を実施し,事業所や施設のサービスの質の確保を図らなければならない。


福祉サービス従事者に関する研修のほとんどは市町村ではなく,都道府県です。


サビ管研修も都道府県です。


よって×。


研修でも市民を対象とするものは,市町村です。例えば,市民後見人育成などです。


4 市町村は,介護給付費の支給申請があったときは,障害者又は障害児の心身の状況,その置かれている環境等について調査を実施し,要介護認定を行わなければならない。



要介護認定は介護保険制度です。障害福祉サービスのうち,介護給付の支給を希望する場合は,障害支援区分認定を受けます。


よって×。

訓練等給付を受ける場合,障害支援認定は行いません。


5 障害者又は障害児の保護者の居住地が明らかでないとき,介護給付費の支給決定は,現在地の市町村が行う。


介護給付費の支給決定は市町村が行います。

居住地が明らかでないときも同じです。



よって正解。


〈今日のまとめ〉


領域別の科目は,その専門領域にいないととても難しく感じることと思います。

クライエントの多様なニーズに対応するためには,自分の専門領域だけではなく,多領域に精通していたほうが良いです。


現代はジェネラリスト・ソーシャルワークを求めています。社会福祉士はまさにそれができます。社会福祉士がその役割を果たせないとしたら,スペシャリストの枠から抜け出せないことになります。


多領域の制度を広く知っていることが,時代が求める社会福祉士になることにつながります。


なじみのないものを学ぶのは大変ですが,頑張って覚えていきましょう!!

2024年4月12日金曜日

国試合格に向けて~社会保障は中心の科目

我が国の社会保険制度は5つ


社会保障制度審議会50年勧告で述べられたように日本の社会保障の中心は,社会保険です。


今見てきている「社会保障」は,5つある我が国の社会保険制度のすべてを学ぶ科目です。


先日「社会保障を制する者は国試を制する」と書いたように,この科目はとても重要です。


ほかの科目とつながる内容も多いため,勉強を積み重ねていれば,ほかの科目でも点数が取れていくようになるでしょう。


さて,今日の問題で取り上げるものは我が国最初の社会保険となった医療保険です。


戦前にはその原型が出来上がっています。


1922年にブルーカラーを対象とした健康保険法,1938年に農林水産業等従事者などを対象とした国民健康保険法が成立しています。


健康保険法は労働争議対策,国民健康保険は屈強な兵士を送り出すためにできたものです。


年金保険と同じく複数の制度で国民皆保険を実現しています。制度は複雑ですが,おそらく相談援助職にとって最も身近で使う知識だと思います。


また自分自身でも使うことも多いことでしょう。ゼロからの知識の積み上げでないので,知っていることを手掛かりに覚えていきましょう。


それでは今日の問題です。


第26回・問題55

健康保険の給付に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 健康保険組合は,人間ドックなどの健康診査を療養の給付の対象とすることができる。

2 受診時の自己負担の額は,被保険者本人については3割であるが,被扶養者である義務教育就学前の児童については1割となっている。

3 高額療養費は,1年間に被保険者が支払った健康保険と介護保険の自己負担額の合計が基準額を超えた場合に支給される。

4 薬事法上は承認されたが,薬価基準に収載されておらず医療保険が適用されない医薬品を用いて治療を行う場合,保険外併用療養費が支給されることがある。

5 被保険者本人が出産した場合には,出産手当金が支給されるため,出産育児一時金は支給されない。


日本の平均寿命が延びてきた理由の一つは,国民皆保険があるからと言えます。

皆保険ではなかった時代には,病院にかかることは容易ではなかったことでしょう。


日本の医療保険は,保険証を提示すれば保険指定の医療機関ならどこでも自由に診療を受けることができるフリーアクセスが特徴です。


そのために国民医療費が年々上昇することにもつながっています。


しかし国際比較では日本のGDP比は決して高い部類ではありません。



さてこの問題は医療保険の中の健康保険制度に関する問題です。


健康保険制度は,中小企業の従業員が加入する協会けんぽ。主に大企業の従業員が加入する健康保険組合(健保組合)。公務員等が加入する共済組合があります。


それでは詳しく見ていきましょう。


1 健康保険組合は,人間ドックなどの健康診査を療養の給付の対象とすることができる。


健保組合は,先述のように主に大企業の従業員が加入する制度です。


協会けんぽと違って,法定給付のほかに付加給付を設けることができる,保険料は組合独自に決める,などがあります。


療養の給付とは,被保険者が業務以外で病気やけがをしたとき,健康保険で治療を受けることです。


ここで「被保険者が業務以外」と書いたのは,業務上で病気やけがをした場合は,労災により給付を受けるためです。


健康保険よりも労災保険の方が優先されるので,労災なのに健康保険を使ってはなりません。


ところが労災保険にはメリット制があるため,事業場では労災を起こしたくありません。保険料が上がってしまうためです。


そこで行われるのが労災隠しです。労災隠しは犯罪です。


話を戻します。


療養の給付の範囲は以下のように定められています。


・診察

・薬剤または治療材料の支給

・処置・手術その他の治療

・在宅で療養する上での管理,その療養のための世話,その他の看護

・病院・診療所への入院,その療養のための世話,その他の看護


健康診査は療養の給付には含まれません。


よって×。


ただし,健保組合は療養の給付以外にも自由に付加給付を定めることができます。


そのため,組合によっては検診も付加給付するところもあるかもしれません。


協会けんぽには付加給付がありません。



2 受診時の自己負担の額は,被保険者本人については3割であるが,被扶養者である義務教育就学前の児童については1割となっている。



子どもがいないからこういう問題は不利だと思う人もいるかもしれません。


しかし制度をしっかり知らず中途半端な知識だったらこの手の問題は引っ掛けられてしまいます。そのため子どもがいてもいなくてもそんなに変わらないと感じます。



義務教育就学前の児童の自己負担の額は,現在は2割です。


よって×。


なぜ子どもがいると引っ掛けられてしまいやすいかというと,子育て支援は自治体の重要な施策であるため,中学生までの医療費の自己負担分の給付,義務教育就学前の児童の自己負担の1割分を補助,など自治体によってさまざま実施されていることがあるからです。


3 高額療養費は,1年間に被保険者が支払った健康保険と介護保険の自己負担額の合計が基準額を超えた場合に支給される。


高額療養費制度は,この科目よりも「保健医療と福祉」の出題範囲です。


高額療養費制度は,1か月の自己負担額が基準額を超えたとき,超えた分が償還払いされるものです。多数該当や世帯合算などがあります。


健康保険と介護保険の自己負担額の合計が基準額を超えた場合に支給されるのは,高額介護合算療養費です。


よって×。


 4 薬事法上は承認されたが,薬価基準に収載されておらず医療保険が適用されない医薬品を用いて治療を行う場合,保険外併用療養費が支給されることがある。



保険外併用療養費もどちらかと言えば「保健医療と福祉」の出題範囲です。


ほかの科目と緊密に関連しあっているのがわかるでしょう。


保険外併用療養費には「評価療養」「選定療養」「患者申出療養」があります。


評価療養は,先進医療や治験にかかる診療です。


選定療養は,差額ベッド代,予約診療などです。


患者申出療養は,未承認薬等を将来的に保険適用するデータ,科学的根拠を集積することを目的としたもの。基礎部分は保険給付ですが,特別料金の部分は自己負担です。評価療養が行われていないなどで,被保険者が申し出ることで行われる意味で,患者申出療養と呼ばれます。


薬価基準に収載されておらず医療保険が適用されない医薬品を用いて治療を行う場合は,評価療養になる場合があります。


よって正しいことになります。


5 被保険者本人が出産した場合には,出産手当金が支給されるため,出産育児一時金は支給されない。


出産手当金は,被保険者本人が出産のために会社を休んだ場合に給付されるものです。しかし,事業主から給料が支払われる場合は,その金額によって減額あるいは給付されないこととなります。


一方,出産育児一時金は,被保険者本人あるいはその被扶養家族が出産した場合,給付されるものです。双子を出産した場合は2倍となります。


出産手当金は所得補償,出産育児一時金は出産費用支援,というように給付目的が違います。併給されないのはつじつまが合わないことになってしまいます。


もちろん併給できます。


よって×。


出産・育児支援は子ども・子育て支援新制度よりも以前から存在していますが,今の社会保障制度改革は全世帯対応型を掲げているだけに重要です。

2024年4月11日木曜日

安全第一は誰のため?

 福祉の歴史に関する問題の多くは,イギリスに関連するものです。


それは,イギリスが産業化の過程で経験してきた多くの失敗,成功の歴史は,現代に脈々と受け継がれているからにほかなりません。


歴史は苦手な人も多いと思いますが,イギリスを中心に据えて比較すると覚えやすいものもあります。


ぜひ工夫してみてください。


前回の労災保険について,一つ補足です。


建設現場や工場などで「安全第一」と書かれているものを見たことはないでしょうか。


労災保険は,労働者保護のためのものである,と何度も書きました。


もちろん労働者のための「安全第一」ですが,雇用者側にとっては保険料を上げないための意味があります。


前回の「国の役人は頭が良い」というのは,そのバランスを考えたシステムをつくったという意味で書きました。


さて,それでは今日の問題です。


第26回・問題54 

事例を読んで,障害年金制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事例〕

Lさんは,大学在学中に20歳となり国民年金の第1号被保険者となったが,学生納付特例制度を利用し,国民年金保険料の納付は行っていなかった。大学卒業後に民間企業に就職したが,入社1年後に精神疾患の診断を受け,療養のために退職した。Lさんは障害年金を受給したいと考えている。

1 Lさんが,国民年金法が定める障害等級2級に該当すると認定を受けたとしても,学生納付特例制度により納付を猶予された保険料を初診日の前に追納していなければ,障害基礎年金は支給されない。

2 障害認定日に障害の状態に該当しないとされた場合であっても,10年後に裁定請求し障害等級2級と認定されたときは,Lさんに対して障害基礎年金が支給される。

3 Lさんが障害厚生年金を受給するためには,精神疾患による障害認定日が厚生年金保険の被保険者期間内でなければならない。

4 精神疾患による障害が,国民年金法が定める障害等級2級に該当する場合,Lさんに支給される障害基礎年金の支給額は老齢基礎年金の満額の1.25倍となる。

5 Lさんの精神疾患が業務災害によるものであり,労災保険から障害補償年金が支給される場合,Lさんに対して障害基礎年金は支給されない。


我が国の5つの社会保険のうち,制度が複雑なのは,医療保険と年金保険だと思います。


制度は細かいですが,社会福祉士は社会保険労務士ではないので,細かい制度までは知る必要はありません。


制度の骨格を押さえておけば,何とか対応できるものが多いように思います。


ミクロの視点で見ていたらわかりにくいかもしれません。


社会保障はマクロの視点でとらえるのが大切です 

今日の問題は,年金保険です。


年金保険の歴史を少し見ていきますね。


年金保険の始まりは,戦費調達のために,1941年のいわゆるブルーカラーを対象とした労働者年金保険法です。


1944年にホワイトカラー,女性に対象を拡大し,厚生年金保険法に改称し,現在に至ります。


農林水産業者や自営業者などに対する年金は,1954年に国民年金法が成立し,1961年に施行されました。これによって国民皆年金が実現しています。この時に公務員の恩給が共済年金に変わっています。


この当時は既に国民の平均寿命は長くなり始めていましたが,男女ともに70歳には至らず,定年後10年あまりで亡くなる時代。社会保障関係費の内訳では,なんと生活保護費が最も多い時代でした。


昭和60年に,基礎年金が導入され,各制度間の格差の均衡を図ります。

そして平成27年10月に共済年金が厚生年金に一元化されました。


それでは,詳しく見ていきましょう。


1 Lさんが,国民年金法が定める障害等級2級に該当すると認定を受けたとしても,学生納付特例制度により納付を猶予された保険料を初診日の前に追納していなければ,障害基礎年金は支給されない。


障害年金に関するものです。


年金保険には,老齢年金,障害年金,遺族年金があります。


老齢基礎年金と障害基礎年金・遺族基礎年金の大きな違いは,老齢基礎年金は40年間保険料を納付した場合に満額支給され,期間が短くなるにつれて減額制がとられているものに対し,障害基礎年金・遺族基礎年金は定額制で減額制は取られていないことです。


それでは話を戻します。


Lさんは,学生時代に「学生納付特例制度を利用し,国民年金保険料の納付は行っていなかった」とのことです。


その後,民間企業に就職しているので,その時に保険料を納付していると考えられます。

障害基礎年金は短い納付期間であっても,定額制なので満額支給されます。


よって×。


2 障害認定日に障害の状態に該当しないとされた場合であっても,10年後に裁定請求し障害等級2級と認定されたときは,Lさんに対して障害基礎年金が支給される。


これはちょっと難しいです。


とりあえず▲を付けておきます。


調べてみると,これは事後重症請求と言うそうです。65歳まではできるとのことです。

よって正解。しかし,この時点ではまだ確定していません。


 

3 Lさんが障害厚生年金を受給するためには,精神疾患による障害認定日が厚生年金保険の被保険者期間内でなければならない。


障害認定日とは,初診日から1年6か月です。


障害認定日ではなく,初診日なので×。


4 精神疾患による障害が,国民年金法が定める障害等級2級に該当する場合,Lさんに支給される障害基礎年金の支給額は老齢基礎年金の満額の1.25倍となる。


障害基礎年金が1級の場合は,老齢基礎年金の1.25倍となります。2級の場合同額です。これは厚生年金も同じです。よって×。


老齢年金と違い,障害年金に加算があるのは,老齢年金の場合は,若いうちには働いているので,蓄えはあると考えられることに対し,障害年金の場合は,中途障害でなければ,基礎年金がすべての収入であることが考えられます。


とても厳しい生活を強いられるのが想像つきます。


それにもかかわらず,障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)ができたときは,介護保険と同じように,サービス利用に対し,定率の利用者負担(応益負担)を課しました。


これが問題となり,応能負担に変わりました。

しかしこれだと実質的に措置制度の時代とそれほど変わりません。


権利として利用するという意識に変わるためには,応益負担は変えず,障害年金を上げるということを主張すべきだったのではないか,とも思ったりします。


これと同じように,生活保護の給付が最低賃金よりも高いということが問題となり,生活扶助の給付水準の引き下げを行いました。しかし,生活保護は,最低限の生活保障のわけですから,引き下げるのではなく,最低賃金を上げるようにすべきだったのではないでしょうか。


この時は,売れっ子芸能人の身内が生活保護を受けていることが社会的なバッシングを受け,その社会的な空気の中で引き下げが行われました。


世帯人数が多い場合は,逆転現象が起きますが,生活保護世帯の多くは,一人世帯です。

一人世帯では逆転現象は起きていませんでした。


国の役人はそのことは示さず,タイミングを図って引き下げを実施しました。ちょっと残念な出来事です。


5 Lさんの精神疾患が業務災害によるものであり,労災保険から障害補償年金が支給される場合,Lさんに対して障害基礎年金は支給されない。


労災保険は,労働者保護のためのものです。障害補償年金と障害基礎年金は併給できます。


この場合は,障害基礎年金は全額給付され,障害補償年金が減額調整されます。


よって×。


ただし,注意が必要なのは,20歳以前に障害があり,20歳になって障害基礎年金が給付されている場合,障害補償年金が給付されると障害基礎年金は全額停止となります。


なぜなら,20歳以前の障害で障害基礎年金の給付には所得制限があるからです。


年金保険は,制度が複雑なので覚えることが多く大変ですが,過去問や模擬問題などで慣れておきましょう。

2024年4月10日水曜日

「社会保障」は絶対に押さえておきたい基本科目です!

 歴史を覚えるのが苦手


このように感じる人は多いのではないでしょうか。


今ある制度を覚えるのも大切です。


それと同時に過去から学ぶものもたくさんあります。


社会福祉士の国試に出る歴史で最も古いものでは,せいぜいエリザベス救貧法,日本では恤救規則です。


さて,今見てきている科目は「社会保障」です。法制度の科目ですね。


社会保障は,すべての法制度系科目の中で最も中心をなす科目です。

とは言っても,歴史も含まれます。


もしかすると,国試勉強の入り口にすべき科目かもしれません。


特に歴史を覚えるのが苦手,と思う人にとっては,歴史は過去のものではなく,今につながっていることを実感できる科目になるはずです。


法制度も歴史も含めた総合力をつけるための科目として,とても重要な科目と言えます。


参考書等を見るととても複雑で深い知識が必要に見えるかもしれません。

しかしそれは,ある一部分だけを見ているからにほかなりません。


社会福祉士には,社会保険労務士のような細かい法制度を問われることはまずありません。なぜなら社会保険労務士は法制度を知らないと仕事はできませんが,社会福祉士にとっての法制度はソーシャルワークに役立てるためのものだからです。


「変わったところは出るから,押さえておきましょう」とおっしゃる先生もいます。


しかし現行カリキュラムになって,科目数が増えたことにより,一科目あたりの問題数は少なくなった中,マクロ的に重要な変更は出題するかもしれませんが,そんなに大きな変更でなければ出題されることはまずありません。


この科目は,社会保障制度の骨格をなすものです。


どんなに勉強しても勉強しなかったことが出題されます。そのとき「わからない。困った」となるのと「それは〇〇の流れの中になるので,〇〇かもしれない」と推測できるのでは,結果は大きく変わることでしょう。


特に何回か受験して,毎回数点差で涙を流している方は,骨格を理解すると良いと思います。


その点で,「社会保障」はとても重要な科目です。


前置きが長くなってしまいました。それでは,今日の問題です。



第26回・問題53

事例を読んで,労働者災害補償保険制度(以下「労災保険」という。)に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 W国から日本に来たKさんは,家電量販店を営むP社に雇用され,その指揮命令を受けて,積み下ろし作業をしていたところ,荷物が崩れて大けがをした。

1 Kさんが留学生であり,アルバイトとして働いていた場合,労災保険は適用されず,労災保険給付は行われない。

2 Kさんが故意に負傷の原因となった事故を生じさせた場合であっても,労災保険給付は行われる。

3 荷崩れの責任がP社にある場合,Kさんは,労災保険給付の価額の限度を超える損害について,民事損害賠償を請求できる。

4 P社が労災保険のための保険料を滞納していた場合,Kさんには労災保険給付は行われない。

5 Kさんの負傷が業務上の災害に当たると認定されても,KさんがW国に帰国した場合には労災保険給付は行われない。


日本における労働者に対する施策は,1911(明治44)年の工場法に始まります。


同法では,年少者の就業制限,年少者・女子の労働時間制限,業務上の事故に対する雇用者の扶助義務などを定めたものです。15人以上の労働者が常時使用されている工場に限定されたもので,小さな工場には適用されませんでした。


同法は,労働者保護という面ももちろんありますが,労働争議を押さえ,産業発展させる意味合いの方が強かったと思われます。


その後,1922(大正11)年に我が国で最初の社会保険となる「健康保険法」が制定されます。


今年(2017)は,ロシア革命から100年の節目の年です。日本でも当時は労働争議が盛んであり,時の指導者はその対策に大変頭を悩ませたことでしょう。


話をすすめます。


我が国において,労働政策が大きく前進したのは,第二次世界大戦後のことです。


労働契約のルールと最低基準を定めた労働基準法が制定され,失業保険法(現在の雇用保険法),労働者災害補償保険法が制定されていきます。


日本の社会保険は,現在5つあります。


そのうち,医療保険と年金保険は戦前にできたもの,雇用保険と労災保険(2つ合わせて労働保険)は戦後すぐ,そして介護保険は20世紀の最末期(2000年は20世紀)にできています。


医療保険は当時吹き荒れた労働争議への対抗措置,年金保険は戦費調達のためです。


この2つは,いろいろな制度を合わせて国民皆保険・皆年金を成しているため,複雑な制度となっています。


それに対して,戦後にできた労働保険は,戦前の工場法などを廃止して,労働者保護のために新しくつくった制度なので,とてもシンプルです。


そのため,覚えることが少なくて楽です。


労働保険は必ず出題されます。確実に覚えておきたい制度です。


それでは詳しく見ていきましょう。


1 Kさんが留学生であり,アルバイトとして働いていた場合,労災保険は適用されず,労災保険給付は行われない。


1911年の工場法は,15人以上を常時雇用する工場に適用される極めて対象が狭いものでした。


戦後にできた労災保険は,被用者として雇用されるすべての事業所に適用し,労働者保護を図っています。そのため国籍も雇用形態も業種もかかわりなくすべての労働者が対象です。


労働保険は,労働者保護のための保険である


これを頭に叩き込んでおきましょう。特に労災保険の場合は,その基準で問題を見ると多くの問題は解けます。


話を戻します。


Kさんは留学生で,アルバイトをしています。労災保険は国籍,雇用形態を限定しません。

当然Kさんにも適用されます。


よって×。


2 Kさんが故意に負傷の原因となった事故を生じさせた場合であっても,労災保険給付は行われる。


労災保険は,労働者保護のための保険です。


不注意による事故は保障されますが,故意に生じさせた事故まで保障する意味がありません。給付された後に故意であることが判明した場合,責任が生じることは免れません。


故意によるものは給付されません。これは医療保険も同じです。


よって×。


3 荷崩れの責任がP社にある場合,Kさんは,労災保険給付の価額の限度を超える損害について,民事損害賠償を請求できる。


労災保険は労働者保護のためのものであり,給付されることをもって雇用者側が免責されるわけではありません。


労災保険はあくまでも労働者保護のものであり,雇用者側のものではありません。その視点を持ち合わせていれば,正誤を判断する際,間違いは起きないと思います。


もちろんこの選択肢が正解です。


4 P社が労災保険のための保険料を滞納していた場合,Kさんには労災保険給付は行われない。


労災保険は,労働者保護のためのものです。雇用者側の都合によって給付されたり,給付されなかったりしたら大変なことになります。


もちろん滞納していても給付されます。国は滞納分を雇用者側に請求しますが,滞納分が徴収できなくても給付されます。そうでなければ,労働者保護の意味がなくなります。


5 Kさんの負傷が業務上の災害に当たると認定されても,KさんがW国に帰国した場合には労災保険給付は行われない。


労災保険は労働者保護のためのものです。


Kさんが留学中は給付されても,留学を終えて帰国すると給付されない,というのは制度の性格から妥当とは言えないでしょう。


日本は,難民条約を批准した際に,年金の国籍要件を撤廃するなどを行いました。そのため帰国しても給付できるようになっています。


労災保険は,業務災害と通勤災害を補償するものです。制度ができた頃は業務災害に適用されていました。通勤災害は昭和45年の法改正時に適用されるようになったものです。


時代は高度経済成長の真っただ中。一億総中流意識となり,モータリゼーションが急速に進んだ時代です。


今となっては死語ですが「交通戦争」と呼ばれた時代です。近年では老朽化して撤去されることが多くなった歩道橋が多く設置されたのもこの時代です。


制度は最初からあるわけではありません。


誰かが起きている事象を問題視することで問題が明らかになり,それを政府に働きかけることで法制度ができたり,法制度がないためにクライエントのニーズ充足のために何かのサービスを始めた結果,国が認めてフォーマルサービスになることもあります。


歴史はその連続です。


現在はそれによって成り立っています。そして未来はその延長線上にあります。


その意味で,歴史を知っておくことは,未来を考えることにもなります。


補足です。


労災保険の特徴は,災害の発生率によって保険料が上下する「メリット制」です。


雇用者側に積極的に労災防止の意識を高めるためのものだと言われています。


しかしメリット制は制度ができた当初からあったわけではありません。制度ができた後,保険財政が赤字になり,その収支を改善するためにできたものです。


国の役人はいつの時代も頭が良いものです。

2024年4月9日火曜日

「あいまい表現に正解多し」リバイバル

 理論系問題の時に,「言い切り表現に正解少なし」「あいまい表現に正解多し」が何度も出て来ましたね。


もし覚えていない人がいたら,検索機能を使って,振り返ってみてくださいね。


法制度は,線引きがはっきりしているので,すべてが「言い切り表現」になっていても,その中に正解選択肢を配置することはできます。


今日の問題は,そういう意味では珍しい問題と言えます。さてそれでは改めて今日の問題です。


第26回・問題52 

社会保険の適用対象や給付と負担に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 国民年金の被保険者としての期間がなかった者でも,国民年金法に定める給付を受けられる場合がある。

2国民健康保険は,農業者や自営業者等を対象とするものであり,事業所に使用される者は対象とはならない。

3 国民年金の第3号被保険者は,専業主婦など夫に扶養されている妻を対象とする制度であり,妻に扶養されている夫は対象にならない。

4 健康保険法及び厚生年金保険法で定める標準報酬月額の上限は,同一である。

5 生活保護を受けている者は,介護保険の保険料を拠出できないので,介護保険に加入できない。


日本の社会保険は5つの制度があります。


年金保険

医療保険

介護保険

労働者災害補償(労災)保険

雇用保険


この5つの社会保険はドイツと同じです。


ドイツの社会保険が日本と違うのは・・・


医療保険は皆保険ではない

介護保険には公費負担がない


などがあります。


さて,それでは,詳しく見ていきましょう。


1 国民年金の被保険者としての期間がなかった者でも,国民年金法に定める給付を受けられる場合がある。


これはちょっと頭を使わなければなりません。

国民年金(基礎年金)は,20歳以上60歳未満に加入が義務づけられる国民皆年金となっています。


国民年金の受給資格は免除期間などを含めて,以前は25年以上あることとなっていました。

それが,2017年8月から,この期間が一挙に10年に短縮されました。

老齢基礎年金の場合,10年の被保険者としての期間がなければなりません。


老齢基礎年金では問題文の条件を満たすものが見つけられないので,障害基礎年金,あるいは遺族基礎年金,あるいは両方に給付を受けられる場合を考えてみます。


「国民年金」と聞いて老齢基礎年金しか思い浮かばなければ,正解にたどり着くのは困難です。


逆に・・・


障害基礎年金,あるいは遺族基礎年金と聞いて,ピーンときた方は,かなり勉強が進んでいると言えます。この調子で頑張りましょう。


さて,まずは障害基礎年金の場合です。


所得制限はありますが,20歳未満で障害状態となった場合,20歳になると障害基礎年金が受給できます。この時点でこの選択肢は正解だとわかります。


次に,遺族基礎年金の場合です。


老齢基礎年金受給者等が死亡した場合,その者に生計維持されていた未婚の18歳未満の子(あるいは18歳未満の子がいる配偶者)に対して,遺族基礎年金が給付されます。18歳未満の子に給付される場合は,もちろん被保険者ではありません。


つまり,老齢基礎年金も遺族基礎年金も,国民年金の被保険者としての期間がなくても,受給できる場合があります。


よって正解です。


2 国民健康保険は,農業者や自営業者等を対象とするものであり,事業所に使用される者は対象とはならない。



国民健康保険は農林水産業者や自営業者

健康保険はサラリーマン


というように単純に覚えていると,引っ掛かる人もいるかもしれません。


健康保険はすべての労働者を対象にしているものではありません。


短時間労働者などは,健康保険には加入せず,国民健康保険に加入することとなります。


よって×。


3 国民年金の第3号被保険者は,専業主婦など夫に扶養されている妻を対象とする制度であり,妻に扶養されている夫は対象にならない。


第3号被保険者は,サラリーマンの妻


というのが一般的な認識でしょう。勉強が不十分な人は,一般的な認識によって解答しようとします。


しかし,正しい「第3号被保険者」は・・・


第2号被保険者に扶養されている配偶者(20歳以上60歳未満)


つまり,妻も夫も対象です。よって×。


一般的な認識と正しい事実にずれがあるものは,国試で出題されやすいこととなります。


このような問題は勉強している人は解けますし,勉強が足りない人は間違えます。試験センターが最も理想的とする形です。


勉強するうえで「おやっ?」と思ったものは,ほかの人も「おやっ?」と思う率が高いです。それらはしっかり覚えておきたいです。


ちなみに第3号被保険者の保険料は,第2号被保険者全体で負担しています。



4 健康保険法及び厚生年金保険法で定める標準報酬月額の上限は,同一である。


平成28年4月から,健康保険に定められている月額等級はそれまでの47等級から50等級に変わり,上限も121万円から139万円に変わっています。


金額も等級も覚えることはありません。変わったことだけ覚えておきましょう。



一方,厚生年金は,月額等級の上限は以前と同じ62万円ですが,それまでの30等級から31等級に変わりました。等級が増えたのに上限が変わっていないのは,下限がそれまでの9.8万円から8.8万円に1等級増えたためです。


これも健康保険と同様に金額も等級も覚えることはありません。変わったことだけ覚えておきましょう。


いずれにしても,上限は

同一ではないので×。


5 生活保護を受けている者は,介護保険の保険料を拠出できないので,介護保険に加入できない。


介護保険の第2号被保険者(40歳以上65歳未満)は,医療保険加入者という条件があります。


役人は頭が良いもので,第2号被保険者の保険料徴収は,各医療保険の保険者にさせるので,市町村がそれぞれ徴収する手間が省けます。


生活保護受給者は国民健康保険に加入できません。国民健康保険から抜けて,その代わり医療扶助が給付されます。


40歳以上65歳未満の生活保護受給者が特定疾病により要介護状態となって介護サービスを受けるときは,利用者負担の1割分が介護扶助として給付されます。


一方,65歳以上になると,医療保険加入者という条件はありません。したがって生活保護受給者も第1号被保険者となることができます。


保険料分は,生活扶助に上乗せして給付されます。


介護扶助ではないので注意です。


生活保護受給者は,第2号被保険者になることはできませんが,第1号被保険者となることができます。よって×。



ここまで,5つの選択肢それぞれの詳しい内容を解説しました。


しかし,この問題はもっと簡単に答えを引き出せます。


今日のタイトル


あいまい表現に正解多し


を思い出しましょう。


文末だけを抜き出します。

 1 給付を受けられる場合がある。2 対象とはならない。3 対象にならない。4 同一である。5 加入できない。


1が「場合がある」というあいまい表現になっていることがわかります。


答えも1が正解でした。



前にも紹介したとおり,


あいまい表現は,1つでも合致するものがあれば,その選択肢は成り立ちます。


言い切り表現は,1つでも合致しないものがあれば,その選択肢は成り立ちません。


確率論から見ると,どちらが発生しやすい事象なのかは,一目瞭然ですね。


もちろん,あいまい表現です。


どういう表現がされれば,正解選択肢になりやすいのか

どういう表現がされれば,間違い選択肢になりやすいのか


このことに気がつけば,知識が足りなくても正解にたどり着く可能性は何倍にもなるでしょう。



頑張れ受験生!! 合格をつかむのは,あなた次第です。


同じ教材,同じ勉強量でも,目の付けどころ次第で,学習効果は大きく変わります!!

2024年4月8日月曜日

合格したいなら,取るべき問題は確実に取る!!

合格したいなら,取るべき問題は確実に取る!!


何を今さら言っているのか? と思う人もいるはずです。


しかししかし・・・


国試会場では何が起きるかわからないものです。


落ち着いて読めば得点出来た


毎年国試が終わるといろいろな場所で聞かれる言葉です。


国試は本当に怖いなぁ,と思う瞬間です。


国試会場での条件はみんな同じ。厳しい環境,限られた時間で必要な点数以上を取るためには・・・


確実に得点すべき問題は,確実に得点すること


そのためには,日常の訓練が欠かせません。


それでは,今日の問題です。


第26回・問題51 

我が国の2010年度(平成22年度)における社会保障給付費に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 社会保障財源では,公費負担の方が社会保険料よりも大きい。

2 社会保障財源の公費負担のうち,およそ50%が国庫負担である。

3 社会保障給付費は,約140兆円に達している。

4 医療,年金,福祉その他に分類すると,割合が最も大きいのは年金である。

5 社会保障給付費の対国内総生産比は30%を超えている。


社会保障給付費はかなりの頻度で出題されます。その点では必ず得点したい問題の典型と言えるでしょう。


だからと言って,誰でも簡単には問題は作られないのが国試の特徴です。

また別の仕掛けもされています。


特に後から学ぶ人は,別の仕掛けに注目すべき問題です。


さて,それではそれぞれを見ましょう。


1 社会保障財源では,公費負担の方が社会保険料よりも大きい。



1950年の社会保障制度審議会では,「日本の社会保障制度の中心は社会保険」と述べたことを覚えている人もいるのではないでしょうか。


さらに62年勧告では,


一般所得層は「社会保険」

低所得者は「社会福祉」

貧困層は「生活保護」で対応する


と述べました。


日本の相対的貧困率が高いと言っても20%もありません。(公費)

保護率が高いと言っても2パーセントもありません。(公費)


国民の最大多数は一般所得層です。


最大多数は,社会保険で対応されています。(社会保険料)


いつの時代も社会保険料の方が大きいことになります。


それで対応できない所得層は「社会福祉」「生活保護」で対応します。

公費は少数派ですから,社会保険料より大きくなるようには制度設計されていません。


社会保険料の方が大きくなるのは当然のことです。


よって×。



2 社会保障財源の公費負担のうち,およそ50%が国庫負担である。



国庫負担と地方負担ではどうなっているのかがわからないと解けない問題です。


とりあえず▲をつけておきます。


調べてみると国庫負担は70%だそうです。よって×。


しかし,これもヒントはあります。


介護保険の公費負担は,だいたい国と地方では半々ですが,生活保護は国家責任で行われているので国が4分の3を負担しています。


それらから考えてみると,国庫負担の大きいのではないかと推測することは出来ます。


直接の答えはわからなくても,持っている知識を最大限に活用することで,推測することができます。


なぜなら,起きている事象は何らかの理由があるからです。



3 社会保障給付費は,約140兆円に達している。


現在は約140兆円弱くらいですが,平成22年度時点では約100兆円でした。


どちらにしても×。

これは自信をもって×をつけたいです。



4 医療,年金,福祉その他に分類すると,割合が最も大きいのは年金である。


年金・医療・福祉その他の割合は,約5:3:2となっています。最も大きいのは年金です。


よって正解。自信をもって〇をつけたいです。


5 社会保障給付費の対国内総生産比は30%を超えている。


30%ではなく,20%です。

よって×。



<今日の一言>


多くの問題は,取れそうで取れないものの連続である。


こういうところに,得点差が出てきます。決して深い知識は求められているわけではありません。


AはCである


という単純図式の問題が少ないだけです。


Bの知識を使って,Cを導き出します。


このブログでその訓練をしていきましょう。


過去問を単に解くことを行っていては,何度受験しても合格をつかむのは難しいです。国試はそんなに簡単には得点できないように作られているからです。


もちろん,今日の問題のような,AはCである,と言った単純図式の問題も出題されます。それは絶対に正解したいです。

2024年4月7日日曜日

国試合格の極意~完璧は目指さない

 覚えられなくて焦る


勉強は本当に辛いものですね。


勉強していると,覚えられなくて焦ることはよくあります。


焦れば焦るほど,焦りはもっと強くなってきます。


国試突破の極意は,ここに隠されています。


覚えられない


を考えてみましょう。


参考書に書いてあることを完璧に覚えようという気持ちはありませんか。


完璧(広辞苑による)


欠陥がなく,すぐれてよいこと。完全無欠。


完璧は,欠陥がないということらしいです。


人間は欠陥があるもの。


完璧は目指したいところですが,完全無欠の人間はありません。


そこに無理があると思いませんか。


完璧=丸暗記


そこに無理があると思いませんか。


完璧に覚えようとするのはもうやめませんか。


参考書に書いてあることを丸覚えしても,国試では言い回しを変えて出題してきます。


国試で得点するためには,言い回しが変わっても対応できることです。


勉強しているときに,わからない言葉が出てきたとき,すぐ調べようとするのは悪いことではありません。


わからない ⇒ 調べる

わからない ⇒ 調べる

わからない ⇒ 調べる


これを続けていくと・・・


わからないことが気持ち悪くなります。


わからないことがわかると気持ちが良いです。


ここで注意したいのは,国試では調べられないことです。


わからない ⇒ わからない

わからない ⇒ わからない

どうしよう,どうしよう


国試では落ち着かなければならないのに,普段と違う状況に陥ってしまいます。


ここで少し勉強法を変えてみませんか。


わからない ⇒ 考えてみる

考えてみる ⇒ 調べる


そして


わからない ⇒ 考えてみる考

えてみる ⇒ 調べる


自分の考えたこととそれほど違わないことが何度かあれば,もうそれ以上調べないようにします。


それはとても怖いことですね。


しかし,国試ではどんなに勉強してもわからないものは出題されます。


文章を完璧に読み取ろうと思っても調べるすべはありません。


完璧さを求める怖さがここにあります。




国試は日本語


わからない用語があった場合,その用語の前後の文章から類推することができることもあります。


それらは,日常から「考えてみる」をしていることが大切です。


調べる ⇒ わかった


基礎的な勉強をしているときは,これは重要です。



国試問題を解く練習をするときには,


わからない ⇒ 考えてみる


は絶対に必要です。



過去問を解く意味はここにあります。


国試はマーク式。


問題の中に必ず答えがあります。


意味は完璧にわからなくても,答えを導き出せれば何とかなります。




国試勉強は・・・


引き算ではなく,足し算


考えてみて,その推測がちょっとでもかすったら,喜びを感じましょう。



かすり方が多くなったら大きな前進です。



それでは,今日の問題です。


第26回・問題50 社会保障制度の歴史に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 ドイツでは,18世紀終盤に,宰相ビスマルクにより,法律上の制度として世界で初めて社会保険制度が整備された。

2 アメリカでは,世界恐慌の中,ニューディール政策が実施され,その一環として低所得者向けの公的医療扶助制度であるメディケイドが創設された。

3 フランスでは,連帯思想が社会保険制度の段階的な充実につながり,1930年には,ラロック・プランに基づく社会保険法が成立した。

4 イギリスでは,1990年代に,サッチャー政権が効率と公正の両立を目指す「第三の道」を標榜し,就労支援を重視した施策を展開した。

5 日本では,1960年代に国民皆保険・皆年金制度が実現し,その他の諸制度とあいまって社会保障制度が構築されてきた。


社会保障の歴史問題です。


言い回しを変えられて出題されるのは,法制度の問題よりも理論系の問題です。


法制度は言い回しを変えるということがないので,知識は直結しやすいです。



しかし,その分,陥りやすいのは,


わからない ⇒ わからない


どうしよう,どうしよう


となることです。


知っていることを最大限に使って推測することを普段から心がけましょう。


社会福祉士は,自分で考えて行動することが求められる職種です。


国試は,それを具現化するための試金石として出題されます。


難しい問題でも必ずヒントはあります。


ただし,それは


AからCの結論を導き出すためには,Bという知識があることが前提です。


社会福祉士が自分で考えて行動することが求められる職種だとすれば,考えることなくCの結論が出せるような問題ばかりではいけないわけです。


今勉強していることは,AからCという答えを引き出すために必要な「B」という知識をつけるためだと言えます。



それでは,詳しく見てみましょう。



1 ドイツでは,18世紀終盤に,宰相ビスマルクにより,法律上の制度として世界で初めて社会保険制度が整備された。



多くの人は,この問題を正解にした人は多かったと思います。


世界初めての社会保険制度はドイツ


この知識は絶対に必要です。これからもこの知識をもつことは必要です。


ただ18世紀は,1700年代です。歴史の弱い人は引っ掛けられたのではないでしょうか。


正しくは19世紀終盤です。


よって×。 ちょっといやらしい問題ですね。



2 アメリカでは,世界恐慌の中,ニューディール政策が実施され,その一環として低所得者向けの公的医療扶助制度であるメディケイドが創設された。



メディケア,メディケイドは制度としては知っていても,いつ創設されたものであるかは知らない人は多いです。


とても難しいものだと思います。しかしもちろんここにもヒントがあります。



アメリカは,自己責任の精神を強く貫く国です。


古典的な自由主義は,いろいろな弊害をもたらします。1929年に起きた世界大恐慌は今までに経験したことがないものでした。アメリカはそのためにニューティール政策を実施します。



自由主義国家の社会保障は労働政策です。そこで実施したのは,老齢保険,失業保険,公的扶助です。医療保険はありません。



医療関係を強化したのが「貧困戦争」宣言をした1960年代のジョンソン大統領です。その時にメディケア,メディケイドが創設されました。


よって×。



3 フランスでは,連帯思想が社会保険制度の段階的な充実につながり,1930年には,ラロック・プランに基づく社会保険法が成立した。



フランスは近年出題されることが多くなってきています。


フランスはイギリスの陰に隠れて地味な存在かもしれません。しかし実はスウェーデン以上に社会支出が多い国です。


イギリスの社会保障制度の基礎になったものが1942年のべヴァリッジ報告であるように,フランスでは1945年のラロック・プランが基礎になっています。


ラロック・プランがベヴァリッジ報告よりも早い段階の1930年だとすると有名でもよいはずです。


そうではないのは,この選択肢が間違いだろうと推測したいです。


もちろんそのとおり。


間違いです。


先述のAからCという結果(ここでは×であるとする判断)には,イギリスのべヴァリッジ報告がBの知識となります。



4 イギリスでは,1990年代に,サッチャー政権が効率と公正の両立を目指す「第三の道」を標榜し,就労支援を重視した施策を展開した。



歴史が苦手な人でも,イギリスの社会保障は絶対に覚えておきたいです。


覚えなければならないものはそんなに多くはありません。


先ほどのラロック・プランと同じようにイギリスを中心に添えて考えることが多いからです。


第三の道を標榜したのは,サッチャーではなくブレア首相です。


イギリスは保守党と労働党の二大政党となっています。


現在のメイ首相は保守党。サッチャーも同じく保守党です。


保守党は資本家・企業側が支持基盤になっている政党です。自由主義を保持し社会保障制度はできるだけ縮小したいのが基本路線です。


一方労働党は,労働者が支持基盤とする政党です。労働党の政策が第二次世界大戦後のイギリスの社会保障制度を作り上げてきました。




社会保障は資本主義で得た利益を使って行われます。社会保障に多く配分されると経済活動に再投資する分が減ります。


サッチャーは,手厚い社会保障が国を疲弊させていると考え制度改革を断行し,「鉄の女」と呼ばれました。


もし彼女の改革がなければ,ギリシャのように経済破綻を起こしていたかもしれません。


ブレア首相は労働党ですが,以前のような社会民主主義のような政策は行うほど国の勢いはありません。


そこで実施したのが,「第三の道」と呼ばれる政策です。「福祉から就労へ」が基本です。今までは税を使っていたものを就労することで税金を払ってもらう,そこまではいかなくても税の投入が少しでも減らせれば成功です。


そのように第三の道は,ブレアの政策です。


よって×。



5 日本では,1960年代に国民皆保険・皆年金制度が実現し,その他の諸制度とあいまって社会保障制度が構築されてきた。


文章としては,ちょっと変な表現になっていますが,結論を言うとこれが正解です。国民皆保険・皆年金は日本の社会保障制度の特徴です。



変な表現というのは,「実現し」「構築されてきた」というつながりです。これで間違いだということはありませんが,「実現し」はある時点のこと,「構築されてきた」は進行形です。それを一文に入れ込んでいるので,その関係性が厳密ではないので,解釈があいまいになってしまいます。


不適切問題ではないですが,3のフランスに×をつけられなかった人は,この選択肢を×にして2を正解にした人が多かったものと思われます。


試験委員はかなり反省したのではないでしょうか。



<今日の一言>


完璧を目指すのは危険です。


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