2024年4月17日水曜日

生存権は20世紀的権利です

 現・生活保護法は憲法第25条の理念を具現化するものです。


この第25条は「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」としています。いわゆる生存権です。


古典的な市民権は,自由権です。国家からの干渉を受けない自由を求めて,フランス革命などの市民革命が起きました。自由権は市民が主役です。


それに対して,生存権を含む社会権は,歴史的に見れば,比較的新しい権利です。


さて,現・生活保護法ができる前に,1946年に旧・生活保護法が成立しています。


あとで基本原理・原則を紹介しますが,その中の一つに無差別平等があります。


困窮に陥った原因は問わない,という原則ですが,旧法でも無差別平等が規定されていましたが,実際には働く気のない者や素行が悪い者は保護しないこととなっていました。


前置きはこの辺までにして,今日の問題に入りましょう。


第26回・問題64 

生活保護法で規定されている基本原理,原則に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 保護は,個人を単位としてその要否及び程度を定めるものとされている。ただし,これによりがたいときは,世帯を単位として定めることができる。

2 生活保護法により保障される最低限度の生活は,肉体的な生存を維持する程度とされている。

3 保護の申請は,要保護者,その扶養義務者のほか,要保護者の同居の親族がすることができる。

4 保護は,都道府県知事の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度のものとされている。

5 生活保護法は,最低限度の生活を保障するとともに,社会的包摂を助長することを目的とすると定めている。


生活保護法の基本原理・原則はかなりの確率で出題されます。


必ず覚えておきましょう。


生活保護の原理は,


国家責任

無差別平等

最低生活

保護の補足性


です。


生活保護の原則は,


申請保護の原則

基準及び程度の原則

必要即応の原則

世帯単位の原則


です。


このうち分かりにくいのは,保護の補足性,基準及び程度の原則,必要即応の原則でしょう。


保護の補足性とは

使えるものは活用して,それでも最低限度の生活に不足する場合に保護すること。扶養義務者の扶養が生活保護法による保護に優先して行われることも補足性の原理。


基準及び程度の原則とは

厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者が金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。

前項の基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて,且つ,これをこえないものでなければならない。


注意すべきなのは,


これをこえないものでなければならない


生活保護の基準は,最低限度の生活ですから,これをこえても下回ってもだめで,その基準ライン上でなければなりません。


話は飛びます。


イギリスの改正救貧法では,劣等処遇の原則が示されますが,これは自活する労働者よりも下の基準となります。そのライン上ではだめです。


必要即応の原則

保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行うものとする。


それでは詳しく見ていきましょう。


1 保護は,個人を単位としてその要否及び程度を定めるものとされている。ただし,これによりがたいときは,世帯を単位として定めることができる。


世帯単位の原則があります。


よって×。


2 生活保護法により保障される最低限度の生活は,肉体的な生存を維持する程度とされている。


最低限の生活は,憲法第25条の「健康で文化的な生活」を維持するものです。これは簡単ですね。


「肉体的な生存を維持する」でぴーんと来た人は,かなり勉強が進んでいる方です。この調子でがんばりましょう。


産業革命は多くの雇用を生み出しました。


それと同時に多くの貧困も生み出しました。ブースによるロンドンの調査,ラウントリーによるヨークの調査で,貧困が発見されました。


ラウントリーは,マーケットバスケット方式という科学的手法で,肉体的な生存を維持する程度の貧困を「第一次貧困」,ギャンブルや飲酒などをしなければ生活できる程度の貧困を「第二次貧困」としました。


因みにこの時代の貧困は「絶対的貧困」です。

周りの人と比べて劣っていることを貧困「相対的貧困」の概念が生まれてくるのは1950年なので,かなり後の時代です。


3 保護の申請は,要保護者,その扶養義務者のほか,要保護者の同居の親族がすることができる。


これが正解です。旧・生活保護法までは,職権保護でした。


現行法で保護請求権が認められて,不服申立制度ができました。


ただし,現在でも職権保護は残ります。


 4 保護は,都道府県知事の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度のものとされている。


保護は国家責任によって行われます。基準を定めるのは,厚生労働大臣です。


よって×。


最低限度の生活は,地域によって変わるので,生活扶助,住宅扶助,葬祭扶助には地域ごとに給地区分があります。



 5 生活保護法は,最低限度の生活を保障するとともに,社会的包摂を助長することを目的とすると定めている。



社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)の概念が生まれたのは1980年代のヨーロッパです。


誰もが排除されず,包み込まれる社会の実現を目指すものです。


助長するのは自立です。


よって×。


自立は,就労による経済的自立だけではありません。

日常の生活管理ができる日常生活自立

社会の中で生活できる社会生活自立


もあります。

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