2024年4月9日火曜日

「あいまい表現に正解多し」リバイバル

 理論系問題の時に,「言い切り表現に正解少なし」「あいまい表現に正解多し」が何度も出て来ましたね。


もし覚えていない人がいたら,検索機能を使って,振り返ってみてくださいね。


法制度は,線引きがはっきりしているので,すべてが「言い切り表現」になっていても,その中に正解選択肢を配置することはできます。


今日の問題は,そういう意味では珍しい問題と言えます。さてそれでは改めて今日の問題です。


第26回・問題52 

社会保険の適用対象や給付と負担に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 国民年金の被保険者としての期間がなかった者でも,国民年金法に定める給付を受けられる場合がある。

2国民健康保険は,農業者や自営業者等を対象とするものであり,事業所に使用される者は対象とはならない。

3 国民年金の第3号被保険者は,専業主婦など夫に扶養されている妻を対象とする制度であり,妻に扶養されている夫は対象にならない。

4 健康保険法及び厚生年金保険法で定める標準報酬月額の上限は,同一である。

5 生活保護を受けている者は,介護保険の保険料を拠出できないので,介護保険に加入できない。


日本の社会保険は5つの制度があります。


年金保険

医療保険

介護保険

労働者災害補償(労災)保険

雇用保険


この5つの社会保険はドイツと同じです。


ドイツの社会保険が日本と違うのは・・・


医療保険は皆保険ではない

介護保険には公費負担がない


などがあります。


さて,それでは,詳しく見ていきましょう。


1 国民年金の被保険者としての期間がなかった者でも,国民年金法に定める給付を受けられる場合がある。


これはちょっと頭を使わなければなりません。

国民年金(基礎年金)は,20歳以上60歳未満に加入が義務づけられる国民皆年金となっています。


国民年金の受給資格は免除期間などを含めて,以前は25年以上あることとなっていました。

それが,2017年8月から,この期間が一挙に10年に短縮されました。

老齢基礎年金の場合,10年の被保険者としての期間がなければなりません。


老齢基礎年金では問題文の条件を満たすものが見つけられないので,障害基礎年金,あるいは遺族基礎年金,あるいは両方に給付を受けられる場合を考えてみます。


「国民年金」と聞いて老齢基礎年金しか思い浮かばなければ,正解にたどり着くのは困難です。


逆に・・・


障害基礎年金,あるいは遺族基礎年金と聞いて,ピーンときた方は,かなり勉強が進んでいると言えます。この調子で頑張りましょう。


さて,まずは障害基礎年金の場合です。


所得制限はありますが,20歳未満で障害状態となった場合,20歳になると障害基礎年金が受給できます。この時点でこの選択肢は正解だとわかります。


次に,遺族基礎年金の場合です。


老齢基礎年金受給者等が死亡した場合,その者に生計維持されていた未婚の18歳未満の子(あるいは18歳未満の子がいる配偶者)に対して,遺族基礎年金が給付されます。18歳未満の子に給付される場合は,もちろん被保険者ではありません。


つまり,老齢基礎年金も遺族基礎年金も,国民年金の被保険者としての期間がなくても,受給できる場合があります。


よって正解です。


2 国民健康保険は,農業者や自営業者等を対象とするものであり,事業所に使用される者は対象とはならない。



国民健康保険は農林水産業者や自営業者

健康保険はサラリーマン


というように単純に覚えていると,引っ掛かる人もいるかもしれません。


健康保険はすべての労働者を対象にしているものではありません。


短時間労働者などは,健康保険には加入せず,国民健康保険に加入することとなります。


よって×。


3 国民年金の第3号被保険者は,専業主婦など夫に扶養されている妻を対象とする制度であり,妻に扶養されている夫は対象にならない。


第3号被保険者は,サラリーマンの妻


というのが一般的な認識でしょう。勉強が不十分な人は,一般的な認識によって解答しようとします。


しかし,正しい「第3号被保険者」は・・・


第2号被保険者に扶養されている配偶者(20歳以上60歳未満)


つまり,妻も夫も対象です。よって×。


一般的な認識と正しい事実にずれがあるものは,国試で出題されやすいこととなります。


このような問題は勉強している人は解けますし,勉強が足りない人は間違えます。試験センターが最も理想的とする形です。


勉強するうえで「おやっ?」と思ったものは,ほかの人も「おやっ?」と思う率が高いです。それらはしっかり覚えておきたいです。


ちなみに第3号被保険者の保険料は,第2号被保険者全体で負担しています。



4 健康保険法及び厚生年金保険法で定める標準報酬月額の上限は,同一である。


平成28年4月から,健康保険に定められている月額等級はそれまでの47等級から50等級に変わり,上限も121万円から139万円に変わっています。


金額も等級も覚えることはありません。変わったことだけ覚えておきましょう。



一方,厚生年金は,月額等級の上限は以前と同じ62万円ですが,それまでの30等級から31等級に変わりました。等級が増えたのに上限が変わっていないのは,下限がそれまでの9.8万円から8.8万円に1等級増えたためです。


これも健康保険と同様に金額も等級も覚えることはありません。変わったことだけ覚えておきましょう。


いずれにしても,上限は

同一ではないので×。


5 生活保護を受けている者は,介護保険の保険料を拠出できないので,介護保険に加入できない。


介護保険の第2号被保険者(40歳以上65歳未満)は,医療保険加入者という条件があります。


役人は頭が良いもので,第2号被保険者の保険料徴収は,各医療保険の保険者にさせるので,市町村がそれぞれ徴収する手間が省けます。


生活保護受給者は国民健康保険に加入できません。国民健康保険から抜けて,その代わり医療扶助が給付されます。


40歳以上65歳未満の生活保護受給者が特定疾病により要介護状態となって介護サービスを受けるときは,利用者負担の1割分が介護扶助として給付されます。


一方,65歳以上になると,医療保険加入者という条件はありません。したがって生活保護受給者も第1号被保険者となることができます。


保険料分は,生活扶助に上乗せして給付されます。


介護扶助ではないので注意です。


生活保護受給者は,第2号被保険者になることはできませんが,第1号被保険者となることができます。よって×。



ここまで,5つの選択肢それぞれの詳しい内容を解説しました。


しかし,この問題はもっと簡単に答えを引き出せます。


今日のタイトル


あいまい表現に正解多し


を思い出しましょう。


文末だけを抜き出します。

 1 給付を受けられる場合がある。2 対象とはならない。3 対象にならない。4 同一である。5 加入できない。


1が「場合がある」というあいまい表現になっていることがわかります。


答えも1が正解でした。



前にも紹介したとおり,


あいまい表現は,1つでも合致するものがあれば,その選択肢は成り立ちます。


言い切り表現は,1つでも合致しないものがあれば,その選択肢は成り立ちません。


確率論から見ると,どちらが発生しやすい事象なのかは,一目瞭然ですね。


もちろん,あいまい表現です。


どういう表現がされれば,正解選択肢になりやすいのか

どういう表現がされれば,間違い選択肢になりやすいのか


このことに気がつけば,知識が足りなくても正解にたどり着く可能性は何倍にもなるでしょう。



頑張れ受験生!! 合格をつかむのは,あなた次第です。


同じ教材,同じ勉強量でも,目の付けどころ次第で,学習効果は大きく変わります!!

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