2024年4月10日水曜日

「社会保障」は絶対に押さえておきたい基本科目です!

 歴史を覚えるのが苦手


このように感じる人は多いのではないでしょうか。


今ある制度を覚えるのも大切です。


それと同時に過去から学ぶものもたくさんあります。


社会福祉士の国試に出る歴史で最も古いものでは,せいぜいエリザベス救貧法,日本では恤救規則です。


さて,今見てきている科目は「社会保障」です。法制度の科目ですね。


社会保障は,すべての法制度系科目の中で最も中心をなす科目です。

とは言っても,歴史も含まれます。


もしかすると,国試勉強の入り口にすべき科目かもしれません。


特に歴史を覚えるのが苦手,と思う人にとっては,歴史は過去のものではなく,今につながっていることを実感できる科目になるはずです。


法制度も歴史も含めた総合力をつけるための科目として,とても重要な科目と言えます。


参考書等を見るととても複雑で深い知識が必要に見えるかもしれません。

しかしそれは,ある一部分だけを見ているからにほかなりません。


社会福祉士には,社会保険労務士のような細かい法制度を問われることはまずありません。なぜなら社会保険労務士は法制度を知らないと仕事はできませんが,社会福祉士にとっての法制度はソーシャルワークに役立てるためのものだからです。


「変わったところは出るから,押さえておきましょう」とおっしゃる先生もいます。


しかし現行カリキュラムになって,科目数が増えたことにより,一科目あたりの問題数は少なくなった中,マクロ的に重要な変更は出題するかもしれませんが,そんなに大きな変更でなければ出題されることはまずありません。


この科目は,社会保障制度の骨格をなすものです。


どんなに勉強しても勉強しなかったことが出題されます。そのとき「わからない。困った」となるのと「それは〇〇の流れの中になるので,〇〇かもしれない」と推測できるのでは,結果は大きく変わることでしょう。


特に何回か受験して,毎回数点差で涙を流している方は,骨格を理解すると良いと思います。


その点で,「社会保障」はとても重要な科目です。


前置きが長くなってしまいました。それでは,今日の問題です。



第26回・問題53

事例を読んで,労働者災害補償保険制度(以下「労災保険」という。)に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 W国から日本に来たKさんは,家電量販店を営むP社に雇用され,その指揮命令を受けて,積み下ろし作業をしていたところ,荷物が崩れて大けがをした。

1 Kさんが留学生であり,アルバイトとして働いていた場合,労災保険は適用されず,労災保険給付は行われない。

2 Kさんが故意に負傷の原因となった事故を生じさせた場合であっても,労災保険給付は行われる。

3 荷崩れの責任がP社にある場合,Kさんは,労災保険給付の価額の限度を超える損害について,民事損害賠償を請求できる。

4 P社が労災保険のための保険料を滞納していた場合,Kさんには労災保険給付は行われない。

5 Kさんの負傷が業務上の災害に当たると認定されても,KさんがW国に帰国した場合には労災保険給付は行われない。


日本における労働者に対する施策は,1911(明治44)年の工場法に始まります。


同法では,年少者の就業制限,年少者・女子の労働時間制限,業務上の事故に対する雇用者の扶助義務などを定めたものです。15人以上の労働者が常時使用されている工場に限定されたもので,小さな工場には適用されませんでした。


同法は,労働者保護という面ももちろんありますが,労働争議を押さえ,産業発展させる意味合いの方が強かったと思われます。


その後,1922(大正11)年に我が国で最初の社会保険となる「健康保険法」が制定されます。


今年(2017)は,ロシア革命から100年の節目の年です。日本でも当時は労働争議が盛んであり,時の指導者はその対策に大変頭を悩ませたことでしょう。


話をすすめます。


我が国において,労働政策が大きく前進したのは,第二次世界大戦後のことです。


労働契約のルールと最低基準を定めた労働基準法が制定され,失業保険法(現在の雇用保険法),労働者災害補償保険法が制定されていきます。


日本の社会保険は,現在5つあります。


そのうち,医療保険と年金保険は戦前にできたもの,雇用保険と労災保険(2つ合わせて労働保険)は戦後すぐ,そして介護保険は20世紀の最末期(2000年は20世紀)にできています。


医療保険は当時吹き荒れた労働争議への対抗措置,年金保険は戦費調達のためです。


この2つは,いろいろな制度を合わせて国民皆保険・皆年金を成しているため,複雑な制度となっています。


それに対して,戦後にできた労働保険は,戦前の工場法などを廃止して,労働者保護のために新しくつくった制度なので,とてもシンプルです。


そのため,覚えることが少なくて楽です。


労働保険は必ず出題されます。確実に覚えておきたい制度です。


それでは詳しく見ていきましょう。


1 Kさんが留学生であり,アルバイトとして働いていた場合,労災保険は適用されず,労災保険給付は行われない。


1911年の工場法は,15人以上を常時雇用する工場に適用される極めて対象が狭いものでした。


戦後にできた労災保険は,被用者として雇用されるすべての事業所に適用し,労働者保護を図っています。そのため国籍も雇用形態も業種もかかわりなくすべての労働者が対象です。


労働保険は,労働者保護のための保険である


これを頭に叩き込んでおきましょう。特に労災保険の場合は,その基準で問題を見ると多くの問題は解けます。


話を戻します。


Kさんは留学生で,アルバイトをしています。労災保険は国籍,雇用形態を限定しません。

当然Kさんにも適用されます。


よって×。


2 Kさんが故意に負傷の原因となった事故を生じさせた場合であっても,労災保険給付は行われる。


労災保険は,労働者保護のための保険です。


不注意による事故は保障されますが,故意に生じさせた事故まで保障する意味がありません。給付された後に故意であることが判明した場合,責任が生じることは免れません。


故意によるものは給付されません。これは医療保険も同じです。


よって×。


3 荷崩れの責任がP社にある場合,Kさんは,労災保険給付の価額の限度を超える損害について,民事損害賠償を請求できる。


労災保険は労働者保護のためのものであり,給付されることをもって雇用者側が免責されるわけではありません。


労災保険はあくまでも労働者保護のものであり,雇用者側のものではありません。その視点を持ち合わせていれば,正誤を判断する際,間違いは起きないと思います。


もちろんこの選択肢が正解です。


4 P社が労災保険のための保険料を滞納していた場合,Kさんには労災保険給付は行われない。


労災保険は,労働者保護のためのものです。雇用者側の都合によって給付されたり,給付されなかったりしたら大変なことになります。


もちろん滞納していても給付されます。国は滞納分を雇用者側に請求しますが,滞納分が徴収できなくても給付されます。そうでなければ,労働者保護の意味がなくなります。


5 Kさんの負傷が業務上の災害に当たると認定されても,KさんがW国に帰国した場合には労災保険給付は行われない。


労災保険は労働者保護のためのものです。


Kさんが留学中は給付されても,留学を終えて帰国すると給付されない,というのは制度の性格から妥当とは言えないでしょう。


日本は,難民条約を批准した際に,年金の国籍要件を撤廃するなどを行いました。そのため帰国しても給付できるようになっています。


労災保険は,業務災害と通勤災害を補償するものです。制度ができた頃は業務災害に適用されていました。通勤災害は昭和45年の法改正時に適用されるようになったものです。


時代は高度経済成長の真っただ中。一億総中流意識となり,モータリゼーションが急速に進んだ時代です。


今となっては死語ですが「交通戦争」と呼ばれた時代です。近年では老朽化して撤去されることが多くなった歩道橋が多く設置されたのもこの時代です。


制度は最初からあるわけではありません。


誰かが起きている事象を問題視することで問題が明らかになり,それを政府に働きかけることで法制度ができたり,法制度がないためにクライエントのニーズ充足のために何かのサービスを始めた結果,国が認めてフォーマルサービスになることもあります。


歴史はその連続です。


現在はそれによって成り立っています。そして未来はその延長線上にあります。


その意味で,歴史を知っておくことは,未来を考えることにもなります。


補足です。


労災保険の特徴は,災害の発生率によって保険料が上下する「メリット制」です。


雇用者側に積極的に労災防止の意識を高めるためのものだと言われています。


しかしメリット制は制度ができた当初からあったわけではありません。制度ができた後,保険財政が赤字になり,その収支を改善するためにできたものです。


国の役人はいつの時代も頭が良いものです。

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