2021年4月30日金曜日

救護法と方面委員と渋沢栄一

現在の民生委員制度の源流は,

 

1917(大正6)年,岡山県知事の笠井信一が創設した「済世顧問制度」

 

1918(大正7)年,小河滋次郎の協力で大阪府知事の林市蔵が創設した「方面委員制度」

 

です。これらは,ドイツで実施されていたエルバーフェルト制度を参考に創設したものです。


笠井知事が済世顧問制度を創設するきっかけとなったのは,大正天皇から「県内の貧しい人々の生活はいかがか」と質問されて,調査したところ,県民の1割が極貧の状況にあることが判明したことによります。


林知事が方面委員制度を創設するきっかけとなったのは,米騒動です。シベリア出兵を見越して,米の価格が暴騰したことにより,国民生活が窮乏しました。そこで富山県の主婦たちが立ち上がり,その活動が全国に広がり,軍隊を出動させるまでに至りました。


その後,1936(昭和11)年の方面委員令によって,法制化されました。

1946(昭和21)年の民生委員令が施行されて,現在の民生委員に改称されます。

そして,1948(昭和23)年に民生委員法が施行されて,現在に至ります。

 

ところで,方面委員が救護法の制定及び実施に大きな役割を果たしたことをご存じでしょうか。

 

わが国では,1874(明治7)年にできた恤救規則が長らく救貧制度の中心でした。

 

その後,何度か法案が提出されますが,すべて廃案となっています。

 

そこで,新しい制度の成立に動き出したのが,全国の方面委員たちです。

その活動が実って,1929(昭和4)年,救護法が成立します。

 

しかし,法律ができても財政不足からすぐ実施されることはありませんでした。

そこで動き出したのがまたもや方面委員たちです。

 

方面委員たちが皇居に向かってお辞儀する姿の写真が残されています。この写真を撮った後に「救護法実施請願ノ表」を天皇に上奏しました。

 

ここで,制定と実施に向けて動いた人物を紹介しておきます。

 

日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一です。

 

渋沢は,中央慈善協会の初代会長としても知られていますが,全日本方面委員連盟の初代会長も務め,救護法の制定に向けた活動を政府に向けて行いました。

 

1930(昭和5)年,病気で寝ていた渋沢の元に方面委員たちが訪れて,「実施に向けて動いてほしい」と頼みました。

 

渋沢はその頼みを快諾し,主治医が止めるのも聞かず,政府の幹部に請願に出かけたそうです。この時90歳でした。

 

渋沢の活動も功を奏し,競馬法を改正して財源を確保し,1932(昭和7)年,実施されることが決まりました。 

しかし,渋沢は,救護法の実施を見ることなく,1931(昭和6)年,91歳で亡くなりました。

もしかすると競馬法の改正というアイディアは渋沢が考えたものかもしれませんね。

 

方面委員,そして渋沢が熱情を注いだ救護法に少し触れておきたいと思います。

 

救護機関 → 市町村

補助機関 → 方面委員

 

補助機関とは,救護を実際に行う者です。

 

その後,旧生活保護法では,民生委員と名が変わっていますが,引き続き「補助機関」,現生活保護法では,「協力機関」となっています。

 

現生活保護法で,民生委員に変わって「補助機関」となったのは,社会福祉主事です。

 

それでは,今日の問題です。

 

30回・問題31 民生委員制度に収斂されることになる戦前の方面委員等の仕組み(以下,「方面委員制度」という。)に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 「方面委員制度」は,イギリスの慈善組織協会(COS)よりも早く始まっていた。

2 「方面委員制度」は,方面委員令によって創設された。

3 「方面委員制度」は,恤救規則を実施するための補助機関とされた。

4 岡山県済世顧問制度に続き,大阪府で方面委員制度が設置された。

5 大阪府の方面委員制度は,河上肇を中心に立案された。

 

実に面白い問題です。

 

うまく作った問題だと思います。

 

それほど難易度が高いわけではありませんが,正解するのはそれほど簡単ではありません。

 

なぜなら,日本語的に消去できる選択肢がないからです。

 

国試は日本語の問題だ

 

という人がいます。

 

確かに日本語的に解ける問題もあります。

 

しかし,今日の問題のような日本語的に解けない問題で得点できないと,絶対に合格基準点を上回ることはできません。

これは断言できます。

 

それでは,解説です。

 

1 「方面委員制度」は,イギリスの慈善組織協会(COS)よりも早く始まっていた。

 

イギリスのCOSを絡めて出題するところが実に面白いです。

 

イギリスのCOSはいつだっただろうと思う人もいるでしょう。

 

ロンドンにできたCOSは,1869年です。

 

外国と時代を重ねてみると

 

済世顧問制度ができた1917年は,M.リッチモンドが『社会診断(Social Diagnosis)』を出版した年です。

 

2 「方面委員制度」は,方面委員令によって創設された。

 

1936(昭和11)年の方面委員令は,方面委員を法制化したものです。

 

3 「方面委員制度」は,恤救規則を実施するための補助機関とされた。

 

方面委員が補助機関とされたのは,方面委員や渋沢栄一らが心血を注いだ救護法です。

 

4 岡山県済世顧問制度に続き,大阪府で方面委員制度が設置された。

 

これが正解です。

 

うまく済世顧問制度と方面委員制度を出題したものだと思います。

 

5 大阪府の方面委員制度は,河上肇を中心に立案された。

 

河上肇は,最近はあまり出題されませんが,貧困の実態のルポルタージュである『貧乏物語』の著者です。

 

今日の問題は第30回の国試問題です。第30回国試は,2017年度に実施されたものです。

 

2017年は,済世顧問制度が創設されて100年の年でもありましたが,実は,『貧乏物語』が出版されて,100年の年でもありました。

 

こういった小ネタを絡めているところも面白い問題だと思います。

2021年4月29日木曜日

住宅セーフティネット法とは?

 今回は,住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)を学んでいきたいと思います。


この法律は,2007(平成19)年に成立したもので,住宅確保要配慮者の住宅確保を目的としたものです。


同法が規定する「住宅確保要配慮者


高齢者

低額所得者

子育て世帯

障害者

被災者等


まずは,2017(平成29)年の法改正のポンチ絵を見てみましょう。








































※小さくて見づらいと思いますが,タップすれば拡大できます。

この改正では,空き家を活用して,住宅セーフティネット機能を強化することが規定されています。

 

そして,もう一つ,都道府県が指定する居住支援法人による入居相談・援助も定められています。

 

 それらを確認したうえで,今日の問題です。



第30回・問題30 「住宅セーフティネット法」の内容に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 住宅確保要配慮者には,子育て世帯が含まれる。

2 住宅確保要配慮者には,災害の被災者世帯は含まれない。

3 公的賃貸住宅の供給の促進は含まれない。

4 低額所得者以外の住宅確保要配慮者への家賃低廉化補助が含まれる。

5 民間の空き家・空き室の活用は含まれない。

(注)「住宅セーフティネット法」とは,「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」のことである。


この問題は,住宅セーフティネット法を知らなくても解ける可能性が高い問題です。

 

こういったことが,第30回国試のボーダーラインを99点に押し上げる要因となったと思います。

 

消去できそうな選択肢

 

2 住宅確保要配慮者には,災害の被災者世帯は含まれない。

3 公的賃貸住宅の供給の促進は含まれない。

5 民間の空き家・空き室の活用は含まれない。

 

これらはすべて「含まれない」です。

 

残っている選択肢

 

1 住宅確保要配慮者には,子育て世帯が含まれる。

4 低額所得者以外の住宅確保要配慮者への家賃低廉化補助が含まれる。

 

これらは「含まれる」です。

 

ここから,「含まれる」と「含まれない」が混在するような問題では,「含まれない」は消去できそうだ,という法則を見つけることができるでしょう。

 

正解は,選択肢1です。

 

1 住宅確保要配慮者には,子育て世帯が含まれる。

 

もう一度,「住宅確保要配慮者」を確認します。

 

住宅確保要配慮者

 高齢者

低額所得者

子育て世帯

障害者

被災者等

 

ここで,重要なのは「等」です。

 

ここに例示されていない人も含まれます。法律は意外と心優しいものですよ。

 

 

4 低額所得者以外の住宅確保要配慮者への家賃低廉化補助が含まれる。

 

家賃低廉化補助とは,低所得者に対する家賃補助です。

2021年4月28日水曜日

プログラム評価とは

 どれだけ勉強しても国家試験では,勉強したことがない問題が出題されます。

 

そういった問題は,たとえ得点できなくても合格基準点を超えることは可能です。

 

しかし,正解できたほうが良いに決まっています。

 

今回取り上げる問題もそういったタイプの問題です。

 

さて,今日のテーマは「プログラム評価」です。

 

プログラムって何?

 

プログラム評価って何?

 

と思う人は要注意です。

 

何かよくわからなくても,おおよそのイメージがつかめれば十分です。

 

正解できた勝ちだからです。

 

ネットで調べると

 

日本社会事業大学のホームページで

 

社会的介入プログラムとは、社会問題や社会状況を改善するために設計された、組織的で計画された、継続的な取組です。

プログラム評価とは、社会的介入プログラムの改善をはかったり、その存廃や発展の方向性に関する意志決定をするために行われる体系的で科学的なアプローチ方法のことです。

社会調査などの科学的手法を用いて、プログラムのさまざまなレベルの活動や機能、効果(ニーズ、プロセス、プログラム設計、アウトカム、効率)を科学的かつ体系的に把握、査定、検討して、社会システムの中に社会的介入プログラムを位置づけます。

 

と述べられています。

 

簡潔に言えば,プログラム評価とは,社会問題の解決に向けた取り組みを評価して,次の取り組みにつなげることです。

 

それでは今日の問題です。

 

30回・問題29 福祉サービスのプログラム評価の方法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 サービスを提供する群と提供しない群に分けて比較する評価は行われない。

2 評価者は,評価指標の策定に当たり,利害関係者と協議してはならない。

3 評価の次元は,投入,過程,産出,成果,効率性である。

4 プログラムの効率性は,産出された物やサービスの量のことである。

5 科学的な評価研究の結果を,実際のプログラム運営管理に活用してはならない。

 

 

難しい問題のように思いますが,正解するのはそれほど難しくありません。

 

言い切り表現に正解少なし

 

というテクニックが生きる問題だからです。

 

言い切りの選択肢は以下の3つです。

 

1 サービスを提供する群と提供しない群に分けて比較する評価は行われない。

2 評価者は,評価指標の策定に当たり,利害関係者と協議してはならない。

5 科学的な評価研究の結果を,実際のプログラム運営管理に活用してはならない。

 

このように並べてみると,どれも嘘っぽいと思いませんか。

 

選択肢1については,倫理上の問題が生じるので,実験が終わったら適切な介入を行うことが求められますが,このように群を分けて,比較検討することで,効果が検証できます。

 

選択肢2については,深く考えると混乱する元ですので,注意が必要です。

プログラムの中には,サービス提供の成果が含まれます。

 

福祉現場で言えば,利用者と一緒に立てた個別支援計画に相当します。

 

この文章が正しければ,個別支援計画を作るにあたって,利用者と話し合ってはいけないということになってしまいます。

 

選択肢5については,評価を活用しないで,何の意味があるのか,という感じですね。

 

残るは・・・

 

3 評価の次元は,投入,過程,産出,成果,効率性である。

4 プログラムの効率性は,産出された物やサービスの量のことである。

 

迷うのは,選択肢4のプログラムの効率性でしょう。

 

一見すると正しく思えるかもしれません。

 

しかし,量だけに着目すると,費用をかけて多くのものを生み出すのと,費用をかけないで多くのものを生み出すのでは,効率性という意味では後者のほうが効率的だと言えるでしょう。

 

例えば,車のエンジンが2つあって,

 

①リッター30キロの燃費で100馬力

 

②リッター5キロの燃費で100馬力

 

生み出す量は同じでも効率性という面では,②に軍配が上がりそうです。

 

つまり,プログラムの効率性とは,投入した量に対する成果の量だと言えるでしょう。

 

ということで残るのは,選択肢3です。

 

 

3 評価の次元は,投入,過程,産出,成果,効率性である。

 

こんなのを知っている人はいないでしょう。

 

しかし,冷静に考えると正解できます。


これが国家試験です。

2021年4月27日火曜日

タウンゼントの相対的剥奪

19世紀は,各国で産業革命が起こります。


この産業革命とは,工業化を意味しています。


大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。


そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。


これらは,怠惰によって貧困に陥るという古典的な貧困観から,社会の構造,環境によって貧困が起きることを明らかにしました。


これを「貧困の発見」といいます。


その後,時代は進み,貧困は過去のものだと思われるようになった1950~60年代,豊かさを謳歌する中で,貧困が起きていることが見えて来ました。


これを「貧困の再発見」といいます。


物があっても,自分が生活する社会と比べて,劣っている場合,貧困だと見ます。


ハイソサエティの国や地域と貧困にあえぐ国や地域では,貧困線が異なります。


ブース,ラウントリーらの時代の「絶対的貧困」から「相対的貧困」の時代へ移り変わっていることを示しているでしょう。


さて,タウンゼントは,相対的貧困を「相対的剥奪」という概念を用いて説明しました。


相対的剥奪とは,生活する社会で豊かな社会生活を送るために一般的になっている慣習などを行うことができないために社会から締め出されている状態をいいます。


例えば,お金がなくて地域の会の懇親会に参加できない,といったことです。


懇親会に出なくても別に良いですが,自分の意思で参加しないのと,本当は参加したいのにあきらめざるを得ない,というのではまったく異なります。


これが社会的剥奪です。


タウンゼントは,具体的に相対的貧困の指標を示しましたが,日本には合わないものもあります。


例えば,家族で出かける外食の頻度などです。


それでは,今日の問題です。


第30回・問題28 貧困に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 ポーガム(Paugam,S)は,車輪になぞらえて,経済的貧困と関係的・象徴的側面の関係を論じた。

2 タウンゼント(Townsend,P)は,相対的剥奪指標を用いて相対的貧困を分析した。

3 ピケティ(Piketty,T.)は,資産格差は貧困の世代間連鎖をもたらさないと論じた。

4 ラウントリー(Rowntree,B.S)は,ロンドン市民の貧困調査を通じて「見えない貧困」を発見した。

5 リスター(Lister,R.)は,社会的降格という概念を通して,現代の貧困の特徴を論じた。



ものすごく難しい問題に見えますが,正解は選択肢2です。


2 タウンゼント(Townsend,P)は,相対的剥奪指標を用いて相対的貧困を分析した。


落ち着いて問題を読めば正解できるでしょう。


タウンゼントは勉強の過程で必ず目にしていたはずです。


1 ポーガム(Paugam,S)は,車輪になぞらえて,経済的貧困と関係的・象徴的側面の関係を論じた。

3 ピケティ(Piketty,T.)は,資産格差は貧困の世代間連鎖をもたらさないと論じた。

5 リスター(Lister,R.)は,社会的降格という概念を通して,現代の貧困の特徴を論じた。


出来の悪い模擬試験なら,こういったものを正解にすることがありますが,国家試験ではこういったものを正解にすることはほとんどありません。


選択肢3は消去できそうです。


貧困は次の世代の貧困を生み出すからです。これを「貧困の再生産」といいます。


ポーガムとリスターは,入れ替えた問題となっています。


正しくは,以下のようになります。


ポーガム(Paugam,S)は,社会的降格という概念を通して,現代の貧困の特徴を論じた。


リスター(Lister,R.)は,車輪になぞらえて,経済的貧困と関係的・象徴的側面の関係を論じた。

2021年4月26日月曜日

スウェーデンのエーデル改革

各国の福祉制度は,それぞれ特徴があります。


さまざまな角度から出題されるので難しく感じると思いますが,その特徴を押さえておくと対応可能です。


そのうち,スウェーデンでは,1990年代に「エーデル改革」と呼ばれるものが有名です。


それでは,今日の問題です。


第30回・問題27 各国の福祉改革に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 スウェーデンのエーデル改革は,高齢者の保健医療は広域自治体,介護サービスはコミューンが実施責任を負うとする改革であった。

2 イギリスのブレア内閣の社会的排除対策は,財政の効率化,市場化,家族責任など「大きな社会」理念に基づくものであった。

3 日本の介護保険制度は,給付に要する費用の全額を保険料の負担として,財源の安定を目指した。

4 ドイツの介護保険制度は,障害者の介護サービスを除外して創設された。

5 アメリカのTANF(貧困家族一時扶助)は,「就労から福祉へ」の政策転換であった。


正解は,選択肢1です。


1 スウェーデンのエーデル改革は,高齢者の保健医療は広域自治体,介護サービスはコミューンが実施責任を負うとする改革であった。


スウェーデンでは1982年の社会サービス法ができて,福祉制度が急速に整備されていきました。


しかし社会的入院(入院の必要性がなくても,地域生活を送るには問題があり入院すること)が起こり,それを改善するために行ったのがエーデル改革です。


2 イギリスのブレア内閣の社会的排除対策は,財政の効率化,市場化,家族責任など「大きな社会」理念に基づくものであった。


イギリスが出題される場合は,サッチャー首相とブレア首相の政策の対比です。


保守党のサッチャーは,それまでの政策を転換させて,小さな政府を目指した改革を行いました。


労働党のブレアは,サッチャー以前の「大きな政府」でもサッチャーの「小さな政府」でもない「第三の道」を選びました。

福祉にお金をかけられる体力はもうイギリスにはなかったからです。


3 日本の介護保険制度は,給付に要する費用の全額を保険料の負担として,財源の安定を目指した。


介護保険は,ドイツ,日本,韓国を対比して覚えることが大切です。


ドイツは,全額保険料が財源です。

日本と韓国は,保険料だけではなく,公費(税)も財源として運用されています。


4 ドイツの介護保険制度は,障害者の介護サービスを除外して創設された。


ドイツの介護保険は,日本と異なり,高齢者も障害者もなく,介護サービスが必要な場合,利用できることが特徴です。


5 アメリカのTANF(貧困家族一時扶助)は,「就労から福祉へ」の政策転換であった。


アメリカのTANFは,「福祉から就労へ」です。

この流れは,イギリスも日本も同様です。

2021年4月25日日曜日

健康の社会的決定要因

今回は,健康の社会的決定要因を取り上げます。


あまり聞き慣れないものかもしれませんが,WHO(世界保健機関)が示したもので,集団間の健康における格差と社会経済的境遇との関連に着目する概念です。


簡単に言えば,健康は社会に影響を受けるということです。


貧しい国や人と富んだ国や人には,健康格差があると考えます。


それでは,今日の問題です。


第30回・問題26 世界保健機関(WHO)による「健康の社会的決定要因」に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 集団間の健康における格差と社会経済的境遇との関連に着目する概念である。

2 個人の学歴や所得は,社会的決定要因から除外される。

3 ソーシャルキャピタル(社会関係資本)は,社会的決定要因から除外される。

4 健康格差を是正するための個別ケースへの介入に関する概念である。

5 地域の経済的開発の状況は,健康格差の発生に影響を及ぼさない。


国家試験でこういった問題が出題されたら,びっくりするでしょう。


しかし,落ち着いて問題を読めば,答えられます。


消去できそうな選択肢が含まれる問題だからです。


2 個人の学歴や所得は,社会的決定要因から除外される。

3 ソーシャルキャピタル(社会関係資本)は,社会的決定要因から除外される。

5 地域の経済的開発の状況は,健康格差の発生に影響を及ぼさない。


これらは,日本語的に消去できそうです。


残るは


1 集団間の健康における格差と社会経済的境遇との関連に着目する概念である。

4 健康格差を是正するための個別ケースへの介入に関する概念である。


このうち,

4 健康格差を是正するための個別ケースへの介入に関する概念である。


個別ケースは,ミクロレベルです。


「社会的決定要因」というものから,ミクロレベルよりもマクロレベルではないかと推測できそうです。


ということで正解は

1 集団間の健康における格差と社会経済的境遇との関連に着目する概念である。


ということになります。


2021年4月24日土曜日

社会的企業について

今回は,社会的企業を取り上げたいと思います。


社会的企業とは,国家試験の出題に従うと


企業というスタイルを取りながら,社会的な困難や課題に取り組む組織


ということになります。


それでは,今日の問題です。


第30回・問題25 社会的企業に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 収益事業を行わない組織である。

2 日本に独特の組織である。

3 市場や準市場の外側で事業に取り組む組織である。

4 社会福祉法人に関する法制度に基づき創設される特別な組織である。

5 社会的な困難や課題に取り組む組織である。


面白い問題ですね。


それでは解説です。


1 収益事業を行わない組織である。


社会的企業の中には,株式会社のスタイルで活動している企業もあります。


つまり,収益事業を行います。


2 日本に独特の組織である。


外国でもあります。


3 市場や準市場の外側で事業に取り組む組織である。


市場や準市場の内側で事業に取り組みます。


4 社会福祉法人に関する法制度に基づき創設される特別な組織である。


社会福祉法人は,社会福祉法に規定される特別法人ですが,社会的企業は特別法人ではありません。


5 社会的な困難や課題に取り組む組織である。


これが正解です。

社会的企業とは,収益事業を通して社会問題の解決を図る活動を行う企業です。



<今日の一言>


制度がすべてを解決してくれるものではありません。制度は厳密に適用範囲を定めます。

つまり,制度が適用されない人も生まれるわけです。


そういった制度のはざまにある人の課題解決に取り組んでいるのが社会的企業です。

2021年4月23日金曜日

恤救規則~救護法

明治以降の主な救貧制度は,


恤救規則

救護法

旧・生活保護法

現・生活保護法


の4つです。


歴史として覚える内容は,限られています。


それでは,問題を見てみましょう。


第30回・問題24 次のうち,日本の社会福祉制度に関する歴史の記述として,正しいものを1つ選びなさい。

1 恤救規則(1874年(明治7年))は,政府の救済義務を優先した。

2 行旅病人及行旅死亡人取扱法(1899年(明治32年))は,救護法の制定によって廃止された。

3 感化法の制定(1900年(明治33年))を機に,内務省に社会局が新設された。

4 救護法(1929年(昭和4年))における救護施設には,孤児院,養老院が含まれる。

5 児童虐待防止法(1933年(昭和8年))は,母子保護法の制定を受けて制定された。


歴史が苦手な人にとっては,いやになりそうな問題です。


国試に近くなって,どうしても覚えられないという人は,歴史は思い切って捨ててしまうという手もあります。


それでは,解説です。


1 恤救規則(1874年(明治7年))は,政府の救済義務を優先した。


恤救規則は,住民相互による救済が優先されます。


誰の助けも得られない人(無告の窮民)に対して,国が救済しました。


2 行旅病人及行旅死亡人取扱法(1899年(明治32年))は,救護法の制定によって廃止された。


救護法の制定によって廃止されたのは,恤救規則です。


行旅病人及行旅死亡人取扱法は,現在も存続しています。


行旅病人とは,行倒れになった人のことをいいます。

つまり旅先で倒れた人のことです。


3 感化法の制定(1900年(明治33年))を機に,内務省に社会局が新設された。


内務省の社会局は,厚生省(現・厚生労働省)の前身です。


軍事救護法の制定によって,内務省に救護課が制定され,その後,社会課,そして,社会局に格上げされて,厚生省として独立しています。


4 救護法(1929年(昭和4年))における救護施設には,孤児院,養老院が含まれる。


これが正解です。


救護法では,救護施設が規定されました。


この中には,現在の児童養護施設である孤児院,現在の養護老人ホームである養老院が含まれています。


養老院は,旧・生活保護法で養老施設となり,老人福祉法で養護老人ホームとなりました。


5 児童虐待防止法(1933年(昭和8年))は,母子保護法の制定を受けて制定された。


戦前にも児童虐待防止法が制定されています。


現在の法律とはまったく別なものです。


母子保護法とはあまり聞いたことがないと思いますが,軍事厚生事業と呼ばれる一連の厚生事業の一つとして,1937年(昭和12年)に制定されたものです。

2021年4月22日木曜日

障害者差別解消法

障害者差別解消法は,障害者権利条約を批准するために成立させたものです。


施行は批准の後のことですが,成立をもって批准しました。


それでは,今日の問題です。


第30回・問題23 「障害者差別解消法」(2013年(平成25年))及び「基本方針」(2015年(平成27年)2月閣議決定)に規定された行政機関等及び事業者による社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮の内容に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 配慮の対象は,いわゆる障害者手帳の所持者に限られる。

2 障害の種別ごとに定められた配慮事項の遵守を義務づけている。

3 障害者から社会的障壁の除去を必要とする旨の意思表明があった場合,その実施に伴う負担が過重でないときは,配慮が求められる。

4 社会的障壁の内容は,具体的場面や個別的状況を考慮して決めてはならない。

5 障害者と障害者でない者とを比較して決めることは禁止されている。

(注)1 「障害者差別解消法」とは,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」のことである。

2 「基本方針」とは,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」のことである。


今,この問題を見るとそれほど難しくはありません。


しかし,この回の受験をした人は,かなり難しく感じたことでしょう。


それが国試の怖さです。


正解は,選択肢3です。


3 障害者から社会的障壁の除去を必要とする旨の意思表明があった場合,その実施に伴う負担が過重でないときは,配慮が求められる。



障害者権利条約は,合理的配慮を求めたものです。


それを国内法で成文化したものがこれです。


ほかの選択肢も確認します。


1 配慮の対象は,いわゆる障害者手帳の所持者に限られる。


障害者手帳の所持の有り無しにかかわりません。


2 障害の種別ごとに定められた配慮事項の遵守を義務づけている。


このような規定はありません。


4 社会的障壁の内容は,具体的場面や個別的状況を考慮して決めてはならない。


社会的障壁の内容は,具体的場面や個別的状況を考慮して決めることは問題ありません。


国も例示しています。


そうしないと運用するのは難しいからです。


5 障害者と障害者でない者とを比較して決めることは禁止されている。


禁止されているのは,不当な差別的な取り扱いをすることです。


障害者と障害者でない者とを比較して決めることは問題ありません。


<今日の一言>


正解だけを見ると,それほど難しくないと思いますが,ほかの選択肢があると正解するのが難しくなります。

これが国試の怖さです。

一問一答式のもので勉強する人は,特に気をつけなければなりません。

2021年4月21日水曜日

正義について語ろう~ロールズの格差原理

現代の福祉国家は,マーシャルによれば


・資本主義

・民主主義

・福祉


が実践されている国家ということになります。


これを「ハイフン連結社会」といいます。

https://fukufuku21.blogspot.com/2017/05/blog-post_21.html


歴史をひもとけば,資本主義の制度的欠陥により,労働者の貧困が生まれました。


その欠陥を補うのが現代の福祉国家です。


ベンサムという人は功利主義で知られますが,一人ひとりの幸福の和が多くなるとよいと考える「最大多数の最大幸福」を述べています。


功利主義では,結果がすべてです。


救済を求める100人のうち,1人を助けることができなくても,99人が救出できれば,「最大多数の最大幸福」となります。


1人を助けようとして,10名が救助に向かったものの最初の1人と救助に向かった10名が亡くなったとします。


国のリーダーは,時にはこのような非情な選択を迫られることもあります。


さて,今日のテーマは「正義について語ろう」です。


味方と敵があった場合,味方は正義です。敵は正義を脅かす存在です。


しかし,現実社会では,そんなに明確ではありません。


立場が変わると,正義は変わります。


功利主義は,否定されるものではありません。


それに異を唱えた人物がいます。


それが今日の問題です。


第30回・問題22 ロールズ(Rawls,J.)が論じた「正義」に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 成員の快楽の総和を最大化する社会が,最も望ましいと論じた。

2 社会で最も不遇な人の最大の便益となるように,資源配分の是正が行われるべきであると論じた。

3 諸個人に対する平等な基本的自由の実現が不可能であることを前提に,正義を論じた。

4 「無知のヴェール」に包まれた個人を想定した議論では,功利主義的な社会が構想されることになると論じた。

5 「さまざまな生き方」を選べる基本的なケイパビリティを平等に配分することが,正義であると論じた。



ロールズが論じた「正義」は,「格差原理」として知られます。


正解は,選択肢2です。


2 社会で最も不遇な人の最大の便益となるように,資源配分の是正が行われるべきであると論じた。


ロールズはアメリカの哲学者です。


アメリカは,成功を目指して努力します。

当然そこには競争があります。


成功者は決して批判されるものではありません。

成功者にも正義があります。努力して成功をつかんだからです。


そこで,ロールズが考えたのは,格差原理です。


格差原理とは,

格差はあっても良いが,その格差は,最も不遇な人を恩恵があるように使われる場合に認められる


というものです。


累進課税となっている所得税は,ロールズの正義に合致します。


消費税は,合致しません。


それではほかの選択肢も見てみましょう。


1 成員の快楽の総和を最大化する社会が,最も望ましいと論じた。


これは,功利主義を表現する「最大多数の最大幸福」です。


ロールズの正義とは真逆です。


3 諸個人に対する平等な基本的自由の実現が不可能であることを前提に,正義を論じた。


基本的自由,そのうちのおそらく財産権のことを述べていると思いますが,ロールズの正義は決してそれを否定するものではありません。


4 「無知のヴェール」に包まれた個人を想定した議論では,功利主義的な社会が構想されることになると論じた。


無知のヴェールは,格差原理を実現するために重要なものです。

無知のヴェールをかぶると,自分の属性がわからなくなるからです。


そうすると,自分の属性に有利になるように考えることができません。

そのことによって,格差原理が実現すると考えました。


功利主義的な社会とは,結果が大事な社会です。

無知のヴェールをかぶると,結果を考えて行動することができなくなるのです。


5 「さまざまな生き方」を選べる基本的なケイパビリティを平等に配分することが,正義であると論じた。


ケイパビリティは,潜在能力と訳されます。

ケイパビリティを論じたのは,アマルティア・センです。

2021年4月20日火曜日

応用力って何だろう?

国家試験に合格するためには,応用力が必要だと言う人がいます。

 

応用力って何なのでしょう?

 

今日の問題を見ながら考えていきましょう。

 

30回・問題21 「平成28年における少年非行,児童虐待及び児童の性的搾取等の状況について」(警察庁)に示された児童虐待に関する検挙状況についての次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 検挙件数は,身体的虐待よりも心理的虐待の方が多い。

2 被害児童数は,平成24年以降の5年間で変化はない。

3 加害者数は,養親・継親よりも実親の方が多い。

4 加害者数は,男性と女性で差がない。

5 被害児童数は,男児は女児の1.5倍である。

 

こういった出題があると,白書や報告書に目を通しておくべきだったと思うかもしれません。

 

しかし,もし目を通していても覚えるのは大変なことです。

 

さて,この問題は検挙件数です。

 

児童相談所への通告ではありません。実際に警察が動いて,検挙した件数です。

 

うっかり間違いそうなのは,選択肢1です。

 

1 検挙件数は,身体的虐待よりも心理的虐待の方が多い。

 

児童相談所が取り扱ったものの中で最も多いのは,心理的虐待です。

 

これはしっかり勉強してきた人なら知っているはずです。

 

ここで,警察が検挙するのはどういった時なのだろう,という思考を働かせなければなりません。そうしないと間違います。

 

これが応用力なのかもしれません。

 

心理的虐待で検挙するのはハードルが高いと言えます。

証拠がないからです。

 

それと比べると身体的虐待は,虐待ではなく暴行だと言えるでしょう。

暴行なら検挙できそうです。

 

正解は,選択肢3です。

 

3 加害者数は,養親・継親よりも実親の方が多い。

 

これは勉強した人でなければ,選べないように思います。

 

一般イメージでは,養親・継親による虐待が多いように思うでしょう。

 

報道は,話題性のあるものしか取り上げません。そのために「虐待するのは,内縁の夫」というイメージがつきます。

 

しかし,実際に多いのは,実母による虐待です。


<今日の一言>


多くの問題を見ていると,試験委員は思考の道筋を作って,答えにたどりつくようにしているように感じます。


今日の問題では,心理的虐待で警察が動くのはどんな場合なのだろうと考えさせるところがその道筋です。


国家試験問題は,多くの人が思っているほど意地悪であったり,重箱の隅をつつくようなものであったりはしていません。


国家試験に合格するために応用力が必要だとすれば,多くの知識を駆使して考えるということでしょう。

これができないと点数は伸びません。

2021年4月19日月曜日

社会的ジレンマ~共有地の悲劇とは

社会的ジレンマとは,個々人が自分の利益のために行動した結果,社会全体に不利益をもたらすことをいいます。


社会福祉士の国家試験では,「共有地の悲劇」「囚人のジレンマ」「フリーライダー」が出題されています。


それでは,今日の問題です。


第30回・問題20 次の記述のうち,「共有地の悲劇」に関する説明として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 公共財の供給に貢献せずに,それを利用するだけの成員が生まれる状況を指す。

2 協力してお互いに利益を得るか,相手を裏切って自分だけの利益を収めるか,選択しなければならない状況を指す。

3 他の成員の満足度を引き下げない限り,ある個人の満足度を引き上げることができない状況を指す。

4 それぞれの個人が合理的な判断の下で自己利益を追求した結果,全体としては不利益な状況を招いてしまうことを指す。

5 社会全体の幸福が,諸個人の快楽から苦痛を引いた後に残る快楽の総計と一致する状況を指す。


勉強不足の人にとってはかなり難しい問題でしょう。


多少なりとも社会的ジレンマを勉強していれば,正解できるでしょう。


それでは,解説です。


1 公共財の供給に貢献せずに,それを利用するだけの成員が生まれる状況を指す。


これは,フリーライダーのことを述べたものです。


例としては,水道代を払わず,公園の水道を使う,などがあります。


2 協力してお互いに利益を得るか,相手を裏切って自分だけの利益を収めるか,選択しなければならない状況を指す。


これは,囚人のジレンマのことを述べたものです。


二人とも相手を信用して黙秘すれば,最も利益が高くなるのに,相手を信用することができずに裏切ることで受ける利益が減ることを示したゲーム理論です。



3 他の成員の満足度を引き下げない限り,ある個人の満足度を引き上げることができない状況を指す。


これは,ゼロサムゲームのことを述べたものです。


総量が決まっている場合,パイを奪い合うように,自分が利益を上げようとすると誰かの利益が減ります。



4 それぞれの個人が合理的な判断の下で自己利益を追求した結果,全体としては不利益な状況を招いてしまうことを指す。


これが,「共有地の悲劇」のことを述べたものです。


村人が共有地で羊を飼っていたところ,みんなが飼育する羊の数を増やしたことで餌となる牧草がなくなって,思ったような利益を上げることができなくなったというたとえ話から「共有地の悲劇」と呼ばれています。


5 社会全体の幸福が,諸個人の快楽から苦痛を引いた後に残る快楽の総計と一致する状況を指す。


もしかすると「最大多数の最大幸福」のことかもしれません。


2021年4月18日日曜日

社会的役割について

社会的役割は覚えにくいので,国試受験の鬼門の一つです。

 

役割距離のアクセス数が多いことから,多くの人が覚えるのに苦労しているのがよくわかります。

 

それでは,今日の問題です。

 

30回・問題19 子どもが,ままごとのような「ごっこ」遊びで親の役割などをまねることを通して自己を形成し,社会の一員となっていく過程を示す概念として,正しいものを1つ選びなさい。

1 役割期待

2 役割葛藤

3 役割演技

4 役割分化

5 役割取得

 

覚えるのが難しい「役割距離」は含まれていません。

その分,答えやすいのではないかと思います。


絶対に覚えておきたい社会的役割~②役割距離

 https://fukufuku21.blogspot.com/2018/04/blog-post_21.html


正解は,選択肢5です。

5 役割取得

 

近年の国試では,このスタイルの出題が出てきています。

 

意味を理解していないと正解しにくいでしょう。

 

一応ほかの選択肢も確認します。

 

1 役割期待

 

役割期待とは,地位に対する他者の期待です。規範的な意味も含みます。


2 役割葛藤

 

役割葛藤とは,2つ以上の役割期待の間で葛藤することです。

 

3 役割演技

 

役割演技とは,自分の役割に合ったものを演じることです。

 

4 役割分化

 

役割分化とは,役割が細かく分かれていくことです。

2021年4月17日土曜日

65歳以上の者のいる世帯の状況


 

2019年(令和元年)の国民生活基礎調査

65歳以上の者のいる世帯(全世帯の49.4%)

(内訳)

夫婦のみの世帯 32.3

単独世帯 同28.8

親と未婚の子のみの世帯 20.0


 この順番は,近年変わっていません。

 

それでは今日の問題です。

 

30回・問題18 「平成28年国民生活基礎調査」(厚生労働省)における65歳以上の者のいる世帯の世帯構造のうち,世帯数の多い上位2つを選びなさい。

1 単独世帯

2 夫婦のみの世帯

3 親と未婚の子のみの世帯

4 三世代世帯

5 その他の世帯

 

この問題で出題されているのは,平成28年のデータです。

 

年度によって順位が変わってしまうようなもの(1位と2位が年度によって入れ替わるなど)は,出題されることはありません。

 

差が大きくなって,初めて出題されます。

 

正解は,

 

1 単独世帯

2 夫婦のみの世帯

 

<今日の一言>


国試では,基本的に2位以下を問われることはないので,1位だけを中心に覚えると良いのですが,この問題のように正解を2つ選ぶ問題もあるので,2位までは覚えておきたいです。

 

たくさん覚えると混乱のもととなるので,覚える分量はなるべく少なくするのが適切です。

2021年4月16日金曜日

コミュニティ解放論とは?

ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。


その結果,コミュニティの定義に共通するものとして


・社会的相互作用

・空間の限定

・共通の絆


があることが明らかとなりました。


ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人のつながりがひろがっています。


ウェルマンは,これを「コミュニティ解放論」と名付けました。


従来のコミュニティ,つまり空間が限定されるものは,つながりは弱くなっているかもしれませんが,空間を限定されない新しいスタイルのコミュニティができることを指摘したのです。


それでは,今日の問題です。


第30回・問題17 次の記述のうち,ウェルマン(Wellman,B.)の「コミュニティ解放論」の説明として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 特定の関心に基づくアソシエーションが,コミュニティを基盤として多様に展開している。

2 都市化の進展によってコミュニティは喪失若しくは解体されている。

3 都市化が進展しても,近隣を単位としたコミュニティは存続している。

4 交通通信手段の発達によって,コミュニティは地域という空間に限定されない形で新しく展開している。

5 コミュニティが,地域での自立生活を可能にする対人サービスを提供するようになっている。


国家試験問題の多くは,消去法を使って答えを見つけ出すものが多いですが,この問題は,コミュニティ解放論が理解できていれば,すぐに答えられます。


正解は,選択肢4です。


4 交通通信手段の発達によって,コミュニティは地域という空間に限定されない形で新しく展開している。


とても明確です。


しかし,コミュニティ解放論を正しく理解していないと消去法では答えられない問題です。


2021年4月15日木曜日

あなたの心は強いですか?

わけのわからないタイトルで失礼します。


社会福祉士の国家試験は,全体の6割程度が正解できれば合格できます。


最後の力を出し切るには,「強い心」が必要だと思うのです。


「強い心」というのは,決して非科学的なものではなく,極めて科学的なものです。


かつて「想定内」という言葉がはやったことがあります。


強い心は,多くのことを想定しておくことで形作られていきます。


合格ラインが7割程度なら試験突破のハードルが高くなりますが,6割程度なら手が届く範囲です。


それでは,今日の問題です。


第30回・問題15 日本の裁判員制度に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 裁判員制度は,一般市民の側からの要求に基づいて導入された。

2 裁判員制度の導入により,刑期が軽い方向へシフトしている。

3 裁判員を経験した人へのアンケート調査の結果では,あまりよい経験でなかったと感じている人が多い。

4 裁判員制度は,司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することを趣旨としている。

5 裁判員制度は,近代の自律的法としての普遍性を高めることを目的としている。


社会福祉士の国家試験で,裁判員制度が出題されたのは,後にも先にもこの時1回のみです。


今後も出題されることはないように思います。


そのため内容を覚えることには,ほとんど意味をもちません。


国試ではそういった問題が一定数出題されています。


必要なのは,そういった問題が出題されても対応できる「強い心」を養うことです。


そうすれば,正解できる確率が高まります。


この問題の正解は,選択肢4です。


4 裁判員制度は,司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することを趣旨としている。


一問一答式で勉強すると,何の疑問を生じることもなく,正解であると思えるでしょう。


しかし,「強い心」を持たず,うろたえると正解以外の選択肢に影響されて正解することができません。


それが国試の怖さです。


それでは正解以外の選択肢を見てみましょう。



1 裁判員制度は,一般市民の側からの要求に基づいて導入された。


どのような経緯があって導入されたのかを知っている人はいなかったでしょう。


そのため,焦ることなく,▲をつけておきます。


結果として×になる選択肢です。


正しい導入の経緯は,司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上への期待です。


2 裁判員制度の導入により,刑期が軽い方向へシフトしている。


詳細を見ると,刑期が軽い方向にシフトしているものもありますが,前提としては重い方にシフトしています。


なぜなら,選択肢5にも関係しますが,裁判官裁判は,これまでの判例とのバランスの中で量刑を決めますが,裁判員裁判は,そういったことはあまり重視されないからです。


3 裁判員を経験した人へのアンケート調査の結果では,あまりよい経験でなかったと感じている人が多い。


それもよく分かりません。


▲をつけておきます。


結果的に×になる選択肢です。


良い経験だったと感じている人が多かったようです。


もし本当にあまりよい経験でなかった,というアンケート結果だったとしたら,正解となる,


4 裁判員制度は,司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することを趣旨としている。


という趣旨は意味がなかったことになってしまいます。


5 裁判員制度は,近代の自律的法としての普遍性を高めることを目的としている。


自律的法とは,誰もが納得できる近代的な法のことです。


普遍性を担保するなら,専門性の高い裁判官裁判のほうが向いています。


裁判員裁判だと,同じような犯罪でも違った量刑になることがあるからです。

社会的な関心,犯罪者に対する批判,など様々な要因が絡まって判断されるからです。


<今日の一言>


▲をつけたのは,以下の選択肢です。


1 裁判員制度は,一般市民の側からの要求に基づいて導入された。

3 裁判員を経験した人へのアンケート調査の結果では,あまりよい経験でなかったと感じている人が多い。


そして正解です。


4 裁判員制度は,司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することを趣旨としている。


選択肢1と3,選択肢4を比べると,選択肢4のほうがメッセージ性が高いと思いませんか?


「強い心」があると,こういったことに気を配ることができるようになるでしょう。

2021年4月14日水曜日

認知行動療法について

社会福祉士の国家試験では,実に多くの心理療法が出題されています。


第31回国試に合格する勉強法~心理療法に関する出題は100%~その2

https://fukufuku21.blogspot.com/2018/03/311002.html


上記に示した出題回数は少し前のものなので,現在は種類がもう少し多くなっているかもしれません。


しかし,社会福祉士は実際に心理療法を行うわけではないので,詳しく覚える必要はありません。


それぞれの特徴を押さえるだけで正解できるレベルです。


例えば・・・


認知行動療法(CBT)は,学習理論を用いて,クライエントの認知及び行動を変化させるもの。


こんな感じです。


あとは,出題の内容からそれがCBTなのかどうかを判断するだけです。


それでは,今日の問題です。


第30回・問題14 カウンセリングや心理療法に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 認知行動療法では,クライエントの発言を修正せず全面的に受容することが,クライエントの行動変容を引き起こすと考える。

2 社会生活技能訓練(SST)では,ロールプレイなどの技法を用い,対人関係で必要なスキル習得を図る。

3 ブリーフセラピーでは,即興劇において,クライエントが役割を演じることによって,課題の解決を図る。

4 来談者中心カウンセリングでは,クライエントが事実と違うことを発言した場合,その都度修正しながら話を聞いていく。

5 動機づけ面接では,クライエントの変わりたくないという理由を深く掘り下げていくことが行動変容につながると考える。


たくさんの種類が出てきて,おなか一杯という感じかもしれません。


それでは解説です。


1 認知行動療法では,クライエントの発言を修正せず全面的に受容することが,クライエントの行動変容を引き起こすと考える。


早速,認知行動療法(CBT)です。


学習理論の要素はありますか?


どの心理療法でも受容は大切ですが,認知行動療法で行動変容を引き起こすのは,学習理論を活用したかかわりです。


受容を重視するのは,後述の来談者中心カウンセリングです。



2 社会生活技能訓練(SST)では,ロールプレイなどの技法を用い,対人関係で必要なスキル習得を図る。


これが正解です。


社会生活技能訓練(SST)では,ロールプレイなどの技法を用い,対人関係で必要なスキル習得を図ります。


重要なポイントとしては,モデリングです。集団で実施することで,ほかの人を見て,学ぶことができるからです。



3 ブリーフセラピーでは,即興劇において,クライエントが役割を演じることによって,課題の解決を図る。


即興劇において,クライエントが役割を演じることによって,課題の解決を図るのは,心理劇です。


ブリーフセラピー(短期療法)は,解決志向アプローチのベースとなるものです。

ポイントは,過去より未来です。過去とは問題の原因,未来は問題が解決されたイメージです。


それをセラピストが手助けしながら,未来を志向していきます。


4 来談者中心カウンセリングでは,クライエントが事実と違うことを発言した場合,その都度修正しながら話を聞いていく。


来談者中心カウンセリングは,修正せず,受容します。


そこがポイントです。


5 動機づけ面接では,クライエントの変わりたくないという理由を深く掘り下げていくことが行動変容につながると考える。


動機づけ面接とは,あまり聞き慣れないものかもしれません。


しかし,変わりたくない理由を掘り下げることは,変わりたくないという気持ちを確認してしまうことになりそうだと思いませんか?


クライエントが変わりたいというやる気になるためには,クライエント自身の気持ちの持ち方こそが大切です。


そこを重視してかかわっていくのが,動機づけ面接の基本です。


2021年4月13日火曜日

バーンアウト(燃え尽き症候群)の3つの症状

今回は,バーンアウト(燃え尽き症候群)を取り上げます。


バーンアウトは,1980年にフロイデンバーガーによって提唱され,その後マスラックがバーンアウトの状態を測定する尺度であるBMIを開発しました。


バーンアウトの症状は


1.情緒的消耗感(精神的な疲労などによって,それ以上努力できなくなってしまうこと)

  ↓ ↓

2.脱人格化(人を物のように扱ってしまうこと)

  ↓ ↓

3.個人的達成感の低下(自分に対する自信の喪失や仕事などに対するやりがいの喪失)


の順番に現われるとされます。


それでは,今日の問題です。


第30回・問題13 バーンアウト(燃え尽き症候群)に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 対人援助職に生じることは少ない。

2 援助対象者一人ひとりの感情に配慮した行動をとりやすくなる。

3 極度の身体的疲労は示すが,情緒的問題は少ない。

4 個人の能力やスキル不足が主な原因であり,職場環境の影響は小さい。

5 仕事に対する個人的達成感の低下が生じる。


前回取り上げた問題と異なり,この問題は勉強不足の人でもおそらく正解できます。


こういう問題が多ければ,合格基準点が上がります。


合格基準点が上がると,ぎりぎりのところで不合格になった人から不満の声が出ますが,得点しやすい問題で正解できなかったという事実から目をそらすと,次の年の受験に悪影響を及ぼすので注意が必要です。


さて,この問題の正解は,選択肢5です。


5 仕事に対する個人的達成感の低下が生じる。


何のひねりもありません。

知識ゼロの人でもこれを選べるでしょう。


それにもかかわらず,これを選べなかった人は,何かの理由があるはずです。

最も考えられるのは,ほかの選択肢との関係です。


2 援助対象者一人ひとりの感情に配慮した行動をとりやすくなる。


先に述べたように,バーンアウトになると,人を物のように扱ってしまう「脱人格化」が生じます。

そのため,援助対象者一人ひとりの感情に配慮することが少なくなります。


しかし,変に勘繰ると,人の感情に配慮した行動をとるようになるのかもしれない,考えてしまいます。

そうすると深い深い迷いの森に入り込んでしまいます。

国家試験は,多くの人が思うほど意地悪ではありません。


人の感情に配慮した行動をとるようになるのかもしれないなどと考えることなく,「仕事に対する個人的達成感の低下が生じる」を選ばなければなりません。


迷いの森に入り込まないためには,自信を持つことが必要です。


ほかの選択肢は解説しません。わかりやすいからです。

2021年4月12日月曜日

ピアジェの発達段階

近年の国試で,発達心理学の中でも発達段階で出題されているのは,エリクソンとピアジェのものです。

 

今回は,そのうちのピアジェを取り上げます。

 

発達段階は以下の4段階です。

 

感覚運動期 

 ↓

前操作期

 ↓

具体的操作期

 ↓

形式的操作期

 

人の発達は,下の段階には戻りません。

 

防衛機制では「退行」(いわゆる赤ちゃん返り)がありますが,本当に心身の発達が下の段階に戻っているわけではなく,防衛機制によって,心理的に退行しているだけです。

 

それでは今日の問題です。

 

30回・問題12 ピアジェ(PiagetJ.)の認知発達理論に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 体積や量の保存の概念は,感覚運動期に獲得される。

2 自己中心的な思考は,形式的操作期の特徴である。

3 抽象的な論理的思考は,前操作期に発達する。

4 可逆的な操作は,具体的操作期に可能となる。

5 対象の永続性は,形式的操作期に獲得される。

 

知識ゼロの人は,消去できる選択肢がないので,5分の1の確率でしか正解することができません。

 

しかし,これが国試の理想形です。勉強していない人でも解ける問題ではだめなのです。

 

それでは解説です。

 

1 体積や量の保存の概念は,感覚運動期に獲得される。

 

保存の概念は,見かけが変わっても元と同じであると認識できることをいいます。

 

保存の概念を獲得できるのは,具体的操作期です。

 

2 自己中心的な思考は,形式的操作期の特徴である。

 

自己中心的な思考は,前操作期にみられる特徴です。

この時期には,まだ他者の立場で考えることができないからです。

 

3 抽象的な論理的思考は,前操作期に発達する。

 

抽象的な論理的思考は,具体的操作期からできるようになり,形式的操作期に発達していきます。

 

4 可逆的な操作は,具体的操作期に可能となる。

 

可逆的な操作とは,元に戻しても同じものだととらえることができることをいいます。

可逆的な操作ができるようになると,保存の概念が獲得されていきます。

 

5 対象の永続性は,形式的操作期に獲得される。

 

対象の永続性は,目の前に見えなくなっても,存在していることがわかることをいいます。

対象の永続性が獲得されるのは,感覚運動期です。

 

さて,それでは今回もまとめてみましょう。

 

感覚運動期

対象の永続性が獲得される。

前操作期

自己中心的な思考が特徴である。

保存の概念は獲得されていない。

具体的操作期

可逆的な操作ができるようになり,保存の概念が獲得される。

形式的操作期

抽象的な論理的思考ができるようになる。

 

またまた立派な資料が出来上がりました。

2021年4月11日日曜日

社会心理学について

「心理学理論と心理的支援」を苦手にしている受験生が多いようです。

 

心理学とひとまとめにされますが,「認知心理学」「発達心理学」「社会心理学」「学習心理学」「人格心理学」など多くの領域があります。

 

このことによって,雲をつかむような気がするのかもしれません。

 

しかし,社会福祉士・精神保健福祉士に出題されるのは,それらのほんの入り口のものだけです。

 

本格的な知識は必要とされないので,用語を簡単に覚えるだけで何とかなります。

 

実は国試に合格するためには,極めて重要なことです。多くの受験生が苦手としている科目なので,人よりちょっと多く勉強すると差がつきやすいのです。

 

領域が広いということは,3年間の国家試験の中には,出題されて来ないものがあることを意味しています。

 

そのため3年間の過去問を完璧に覚えてもそれだけではほとんど得点することはできないでしょう。

 

さて,今回取り上げるのは,社会心理学です。

 

現代の心理学は,さまざまな研究によって,入ってきた情報をどのように脳が処理するのかが解明されてきています。

 

そのうちの社会心理学は,集団の中での人の認知や行動を研究した領域です。

 

もちろん個人差があるので,50%の人に当てはまるものが理論化されます。

 

知っていても知らなくても社会生活は送れますが,知っておくことで,様々な対策ができます。

 

この差は大きいと思いませんか?

 

それでは今日の問題です。

 

30回・問題11 集団における行動に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 社会的ジレンマとは,集団的な討議を行うことによって,より安全志向な結論が得られやすくなることをいう。

2 ピグマリオン効果とは,集団において多数派の意見や期待に合わせて,個人の意見や行動が変化することをいう。

3 傍観者効果とは,緊急的な援助を必要とする場面であっても,周囲に多くの人がいることによって,援助行動が抑制されることをいう。

4 同調とは,他者の存在によって作業の効率が向上することをいう。

5 コーシャス・シフトとは,集団のメンバーの多くが個人的利益を追求した行動をとることで,集団全体にとって不利益な結果となることをいう。

 

実に第30回国試らしい問題です。

 

コーシャス・シフトという聞き慣れないものが出題されていますが,頻出のもので構成された問題でありしかも入れ替えになっているので,きっちり勉強した人にとってはかなり易しめの問題となっています。

 

それでは,解説です。

 

1 社会的ジレンマとは,集団的な討議を行うことによって,より安全志向な結論が得られやすくなることをいう。

 

〈社会的ジレンマ〉

集団のメンバーの多くが個人的利益を追求した行動をとることで,集団全体にとって不利益な結果となること。

 

2 ピグマリオン効果とは,集団において多数派の意見や期待に合わせて,個人の意見や行動が変化することをいう。

 

〈ピグマリオン効果〉

自分が相手に対してある期待を持つと,自分自身が意識しないうちに当該期待に沿った行動を,自らがとってしまうという行動傾向のこと。一般的には,教師が生徒に対して成績向上の期待をもつことによって,実際にその生徒の成績が向上していく現象として知られる。

 

3 傍観者効果とは,緊急的な援助を必要とする場面であっても,周囲に多くの人がいることによって,援助行動が抑制されることをいう。

 

これが正解です。

 

〈傍観者効果〉

緊急的な援助を必要とする場面であっても,周囲に多くの人がいることによって,援助行動が抑制されること。

 

4 同調とは,他者の存在によって作業の効率が向上することをいう。

 

〈同調〉

集団において多数派の意見や期待に合わせて,個人の意見や行動が変化すること。

 

〈社会的促進〉

他者の存在によって作業の効率が向上すること。

 

5 コーシャス・シフトとは,集団のメンバーの多くが個人的利益を追求した行動をとることで,集団全体にとって不利益な結果となることをいう。

 

〈コーシャス・シフト〉

集団的な討議を行うことによって,より安全志向な結論が得られやすくなること。逆に危険な結論に導き出しやすことは,リスキー・シフトという。

 

これらを整理すると以下のようになります。


社会的ジレンマ

集団のメンバーの多くが個人的利益を追求した行動をとることで,集団全体にとって不利益な結果となること。

ピグマリオン効果

自分が相手に対してある期待を持つと,自分自身が意識しないうちに当該期待に沿った行動を,自らがとってしまうという行動傾向のこと。一般的には,教師が生徒に対して成績向上の期待をもつことによって,実際にその生徒の成績が向上していく現象として知られる。

傍観者効果

緊急的な援助を必要とする場面であっても,周囲に多くの人がいることによって,援助行動が抑制されること。

同調

集団において多数派の意見や期待に合わせて,個人の意見や行動が変化すること。

社会的促進

他者の存在によって作業の効率が向上すること。

集団思考

集団的な討議を行うことによって,一人で出す結論よりも極端な結論を導きだしやすい。

より安全志向な結論が得られやすくなることは,「コーシャス・シフト」という。

より危険な結論が得られやすくなることは,「リスキー・シフト」という。


立派な資料が出来上がりました。


〈傍観者効果について〉


社会福祉士・保健福祉士の国家試験では出題されませんが,人を助けるという心理プロセスとして,以下のようなものがあるとされます。


1 何か深刻な事態が生じているという認識 

  ↓  ↓

2 事態が危機的状況であるという認識

  ↓  ↓

3 自分に助ける責任があるという認識

  ↓  ↓

4 どうやって助ければよいかを自分は知っているという認識

  ↓  ↓

5 援助しようという決断


傍観者効果が起きるのは,周囲に目撃者が多いと,「3 自分に助ける責任があるという認識」が起きにくいためです。そのために4,5に進みません。


傍観者効果というものがあることを知っていれば,ほかの誰かが助けてくれるだろうと思わないので,援助行動を取りやすくなります。

2021年4月10日土曜日

応用力って本当に必要なのだろうか?

国家試験に合格するためには,応用力が必要である,という人がいます。


「応用力」とは,基礎的な知識をその場に合わせて展開することをいいます。


丸暗記勉強している人は,そういった意味では,「応用力」が必要なのかもしれません。

しかし,それは勉強方法自体が間違っています。


覚えたものと同じ文章では出題されることはないのですから,その意味を押さえた勉強が欠かせません。


丸暗記勉強は,百害あって一利なし


そういった意味では,穴埋め式の参考書がありますが,完成された文章の意味が理解できていなければ,そういった参考書は危険です。


それでは,「どの参考書を使って勉強したらよいのか」という疑問はあると思いますが,何を使うかはそれほど重要ではありません。


重要なのは「どのように勉強するか」です。


最も多く使われているものが良いのか,ということではありません。

社会福祉士の国家試験の合格率は,約30%です。


最も多く使われている参考書は,「最も不合格者を出しているものである」と考えることもできます。


応用力が必要だと本気で思うなら,勉強方法を見直したほうがよいです。


それでは,今日の問題です。


第30回・問題10 思考や知能に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 拡散的思考とは,問題解決の際に,1つの解答を探索しようとする思考方法である。

2 洞察とは,問題解決のための方法を1つひとつ試して,成功する手法を探していく思考方法である。

3 知能指数(IQ)は,知能検査から得られる生活年齢と暦年齢の比によって計算される。

4 結晶性知能とは,過去の学習や経験を適用して得られた判断力や習慣のことである。

5 成人用知能検査であるWAISは,フランスのビネー(Binet,A)によって開発された。


この時の国試を受けた人は,この問題を見て「何,これ難しい」と思ったことでしょう。


これが国試です。


応用とかではなく,基礎的知識で十二分に通用しますが,丸暗記の人は太刀打ちすることができないでしょう。


なぜなら,正解は選択肢4

4 結晶性知能とは,過去の学習や経験を適用して得られた判断力や習慣のことである。


だからです。


この文章を見て,しっくりこない人は,覚え方を考えたほうが良いです。


結晶性知能が出題された時,瞬時に思い起こさなければならないのは,「流動性知能」です。


選択肢4の「結晶性知能」のところに「流動性知能」をあてはめてみます。


流動性知能とは,過去の学習や経験を適用して得られた判断力や習慣のことである。


これは違うだろうと判断できそうです。


この感覚が何よりも大切です。


こう思えることで,選択肢4はとりあえず間違いではなさそうだと判断できそうなので,▲をつけます。


それでは,それ以外の選択肢も見てみましょう。


1 拡散的思考とは,問題解決の際に,1つの解答を探索しようとする思考方法である。


余談ですが,国家試験で,「思考」について出題されたのは,この時が初めてです。出題基準にあっても出題されていないものが実はまだあります。


これから今のカリキュラムのラストに向けて,穴埋めしていくように出題されることでしょう。


拡散的思考は,収束的思考とセットになるものです。


拡散的思考は,思考を広げていくもの。

収束的思考が,この選択肢のように,さまざまな事象を通して,一つの結論を見出す思考法です。


今は参考書に書いてあることですが,参考書に書いていないものが出題された時は,決して焦らないことです。なぜなら多くの場合,そこには正解は配置されないからです。


これが国試当日実践できれば,無駄なミスは防ぐことができるでしょう。


2 洞察とは,問題解決のための方法を1つひとつ試して,成功する手法を探していく思考方法である。


これを消去するためには,学習理論を理解していなければなりません。

洞察は知らなくても「洞察学習」は勉強したはずです。チンパンジーの実験でおなじみですね。

チンパンジーは,試行錯誤せずとも,高いところにあるバナナをたたき落とすことができました。


洞察も同じように「試行錯誤しない」と推測することができます。洞察は,別な言い方をすると「ひらめき」です。

試行錯誤しながら,解決策を見出すのはネコの実験で有名な試行錯誤です。


3 知能指数(IQ)は,知能検査から得られる生活年齢と暦年齢の比によって計算される。


知能指数の計算方法は,ほんとうに久々の出題です。


第10回では以下のような出題がありました。


問題110 知能指数に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

 精神年齢(知能年齢)8歳6か月,生活年齢(暦年齢)7歳8か月の子どもの知能指数はいくらか。

1 90 

2 91 

3 110 

4 111  

5 上記の資料からは,算出できない。


知能指数をどのように計算するかは,知らなくても精神年齢が高ければ知能指数が高そうなことは推測できそうです。


しかし,この問題はとてもいじわるです。

精神年齢102か月

生活年齢(暦年齢)92か月


102÷92は,110.9となります。


四捨五入して111,つまり選択肢4が正解です。時間のない中で計算される問題で,さらに計算ミスは許されないという問題です。


今のカリキュラムではこんないじわるな問題は出題されません。


さて,今日の問題に戻ります。


生活年齢と暦年齢の比


となっていますが,第10回国試問題でわかるように,生活年齢と暦年齢は同じものです。


正しくは,精神年齢と生活年齢(暦年齢)の比です。


5 成人用知能検査であるWAISは,フランスのビネー(Binet,A)によって開発された。


ビネーは,正解で初めて知能検査を開発して人物として知られます。


それがビネー式知能検査です。日本版の田中ビネー知能検査が知られます。これによって算出されるのが知能指数(精神年齢÷生活年齢)です。


成人用知能検査であるWAIS(ウェイス)は,ウェクスラーが開発したものです。

対象年齢は,16歳から90歳11か月です。AはAdultを意味しています。


児童用知能検査は,WISC(ウィスク)です。

対象年齢は,5歳から16歳11か月です。Cは,Childrenを意味しています。


低年齢児用知能検査は,WPPSI(ウィプシ)です。

対象年齢は,2歳6か月から7歳3か月です。Pは,Preschool&Primaryを意味しています。


WPPSIは,乳児には使えません。社会福祉士の国家試験には出題されたことがありませんが,乳児にも使える知能検査として,


遠城寺式乳幼児分析的発達検査

新版K式発達検査


があります。これらはいずれも日本で開発されたものです。


もう想像はついているかと思いますが,WAIS,WISC,WPPSIのいずれにもWがついていますが,このWは,Wechslerを意味しています。


知能検査はビネー式に比べるとウェクスラー式のほうが,内容が高度です。


ビネー式は,単に知能指数を算出するのに対して,ウェクスラー式は,「言語理解」「知覚推理」「ワーキングメモリ」「処理速度」の4つの指標と,そこから全検査知能指数(FSIQ)を算出することができます。


全体知能指数の平均は90~109ですが,各指標の数値にばらつきがある場合は要注意です。


第33回では以下の出題がありました。


第33回・問題13 心理検査に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 特別支援学級への入級を検討したい子どもの知能検査を学校から依頼されたので,ロールシャッハテストを実施した。

2 改訂長谷川式簡易知能評価スケールの結果がカットオフポイントを下回ったので,発達障害の可能性を考えた。

3 10歳の子どもに知能検査を実施することになり,本人が了解したので,WAIS-Ⅳを実施した。

4 投影法による性格検査を実施することになったので,矢田部ギルフォード(YG)性格検査を実施した。

5 WISC-Ⅳの結果,四つの指標得点間のばらつきが大きかったので,全検査IQ(FSIQ)の数値だけで全知的能力を代表するとは解釈しなかった。


正解はわかりますね。選択肢5が正解です。


なお,カットオフポイントとは,判断するための基準の点数です。

たとえば,改訂長谷川式簡易知能評価スケールのカットオフポイントは,20点です。この点数を下回ると,認知症が疑われます。

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