中央法規の受験ワークブックをはじめ,各社の受験用参考書を見ると外国人の名前がたくさん出ているので,それらを覚えなければならないと思うことでしょう。
しかし「心理学理論と心理的支援」について限って言えば,現行カリキュラムになってからは,人名の知識が必要だった問題は,
成人用知能検査であるWAISは,フランスのビネー(Binet,A)によって開発された。(第30回国試)
たったこれだけです。
人名も覚えておいた方が良いのかもしれませんが,覚えるポイントは人名ではなく,その内容であることは忘れてはなりません。
この選択肢は,ビネーではなく,ウエクスラーが正しいです。こう書くと難しそうに思えるかもしれませんが,WAISのWはウエクスラーのWを意味しているので,実はそれほど難しくはありません。
さて,出題率100%の心理療法です。
前回は,出題基準で示されているものを紹介しました。
精神分析(24)
遊戯療法(6)
行動療法(20)
家族療法(9)
ブリーフ・サイコセラピー(4)
心理劇(8)
動作療法(3)
SST(社会生活技能訓練)(10)
今回は,それ以外の出題頻度を紹介します。
来談者中心療法(9)
認知行動療法(6)
箱庭療法(9)
内観療法(2)
森田療法(6)
エンカウンターグループ(1)
芸術療法(1)
自律訓練法(2)
系統的脱感作法(5)
動機づけ面接(1)
さすがは,出題率100%の心理療法です。数多くの種類が出題されています。
それでもたったの19種類です。
出題率100%なのですから,これをしっかり覚えていかない手はありません。
出るか出ないか分からない最新の法制度を追っかけるよりも,このような確実なものをしっかり覚えていくことが合格する最も近道です。
社会福祉士の国試は,1問1点です。入学試験のように問題によって配点が違うということはありません。
多くの人が解けないような問題が解けても1点。
多くの人が解ける問題が解けても1点。
合格する人は,「多くの人が解ける問題」は確実に得点していきます。
合格しない人は,「多くの人が解ける問題」をちょっとずつ落としていきます。
合格する人でも,「多くの人が解けない問題」は解けません。
心理療法は,出題率100%です。
しかも,出題頻度では一見さんが少ないことから,
少しずつ同じで,少しずつ違う
ではなく,
ほとんどの出題は,とっかえひっかえ入れ替えて出題されていることが分かります。
さらに言えば,心理療法の具体的方法論(手順)について出題されるのは森田療法くらいなもので,それ以外はどのような療法なのか,という部分だけが問われます。
だからと言って答えを選ぶのが簡単かと言えば,そうではないのが,この試験の難しいところです。
例えば,第30回の問題です。
問題14 カウンセリングや心理療法に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 認知行動療法では,クライエントの発言を修正せず全面的に受容することが,クライエントの行動変容を引き起こすと考える。
2 社会生活技能訓練(SST)では,ロールプレイなどの技法を用い,対人関係で必要なスキル習得を図る。
3 ブリーフセラピーでは,即興劇において,クライエントが役割を演じることによって,課題の解決を図る。
4 来談者中心カウンセリングでは,クライエントが事実と違うことを発言した場合,その都度修正しながら話を聞いていく。
5 動機づけ面接では,クライエントの変わりたくないという理由を深く掘り下げていくことが行動変容につながると考える。
素直に出題されていないことが分かることでしょう。
答えは2のSSTです。
この問題で間違った人は,言い回しにやられていると考えられます。
たとえば,認知行動療法の認知とは,「人の考え方の癖」を意味します。これを修正するのが認知行動療法なので,クライエントの発言は修正されていきます。
受容が重視されるのは「来談者中心療法」です。
〈今日の一言〉
心理療法は,一つひとつが単体で実施されるわけではなく,さまざまなものが組み合わせて実施されます。
例えば,
認知行動療法であっても,インテーク面接場面なら,来談者中心療法の「共感的理解」「無条件的肯定的関心」で接し,クライエントを「受容」することでラポール形成を図るでしょう。
しかし,認知行動療法の「キモ」は「受容すること」ではなく,クライエントの考え方を修正することで行動変容を目指すことです。
例えば,「私はだめな人間です」というクライエントの考え方を「私はだめな人間ではありません」と考えられるようにアプローチし,行動変容を目指していくのが,認知行動療法です。
この科目で,合格するために必要なのは,丸暗記ではありません。必要なのは,一つひとつをかみ砕いて覚えることです
。面倒だとも思うかもしれませんが,出題率100%なのですから,このくらいの手間をかけても良いと思います。誰が創始したものかは必要な知識ではありません。
こういった問題を確実に得点していきましょう。
<再受験を目指す方へ>
第30回・問題14が正解できたかどうかは,覚え方にミスマッチがなかったどうかを測るバロメータとなります。
もし間違っていた場合は,今までと同じ勉強法を続けると次回も必ず間違えます。
試験が終わると「知識が足りなかった」という感想がよく聞かれます。知識を増やしてもあいまいな知識では,国試では得点することは困難です。
中には,本当に知識が足りない人もいるでしょう。しかし2回,3回と受験している人は,絶対に知識不足ではないと思います。
必要なのは,覚え方の工夫です。
ひと手間かかるかもしれませんが,具体的にイメージしながら覚えることで,さまざまな出題に対してアジャスト(適応)できやすくなります。
得点できないのは「頭が悪いから」「だめな人間だから」ではありません。
こう思うと「自己肯定感」が下がってしまい,国試では最高のパフォーマンスを発揮するのは,難しくなります。
得点できないのは,「覚え方が適切ではないから」です。「自己満足の勉強法だから」です。
必要なのは,どれだけ勉強するかといった定量的なものではありません。
本当に必要なのは,どんな勉強をするのかといった定性的なものです。
打つべき手はあります。覚え方を丸暗記型から理解型に変えることです。
他にもあいまいな知識にしないための打つべき手もあります。
これらは,ずっと追っかけていきますので,ご期待ください。
ひと手間かけた料理は,おいしくなります。
ひと手間かけた勉強は,合格をつかみます。
最新の記事
児童手当法と児童手当
今回は児童手当法と児童手当を学びます。 児童手当法,児童扶養手当法,特別児童扶養手当法は,児童扶養手当法(1961年),特別児童扶養手当法(1964年),児童手当法(1971年)の順で成立していきました。 児童手当法の児童の定義は,18歳に達する日以後の最初の3月31日までの...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
今回は,ピンカスとミナハンが提唱したシステム理論を取り上げたいと思います。 システム 内容 クライエント・システム 個人,家族,地域社会など,クライエントを包み込む環境すべてのも...
-
ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。 その結果,コミュニティの定義に共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが明らかとなりました。 ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...