前回は以下のように述べました。
心理学理論について言えば人名を覚えておかなければならない問題はほとんどありません。
そこに力点を入れた勉強法は間違いです。もしそうしていたら,今すぐやめましょう。
必要なのは,人名ではなく,その内容です。
今回取り上げるのは,「パーソナリティ(人格)」です。
参考書を見るとたくさんの名前が出てくるので,いやだなぁ,と思うかもしれません。
しかし,ここでも人名が答えの決め手になる問題はありません。
パーソナリティが出題されたのは以下の回です。
第23回(シュプランガーの類型論)
第27回(特性論)
第28回(タイプA行動パターン)
パーソナリティの整理ポイントは・・・
類型論と特性論に分類されます。
類型論は,パーソナリティをタイプ分けするものです。
例えば,体型から人格を分類したクレッチマーなどがあります。分かりやすいのが特徴です。
特性論は,人のパーソナリティは,いくつかの特性が組み合わさって作り上げられるものであるとされるものです。こちらの方が緻密な感じがします。
現在の特性論は,「外向性」「神経症傾向」「誠実性」「調和性」「経験への開放性」の5つ特性で構成される「ビッグファイブ」が中心理論です。
類型論と特性論の違いはしっかり押さえておきましょう。そして特性論の中でもビッグファイブを理解しておきましょう。
それでは,今日の問題です。
第27回・問題9 パーソナリティに関する次の記述のうち,特性論の説明として,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 エス・自我・超自我の区別と相互作用説は,特性論の一つの証拠となっている。
2 体格や価値に基づく生活様式などの違いでカテゴリー化し,特性をとらえる。
3 外向性・神経症傾向・誠実性・調和性・経験への開放性から成るビッグファイブ(5因子説)は,特性論の一例である。
4 典型例が明示され,パーソナリティを直感的・全体的に把握するのに役立つ。
5 パーソナリティ全体をいくつかの層の積み重なった構造としてとらえる。
第27回は特性論が出題されています。
類型論は「あなたはこのタイプです」といったようにタイプ分けするので分かりやすいですが,先述のようにやっぱり特性論が緻密なように思います。
さて,それでは詳しく見ていきましょう。
1 エス・自我・超自我の区別と相互作用説は,特性論の一つの証拠となっている。
エス(イド)・自我(エゴ)・超自我(スーパーエゴ)を使って説明されるのは,フロイトの精神分析です。
エス(イド)は,~したいという本能的な欲求です。生まれたばかりの子どもはエスの世界で生きています。
自我(エゴ)は知性で,事実を事実としてとらえます。
超自我(スーパーエゴ)は,~すべき(してはならない)という道徳心です。
このようにパーソナリティには関連していません。よって間違いです。
2 体格や価値に基づく生活様式などの違いでカテゴリー化し,特性をとらえる。
カテゴリー化するのは,類型論です。よって間違いです。
体格によって類型化したのはクレッチマーです。
価値に基づく生活様式などの違いで類型化したのは,シュプランガーです。
3 外向性・神経症傾向・誠実性・調和性・経験への開放性から成るビッグファイブ(5因子説)は,特性論の一例である。
これが正解です。多くの研究者がどのような特性でパーソナリティが構成されているかを研究した結果,「外向性」「神経症傾向」「誠実性」「調和性」「経験への開放性」(知的好奇心)の5つが特性因子である,とされています。
これが,現在のパーソナリティ研究の中心です。
4 典型例が明示され,パーソナリティを直感的・全体的に把握するのに役立つ。
典型例が明示されるのは,類型論です。よって間違いです。
5 パーソナリティ全体をいくつかの層の積み重なった構造としてとらえる。
特性論は,いくつかの特性が組み合わさった構造ととらえます。よって間違いです。
いくつかの特性が組み合わさった構造とは,例えば「外向性がかなり強く」「神経症傾向がやや強く」「誠実性がかなり強く」「調和性がかなり弱く」「経験への開放性がやや弱く」といったような構造を指しています。
これが理解できれば,「いくつかの層の積み重なった構造」というのはでたらめな文章であることが分かるでしょう。
〈解き方の整理〉
ビッグファイブは,この時が初めての出題です。
そのため,参考書によって掲載されていたり,されていなかったりしています。
ビッグファイブが分からなかったとしても,類型論,特性論を理解しておくことで,他の選択肢が消去できます。
逆に言えば,あいまいだと消去法が使えないので,正解にたどり着くのは限りなく困難です。
今,解説を読むとそんなに難しく感じないかもしれません。しかし,ビッグファイブという初物が入っている問題はとても難しいです。
ここが国試の難しいところです。
〈今日の一言〉
心理学理論は難しそうだというイメージが強いと思います。
しかし,今日の問題の「類型論」「特性論」を理解できれば答えられたように,難しめの中でも攻略ポイントがあります。
多くの人が苦手としているからこそ,得点しておきたい科目だとも言えるでしょう。