合格基準については,「ボーダーライン予測」といった名目で,さまざまな情報が飛び交っていると思います。
しかし,実際には,問題の難易度,合格者数,合格率,などの要素を加味して決定されるので,そんな単純なものではありません。
ボーダーラインは,神のみぞ知る
といった感じでしょうか。
さて,第31回国試に向けた勉強法です。
まずは,現行カリキュラムになる前の第21回の問題を見てみましょう。
第21回・問題1
我が国の社会福祉の歴史に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 明治維新の直後に制定された恤救規則は,イギリスの救貧法をモデルに制定され,救恤場を設置し,院内救済を原則とした。
2 日清戦争の前後には,労働者の貧困や都市下層社会の問題が発生し,政府は,救貧行政の強化を図るために,窮民救助法を制定した。
3 日露戦争後には,政府は,地方行政による救貧行政の進展を図るために,感化救済事業講習会を開催し,防貧だけでなく救貧の必要性を強調した。
4 第一次世界大戦末期には,物価高騰による生活苦を背景に勃発した米騒動が,社会連帯責任を強調した社会事業行政を発展させる一因となった。
5 日中戦争が全面化した時期には,政府は,軍人の保護を目的として,戦時厚生事業を行い,傷病軍人対策として廃兵院法を制定した。
とても難しい問題だと思います。
10年前の問題ですが,問題の作り方は,今とほとんど変わっていないことが分かるでしょう。
この問題は,第31回国試には,とても重要な問題になると予測しています。
なぜなら,2018年は,日本の福祉の発展過程にとっては,重要な節目になる年だからです。
100年前の1918年は,富山から全国に広がった米騒動が発生した年です。
不作によって1993年「平成の米騒動」が起きたのを覚えた人もいるでしょう。
「平成の」とつけられているのは,1918年に米騒動が起きているからです。
米騒動が起きる前までは,生活難は自己責任だと思われていましたが,この騒動によって政府による取り組みがなされることになっていきます。
米騒動が日本の福祉行政の大きな転換点になっています。
正解は,4です。
しかし,歴史を苦手としている人も多いと思いますので,簡単に解説します。
1 明治維新の直後に制定された恤救規則は,イギリスの救貧法をモデルに制定され,救恤場を設置し,院内救済を原則とした。
イギリスは,ワークハウス(労役場)で救済しましたが,恤救規則は居宅で救済しました。
施設ができるのは,救護法(1929)まで待たなければなりません。しかし原則は居宅救護です。
2 日清戦争の前後には,労働者の貧困や都市下層社会の問題が発生し,政府は,救貧行政の強化を図るために,窮民救助法を制定した。
明治初期に成立した恤救規則は,驚くなかれ,1929(昭和4)年の救護法成立まで存続しました。
それまで救貧法案はありましたが,すべて廃案になっています。
先述のように,貧困は個人責任だとされていたからです。そのために,明治~大正期は,民間の慈善事業が支えることになります。
3 日露戦争後には,政府は,地方行政による救貧行政の進展を図るために,感化救済事業講習会を開催し,防貧だけでなく救貧の必要性を強調した。
日清戦争では,清(中国)から多額の賠償金を受け取ることができました。しかし日露戦争では賠償金を受けることができず,政府は財政難に陥ります。そこで,救貧よりも防貧を目指し,感化救済事業講習会を開催しました。感化とは「良い影響を与える」といった意味合いで,臣民の労働意欲を高めて,良民にしていこうと考えたものです。
財政が厳しくなってくると,給付するだけではなく,就労政策に力を入れていくのはいつの時代も同じです。
感化救済事業は,明治版「福祉から就労へ」政策と言えるでしょう。
4 第一次世界大戦末期には,物価高騰による生活苦を背景に勃発した米騒動が,社会連帯責任を強調した社会事業行政を発展させる一因となった。
富山の主婦たちから始まった米騒動は,全国に飛び火して大規模化していきます。軍隊を動員してようやく鎮圧することになります。
過激なことや外部からの圧力がないと大きく変わっていかないのが我が国のようです。
5 日中戦争が全面化した時期には,政府は,軍人の保護を目的として,戦時厚生事業を行い,傷病軍人対策として廃兵院法を制定した。
廃兵院法が制定されたのは,日露戦争後です。
廃兵院法は,この時しか出題されたことがありません。
日露戦争は,「大国に勝利して,日本が世界に認められるきっかけとなった」という側面がクローズアップされますが,日本で防貧という考え方が生まれたということは押さえておきたいです。
救貧 ➡ 古くからある施策
防貧 ➡ 新しい施策
防貧とは,貧困に陥らないようにするための施策です。1922年には,わが国初の社会保険となる健康保険法が成立します。
現在の日本の社会保険制度は
救貧 ➡ 生活保護制度
防貧 ➡ 社会保険制度
その中間となるのが,社会福祉制度です。
〈今日のまとめ〉
米騒動は,複数の科目で出題される可能性があります。
節目の年でなくても,米騒動は重要ですが,この機会にしっかり押さえておきたいです。
実質的には,日本の本格的な福祉政策の始まりとなります。