2020年11月30日月曜日

生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)

生活支援コーディネーターは,介護保険法で規定され,生活支援サービスの提供主体のネットワーク構築,それでは足りないときには新たなサービスの創出などを行います。


ネットワーク構築のために「協議会」が設置されて,そこで情報の共有,連携強化などが行われます。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題35 2014年(平成26年)の介護保険法の改正に伴って設けられた地域に関係する主体の記述として,正しいものを1つ選びなさい。

1 「生活支援コーディネーター」(地域支え合い推進員)は,サービス提供主体の間の連携を推進するとともに,新たなサービスを創出する役割を期待されている。

2 介護支援専門員は,生活支援・介護予防に関する多様な関係主体間の定期的な情報収集及び連携・協働による取組を推進することが求められている。

3 介護予防・日常生活支援総合事業では,住民,NPOなどの多様な主体による自主的な活動は想定されていない。 

4 「認知症初期集中支援チーム」は,認知症サボーターから構成されている。

5 地域ケア会議では,地域包括支援センターと連携して都道府県レベルで,多職種協働による地域のネットワークを構築することが求められている。


今なら,それほど難しくないかもしれませんが,出題された当時はとても難しく感じたはずです。


しかし,このタイプの問題は,それほど多くの人は正解できないので,焦ることなく,落ち着いて問題を読むことが大切です。


それでは,解説です。


1 「生活支援コーディネーター」(地域支え合い推進員)は,サービス提供主体の間の連携を推進するとともに,新たなサービスを創出する役割を期待されている。


これが正解です。


この問題のように,「期待されている」といったタイプの選択肢は,正解になりやすい傾向にあります。


2 介護支援専門員は,生活支援・介護予防に関する多様な関係主体間の定期的な情報収集及び連携・協働による取組を推進することが求められている。


生活支援・介護予防に関する多様な関係主体間の定期的な情報収集及び連携・協働による取組を推進は,協議会が担います。


協議会を知らなくても,介護支援専門員はこのような役割まで担わないことは推測できるでしょう。


3 介護予防・日常生活支援総合事業では,住民,NPOなどの多様な主体による自主的な活動は想定されていない。


これは,消去できるでしょう。

 

4 「認知症初期集中支援チーム」は,認知症サボーターから構成されている。


認知症初期集中支援チームは,専門職によるチームです。


5 地域ケア会議では,地域包括支援センターと連携して都道府県レベルで,多職種協働による地域のネットワークを構築することが求められている。


地域ケア会議に限らず,介護保険制度の地域支援事業は,市町村レベルで行われるものです。


生活支援には,小回りが利く市町村が適します。

2020年11月29日日曜日

歴史は変わらない



歴史は,変わるから理数系のほうが好きだ


と言う人がいます。


確かに,子どもの頃に学んだものが変わっているものがあります。


学校で学ぶもので,変わっているものとしてよく知られるものでは,


聖徳太子 → 厩戸皇子

鎌倉幕府の開府


などがあります。


しかし,ちょっと待ってください。


歴史が変わっているのではなく,解釈が変わっているだけです。


過去の出来事の事実が変わったらびっくりです。


タイムマシンでも開発されないと無理でしょう。


歴史が変わったら,本当にびっくりです。変わるのは解釈です。


さて,国家試験の話です。


国試で出題される歴史は,解釈が変わってしまうほどの太古の話ではありません。


古くてもエリザベス救貧法,多くは19世紀以降です。


それに比べて,知識がすぐ古くなるのは,多くの人が「歴史よりも覚えやすい」と思っている法制度です。


あっと言う間に陳腐化します。


社会人は,自分の領域の制度改正は知っていると思いますが,それ以外の制度改正を追いかけていくのは簡単なことではありません。


試験対策の先生は,「制度が変わったところが出題されるよ」と言います。


しかし,どこが出題されるか,そのポイントは分かりません。


それに比べると,歴史の出題ポイントは変わらないので,学習の効率性という点では,かなり高いです。


苦手にしてしまうのは,あまりにもったいないことだと思います。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題34 セツルメントに関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 日本におけるセツルメント運動は,アダムス(Adams,A.)が岡山博愛会を設立したことに始まるとされている。

2 中央慈善協会は,全国の主要な都市で展開されていたセツルメント運動の連絡・調整を図ることを目的として設立された。

3 留岡幸助は,大崎無産者診療所を開設しセツルメント運動に取り組んだ。

4 大原孫三郎は,セツルメントの拠点としてキングスレー・ホールを開設した。

5 賀川豊彦は,神戸の貧困地域でのセツルメントの実践を『貧乏物語』にまとめた。


この問題に出題されているものは,すべておなじみのものです。


おなじみではないものは,大崎無産者診療所と大原孫三郎ですが,問題を解くのに何ら問題はありません。


正解は,選択肢1です。


1 日本におけるセツルメント運動は,アダムス(Adams,A.)が岡山博愛会を設立したことに始まるとされている。


この出題は,少し残念に思います。


A.アダムスの岡山博愛会と片山潜のキングスレー館(キングスレーホール)では,明らかに岡山博愛会のほうが,先に活動を始めていますが,キングスレー館が日本初という説もあるので,今までの国試では,岡山博愛会がセツルメント運動の端緒である,といった出題はされず,慎重に慎重に出題されてきていたのです。


この問題でも「されている」といったあいまいな表現で逃げていますが,これから勉強する人は,日本のセツルメント運動は,岡山博愛会から始まる,と覚えるでしょう。


もし,歴史的に知られていないだけで,どこかでもっと前に,別の活動が見つかったら,この文章は,意味がないことになります。


さまざまな意味で,ちょっと残念な出題をしたと思いません?


もし,新事実が見つかったら,「だから歴史は嫌いだ」と思う人を増やしてしまう要因にもなるでしょう。


しかし,間違ってほしくないのは,歴史が変わるのではなく,後世の人の解釈が変わるだけです。


さて,ほかの選択肢も見てみましょう。


2 中央慈善協会は,全国の主要な都市で展開されていたセツルメント運動の連絡・調整を図ることを目的として設立された。


セツルメントも範囲に含まれると思いますが,中央慈善協会という名称からもわかるように,慈善事業の連絡・調整などを図ることを目的として設立されたものです。


3 留岡幸助は,大崎無産者診療所を開設しセツルメント運動に取り組んだ。


留岡幸助は,家庭学校を開設しました。


4 大原孫三郎は,セツルメントの拠点としてキングスレー・ホールを開設した。


キングスレー・ホール(キングスレー館)を設立したのは,片山潜です。


大原孫三郎とは,なんとマニアックな出題なのだろうと思います。


大原さんは,石井十次のスポンサーです。美術好きの人には大原美術館はなじみ深いものだと思いますが,この美術館の収蔵品は大原さんのコレクションです。


5 賀川豊彦は,神戸の貧困地域でのセツルメントの実践を『貧乏物語』にまとめた。


賀川豊彦の著書は,『死線を越えて』です。

『貧乏物語』をまとめたのは,河上肇です。


歴史問題は,出題がシンプルなので,知識がそのまま得点力に変わります。

2020年11月28日土曜日

住民主体の原則

今回は,「住民主体の原則」を学びましょう。


住民主体の原則とは,住民が主体となって問題の解決を図ることをいいます。


ロスマンの「コミュニティ・オーガニゼーション」では

・小地域開発モデル

・社会計画モデル

・ソーシャルアクションモデル


の3つのモデルを提示していますが,住民主体の原則は,このうちの「小地域開発モデル」にあたります。


この原則は,全国社会福祉協議会の『社会福祉協議会基本要項』(1962・昭和37年)で,述べられたのが最初です。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題33 地域福祉に関する理念や概念に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 ローカルガバナンスとは,地方自治体における議会による統治を意味する概念である。

2 ソーシャルインクルージョンとは,全ての人々を排除せず,包摂し共に生きることができる社会を目指す考え方である。

3 地域福祉における住民主体の原則とは,サービス利用者としての地域住民の主体性を重視した考え方である。

4 脱施設化とは,児童と高齢者が福祉施設から地域生活に移行していくための取組を指す。

5 社会的起業とは,企業による収益拡大を目的とした新規事業開発のことを指す概念である。


難しい問題だと思う人は,もうひと頑張りが必要です。


さて,正解は,

2 ソーシャルインクルージョンとは,全ての人々を排除せず,包摂し共に生きることができる社会を目指す考え方である。


極めて基本的なものが正解となりました。


ほかの選択肢も確認していきます。


1 ローカルガバナンスとは,地方自治体における議会による統治を意味する概念である。


ローカルガバナンスの「ガバナンス」は,「統治」と訳されます。


行政のみが地方自治を担うのではなく,住民などが参加することがローカルガバナンスです。


3 地域福祉における住民主体の原則とは,サービス利用者としての地域住民の主体性を重視した考え方である。


住民主体の原則は,住民が主体となって問題の解決を図ることを原則とするものです。


4 脱施設化とは,児童と高齢者が福祉施設から地域生活に移行していくための取組を指す。


脱施設化は,福祉施設から地域生活に移行していくための取組であるのは正しいですが,児童と高齢者に限定されるものではなく,障害児・者なども対象です。



5 社会的起業とは,企業による収益拡大を目的とした新規事業開発のことを指す概念である。


社会的起業とは,社会的企業を起業することです。

社会的企業とは,社会的課題の解決を目指して経済的活動を行う企業を指します。


2020年11月27日金曜日

コミュニティ開放論

今回から科目は,「地域福祉の理論と方法」に取り組んでいきます。


「この科目が苦手だ」という人がいます。


歴史や人名,対策が打てない問題などがあるからでしょう。


しかし,国試問題自体は,基礎を押さえておけばそれほど難易度が高いものではないように思います。


今回は,コミュニティ開放論を取り上げます。


ヒラリーさんは,たくさんあるコミュニティの定義を整理すると,

・社会的相互作用

・空間の限定

・共通の絆


があることを指摘しました。


それに対して・・・

ウェルマンさんは,ネットや交通が発達することで,空間に縛られないで,コミュニティは存在しているという「コミュニティ開放論」を提唱しました。


これを整理してみると・・・

ヒラリーさん → 空間を限定

ウェルマンさん → 空間は限定されない


それでは,今日の問題です。


第28回・問題32 コミュニティや市民社会に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 マッキーヴァー(MacIver,R.)は,教会,学校,会社のような意図的につくられた機能的・結社的集団をコミュニティとして捉えた。

2 ぺストフ(Pestoff,V.)は,現代社会においては政府も市場もコミュニティもそれぞれが機能不全に陥っているため,個人主義を徹底することが必要であるとした。

3 ロールズ(Rawls,J.)は,共同体の共通善や歴史的な価値を重視し個人に先立つ共同体を重視するコミュニタリアニズムの思想を説いた。

4 トクヴィル(Tocqueville,A.)は,1830年代のイギリスの社会の観察を通じて,市民社会の核心は中間組織としての多様な自発的結社にあるとした。

5 ウェルマン(Wellman,B.)は,各個人が空間の縛りを離れ選択的に粋を築いていくとする,新しいコミュニティの可能性を説いた。


何,これ? と思う問題でしょう。

聞いたこともない,勉強したこともない人名が出題されています。


この年に受験された人は,さぞかしびっくりされたのではないかと思います。


しかし,恐れることはありません。多くの場合,そこには正解はないのです。


それでは,解説です。


1 マッキーヴァー(MacIver,R.)は,教会,学校,会社のような意図的につくられた機能的・結社的集団をコミュニティとして捉えた。


マッキーバーさんは,コミュニティとアソシエーションについて,提唱しています。


コミュニティは,地域社会です。

アソシエーションは,教会,学校,会社のような意図的につくられた集団です。

マッキーバーさんによると,家族は,アソシエーションに分類されます。


ということで,教会,学校,会社のような意図的につくられた機能的・結社的集団は,アソシエーションです。


2 ぺストフ(Pestoff,V.)は,現代社会においては政府も市場もコミュニティもそれぞれが機能不全に陥っているため,個人主義を徹底することが必要であるとした。


ペストフさんが提唱したのは,

・政府

・市場

・コミュニティ


による協働である「新しい協働」という考え方を提唱しています。


3 ロールズ(Rawls,J.)は,共同体の共通善や歴史的な価値を重視し個人に先立つ共同体を重視するコミュニタリアニズムの思想を説いた。


ロールズさんが提唱したのは,格差原理です。

コミュニタリアニズムの思想を説いたのは,サンデルさんです。


どちらも「現代社会と福祉」で学びます。


4 トクヴィル(Tocqueville,A.)は,1830年代のイギリスの社会の観察を通じて,市民社会の核心は中間組織としての多様な自発的結社にあるとした。


トクヴィルさんが観察したのは,アメリカです。

おそらく二度と出題されることはないでしょう。残念ですが,数合わせの出題でしょう。

覚える価値なし! 

トクヴィルさんは再び出題されることがあっても,正解にならないと言えます。


5 ウェルマン(Wellman,B.)は,各個人が空間の縛りを離れ選択的に粋を築いていくとする,新しいコミュニティの可能性を説いた。


これが正解です。


この後の年の国試では,一問まるごとコミュニティ開放論が出題されたこともあるくらい,重要なものです。


しっかり覚えておきたいです。


コミュニティ開放論によれば,SNSなどでつながっているものもコミュニティですし,国を超えたコミュニティもあるということになります。


ヒラリーさんがコミュニティの定義を整理したのはいつ頃なのかは知りませんが,その時代には,現代のような社会は考えられなかったことでしょう。

遠隔で顔を合わせながらみんなでミーティングなんてものも,つい先日までは一般的でありませんでした。このように社会はいつの間にか変動していくものです。

2020年11月26日木曜日

頭を柔らかく・・・柔らかく・・・

社会福祉士の国家試験の合格率が高い年でも,30%程度です。


このように聞くと,とてつもなく難しい試験のように思うでしょう。


このイメージは,中途半端な気持ちの受験者をふるい落とします。


勉強不足の人は「どうせ自分は合格しないから」と思って,合格するための勉強に力が入らなくなってしまいます。


真面目に勉強した人にとって,「難しい試験だ」と思う人が多いことは有難いことです。


自分から勝手に脱落していってくれるからです。


しかし,本当はイメージほど難しくはありません。


合格するためには,確実な知識は欠かせません。しかし知識にない問題も出題されます。

このような問題にどのように対応するかがとても重要です。


今日の問題もそういったタイプの問題だと言えるかもしれません。


第28回・問題31 生活困窮者自立支援制度における自立支援の在り方に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 行政担当者に,生活困窮者の早期発見を目的とする地域巡回を義務づける。

2 自己肯定感の回復や居場所・役割の発見につながる支援を重視する。

3 包括的・継続的な支援では,当事者との毎日の面談が求められる。

4 就労支援は除かれる。

5 生活福祉資金貸付事業により資金を借り受けている世帯は対象としない。


生活困窮者自立支援法は勉強したけれど,支援のあり方までは勉強しなかった。わからない,どうしようと思う人は,ミスします。


こういった問題は,とにかく頭を柔らかくして,先入観なしに考えることが重要です。


ちょっと,問題を加工してみましょう。


生活困窮者に対する自立支援の在り方に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 行政担当者に,生活困窮者の早期発見を目的とする地域巡回を義務づける。

2 自己肯定感の回復や居場所・役割の発見につながる支援を重視する。

3 包括的・継続的な支援では,当事者との毎日の面談が求められる。

4 就労支援は除かれる。

5 生活福祉資金貸付事業により資金を借り受けている世帯は対象としない。


答えは,

2 自己肯定感の回復や居場所・役割の発見につながる支援を重視する。


この選択肢が浮き上がって見えてきませんか?


国家試験はこんなものです。

こういった問題をいかにミスすることなく,正解するためには,頭を柔らかくすることが大切です。


<今日のヒント>


得点力を高めるために一つ解説したいと思います。


1 行政担当者に,生活困窮者の早期発見を目的とする地域巡回を義務づける。

3 包括的・継続的な支援では,当事者との毎日の面談が求められる。


どちらも同じような論調の文だと思いませんか?


正解を1つ選ぶ問題なら,両方が正解になり得ます。

しかし,この問題は正解を1つ選ぶものです。

したがって,2つの選択肢とも消去できます。


4 就労支援は除かれる。

5 生活福祉資金貸付事業により資金を借り受けている世帯は対象としない。


この2つを消去することはそれほど難しくありません。


ということで,得点するための分かれ道は,選択肢1と3を消去できるかできないかということになります。


国試会場にまで,チームfukufuku21のメンバーはついていくことはできません。

国試当日は,皆さんが自分で考えて,正解を探り出してくださいね。

2020年11月25日水曜日

高齢者住まい法

試験対策の先生の中には「法律の正式名称も覚えておきましょう」と指導される人がいます。

社会福祉士,あるいは精神保健福祉士の国家試験では,法律の正式名称がわからなくて,解けない問題はほとんどありません。

正式名称を覚える時間があったら,その内容を覚えたほうが良いです。

なぜなら,多くの問題は,略称で出題された場合,問題の下に (注)として,正式名称が記載されるからです。

今回紹介する問題は,正式名称で出題されたものです。

法律になじみが出るようになれば,略称で出題されて,正式名称は(注)に記載されます。

つまり,今日の問題は,まだなじみがない時に出題されたものだと言えます。


問題30 高齢者の居住の安定確保に関する法律に規定されている事項として,正しいものを1つ選びなさい。

1 高齢者の移動上や施設利用上の利便性や安全性の向上を目的とする。

2 国土交通大臣及び厚生労働大臣は,高齢者の居住の安定の確保に関する基本的な方針を定める。

3 都道府県は,高齢者の賃貸住宅への入居促進のため,居住支援協議会を組織する。

4 都道府県は,自然災害により被災した高齢者に住宅再建のための支援金を支給する。

5 都道府県は,サービス付き高齢者向け住宅の認可を行う。

 ↑    ↑

これがオリジナル問題です。


今なら,以下のようになるでしょう。

 ↓   ↓

問題30 「高齢者住まい法」に規定されている事項として,正しいものを1つ選びなさい。

1 高齢者の移動上や施設利用上の利便性や安全性の向上を目的とする。

2 国土交通大臣及び厚生労働大臣は,高齢者の居住の安定の確保に関する基本的な方針を定める。

3 都道府県は,高齢者の賃貸住宅への入居促進のため,居住支援協議会を組織する。

4 都道府県は,自然災害により被災した高齢者に住宅再建のための支援金を支給する。

5 都道府県は,サービス付き高齢者向け住宅の認可を行う。

(注) 「高齢者住まい法」とは,「高齢者の居住の安定確保に関する法律」のことである。


ものすごく今っぽいでしょう?


「高齢者住まい法」と出題されたらわかっても「高齢者の居住の安定確保に関する法律」と出題されたらわからない。


という人もいるでしょう。しかし,それはそれでいいのです。

ほかの受験者も同じです。

「わからない時は,ほかの受験者も同じ」

このように思うと気持ちにかなり余裕が出るでしょう(というか,本当にそうです)

今日の問題をもう一度紹介します。


第28回・問題30 高齢者の居住の安定確保に関する法律に規定されている事項として,正しいものを1つ選びなさい。

1 高齢者の移動上や施設利用上の利便性や安全性の向上を目的とする。

2 国土交通大臣及び厚生労働大臣は,高齢者の居住の安定の確保に関する基本的な方針を定める。

3 都道府県は,高齢者の賃貸住宅への入居促進のため,居住支援協議会を組織する。

4 都道府県は,自然災害により被災した高齢者に住宅再建のための支援金を支給する。

5 都道府県は,サービス付き高齢者向け住宅の認可を行う。


ずばり言えば,このタイプの問題は,正解できなくても,合否にかかわることはほとんどありません。


なぜなら,正解できる人は,少ないからです。


それでも解説します。


1 高齢者の移動上や施設利用上の利便性や安全性の向上を目的とする。


これは,「バリアフリー新法」です。


2 国土交通大臣及び厚生労働大臣は,高齢者の居住の安定の確保に関する基本的な方針を定める。


これが正解です。


高齢者住まい法を所管しているのは,国土交通省と厚生労働省です。


「なんで国土交通省なの?」と思う人もいるかもしれません。


実は,国土交通省の取り扱う事務の中には,住宅などの社会資本の整備に関する事務が含まれているのです。びっくりですね。


3 都道府県は,高齢者の賃貸住宅への入居促進のため,居住支援協議会を組織する。


これは,「住居セーフティネット法」です。


4 都道府県は,自然災害により被災した高齢者に住宅再建のための支援金を支給する。


これは,「被災者生活再建支援法」です。


5 都道府県は,サービス付き高齢者向け住宅の認可を行う。


ようやく,高齢者住まい法に関するものが出てきました。


「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)は,認可するものではありません。

バリアフリー構造の有料老人ホームなどが都道府県に登録することでサ高住となります。


今日の問題で覚えておきたいのは,この選択肢だけです。

2020年11月24日火曜日

準市場(疑似市場・擬似市場)とは?

今回は,準市場(疑似市場・擬似市場)を取り上げます。


準市場という名称から,ある程度イメージができるのではないかと思います。


こういうものは,勉強不足の人でも正解できる可能性があるので,不正解になるのは,極力避けたいです。


準市場とは,市場メカニズムを一部採用して,公的サービスを供給するものです。


わかりやすいのは,介護保険サービスです。

準市場と言ったら,介護保険サービスをイメージすると良いです。


多様な主体が参入できますが,自由市場のように,価格は自由に決められるものではなく,介護報酬という公定価格が適用されます。


それでは今日の問題です。


第28回・問題29 福祉サービスにおける準市場(疑似市場)に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

1 利用者のサービス選択を支援する仕組みが必要である。

2 サービスの質のモニタリングは不要である。

3 同一地域におけるサービスの供給者は1つに限定される。

4 営利事業者やNPOが参入できないよう,規制される。

5 自治体が,福祉サービスの購入者となることが前提である。


準市場を理解していなくても正解できそうな問題です。


消去できそうなものは,

2 サービスの質のモニタリングは不要である。

3 同一地域におけるサービスの供給者は1つに限定される。

4 営利事業者やNPOが参入できないよう,規制される。


の3つです。


どの問題でも,選択肢を3つ消去できることができれば,かなりの確率で合格できることができます。


しかし,この問題は,もう一つの選択肢も消去して確実に正解したいです。


1 利用者のサービス選択を支援する仕組みが必要である。

5 自治体が,福祉サービスの購入者となることが前提である。


福祉サービスの購入者となることを前提にしているのは,おそらく措置制度のことを言っているのではないでしょうか。


「購入者」という用語が使われているのでわかりにくいですが,措置制度では,措置権者が支給を決定して,サービス提供はサービス事業者に委託してサービスが提供されます。


サービス提供者の視点で考えると,サービスを購入してくれているのは利用者ではなく,措置権者である自治体だと言えるでしょう。


介護保険制度では,契約制度が取り入れられています。


ということで,この問題の正解は,


1 利用者のサービス選択を支援する仕組みが必要である。


ということになります。


準市場を知らなくても,正解できそうなものが正解になっています。


こういった問題を正解できないのは,かなり痛いです。「落ち着いて」「落ち着いて」問題文を読むことが大切です。



2020年11月23日月曜日

国家試験の得点力を高める感性

どれだけ勉強していても,国家試験には勉強したことがないものが出題されます。


こんな時,一番役立つのは,問題を読む感性です。


社会人にはとても有利です。学生もがんばりましょう。


まずは,今日の問題を見てみましょう。


第28回・問題28 日本における世帯や婚姻の動向に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

1 「平成26年版男女共同参画白書」(内閣府)によると,2000年(平成12年)以降,「男性雇用者と無業の妻から成る世帯」が,「雇用者の共働き世帯」の数を上回るようになった。

2 「平成27年版少子化社会対策白書」(内閣府)によると,2000年(平成12年)以降35歳~39歳の未婚率は,女性が男性を上回るようになった。

3 「平成25年国民生活基礎調査」(厚生労働省)によると,「単独世帯」の割合は,1990年(平成2年)以降変わっていない。

4 「平成25年国民生活基礎調査」(厚生労働省)によると,「ひとり親と未婚の子のみの世帯」の割合は,2013年(平成25年)には7%を超えている。

5 「平成25年国民生活基礎調査」(厚生労働省)によると,「三世代世帯」の割合は,2013年(平成25年)には20%台となった。


このような問題を見ると,白書や報告書に目を通しておかなかったことを後悔することでしょう。


そんなことを思っている暇があったら,さっさと気持ちを切り替えて,手がかりがないかを探したほうが適切です。


この時,役立つのが,「感性」です。


ある人はそれを「数学で補助線を引くようなものだ」と表現していました。


数学の図形に関する問題を解くとき,補助線を引くことによって答えが見えてくる問題があります。


補助線をどのように引くのかによって,問題が解けるかどうかが分かれると言ってもよいでしょう。


数学が苦手な人は,その問題の解き方を解説してもらっても,おそらく同じような問題が出題されても正解できないと思います。


まったく同じ問題は出題されないからです。


社会福祉士の国試も理数的センスがある人は,もしかすると有利なのかなぁ,と思ったりもします。


さて,今日の問題を解くための「補助線その1」です。


まずは,ダイエットしてみます。


1 2000年(平成12年)以降,「男性雇用者と無業の妻から成る世帯」が,「雇用者の共働き世帯」の数を上回るようになった。

2 2000年(平成12年)以降35歳~39歳の未婚率は,女性が男性を上回るようになった。

3 「単独世帯」の割合は,1990年(平成2年)以降変わっていない。

4 「ひとり親と未婚の子のみの世帯」の割合は,7%を超えている。

5 「三世代世帯」の割合は,2013年(平成25年)には20%台となった。


これでもダイエットしきれていないかもしれませんが,かなりすっきりしたでしょう。


この中の要注意なのは,女性の未婚率です。


結婚しない女性が増えている,というイメージが強いでしょう。


未婚率は,男女ともに上がっていますが,未婚率が高いのは男性です。


この事実を知らない人は,間違えます。


次に厳しいのは,選択肢1です。


共働き世代が専業主婦世代を上回っているのはわかりますが,いつからそうなったのかは知らない人が多いと思います。

正しくは,1997年です。


3 「単独世帯」の割合は,1990年(平成2年)以降変わっていない。


社会は変動するのが世の常です。


5 「三世代世帯」の割合は,2013年(平成25年)には20%台となった。


三世代世帯の割合は,10%もありません。


さて,この問題の正解は,選択肢4です。


4 「ひとり親と未婚の子のみの世帯」の割合は,7%を超えている。


「ひとり親と未婚の子のみの世帯」の割合を知っている人はそれほど多くはなかったことでしょう。


正解するのはとても厳しいと思うかもしれません。


しかし,ちゃんとヒントはあります


7%という数字がリアルです。


間違いなら,10%といったものになりそうですが,7%という数字は妙にリアルっぽいと思いませんか。


ここが感性です。

2020年11月22日日曜日

白書に目を通す?

現時点(11月下旬)から国家試験までは2か月ちょっとです。

試験対策の先生は,白書などに目を通すように言いますが,それはこれからの時期には,不適切だと思います。


なぜなら,膨大な情報量の白書などに目を通しても,どこから出題されるかわからないからです。


参考書でさえ,覚えるのに苦労しているのに,どこから出題されるかわからないものを覚えるのは,あまりにも非効率的だと思いませんか。


情報量の多い白書などを読んでも,出題されるのは,たったの1問です。


時間の限られるこれからの時期に行う対策ではないように思います。


それよりも,国試によく出る内容を確実に覚えた方が得点は稼げるのではないでしょうか。


これからの時期に白書などに目を通すことに効果があるのは,既に仕上げ段階にある人です。


多くの人は,これからどんどん実力をアップさせていく時期なので,基本事項をがっちり押さえていくことが大切です。


それでは今日の問題です。


第28回・問題27 「平成26年版厚生労働白書」における我が国の健康や寿命に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 「健康日本21」(第二次)では,「健康寿命」について具体的な数値目標が設定された。

2 「健康寿命」と「平均寿命」の差は,2010年(平成22年)時点で,男女ともに3年未満である。

3 「健康寿命」と「平均寿命」の差を一定に保つことは,重要な政策目標である。

4 地域のつながりの強化は,健康づくりのための政策目標とはされていない。

5 生活習慣病関連疾病は,2013年(平成25年)時点で死因の約6割を占めている。

(注) 生活習慣病関連疾病とは,ここでは悪性新生物,高血圧性疾患,脳血管疾患,心疾患,糖尿病などを指す。


このような問題が出題されると,「勉強していなかった。やはり白書に目をとおしておくべきだった。学習部屋の言うことを信じるべきではなかった」と思うでしょう。


1点差で不合格になる人はたくさんいます。

しかし,今日の問題のような問題が正解できなかったことで,1点足りなかった,ということよりも,落ち着いて問題を読めば解けただろう問題で正解できないことの影響が大きいと思います。


過去に受験して,合格できなかった方は,おそらくその後,悔しくて辛くて,問題を振り返ることをしていないと思いますが,振り返ってみると,そんな問題はたくさんあるはずです。


さて,今日の問題の正解は,選択肢5です。

5 生活習慣病関連疾病は,2013年(平成25年)時点で死因の約6割を占めている。


おそらく,白書を読んでいても,このことを覚えている人は,それほど多くはないでしょう。


白書に目を通しておくことで,もしかすると選択肢1は消去できたかもしれません。


選択肢2・3・4は,白書に目を通していなくても,消去できる可能性があるので,この問題を正解できるためには,選択肢1が分かれ道だったのかもしれません。


つまり白書に目を通さずとも,正解できる確率は50%です。


勉強したことのない問題であっても,正解できる確率が50%あることは,かなりよい確率です。


一つも消去できる選択肢がなければ,正解できる確率は,20%しかありません。


50%を確保できれば,上々です。


国試合格で重要なことは,出るか出ないかわからないものに時間をかけるよりは,参考書などに書かれているものを確実に覚えていったほうが効率です。


それでは,不安だ,という人もいるでしょう。その時に役立つのが模擬試験の解説集です。


模擬試験は受けっぱなしにすることなく,解説を読んで,不安材料をつぶしておきましょう。

2020年11月21日土曜日

ジニ係数

これをジニ係数に合わせて説明すると,所得再分配が行われる前のジニ係数は大きかった(つまり1に近い状態)は,所得再分配の結果,ジニ係数は小さくなります(つまり0に小さい状態)。


今回は,「ジニ係数」を取り上げます。


ジニ係数とは所得格差を表わす指数です。範囲は0~1,所得格差のない状況は0,所得格差が大きいのは,1です。


所得再分配が行われる前の所得格差は,所得再分配の結果,所得格差は小さくなります。


これをジニ係数に合わせて説明すると,所得再分配が行われる前のジニ係数は大きかった(つまり1に近い状態)は,所得再分配の結果,ジニ係数は小さくなります(つまり0に小さい状態)。


「ジニ係数」はものすごく難しく説明されることが多いですが,国試で必要な知識は,これで十分です。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題26 貧困・所得格差に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 OECDにおける相対的貧困率は,等価可処分所得の平均値の50%未満の所得層が全人口に占める比率を指す。

2 ジニ係数の値が1に近いほど,所得格差は小さい。

3 平均所得の実質額が低下しジニ係数の値が上昇すれば,社会の構成員の満足の総和は上がる。

4 「平成25年国民生活基礎調査」(厚生労働省)によると,「子どもがいる現役世帯」のうち,「大人が一人」の世帯員では,相対的貧困率は50%を超える。

5 「平成25年国民生活基礎調査」(厚生労働省)によると,1997年(平成9年)以降,相対的貧困線の実質値は一貫して上昇している。


勉強不足の人を跳ね返すような出題です。


おそらく,消去できる選択肢をできなければ,正解できないようなタイプの問題だと言えるかもしれません。


つまり,ジニ係数を正しく理解していることが必要です。


それでは解説です。


1 OECDにおける相対的貧困率は,等価可処分所得の平均値の50%未満の所得層が全人口に占める比率を指す。


うまくつくったなぁ,と思います。


相対的貧困率は,等価可処分所得の「平均値」の50%未満の所得層が全人口に占める比率ではありません。

中央値でなければなりません。


平均値は「社会調査の基礎」で学ぶ代表値の一つですが,いわゆる外れ値があると,中央値よりも高い方や低い方にずれます。

その点,中央値は,外れ値の影響を受けにくいものです。


2 ジニ係数の値が1に近いほど,所得格差は小さい。


所得格差の小さいのは,0に近い方です。


ジニ係数が出題される時は,所得格差の大きいのは0なのか,1なのかの知識が必要です。


1に近い方が,所得格差の大きい状態を示します。


3 平均所得の実質額が低下しジニ係数の値が上昇すれば,社会の構成員の満足の総和は上がる。


これがこの問題で正解できるかどうかの最大のカギを握っているものだと思います。


所得格差の大きい状態では,人々の満足が高まるということはありえないでしょう。


しかし,冷静に考えると,これは消去できます。


というのは,


2 ジニ係数の値が1に近いほど,所得格差は小さい。

3 平均所得の実質額が低下しジニ係数の値が上昇すれば,社会の構成員の満足の総和は上がる。


の2つが出題されているからです。

よくよく読んでみると,どちらも同じロジックで成り立っているものです。


正解は一つしかないので,どちらの消去できます。


4 「平成25年国民生活基礎調査」(厚生労働省)によると,「子どもがいる現役世帯」のうち,「大人が一人」の世帯員では,相対的貧困率は50%を超える。


これが正解です。これを知っているかどうかも重要かもしれませんが,試験委員はこれを知っていることを前提にこの問題を作っていません。


なぜなら,ほかの選択肢を消去することで,この選択肢が残るように問題が設計されていることがわかるからです。


国家試験問題の多くは,正解に続くと道筋があります。脇道に逸れることなく,その道筋に従っていけば,正解できるように作られています。


道筋をしっかりたどれるのは,地道に勉強を続けた人だけです。


5 「平成25年国民生活基礎調査」(厚生労働省)によると,1997年(平成9年)以降,相対的貧困線の実質値は一貫して上昇している。


「一貫して」というのは,多くの場合,正解になりにくいものです。


「一貫して」というのは,世の中にそんなにあるものではありません。


チームfukufuku21のメンバーで,一貫しているものを考えても,「保護の廃止理由」などいくつかしか思い当たりません。


<今日の一言>


今日の問題は,正解できましたか?


正解できたのは,参考書などに書かれた知識があったからかもしれません。

国試では,知識ゼロで解かなければならない問題も出題されます。


そういった問題もなければ,いわゆるボーダーラインが大きく上がってしまうからです。

しかし,ちょっと視点を変えることで,正解できる確率が上がります。


そのコツは,意外と単純だったりします。

2020年11月20日金曜日

ニーズ原則と貢献原則

福祉政策で重要なのは,ニーズ判定をして,それをどのように配分するかということです。

 

限りある財源です。適切に配分しなければなりません。

 

資源の配分に関して,まとめてみます。

 

普遍主義

選別主義

資力調査を行わずに資源を配分する方法。


資力調査を行って資源を配分する方法。

 

必要(ニーズ)原則

貢献原則

必要としている人に資源を配分する方法。

多く貢献した人により多くの資源を配分すること。

 

どれが優れていて,どれが劣っているといったものではありません。

それぞれの制度で,より適切な方法が選択され,制度が組み立てられます。

 

普遍主義と選別主義では,普遍主義のほうが良いように思う人もいるかもしれません。

しかし,そういった単純な話ではありません。

 

再度言いますが,資源には限りがあります。

 

より必要な人に手厚く配分するためには,選別主義のほうが適切です。

100万円という資源を100人に配分すると,一人には1万円が配分されます。

 

選別主義をとって,半分の50人に配分すると,2万円が配分されます。

みんなの満足のバランスのことをパレート効率といいます。

 

最初に配分されていた人が配分されなくなると不満足になり,配分される量が増える,または今まで配分されていなかった人に配分されるようになれば満足が高まります。このバランスをとるのが「パレート効率」あるいは「パレート最適」といいます。

 

それでは,今日の問題です。

 

28回・問題25 福祉サービス利用者のニーズに関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

1 政府による資源配分では,ニーズ原則が貫かれている。

2 ニーズの質や水準にかかわりなく,サービスに定額の負担を課すことを,普遍主義という。

3 ニーズ充足の評価には,主観的評価も含まれる。

4 サービス情報が公開されていれば,ニーズが潜在化することはない。

5 その人の主観的な欲求が表現されたもの以外は,ニーズとはみなせない。

 

「現代社会と福祉」が苦手な人は,うんざりするような問題かもしれません。

しかし,選択肢4と5は消去できると思うので,3分の1の確率で正解することができる問題でしょう。


1 政府による資源配分では,ニーズ原則が貫かれている。

2 ニーズの質や水準にかかわりなく,サービスに定額の負担を課すことを,普遍主義という。

3 ニーズ充足の評価には,主観的評価も含まれる。

 

実は,この問題は解答テクニックで正解できる確率を上げることができます。

 

というのは,「含まれる」というのは,正解になりやすいものなのです。

高度な作問技術を持つ試験委員は,文章をそろえて出題します。

例えば「含まれる」で統一して出題するといったものです。

そうすると,とたんに難易度が上がります。

しかし,今日の問題のように,問題の文章がバラバラだとそこがヒントになることもあるのです。

せっかくなので,覚えておきましょう。

 

1 政府による資源配分では,ニーズ原則が貫かれている。

 

資源配分では,ニーズ原則(必要原則)もありますが,貢献原則もあります。

 

2 ニーズの質や水準にかかわりなく,サービスに定額の負担を課すことを,普遍主義という。

 

普遍主義は,資力調査を行わないで,資源の配分を行うものです。

 

サービスに定額の負担を課すことは「応益負担」といいます。


3 ニーズ充足の評価には,主観的評価も含まれる。


これが正解です。

2020年11月19日木曜日

イギリスの福祉の発展

今回は,イギリスの福祉の歴史を取り上げます。


イギリスは,世界で初めて産業革命を成し遂げ,世界の工場と呼ばれるほど経済が発展した国です。


しかし,その時代は今と異なり,経済活動の自由が貫き通された重商主義であったために,様々な弊害が発生しました。


今は,その失敗をもとに,イギリスを含めた資本主義の国々は福祉国家に変貌しています。


福祉国家は,資本主義で得られた利益をその仕組みの弊害を解消するために用います。


イギリスの失敗とその変化は,世界の参考となったのです。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題24 イギリスにおける貧困対策の歴史に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 新救貧法(1834年制定)は,劣等処遇の原則を否定した。

2 慈善組織協会(COS,1869年設立)は,救済に値する貧民に対する立法による救済を主張した。

3 ブース(Booth,C.)は,ロンドン貧困調査から「貧困線」という概念を示した。

4 老齢年金法(1908年成立)は,貧困高齢者に,資力調査なしで年金を支給した。

5 ウェッブ夫妻(Webb,S.&B.)は,「社会保障計画」を提唱した。


歴史問題は難しいですが,この年の問題は,比較的解きやすいものとなりました。


その理由は,答えがすぐわかるからです。


正解は選択肢3です。


3 ブース(Booth,C.)は,ロンドン貧困調査から「貧困線」という概念を示した。


何のひねりもなく,参考書に書かれているのと同じように出題しています。


ブースの貧困調査の結果,実にロンドン市民の3割が貧困線以下の生活を送っていることが明らかとなりました。


ブースは,貧困は怠惰などの理由によるものだと考えるタイプの企業の経営者でした。それはそのころの一般的な考え方です。

そのころ,人々が貧困に陥るのは,環境などの原因によるものだという考えを否定しようと貧困調査を行ったところ,逆にその考え方を肯定することとなったのです。


1 新救貧法(1834年制定)は,劣等処遇の原則を否定した。


新救貧法は,救済基準の全国一律化と劣等処遇の原則などが特徴です。


2 慈善組織協会(COS,1869年設立)は,救済に値する貧民に対する立法による救済を主張した。


COSは,貧民を「救済に値する貧民」と「救済に値しない貧民」に分けて,救済に値する貧民を救済しました。


救済に値しない貧民は,救貧法が救済しました。


この役割分担を「平行棒理論」といいます。


4 老齢年金法(1908年成立)は,貧困高齢者に,資力調査なしで年金を支給した。


老齢年金法は,社会保険方式ではなく,税負担による社会扶助方式が採用されました。


そのため,給付には,資力調査(ミーンズテスト)が実施されました。


5 ウェッブ夫妻(Webb,S.&B.)は,「社会保障計画」を提唱した。


社会保障計画を提唱したのは,ベヴァリッジ報告です。


ウェッブ夫妻が提唱したのは,ナショナルミニマム(国家による最低限度の生活保障)です。

2020年11月18日水曜日

ロールズの格差原理

今回は,ロールズが提唱した「格差原理」を学びましょう。


格差原理とは,格差(社会的や経済的に不平等があること)は,最も恵まれない人に用いられる場合にのみ認められること。


格差があることを認めないのではなく,格差があっても,それがその社会の中で最も恵まれない人の利益になるような仕組みをつくることが,ロールズが提唱した「正義」です。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題23 ロールズ(Rawls,J.)が『正義論』で主張した格差原理に関する記述として,適切なものを1つ選びなさい。

1 機会の平等が保障されれば,自由市場経済による資源配分は,正義にかなう。

2 個人の満足の総和を社会全体で最大化させるような資源配分は,正義にかなう。

3 消費税は資源配分を歪めないため,正義にかなう。

4 最も恵まれない人が有利となるような資源配分は,正義にかなう。

5 公共財の提供に政府が介入することは,正義にかなう。


勉強不足の人は,5分の1の確率でしか正解できない問題です。

しかし,勉強した人なら,正解がすぐわかる問題でしょう。


こういった問題が,理想的な国家試験問題の一つの形です。

勉強した人でも解けない問題もありますが,そういった問題がなければ,合格基準点がおそろしく上がってしまいます。


さて,正解は選択肢4です。


4 最も恵まれない人が有利となるような資源配分は,正義にかなう。


例としては,所得税の累進課税などは,所得の高い人から多く取って,それを所得再分配するのであれば,正義にかなうことになります。


企業のために用いられるのでは,正義にかないません。


ほかの選択肢です。


1 機会の平等が保障されれば,自由市場経済による資源配分は,正義にかなう。


自由経済は,イギリスがかつて経験したように,規制がなければ資本家の搾取が起きます。

その結果,資本家階級と労働者階級に大きな格差が生じます。


現在の資本主義は,この弊害をなくして,運用されています。


2 個人の満足の総和を社会全体で最大化させるような資源配分は,正義にかなう。



これは,功利主義です。ロールズは功利主義を批判して,格差原理を提唱しました。


3 消費税は資源配分を歪めないため,正義にかなう。


消費税は,逆累進性の税制です。


所得の低い人も高い人も同じ税率だからです。


5 公共財の提供に政府が介入することは,正義にかなう。


公共財とは,水道,道路,街頭,ダムなどです。

1929年の世界大恐慌の際には,アメリカでは完全雇用を目指して,ニューディール政策をとりました。その時に用いたのがダムなどの建設です。


企業が潤い,それが労働者に流れていきますが,直接的に恵まれない人には用いられていないので,正義にかなうとは言えません。

2020年11月17日火曜日

エスピン-アンデルセンの福祉レジーム

エスピン-アンデルセンは,福祉国家を形成する「福祉レジーム」が福祉国家の相違だと考え,次の指標を使って,福祉国家を類型化しています。

 

脱商品化

個人又は家族が(労働)市場参加の有無にかかわらず,一定水準の生活を維持することができること。

社会階層化

職種や社会的階層に応じて給付やサービスに差があること。

脱家族化

家族による福祉負担を軽減すること。

 

これらの度合いによって,福祉国家を「自由主義レジーム」「保守主義レジーム」「社会民主主義レジーム」に類型化しました。

 

自由主義レジームは,市場の役割が大きい国々で,アメリカ,イギリスなどが属します。

 

保守主義レジームは,家族や職域の役割が大きい国々で,ドイツ,フランスなどが属します。

 

社会民主主義レジームは,国家の役割が大きい国々で,スウェーデン,デンマークなどが即します。

 

日本は,どこにも分類されていません。

 

社会支出を比較すると,社会民主主義レジーム>保守主義レジーム>自由主義レジームとなります。

 

しかし,現在では,フランスの社会支出は,高福祉高負担で知られる社会民主主義レジームのスウェーデンよりも多くなっています。

 

しかし,社会支出の国際比較では,基本的に

 

社会民主主義レジーム>保守主義レジーム>自由主義レジーム

 

と覚えておくとよいと思います。日本は,アメリカとイギリスの間です。

 

それでは,今日の問題です。

 

28回・問題22 エスピン-アンデルセン(Esping-AndersenG.)の「レジーム」理論に関する記述として,正しいものを1つ選びなさい。

1 福祉国家は,社会的階層化のパターン形成に重要な役割を演じる。

2 脱商品化とは,労働者が労働能力を喪失することである。

3 脱家族化とは,単身世帯の増加のことである。

4 福祉レジーム概念は,福祉国家の否定から生まれた。

5 雇用・労働市場は,福祉レジームの在り方に影響しない。

 

この問題は,かなり高度な問題でしょう。

しかし,正解以外の選択肢は消去できるので,結果として正解が残ります。

 

1 福祉国家は,社会的階層化のパターン形成に重要な役割を演じる。

 

これが正解です。

 

社会的階層化のパターン形成とは,何を言っているのか分かりにくいですが,福祉国家を形成する国のあり方や考え方が国それぞれによって異なり,社会連帯になるのか,国家によるのか,市場が担うのか,によって人々の生活は大きく変わることでしょう。

 

2 脱商品化とは,労働者が労働能力を喪失することである。

3 脱家族化とは,単身世帯の増加のことである。

4 福祉レジーム概念は,福祉国家の否定から生まれた。

5 雇用・労働市場は,福祉レジームの在り方に影響しない。

 

これらのうち,勉強不足の人は,「脱商品化」「脱家族化」がわからないことでしょう。

 

今日の問題のようなタイプは,一つでも消去できない選択肢があると正解できなくなってしまいます。

 

こういった問題は,とても難易度が高くなりますが,勉強した人だけが正解できる特権のような問題だと言えるでしょう。

2020年11月16日月曜日

構築主義

今回は,構築主義を取り上げたいと思います。


構築主義とは,


社会問題は,ある状態を解決されるべき問題とみなす人々のクレイム申立てとそれに対する反応を通じて作り出される


ととらえるものです。


具体的には,社会問題は,誰の目にも明らかなものとして存在しているのではなく,誰かが社会問題だと出張することで,社会問題として認識されることを構築主義といいます。


より具体的には,マイノリティの人たちが,そこから生じる不利益を改善するよう求めることで,マジョリティの人たちが「これは社会問題なんだ」と認識するようなことです。


具体的には

先住民族

LGBT

環境


といったものです。


こういったものは,誰かがクレイム申立てすることで,社会問題だと認識されることになります。


マジョリティは日常をのほほんと生きているということなのでしょう。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題21 社会問題の捉え方に関する次の記述のうち,構築主義的なアプローチとして,正しいものを1つ選びなさい。

1 社会がどうあるべきかについては,多くの人々に共有されている規範が存在するので,これに反するものが社会問題と認識される。

2 社会は統一されたシステムを成しているので,その目標達成にとってマイナスに働く事象は,社会問題と認識される。

3 社会問題とは,客観的に実在し誰の目にも明らかな現実として存在するものである。

4 社会問題とは,専門家でなければ可視化できないような,現代社会におけるリスクのことである。

5 社会問題とは,自明なものとして存在するのではなく,人々が主張することを通して認識される問題である。


正解は,選択肢5です。

5 社会問題とは,自明なものとして存在するのではなく,人々が主張することを通して認識される問題である。


とても難しいですね。


しかし,この問題は解答テクニックで解ける可能性がある問題です。


3 社会問題とは,客観的に実在し誰の目にも明らかな現実として存在するものである。

5 社会問題とは,自明なものとして存在するのではなく,人々が主張することを通して認識される問題である。


この2つの選択肢は,逆のことを述べています。


どちらかが正解になる可能性があるのです。


だからといって,正解できるかは別の話ですが,2つに絞り込めることができれば,2分の1の確率で正解することができます。

2020年11月15日日曜日

社会的ジレンマ

今回は,社会的ジレンマを取り上げます。


社会的ジレンマとは,個々人の行動の結果が社会に不利益をもたらすことをいいます。


国家試験では,社会的ジレンマの例として

・フリーライダー

・囚人のジレンマ

・共有地の悲劇


が出題されています。


それぞれは,極めて印象深いものなので,一度勉強すると,しっかり頭に残るものです。


しかし,国試は選択肢の組み合わせによって,そんなに簡単に正解させてくれるものではありません。


フリーライダーは,負担なしに公共財などを利用することをいいます。

囚人のジレンマは,二人の囚人が相棒を信じて黙秘すれば二人の利益になるものを,相棒を信じて良いものか,相棒が裏切るかもしれないので,先に裏切った方が良いのか,といった場面で悩むことをいいます。

共有地の悲劇は,みんなが利益を得ようとした結果,みんなの利益が低下してしまうことをいいます。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題20 社会的ジレンマに関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 企業などで生産された財やサービスが貨幣換算されないために,国家のGDPに含まれないことを「外部不経済」という。

2 犯罪容疑者である共犯者が,逮捕されていない主犯者の利益を考えて黙秘する結果,自分が罪をかぶることを「囚人のジレンマ」という。

3 社会にとって有用な資源へのアクセスが特定の人に限られていることを「共有地の悲劇」という。

4 ある財やサービスの対価を払うことなく,利益のみを享受する人のことを「フリーライダー」という。

5 協力的行動の妨害に与える報酬のことを「選択的誘因」という。


このうち,初めて出題されたものは,「外部不経済」と「選択的誘因」です。


こういったものは,国試ではあまり正解になりません。


あわてて選ぶことのないように気を付けることが大切です。


外部不経済とは,企業活動などの結果,社会に不利益をもたらすことをいいます。例としては,公害が挙げられます。


選択的誘因は,非協力的な行動よりも協力的な行動のほうが良いと思わせるように報酬を与えることです。


妨害行為に報酬を与えることが正しいとすれば,そんなものを出題する意図が見えないものになってしまいます。


協力行動を促進させるための方法を学んでもらうほうが適切だと思いませんか?


ほかの選択肢です。


2 犯罪容疑者である共犯者が,逮捕されていない主犯者の利益を考えて黙秘する結果,自分が罪をかぶることを「囚人のジレンマ」という。


囚人のジレンマは,相棒を信じるのか裏切るのかで迷うようなジレンマです。


3 社会にとって有用な資源へのアクセスが特定の人に限られていることを「共有地の悲劇」という。


これはまったくかすってもいないものですね。

共有地の悲劇は,共有地で羊を飼っていて,もっと利益を上げようと羊をたくさん飼ったら,えさとなる牧草がなくなり,結果として前よりも利益が得られなくなってしまったというたとえです。


4 ある財やサービスの対価を払うことなく,利益のみを享受する人のことを「フリーライダー」という。


これが正解です。


国家試験では,社会的ジレンマのうち,フリーライダーを最も重視しているみたいです。


<今日の一言>


「社会理論と社会システム」が苦手な人は,点数が取りにくいように思うかもしれません。


しかし,今日の問題のように鉄板的問題も出題されます。


こういった問題を確実に正解できる確かな知識をつけるためには,丸暗記ではなく,必ず自分なりに理解して覚えることが大切です。


意味を理解することなく,丸暗記するような学習では得点することはできないので注意が必要です。

2020年11月14日土曜日

社会集団

今回は,社会集団を取り上げたいと思います。

「社会理論と社会システム」は,本当にバラエティに富んだ出題がなされる中,社会集団は,とてもスタンダートな出題がなされるものです。


どの参考書にも必ず記載されているものでしょう。


今日は,前説なしに問題です。


第28回・問題19 社会集団に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 ゲマインシャフトとは,本質意思に基づく結合が解体した,近代以降の社会集団である。

2 インフォーマルグループとは,メンバーの親密な相互関係を通じて形成される集団である。

3 第一次集団とは,家族や親族などの第二次集団とは異なる,会社や学校などの社会集団である。

4 コミュニティとは,特定の関心を共同して追求するために設立された,人為的な機能集団である。

5 アソシエーションとは,地理的・文化的な地域性を結合要素とした社会集団である。


勉強不足の人は,難解さに目を回す問題かもしれません。

勉強した人でもこういった問題を見るとドキドキすることでしょう。


同じ表現では出題されないので,理解せず,丸暗記だけの人は表現が変わると理解不能に陥ります。


しかし,落ち着いて問題を読めば,答えが見えて来ます。


正解は,選択肢2です。


2 インフォーマルグループとは,メンバーの親密な相互関係を通じて形成される集団である。


よくよく読んでみると,インフォーマルグループを述べた何もひねりも文章ですが,国試会場ではさまざまな要因が交錯して,冷静に文章が読めないのです。


過去問を解けば,初回だけ難しく思うかもしれませんが,2回目に解くときは,これしか正解に見えないことでしょう。


そこが国試の怖いところです。本当は,初回に感じたように,決して簡単ではないのです。

何度も問題を解くとそのことを忘れがちになるので注意が必要です。


それではほかの選択肢です。


1 ゲマインシャフトとは,本質意思に基づく結合が解体した,近代以降の社会集団である。


ゲマインシャフトは,本質意思に基づく結合です。


3 第一次集団とは,家族や親族などの第二次集団とは異なる,会社や学校などの社会集団である。


第一次集団と第二次集団が逆になっています。



4 コミュニティとは,特定の関心を共同して追求するために設立された,人為的な機能集団である。


この文章は,アソシエーションのことを述べたものです。


5 アソシエーションとは,地理的・文化的な地域性を結合要素とした社会集団である。


この文章は,コミュニティのことを述べたものです。


一つひとつを分解してみると,それほど難しいものではないことがわかることでしょう。

ちゃんと勉強した人は,正解できるように作られているのが,今の国家試験です。

わき目をふらず,確実に理解しながら覚えていくことが何よりも大切です。

2020年11月13日金曜日

消費社会の特徴

国家試験では,どれだけ勉強しても,勉強したことがないものが一定数出題されています。


そういった中には,考えてもわからない問題も含まれます。


逆に,勉強したことがなくても正解できることもあります。

落ち着いて読むことが必要です。


今日は,消費社会を取り上げます。


消費社会とは,生産よりも消費が優先されることが特徴です。


消費者が購入するものを生産します。


現代は,消費社会なので,当然と言えば当然なのですが,改めて「消費社会」と言われるとドキッとしてしまいます。


それでは今日の問題です。


第28回・問題16 消費社会に関する代表的な社会理論についての次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 ロストウ(Rostow,W.W.)によれば,社会の関心は,供給から需要,生産から消費へと移っていく。

2 ガルブレイス(Galbraith,J.K.)によれば,生産よりも消費が経済成長の原動力となるので,生産部門が消費部門に依存する依存効果がみられるようになる。

3 リースマン(Riesman,D.)によれば,内部指向型の社会的性格に基づいて,スタンダードパッケージとしての個性的な商品が多品種少量生産されるようになる。

4 ヴェブレン(Veblen,T.)によれば,多くの人々が同じ商品を購入するようになるので,見せびらかしの消費としての誇示的消費の意義は失われる。

5 ボードリヤール(Baudrillard,J.)によれば,モノの記号的意味の消費から,生理的・機能的欲求に基づくモノの実質的機能の消費へと移っていく。


この問題を解くときの手がかりは,現代社会はどんな特徴があるのかを考えることでしょう。


人名を変えて出題されることは考えられないので,その部分は捨てて読むようにしましょう。


何か見えてくることがあります。


それでは解説です。


1 ロストウ(Rostow,W.W.)によれば,社会の関心は,供給から需要,生産から消費へと移っていく。


前説のようにこれが正解です。しかし,難しすぎです。


2 ガルブレイス(Galbraith,J.K.)によれば,生産よりも消費が経済成長の原動力となるので,生産部門が消費部門に依存する依存効果がみられるようになる。


この問題の難易度がとてつもなく難しいのは,この選択肢のせいです。


文章がほとんど合っているのですが,「依存効果」の説明の部分が間違っています。やられたという感じです。


依存効果とは,製品の品質そのものよりもコマーシャルなどのイメージなどによって,製品が売れることを言います。


選択肢1も2も「生産から消費へ」という順番になっているので,解答テクニックで言えば,一般的には,両方とも消去されるものとなります。


しかし,この選択肢は,ほかの部分を変えて出題しているのです。


3 リースマン(Riesman,D.)によれば,内部指向型の社会的性格に基づいて,スタンダードパッケージとしての個性的な商品が多品種少量生産されるようになる。


リースマンは,内部指向型から外部志向型の人が増加すると考えました。


外部志向型とは,たとえばSNSで「いいね」をたくさんもらうことを重視するような人です。


内部指向型は,自分は自分である,というタイプです。


内部指向型だと,個性的な商品が多品種少量生産されるようになるのは正しいのですが,スタンダードパッケージの部分が間違っています。


スタンダードパッケージとは,同じような製品を提供することを言います。

ほかの人と同じものが良いというのが好まれます。


4 ヴェブレン(Veblen,T.)によれば,多くの人々が同じ商品を購入するようになるので,見せびらかしの消費としての誇示的消費の意義は失われる。


見せびらかしは,重要です。そうでなれば,高価なブランド物は売れることはないでしょう。


5 ボードリヤール(Baudrillard,J.)によれば,モノの記号的意味の消費から,生理的・機能的欲求に基づくモノの実質的機能の消費へと移っていく。


モノの記号的意味の消費とは,製品ものものの性能よりもブランドが好まれることをいいます。


順番で言えば「モノの実質的機能の消費」から「モノの記号的意味の消費へ」です。

2020年11月12日木曜日

ウェーバーの支配システム

ウェーバーについて,国試でよく出題されているのは,次の2点です。

 

(1)支配システム

(2)社会的行為


これらについて,簡単にでも説明できるくらいにしておきたいです。丸暗記は表現を変えられると対応ができないので,必ず自分のことばで置き換えて理解するようにしましょう。

 

今回は,そのうち支配システムを取り上げたいと思います。

 

もう一つの社会的行為に関する記事

https://fukufuku21.blogspot.com/2017/05/blog-post_17.html

https://fukufuku21.blogspot.com/2020/06/blog-post_13.html


支配システムとは

 

誰かが命令した場合,それを人々が受け入れることを言います。

 

ウェーバーには,支配システムには,3つの類型があると述べています。

 

①伝統的支配 

神聖なもの,慣習によるもの,などによるものです。

日本では昔の天皇制,家父長制(親の言うことは絶対的)などが伝統的支配の類型になります。

②カリスマ的支配 

特別な能力(カリスマ)を持った人による支配です。

「ちょっと極端だけれど,この人の言うことなら従える」と思えるようなものです。

戦国武将の織田信長や豊臣秀吉などがカリスマ的支配と言えるでしょう。

③合法的支配

規則(法)による支配です。

近代民主国家は,合法的支配です。

伝統的支配やカリスマ的支配と違い,規則により命令し,人々は規則によって従います。

 

合法的支配をより進めたものが「官僚制」です。

 

官僚制の特徴は,

 

文書主義

規則による権限の明確化

規則による上下関係の明確化

 

などがあります。

 

ウェーバーは,伝統的支配やカリスマ的支配から離脱する脱魔術化によって近代化すると考えました。その過程は世俗化といいます。

 

それでは今日の問題です。

 

28回・問題15 ウェーバー(WeberM.)の支配の諸類型に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 合法的支配とは,ある私的な関係に限って認められたルールに基づく支配体制である。

2 官僚制による支配とは,権力者の恣意的な判断や決定による支配体制である。

3 カリスマ的支配とは,非日常的な資質の持ち主によって成立する支配体制である。

4 家父長制的支配とは,家業を遂行する経営的な能力に基づく支配体制である。

5 伝統的支配とは,過去に制定された法に基づく支配体制である。

 

今,改めてこの問題を見てみると,何も難しくはないように思うかもしれません。

 

しかし,この問題を初めて見た時は,とてつもなく難しく見えるはずです。

これが国試の怖いところです。

 

正解は,選択肢3です。

 

3 カリスマ的支配とは,非日常的な資質の持ち主によって成立する支配体制である。

 

一般的に使われる「カリスマ」とほぼ同じ使い方なので,ウェーバーの支配システムを知らなくとも,正解できる可能性はあるのですが,この選択肢をほかの選択肢でうまく隠しているので,難易度が高くなるのです。

 

ほかの選択肢もみてみます。

 

1 合法的支配とは,ある私的な関係に限って認められたルールに基づく支配体制である。

 

私的な関係ではなく,公のルールに基づくものです。

 

2 官僚制による支配とは,権力者の恣意的な判断や決定による支配体制である。

 

恣意的とは,「勝手気まま」という意味です。

勝手気ままは許されません。

 

4 家父長制的支配とは,家業を遂行する経営的な能力に基づく支配体制である。

 

家父長制的支配とは,伝統的支配に含まれるもので,経営能力の有無ではなく,長子が家督を継いでいくものです。

 

日本では,江戸時代に定着したものです。

 

5 伝統的支配とは,過去に制定された法に基づく支配体制である。

 

伝統的支配は,神聖なもの,慣習によるもの,などによる支配です。

2020年11月11日水曜日

模擬試験の結果について(各社の比較から)

今の時期(11月)は,各団体の模擬試験が実施されます。

 

毎年,受験者数が最も多いのは,ソ教連(日本ソーシャルワーク教育学校連盟)の模擬試験です。

 

社会福祉士・精神保健福祉士の養成校が加盟している団体だからです。

 

成績表が届くのは,12月上旬ですが,受験した人は,一足先に解説を見て自己採点をしていることでしょう。

 

ところがこれがかなりの曲者です。点数が思うように取れないのです。

例年,この学習部屋では,各団体の模擬試験を比較しています。

 関連記事

https://fukufuku21.blogspot.com/2019/10/blog-post_31.html

 

ここから導き出される結論は,

 

実力が足りないから点数が取れないのではなく,点数が取れない問題だから点数が取れない。

 

ということです。

 

今年度の比較結果は,正式な結果が発表されてからまとめたいと思いますが,

 

ソ教連

中央法規

社会福祉士会(テコムと同じもの)

日総研

 

を比べると,例年,最も難易度が高い(つまり,点数が取れない)模試は,ソ教連,最も国試に近い難易度なのは,日総研です。

 

模擬試験の基本設計が毎年変わらないとすると,この傾向は今年度もおそらく同じです。

 

「合格基準の目安」の比較(上位から30%)

年度

社会福祉士会

ソ教連

日総研

2017

76

70

79

2018

80

75

83

2019

77

76

90

平均

77.6

73.7

84.0

2020

 

中央法規は,得点分布を公開していないので,比較できませんが,経験上の難易度は,日総研と社会福祉士会の間という感じです。

 

模擬試験の点数は,とても気になるところですが,問題の難易度を考慮しないと勉強が結果につながっていないと思ってモチベーションを下げることになってしまうので,注意が必要です。

日総研模試は,あまり知られていないと思いますが,つくり方が丁寧な印象があります。

既にいくつか受験されている人は,最後に受けてみるのも良いと思います。

ソ教連模試の成績表が届くのはまだ先ですが,点数が取れない模試であることを理解しておくことがとても大切です。

そうしないとモチベーションを下げてしまうことにもなりかねません。

必要なことは,しっかり復習して覚えてしまうことです。受けっぱなしにしないことです。

2020年11月10日火曜日

心理療法の出題は100%

社会福祉士の国家試験の出題範囲は広いので,毎年出題されるようなものはほとんどありません。

 

その中で,心理療法は毎年必ず出題されている数少ないものの一つです。

 

つまり,出題確率は100%!

 

出るか出ないかわからないものに時間をかけるのではなく,こういったものを確実に正解できるようにすることを優先するほうが得点は上がります。

 

それでは,今日の問題です。

 

28回・問題14 心理療法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 自律訓練法は,筋肉を漸進的に弛緩させる技法である。

2 認知行動療法は,転移関係についての解釈と洞察が重要である。

3 家族療法のシステムズ・アプローチでは,家族間の関係性の悪循環を変化させる。

4 来談者中心療法は,夢分析を行い無意識の意識化を促進させる。

5 精神分析療法は自己認知の変容のために認知再構成法を用いる。

 

心理療法は,必ず出題されると言っても,難易度が高い問題が多いです。

 

なぜなら,少しずつ表現を変えて出題されるからです。

丸暗記の学習では,おそらくこういった問題が出題された時,対応不能です。

自分なりに,おおよそこういうことだということをつかんでおくことが必要です。

 

暗記を中心に勉強している人は,表現を変えられると対応が難しいのです。

 

さて,今日の問題の正解は,選択肢3です。

 

3 家族療法のシステムズ・アプローチでは,家族間の関係性の悪循環を変化させる。

 

家族メンバーのうち,問題のある人は,「IP」と言います。

IPに目が向きがちですが,ほかのメンバーに原因があることもあります。

 

家族システムアプローチではIPにだけ働きかけるものではなく,家族全体にアプローチします。

 

そのことによって,家族というシステムが変化を起こします。

システムというと,機械的なイメージを持ちがちですが,システムは,変化・成長するものだととらえるのが特徴です。

機械的なイメージだと,そのシステムは初期条件がその後を拘束するものになってしまいます。

 

理解を間違えないようにしましょう。

 

それでは,ほかの選択肢も確認しましょう。

 

1 自律訓練法は,筋肉を漸進的に弛緩させる技法である。

 

自律訓練法は,一種の催眠療法で,受動的注意集中という態度を通してリラックス状態になるようにするものです。

 

2 認知行動療法は,転移関係についての解釈と洞察が重要である。

 

認知行動療法は,自己認知の変容のために認知再構成法を用います。

 

4 来談者中心療法は,夢分析を行い無意識の意識化を促進させる。

 

来談者中心療法は,「共感的理解」と「無条件的肯定的関心」でかかわります。

 

5 精神分析療法は自己認知の変容のために認知再構成法を用いる。

 

精神分析療法は,無意識の領域に働きかけます。

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