今回から科目は,「地域福祉の理論と方法」に取り組んでいきます。
「この科目が苦手だ」という人がいます。
歴史や人名,対策が打てない問題などがあるからでしょう。
しかし,国試問題自体は,基礎を押さえておけばそれほど難易度が高いものではないように思います。
今回は,コミュニティ開放論を取り上げます。
ヒラリーさんは,たくさんあるコミュニティの定義を整理すると,
・社会的相互作用
・空間の限定
・共通の絆
があることを指摘しました。
それに対して・・・
ウェルマンさんは,ネットや交通が発達することで,空間に縛られないで,コミュニティは存在しているという「コミュニティ開放論」を提唱しました。
これを整理してみると・・・
ヒラリーさん → 空間を限定
ウェルマンさん → 空間は限定されない
それでは,今日の問題です。
第28回・問題32 コミュニティや市民社会に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 マッキーヴァー(MacIver,R.)は,教会,学校,会社のような意図的につくられた機能的・結社的集団をコミュニティとして捉えた。
2 ぺストフ(Pestoff,V.)は,現代社会においては政府も市場もコミュニティもそれぞれが機能不全に陥っているため,個人主義を徹底することが必要であるとした。
3 ロールズ(Rawls,J.)は,共同体の共通善や歴史的な価値を重視し個人に先立つ共同体を重視するコミュニタリアニズムの思想を説いた。
4 トクヴィル(Tocqueville,A.)は,1830年代のイギリスの社会の観察を通じて,市民社会の核心は中間組織としての多様な自発的結社にあるとした。
5 ウェルマン(Wellman,B.)は,各個人が空間の縛りを離れ選択的に粋を築いていくとする,新しいコミュニティの可能性を説いた。
何,これ? と思う問題でしょう。
聞いたこともない,勉強したこともない人名が出題されています。
この年に受験された人は,さぞかしびっくりされたのではないかと思います。
しかし,恐れることはありません。多くの場合,そこには正解はないのです。
それでは,解説です。
1 マッキーヴァー(MacIver,R.)は,教会,学校,会社のような意図的につくられた機能的・結社的集団をコミュニティとして捉えた。
マッキーバーさんは,コミュニティとアソシエーションについて,提唱しています。
コミュニティは,地域社会です。
アソシエーションは,教会,学校,会社のような意図的につくられた集団です。
マッキーバーさんによると,家族は,アソシエーションに分類されます。
ということで,教会,学校,会社のような意図的につくられた機能的・結社的集団は,アソシエーションです。
2 ぺストフ(Pestoff,V.)は,現代社会においては政府も市場もコミュニティもそれぞれが機能不全に陥っているため,個人主義を徹底することが必要であるとした。
ペストフさんが提唱したのは,
・政府
・市場
・コミュニティ
による協働である「新しい協働」という考え方を提唱しています。
3 ロールズ(Rawls,J.)は,共同体の共通善や歴史的な価値を重視し個人に先立つ共同体を重視するコミュニタリアニズムの思想を説いた。
ロールズさんが提唱したのは,格差原理です。
コミュニタリアニズムの思想を説いたのは,サンデルさんです。
どちらも「現代社会と福祉」で学びます。
4 トクヴィル(Tocqueville,A.)は,1830年代のイギリスの社会の観察を通じて,市民社会の核心は中間組織としての多様な自発的結社にあるとした。
トクヴィルさんが観察したのは,アメリカです。
おそらく二度と出題されることはないでしょう。残念ですが,数合わせの出題でしょう。
覚える価値なし!
トクヴィルさんは再び出題されることがあっても,正解にならないと言えます。
5 ウェルマン(Wellman,B.)は,各個人が空間の縛りを離れ選択的に粋を築いていくとする,新しいコミュニティの可能性を説いた。
これが正解です。
この後の年の国試では,一問まるごとコミュニティ開放論が出題されたこともあるくらい,重要なものです。
しっかり覚えておきたいです。
コミュニティ開放論によれば,SNSなどでつながっているものもコミュニティですし,国を超えたコミュニティもあるということになります。
ヒラリーさんがコミュニティの定義を整理したのはいつ頃なのかは知りませんが,その時代には,現代のような社会は考えられなかったことでしょう。
遠隔で顔を合わせながらみんなでミーティングなんてものも,つい先日までは一般的でありませんでした。このように社会はいつの間にか変動していくものです。