心理学理論と心理的支援を苦手だという人は多いようです。
人名が多く出てくるからでしょう。
しかし,人名を知らなければ解けないという問題はほとんどありません。
重要なのはその内容です。
心理学のような理論系の科目よりも制度系の科目のほうが得意だ,という人もいます。
確かに社会人で,その領域の制度は詳しいでしょうし,強いでしょう。
その点で,学生よりもちょっぴり有利かもしれません。
しかし,それはその領域の制度を知っているからであって,なじみのない分野の制度は,そんなに簡単なものではありません。
なぜなら,制度は改正されるからです。時代とともに移り変わっていきます。
それに対して,心理学は,社会の変化によって,出題内容が変わるものではないので,実はとても対策を取りやすい科目です。
センスの悪い模擬試験は,国試に出ることのないようなものを出題して,受験者を混乱させますが,国家試験で出題されるものは,とても安定しているのです。
さて,今回は,学習理論を取り上げます。
心理学を学ぶ人は,必ず学ぶものでしょう。
それでは,今日の問題です。
第28回・問題9 次の記述のうち,学習の形成における洞察学習の例として,正しいものを1つ選びなさい。
1 孵化し首をのぞかせたハイイロガンは,最初に凝視したものを親だと思い込み,凝視したものの後追い行動を始めた。
2 檻に入れられたネズミが,艦の中にあるレバーを押すと餌が出ることを知った後,ネズミはレバー押し行動を増加させた。
3 大人が人形を攻撃した後にほうびをもらう場面の映像を幼児に見せると,人形などのおもちゃのある部屋にいる,その幼児の行動は,より攻撃的になった。
4 狭い箱に入れられた猫は脱出しようとしていろいろ試みたが,紐を引っ張ると出口が開くことを覚えた後は,箱に入れられるとすぐに紐を引っ張った。
5 檻の中で天井に吊るされたバナナを取りたいチンパンジーは,すぐさま箱をバナナの下に引き寄せ,その上に登って,手にした棒でバナナをたたき落とした。
この問題のどこにも人名は出て来ません。
この問題が出題された当時,学習理論の基礎をこのように出題するのだと感慨深く思ったものです。
教科書などには,イラストなどでも紹介されているものでしょう。
こういった問題があると,実験に使われた動物を覚えることが大切だという先生もいますが,動物にスポットを当てると,その内容そのものを覚えるのがおろそかになりがちなので,注意が必要です。
この問題の正解は,選択肢5です。
5 檻の中で天井に吊るされたバナナを取りたいチンパンジーは,すぐさま箱をバナナの下に引き寄せ,その上に登って,手にした棒でバナナをたたき落とした。
洞察学習は,試行錯誤学習とは異なり,失敗を繰り返さなくても,見通しをつけることで,解決策を見出せるものです。
いわゆる「ひらめき」だと言えるでしょう。
動物で言えば,チンパンジーの実験を通して提唱したものですが,猫ちゃんと比べるとおさるさんは知恵のある動物なので洞察することができるのでしょう。
ほかの選択肢です。
1 孵化し首をのぞかせたハイイロガンは,最初に凝視したものを親だと思い込み,凝視したものの後追い行動を始めた。
これは,「刷り込み」です。
2 檻に入れられたネズミが,艦の中にあるレバーを押すと餌が出ることを知った後,ネズミはレバー押し行動を増加させた。
これは,オペラント条件づけを提唱することとなった実験です。
3 大人が人形を攻撃した後にほうびをもらう場面の映像を幼児に見せると,人形などのおもちゃのある部屋にいる,その幼児の行動は,より攻撃的になった。
これは,「観察学習」です。
4 狭い箱に入れられた猫は脱出しようとしていろいろ試みたが,紐を引っ張ると出口が開くことを覚えた後は,箱に入れられるとすぐに紐を引っ張った。
これは,「試行錯誤学習」です。
<今日の一言>
学習については,今日の問題の選択肢2に関連する「レスポンデント条件づけ」「オペラント条件づけ」は確実に覚えておきたいです。
国試では,レスポンデント条件づけとオペラント条件づけの違いを問う問題が出題されます。
レスポンデント条件づけは,刺激が反応を引き起こすものです。
すっぱい梅干しを見ると唾液が出るというのがその例です。
条件づけされていない人は,梅干しを見ても唾液は出ません。
オペラント条件づけは,自発的な行動に賞罰が伴って,その後の行動が変化するものです。
宿題を忘れて,怒られて,宿題を忘れなくなった,というのがその例です。
これは,賞罰のうちの罰ですね。
テストの点数が良かったことを褒められて,その後,勉強を頑張って学力がアップした,というのもあります。
これは,賞罰のうちの賞ですね。
参考書を見ると,難しいことばが並んでいますが,この程度の理解は必要です。