2018年12月31日月曜日

日常生活自立支援事業の徹底理解~その2

現在の「日常生活自立支援事業」は,2000年の介護保険法,社会福祉法により,サービス利用が「措置」から「契約」になることから,サービス利用者の権利擁護のために導入されたものです。


福祉サービスの利用援助は,社会福祉法で,第二種社会福祉事業に規定されています。

当初は「地域福祉権利擁護事業」と呼ばれたものが,利用者に分かりにくいなどの理由で2007年に現在の名称になりました。

援助内容は
・福祉サービスの利用援助 
・日常的金銭管理サービス 
・書類等預かりサービス

です。

福祉サービスの利用援助には,苦情解決制度の利用援助,日常生活上の消費契約,住民票の届出等の援助等が含まれます。


日常生活自立支援事業の担い手は次の2つです。

まず1つめは,原則常勤の専門員です。専門員は,相談受付,支援計画作成,契約締結業務を行います。

もう1つは,原則非常勤の生活支援員です。生活支援員は,具体的な支援を行っています。

生活支援員が原則非常勤となっているのは,実際の援助は頻繁にあるわけではないからです。

たとえば,「日常的金銭管理サービス」は,金融機関からお金を引き出し,振込や支払いなどを行いますが,月1~2回程度でしょう。

それでは,今日の問題です。

第27回-問題82 日常生活自立支援事業に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 精神障害者保健福祉手帳を所持していなければ,この事業を利用することができない。

2 この事業の実施主体は,利用者が不適切な売買契約を実施した場合,それを取り消すことができる。

3 この事業の契約期間を定めた場合,利用者は期間の途中で解約できない。

4 住民票の届出に関する援助は,この事業の対象外である。

5 福祉サービスについての苦情解決制度の利用援助を行うことは,この事業の対象となる。

前説をしっかり覚えていれば,簡単でしょう。

社会福祉士の国家試験は,合格率が25~30%なので,とても難易度が高いものだと思われがちです。

難易度が高い理由は,出題範囲が広いため,ヤマを張った勉強では対応できるものではないからです。

しかし,一つひとつの問題は,決して難易度が高いものではなりません。

こういった問題をいかに正解できるかが,合否を分けると言っても決して過言ではないでしょう。

それでは解説です。


1 精神障害者保健福祉手帳を所持していなければ,この事業を利用することができない。

これは間違いです。

日常生活自立支援事業の対象は,

精神上の理由(認知症高齢者,知的障害者,精神障害者等)により日常生活を営むのに支障がある者

です。

精神障害者保健福祉手帳を所持していることは利用の要件にはなりません。

詳しい理由は,<今日の一言>に書きました。


2 この事業の実施主体は,利用者が不適切な売買契約を実施した場合,それを取り消すことができる。

これも間違いです。

日常生活自立支援事業は,成年後見制度のように,取消権も同意権も付与されません。


3 この事業の契約期間を定めた場合,利用者は期間の途中で解約できない。

これも間違いです。

途中解約することができます。


4 住民票の届出に関する援助は,この事業の対象外である。

これも間違いです。

福祉サービス利用援助に,住民票の届出に関する援助が含まれます。


5 福祉サービスについての苦情解決制度の利用援助を行うことは,この事業の対象となる。

これが正解です。

福祉サービス利用援助に,福祉サービスについての苦情解決制度の利用援助が含まれます。


<今日の一言>

3障害のうち,手帳を所持することで,障害者だと認定されるのは,身体障害者のみです。

身体障害者福祉法では,

「身体障害者」とは,身体上の障害がある十八歳以上の者であって,都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたもの。

と規定されています。

知的障害者,精神障害者はいずれも手帳の所持を障害者の認定要件としていません。

このような問題が出題されたことがあります。

身体障害者が「障害者総合支援法」のサービスを利用する場合には,身体障害者手帳の交付を受ける必要がある。(第29回問題60選択肢3)

これは正解です。

障害者走行支援法では,

「障害者」とは,身体障害者福祉法第四条に規定する身体障害者,知的障害者福祉法にいう知的障害者のうち十八歳以上である者及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第五条に規定する精神障害者(発達障害者支援法(平成十六年法律第百六十七号)第二条第二項に規定する発達障害者を含み,知的障害者福祉法にいう知的障害者を除く。以下「精神障害者」という。)のうち十八歳以上である者並びに治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病であって政令で定めるものによる障害の程度が厚生労働大臣が定める程度である者であって十八歳以上であるものをいう。

と規定されているからです。

そのため,

身体障害者は,身体障害者手帳の交付を受けないと身体障害者にはなりません。


間違い問題としては以下のようなものが考えられます。

精神障害者が「障害者総合支援法」のサービスを利用する場合には,精神障害者保健福祉手帳の交付を受ける必要がある。

これが間違いになる理由は,精神障害者は,精神障害者保健福祉手帳所持の有無を問わず,精神疾患の有無によって,精神障害者となるからです。

2018年12月30日日曜日

日常生活自立支援事業の徹底理解~その1

日常生活自立支援事業は,都道府県社会福祉協議会と指定都市社会福祉協議会が実施するもので,援助内容は

・福祉サービスの利用援助 
・日常的金銭管理サービス 
・書類等預かりサービス

です。


それでは早速今日の問題です。

第23回・問題75 日常生活自立支援事業に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 日常生活自立支援事業は国庫補助事業であり,第二種社会福祉事業に規定された「福祉サービス利用援助事業」に該当する。

2 日常生活自立支援事業の実施主体は都道府県であり,事業の一部を地域包括支援センターに委託できることになっている。

3 日常生活自立支援事業の利用者の内訳は,認知症高齢者,知的障害者,精神障害者がほぼ同じ割合となっている。

4 日常生活自立支援事業の事業内容には,福祉サービスの利用援助や苦情解決制度の利用援助のほか,本人の契約行為の取消しを含む日常的金銭管理などがある。

5 日常生活自立支援事業において具体的な支援を行う生活支援員は,社会福祉士や精神保健福祉士の資格があって一定の研修を受けた者とされている。

それでは解説です。

1 日常生活自立支援事業は国庫補助事業であり,第二種社会福祉事業に規定された「福祉サービス利用援助事業」に該当する。

これが正解です。

そのまま覚えましょう。


2 日常生活自立支援事業の実施主体は都道府県であり,事業の一部を地域包括支援センターに委託できることになっている。

これは間違いです。実施主体は都道県社協,指定都市社協です。事業の一部を市町村社協等に委託することができます。


3 日常生活自立支援事業の利用者の内訳は,認知症高齢者,知的障害者,精神障害者がほぼ同じ割合となっている。

これも間違いです。

最も多いのは認知症高齢者です。

4 日常生活自立支援事業の事業内容には,福祉サービスの利用援助や苦情解決制度の利用援助のほか,本人の契約行為の取消しを含む日常的金銭管理などがある。

これも間違いです。

日常生活自立支援事業には,取消権や同意権は付与されるようなものではありません。

もしそのようものが必要となった時には,成年後見制度の利用を視野に入れることになります。


5 日常生活自立支援事業において具体的な支援を行う生活支援員は,社会福祉士や精神保健福祉士の資格があって一定の研修を受けた者とされている。

これも間違いです。

日常生活自立支援事業に携わる職種は,専門員と生活支援員があります。

専門員は,契約締結や援助計画作成などを行います。

生活支援員は,日常の具体的な援助を行います。

社会福祉士や精神保健福祉士の資格があって一定の研修を受けた者とされているのは,専門員。
任用資格は特にないのは,生活支援員です。


<今日の一言>

今回から日常生活自立支援事業を取り上げます。そんなに難しくはないので,しっかり覚えて得点しましょう。

2018年12月29日土曜日

合格できる扶養の知識(2/2)~いよいよまとめの段階

「権利擁護と成年後見制度」は,午前中の最後の科目です。

問題文が長かった時には,この科目はまともに解けなかったという人が続出しました。

それが「魔の第25回国試」です。

現行カリキュラムは,第22回から始まりました。

そこから,現在(2018年)まで,9回実施されています。

第22~25回 模索期
第26~30回 充実期
第31回~  転換期

第25回は,合格基準点が最も低くなった回で,全体の文字数は約56,000字です。
第30回は,合格基準点が最も高くなった回で,全体の文字数は約36,000字です。

午前中だけを見てみると

第25回は,約30,000字(1問あたり約360字,1選択肢あたり60字)
第30回は,約20,000字(1問あたり約240字,1選択肢あたり40字)

国家試験の時間数は今と同じ2時間15分でした。

この文章は22字なので,第25回では,すべての選択肢で,このくらいの分量が第30回より多かったことになります。

それが積もり積もって,「権利擁護と成年後見制度」では,時間が足りなくなってしまったのです。

文字数でみると,その当時の問題は,午前中(83問)だけで,現在の全体の文字数(150問)とあまり変わりません。

第26回からは,現在の試験委員長である西九州大学教授(東洋大学名誉教授)の坂田周一先生体制になり,試験問題改革に取り組んできています。

第25回国試は,過去最低の合格基準点の72点
第30回国試は,過去最高の合格基準点の99点

第30回国試の合格基準点は,多くの批判を受けることになりましたが,坂田体制が目指したものにある程度到達したものだったと思います。

第25回国試は,合格基準点を72点に引き下げたにもかかわらず,合格者は18.8%にとどまりました。

坂田体制による試験問題改革とは,合格基準点90点,合格率30%に限りなく近づけるものだと考えています。

試験センターは,下に大きく振れたデータと上に大きく振れたデータを確保することがでたので,これからは難易度のバランスの良い問題が出題されていくことと思います。

これらを踏まえたうえで,現在の国試を合格するのに最も重要なことは,次の2点です。

①出題基準に示された範囲をまんべんなく覚えていること。
②国試問題を正確に読み取る力をもつこと。

①出題基準に示された範囲をまんべんなく覚えていること。

は当然のことだと思いますが,文字数が短くなり,日本語の言い回しで判断できない問題に変わっていることもあり,基礎力は今までよりも必要となっています。

②国試問題を正確に読み取る力をもつこと。

は,問題が短くなっているとは言え,まだまだ文章で出題されています。

文章で出題される限り,ほころびは発生します。別な言い方をすると,不足している知識をカバーできる可能性があるということです。

あきらめたら,そこで終わります。知らないものでもどこかに手がかりがないかと必死で探しましょう。

その重要性を感じさせるのは,以下の問題です。

第29回・問題3 心臓の正常解剖に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 冠状動脈は大動脈起始部より分岐する。
2 右心房と右心室の間の弁を僧幅弁という。
3 上大静脈と下大静脈は左心房に開口する。
4 肺静脈の中の血液は静脈血である。
5 冠静脈洞は左心房に開口する。

答えは,1です。今なら,どれも参考書に載っているはずです。
しかしこの時点で参考書に載っていたのは,僧帽弁と肺静脈の2つだけです。
3番目の問題で,このようなものが出題されると,心の弱い人は自信をなくすことでしょう。

しかし,難しければ難しいほど,解答のヒントを残してくれているのが今の国試です。
選択肢4は,何度も繰り返し出題されているので,勉強した人は間違いだと分かることでしょう。もう一つの手がかりは,選択肢2です。僧帽弁は左です。三尖弁は右です。
ここで,ほかの選択肢を見ると,3と5も左となっています。選択肢2が左右逆になっていることから,これらも逆になっているかもしれないと考えられます。そうすると1が残ります。

この問題では,正確な知識(僧帽弁と肺静脈)があることによって,正解することができる可能性があります。

実際には,左右や上下を入れ替える問題はそんなにありません。とはいうものの間違い選択肢は簡単に作れるので,作問に困った試験委員は安易な手法に走ることは十分に考えられます。

これから過去問を解く時は,同様な手がかりがないか,という視点をもつことも重要です。

さて,前置きが長くなりましたが,今日の問題は,現時点では最新の第30回の問題です。

第30回・問題80 事例を読んで,次の親族関係における民法上の扶養に関する記述として,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
 L (80歳)には長男(55歳)と次男(50歳)がいるが,配偶者と死別し,現在は独居である。長男は妻と子(25歳)の三人で自己所有の一戸建住居で暮らし,次男は妻と重症心身障害のある子(15歳)の三人でアパートで暮らしている。最近,Lは認知症が進行し,介護の必要性も増し,介護サービス利用料などの負担が増えて経済的にも困窮してきた。

1 長男と次男がLの扶養の順序について協議できない場合には,家庭裁判所がこれを定める。

2 長男及び次男には,扶養義務の一環として,Lの成年後見制度利用のための審判請求を行う義務がある。

3 長男の自宅に空き部屋がある場合には,長男はLを引き取って扶養する義務がある。

4 次男が生活に困窮した場合,Lは,長男に対する扶養請求権を次男に譲渡することができる。

5 長男の子と次男の子以外の者が全て死亡したときには,長男の子は次男の子を扶養する義務を負う。

このような短文事例問題は,法制度の知識が必要です。「権利擁護と成年後見制度」では,毎回必ず1問は出題されます。

この科目は午前中の最後の科目です。脳の体力を使い切って,ふらふらになった状態で,事例を読むのは,かなり厳しいことです。

そんな中でも正確に読むためには,問題を解く訓練は必須なのです。

扶養をテーマにした問題は,現行カリキュラムでは,前回紹介した第25回とこの第30回の2回しかありません。

過去3年間の過去問ではお目にかからない問題です。

それでは解説です。

1 長男と次男がLの扶養の順序について協議できない場合には,家庭裁判所がこれを定める。

これが正解です。親権でもそうでしたが,扶養も基本は協議で決めます。それで決められないとき,家庭裁判所が決めます。

江戸時代から「あっしらでは決められねえので,庄屋さんに決めてもらいてぇだ」といったところでしょう。

驚くことに,過去にはこんな出題があります。

村落の寄り合いでの決定は,全員の意見が一致することは困難であったので,多数決で行われることが多かった。(第25回問題34選択肢3)

さすがは「魔の第25回国試」です。問題がマニアックすぎです。答えはもちろん間違いです。庄屋さんなどに判断を任せることが多かったのが正解です。


2 長男及び次男には,扶養義務の一環として,Lの成年後見制度利用のための審判請求を行う義務がある。

これは間違いです。

子らは審判請求の権利がありますが,義務ではありません。


3 長男の自宅に空き部屋がある場合には,長男はLを引き取って扶養する義務がある。

これも間違いです。

子は親に対して扶養義務がありますが,その義務は自分の生活を犠牲にしない程度の義務です。空き部屋があること=扶養しなければならない,ということではありません。


4 次男が生活に困窮した場合,Lは,長男に対する扶養請求権を次男に譲渡することができる。

これも間違いです。

第25回国試と同じですが,扶養請求権は譲渡することはできません。


5 長男の子と次男の子以外の者が全て死亡したときには,長男の子は次男の子を扶養する義務を負う。

これも間違いです。

家庭裁判所が扶養義務を負わせることができるのは,三親等内の親族です。

長男の子と次男の子は四親等なので,扶養義務はありません。


<今日の一言>

今日の問題は,決して難易度が高い問題とは言えません。

それでも間違うときは間違います。

それが国試の怖いところです。

この問題で確実に得点するためには,選択肢5を確実に消去できる知識が必要です。

こういった小さな積み重ねが,合否に大きくかかわってくることを覚えておきましょう。
今は,勉強がとても辛いときだと思います。

その勉強は,正解するために選択肢を一つでも多く消去するものだと思いましょう。

すべての選択肢が分からなくても,1つ分かるだけでも,正解にぐ~んと近づくことができるのです。

それを信じて,夢の実現に向かって突き進みましょう!!

2018年12月28日金曜日

合格できる扶養の知識(1/2)

「学習部屋」は,2017年4月に始めました。2017年度はすべての科目に関する情報をお届けしました。

2018年も最初はそのつもりで,第27回国試問題を解説してきました。

ずっと読んでいただいている方はお気づきかもしれませんが,途中から戦略を変えました。

その理由は,しっかり覚えるを目指したからです。

社会福祉士の国試は出題基準が示されており,それに沿って出題されています。

そのため

社会福祉士の国家試験に合格するにはどんな勉強をしたら良いですか?

という質問があったら・・・

出題基準に示されている内容をひたすら覚えることです

と答えるでしょう。

勉強方法は千差万別であり,ゴールに至る道はたくさんあります。

しかしゴールは決まっています。国家試験で合格基準点以上の得点があることです。

せっかく情報発信するなら,

このサイト一つで,国試合格に必要な知識を学べる!!


国試に合格するために必要な情報が最も手に入るサイトを目指していますが,おそらく既に日本で最も詳しいものになっているはずです。

貴重な時間を割いてこの「学習部屋」に来ている方が,より有意義な勉強ができる「学習部屋」です。

国試合格までナビゲートしていきます。ぜひ毎日お越しください。

さて,今日から扶養を学んでいきます。


扶養義務の基本

直系血族と兄弟姉妹は,互いに扶養する義務があります。
その他の三親等内の親族は,家庭裁判所が認めた場合,扶養の義務を負います。
四親等以上の親族は,扶養の義務を負うことはありません。

それでは今日の問題です。



第25回・問題81 扶養義務に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 直系血族及び同居の親族は,互いに扶養をする義務がある。

2 扶養の程度又は方法については,当事者が協議で定めるものであり,家庭裁判所が定めることはできない。

3 扶養をする義務のある者が数人ある場合において,扶養をすべき者の順位については,家庭裁判所が定めるものであり,当事者が協議で定めることはできない。

4 家庭裁判所は,特別の事情がある場合であっても,四親等の親族に扶養の義務を負わせることはできない。

5 扶養を受ける権利は,特別の事情がある場合には,処分をすることができる。


魔の第25回の問題です。

とても難しい問題です。

何が難しいかと言えば,それまでの作問パターンと違うので間違いやすいのです。

それはさておき,解説です。


1 直系血族及び同居の親族は,互いに扶養をする義務がある。

これは間違いです。

正しくは,直系血族及び兄弟姉妹です。

間違いやすいのは,この選択肢です。

おそらくこの問題で間違った人はこの選択肢を選んだはずです。


2 扶養の程度又は方法については,当事者が協議で定めるものであり,家庭裁判所が定めることはできない。

これも間違いです。基本的には,当事者が協議で定めます。協議で定められない場合,家庭裁判所が定めます。


3 扶養をする義務のある者が数人ある場合において,扶養をすべき者の順位については,家庭裁判所が定めるものであり,当事者が協議で定めることはできない。

これも間違いです。

基本的には,当事者が協議で定めます。協議で定められない場合,家庭裁判所が定めます。


4 家庭裁判所は,特別の事情がある場合であっても,四親等の親族に扶養の義務を負わせることはできない。

これが正解です。

家庭裁判所が扶養の義務を負わせることができるのは,三親等内の親族です。


5 扶養を受ける権利は,特別の事情がある場合には,処分をすることができる。

これも間違いです。

扶養を受ける権利は処分することはできません。

具体的に言うと,自分は扶養を受けないから,自分の子どもを扶養してくれ,というように扶養を受ける権利は他人に譲渡することができないということです。


<今日の一言>

今日の問題が一般的な作問パターンと違うのは以下の理由です。

否定形と肯定形が混在しているミックス型の場合の多くは,否定形が間違いで,肯定形が正解になることが多い。

しかし今日の問題は,否定形である選択肢4が正解になっています。

作問技術としては,かなり高度なものです。

「あっぱれ」をあげたい問題です。

しかし,このような問題が多かった「魔の第25回」は,合格基準点が過去最低の72点となってしまいました。

第26回からは現在につながる問題の改革が始まっていきます。

2018年12月27日木曜日

親権の徹底理解~その3

今回が親権の最終回です。

早速,今日の問題です。

前説なしです。頭を柔らかくして,深読みしないで,問題を読んでください。

頭を柔らかくして,深読みしないで,問題を読むことが大切な問題です。


第28回・問題79 父母の離婚に伴い生ずる子(15歳)をめぐる監護や養育や親権の問題に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

1 親権者にならなかった親には,子の養育費を負担する義務はない。

2 子との面会交流について父母の協議が成立しない場合は,家庭裁判所が定める。

3 親権者にならなかった親は,子を引き取り,監護養育することはできない。

4 家庭裁判所は,父母の申出によって離婚後も共同して親権を行うことを定めることができる。

5 家庭裁判所が子の親権者を定めるとき,子の陳述を聴く必要はない。


法制度に関する問題を正解するには,知識が必要なものが大半です。

しかし,この問題は,一般的な常識が極めて重要になる問題です。このタイプの問題は絶対に深読みしてはいけません。

深みに入ります。

なお,設問は極めて重要な意味を持っている問題です。

それでは解説です。


1 親権者にならなかった親には,子の養育費を負担する義務はない。

これは間違いです。

養育費の負担は,善意で行っているわけではなく,義務があるから行っています。


2 子との面会交流について父母の協議が成立しない場合は,家庭裁判所が定める。

これが正解です。

慌てず,落ち着いて問題を読むことができたら,これを選べることでしょう。


3 親権者にならなかった親は,子を引き取り,監護養育することはできない。

これは間違いです。

この問題の中で最も難しいのはこの選択肢だと思います。

とても細かいことを書きます。

親権は,「財産管理権」と「身上監護権」があります。

そのうちの身上監護権から監護権を分けて,親権のないものが監護権を行使することができます。

監護権は,日常の面倒をみることです。

監護権は,父母だけではなく第三者に決めることもできます。

親権者が海外航路の乗組員だった場合,日本に戻るのは年数日という人もいます。そんなときに親権者とは別に監護権者を定めます。

このように,親権者でない者も監護養育を行うことができます。


4 家庭裁判所は,父母の申出によって離婚後も共同して親権を行うことを定めることができる。

これも間違いです。

親権を共同して行使できるのは,婚姻中に限ります。


5 家庭裁判所が子の親権者を定めるとき,子の陳述を聴く必要はない。

これも間違いです。

子が15歳以上の場合は,陳述を聴く必要があります。


<今日の一言>

今日の問題は,最近の問題の割に作り方に粗さが感じられます。

同じ内容で,もう少し洗練させるなら,順番を変えると良いのです。

1 親権者にならなかった親には,子の養育費を負担する義務はない。
2 家庭裁判所が子の親権者を定めるとき,子の陳述を聴く必要はない。
3 親権者にならなかった親は,子を引き取り,監護養育することはできない。
4 子との面会交流について父母の協議が成立しない場合は,家庭裁判所が定める。
5 家庭裁判所は,父母の申出によって離婚後も共同して親権を行うことを定めることができる。

否定形と肯定形の順番をそろえるだけで,少しイメージが変わります。

本当は,すべての選択肢を否定形でそろえるか,肯定形でそろえると難易度が上がります。

逆に言うと,そろっていない問題は難易度が下がるということです。

否定形と肯定形が混在しているミックス型の場合の多くは,否定形が間違いで,肯定形が正解になることが多かったのです。覚えておいて損はないと思います。


<おまけ>

表現をそろえて出題するのは,問題をつくるうえでは,かなり高度な技術です。

第30回では,以下のような問題もいまだ出題されています。

第30回・問題122 社会福祉法人の財務に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 再投下可能な財産(社会福祉充実残額)を算定しなければならない。 
2 土地は,減価償却の対象となる資産である。
3 財務会計は,組織内での使用を目的とする。
4 財務諸表に関する開示義務はない。
5 役員の報酬等の支給の基準を公表する義務はない。


ミックス型の原則から考えると,選択肢4と5は正解になりにくいと考えられます

答えは選択肢1です。

ミックス型(否定形と肯定形の混合)の場合,否定形が正解になりにくい理由は,義務のないものを知ることよりも,義務があるものを知る意味があるからです。

それを考えると,わざわざ義務のないものを出題するのは意味がないと思いませんか?

「国試でそんなことを考える余裕はない」と思う人もいるかもしれません。
しかし,そういうことを考えて解かなければ,得点は伸びないでしょう。

しっかり勉強して何度も何度も受験している方は,知識は十分あるはずです。
それにもかかわらず,合格することができないのは,何かが足りないからです。

その一つが「柔らか頭」だと思います。
ちょっとだけ余裕を持つことができれば,得点力は飛躍的に伸びます。

過去問を解くのは,知識をつける意味よりも,国試の問題に慣れることで出題の癖をつかむためです。

これから短期間に実力をつけるには,ヤマを張った勉強をするよりも,国試の問題に慣れる訓練をした方が効果的です。

3年間の過去問では,合格できる知識量は圧倒的に不足するにもかかわらず,「3年間の過去問を3回解いたら合格できるよ」というアドバイスが今も生きているのは,国試問題に慣れることで,点数が取れる問題があることを示唆しています。

ついでに言うと,選択肢の中に「よりも」が入っているものは,正解になりにくい傾向があります。

2018年12月26日水曜日

親権の徹底理解~その2

今日も親権を取り上げます。

まずは,親権の復習です

親権には,財産管理権と身上監護権があります。

身上監護権には,結婚などの身分行為に対する同意権,居所指定権,懲戒権,職業許可権などがあります。

さて今日の問題です。

第27回・問題78 親権者の行為に関する次の記述のうち,正しいものを2つ選びなさい。

1 子どもの監護教育に必要な範囲内で,その子どもを懲戒することができる。

2 未成年の子どもの携帯電話サービス契約を取り消すことはできない。

3 未成年者が結婚すると,居所を指定することはできない。

4 未成年者に代わって,労働契約を締結できる。

5 子どもと利益が相反する法律行為であっても,自ら子どもを代理して行うことができる。


前回の問題と違い,子どもの権利擁護の視点に立った問題になっていることが分かるでしょう。

その分,難易度はぐ~んと高くなっていますね。

2つ選ぶ問題はもともと難易度が高いことに加えて,知識なしで消去できる選択肢が少ないです。

それでは解説です。


1 子どもの監護教育に必要な範囲内で,その子どもを懲戒することができる。

これは正解です。

親権者には懲戒権があります。ただし「必要な範囲内」と限定されています。


2 未成年の子どもの携帯電話サービス契約を取り消すことはできない。

これは間違いです。

未成年者がなした法律行為は,親権者が取り消すことができます。

2022年に成人年齢が18歳に引き下げられると,今まで民法の規定で取り消すことができた18歳・19歳の法律行為を親権者は取り消すことができなくなります。


3 未成年者が結婚すると,居所を指定することはできない。

これは正解です。

親権者には「居所指定権」があります。

親権者が指定した居所に明確な理由なしに寄り付かない場合は,虞犯行為とみなされることもあるくらい重要なものです。

未成年が結婚すると成人とみなされます(みなし成人)。そのため,居所指定権は及びません。

離婚してもみなし成人は引き続きます。

民法改正で男女ともに結婚可能年齢が成人年齢の18歳となるので,みなし成人は2022年までということになりますね。

この問題に意味があるのは,2022年までということになります。


4 未成年者に代わって,労働契約を締結できる。

これは間違いです。

親権者には代理権がありますが,労働契約には代理権を行使することができません。だからと言って,未成年者は労働契約を自由にできるわけではありません。

親権者の許可が必要です。


5 子どもと利益が相反する法律行為であっても,自ら子どもを代理して行うことができる。

これも間違いです。

今までこの「学習部屋」を継続して見ていただいた方はおなじみ「利益相反」は成年後見制度のところで何度も出てきたのでおなじみですね。


利益相反する場合

成年後見人 vs 成年被後見人 → 特別代理人の選任
保佐人 vs 被保佐人 → 臨時保佐人の選任
補助人 vs 被補助人 → 臨時保佐人の選任
子 vs 親権者 → 特別代理人の選任

つまり特別代理人の選任を請求しなければなりません。


<今日の一言>

親権者は,未成年者の労働契約に代理権を行使することができない

なぜなのだろうと思う人もいるかもしれません。

これはとても重要なことなのです。代理権と本人に代わって法律行為を行うことです。もし代理権を行使できると,未成年者が望まない労働をしなければならなくなってしまうことにもなりかねません。

親権者が「A社と労働契約を結んだので,A社で働きなさい」と未成年者に言います。

そのA社は親権者と結託して,未成年者の賃金をピンハネして,親権者に渡すということも起こり得ます。

このような労働契約を認めさせないために親権者に労働契約の代理権は行使できないように規定されているのです。

これに対して,職業許可権の場合は

未成年者が「A社で働きたいのだけれど良い?」と親権者に言います。

全く違いますね。主体が未成年者にあるのが分かります。

2018年12月25日火曜日

親権の徹底理解~その1

成年後見制度まで理解できれば,この科目はOKなのかもしれませんが,もう一つ取り組んでいきたいと思います。

それは民法に規定された扶養と親権です。

そのうちの親権を学んでいきましょう。

民法が改正されて,成人年齢が20歳から18歳に引き下げられることになったことは記憶に新しいことでしょう。

2022年に施行されます。

いろいろな議論はあったと思いますが,新しいリスクが増えている現代社会に放り出されるのはかなり危険なことだと思います。

2019年6月から恋心を利用した契約を取り消すことができるように「消費者契約法」が改正されますが,そんなものだけではリスクを軽減することはできないのではないかと思っています。

何かの問題が起きてから法整備は行われます。

このように法整備は科学の発達よりも遅れます。これは「社会理論と社会システム」で学ぶ「文化遅滞」でしたね。


さて,未成年は親権の保護のもとにあります。

親権は,成年後見と同じ「財産管理権」&「身上監護権」があります。

ただし,内容がちょっと違います。


<財産管理権>

成年後見 → 善管注意義務

親権 → 自己におけるのと同一の注意義務

善管注意義務を怠ると責任が追及されますが,自己におけるのと同一の注意義務は,そこまでの責任は負いません。自己におけるのと同一の注意義務とは,例えば自分のお金をどこかに落として紛失した場合,とてもがっかりしますが,それによって誰かに責任を追及されることはありません。子のお金を紛失しても同様に責任は追及されません。それが「自己におけるのと同一」という意味です。


<身上監護権>

成年後見 → 生活や療養に関する法律行為

親権 → 法律行為に加えて,結婚などの身分行為に対する同意権,居所指定権,懲戒権,職業許可権など。

成年後見では,身分行為は同意の必要はなく,また取り消すことができません。
このように親権の範囲は広くなっています。

児童虐待への対応として,2016年児童福祉法で,児童のしつけに際して,監護・教育に必要な範囲を超えて児童を懲戒してはならないことが規定されています。

さて,親権に関する出題は,現行カリキュラムでは第23回,第27回,第28回に出題されています。

先述のように親権は児童虐待に関連していることもあり,確実に覚えておきたいものです。

それでは今日の問題です。


第23回・問題74 親権者に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 父母の婚姻中,嫡出子の親権は,父又は母のいずれか一方が行う。 

2 父母の離婚後,嫡出子の親権は,父母が共同して行う。 

3 父母の離婚に際し,父母の協議で親権者を定めることはできない。 

4 嫡出でない子の親権は,子を認知した父と母の協議で父が親権者となれば,父が行う。 

5 嫡出でない子の親権は,子を認知した父と母とが共同して行う。


知識がなくても,一般常識の範囲で解ける問題でしょう。

こんな問題で不正解になるのは,もったいないです。

しかし,午前中の最後の科目であり,最後の最後の問題でもあるので,本当に疲れ切った頭で解かなければなりません。

そんなことで,正解するのは思うよりも簡単なことではありません。ある人は「脳の体力を鍛えよう」と言っていたことを思い出します。

この問題で引っかかるとすれば,「嫡出」という言葉でしょう。

嫡出子は,婚姻中に生まれた子
非嫡出子は,婚姻外で生まれた子

これを押さえたところで解説です。


1 父母の婚姻中,嫡出子の親権は,父又は母のいずれか一方が行う。

これは間違いです。

婚姻中の親権は両親が共同で行います。


2 父母の離婚後,嫡出子の親権は,父母が共同して行う。 

これも間違いです。

離婚後の嫡出子の親権は,どちらか一方に決めなければなりません。


3 父母の離婚に際し,父母の協議で親権者を定めることはできない。

これも間違いです。

基本的に離婚後の親権は,両親の協議で決めます。


4 嫡出でない子の親権は,子を認知した父と母の協議で父が親権者となれば,父が行う。 

これが正解です。

非嫡出子の親権は母親が行いますが,父親が子と認知し,協議での上で父親が親権者と定めることで父親が親権を行うことができます。

しかし,その場合は,婚姻中ではないので
共同で親権を行うことができないため,父親が単独で親権を行うことになります。


5 嫡出でない子の親権は,子を認知した父と母とが共同して行う。

これは間違いです。

先述のように,非嫡出子の親権は,原則的に認知するしないにかかわらず,母親が行います。協議の結果で父親が親権を行うこともできますが,共同で行うことはできません。


<今日の一言>

親権の行使について整理をしましょう。

両親が共同して親権を行使できるのは,婚姻中のみです。
逆に言うと,婚姻中でなければ,親権を共同して行うことはできません。

そのため,非嫡出子を父親が認知し,協議で親権者が父親となった場合は,母親は親権者になることができません。

父親が単独で親権を行使することとなります。もし共同して親権を行使したいのなら,婚姻しなければなりません。

今日の問題は,現行カリキュラム2回目の国試だったためか,旧カリ時代の「法学」の内容を引きずったものとなっています。

この後に親権が出題されるのは,第27回まで待たなければなりません。その問題は次回紹介したいと思います。

2018年12月24日月曜日

問題を解くヒント~頭を柔らかくしよう!!

試験勉強お疲れさまです。

国家試験は,決して簡単ではありませんが,問題をしっかり読めば解ける問題もあります。

チームfukufuku21が第30回国試で最もダメダメ問題だと思う問題はこれです。


第30回・問題68 生活保護の自立支援プログラムの「基本方針」に示される内容に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 各自治体の地域の実情に応じて設定されるものではない。

2 民間事業者等への外部委託は想定されていない。

3 組織的支援ではなく,現業員の個人の努力や経験により支援を行うことにしている。

4 就労による経済的自立のみならず,日常生活自立,社会生活自立など多様な課題に対応するものである。

5 被保護世帯の自立阻害要因の把握は求められていない。


試験委員も人の子です。問題を作成するにはとても頭を悩ませていることがよく分かる問題です。

考えて考えて,袋小路に入ってしまったのかもしれません。

ダメダメ問題だと思うのは,

1 各自治体の地域の実情に応じて設定されるものではない。
2 民間事業者等への外部委託は想定されていない。
5 被保護世帯の自立阻害要因の把握は求められていない。

の3つの選択肢です。

これらはすべて

1 各自治体の地域の実情に応じて設定される。
2 民間事業者等への外部委託が想定されている。
5 被保護世帯の自立阻害要因の把握が求められている。

という文章を否定形に変えたものです。

そのため,文章がひどすぎます。

選択肢1が正解なら,設定されない条件を出題するよりも,条件を出題した方が良いと思います。そう思いませんか?

設定されないものを出題するよりも,設定されるものを出題する方が国試に出題する価値があります。

ほかの選択肢も同様です。

こんなひどい問題はめったにあるものではありませんが,こんな問題も時々あるのです。

ほとんどの人は正解できたはずです。
とは言っても,どんな問題でも間違う人はいます。

おそらく,何か深読みしてしまい,素直に問題を読むことができなかったのではないかと思います。


第30回・問題68はとても質の悪い問題ですが,正解選択肢は,自立支援プログラムの中で重要な「自立とは何か」となっています。


<今日の一言>

国試は,そんなにいやらしい問題は出題しません。
素直な気持ちで問題に向き合うことが大切です。

これからは,最後の仕上げとして過去問を使って勉強する人が増えてくることでしょう。

問題を読むときは,その問題がどのように構成されているのかをぜひ意識してください。
国試当日もそういった視点を持って問題を読めば,得点力がアップするでしょう。

少しだけ頭を柔らかくして問題を読むといろいろなことが見えてきますよ。

深読みすることは危険です。

2018年12月23日日曜日

成年後見制度の徹底理解~その14(成年後見制度利用支援事業)

成年後見制度は,介護保険法の施行と同時にスタートしました。

そのため,最近はあまり聞かなくなりましたが,当初は「介護保険と成年後見制度は車の両輪」と言われていたものです。

成年後見制度をより使いやすくするため,2001年に認知症高齢者を対象として「成年後見制度利用支援事業」が始まりました。

その後,知的障害者と精神障害者を対象として現在に至ります。

同事業は,申立費用や後見人等の報酬を助成するものです。

介護保険法では,市町村の地域支援事業の任意事業,障害者総合支援法では,市町村の地域生活支援事業の必須事業に位置付けられています。


それでは,今日の問題です。

第26回・問題82 市町村が実施する成年後見制度利用支援事業に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 市町村長申立て以外の場合を,対象とすることはできない。

2 申立て費用だけでなく,成年後見人等の報酬も対象とすることができる。

3 高齢者ではない知的障害者及び精神障害者を対象とすることはできない。

4 「後見」を対象とし,「保佐」「補助」を対象とすることはできない。

5 社会福祉法における第一種社会福祉事業と位置づけられている。


第26回国試は,現行カリキュラムでの試験の中期が始まった年です。この回から問題の文字数が急激に減少していきます。

先日の分け方では,第26~30回を安定期と位置づけたのは,文字数が少なくなったことで,言い回しで煙に巻くような問題ではなく,知識そのものが問われるようになったからです。

しかし,まだまだ荒々しさが見えます。

具体的には,文章がそろっていないことです。

1.できない。
2.できる。
3.できない。
4.できない。
5.位置づけられている。

今はこん問題はほとんど見られなくなっています。たった5年前にもかかわらず,ずいぶん脇の甘い問題を出題していたものです。

それでは解説です。


1 市町村長申立て以外の場合を,対象とすることはできない。

これは間違いです。

市町村長申立ては,4親等以内の親族などがいない場合,市町村長が成年後見開始等の審判の請求を行うものです。

ただし,4親等以内の親族がいたとしても,遠方に住んでいる,その親族も認知症である場合などに市町村長が申し立てる制度です。成年後見制度利用支援事業を市町村長申立てに限定する理由がないと思いませんか?


2 申立て費用だけでなく,成年後見人等の報酬も対象とすることができる。

これが正解です。

同事業は,申立て費用及び成年後見人等の報酬等を支払うことができない場合,市町村がそれらの費用を助成する制度です。


3 高齢者ではない知的障害者及び精神障害者を対象とすることはできない。

これは間違いです。

高齢者,知的障害者,精神障害者を対象としています。


4 「後見」を対象とし,「保佐」「補助」を対象とすることはできない。

これも間違いです。

後見だけではなく,保佐,補助も対象とします。


5 社会福祉法における第一種社会福祉事業と位置づけられている。

これも間違いです。

同事業は,第一種社会福祉事業ではなく,厚生労働省の事業です。


<今日の一言>

今は,表現をそろえて出題されるようになっていることは,何度かお伝えしてきました。

表現をそろえないと,そこがヒントになってしまうことがあるからです。

この問題の場合は,

1.できない。
2.できる。
3.できない。
4.できない。
5.位置づけられている。

となっています。

肯定表現と否定表現が混在しています。

この場合の傾向は,「できない」は正解になりなくいのです。

2018年12月22日土曜日

成年後見制度の徹底理解~その13(家庭裁判所の役割)

何度も出てきました家庭裁判所ですが,今回は家庭裁判所の役割について出題されたことが1回あるのでそれを通して,整理してみましょう。

それでは今日の問題です。

第28回・問題81 家庭裁判所の役割に関する記述として,正しいものを1つ選びなさい。

1 成年後見人に不正な行為,著しい不行跡などの事実がある場合,家庭裁判所は,職権で成年後見人を解任できる。

2 成年後見人の業務に疑義があることを理由に,家庭裁判所が直接,成年被後見人の財産状況を調査することはできない。

3 成年後見人は,正当な事由がある場合,家庭裁判所への届出をもって,その任務を辞することができる。

4 成年後見人が成年被後見人を養子にする場合,家庭裁判所の許可は不要である。

5 成年後見人が成年被後見人の居住用不動産を売却する場合,家庭裁判所の許可は不要である。


今まで紹介してきたものをしっかり押さえていれば答えはすぐ分かる問題かもしれませんね。

それでは解説です。


1 成年後見人に不正な行為,著しい不行跡などの事実がある場合,家庭裁判所は,職権で成年後見人を解任できる。

これが正解です。


<整理ポイント>

職権で選任しているのかどうか

成年後見人等は,職権で選任するので職権で解任することができます。
成年後見監督人等は,職権で選任するので職権で解任することができます。
任意後見人は,職権で選任していていないので,職権で解任することはできません
任意後見監督人は,職権で選任するので職権で解任することができます。

職権で選任していないのは,「任意後見人のみ」ということになります。

なお,不行跡(ふぎょうせき)とは,不道徳な行為を指します。日常的に目にする言葉ではないので,読み方さえ分からない人もいると思います。

しかし,こんなところに引っ掛けはありません。


2 成年後見人の業務に疑義があることを理由に,家庭裁判所が直接,成年被後見人の財産状況を調査することはできない。

これは間違いです。

問題の作成の仕方がとても雑に思います。なぜ試験センターが修正することなく,この問題を出題したのかが分かりません。

明らかに元の文章は・・・

成年後見人の業務に疑義があることを理由に,家庭裁判所が直接,成年被後見人の財産状況を調査することができる。

最後を否定形に変えて一丁あがり!!

第28回はこのスタイルが多かったように思います。第29回はあまり見られなくなっています。試験センターでも問題になったのではないかと思いますが,第30回ではまたとんでもなくダメダメ問題が出題されています。これについては,後日お知らせしたいと思います。

ダメダメ問題はそれほど多く出題されることはないと思いますが,そんなところに気がつくことができれば,消去できる可能性が高まります。そうすると正解できる可能性も高まります。

国家試験は緊張した中で,問題を解かなければならないので,普段は絶対にしないようなミスをすることはよくあります。

過去問を解く時は,文章の組み立て方も意識することをおすすめします。それは国試会場で慎重に問題を読むことの訓練になるからです。


3 成年後見人は,正当な事由がある場合,家庭裁判所への届出をもって,その任務を辞することができる。

これも間違いです。

今まで何度も出てきたように,やめるときは,正当な理由があって,家庭裁判所が許可した場合です。



4 成年後見人が成年被後見人を養子にする場合,家庭裁判所の許可は不要である。

これも間違いです。

もちろん許可は必要です。

制度がどうのこうのいう前に,許可は不要であれば,わざわざ出題する意味はないと思いませんか?

すべての選択肢の表現がそろっていて「許可は不要である」という問題なら判断することは難しいですが,表現にばらつきがあると想像できてしまうのです。

そのため,今は表現は極力そろえて出題するようになっています。

そのため,表現のばらつきのある問題は出題されないと思います。しかし,ばらつきのある問題があった場合は,ちょっと意識してみるとよいと思います。そんなところにヒントがあるのです。


5 成年後見人が成年被後見人の居住用不動産を売却する場合,家庭裁判所の許可は不要である。

これも間違いです。

第30回・問題82でも出題されていたとおり,成年被後見人の居住用不動産の売却は,家庭裁判所の許可が必要です。


<今日の一言>

今日の問題は難しいと思いましたか?

知識が足りない人は,難しいと思います。

知識がある人は,簡単だと思います。

簡単だと思った人は,かなりよい感じで仕上がってきていると思います。自信をもって良いと思います。今までの勉強を継続して良いと思います。

難しいと思った人は,まだちょっと知識が足りないように思います。

しかしまだ時間はあります。決してあきらめることなく,出題基準で示されているものをひたすら覚えていけば,合格をつかむことができます。

勉強をこれから始めるという人もいるかもしれません。

合格するためには相当な覚悟が必要です。必死で勉強すればまだ間に合います。

しかし,薄い参考書の知識では合格をつかむことができないので,参考書選びは慎重にしなければなりません。

これは,第32回以降の国試を受験する人も同様です。

このブログでは,「●●がおすすめ」という無責任なことは絶対に言いません。多くの人が使っているからおすすめということもありません。

別な見方をすれば,最も多くの人が使っている参考書が良くないため,合格率30%ということになっている,とも言えるのではないでしょうか。

「●●がおすすめ」と言えないのは,個別性が極めて高いからです。

その逆に絶対におすすめしない勉強法はあります。

今まで一貫して主張してきた「3年間の過去問の知識では絶対に合格できる知識にはならない」ということです。

なぜ今も「3年間の過去問を3回繰り返せば合格できる」といったアドバイスをする人がいて,それを真に受ける人がいるのかが理解できません。

日本語的に解ける問題はほとんど存在しないので,得点するためには,基礎力を高めることは欠かせないのです。

国試問題が変化しているわけですから,勉強方法も変化するのが当然です。

「何を使うか」ではなく,「どのように使うか」がとても重要です。

2018年12月21日金曜日

成年後見制度の徹底理解~その12(任意後見3)

今回が任意後見制度の最終回です。

今までのまとめとして,事例問題を紹介します。

それでは前説なしに,今日の問題です。

【23-73】 事例を読んで,次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事 例〕
 Jさん(63歳)は,仕事中に脳梗塞で倒れ,近くの救急病院に運ばれた。幸い意識を回復し,後遺症も残らなかったが,Jさんは後々のことも考えて,任意後見契約を締結することにした。

1 Jさんが任意後見契約を締結するには,公正証書の作成が必要である。

2 Jさんが任意後見契約を締結した後,判断能力を喪失した場合には,任意後見契約はその効力を失う。

3 Jさんの任意後見契約が登記された後,Jさんが判断能力を喪失した場合,Jさんの姉は,家庭裁判所に対し,任意後見監督人の選任を請求することはできない。

4 Jさんの任意後見契約が登記されている場合,家庭裁判所はJさんに対する後見開始の審判をすることはできない。

5 家庭裁判所は,Jさんの任意後見人に不正な行為があるとき,その職権で任意後見人を解任することができる。


任意後見制度をしっかり学んだ人にとって,この問題の難易度は低い問題かもしれません。

短文事例問題のスタイルを採用していますが,制度そのものの理解が求められるこのような問題は,制度を知らなければ解けません。

それでは解説です。


1 Jさんが任意後見契約を締結するには,公正証書の作成が必要である。

これが正解です。

任意後見契約の締結は,公正証書でなければなりません。任意後見制度の出題には,毎回公正証書にかかわるものが問われています。

覚える優先順位は一番ということになるでしょう。


2 Jさんが任意後見契約を締結した後,判断能力を喪失した場合には,任意後見契約はその効力を失う。

これは間違いです。

これは落ち着いて問題を読むことができれば,おかしなことを言っているのかが分かるでしょう。

判断能力を喪失した場合に契約の効力を失うのではあれば,何のための任意後見制度が分からなくなってしまいます。

判断能力を喪失した場合,家庭裁判所に請求し,任意後見監督人が選任されます。その時点で任意後見契約の効力が発生します。


3 Jさんの任意後見契約が登記された後,Jさんが判断能力を喪失した場合,Jさんの姉は,家庭裁判所に対し,任意後見監督人の選任を請求することはできない。

これも間違いです。

請求権者には,4親等以内の親族が含まれます。姉は2親等です。

親等の細かい知識は,国試では問われませんが,一応つけ足しておくと,親等の数え方は,以下のようになります。

本人と配偶者は0親等。親と子は1親等。ここまでは簡単です。
それよりも広い範囲の親族の場合は,一つ上に上がって,そして下がります。

具体的には,きょうだいの場合は,一つ上,つまり親(1親等)に上がって,下がるので2親等です。

おじ,おばの関係は,親(1親等)から一つ上,つまり祖父母(2親等)に上がって,下がるので,3親等です。扶養義務があるのはこの範囲です。

請求権者は,それよりも一つ広い4親等以内の親族に設定されています。

その理由は,3親等はおじ,おばの範囲なので,多くの場合本人よりも上の世代であり,亡くなっている可能性が高く,本人と同世代となるいとこの範囲である4親等に設定しているのです。

扶養義務 → 3親等以内
請求権者 → 4親等以内

整理しておきましょう。


4 Jさんの任意後見契約が登記されている場合,家庭裁判所はJさんに対する後見開始の審判をすることはできない。

これも間違いです。

これ自体はとても難しいものです。

しかし,勉強をしている人は選択肢1が明らかに正解だと分かるので,この選択肢が分からなくても国試では困らなかったはずです。

家庭裁判所は,任意後見よりも法定後見の方が適切だと判断した時は,後見開始の審判ができることになっています。

今の参考書では,このようなことも記載されていることでしょう。こうやって覚えるものが増えていきます。

しかし本当は国試はそんなに複雑なものではありません。5つの選択肢の相互関係が影響するので,すべての選択肢が分からなくても答えられるからです。

すべてを同じように覚えなければならないと思うかもしれませんが,実は決してそんなことはありません。

参考書には,覚える優先度が書かれていないのが残念なところです。ボリュームの多い参考書は特にこの点に注意が必要です。


5 家庭裁判所は,Jさんの任意後見人に不正な行為があるとき,その職権で任意後見人を解任することができる。

これも間違いです。

職権で解任できるのは,職権で選任したものだけです。


つまり,家庭裁判所が職権で解任できるのは,任意後見監督人,成年後見人等,成年後見監督人等になります。任意後見人が解任される場合は,本人や親族等からの請求があった場合です。


<今日の一言>

法制度は,適用がはっきりしているので,指定を取り消すことができるのは,指定した機関,解任することができるのは職権で選任した者です。

成年後見人の解任については次回紹介します。



<今日のおまけ>

国試で得点力を上げるには,あいまいな知識をたくさんつけるよりも,数は少なくても確実に知識を持った方がよいです。

国試が近づくととても不安になり,いろいろなものに手を出したくなると思います。

模擬試験を受けると,参考書に書かれていないものがあったりするとなおさらそう思ってしまうでしょう。

しかし,本当に必要な知識はそんなところにはありません。今まで勉強してきた範囲をしっかり押さえていくことこそが何よりも大切なのです。

2018年12月20日木曜日

成年後見制度の徹底理解~その11(任意後見2)

前回から任意後見制度を取り上げています。

任意後見制度が現行カリキュラムで出題されたのは,第23,26,30回の3回のみです。

前回取り上げた問題が第26回,今回取り上げる問題は第30回の国試です。

第26回はこんな問題でした。

1 任意後見契約は,事理弁識能力喪失後の一定の事務を委託する契約書が当事者間で作成されていれば効力を有する。
2 任意後見契約では,本人の事理弁識能力が不十分になれば,家庭裁判所が職権で任意後見監督人を選任する。
3 任意後見人と本人との利益が相反する場合,任意後見監督人があっても特別代理人を選任しなければならない。
4 任意後見人の配偶者は任意後見監督人になることができないが,兄弟姉妹は任意後見監督人になることができる。
5 任意後見監督人の選任後,任意後見人は,正当な理由がある場合,家庭裁判所の許可を得れば任意後見契約を解除できる。


それでは今日の問題です。

第30回・問題79 任意後見契約に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 任意後見契約は,任意後見契約の締結によって直ちに効力が生じる。

2 任意後見契約の締結は,法務局において行う必要がある。

3 任意後見契約の解除は,任意後見監督人の選任後も,公証人の認証を受けた書面によってできる。

4 任意後見人と本人との利益が相反する場合は,特別代理人を選任する必要がある。

5 任意後見人の配偶者であることは,任意後見監督人の欠格事由に該当する。


試験委員は,明らかに第26回・問題81を下敷きにして作成していることがうかがわれます。

第26回と重なっていない問題は,選択1のみです。

しかし,第30回国試が下敷きにしたと思われる第26回国試は,4回前のものなので,一般的に使っている過去3年分の問題では学びきれないものです。なかなか憎いですね。

それでは,解説です。


1 任意後見契約は,任意後見契約の締結によって直ちに効力が生じる。

これは間違いです。

任意後見制度の特徴は,任意後見監督人が選任された時点で効力を生じることです。

任意後見契約を締結は本人が元気な時に行うので,このようなスタイルが必要なのです。


2 任意後見契約の締結は,法務局において行う必要がある。

これも間違いです。

契約の締結は,公証人役場で公正証書によって行われる必要があります。これは毎回出題されているものです。

法務局は,後見契約を登記する場所です。法定後見,任意後見ともに共通です。


3 任意後見契約の解除は,任意後見監督人の選任後も,公証人の認証を受けた書面によってできる。

これも間違いです。

契約解除は,正当な理由があって,家庭裁判所の許可が必要です。そのうえで法務局の任意後見契約終了の登記をします。


4 任意後見人と本人との利益が相反する場合は,特別代理人を選任する必要がある。

これも間違いです。

法定後見制度では,成年後見監督人は必ずしも選任されていません。そのために法定後見制度では特別代理人の選任が必要です。

一方,任意後見制度では,必ず任意後見監督人が選任されます。任意後見監督人が本人側につくので,改めて特別代理人を選任する必要はありません。


5 任意後見人の配偶者であることは,任意後見監督人の欠格事由に該当する。 

これが正解です。

任意後見監督人になれないのは,後見人の配偶者,直系血族,兄弟姉妹です。

第26回が間違いで,第30回が正解になっています。

この問題自体の難易度はそれほど易しいものではありません。しかし第26回での出題実績があるので,欠格事由を正解選択肢にすることができたと考えます。


<今日の一言>

初めて出題したものを正解選択肢にすることはかなりの冒険です。極端に正解率が低下するからです。

本試験では,0点科目になると不合格になってしまいます。

模擬試験は,0点が続出したとしても別に不合格になるわけではありません。

本試験で科目0点の人が多いとおそらく試験センターでは大きな問題となります。場合によっては内定取り消しになるからです。

勉強不足の人が不合格になるのは致し方ないところです。

しかし,勉強をコツコツ行ってきた人でも解けない問題を出題したために,0点科目で不合格になってしまうのは極めて不適切な国試です。

しっかり勉強した人は解ける,勉強が不足している人は解けない。

これが理想の国家試験です


<おまけ>

現行カリキュラムは第22回から実施されています。

第22~25回 模索期
第26~30回 充実期
第31回~  転換期

第25回は,合格基準点が最も低くなった回です。

第30回は,合格基準点が最も高くなった回です。

第31回は,第30回と大きく変わることはないと思いますが,今後予定されているカリキュラム改正に向けた新しい段階に突入していくことは間違いありません。

5年後にどんな分析ができるのか,今から楽しみです。

2018年12月19日水曜日

成年後見制度の徹底理解~その10(任意後見)

今回から,成年後見制度のもう一つの制度である任意後見制度を取り上げます。

任意後見制度が現行カリキュラムで出題されたのは,

第23回,第26回,第30回

の3回のみです。

2回続けては出題されたことはないので,第31回に出題される可能性は低いと言えます。

しかし何が起きるか分からないので,やっぱり出題基準に沿って勉強すべきでしょう。

任意後見制度が今まで見てきた法定後見制度と大きく違うのは,本人が元気なうちに,任意後見契約を行うことです。

法定後見は,成年後見人等は家庭裁判所の職権で選任するので,本人が本当はいやだと思っている人も選任されることがあるかもしれません。

「わし(Aさん)が認知症になったら,●●さん(Bさん)に後見人になってもらいたいの~」と思っていても,法定後見では,その望みがかなえられるかどうか分かりません。AさんがBさんに後見人になってもらいたいと思ったら,任意後見制度を活用します。

ただし任意後見契約は,AさんとBさん間のの口約束,あるいは契約書ではだめで,必ず公正証書で行わなければなりません

Aさんの判断能力が低下した場合,Aさん本人,あるいはBさんを含めた請求権者により
家庭裁判所に請求します。家庭裁判所は任意後見監督人を選任します。任意後見監督人が選任された時点で,任意後見契約が有効になります。


それでは今日の問題です。

第26回・問題81 任意後見契約に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 任意後見契約は,事理弁識能力喪失後の一定の事務を委託する契約書が当事者間で作成されていれば効力を有する。

2 任意後見契約では,本人の事理弁識能力が不十分になれば,家庭裁判所が職権で任意後見監督人を選任する。

3 任意後見人と本人との利益が相反する場合,任意後見監督人があっても特別代理人を選任しなければならない。

4 任意後見人の配偶者は任意後見監督人になることができないが,兄弟姉妹は任意後見監督人になることができる。

5 任意後見監督人の選任後,任意後見人は,正当な理由がある場合,家庭裁判所の許可を得れば任意後見契約を解除できる。


この問題の難易度は中くらいでしょうか。

内容自体は知識がないと難しいものですが,日本語的に正解につながることができるからです。

1 任意後見契約は,事理弁識能力喪失後の一定の事務を委託する契約書が当事者間で作成されていれば効力を有する。

これは間違いです。

任意後見契約は,公正証書によってなされなければなりません。

任意後見制度が出題されたのは,第23・26・30回です。いずれの問題にも公正証書に関するものが出題されています。


2 任意後見契約では,本人の事理弁識能力が不十分になれば,家庭裁判所が職権で任意後見監督人を選任する。

これも間違いです。

法定後見と同様です。家庭裁判所は国民の見張り番ではありません。請求がなければ本人の判断能力(事理弁識能力)が低下したのかどうか家庭裁判所は分かりません。

請求があって,家庭裁判所が動き出せるのです。


3 任意後見人と本人との利益が相反する場合,任意後見監督人があっても特別代理人を選任しなければならない。

これも間違いです。

任意後見制度には,成年後見のような特別代理人の制度はありません。なぜなら,成年後見の場合は,必要がある場合にしか成年後見監督人が選任されないので,利益相反するケースには特別代理人の選任を行う必要があります。

しかし,任意後見制度は必ず任意後見監督人が選任されているので,改めて特別代理人を選任する必要がありません。


4 任意後見人の配偶者は任意後見監督人になることができないが,兄弟姉妹は任意後見監督人になることができる。

これも間違いです。この言い回しの文章はほとんど正解になることはありません。そのため内容が分からなくても,この選択肢は消去できることでしょう。任意後見監督人には,任意後見人の配偶者,兄弟姉妹ともになることはできません。


5 任意後見監督人の選任後,任意後見人は,正当な理由がある場合,家庭裁判所の許可を得れば任意後見契約を解除できる。

これが正解です。

「どうしたら後見人等を辞することができるのか」については,法定後見でも出題されています。どちらも,正当な理由があって家庭裁判所が許可することが必要です。


<今日の一言>

実は,この問題で,初めて「任意後見監督人になれない人」が問われました。

旧カリ時代も含めて,ここまで出題されていません。

この選択肢は,日本語的に間違い選択肢になるパターンなので,×をつけるのはそれほど難しくはないでしょう。

以下のように出題すれば,途端に難しくなります。

任意後見人の配偶者は任意後見監督人になることはできない。

日本語的に判断する隙がありません。

試験センターは,特定の科目で0点を取ってしまう受験者が続出することを恐れています。

そのため,どこかにヒントが入った問題が出題されます。試験委員がそこを意識して出題しているかどうかは分かりませんが,試験センターが蓄積している膨大なデータから難易度を予測して出題していることは想像するに難くありません。

この辺りのことは,次回解説します。

2018年12月18日火曜日

成年後見制度の徹底理解~その9(補助)

今更ながらですが,社会福祉士の国家試験の科目は19科目あります。

出題は,例年150問です。

第3回の国家試験は170問もありました。第1・2回の国試は公表されていませんが,第3回が170問ということは,第1・2回もおそらく170問だったと思われます。

第4~30回は,150問出題されています。

さて,科目ごとに見ると出題数が違います。

<10問科目>
・現代社会と福祉
・地域福祉の理論と方法
・高齢者に対する支援と介護保険制度

<7問科目>
・人体の構造と機能及び疾病
・心理学理論と心理的支援
・社会理論と社会システム
・福祉行財政と福祉計画
・社会保障
・障害者に対する支援と障害者自立支援制度
・低所得者に対する支援と生活保護制度
・保健医療サービス
・権利擁護と成年後見制度
・社会調査の基礎
・相談援助の基盤と専門職
・福祉サービスの組織と経営
・児童と家庭に対する支援と児童・家庭福祉制度

<21問科目>
・相談援助の理論と方法

<4問科目> ※2科目で1群
・就労支援サービス
・更生保護制度


このように分類されます。

第21回以前の国試(つまり旧カリキュラム)では,13科目のうち,相談援助2科目に当たる「社会福祉援助技術」が30問,それ以外は10問ずつの点数配分となっていました。

10問と7問科目では,出題傾向に大きな違いがあります。

国試の出題範囲は広いので,たくさんのことを出題しなければなりません。7問科目はそれほど余裕がないので,細かい出題はできません。逆に言うと,10問科目は余裕があります。

今取り組んでいる「権利擁護と成年後見制度」は,旧カリ時代の法学に変わって現行カリキュラムで登場した科目です。

この科目は出題に余裕のない7問科目です。

法が成立したばかりのもの,まだ施行されていない制度は,ほとんど出題されません。

第30回には,先日紹介した2016年改正民法が出題されていましたが,法改正の内容を知らなくても解ける問題でした。

この時期になると,

新しい制度も覚えなければならない
模試に出ていた報告書も覚えなければならない

などなど心配になることが多いと思います。

しかし

参考書に書いていないことはほとんど無視して良いです。
出るか出ないか分からないものに時間をかけるよりも,基礎をしっかり押さえることが大切です。

基礎を繰り返し繰り返し勉強していけば,必ず問題は解けるようになります。

ただし3年間の過去問だけでは知識量が足りないことは今まで主張してきたとおりです。
特に7問科目は3年分でも21問しかありません。それだけの知識で合格できるような試験ではないことは間違いないです。

前置きが長くなりました。

現在取り組んでいる科目は「権利擁護と成年後見制度」です。科目名に「成年後見制度」とついているとおり,この科目の中心は,成年後見制度です。とはいうものの7問科目なので成年後見制度が出題されるのは,2~3問にすぎません。そのために出題できることはとても限定されます。

基礎を覚えていけば実力が上がりますが,3年間の過去問では足りないのです。

ここで皆さんを混乱させることを言います。

国試は,4年前のところから出題されることが多い傾向があります。

第28回 → 第24回
第29回 → 第25回
第30回 → 第26回
第31回 → 第27回

といったパターンです。昨年は第26回を使って解説しました。

しかし,これは他の回と比べると4回前の回が多いということだけで,それを完璧にやっても数点分です。

4回前というのが実に悩ましいのは,多くの人が手にする過去問は直近3年分なので,4年前の問題は目にする人が少ないことです。

だからといって,今更手に入れる必要は一切ありません。
今持っているものをひたすら繰り返し行うことが大切です。

それでは今日の問題です。

第27回・問題80 法定後見における補助に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 補助開始の審判には,本人の同意は必要とされない。

2 補助の開始には,精神の状況につき鑑定が必要とされている。

3 被補助人は社会福祉士になることができない。

4 補助監督人がいない場合で利益相反するときには,補助人は臨時補助人の選任を請求しなければならない。

5 複数の補助人がいる場合,補助人は共同して同意権を行使しなければならない。


現行カリキュラムは第22回から実施されていますが,補助が単独で出題されたのは,この問題のみです。

冒頭で長々と述べたのは,第31回国試にとって,第27回国試は重要なものなので,そこから考えると「補助」は特にしっかり覚えてほしいからです。

ヤマを張ったところで1点は1点ですが,傾向を考えた場合は,やっぱりしっかりと押さえておきたいです。

補助は,成年後見と保佐とちょっと違うところがあります。

それでは解説です。


1 補助開始の審判には,本人の同意は必要とされない。

これは間違いです。

前回紹介したように,開始の審判に際して,本人の同意が必要なのは補助のみです。成年後見と保佐は,本人の同意は必要とされません。


2 補助の開始には,精神の状況につき鑑定が必要とされている。

これも間違いです。

精神状況の鑑定は,補助の開始には必要とされません。成年後見と保佐は原則として必要です。


3 被補助人は社会福祉士になることができない。

これも間違いです。

国家資格には,欠格条項があるものが多いです。

社会福祉士の場合は,成年被後見人と被保佐人が欠格条項となります。


4 補助監督人がいない場合で利益相反するときには,補助人は臨時補助人の選任を請求しなければならない。

これが正解です。

利益相反する場合

成年後見 → 特別代理人の選任
保佐 → 臨時保佐人の選任
補助 → 臨時補助人の選任

「特別」と「臨時」はどのような使い分けをしているのか分かりませんが,特別の方が難しい問題を取り扱う感じがします。


5 複数の補助人がいる場合,補助人は共同して同意権を行使しなければならない。

これは間違いです。

成年後見人,保佐人,補助人ともに複数選任することができます。複数選任される場合は,役割分担することが多いようです。


<今日の一言>

今日の問題は第27回で,前回の問題は第29回のものです。

前回の問題は,難易度が極めて高いものでした。なぜそんなに難しく複雑な問題の出題することができたかというと,実は今日の問題が下敷きにあったからだと考えています。

国家試験の出題形式は固定されているものではありません。

そのため新しい出題形式の問題を見るとびっくりするでしょう。

しかし,出題形式が違うだけで,必ずその中でも突破口はあります。

びっくりさせることでふるいにかけているのです。

このブログ読者はそんなこけおどしに負けないでほしいと思います。

チームfukufuku21がびっくりした近年の国試問題を紹介します。選ぶものは,正しいものでも間違っているものでもありません。

第27回・問題23 社会的リスクに関する次の記述のうち,「ベヴァリッジ報告」で想定されていなかったものを1 つ選びなさい。
1 疾病により労働者の収入が途絶えるおそれ
2 勤務先の倒産や解雇により生計の維持が困難になるおそれ
3 老齢による退職のために,稼働収入が途絶えるおそれ
4 保育や介護の社会化が不充分なため,仕事と家庭の両立が困難になるおそれ
5 稼得者の退職や死亡により被扶養者の生活が困窮するおそれ

実に,旧カリ時代の「社会福祉原論」ではなく,現行カリキュラムの「現代社会と福祉」らしい問題です。というのは,過去と現在をつなげる問題だと思うからです。

歴史は昔の出来事としかとらえていない人は,ここでふるいにかけられます。
過去は歴史の出来事ではなく,現代を知るヒントであることを覚えておきましょう。


この問題は,国試史上1・2を争うくらいのエクセレントな問題だと思います。
間違った内容やでたらめな内容を書かずに問題を成立させています。

因みに答えは4。現代の社会構造が1940年代とどのように変化しているのか,受験生は想像力・発想力を発揮して考えなければなりません。

この後に出版される参考書などでは,この問題を前提にした内容が加わります。しかしそれを学んだところで,おそらく同じ問題は出題されないと思います。

受験生の想像力・発想力を高めることを意図して出題しているので,同じものを出題する意義がないからです。

2018年12月17日月曜日

成年後見制度の徹底理解~その8(保佐&補助)

前回のまとめをもう一度確認しましょう。少し説明を加えています。

<共通点>
・日用品の購入その他日常生活に関する法律行為,身分行為(婚姻など)は,取り消すことができない。
・審判開始の請求を行うことで,家庭裁判所が職権で成年後見人等の選任を行う。
・審判開始の請求権者は,本人,配偶者,四親等以内の親族,検察官,等。
・複数の成年後見人等を選任することができる。
・法人を成年後見人等に選任することができる。


<相違点>

【付与される権限】
・成年後見人 → 代理権・取消権 ※同意権が付与されないのは,同意する必要がないから。
・保佐人 → 同意権・取消権 ※代理権の付与は家庭裁判所の審判によって行う。
・補助人 → 補助人の権限は,補助開始の審判で自動的に付与されない。付与の審判を行うことで付与される。

【同意】
・補助開始の請求を本人以外が行なった場合,本人の同意を必要とする。※成年後見,保佐は本人の同意は必要とされない。

【成年後見人等と成年被後見人の利益が相反する場合】
・成年後見 → 特別代理人の選任
・保佐(補助) → 臨時保佐人(臨時補助人)の選任

※いずれも成年後見監督人等が選任されていない場合。

【精神状況の鑑定】
・成年後見・保佐 → 必要(ただし原則)
・補助 → 必要なし


これらを整理したところで,今日の問題です。


第29回・問題81 保佐及び補助に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 保佐及び補助における判断能力の判定に際して,いずれも原則として医師等の専門家による鑑定が必要である。

2 保佐開始及び補助開始の申立てにおいては,いずれの場合も本人の同意が必要である。

3 保佐開始又は補助開始後,保佐人又は補助人はいずれも被保佐人又は被補助人がした日用品の購入など日常生活に関する行為の取消しを行うことができる。

4 保佐開始後,被保佐人が保佐人の同意を得ずに高額の借金をした場合,被保佐人及び保佐人いずれからも取り消すことができる。

5 補助人に同意権を付与するには,被補助人の同意は不要である。


分かるものと分からないものがあるでしょう。

この問題の難易度はかなり高いです。

午前中の最後の科目で,疲れ切っているところであり,そして思考を巡らせなければならないからです。

保佐と補助をミックスしているので,一つひとつを考えてみなければ解けません。

それでは解説です。

1 保佐及び補助における判断能力の判定に際して,いずれも原則として医師等の専門家による鑑定が必要である。

これは間違いです。

原則として鑑定が必要なのは成年後見と保佐です。補助は鑑定を必要とされません。成年後見と保佐も原則(原理は例外のないルール。原則は例外のあるルール)なので,鑑定にはお金がかかることもあり,近年では鑑定を必要としないことが多くなっています。


2 保佐開始及び補助開始の申立てにおいては,いずれの場合も本人の同意が必要である。

これも間違いです。

補助の特徴は,本人以外が補助開始の審判の請求を行った場合は,本人の同意が必要なことです。成年後見と保佐は本人の同意を必要としません。


3 保佐開始又は補助開始後,保佐人又は補助人はいずれも被保佐人又は被補助人がした日用品の購入など日常生活に関する行為の取消しを行うことができる。

これも間違いです。

というか,これを間違う人はかなりの勉強不足の人だと言えます。必ず×をつけてほしいです。

「日用品の購入など日常生活に関する法律行為」は,成年後見人,保佐人,補助人いずれも取り消すことができません。

→ 前回の「重要ポイント②」のまたまたの出題です。


4 保佐開始後,被保佐人が保佐人の同意を得ずに高額の借金をした場合,被保佐人及び保佐人いずれからも取り消すことができる。

これが正解です。

保佐人には,同意権・取消権が自動的に付与されるので,取り消すことができます。

保佐は成年後見と違い,同意が必要な法律行為は限定されていますが,「借財及び保証」は同意が必要なものとされています。


5 補助人に同意権を付与するには,被補助人の同意は不要である。

これは間違いです。

補助人に家庭裁判所が権限付与の審判を行うには,同意権,取消権,代理権,いずれも本人の同意を必要とします。

権限付与の審判を行う際に,本人の同意が必要なのは,ほかに,保佐人に対する代理権の付与があります。

そのほかには本人の同意が必要なものはありません。


<今日の一言>

理解しにくいものは,表にまとめてみるととても分かりやすいです。

そんなに複雑ではなく表が作れるので,参考書のすき間に書いてみるのもおすすめです。

確実な理解ができると思います。

2018年12月16日日曜日

成年後見制度の徹底理解~その7(保佐2)

法定後見には,成年後見,保佐,補助の類型があります。

それぞれ共通点と相違点があります。


<共通点>
・日用品の購入その他日常生活に関する法律行為,身分行為(婚姻など)は,取り消すことができない。
・審判開始の請求を行うことで,家庭裁判所が職権で成年後見人等の選任を行う。
・審判開始の請求権者は,本人,配偶者,四親等以内の親族,検察官,等。
・複数の成年後見人等を選任することができる。
・法人を成年後見人等に選任することができる。


<相違点>

【付与される権限】
・成年後見人 → 代理権・取消権 ※同意権が付与されないのは,同意する必要がないから。
・保佐人 → 同意権・取消権 ※代理権の付与は家庭裁判所の審判によって行う。
・補助人 → 補助人の権限は,補助開始の審判で自動的に付与されない。付与の審判を行うことで付与される。

【同意】
・補助開始の請求を本人以外が行なった場合,本人の同意を必要とする。※成年後見,保佐は本人の同意は必要とされない。

【成年後見人等と成年被後見人の利益が相反する場合】
・成年後見 → 特別代理人の選任
・保佐(補助) → 臨時保佐人(臨時補助人)の選任

【精神状況の鑑定】
・成年後見・保佐 → 必要
・補助 → 必要なし

これらを整理したところで,今日の問題です。


第28回・問題78 法定後見における保佐に関する次の記述のうち正しいものを1つ選びなさい。

1 保佐開始の審判を本人が申し立てることはできない。

2 保佐人に対して,同意権と取消権とが同時に付与されることはない。

3 保佐人が2人以上選任されることはない。

4 法人が保佐人として選任されることはない。

5 保佐人が日常生活に関する法律行為を取り消すことはできない。

整理したものを頭に入れておけばそれほど難しくはないでしょう。

しかし,知識ゼロの人は正解するのは難しいです。

なぜなら,現在の出題スタイルであるすべての選択肢の表現がそろっているから

このスタイルの問題は,勘が良いだけでは正解できないので,問題の難易度は何倍にもなります。

逆に表現のばらつきや各選択肢の長さにばらつきがあると,答えが推測しやすくなってしまうのです。試験センターはそこに気がついたみたいです。

勉強不足の人には過酷です。しかし文字数が少なくなっていることで,勉強をコツコツ積み重ねてきた人は,文章の言い回しの難解さに振り回されることなく,正解しやすくなっています。これが本来の国試の姿です。


それでは解説です。

1 保佐開始の審判を本人が申し立てることはできない。

これは間違いです。

本人も請求権者です。


2 保佐人に対して,同意権と取消権とが同時に付与されることはない。

これも間違いです。

同意権と取消権は,セットで付与されます。セットでなければならない理由があります。

被保佐人は保佐人の同意がなければ法律行為を行うことができません。同意なしに法律行為を行った場合はそれを取り消すことができます。そのためにセットなのです。

<重要ポイント①>
保佐人には,同意権と取消権はセットで付与される。


3 保佐人が2人以上選任されることはない。

これも間違いです。

複数の保佐人を選任することができます。


4 法人が保佐人として選任されることはない。

これも間違いです。

法人を保佐人として選任することができます。


5 保佐人が日常生活に関する法律行為を取り消すことはできない。

これが正解です。

「日常生活に関する法律行為」と目先を変えていますが,「日用品の購入その他日常生活に関する法律行為」は取り消すことができません

<重要ポイント②>
「日用品の購入その他日常生活に関する法律行為」は取り消すことができない。



<今日の一言>

重要ポイント①について

保佐人に同意権と取消権がセットで付与される理由を復習しておきましょう。ぼやっと覚えていると,このセットが分からなくなります。理由さえ分かっていると絶対に忘れることはありません。


重要ポイント②について

旧制度である「禁治産制度(現在の成年後見に当たる)」「準禁治産制度(現在の保佐に当たる)」は,どちらかというと,法律行為を制限することが主眼の制度でした。

現在の成年後見制度は,権利擁護を目的としたものです。

そのため,「日用品の購入その他日常生活に関する法律行為」は大きな金額ではないので,権利擁護の視点から取り消すことができないのです。

何度も繰り返してこの部分が出題されているのは,「権利擁護と成年後見制度」という科目にふさわしいからに他なりません。

2018年12月15日土曜日

成年後見制度の徹底理解~その6(保佐1)

今回は,「保佐」を取り上げます。

保佐人には,「同意権」と「取消権」がセットで付与されます。

代理権は,被保佐人の同意があって,家庭裁判所の審判で付与されます。

日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消すことができない点は,成年後見人と同じです。

「同意権」と「取消権」がセットなのは,同意しないで行った法律行為は,取り消すことができるからです。同意権と取消権はセットだということをしっかり覚えておきましょう。


それでは今日の問題です。

第25回・問題80 保佐人の権限及び職務に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 家庭裁判所は,必要があると認めるときは,被保佐人,その親族若しくは保佐人の請求により又は職権で保佐監督人を選任することができる。

2 保佐人と被保佐人との利益が相反する行為については,保佐人は特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。

3 被保佐人は,日用品の購入その他日常生活に関する行為につき,保佐人の同意を要する。

4 保佐人は,保佐の事務を行うに当たっては,被保佐人の心身の状態及び生活の状況の悪化が予想されても,被保佐人の意思を尊重しなければならない。

5 家庭裁判所は,職権で被保佐人のために特定の行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。


勉強不足の人は,かなり難しい問題です。日本語的に解けるのは,選択肢4でしょう。

それでも1つだけでも消去できれば,1つも消去しないよりも,正解できる確率が高まります。あきらめないことが大切です。


それでは,解説です。


1 家庭裁判所は,必要があると認めるときは,被保佐人,その親族若しくは保佐人の請求により又は職権で保佐監督人を選任することができる。

これが正解です。

保佐監督人というのはあまり聞いたことがないかもしれませんが,被保佐人の財産が多額な場合など必要に応じて家庭裁判所の職権で選任選任されるものです。これは成年後見監督人,補助監督人も同様です。


2 保佐人と被保佐人との利益が相反する行為については,保佐人は特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。

これは間違いです。

さすがは「魔の25回」国試の問題です。ものすごく難しいです。

保佐人と被保佐人との利益が相反する行為の場合は,特別代理人ではなく,臨時保佐人の選任を請求しなければなりません。特別代理人は,成年後見人と成年被後見人との利益が相反する行為の場合です。

利益が相反する場合とは,例えば成年被後見人の所有する物件を成年後見人が購入する場合です。

成年被後見人は高く売りたい
成年後見人は安く購入したい

そのために利益相反します。この場合に,特別代理人の選任を請求しなければなりません。

ただし,成年後見監督人が選任されている場合は,新たに特別代理人を選任する必要はありません。


利益相反する場合

成年後見人 vs 成年被後見人 → 特別代理人の選任
保佐人 vs 被保佐人 → 臨時保佐人の選任
補助人 vs 被補助人 → 臨時保佐人の選任

ついでに紹介すると,

子 vs 親権者 → 特別代理人の選任

というのもあります。

さらにいえば・・・

任意後見制度には,特別代理人,あるいは臨時●●人といったものは存在しません。


3 被保佐人は,日用品の購入その他日常生活に関する行為につき,保佐人の同意を要する。

これも間違いです。

日用品の購入その他日常生活に関する行為は,保佐人の同意は必要ありません。また保佐人は取り消すことができません。


4 保佐人は,保佐の事務を行うに当たっては,被保佐人の心身の状態及び生活の状況の悪化が予想されても,被保佐人の意思を尊重しなければならない。

これも間違いです。

被保佐人の意思の尊重は重要です。だからといって被保佐人の心身状態等の悪化が予測される場合でも最優先されるものではありません。ソーシャルワークも同様ですが,最優先されるのは生命の安全です。


5 家庭裁判所は,職権で被保佐人のために特定の行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。

これも間違いです。

代理権は自動的に付与されないので,家庭裁判所の審判が必要です。

しかし,職権ではなく,本人などの請求がなければなりません。

前回紹介したように,家庭裁判所は国民の見張り番ではありません。請求が最初になければ家庭裁判所は動きだせないのです。


<今日のまとめ>

日用品の購入その他日常生活に関する法律行為は,成年後見人等の同意を得る必要もありませんし,成年後見人等が取消すこともできません。

成年後見監督人が選任されていない状況で,成年後見人と成年被後見人の利益が相反する場合には,家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければなりません。

任意後見制度には,特別代理人,あるいは臨時●●人といったものは存在しません。その理由は,法定後見と違って,任意後見では必ず任意後見監督人が選任されるからです。理利益相反の場合は,任意後見監督人が本人側となります。



2018年12月14日金曜日

成年後見制度の徹底理解~その5

成年後見制度は,請求権者(「本人」「配偶者」「四親等以内の親族」「検察官」等)の請求によって,家庭裁判所が後見人等を職権で選任することで開始します。

ここで混同しないように覚えてほしいのは

職権

職権は,文字通り,その職に対して与えられている権利です。

成年後見制度では,成年後見人等や成年後見監督人の選任は,家庭裁判所の職権で行われます。

成年後見等の開始の審判は,請求権者の請求があって行われます。

後見人等の選任 → 家庭裁判所の職権
成年後見等の開始の審判 → 請求権者の請求

何度も間違い選択肢として出題されるのは,これをクロスした

成年後見等の開始の審判は,家庭裁判所の職権で行う。

知識のない人は正解にしそうですが,よくよく考えてみるとこれは制度的にはあり得ないことなのです。なぜなら,家庭裁判所は日本国民1億2千万人全員の判断の能力を把握していなければならないからです。

そんなことはあるはずがないです。無理です。

そのため,請求権者の請求が必要なのです。請求権者の請求があって初めて,家庭裁判所は動き始めることができます。

家庭裁判所が成年後見人等の選任を職権で行うとは,請求権者が後見人等の希望を出しても出さなくても,家庭裁判所が後見人等にふさわしい人を選ぶことを指しています。

被後見人の財産が多額であったなどの場合には,さらに成年後見監督人等を職権で選任することもあります。

ついでに言えば,職権で選任した者は職権で解任することができます。つまり請求権者の請求がなくても,家庭裁判所はその人物が不適切だと考えた場合は解任することができるということです。

それでは今日の問題です。過去に一度紹介したものですが,今一度考えてみましょう。


第26回・問題80 成年後見制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者については,家庭裁判所は,職権で補助開始の審判をすることができる。

2 成年被後見人のなした日常生活に関する法律行為については,成年後見人が取り消すことができる。 

3 家庭裁判所は,成年後見開始の審判をするときは,職権で成年後見人を選任し,保佐人及び補助人についても同様に職権で選任する。

4 成年後見人は,いつでも家庭裁判所に届け出ることによって,その任務を辞することができる。

5 家庭裁判所は,破産者を成年後見人に選任することはできないが,未成年者を成年後見人に選任することはできる。


成年後見人には,被後見人がなした法律行為を取り消すことができる「取消権」が付与されています。

ただし,被後見人の結婚などの「身分行為」と「日用品の購入その他日常生活に関する行為」は取り消すことができません。

日用品の購入その他日常生活に関する行為を取り消すことができないのは,大した金額てもないので,そのくらいは認めましょう,という観点からです。これは保佐人,補助人も同様です。

繰り返し出題されているので,必ず覚えておかなければなりません。

それでは解説です。

1 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者については,家庭裁判所は,職権で補助開始の審判をすることができる。

これは間違いです。

前説の通り,家庭裁判所が職権で行うのは,補助人を含めた成年後見人等の選任です。

補助開始の審判は,請求権者の請求によって行います。


2 成年被後見人のなした日常生活に関する法律行為については,成年後見人が取り消すことができる。

これも間違いです。

日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消すことができません。


3 家庭裁判所は,成年後見開始の審判をするときは,職権で成年後見人を選任し,保佐人及び補助人についても同様に職権で選任する。

これが正解です。

成年後見人等の選任は,家庭裁判所の職権で行います。


4 成年後見人は,いつでも家庭裁判所に届け出ることによって,その任務を辞することができる。

これは間違いです。

「いつでも」ということがあるので,正解にはなりにくいですが,正当な理由があって,家庭裁判所の許可があって辞任することができます。

職権で選任しているのですから,勝手にやめることはできないのです。


5 家庭裁判所は,破産者を成年後見人に選任することはできないが,未成年者を成年後見人に選任することはできる。

これも間違いです。

成年後見人に選任できない者には,未成年者も含まれます。未成年者自身が保護者の保護下にあります。未成年が成年後見になれるわけがありません。


<今日の一言>

家庭裁判所が職権で行うのは,成年後見人等の選任です。

成年後見等の開始の審判は,請求権者の請求によって行われます。

整理しておきましょう。

2018年12月13日木曜日

成年後見制度の徹底理解~その4

成年後見制度は,2000年の民法改正で,禁治産・準禁治産制度に変わって誕生したものです。

禁治産は後見,準禁治産は保佐,となり,補助はその時に新しく加わったものです。

禁治産者・準禁治産者になると,戸籍に記載されていました。現在は,戸籍ではなく,法務局に登記されます。

被後見人等になっている,あるいはなっていないことを証明するためには,法務局に成年後見登記事項証明書,あるいは「登記されていないことの証明書」(ないこと証明)を交付してもらいます。

普段はあまり意識することはありませんが,就職の際に,ないこと証明の提出を求められることもあるようです。覚えていて損はありません。

それでは,今日の問題です。

第29回・問題82 次のうち,成年後見登記事項証明書の交付事務を取り扱う組織として,正しいものを1つ選びなさい。

1 法務局

2 家庭裁判所

3 都道府県

4 市町村

5 日本司法支援センター(法テラス)


答えはすぐ分かりますね。1の法務局です。


<今日の一言>

今日の問題は,勉強している人は解けますが,勉強不足の人は解けません。

文章の言い回しで判断できないような問題は,勉強している人も間違う可能性があります。

しかし,このようなスタイルの出題は,そんなミスはほとんど起きません。

そういった点で,今の国試は勉強をしっかりしてきた人は報われるものとなっているのです。

試験が近づいてくると苦しくなって来ますが,今までの自分の努力を肯定して,前を向いて突き進んでいきましょう!!

2018年12月12日水曜日

成年後見制度の徹底理解~その3

最近の国試問題は,日本語的には解けない

勘の良さで解けるものは国試問題にふさわしくない!!

これがチームfukufuku21の結論です。

それでは今日の問題です。

第30回・問題82 次のうち,民法上,許可の取得などの家庭裁判所に対する特別な手続を必要とせずに,成年後見人が単独でできる行為として,正しいものを1つ選びなさい

1 成年被後見人宛ての信書等の郵便物の転送

2 成年被後見人が相続人である遺産相続の放棄

3 成年被後見人の遺体の火葬に関する契約の締結

4 成年被後見人の居住用不動産の売却

5 成年被後見人のための特別代理人の選任

日本語の言い回しで正解できない問題です。
厳しいですね。知識だけが頼りとなります。

2016年民法改正を踏まえた出題になっています。

しかしそんなところが正解選択肢になることはめったにありません。良いセンスの問題だと思います。

それでは解説です。


1 成年被後見人宛ての信書等の郵便物の転送

これは間違いです。

2016年改正で加わったもので,家庭裁判所の許可があれば,信書の転送が認められるようになりました。


2 成年被後見人が相続人である遺産相続の放棄

これが正解です。

財産管理は後見人の本来業務です。


3 成年被後見人の遺体の火葬に関する契約の締結

これは間違いです。

これも2016年改正で加わったものです。

ネットで検索すると分かりますが,以前はこれが結構問題となっていたものなのです。
というのは,後見人は被後見人死亡によって後見人ではなくなるので,死後の事務は後見人は行えなかったのです。そのためにこの規定が加わって,家庭裁判所の許可があれば死後事務も行えるようになったのです。ただし葬式の契約は行うことはできません。

4 成年被後見人の居住用不動産の売却

これは間違いです。

過去にも出題されたように,居住用不動産の売却は家庭裁判所の許可が必要です。


5 成年被後見人のための特別代理人の選任

これも間違いです。

特別代理人とは,後見人と被後見人の利益が相反する場合,後見監督人が選任されていない時に,家庭裁判所に請求を行うことで選任されます。


<今日の一言>

2016年の法改正は,今後も出題されるでしょう。

センスの良い問題だと書いたのは,制度改正で新しく加わったものを正しい文章で出題しながら,設問によって間違いになっていることです。

内容に誤りはないのに正解ではないという問題は,なかなか作れるものではありません。

この作問センスによって,初めて出題したものを正解選択肢にすることなく,正しい文章として出題できたのです。

次に出題される時は必ず正解選択肢となるはずです。

・成年被後見人宛ての信書等の郵便物の転送
・成年被後見人の遺体の火葬に関する契約の締結

ただし,これらは後見人だけに認められるもので,保佐人,補助人には認められていません。

<おまけ>

一般センスで今日の問題をリメイクしてみると・・・

2016年の民法改正によって,許可の取得などの家庭裁判所に対する特別な手続で行うこと成年後見人ができるようになった行為に関する次の記述のうち,正しいものを2つ選びなさい。
1 成年被後見人宛ての信書等の郵便物の転送
2 成年被後見人が相続人である遺産相続の放棄
3 成年被後見人の遺体の火葬に関する契約の締結
4 成年被後見人の居住用不動産の売却
5 成年被後見人のための特別代理人の選任

正解は,1と3です。同じ内容でありながら,新しい制度改正を正解にする問題なので,正解できる人はかなり減ることでしょう。

2018年12月11日火曜日

成年後見制度の徹底理解~その2

成年後見制度には,法定後見制度と任意後見制度,そして未成年後見制度があります。

後見人には,「善良なる管理者としての注意義務(善管注意義務)」があります。

義務には

自己の財産におけるのと同一の注意の義務(自己同一注意義務)
善良なる管理者としての注意義務(善管注意義務)

がありますが,善管注意義務の方が重い責任を負っています。

自己同一注意義務は,「ごめんごめん」で済まされる程度の責任ですが,善管注意義務はそれでは済まされません。場合によっては損害賠償請求の対象にもなります。

同居の親族が後見人になったとしても善管注意義務を負うことになります。

それでは今日の問題です。

第24回・問題74 後見人の責務に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 成年後見人は,被後見人の身上に関する事務を遂行するに当たっては,被後見人本人の意思を尊重する義務は負わない。

2 成年後見人は,不適切な事務遂行行為によって第三者に損害を与えた場合,被後見人に事理弁識能力があるときには,その第三者に対して損害賠償責任を負わない。

3 未成年後見人は,被後見人に対する事務を遂行するに当たっては,善良な管理者としての注意義務を負う。

4 成年後見人は,財産のない被後見人に対する事務を遂行するに当たっては,善良な管理者としての注意義務は負わない。

5 未成年後見人は,被後見人たる児童が同居の親族に該当する場合,未成年後見人が被後見人の財産を横領したとしても刑を免除する親族間の特例が適用される。

このような問題は今はほとんど存在しません。日本語的に解けてしまうからです。

間違い選択肢をそれっぽく作るというのはとても難しいことです。

それでは解説です。


1 成年後見人は,被後見人の身上に関する事務を遂行するに当たっては,被後見人本人の意思を尊重する義務は負わない。

これは間違いです。

成年後見人は財産管理と身上監護を行います。

そのうち,身上監護とは,生活や医療・介護などに関する法律行為です。本人の意思を尊重しないのであれば,何のための後見人なのかわからなくなってしまいます。もちろん本人の権利擁護が目的です。


2 成年後見人は,不適切な事務遂行行為によって第三者に損害を与えた場合,被後見人に事理弁識能力があるときには,その第三者に対して損害賠償責任を負わない。

これも間違いです。

問題文は「今は判断する能力(事理弁識能力)があるから,後見人は事務を遂行しなくて良いですよ」という意味です。だれがそのジャッジをするのでしょうか。無理です。無理なことを法が定めるわけがありません。

被後見人は「精神上の障害により判断能力を欠く常況にある者」です。いつも判断能力がないということではありません。

一時的に判断能力が回復したとしても,後見人の事務が変わるわけではありません。


3 未成年後見人は,被後見人に対する事務を遂行するに当たっては,善良な管理者としての注意義務を負う。

これが正解です。後見人には,自己同一注意義務よりも重い善管注意義務が課せられます。


4 成年後見人は,財産のない被後見人に対する事務を遂行するに当たっては,善良な管理者としての注意義務は負わない。

これも間違いです。

被後見人に財産がなくても後見人には善管注意義務があります。


5 未成年後見人は,被後見人たる児童が同居の親族に該当する場合,未成年後見人が被後見人の財産を横領したとしても刑を免除する親族間の特例が適用される。

これも間違いです。

前説のように,後見人になれば,同居の親族ではなく,後見人としての責務を負います。
親族間の特例とは,本人が訴えなければ,立件されないということを言います。


<今日の一言>

このような問題は今はないと書きました。

「このような問題」とは,「否定」と「肯定」が混ざっているものを指しています。

「否定」と「肯定」が混在すると,「否定」は正解になりにくくなります。。

今日の問題では,それに気が付くと問題はかなり易しく見えてきます。

残念ですが,このような問題は出題されないでしょう。しかしうっかりして出題されないとも限らないので,覚えておいて損はありません。

2018年12月10日月曜日

成年後見制度の徹底理解~その1

「権利擁護と成年後見制度」は,旧カリキュラムの「法学」に変わって,現行カリキュラムで新しく加わった科目です。

法学時代と重なる出題ものもありますが,大きな違いは,権利擁護が強く打ち出されてことです。

そのため,出題される範囲は,かなり限定されています。

難しいという思いが先に立つ科目だと思いますが,攻略ポイントはいくつもあります。

その一つが今日から取り組む「成年後見制度」です。介護保険導入と同時に制度ができたもので,その当時は「車の両輪」と呼ばれていたものです。

法定後見の「後見」「保佐」「補助」,任意後見,そして未成年後見があります。


それでは早速今日の問題です。

第22回・問題73 成年後見に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 成年被後見人が建物の贈与を受けたとき,成年後見人はこれを取り消すことができない。

2 保佐開始の審判を受けていた者が,事理弁識能力を欠く常況になった場合には,家庭裁判所は,職権で後見開始の審判を行うことができる。

3 成年被後見人が成年後見人の同意を得ないでした婚姻は,これを取り消すことができる。

4 自己の所有する不動産を売却した成年被後見人は,成年後見人の同意を事前に得ていた場合には,これを取り消すことができない。

5 成年被後見人が自己の所有する不動産を売却したとき,その時点で意思能力を有していた場合でも,成年後見人は契約を取り消すことができる。


知識ゼロの人がこの問題で正解できる確率は5分の1の20%です。

しかしこの当時は言い回しに気がつけた人は,正解率を上げることができました。それは国試としては適切ではありません。

それはさておき,解説です。


1 成年被後見人が建物の贈与を受けたとき,成年後見人はこれを取り消すことができない。

これは間違いです。後見人には取消権が付与されているので,取り消すことができます。


2 保佐開始の審判を受けていた者が,事理弁識能力を欠く常況になった場合には,家庭裁判所は,職権で後見開始の審判を行うことができる。

これも間違いです。

職権で審判を行うのではなく,請求権者の申立てによって後見開始の審判が行われます。
「職権」で行われるのは,後見人の選任です。


3 成年被後見人が成年後見人の同意を得ないでした婚姻は,これを取り消すことができる。

これも間違いです。

後見人には取消権が付与されていますが,身分行為と呼ばれる婚姻などには取消権が及びません。


4 自己の所有する不動産を売却した成年被後見人は,成年後見人の同意を事前に得ていた場合には,これを取り消すことができない。

これも間違いです。

後見人には取消権が付与されているので,取り消すことができます。


5 成年被後見人が自己の所有する不動産を売却したとき,その時点で意思能力を有していた場合でも,成年後見人は契約を取り消すことができる。

これが正解です。

後見人には取消権が付与されているので,取り消すことができます。


<今日の一言>

後見人にはすべての法律行為について,取消権があります。

ただし,除外されているものがあります。

・婚姻などの身分行為。
・日用品の購入その他日常生活に関する行為

特に,「日用品の購入その他日常生活に関する行為」は取り消すことができないことはしっかり覚えておきましょう。

2018年12月8日土曜日

行政手続法の徹底理解~その4

今回が行政手続法の最終回です。

マニアック問題で締めくくりたいと思います。


第15回・問題67 行政手続や情報公開に関する次の記述のうち,正しいものの組み合わせを一つ選びなさい。

A 行政手続法では,行政庁は,不利益処分をなすに当たって,当該処分の相手方からの請求に基づき,あらかじめ実施される処分の内容,根拠,理由などを通知しなければならないことになっている。

B 地方公共団体が行う行政指導については,行政手続法が適用されない。

C 行政機関の保有する情報の公開に関する法律では,日本国民のみならず,外国人にも開示請求権が認められている。

D 申請により求められた許認可をするかどうかを判断するために,行政手続法上,定めることを求められている基準は,行政内部で用いる基準であるため,公表しなくともよいとされている。

(組み合わせ)
1 A B
2 A C
3 B C
4 B D
5 C D

今はないスタイルの問題です。

問題文は4つです。今より1つ少ないです。

更に言えば,本来組み合わせは6通りです。

4×3÷2=6通り。

しかし,選択肢は5つ。

ADの組み合わせはありません。

正しいものを2つ選ぶ問題は今も存在します。
5×4÷2=10通りもあります。

それでは解説です。


A 行政手続法では,行政庁は,不利益処分をなすに当たって,当該処分の相手方からの請求に基づき,あらかじめ実施される処分の内容,根拠,理由などを通知しなければならないことになっている。

これが正解かどうか分からなければ△をつけておきます。

結論を言えばこれは正解ではありません。

正解ではない理由は,不利益処分を行う前には,国民の権利として,意見陳述を行う機会が設けられているからです。

とても分かりにくいですが間違いです。

B 地方公共団体が行う行政指導については,行政手続法が適用されない。

この問題ではこの選択肢が最も難しいです。

これが正解かどうか分からなければ△をつけておきます。

結論を言えばこれは正解です。

法第3条第2項で

地方公共団体の機関がする処分(その根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)及び行政指導、地方公共団体の機関に対する届出(前条第七号の通知の根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)並びに地方公共団体の機関が命令等を定める行為については、次章から第六章までの規定は、適用しない。

と規定しているからです。マニアックすぎます。

今なら絶対にこんな出題はしません。


C 行政機関の保有する情報の公開に関する法律では,日本国民のみならず,外国人にも開示請求権が認められている。

結論を言えばこれは正解です。

これが正解かどうか分からなければ△をつけておきます。

外国人に対する基本的人権は,制限を受けることが記載されている場合のほかは適用されると考えられています。


D 申請により求められた許認可をするかどうかを判断するために,行政手続法上,定めることを求められている基準は,行政内部で用いる基準であるため,公表しなくともよいとされている。

法の内容が分からなくても,「公表しなくともよい」と規定されるわけがありません。

これは×をつけられるでしょう。

ということで,答えは,3のBCでした。


<今日の一言>

今日のような問題の出題スタイルは,現在はありませんが,一つ×をつけられれば,選択肢は限られます。

今日の問題であれば,Dを一つ消去できただけで

4 B D
5 C D

の2つは消去できます。

残るは

1 A B
2 A C
3 B C

の3つ。正解できる確率は33%です。

現在の出題スタイルの正解を2つ選ぶ問題の組み合わせは10通りなので,1つ消去できても正解できる確率は11%にしかなりません。

旧スタイルであれば,1つ消去では,3問に1問当たる確率ですが,現スタイルでは9問に1問しか当たりません。

2つ消去した場合は,旧スタイルでは正解できます。
現スタイルでは,2つ消去できても67%の確率でしか正解できません。

昔の出題スタイルと現在の出題スタイルでは,確実に勉強法は違います。

あいまいな知識だと正解しにくいのです。

チームfukufuku21は,そのことを知っているので,3か月の勉強で合格できるとは言いたくないのです。

しかし今日のようなマニアックな問題は絶対に出題されないので,基礎力をコツコツつけてきた人はちゃんと正解できるようになっています。

そのような人は自信を持ってくださいね。努力は必ず報われますよ。

2018年12月7日金曜日

行政手続法の徹底理解~その3

行政手続法は,現行カリキュラムでは出題が少ないので,それよりも前に出題されたものを整理してみました。

第7回・問題127 我が国の行政手続法に関する次の記述のうち,誤っているものを一つ選びなさい。

1 行政不服審査法と異なり,行政処分が行われた後に,国民の権利・利益の救済を図る事後救済に関する手続法である。

2 行政事件訴訟法と異なり,行政処分が行われる前に,国民の権利・利益の救済を図る事前救済に関する手続法である。

3 行政庁の処分,行政指導及び届出に関する手続法である。

4 行政運営における公正の確保と透明性の向上を―図るための手続法である。

5 国民の権利・利益の保護に資するための手続法である。


現行カリキュラムではなくなった「誤っているもの」を選ぶ問題です。

その時その時で国家試験は難しいものですが,誤っているものを一つ選ぶ問題の難易度は,正しいものを一つ選ぶ問題よりも何倍も難しくなります。

なぜなら明らかに間違っているものを見つけることができたら,それがすぐ答えになるからです。正しいものを一つ選ぶのは,間違っているものを一つ見つけても消去できるのはたった一つだけ。すべてが正しく見えてきますし,すべてが間違って見えてきます。

こういう出題があったため,口の悪い人は「社会福祉士の問題ではなく,国語の問題だ」と言ったりもしました。

しかしそれは過去のこと。

勉強が足りない人が解ける問題はほんのわずか。ラッキーで合格できることは絶対になくなっています。

この問題の答えは,選択肢1です。

選択肢1と選択肢2は,比較している法は違いますが,内容は行政手続法は事前救済か事後救済かという逆のことを述べています。

そうなると,どちらかが間違っている可能性が高くなります。

その視点で問題を読むと,行政手続法の内容は分からなくても,不服申立ては行政処分に対する不服申立てなので,行政処分の事後に行うものだということは分かります。不服申立ては事前救済ではないので,その部分で既に間違っています。

この問題が初登場です。初登場のものが難しいと誰も解けなくなります。

第7回国試ということは,法が成立してすぐの出題だということもあるのでしょう。こんな法律ができました,というお披露目をするには国家試験はうってつけです。次の年の参考書に載るので,受験生はみんな勉強してくれるからです。

しかし,現在は7問しか出題がないので,そのような意図では出題する余裕はありません。

昔の国試しか知らない人は

新しく変わったところが出題される

と言います。

今はめったにそんなことはありません。むしろ変わった直後は出題しない傾向にあります。

制度改正の直後に出題されるとすると,定義の変更,法制度の根幹の変更に関連するものです。現場レベルで振り回される小さな制度改正は大局から見ると国試に出題する優先度が低いと言えます。

さて,その次に出題されものをみましょう。今度は第7回に出題された内容を踏まえて出題することができます。


第8回・問題123 行政手続法に関する次の記述のうち,誤っているものを一つ選びなさい。

1 行政手続法は,専ら国民の権利保護に資することを目的として制定されたものである。 
2 行政指導とは,行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において,一定の行政目的を実現するため,特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導,勧告,助言その他の行為であって,処分に該当しないもののことをいう。

3 行政手続法は,処分手続として,「申請に対する処分」手続と「不利益処分」手続との二つの手続を認めている。

4 行政手続法は,行政庁の「不利益処分」手続について,通知と聴聞の要件を課している。

5 行政手続法は,行政指導を行う者が,行政指導の相手方から,その趣旨,内容などについて書面の交付を求められた場合には,これを交付しなければならないとしている。 


内容はものすごく難しいです。しかしこれも日本語的に答えることができます。

選択肢1が間違いです。「専ら」ではないからです。

中途半端に勉強した人よりも勉強しない人の方がおそらく正解率が高くなる問題でしょう。

そんなのは国試としては絶対におかしいです。

次の出題です。

第13回・問題69
3 行政手続法は,行政手続を定めた一般法であり,処分,行政指導及び届出に関する手続に関して他の法律に特別の定めがある場合は,その定めるところに従って手続が進められることになる。

これは正解です。今まで学んできたとおりです。

第14回・問題69
行政手続法では,行政指導はあくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されることが求められており,また相手方が行政指導に従わなかったことを理由として,不利益な取扱いをしてはならないとされている。

これも正解ですね。今まで学んできたとおりです。

この当時は,出題数は各科目10問だっために,法ができた直後に1問丸ごとその法制度を出題する余裕があったのです。

旧カリキュラム時代の「法学」は最も難しい科目でした。

そのため,0点にならないように,すべての問題に同じ数字「3」あるいは「4」を塗りつぶすように対策したものです。変に考えると0点を取る可能性がありますが,それだと3点程度が取れたのです。

2018年12月6日木曜日

行政手続法の徹底理解~その2

前回で行政手続法は,意見公募手続(パブリックコメント)を規定しているものだということが分かりました。

まずは以下を押さえましょう。

行政手続法の用語

行政処分
行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為

行政指導
行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内で,特定の者に一定の作為(行うこと)又は不作為(行わないこと)を求めるための指導,勧告,助言その他の行為。行政指導は行政指導に該当しない。

不利益処分
行政庁が,法令に基づいて,特定の者に義務を課すこと,又はその権利を制限する処分

それでは,今日の問題です。

第27回・問題79 行政手続法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 行政指導の範囲は,その行政機関の任務又は所掌事務に限られない。

2 行政指導の内容は,相手方の任意の協力がなくても実現可能である。

3 行政指導の担当者は,相手方に対し,指導内容以外を明らかにする義務はない。

4 行政指導の根拠となる法律は,行政手続法に限られない。

5 行政指導に従わなかったことを理由に,相手方に不利益処分を行うことができる。


この問題が現行カリキュラムで行政手続法が出題された唯一のものです。

前回の問題(第21回)のものとは,難易度が違います。

行政手続法を全く知らなくても,勘で解けてしまいます。

そんなに前の問題ではありませんが,つい最近までこういった問題が出題されていたこともあるのです。

残念ながら今はこの手の問題はほとんどありません。


それでは解説です。


1 行政指導の範囲は,その行政機関の任務又は所掌事務に限られない。

これは間違いです。

行政機関は取り扱う範囲がきっちりしています。だから縦割り行政と言われます。行政指導の範囲も,その行政機関の任務又は所掌事務に限られるに決まっています。

よく読めば分かることでも,国試会場の独特な雰囲気の中では,冷静に問題を読むことはかなり難しいことです。

しかもこの科目は,午前中の最後の科目でもあり,ふらふらになっている最中に解かなければなりません。しっかり読むことの練習が必要です。


2 行政指導の内容は,相手方の任意の協力がなくても実現可能である。

これも間違いです。

法第32条では,

行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。

と規定しています。

しかしこの規定が分からなくても,問題文にヒントがあるので間違いだと気づく人は気づくことができます。

行政指導の内容は,相手方の任意の協力がなくても実現可能である。

下線部分に違和感があるので,勘の良い人は,逆に任意の協力が必要なのだろうと推測できてしまいます。

これが正解なら

行政指導の内容は,強制的に行うことができる。

という文章になるはずです。

法はみんなが思うほどあいまいなものではないので,任意の協力があってもなくてもよいといったことはありません。これでは「任意の協力」の意味がありません。


3 行政指導の担当者は,相手方に対し,指導内容以外を明らかにする義務はない。

これも間違いです。他にも明らかにする義務があるものがあります。

もっと以前の問題ならこの内容と同じものを以下のように出題していたことでしょう。

行政指導の担当者は,相手方に対し,明らかにする義務があるのは指導内容のみである。

現在は「のみ」という正誤が分かりやすい表現は極力使わないで出題しています。

どちらにしても勘の良い人は,「指導内容以外」という表現からそれ以外もあるだろうと推測してしまいます。


4 行政指導の根拠となる法律は,行政手続法に限られない。

これが正解です。

第21回国試の問題があまりに難しすぎたので,その罪滅ぼしにこの選択肢を正解にしたようにも感じます。

難しかった第21回の問題とは

(前回のものを再掲)

1 行政手続法は,国及び地方公共団体が法律や条例などに基づいて行う処分や行政指導などに関し,共通事項を定め,行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ることを目的としている。

これは間違いです。

しかし,難しすぎです。出題当時はこれを正解にした人も多かったと考えられます。
どこが間違いかと言えば,行政手続法は,行政処分等を定めたものであることは正しいですが,ほかの法に定めがある場合は,その法の定めにしたがうからです。


という理由です。国試の出題傾向から考えると,第27回国試の内容が先にあり,その後に第21回の内容を出題してくるのが普通です。

しかし,そうしなかったのは,前回も書きましたが,第21回国試で伝えたかったのは,パブリックコメントだったからです。


5 行政指導に従わなかったことを理由に,相手方に不利益処分を行うことができる。

これは間違いです。

先述の法第32条には実は第2項があります。

行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。

これが分からなくても,行政指導は行政処分とイコールではないことは何となく分かるので,これはないだろうと推測できてしまいます。


<今日の一言>

今日は,久々に問題の読み方について記述してみました。

しかし,現在は知識がなくても解ける問題はほとんどありません。

とは言うものの国試問題は人が作るものなので,文章にほころびができることはあります。

分からないものでもあきらめることなく,問題に取り組むことが大切です。

行政手続法は,現行カリキュラムではたった1回の出題ですが,旧カリ時代の問題と合わせてきっちり覚えておきましょう。

2018年12月5日水曜日

行政手続法の徹底理解~その1

行政手続法は,平成5年に制定された法です。

法の目的は,

処分,行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関して,共通する事項を定めることによって,行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ることで,国民の権利利益の保護に資することを目的としています。

ただし,他法で定められているときは,その定めが優先されます。

旧カリキュラムの時代にはかなり出題頻度が高いものでしたが,現行カリキュラムで出題されたのは,第27回の一回のみです。

今回はその行政手続法について学びましょう。

行政手続法の用語

行政処分
行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為

行政指導
行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内で,特定の者に一定の作為(行うこと)又は不作為(行わないこと)を求めるための指導,勧告,助言その他の行為。行政指導は行政指導に該当しない。

不利益処分
行政庁が,法令に基づいて,特定の者に義務を課すこと,又はその権利を制限する処分


さて,それでは今日の問題です。

第21回・問題68 行政手続に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 行政手続法は,国及び地方公共団体が法律や条例などに基づいて行う処分や行政指導などに関し,共通事項を定め,行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ることを目的としている。

2 裁判の執行としてされる処分は,行政手続法の適用除外とされているが,不服申立てに対する行政庁の裁決,決定その他の処分には,行政手続法が適用される。

3 意見公募手続は,行政機関が命令等を制定するに当たって,事前に命令等の案及び関連資料を公示し,広く一般の意見を求めるために,行政手続法の改正によって導入された制度である。

4 不利益処分をする場合の意見陳述のための手続きには,「聴聞」と「弁明の機会の付与」とがあり,いずれの場合も口頭で行われることを原則としている。

5 行政庁が申請に対する処分の「審査基準」と不利益処分に対する「処分基準」を作成し公表することは,努力義務ではなく法律上の義務である。


旧カリキュラムの「法学」という科目で出題された問題です。かなり言い回しの難易度が高い問題ですね。

しかし言い回しが難しくなればなるほど,文章にほころびが出るのも事実です。

現在はこれほど難易度が高い言い回しの問題は出題されません。だからといって,問題自体の難易度が下がっているわけではないことに注意が必要です。


それでは解説です。


1 行政手続法は,国及び地方公共団体が法律や条例などに基づいて行う処分や行政指導などに関し,共通事項を定め,行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ることを目的としている。

これは間違いです。

しかし,難しすぎです。出題当時はこれを正解にした人も多かったと考えられます。

どこが間違いかと言えば,行政手続法は,行政処分等を定めたものであることは正しいですが,ほかの法に定めがある場合は,その法の定めにしたがうからです。


2 裁判の執行としてされる処分は,行政手続法の適用除外とされているが,不服申立てに対する行政庁の裁決,決定その他の処分には,行政手続法が適用される。

これも間違いです。

行政手続法の適用は,裁判所の処分,不服申立ても適用除外です。

文章のほころびというのは,この選択肢を指しています。

裁判の執行としてされる処分は,行政手続法の適用除外とされているが,不服申立てに対する行政庁の裁決,決定その他の処分には,行政手続法が適用される。

●●は。●●だが,●●は●●ではない

というスタイルの文章です。

このスタイルの文章による出題は避ける傾向にあります。


3 意見公募手続は,行政機関が命令等を制定するに当たって,事前に命令等の案及び関連資料を公示し,広く一般の意見を求めるために,行政手続法の改正によって導入された制度である。

これが正解です。

意見公募手続とは,いわゆるパブリックコメント(パブコメ)のことをいいます。

平成17年の改正で法制化されました。


4 不利益処分をする場合の意見陳述のための手続きには,「聴聞」と「弁明の機会の付与」とがあり,いずれの場合も口頭で行われることを原則としている。

これも間違いです。

聴聞は「聴聞」ということば通り,口頭によってその言い分を聴きます。

弁明の機会は,文書で行うのが原則です。

5 行政庁が申請に対する処分の「審査基準」と不利益処分に対する「処分基準」を作成し公表することは,努力義務ではなく法律上の義務である。

これは間違いです。

審査基準を定めることは努力義務,処分基準は義務規定となっています。


<今日の一言>

今日の問題はとても難しいレベルのものだったと思います。

しかし,正解選択肢となったのは,意見公募手続(パブリックコメント)でした。

正解選択肢には,メッセージ性があります。

この問題で伝えたかったのは,この制度だったと思われます。

ここに気がつくようになると,国家試験の得点力は格段に上がります。

それが,正解選択肢がキラキラして見えてくるということです。

2018年12月4日火曜日

不法行為による損害賠償の徹底理解~その2

不法行為とは,他人の利益を侵すことです。
損害賠償請求の対象となるのは,故意もしくは過失による場合です。
損害賠償請求の対象とならないのは,不可抗力による場合です。
業務中の不法行為があった場合には,使用者,監督者も使用者責任を問われることもあります。

これまでは前回書いたことと同じです。

前回の最後に書いたように,公務員はまた別の話です。

それは国家賠償法です。

国家賠償法第一条

国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

国家賠償法は,公務員の公務中の不法行為については,国または地方公共団体に損害賠償請求してね。本人には損害賠償でできませんよ。と規定しているのです。

それでは今日の問題です。

第29回・問題80 国家賠償法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 公立の福祉施設の職員の過失により加えられた利用者への損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。

2 公務員の違法な公権力行使により損害を被った者は,国家賠償責任に加えて,公務員個人の民法上の不法行為,責任も問うことができる。

3 公務員が適切に公権力を行使しなかったことによる損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。

4 公務員が家族旅行に行った先で,誤って器物を損壊したことに対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。

5 非番の警察官が制服を着用して行った行為による損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。

この問題を解く時のポイントは,公務中か公務中でないかです。


1 公立の福祉施設の職員の過失により加えられた利用者への損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。

これは間違いです。

過失によって被った損害は,国家賠償法により,設置者に損害賠償することになります。


2 公務員の違法な公権力行使により損害を被った者は,国家賠償責任に加えて,公務員個人の民法上の不法行為,責任も問うことができる。

これも間違いです。

本人には,民法上の不法行為による責任は問われることはありません。その代わりに故意又は重大な過失があった場合は,国家賠償法によって,国又は地方公共団体が本人に賠償請求を行うことができます。


3 公務員が適切に公権力を行使しなかったことによる損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。

これも間違いです。

もちろん,国家賠償法によって,損害賠償請求ができます。


4 公務員が家族旅行に行った先で,誤って器物を損壊したことに対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。

これが正解です。

公務中ではありませんので,国家賠償法の対象ではありません。必要な場合は,民法によって損害賠償請求を行うことになります。


5 非番の警察官が制服を着用して行った行為による損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。

これは間違いです。

公務中であることは4と同じです。違うのは制服を着用していることです。

このような場合は,公務中であろうとなかろうが,公務中だとみなします。見た目が大切であるということです。

人は見た目です。

制服を着ていたら,周りの人は公務中であるかどうかは判断できません。そのため面倒なので公務中でなくても,制服を着ていたら公務中とみなされて,国家賠償法の対象となります。


<今日の一言>

今日の問題は,

・・・できない。
・・・できる。
・・・できない。
・・・できない。
・・・できない。

と語尾がそろっていません。

問題の内容が分からないと,ほかと一つだけ違う「・・・できる」を文章的に選択しがちです。

実際に,かつてはそういったものが正解になっていることが多くありました。

しかし今はそういったことに気がついたみたいで,極力そうならないように意識して作られているようです。

勘の良い人がその勘を活かして正解できる問題はほとんどないと言っても良いかと思います。

<理想的な国試>

勉強した人は解ける。
勉強が足りない人は解けない。

<最低な国試>

勉強した人でも解けない。
勘の良い人は勘を働かせると解ける。

「国家試験は日本語の問題だ」と言った人がいます。

それは過去のこと。

今は,勘の良し悪しで解ける問題ではありません。
たとえ勘で解けたとしてもそれはほんの数問です。

国試は決して難しい試験ではありませんが,勉強不足でも合格できるような試験ではなくなっています。

逆に地道に勉強してきた人は,高い得点ができるようになっています。

国の方針が変わったとしても,国試で合格できる秘訣はたったの一つしかありません。
出題基準で示されている内容をひたすら勉強することです。

合格には遠回りはいくらでもできますが,近道はありません。

努力は報われるのが今の国試です。模試の結果が届き始めていると思います。
模試で良い成績だった人は,それは今までの努力の結果です。自信を持って良いです。

国試を解く勘も必要ですが,それは基礎力を養ってこそ活きます。

2018年12月3日月曜日

不法行為による損害賠償の徹底理解

不法行為とは,他人の利益を侵すことです。

損害賠償請求の対象となるのは,故意もしくは過失による場合です。

損害賠償請求の対象とならないのは,不可抗力による場合です。

業務中の不法行為があった場合には,使用者,監督者も使用者責任を問われることもあります。

これを頭に入れて,今日の問題を解きましょう。

第24回・問題72事例を読んで,不法行為と損害賠償責任に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

訪問介護事業者P法人の正職員であるA訪問介護員が,食事の準備ができたので,利用者Bさんをベッドのある居室から食卓のある居間に車いすで移動させたとき,利用者Bさんが転倒・骨折した。

1 P法人は,転倒・骨折が不可抗力であったとしても不法行為責任を負う。

2 P法人は,A訪問介護員に故意又は過失があれば不法行為責任を負う。

3 P法人がBさんとの契約で,A訪問介護員の故意又は過失を問わず一切の不法行為責任を免れると定めることは有効である。

4 P法人がBさんとの契約で,A訪問介護員に故意がある場合にのみ不法行為責任を負うと定めることは有効である。

5 Bさんは,A訪問介護員の故意又は過失を理由として,A訪問介護員の不法行為責任を追及していくことはできない。

ポイントが整理されていれば,答えをかぎ分けることができると思います。

それでは,解説です。


1 P法人は,転倒・骨折が不可抗力であったとしても不法行為責任を負う。

これは間違いです。

不可抗力の場合は,不法行為に対する責任は問われません。


2 P法人は,A訪問介護員に故意又は過失があれば不法行為責任を負う。

これが正解です。

不法行為が故意・過失の場合は,A訪問介護員は損害賠償請求の対象となります。P法人も使用者責任により不法行為責任があります。


3 P法人がBさんとの契約で,A訪問介護員の故意又は過失を問わず一切の不法行為責任を免れると定めることは有効である。

これは間違いです。

このような契約は認められません。労働契約は労使は対等な立場で結ばれるものであり,一方が有利になるようなものは無効です。


4 P法人がBさんとの契約で,A訪問介護員に故意がある場合にのみ不法行為責任を負うと定めることは有効である。

これも間違いです。

このような契約は認められません。労働契約は労使は対等な立場で結ばれるものであり,一方が有利になるようなものは無効です。


5 Bさんは,A訪問介護員の故意又は過失を理由として,A訪問介護員の不法行為責任を追及していくことはできない。

これももちろん間違いです。

ただしこれは民間法人の場合です。A訪問介護員が公務員の場合は,国家賠償法の対象となるので,BさんはA訪問介護員ではなく,国もしくは地方公共団体に損害賠償を行うことになります。


<今日の一言>

公務員本人が公務中の不法行為の責任を負わないのは,その責任を問われると公務員が委縮していまい,公務が適切に行えなくなるおそれがあるからだそうです。

この問題が,「P法人」ではなく,「町立の」といった出題だった場合は,選択肢5は正解となります。そこまでの引っ掛け問題は出題されないと思いますが,少なくても今日の問題では,P法人がこの問題を成立させるためのキーワードになっていることは事実として知っておきましょう。

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