今回が親権の最終回です。
早速,今日の問題です。
前説なしです。頭を柔らかくして,深読みしないで,問題を読んでください。
頭を柔らかくして,深読みしないで,問題を読むことが大切な問題です。
第28回・問題79 父母の離婚に伴い生ずる子(15歳)をめぐる監護や養育や親権の問題に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。
1 親権者にならなかった親には,子の養育費を負担する義務はない。
2 子との面会交流について父母の協議が成立しない場合は,家庭裁判所が定める。
3 親権者にならなかった親は,子を引き取り,監護養育することはできない。
4 家庭裁判所は,父母の申出によって離婚後も共同して親権を行うことを定めることができる。
5 家庭裁判所が子の親権者を定めるとき,子の陳述を聴く必要はない。
法制度に関する問題を正解するには,知識が必要なものが大半です。
しかし,この問題は,一般的な常識が極めて重要になる問題です。このタイプの問題は絶対に深読みしてはいけません。
深みに入ります。
なお,設問は極めて重要な意味を持っている問題です。
それでは解説です。
1 親権者にならなかった親には,子の養育費を負担する義務はない。
これは間違いです。
養育費の負担は,善意で行っているわけではなく,義務があるから行っています。
2 子との面会交流について父母の協議が成立しない場合は,家庭裁判所が定める。
これが正解です。
慌てず,落ち着いて問題を読むことができたら,これを選べることでしょう。
3 親権者にならなかった親は,子を引き取り,監護養育することはできない。
これは間違いです。
この問題の中で最も難しいのはこの選択肢だと思います。
とても細かいことを書きます。
親権は,「財産管理権」と「身上監護権」があります。
そのうちの身上監護権から監護権を分けて,親権のないものが監護権を行使することができます。
監護権は,日常の面倒をみることです。
監護権は,父母だけではなく第三者に決めることもできます。
親権者が海外航路の乗組員だった場合,日本に戻るのは年数日という人もいます。そんなときに親権者とは別に監護権者を定めます。
このように,親権者でない者も監護養育を行うことができます。
4 家庭裁判所は,父母の申出によって離婚後も共同して親権を行うことを定めることができる。
これも間違いです。
親権を共同して行使できるのは,婚姻中に限ります。
5 家庭裁判所が子の親権者を定めるとき,子の陳述を聴く必要はない。
これも間違いです。
子が15歳以上の場合は,陳述を聴く必要があります。
<今日の一言>
今日の問題は,最近の問題の割に作り方に粗さが感じられます。
同じ内容で,もう少し洗練させるなら,順番を変えると良いのです。
1 親権者にならなかった親には,子の養育費を負担する義務はない。
2 家庭裁判所が子の親権者を定めるとき,子の陳述を聴く必要はない。
3 親権者にならなかった親は,子を引き取り,監護養育することはできない。
4 子との面会交流について父母の協議が成立しない場合は,家庭裁判所が定める。
5 家庭裁判所は,父母の申出によって離婚後も共同して親権を行うことを定めることができる。
否定形と肯定形の順番をそろえるだけで,少しイメージが変わります。
本当は,すべての選択肢を否定形でそろえるか,肯定形でそろえると難易度が上がります。
逆に言うと,そろっていない問題は難易度が下がるということです。
否定形と肯定形が混在しているミックス型の場合の多くは,否定形が間違いで,肯定形が正解になることが多かったのです。覚えておいて損はないと思います。
<おまけ>
表現をそろえて出題するのは,問題をつくるうえでは,かなり高度な技術です。
第30回では,以下のような問題もいまだ出題されています。
第30回・問題122 社会福祉法人の財務に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 再投下可能な財産(社会福祉充実残額)を算定しなければならない。
2 土地は,減価償却の対象となる資産である。
3 財務会計は,組織内での使用を目的とする。
4 財務諸表に関する開示義務はない。
5 役員の報酬等の支給の基準を公表する義務はない。。
ミックス型の原則から考えると,選択肢4と5は正解になりにくいと考えられます
答えは選択肢1です。
ミックス型(否定形と肯定形の混合)の場合,否定形が正解になりにくい理由は,義務のないものを知ることよりも,義務があるものを知る意味があるからです。
それを考えると,わざわざ義務のないものを出題するのは意味がないと思いませんか?
「国試でそんなことを考える余裕はない」と思う人もいるかもしれません。
しかし,そういうことを考えて解かなければ,得点は伸びないでしょう。
しっかり勉強して何度も何度も受験している方は,知識は十分あるはずです。
それにもかかわらず,合格することができないのは,何かが足りないからです。
その一つが「柔らか頭」だと思います。
ちょっとだけ余裕を持つことができれば,得点力は飛躍的に伸びます。
過去問を解くのは,知識をつける意味よりも,国試の問題に慣れることで出題の癖をつかむためです。
これから短期間に実力をつけるには,ヤマを張った勉強をするよりも,国試の問題に慣れる訓練をした方が効果的です。
3年間の過去問では,合格できる知識量は圧倒的に不足するにもかかわらず,「3年間の過去問を3回解いたら合格できるよ」というアドバイスが今も生きているのは,国試問題に慣れることで,点数が取れる問題があることを示唆しています。
ついでに言うと,選択肢の中に「よりも」が入っているものは,正解になりにくい傾向があります。
最新の記事
消費者契約法
契約を取り消すことができる制度として,クーリング・オフ制度があります。 しかし,利用できるのは,訪問販売や電話に勧誘などによって契約したものに限られます。 消費者契約法は,以下のような場合に取り消すことができます。 出典:消費者庁「知っていますか? 消費者契約法―早わかり!消費...
過去一週間でよく読まれている記事
-
1990年(平成2年)の通称「福祉関係八法改正」は,「老人福祉法等の一部を改正する法律」によって,老人福祉法を含む法律を改正したことをいいます。 1989年(平成元年)に今後10年間の高齢者施策の数値目標が掲げたゴールドプランを推進するために改正されたものです。 主だった...
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
平成元年度の改正カリキュラムでは,当初はあったものの,平成19年度のカリキュラム改正でなくなったものがいくつか復活しています。 その1つがコミュニティワーク(地域援助技術)です。 地域共生社会の実現に求められる社会福祉士を養成するためには,コミュニティワークが必要だからでしょう。...
-
システム理論は,「人と環境」を一体のものとしてとらえます。 それをさらにすすめたと言えるのが,「生活モデル」です。 エコロジカルアプローチを提唱したジャーメインとギッターマンが,エコロジカル(生態学)の視点をソーシャルワークに導入したものです。 生活モデルでは,クライエントの...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
まずは戦後の社会保障制度の変遷を考えてみたいと思います。 昭和 20 年代 は,国民全体が貧しく,救貧の時代です。救貧の中心的制度は,公的扶助です。 昭和 30 年代 に入ると,高度経済成長の時代になり,防貧の時代になります。防貧の中心的制度は,社会保険で...
-
ソーシャルワークにおけるネットワーキングとは,福祉課題を解決するために様々な機関,住民たちが連携することをいいます。 誰かが「それは良いことだ,やろう」と思っても,人を動かすのは,決して簡単なことではありません。 社会福祉士が連携の専門家だとしたら,ネットワーキングは,社会福祉士...
-
今回は,グループワーク(集団援助技術)の主な理論家を学びます。 グループワークの主な理論家 コイル セツルメントやYWCAの実践を基盤とし,グループワークの母と呼ばれた。 また,「グループワーカーの機能に関する定義」( ...