法定後見には,成年後見,保佐,補助の類型があります。
それぞれ共通点と相違点があります。
<共通点>
・日用品の購入その他日常生活に関する法律行為,身分行為(婚姻など)は,取り消すことができない。
・審判開始の請求を行うことで,家庭裁判所が職権で成年後見人等の選任を行う。
・審判開始の請求権者は,本人,配偶者,四親等以内の親族,検察官,等。
・複数の成年後見人等を選任することができる。
・法人を成年後見人等に選任することができる。
<相違点>
【付与される権限】
・成年後見人 → 代理権・取消権 ※同意権が付与されないのは,同意する必要がないから。
・保佐人 → 同意権・取消権 ※代理権の付与は家庭裁判所の審判によって行う。
・補助人 → 補助人の権限は,補助開始の審判で自動的に付与されない。付与の審判を行うことで付与される。
【同意】
・補助開始の請求を本人以外が行なった場合,本人の同意を必要とする。※成年後見,保佐は本人の同意は必要とされない。
【成年後見人等と成年被後見人の利益が相反する場合】
・成年後見 → 特別代理人の選任
・保佐(補助) → 臨時保佐人(臨時補助人)の選任
【精神状況の鑑定】
・成年後見・保佐 → 必要
・補助 → 必要なし
これらを整理したところで,今日の問題です。
第28回・問題78 法定後見における保佐に関する次の記述のうち正しいものを1つ選びなさい。
1 保佐開始の審判を本人が申し立てることはできない。
2 保佐人に対して,同意権と取消権とが同時に付与されることはない。
3 保佐人が2人以上選任されることはない。
4 法人が保佐人として選任されることはない。
5 保佐人が日常生活に関する法律行為を取り消すことはできない。
整理したものを頭に入れておけばそれほど難しくはないでしょう。
しかし,知識ゼロの人は正解するのは難しいです。
なぜなら,現在の出題スタイルであるすべての選択肢の表現がそろっているから
このスタイルの問題は,勘が良いだけでは正解できないので,問題の難易度は何倍にもなります。
逆に表現のばらつきや各選択肢の長さにばらつきがあると,答えが推測しやすくなってしまうのです。試験センターはそこに気がついたみたいです。
勉強不足の人には過酷です。しかし文字数が少なくなっていることで,勉強をコツコツ積み重ねてきた人は,文章の言い回しの難解さに振り回されることなく,正解しやすくなっています。これが本来の国試の姿です。
それでは解説です。
1 保佐開始の審判を本人が申し立てることはできない。
これは間違いです。
本人も請求権者です。
2 保佐人に対して,同意権と取消権とが同時に付与されることはない。
これも間違いです。
同意権と取消権は,セットで付与されます。セットでなければならない理由があります。
被保佐人は保佐人の同意がなければ法律行為を行うことができません。同意なしに法律行為を行った場合はそれを取り消すことができます。そのためにセットなのです。
<重要ポイント①>
保佐人には,同意権と取消権はセットで付与される。
3 保佐人が2人以上選任されることはない。
これも間違いです。
複数の保佐人を選任することができます。
4 法人が保佐人として選任されることはない。
これも間違いです。
法人を保佐人として選任することができます。
5 保佐人が日常生活に関する法律行為を取り消すことはできない。
これが正解です。
「日常生活に関する法律行為」と目先を変えていますが,「日用品の購入その他日常生活に関する法律行為」は取り消すことができません。
<重要ポイント②>
「日用品の購入その他日常生活に関する法律行為」は取り消すことができない。
<今日の一言>
重要ポイント①について
保佐人に同意権と取消権がセットで付与される理由を復習しておきましょう。ぼやっと覚えていると,このセットが分からなくなります。理由さえ分かっていると絶対に忘れることはありません。
重要ポイント②について
旧制度である「禁治産制度(現在の成年後見に当たる)」「準禁治産制度(現在の保佐に当たる)」は,どちらかというと,法律行為を制限することが主眼の制度でした。
現在の成年後見制度は,権利擁護を目的としたものです。
そのため,「日用品の購入その他日常生活に関する法律行為」は大きな金額ではないので,権利擁護の視点から取り消すことができないのです。
何度も繰り返してこの部分が出題されているのは,「権利擁護と成年後見制度」という科目にふさわしいからに他なりません。
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