前回で行政手続法は,意見公募手続(パブリックコメント)を規定しているものだということが分かりました。
まずは以下を押さえましょう。
行政手続法の用語
行政処分
行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為
行政指導
行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内で,特定の者に一定の作為(行うこと)又は不作為(行わないこと)を求めるための指導,勧告,助言その他の行為。行政指導は行政指導に該当しない。
不利益処分
行政庁が,法令に基づいて,特定の者に義務を課すこと,又はその権利を制限する処分
それでは,今日の問題です。
第27回・問題79 行政手続法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 行政指導の範囲は,その行政機関の任務又は所掌事務に限られない。
2 行政指導の内容は,相手方の任意の協力がなくても実現可能である。
3 行政指導の担当者は,相手方に対し,指導内容以外を明らかにする義務はない。
4 行政指導の根拠となる法律は,行政手続法に限られない。
5 行政指導に従わなかったことを理由に,相手方に不利益処分を行うことができる。
この問題が現行カリキュラムで行政手続法が出題された唯一のものです。
前回の問題(第21回)のものとは,難易度が違います。
行政手続法を全く知らなくても,勘で解けてしまいます。
そんなに前の問題ではありませんが,つい最近までこういった問題が出題されていたこともあるのです。
残念ながら今はこの手の問題はほとんどありません。
それでは解説です。
1 行政指導の範囲は,その行政機関の任務又は所掌事務に限られない。
これは間違いです。
行政機関は取り扱う範囲がきっちりしています。だから縦割り行政と言われます。行政指導の範囲も,その行政機関の任務又は所掌事務に限られるに決まっています。
よく読めば分かることでも,国試会場の独特な雰囲気の中では,冷静に問題を読むことはかなり難しいことです。
しかもこの科目は,午前中の最後の科目でもあり,ふらふらになっている最中に解かなければなりません。しっかり読むことの練習が必要です。
2 行政指導の内容は,相手方の任意の協力がなくても実現可能である。
これも間違いです。
法第32条では,
行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
と規定しています。
しかしこの規定が分からなくても,問題文にヒントがあるので間違いだと気づく人は気づくことができます。
行政指導の内容は,相手方の任意の協力がなくても実現可能である。
下線部分に違和感があるので,勘の良い人は,逆に任意の協力が必要なのだろうと推測できてしまいます。
これが正解なら
行政指導の内容は,強制的に行うことができる。
という文章になるはずです。
法はみんなが思うほどあいまいなものではないので,任意の協力があってもなくてもよいといったことはありません。これでは「任意の協力」の意味がありません。
3 行政指導の担当者は,相手方に対し,指導内容以外を明らかにする義務はない。
これも間違いです。他にも明らかにする義務があるものがあります。
もっと以前の問題ならこの内容と同じものを以下のように出題していたことでしょう。
行政指導の担当者は,相手方に対し,明らかにする義務があるのは指導内容のみである。
現在は「のみ」という正誤が分かりやすい表現は極力使わないで出題しています。
どちらにしても勘の良い人は,「指導内容以外」という表現からそれ以外もあるだろうと推測してしまいます。
4 行政指導の根拠となる法律は,行政手続法に限られない。
これが正解です。
第21回国試の問題があまりに難しすぎたので,その罪滅ぼしにこの選択肢を正解にしたようにも感じます。
難しかった第21回の問題とは
(前回のものを再掲)
1 行政手続法は,国及び地方公共団体が法律や条例などに基づいて行う処分や行政指導などに関し,共通事項を定め,行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ることを目的としている。
これは間違いです。
しかし,難しすぎです。出題当時はこれを正解にした人も多かったと考えられます。
どこが間違いかと言えば,行政手続法は,行政処分等を定めたものであることは正しいですが,ほかの法に定めがある場合は,その法の定めにしたがうからです。
という理由です。国試の出題傾向から考えると,第27回国試の内容が先にあり,その後に第21回の内容を出題してくるのが普通です。
しかし,そうしなかったのは,前回も書きましたが,第21回国試で伝えたかったのは,パブリックコメントだったからです。
5 行政指導に従わなかったことを理由に,相手方に不利益処分を行うことができる。
これは間違いです。
先述の法第32条には実は第2項があります。
行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
これが分からなくても,行政指導は行政処分とイコールではないことは何となく分かるので,これはないだろうと推測できてしまいます。
<今日の一言>
今日は,久々に問題の読み方について記述してみました。
しかし,現在は知識がなくても解ける問題はほとんどありません。
とは言うものの国試問題は人が作るものなので,文章にほころびができることはあります。
分からないものでもあきらめることなく,問題に取り組むことが大切です。
行政手続法は,現行カリキュラムではたった1回の出題ですが,旧カリ時代の問題と合わせてきっちり覚えておきましょう。
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