2018年12月21日金曜日

成年後見制度の徹底理解~その12(任意後見3)

今回が任意後見制度の最終回です。

今までのまとめとして,事例問題を紹介します。

それでは前説なしに,今日の問題です。

【23-73】 事例を読んで,次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事 例〕
 Jさん(63歳)は,仕事中に脳梗塞で倒れ,近くの救急病院に運ばれた。幸い意識を回復し,後遺症も残らなかったが,Jさんは後々のことも考えて,任意後見契約を締結することにした。

1 Jさんが任意後見契約を締結するには,公正証書の作成が必要である。

2 Jさんが任意後見契約を締結した後,判断能力を喪失した場合には,任意後見契約はその効力を失う。

3 Jさんの任意後見契約が登記された後,Jさんが判断能力を喪失した場合,Jさんの姉は,家庭裁判所に対し,任意後見監督人の選任を請求することはできない。

4 Jさんの任意後見契約が登記されている場合,家庭裁判所はJさんに対する後見開始の審判をすることはできない。

5 家庭裁判所は,Jさんの任意後見人に不正な行為があるとき,その職権で任意後見人を解任することができる。


任意後見制度をしっかり学んだ人にとって,この問題の難易度は低い問題かもしれません。

短文事例問題のスタイルを採用していますが,制度そのものの理解が求められるこのような問題は,制度を知らなければ解けません。

それでは解説です。


1 Jさんが任意後見契約を締結するには,公正証書の作成が必要である。

これが正解です。

任意後見契約の締結は,公正証書でなければなりません。任意後見制度の出題には,毎回公正証書にかかわるものが問われています。

覚える優先順位は一番ということになるでしょう。


2 Jさんが任意後見契約を締結した後,判断能力を喪失した場合には,任意後見契約はその効力を失う。

これは間違いです。

これは落ち着いて問題を読むことができれば,おかしなことを言っているのかが分かるでしょう。

判断能力を喪失した場合に契約の効力を失うのではあれば,何のための任意後見制度が分からなくなってしまいます。

判断能力を喪失した場合,家庭裁判所に請求し,任意後見監督人が選任されます。その時点で任意後見契約の効力が発生します。


3 Jさんの任意後見契約が登記された後,Jさんが判断能力を喪失した場合,Jさんの姉は,家庭裁判所に対し,任意後見監督人の選任を請求することはできない。

これも間違いです。

請求権者には,4親等以内の親族が含まれます。姉は2親等です。

親等の細かい知識は,国試では問われませんが,一応つけ足しておくと,親等の数え方は,以下のようになります。

本人と配偶者は0親等。親と子は1親等。ここまでは簡単です。
それよりも広い範囲の親族の場合は,一つ上に上がって,そして下がります。

具体的には,きょうだいの場合は,一つ上,つまり親(1親等)に上がって,下がるので2親等です。

おじ,おばの関係は,親(1親等)から一つ上,つまり祖父母(2親等)に上がって,下がるので,3親等です。扶養義務があるのはこの範囲です。

請求権者は,それよりも一つ広い4親等以内の親族に設定されています。

その理由は,3親等はおじ,おばの範囲なので,多くの場合本人よりも上の世代であり,亡くなっている可能性が高く,本人と同世代となるいとこの範囲である4親等に設定しているのです。

扶養義務 → 3親等以内
請求権者 → 4親等以内

整理しておきましょう。


4 Jさんの任意後見契約が登記されている場合,家庭裁判所はJさんに対する後見開始の審判をすることはできない。

これも間違いです。

これ自体はとても難しいものです。

しかし,勉強をしている人は選択肢1が明らかに正解だと分かるので,この選択肢が分からなくても国試では困らなかったはずです。

家庭裁判所は,任意後見よりも法定後見の方が適切だと判断した時は,後見開始の審判ができることになっています。

今の参考書では,このようなことも記載されていることでしょう。こうやって覚えるものが増えていきます。

しかし本当は国試はそんなに複雑なものではありません。5つの選択肢の相互関係が影響するので,すべての選択肢が分からなくても答えられるからです。

すべてを同じように覚えなければならないと思うかもしれませんが,実は決してそんなことはありません。

参考書には,覚える優先度が書かれていないのが残念なところです。ボリュームの多い参考書は特にこの点に注意が必要です。


5 家庭裁判所は,Jさんの任意後見人に不正な行為があるとき,その職権で任意後見人を解任することができる。

これも間違いです。

職権で解任できるのは,職権で選任したものだけです。


つまり,家庭裁判所が職権で解任できるのは,任意後見監督人,成年後見人等,成年後見監督人等になります。任意後見人が解任される場合は,本人や親族等からの請求があった場合です。


<今日の一言>

法制度は,適用がはっきりしているので,指定を取り消すことができるのは,指定した機関,解任することができるのは職権で選任した者です。

成年後見人の解任については次回紹介します。



<今日のおまけ>

国試で得点力を上げるには,あいまいな知識をたくさんつけるよりも,数は少なくても確実に知識を持った方がよいです。

国試が近づくととても不安になり,いろいろなものに手を出したくなると思います。

模擬試験を受けると,参考書に書かれていないものがあったりするとなおさらそう思ってしまうでしょう。

しかし,本当に必要な知識はそんなところにはありません。今まで勉強してきた範囲をしっかり押さえていくことこそが何よりも大切なのです。

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