前回のまとめをもう一度確認しましょう。少し説明を加えています。
<共通点>
・日用品の購入その他日常生活に関する法律行為,身分行為(婚姻など)は,取り消すことができない。
・審判開始の請求を行うことで,家庭裁判所が職権で成年後見人等の選任を行う。
・審判開始の請求権者は,本人,配偶者,四親等以内の親族,検察官,等。
・複数の成年後見人等を選任することができる。
・法人を成年後見人等に選任することができる。
<相違点>
【付与される権限】
・成年後見人 → 代理権・取消権 ※同意権が付与されないのは,同意する必要がないから。
・保佐人 → 同意権・取消権 ※代理権の付与は家庭裁判所の審判によって行う。
・補助人 → 補助人の権限は,補助開始の審判で自動的に付与されない。付与の審判を行うことで付与される。
【同意】
・補助開始の請求を本人以外が行なった場合,本人の同意を必要とする。※成年後見,保佐は本人の同意は必要とされない。
【成年後見人等と成年被後見人の利益が相反する場合】
・成年後見 → 特別代理人の選任
・保佐(補助) → 臨時保佐人(臨時補助人)の選任
※いずれも成年後見監督人等が選任されていない場合。
【精神状況の鑑定】
・成年後見・保佐 → 必要(ただし原則)
・補助 → 必要なし
これらを整理したところで,今日の問題です。
第29回・問題81 保佐及び補助に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 保佐及び補助における判断能力の判定に際して,いずれも原則として医師等の専門家による鑑定が必要である。
2 保佐開始及び補助開始の申立てにおいては,いずれの場合も本人の同意が必要である。
3 保佐開始又は補助開始後,保佐人又は補助人はいずれも被保佐人又は被補助人がした日用品の購入など日常生活に関する行為の取消しを行うことができる。
4 保佐開始後,被保佐人が保佐人の同意を得ずに高額の借金をした場合,被保佐人及び保佐人いずれからも取り消すことができる。
5 補助人に同意権を付与するには,被補助人の同意は不要である。
分かるものと分からないものがあるでしょう。
この問題の難易度はかなり高いです。
午前中の最後の科目で,疲れ切っているところであり,そして思考を巡らせなければならないからです。
保佐と補助をミックスしているので,一つひとつを考えてみなければ解けません。
それでは解説です。
1 保佐及び補助における判断能力の判定に際して,いずれも原則として医師等の専門家による鑑定が必要である。
これは間違いです。
原則として鑑定が必要なのは成年後見と保佐です。補助は鑑定を必要とされません。成年後見と保佐も原則(原理は例外のないルール。原則は例外のあるルール)なので,鑑定にはお金がかかることもあり,近年では鑑定を必要としないことが多くなっています。
2 保佐開始及び補助開始の申立てにおいては,いずれの場合も本人の同意が必要である。
これも間違いです。
補助の特徴は,本人以外が補助開始の審判の請求を行った場合は,本人の同意が必要なことです。成年後見と保佐は本人の同意を必要としません。
3 保佐開始又は補助開始後,保佐人又は補助人はいずれも被保佐人又は被補助人がした日用品の購入など日常生活に関する行為の取消しを行うことができる。
これも間違いです。
というか,これを間違う人はかなりの勉強不足の人だと言えます。必ず×をつけてほしいです。
「日用品の購入など日常生活に関する法律行為」は,成年後見人,保佐人,補助人いずれも取り消すことができません。
→ 前回の「重要ポイント②」のまたまたの出題です。
4 保佐開始後,被保佐人が保佐人の同意を得ずに高額の借金をした場合,被保佐人及び保佐人いずれからも取り消すことができる。
これが正解です。
保佐人には,同意権・取消権が自動的に付与されるので,取り消すことができます。
保佐は成年後見と違い,同意が必要な法律行為は限定されていますが,「借財及び保証」は同意が必要なものとされています。
5 補助人に同意権を付与するには,被補助人の同意は不要である。
これは間違いです。
補助人に家庭裁判所が権限付与の審判を行うには,同意権,取消権,代理権,いずれも本人の同意を必要とします。
権限付与の審判を行う際に,本人の同意が必要なのは,ほかに,保佐人に対する代理権の付与があります。
そのほかには本人の同意が必要なものはありません。
<今日の一言>
理解しにくいものは,表にまとめてみるととても分かりやすいです。
そんなに複雑ではなく表が作れるので,参考書のすき間に書いてみるのもおすすめです。
確実な理解ができると思います。
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