「権利擁護と成年後見制度」は,午前中の最後の科目です。
問題文が長かった時には,この科目はまともに解けなかったという人が続出しました。
それが「魔の第25回国試」です。
現行カリキュラムは,第22回から始まりました。
そこから,現在(2018年)まで,9回実施されています。
第22~25回 模索期
第26~30回 充実期
第31回~ 転換期
第25回は,合格基準点が最も低くなった回で,全体の文字数は約56,000字です。
第30回は,合格基準点が最も高くなった回で,全体の文字数は約36,000字です。
午前中だけを見てみると
第25回は,約30,000字(1問あたり約360字,1選択肢あたり60字)
第30回は,約20,000字(1問あたり約240字,1選択肢あたり40字)
国家試験の時間数は今と同じ2時間15分でした。
この文章は22字なので,第25回では,すべての選択肢で,このくらいの分量が第30回より多かったことになります。
それが積もり積もって,「権利擁護と成年後見制度」では,時間が足りなくなってしまったのです。
文字数でみると,その当時の問題は,午前中(83問)だけで,現在の全体の文字数(150問)とあまり変わりません。
第26回からは,現在の試験委員長である西九州大学教授(東洋大学名誉教授)の坂田周一先生体制になり,試験問題改革に取り組んできています。
第25回国試は,過去最低の合格基準点の72点
第30回国試は,過去最高の合格基準点の99点
第30回国試の合格基準点は,多くの批判を受けることになりましたが,坂田体制が目指したものにある程度到達したものだったと思います。
第25回国試は,合格基準点を72点に引き下げたにもかかわらず,合格者は18.8%にとどまりました。
坂田体制による試験問題改革とは,合格基準点90点,合格率30%に限りなく近づけるものだと考えています。
試験センターは,下に大きく振れたデータと上に大きく振れたデータを確保することがでたので,これからは難易度のバランスの良い問題が出題されていくことと思います。
これらを踏まえたうえで,現在の国試を合格するのに最も重要なことは,次の2点です。
①出題基準に示された範囲をまんべんなく覚えていること。
②国試問題を正確に読み取る力をもつこと。
①出題基準に示された範囲をまんべんなく覚えていること。
は当然のことだと思いますが,文字数が短くなり,日本語の言い回しで判断できない問題に変わっていることもあり,基礎力は今までよりも必要となっています。
②国試問題を正確に読み取る力をもつこと。
は,問題が短くなっているとは言え,まだまだ文章で出題されています。
文章で出題される限り,ほころびは発生します。別な言い方をすると,不足している知識をカバーできる可能性があるということです。
あきらめたら,そこで終わります。知らないものでもどこかに手がかりがないかと必死で探しましょう。
その重要性を感じさせるのは,以下の問題です。
第29回・問題3 心臓の正常解剖に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 冠状動脈は大動脈起始部より分岐する。
2 右心房と右心室の間の弁を僧幅弁という。
3 上大静脈と下大静脈は左心房に開口する。
4 肺静脈の中の血液は静脈血である。
5 冠静脈洞は左心房に開口する。
答えは,1です。今なら,どれも参考書に載っているはずです。
しかしこの時点で参考書に載っていたのは,僧帽弁と肺静脈の2つだけです。
3番目の問題で,このようなものが出題されると,心の弱い人は自信をなくすことでしょう。
しかし,難しければ難しいほど,解答のヒントを残してくれているのが今の国試です。
選択肢4は,何度も繰り返し出題されているので,勉強した人は間違いだと分かることでしょう。もう一つの手がかりは,選択肢2です。僧帽弁は左です。三尖弁は右です。
ここで,ほかの選択肢を見ると,3と5も左となっています。選択肢2が左右逆になっていることから,これらも逆になっているかもしれないと考えられます。そうすると1が残ります。
この問題では,正確な知識(僧帽弁と肺静脈)があることによって,正解することができる可能性があります。
実際には,左右や上下を入れ替える問題はそんなにありません。とはいうものの間違い選択肢は簡単に作れるので,作問に困った試験委員は安易な手法に走ることは十分に考えられます。
これから過去問を解く時は,同様な手がかりがないか,という視点をもつことも重要です。
さて,前置きが長くなりましたが,今日の問題は,現時点では最新の第30回の問題です。
第30回・問題80 事例を読んで,次の親族関係における民法上の扶養に関する記述として,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
L (80歳)には長男(55歳)と次男(50歳)がいるが,配偶者と死別し,現在は独居である。長男は妻と子(25歳)の三人で自己所有の一戸建住居で暮らし,次男は妻と重症心身障害のある子(15歳)の三人でアパートで暮らしている。最近,Lは認知症が進行し,介護の必要性も増し,介護サービス利用料などの負担が増えて経済的にも困窮してきた。
1 長男と次男がLの扶養の順序について協議できない場合には,家庭裁判所がこれを定める。
2 長男及び次男には,扶養義務の一環として,Lの成年後見制度利用のための審判請求を行う義務がある。
3 長男の自宅に空き部屋がある場合には,長男はLを引き取って扶養する義務がある。
4 次男が生活に困窮した場合,Lは,長男に対する扶養請求権を次男に譲渡することができる。
5 長男の子と次男の子以外の者が全て死亡したときには,長男の子は次男の子を扶養する義務を負う。
このような短文事例問題は,法制度の知識が必要です。「権利擁護と成年後見制度」では,毎回必ず1問は出題されます。
この科目は午前中の最後の科目です。脳の体力を使い切って,ふらふらになった状態で,事例を読むのは,かなり厳しいことです。
そんな中でも正確に読むためには,問題を解く訓練は必須なのです。
扶養をテーマにした問題は,現行カリキュラムでは,前回紹介した第25回とこの第30回の2回しかありません。
過去3年間の過去問ではお目にかからない問題です。
それでは解説です。
1 長男と次男がLの扶養の順序について協議できない場合には,家庭裁判所がこれを定める。
これが正解です。親権でもそうでしたが,扶養も基本は協議で決めます。それで決められないとき,家庭裁判所が決めます。
江戸時代から「あっしらでは決められねえので,庄屋さんに決めてもらいてぇだ」といったところでしょう。
驚くことに,過去にはこんな出題があります。
村落の寄り合いでの決定は,全員の意見が一致することは困難であったので,多数決で行われることが多かった。(第25回問題34選択肢3)
さすがは「魔の第25回国試」です。問題がマニアックすぎです。答えはもちろん間違いです。庄屋さんなどに判断を任せることが多かったのが正解です。
2 長男及び次男には,扶養義務の一環として,Lの成年後見制度利用のための審判請求を行う義務がある。
これは間違いです。
子らは審判請求の権利がありますが,義務ではありません。
3 長男の自宅に空き部屋がある場合には,長男はLを引き取って扶養する義務がある。
これも間違いです。
子は親に対して扶養義務がありますが,その義務は自分の生活を犠牲にしない程度の義務です。空き部屋があること=扶養しなければならない,ということではありません。
4 次男が生活に困窮した場合,Lは,長男に対する扶養請求権を次男に譲渡することができる。
これも間違いです。
第25回国試と同じですが,扶養請求権は譲渡することはできません。
5 長男の子と次男の子以外の者が全て死亡したときには,長男の子は次男の子を扶養する義務を負う。
これも間違いです。
家庭裁判所が扶養義務を負わせることができるのは,三親等内の親族です。
長男の子と次男の子は四親等なので,扶養義務はありません。
<今日の一言>
今日の問題は,決して難易度が高い問題とは言えません。
それでも間違うときは間違います。
それが国試の怖いところです。
この問題で確実に得点するためには,選択肢5を確実に消去できる知識が必要です。
こういった小さな積み重ねが,合否に大きくかかわってくることを覚えておきましょう。
今は,勉強がとても辛いときだと思います。
その勉強は,正解するために選択肢を一つでも多く消去するものだと思いましょう。
すべての選択肢が分からなくても,1つ分かるだけでも,正解にぐ~んと近づくことができるのです。
それを信じて,夢の実現に向かって突き進みましょう!!
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