ここで混同しないように覚えてほしいのは
職権
職権は,文字通り,その職に対して与えられている権利です。
成年後見制度では,成年後見人等や成年後見監督人の選任は,家庭裁判所の職権で行われます。
成年後見等の開始の審判は,請求権者の請求があって行われます。
後見人等の選任 → 家庭裁判所の職権
成年後見等の開始の審判 → 請求権者の請求
何度も間違い選択肢として出題されるのは,これをクロスした
成年後見等の開始の審判は,家庭裁判所の職権で行う。
知識のない人は正解にしそうですが,よくよく考えてみるとこれは制度的にはあり得ないことなのです。なぜなら,家庭裁判所は日本国民1億2千万人全員の判断の能力を把握していなければならないからです。
そんなことはあるはずがないです。無理です。
そのため,請求権者の請求が必要なのです。請求権者の請求があって初めて,家庭裁判所は動き始めることができます。
家庭裁判所が成年後見人等の選任を職権で行うとは,請求権者が後見人等の希望を出しても出さなくても,家庭裁判所が後見人等にふさわしい人を選ぶことを指しています。
被後見人の財産が多額であったなどの場合には,さらに成年後見監督人等を職権で選任することもあります。
ついでに言えば,職権で選任した者は職権で解任することができます。つまり請求権者の請求がなくても,家庭裁判所はその人物が不適切だと考えた場合は解任することができるということです。
それでは今日の問題です。過去に一度紹介したものですが,今一度考えてみましょう。
第26回・問題80 成年後見制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者については,家庭裁判所は,職権で補助開始の審判をすることができる。
2 成年被後見人のなした日常生活に関する法律行為については,成年後見人が取り消すことができる。
3 家庭裁判所は,成年後見開始の審判をするときは,職権で成年後見人を選任し,保佐人及び補助人についても同様に職権で選任する。
4 成年後見人は,いつでも家庭裁判所に届け出ることによって,その任務を辞することができる。
5 家庭裁判所は,破産者を成年後見人に選任することはできないが,未成年者を成年後見人に選任することはできる。
成年後見人には,被後見人がなした法律行為を取り消すことができる「取消権」が付与されています。
ただし,被後見人の結婚などの「身分行為」と「日用品の購入その他日常生活に関する行為」は取り消すことができません。
日用品の購入その他日常生活に関する行為を取り消すことができないのは,大した金額てもないので,そのくらいは認めましょう,という観点からです。これは保佐人,補助人も同様です。
繰り返し出題されているので,必ず覚えておかなければなりません。
それでは解説です。
1 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者については,家庭裁判所は,職権で補助開始の審判をすることができる。
これは間違いです。
前説の通り,家庭裁判所が職権で行うのは,補助人を含めた成年後見人等の選任です。
補助開始の審判は,請求権者の請求によって行います。
2 成年被後見人のなした日常生活に関する法律行為については,成年後見人が取り消すことができる。
これも間違いです。
日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消すことができません。
3 家庭裁判所は,成年後見開始の審判をするときは,職権で成年後見人を選任し,保佐人及び補助人についても同様に職権で選任する。
これが正解です。
成年後見人等の選任は,家庭裁判所の職権で行います。
4 成年後見人は,いつでも家庭裁判所に届け出ることによって,その任務を辞することができる。
これは間違いです。
「いつでも」ということがあるので,正解にはなりにくいですが,正当な理由があって,家庭裁判所の許可があって辞任することができます。
職権で選任しているのですから,勝手にやめることはできないのです。
5 家庭裁判所は,破産者を成年後見人に選任することはできないが,未成年者を成年後見人に選任することはできる。
これも間違いです。
成年後見人に選任できない者には,未成年者も含まれます。未成年者自身が保護者の保護下にあります。未成年が成年後見になれるわけがありません。
<今日の一言>
家庭裁判所が職権で行うのは,成年後見人等の選任です。
成年後見等の開始の審判は,請求権者の請求によって行われます。
整理しておきましょう。