今回から,成年後見制度のもう一つの制度である任意後見制度を取り上げます。
任意後見制度が現行カリキュラムで出題されたのは,
第23回,第26回,第30回
の3回のみです。
2回続けては出題されたことはないので,第31回に出題される可能性は低いと言えます。
しかし何が起きるか分からないので,やっぱり出題基準に沿って勉強すべきでしょう。
任意後見制度が今まで見てきた法定後見制度と大きく違うのは,本人が元気なうちに,任意後見契約を行うことです。
法定後見は,成年後見人等は家庭裁判所の職権で選任するので,本人が本当はいやだと思っている人も選任されることがあるかもしれません。
「わし(Aさん)が認知症になったら,●●さん(Bさん)に後見人になってもらいたいの~」と思っていても,法定後見では,その望みがかなえられるかどうか分かりません。AさんがBさんに後見人になってもらいたいと思ったら,任意後見制度を活用します。
ただし任意後見契約は,AさんとBさん間のの口約束,あるいは契約書ではだめで,必ず公正証書で行わなければなりません。
Aさんの判断能力が低下した場合,Aさん本人,あるいはBさんを含めた請求権者により
家庭裁判所に請求します。家庭裁判所は任意後見監督人を選任します。任意後見監督人が選任された時点で,任意後見契約が有効になります。
それでは今日の問題です。
第26回・問題81 任意後見契約に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 任意後見契約は,事理弁識能力喪失後の一定の事務を委託する契約書が当事者間で作成されていれば効力を有する。
2 任意後見契約では,本人の事理弁識能力が不十分になれば,家庭裁判所が職権で任意後見監督人を選任する。
3 任意後見人と本人との利益が相反する場合,任意後見監督人があっても特別代理人を選任しなければならない。
4 任意後見人の配偶者は任意後見監督人になることができないが,兄弟姉妹は任意後見監督人になることができる。
5 任意後見監督人の選任後,任意後見人は,正当な理由がある場合,家庭裁判所の許可を得れば任意後見契約を解除できる。
この問題の難易度は中くらいでしょうか。
内容自体は知識がないと難しいものですが,日本語的に正解につながることができるからです。
1 任意後見契約は,事理弁識能力喪失後の一定の事務を委託する契約書が当事者間で作成されていれば効力を有する。
これは間違いです。
任意後見契約は,公正証書によってなされなければなりません。
任意後見制度が出題されたのは,第23・26・30回です。いずれの問題にも公正証書に関するものが出題されています。
2 任意後見契約では,本人の事理弁識能力が不十分になれば,家庭裁判所が職権で任意後見監督人を選任する。
これも間違いです。
法定後見と同様です。家庭裁判所は国民の見張り番ではありません。請求がなければ本人の判断能力(事理弁識能力)が低下したのかどうか家庭裁判所は分かりません。
請求があって,家庭裁判所が動き出せるのです。
3 任意後見人と本人との利益が相反する場合,任意後見監督人があっても特別代理人を選任しなければならない。
これも間違いです。
任意後見制度には,成年後見のような特別代理人の制度はありません。なぜなら,成年後見の場合は,必要がある場合にしか成年後見監督人が選任されないので,利益相反するケースには特別代理人の選任を行う必要があります。
しかし,任意後見制度は必ず任意後見監督人が選任されているので,改めて特別代理人を選任する必要がありません。
4 任意後見人の配偶者は任意後見監督人になることができないが,兄弟姉妹は任意後見監督人になることができる。
これも間違いです。この言い回しの文章はほとんど正解になることはありません。そのため内容が分からなくても,この選択肢は消去できることでしょう。任意後見監督人には,任意後見人の配偶者,兄弟姉妹ともになることはできません。
5 任意後見監督人の選任後,任意後見人は,正当な理由がある場合,家庭裁判所の許可を得れば任意後見契約を解除できる。
これが正解です。
「どうしたら後見人等を辞することができるのか」については,法定後見でも出題されています。どちらも,正当な理由があって家庭裁判所が許可することが必要です。
<今日の一言>
実は,この問題で,初めて「任意後見監督人になれない人」が問われました。
旧カリ時代も含めて,ここまで出題されていません。
この選択肢は,日本語的に間違い選択肢になるパターンなので,×をつけるのはそれほど難しくはないでしょう。
以下のように出題すれば,途端に難しくなります。
任意後見人の配偶者は任意後見監督人になることはできない。
日本語的に判断する隙がありません。
試験センターは,特定の科目で0点を取ってしまう受験者が続出することを恐れています。
そのため,どこかにヒントが入った問題が出題されます。試験委員がそこを意識して出題しているかどうかは分かりませんが,試験センターが蓄積している膨大なデータから難易度を予測して出題していることは想像するに難くありません。
この辺りのことは,次回解説します。
最新の記事
ソーシャルワーク4科目で合格をつかむ
ソーシャルワーク系の4科目は,社会福祉士になるためにはとても重要な科目です。 今日は,そのうちの共通科目の「ソーシャルワークの基盤と専門職」です。 少し難しいかもしれませんが,しっかり覚えれば点数を稼ぐ科目になります。 それでは,今日の問題です。 第26回・問題91 2007年...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
バートレットは,ソーシャルワークの共通基盤として 「価値」「知識」「介入(技術)」 を挙げています。 ソーシャルワーカーなら,フィールドが違えど,共通してもっているもの,という意味です。 3 つの中のうち「 価値 」は,「相談援助の基盤と専門職」で中心的...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
-
国試での出題実績のあるアプローチは以下の12種類です。 出題基準に示されているもの ・心理社会的アプローチ ・機能的アプローチ ・問題解決アプローチ ・課題中心アプローチ ・危...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ノーマライゼーションとは,「ノーマル(普通)」の派生語で「ノーマル化する」という意味です。 「ノーマル化する」のは,障害者の生活です。 世界で最初にノーマライゼーションを提唱したのは,デンマークのバンク-ミケルセンです。 1950年代のデンマークでは,保護の名のもとに...
-
社会福祉士の国家試験には,何度か「PIE(Person-in-Environment)」というものが出題されています。しかし,これは何なのでしょうか。 ネットで調べても,ほとんどヒットしません。 目ぼしいものとしては,相川書房「PIEマニュアル 社会生活機能における問題を記述、分...
-
繰り返しになりますが,ソーシャルワークは欧米生まれです。 なじみのない外国語がたくさん使われますが,苦手だと思うととても損です。 さて,今日のテーマは「ジェネラリスト・アプローチとは何だろう?」です。 まずは前回の復習からです。 ソーシャルワークは,ケースワーク,...
-
社会福祉士は,相談援助の専門職です。 心理職が行うカウンセリング技法は,ソーシャルワーク場面でも活用できます。 参考書には,たくさんの技法が書かれていますが,特に気をつけたいのは,感情の反映です。 感情の反映は,クライエントの発言の情緒的な面を言葉にして返す技法です。 事例問題が...