2018年12月15日土曜日

成年後見制度の徹底理解~その6(保佐1)

今回は,「保佐」を取り上げます。

保佐人には,「同意権」と「取消権」がセットで付与されます。

代理権は,被保佐人の同意があって,家庭裁判所の審判で付与されます。

日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消すことができない点は,成年後見人と同じです。

「同意権」と「取消権」がセットなのは,同意しないで行った法律行為は,取り消すことができるからです。同意権と取消権はセットだということをしっかり覚えておきましょう。


それでは今日の問題です。

第25回・問題80 保佐人の権限及び職務に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 家庭裁判所は,必要があると認めるときは,被保佐人,その親族若しくは保佐人の請求により又は職権で保佐監督人を選任することができる。

2 保佐人と被保佐人との利益が相反する行為については,保佐人は特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。

3 被保佐人は,日用品の購入その他日常生活に関する行為につき,保佐人の同意を要する。

4 保佐人は,保佐の事務を行うに当たっては,被保佐人の心身の状態及び生活の状況の悪化が予想されても,被保佐人の意思を尊重しなければならない。

5 家庭裁判所は,職権で被保佐人のために特定の行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。


勉強不足の人は,かなり難しい問題です。日本語的に解けるのは,選択肢4でしょう。

それでも1つだけでも消去できれば,1つも消去しないよりも,正解できる確率が高まります。あきらめないことが大切です。


それでは,解説です。


1 家庭裁判所は,必要があると認めるときは,被保佐人,その親族若しくは保佐人の請求により又は職権で保佐監督人を選任することができる。

これが正解です。

保佐監督人というのはあまり聞いたことがないかもしれませんが,被保佐人の財産が多額な場合など必要に応じて家庭裁判所の職権で選任選任されるものです。これは成年後見監督人,補助監督人も同様です。


2 保佐人と被保佐人との利益が相反する行為については,保佐人は特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。

これは間違いです。

さすがは「魔の25回」国試の問題です。ものすごく難しいです。

保佐人と被保佐人との利益が相反する行為の場合は,特別代理人ではなく,臨時保佐人の選任を請求しなければなりません。特別代理人は,成年後見人と成年被後見人との利益が相反する行為の場合です。

利益が相反する場合とは,例えば成年被後見人の所有する物件を成年後見人が購入する場合です。

成年被後見人は高く売りたい
成年後見人は安く購入したい

そのために利益相反します。この場合に,特別代理人の選任を請求しなければなりません。

ただし,成年後見監督人が選任されている場合は,新たに特別代理人を選任する必要はありません。


利益相反する場合

成年後見人 vs 成年被後見人 → 特別代理人の選任
保佐人 vs 被保佐人 → 臨時保佐人の選任
補助人 vs 被補助人 → 臨時保佐人の選任

ついでに紹介すると,

子 vs 親権者 → 特別代理人の選任

というのもあります。

さらにいえば・・・

任意後見制度には,特別代理人,あるいは臨時●●人といったものは存在しません。


3 被保佐人は,日用品の購入その他日常生活に関する行為につき,保佐人の同意を要する。

これも間違いです。

日用品の購入その他日常生活に関する行為は,保佐人の同意は必要ありません。また保佐人は取り消すことができません。


4 保佐人は,保佐の事務を行うに当たっては,被保佐人の心身の状態及び生活の状況の悪化が予想されても,被保佐人の意思を尊重しなければならない。

これも間違いです。

被保佐人の意思の尊重は重要です。だからといって被保佐人の心身状態等の悪化が予測される場合でも最優先されるものではありません。ソーシャルワークも同様ですが,最優先されるのは生命の安全です。


5 家庭裁判所は,職権で被保佐人のために特定の行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。

これも間違いです。

代理権は自動的に付与されないので,家庭裁判所の審判が必要です。

しかし,職権ではなく,本人などの請求がなければなりません。

前回紹介したように,家庭裁判所は国民の見張り番ではありません。請求が最初になければ家庭裁判所は動きだせないのです。


<今日のまとめ>

日用品の購入その他日常生活に関する法律行為は,成年後見人等の同意を得る必要もありませんし,成年後見人等が取消すこともできません。

成年後見監督人が選任されていない状況で,成年後見人と成年被後見人の利益が相反する場合には,家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければなりません。

任意後見制度には,特別代理人,あるいは臨時●●人といったものは存在しません。その理由は,法定後見と違って,任意後見では必ず任意後見監督人が選任されるからです。理利益相反の場合は,任意後見監督人が本人側となります。



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