解決志向アプローチは,クライエントとワーカーの対話を通して,解決した未来を描くものです。
ワーカーは,クライエントの語りを傾聴し,クライエントに教えてもらうという姿勢で面接していきます。
その時に用いられるのが質問の技法です。
ワーカーは,クライエントに質問を投げかけることで,クライエントがそれに対して自分で考えて答えていきます。
今までの国家試験で出題された実績のある質問は以下の通りです。
エクセプション・クエスチョン
エクセプションは,例外を意味し,多くの場合はうまくいかないものであっても,うまくいった時を思い起こしてもらうことで,その例外が多く発生することを目的にした質問です。
クライエントはうまくいかないことに目を向けがちですが,毎回だめだったわけではなく,うまくいくこともあります。そこに気がついてもらうことが大切です。
スケーリング・クエスチョン
今までの体験などを数値化して答えてもらう質問です。
現在の状況がとても辛いと思っても,もうちょっと頑張れそうだと思えることを目的としています。
コーピング・クエスチョン
今までの困難な状況をどのように乗り越えてきたのかを尋ねる質問です。
サバイバル・クエスチョン
サバイバルは,生き延びることを意味しています。サバイバル・クエスチョンは,コーピング・クエスチョンの一つで,コーピング・クエスチョンを用いる時よりももっともっと辛い状況の時に用います。
辛い状況であっても生き延びてきたからこそ今があります。
そのことを称賛し,クライエントに勇気をもってもらうことを目的とした質問です。
ミラクル・クエスチョン
最も解決志向アプローチっぽい質問です。
ネットで調べると,「朝を覚ますと今までの問題がすべて解決しています。あなたはそのことにどのように気がつきますか」といったような説明が多いと思います。
誤解を恐れず,簡単に述べると「今の問題がすべて解決したら,あなたはどうしますか」といったことを目的とした質問です。
他にも質問技法はありますが,とりあえず今まで出題されたこれらの質問技法をしっかり押さえましょう。
それでは今日の問題です。
第25回・問題109 解決志向アプローチにおける質問法に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。
1 ミラクル・クエスチョンは,クライエントがこれまでに経験した奇跡的な体験について尋ねる。
2 スケーリング・クエスチョンは,クライエントの経験や今後の見通しを数値に置き換えた評価を尋ねる。
3 コーピング・クエスチョンは,クライエントがこれからどのように問題に対処するかを尋ねる。
4 エクセプション・クエスチョンは,クライエントがこれまでに経験した例外的な失敗体験について尋ねる。
5 サバイバル・クエスチョンは,クライエントがこれから生き抜いていく見通しについて尋ねる。
解決志向アプローチは,これまで8回の出題実績がありますが,質問の技法が具体的に出題されたのは,この時が初めてでした。
この問題は「魔の第25回国試」で出題されたものです。
この年の合格基準点(いわゆるボーダーライン)は,過去最低の72点となりました。
こういった難易度が極めて高い問題が頻発したために多くの人が得点できず,合格基準点が大幅に引き下げられたのです。
それはさておき,今日の問題の正解は選択肢2です。
2 スケーリング・クエスチョンは,クライエントの経験や今後の見通しを数値に置き換えた評価を尋ねる。
数値化することで,自分自身を客観化することができます。
それではほかの選択肢も確認します。
3 コーピング・クエスチョンは,クライエントがこれからどのように問題に対処するかを尋ねる。
5 サバイバル・クエスチョンは,クライエントがこれから生き抜いていく見通しについて尋ねる。
これらの時間軸は,未来に向かっています。
コーピング・クエスチョン,サバイバル・クエスチョンともに過去の困難をどのように乗り越えてきたのかを尋ねる質問です。
未来ではなく過去から現在の体験が対象となります。
1 ミラクル・クエスチョンは,クライエントがこれまでに経験した奇跡的な体験について尋ねる。
ミラクル・クエスチョンは,問題が解決した未来をイメージしてもらう質問です。
過去の体験ではありません。
4 エクセプション・クエスチョンは,クライエントがこれまでに経験した例外的な失敗体験について尋ねる。
エクセプション・クエスチョンは,例外を尋ねる質問であることは正しいですが,尋ねる内容は,例外的にうまくいった体験です。
<今日の一言>
国試は,同じような内容であっても少しずつスタイルを変えて出題します。
基本的にはしっかり勉強した人なら解ける問題が出題されます。
ところが今日の問題は先述のように,「魔の第25回国試」で出題されたものです。
この年は,勉強した人も解けないという問題が頻発しました。
勉強した人も解けない,という出題は,国家試験にふさわしくありません。
国家試験にふさわしい問題は
しっかり勉強した人は解ける。
勉強が足りない人は解けない。
という問題です。
解決志向アプローチの質問の技法は,勉強した人でなければ解けません。
初回で今日の問題のような出題するのは,反則的だと言えます。
しかし2回目以降なら,このような問題は極めて適切な問題になります。
しっかり押さえておきたいです。
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