今回は,エンパワメントアプローチを取り上げます。
エンパワメントアプローチの出題回数は,同率1位の問題解決アプローチと課題中心アプローチに続き第3位につけています。
エンパワメントアプローチは,既に数回登場しているソロモンが提唱したもので,抑圧された状況を認識して,潜在能力に気づいて,対処能力を高められるようにかかわるものです。
それでは今日の問題です。
第30回・問題103 エンパワメントアプローチに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 人・状況・両者の相互作用という三つの相互関連性からクライエントの問題を捉え,「状況の中の人間」という視点を重視する。
2 観察可能な行動として問題を捉え,行動に影響する諸条件を操作することにより行動を変容させる。
3 危機的な状況に陥ったクライエントにできるだけ早期に介入し,現実を受け入れ再出発することを支援する。
4 クライエントが,自分の置かれている抑圧状況を認識し,潜在能力に気付き,対処能力を高めることに焦点を当てる。
5 クライエントのニーズを援助機関の機能との関係で明確化し,その機能を個別化して提供することに焦点を当てる。
国試では11種類のアプローチが出題されています。
それを順番に取り上げていますが,気づいている人もいるかもしれませんが,機能的アプローチを飛ばしています。
機能的アプローチは,機能主義派ケースワークを起源に持つ伝統的アプローチです。
そのためなのか,機能的アプローチは,出題基準に示されているにもかかわらず,一問丸ごと出題された実績はありません。
ようやくここで,選択肢の一つとして機能的アプローチが出てきました。
気がつきましたか?
さて,この問題の正解は,選択肢4です。
4 クライエントが,自分の置かれている抑圧状況を認識し,潜在能力に気付き,対処能力を高めることに焦点を当てる。
エンパワメントアプローチでは,抑圧状況というのが重要な概念になっていることがわかると思います。
エンパワメントアプローチの女性版が「フェミニストアプローチ」です。
それでは,ほかの選択肢も見ていきましょう。
1 人・状況・両者の相互作用という三つの相互関連性からクライエントの問題を捉え,「状況の中の人間」という視点を重視する。
これは心理社会的アプローチです。「状況の中の人」と言えば,心理社会的アプローチです。
2 観察可能な行動として問題を捉え,行動に影響する諸条件を操作することにより行動を変容させる。
これは行動変容アプローチです。「行動に影響する諸条件を操作する」とは,オペラント条件づけを意味していると思われます。
3 危機的な状況に陥ったクライエントにできるだけ早期に介入し,現実を受け入れ再出発することを支援する。
これは危機介入アプローチです。危機介入アプローチは,危機状況に陥った人に対して,できるだけ早期に介入します。
5 クライエントのニーズを援助機関の機能との関係で明確化し,その機能を個別化して提供することに焦点を当てる。
これが機能的アプローチです。
機能的アプローチの「機能的」とは,ワーカーが所属する機関の機能を意味しています。
その機能を個別化して提供するのが機能的アプローチです。
<今日の一言>
試験センターが提示する出題基準には,様々なアプローチとして,7つのアプローチが例示されています。
機能的アプローチで7つが揃いました。
①心理社会的アプローチ
②機能的アプローチ
③問題解決アプローチ
④課題中心アプローチ
⑤危機介入アプローチ
⑥行動変容アプローチ
⑦エンパワメントアプローチ
今まで取り上げてきた問題を振り返ってみてください。
最初よりも理解できるようになっているはずです。
次回からは,出題基準に示されていないものの国試で出題されているアプローチを紹介していきたいと思います。
⑧ナラティブアプローチ
⑨解決志向アプローチ
⑩フェミニストアプローチ
⑪実存主義アプローチ
⑫エコロジカルアプローチ
特に,ナラティブアプローチと解決志向アプローチは重要です。
最新の記事
主な部位別がん死亡数
今回は,主な部位別がん死亡数を学びます。 男女差があります。 最も多いのは, 男性は肺がん 女性は大腸がん 3位までまとめると以下のようになります。 主な部位別がん死亡数 ...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
国試での出題実績のあるアプローチは以下の12種類です。 出題基準に示されているもの ・心理社会的アプローチ ・機能的アプローチ ・問題解決アプローチ ・課題中心アプローチ ・危...
-
グループワークは以下の過程で実施されます。 準備期 ワーカーがグループワークを行う準備を行う段階です。 この段階には「波長合わせ」と呼ばれるクライエントの抱える問題,環境,行動特性をワーカーが事前に把握する段階が含まれます。波長合わせは,準備期に行うので注意が必要です。 ...
-
1990年(平成2年)の通称「福祉関係八法改正」は,「老人福祉法等の一部を改正する法律」によって,老人福祉法を含む法律を改正したことをいいます。 1989年(平成元年)に今後10年間の高齢者施策の数値目標が掲げたゴールドプランを推進するために改正されたものです。 主だった...
-
ICFで用いられる用語の定義 健康状態 疾病,変調,傷害など 心身機能 身体系の生理的機能(心理的機能を含む) 身体構造 身体の解剖学的部分 ...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...