前回に引き続き,今回もナラティブアプローチを取り上げます。
前回の問題の正解
伝統的な科学主義・実証主義に対する批判として誕生した経緯があり,主観性と実存性を重視し,現実は人間関係や社会の産物であり,それを人々は言語によって共有しているとする認識論の立場に立つ考え方である。
約100字もあります。ナラティブアプローチを伝えたくて,思わず力が入ったものだと思われます。
ナラティブアプローチは,現実は客観的なものではなく,主観的なものである,ととらえ,クライエントの語りを重視するものです。語りは極めて主観的なものだからです。
周りからみた「人と環境」の関係性は変わらなくても,人(クライエント)が語りによって「人と環境」の新しい世界が作り上げられます。
重要なのは,ワーカーの語りではなく,クライエントの語りです。
今日は,ナラティブアプローチに基づく事例問題です。
事例問題は簡単だと思っていると間違えるので注意が必要です。
どのような注意が必要なのかは,最後に説明したいと思います。
それでは今日の問題です。
第31回・問題101 事例を読んで,この場面におけるナラティブ・アプローチに基づくA生活相談員(社会福祉士)の応答として,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
Bさん(85歳,男性)は,特別養護老人ホームに入所している。妻は10年前に亡くなっており,子どももいないため身寄りがない。Bさんは,話し相手もおらず,部屋に閉じ籠もりがちである。ある時,A生活相談員に対して,「生きていても仕方がない。早くお迎えがくればいいのに」と語った。
1 「そのような悲しいことは言わないでください」
2 「何があなたをそのような気持ちにさせるのか教えてください」
3 「奥さんの死がBさんの孤独を深めているのかもしれません」
4 「グループ活動に積極的に参加するといいと思います」
5 「この先,きっといいこともありますよ」
ナラティブアプローチに基づくものを選び出さなければなりません。
クライエントが語っている選択肢はありません。
しかし,クライエントの語りを引き出そうとしているものは,
選択肢2 「何があなたをそのような気持ちにさせるのか教えてください」
だけです。
それ以外はすべてワーカーの語りだけで終わっています。
1 「そのような悲しいことは言わないでください」
3 「奥さんの死がBさんの孤独を深めているのかもしれません」
4 「グループ活動に積極的に参加するといいと思います」
5 「この先,きっといいこともありますよ」
選択肢3とは明らかに違います。
事例問題は,正解と誤りは明確に区別して作られます。
そのために,このような明確な違いがあるのです。
こういったところに気がつけば,正解しやすくなるでしょう。
<今日の一言>
今日の問題は,ナラティブアプローチがどんなものであるかを理解していれば,それほど難しいものではありません。
国試で合格するためには,このような問題は確実に正解しなければなりません。
今日の問題のポイントは,クライエントの語りを重視しているものは何か,でした。
事例問題を解く時,ややもすると,その大前提を忘れて,対応的に正しいものを考えてしまいます。
対応的な適切さがポイントではなく,ナラティブアプローチに基づく対応を選ばなければなりません。
もしかすると,対応的には,選択肢3の方が適切だと思う人もいるかもしれません。その思いにとらわれると間違います。
しかし,この問題で問われているのは,適切な対応ではなく,ナラティブアプローチに基づいたものなのです。
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