2019年9月30日月曜日

養護老人ホームにご用心③~2005年の老人福祉法改正のポイント

養護老人ホームの変遷は

養老院(1929年・救護法)
 ↓    ↓
養老施設(1946年・旧生活保護法)
 ↓    ↓
養護老人ホーム(1963年・老人福祉法)

このようになっていることを学んできました。


養護老人ホームは,1963年の老人福祉法が制定された当初は,以下のように規定されていました。

・65歳以上の者であって,身体上若しくは精神上又は環境上の理由及び経済的理由により居宅において養護を受けることが困難な者を収容し、養護することを目的とする施設。

2005年の法改正によって,現在は,以下のように規定されています。


・65歳以上の者であって,環境上の理由及び経済的理由(政令で定めるものに限る。)により居宅において養護を受けることが困難な者を入所させ,養護するととも,その者が自立した日常生活を営み,社会的活動に参加するために必要な指導及び訓練その他の援助を行うことを目的とする施設

2005年改正の目的は,介護保険制度の中での老人福祉法の養護老人ホームの役割を明確化させるものでした。

この改正によって,「養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」も改正され,

養護老人ホームは入所者の処遇に関する計画(以下「処遇計画」という。)に基づき,社会復帰の促進及び自立のために必要な指導及び訓練その他の援助を行うことにより,入所者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるようにすることを目指すものでなければならない。

とされました。

この時の改正で,従来の「生活指導員」が「生活相談員」に改められ,居宅サービス等保健・医療・福祉サービスとの連携に努めるなどソーシャルワーク機能の強化が図られています。

それでは今日の問題です。

第27回・問題135 老人福祉法に規定される養護老人ホームについての次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 入所の要件は,要介護状態もしくは要支援状態であることとされている。

2 都道府県,市町村,社会福祉法人のほか,医療法人や民間営利法人も設置できる。

3 入所者の心身の状況等に応じて,社会復帰の促進及び自立のために必要な指導や訓練,その他の援助を行うこととされている。

4 入所者の居室1室当たりの定員は2人と定められている。

5 入所に当たっては,居住地の市町村と利用契約を締結する必要がある。


第22回の国試以降,老人福祉法は,第23・24・27・29・31回に出題されています。
発展過程では,第22・24・26・28・29・30・31回に出題されているので,老人福祉法は必ず出題されるものである,と思って良いでしょう。

現在の施策では,介護保険法が中心となりますが,老人福祉法も重要施策であることを示すものでしょう。確実に覚えておきたいです。


さて,今日の問題の正解は,選択肢3です。

3 入所者の心身の状況等に応じて,社会復帰の促進及び自立のために必要な指導や訓練,その他の援助を行うこととされている。

この規定は,先述のように2005年改正によって加わったものです。

この改正以前の養護老人ホームの入所要件には,現在と異なり「身体上若しくは精神上又は環境上の理由及び経済的理由」というように「身体上若しくは精神上」があったために,入居者に介護が必要となったときには,介護も提供していました。

この改正で,「身体上若しくは精神上」の規定は削除して,養護老人ホームは,生活支援型の施設への転換を図り,介護が必要となった場合は,介護保険サービスを提供することとなったのです。

それでは,ほかの選択肢も確認しましょう。

1 入所の要件は,要介護状態もしくは要支援状態であることとされている。

養護老人ホームの入所の要件は以下の通りです。

「65歳以上の者であって,環境上の理由及び経済的理由(政令で定めるものに限る。)により居宅において養護を受けることが困難な者」

しっかり覚えましょう。


2 都道府県,市町村,社会福祉法人のほか,医療法人や民間営利法人も設置できる。

養護老人ホームは,第一種社会福祉事業です。
医療法人や民間営利法人の設置は認められません。


4 入所者の居室1室当たりの定員は2人と定められている。

居室は,従来は2人部屋でしたが,2005年改正で,原則個室と変更されました。
この時の改正で,居室面積も変更になり,従来は一人当たり,3.3㎡以上から10.65㎡に拡大されました。

この改正は,生活支援サービスを強化するものです。


5 入所に当たっては,居住地の市町村と利用契約を締結する必要がある。

養護老人ホームは,市町村の措置によって利用します。


<今日の一言>

2005年の老人福祉法の改正で,養護老人ホームの機能には,介護サービスは含まれないものとされました。

入居者に介護が必要となった場合は,介護保険法による介護保険サービスを利用することになります。

2019年9月29日日曜日

養護老人ホームにご用心②~高齢者福祉の発展過程

高齢者に対する施策の変遷をみると,4つのポイントが見えてきます。



1929
現在の養護老人ホームは,救護法に規定される養老院としてスタートした。
1963
老人福祉法の成立により,特別養護老人ホームなどの入所施設,老人家庭奉仕員などの在宅福祉サービスが規定された。
1973
老人福祉法の改正によって老人医療費が無料化されて,1982年老人保健法によって老人医療費の一部負担ができた。
1990
福祉関係八法改正によって,デイサービスなどの在宅福祉サービスが法定化された。
2000
介護保険によって,措置制度から契約制度に変わった。

日本の社会保障制度は

①社会保険制度
②社会福祉制度
③生活保護制度

があります。


高齢者に対する施策を見たときは,

③生活保護制度(救護法及び生活保護法)
  ↓ ↓
②社会福祉制度(老人福祉法)
  ↓ ↓
③社会保険制度(介護保険制度)

と発展していることがわかります。

それでは今日の問題です。


第22回・問題119 第二次世界大戦後の我が国の高齢者保健医療福祉制度の発展過程に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 経済的に困窮した高齢者を対象とする入所施設として,「旧生活保護法」で保護施設,「新生活保護法」では養護老人ホームが設けられた。

2 特別養護老人ホームは,高齢者への経済的援助と介護を行う施設として,老人福祉法(昭和38年)に規定された。

3 デイサービス,ショートステイサービス等は,福祉関係八法改正(平成2年)によって,それまでの措置事業から契約対象の事業に位置づけられた。

4 老人医療費の無料化は,国の制度としては老人福祉法の改正(昭和48年)により行われたが,老人保健法の制定(昭和57年)により一部自己負担が導入された。

5 「ゴールドプラン21」は,介護保険制度が始まった2000(平成12)年度から10か年計画でスタートし,サービス基盤の整備目標や今後の方向性を明らかにした。


第22回国試は,現行カリキュラムでの試験の第1回です。この回の問題は重要です。


正解は,選択肢4です。


4 老人医療費の無料化は,国の制度としては老人福祉法の改正(昭和48年)により行われたが,老人保健法の制定(昭和57年)により一部自己負担が導入された。


老人医療費が無料だった時代に,在宅死と医療機関での死の数が逆転して,現在に至ります。


それでは,ほかの選択肢も確認しましょう。


1 経済的に困窮した高齢者を対象とする入所施設として,「旧生活保護法」で保護施設,「新生活保護法」では養護老人ホームが設けられた。

養護老人ホームは,本当に用心しなければなりません。

次のように変遷しています。

(重要) <養護老人ホームの変遷>

①救護法 養老院
 ↓   ↓
②旧・生活保護法 養老施設
 ↓   ↓
③老人福祉法 養護老人ホーム

養護老人ホームには用心が必要です。


2 特別養護老人ホームは,高齢者への経済的援助と介護を行う施設として,老人福祉法(昭和38年)に規定された。

入所要件に経済的理由が規定されているのは,養護老人ホームです。


3 デイサービス,ショートステイサービス等は,福祉関係八法改正(平成2年)によって,それまでの措置事業から契約対象の事業に位置づけられた。

契約制度に変わったのは,2000年の介護保険です。


5 「ゴールドプラン21」は,介護保険制度が始まった2000(平成12)年度から10か年計画でスタートし,サービス基盤の整備目標や今後の方向性を明らかにした。

ゴールドプラン21は,5年計画で,正式名称は,「今後5か年間の高齢者保健福祉施策の方向~ゴールドプラン21~」といいます。


<今日の一言~高齢者福祉の発展過程のまとめに変えて>

歴史は覚えるのが面倒だという人は多いと思います。

昔のことを覚えたから何になるのか,という思いがあるからなのかもしれません。

しかし,歴史は過去の出来事ではなく,これからのことを考えるためのヒントを多く含みます,

〇〇年に△△があった。

といった勉強方法では無味乾燥です。

施策は社会のニーズに対して作られます。
その時代を感じること,それは必ずしも正しい認識が必要だということではありません。

その時代がどんな時代だったのかを考えてみることが必要です。

そうすると,無味乾燥に思えた歴史も,熱く生きた人たちの息遣いが感じられることでしょう。

2019年9月28日土曜日

老人福祉法が制定された時代とは

日本は,第二次世界大戦によって大打撃を受けて,戦後は多くの人が貧困にあえぎます。

1950年の朝鮮戦争をきっかけに,経済は息を吹き返し,日本は高度経済成長の時代へと突入していきます。

これは,歴史で学ぶことでしょう。

高度経済成長の時代には,ニュータウンと称する大規模団地が造成され,核家族化が進行していきます。

高齢者に対する施策は,恤救規則以降,長らく救貧制度の中にありました。

しかし,高齢者対策は,所得補償では対応できなくなり,制定されたのが老人福祉法です。
これによって,高齢者施策は,救貧から福祉制度に変貌します。

その後,2000年の介護保険によって,高齢者施策は,一般所得者層を対象とする社会保険制度が取り入れていきます。

介護保険ができるまでは,高齢者施策の屋台骨を支えた老人福祉法は極めて重要な意味を持つ法制度です。

それでは,今日の問題です。

第26回・問題128 老人福祉法が制定された1963年(昭和38年)当時の状況に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 老人福祉法の制定に先立つ1960年(昭和35年)の国勢調査において,我が国の人口の高齢化率は7%を超え,高齢化社会に突入した。

2 老人福祉法では,市町村による老人家庭奉仕員に関する規定が置かれた。

3 老人福祉法において,特別養護老人ホームの制度が創設されたが,常時介護を要する者であれば,市町村の措置でなくても,施設との契約により入所することができた。

4 老人福祉法には,有料老人ホームに関する規定は設けられていなかった。

5 老人福祉法において,70歳以上の老人の医療費の一部負担分を国と地方自治体が支給することにより,1963年(昭和38年)から老人医療費は無料とされた。

正解は,選択肢2です。

2 老人福祉法では,市町村による老人家庭奉仕員に関する規定が置かれた。


老人家庭奉仕員は,今の訪問介護員です。

核家族化などにより,介護を必要とする高齢者に対する施策として老人家庭奉仕員が規定されたのです。

同じ理由で,特別養護老人ホームなどが創設されています。

それでは,ほかの選択肢も確認しましょう。

1 老人福祉法の制定に先立つ1960年(昭和35年)の国勢調査において,我が国の人口の高齢化率は7%を超え,高齢化社会に突入した。

WHOの定義では,高齢化率が7%を超えると「高齢化社会」,14%を超えると「高齢社会」,21%を超えると「超高齢社会」とされます。

日本が高齢化社会になったのは,1970年(昭和45年)です。老人福祉法は高齢化が進行したこともあって制定されていますが,高齢化社会になってから制定されたものではありません。


3 老人福祉法において,特別養護老人ホームの制度が創設されたが,常時介護を要する者であれば,市町村の措置でなくても,施設との契約により入所することができた。

先述のように,老人福祉法では,特別養護老人ホームが規定され,常時介護を要する者を対象とする入所施設となりました。

しかし,市町村の措置によって入所します。
これは,この時も現在も同じです。

契約で利用するようになったのは,介護保険です。

老人福祉法で規定する特別養護老人ホームを介護保険法による介護老人福祉施設として都道府県が指定します。これによって介護保険施設となります。

特別養護老人ホームは,老人福祉法の施設,つまり措置によって利用する施設と介護保険施設,つまり契約によって利用する施設の2面を合わせもつことになります。


4 老人福祉法には,有料老人ホームに関する規定は設けられていなかった。

老人福祉法が制定されたときに創設された老人ホームは

特別養護老人ホーム
有料老人ホーム
軽費老人ホーム

の3つです。

生活保護法に規定されていた養老施設は,老人福祉法で規定され直して「養護老人ホーム」となりました。


5 老人福祉法において,70歳以上の老人の医療費の一部負担分を国と地方自治体が支給することにより,1963年(昭和38年)から老人医療費は無料とされた。

老人福祉法が制定されたときに,老人保健に関する規定があったのは,65歳以上の高齢者に対する健康診査です。

老人医療費無料化は,1973年(昭和48年)の老人福祉法改正によって実施されました。

その後,2度のオイルショックを経験した日本は低成長時代になり,1982年(昭和57年)の老人保健法の制定により,老人医療費の一部負担が実施されることになります。


<今日の一言>

戦後の日本は,生活を大きく変貌してきました。
その一つが核家族化の進行です。

これにより,新しい福祉ニーズとして,介護の問題と子育ての問題が生まれていきます。
高齢者に対する施策は比較的早くから実施されたと言えますが,子育て支援はかなり遅れます。

一般家庭を対象とした児童手当の創設は,1971年(昭和46年)です。

それはさておき,日本はその後世界でも類を見ないスピードで高齢化が進行していきます。

現在は社会福祉制度としての老人福祉法,社会保険制度としての介護保険法の2つがあるのが,高齢者施策の特徴です。

障害者,児童,低所得者などにはこのように2つある制度はありません。

2019年9月27日金曜日

高齢者福祉の発展~養護老人ホームにご用心

老人福祉法では,老人福祉施設として

〇老人デイサービスセンター
〇老人短期入所施設
〇養護老人ホーム
〇特別養護老人ホーム
〇軽費老人ホーム
〇老人福祉センター
〇老人介護支援センター

が規定されています。

その中で,養護老人ホームは,ほかの老人福祉施設と少し変わったあゆみをしてきました。

もともとは,救護法で「養老院」,旧生活保護法で「養老施設」,そして老人福祉法で「養護老人ホーム」となりました。

この変遷をみると,老人福祉法が成立する前は,高齢者に対する施策は,貧困対策だったことがうかがわれます。

現在でも,養護老人ホームの入所要件は「環境上の理由及び経済的理由」となります。

高齢者福祉の発展過程にかかわる出題の場合,かなりの確率で養護老人ホームを絡めて出題してくるので,しっかり押さえておきたいです。

それでは今日の問題です。

第24回・問題119 介護保険法が公布(平成9年12月17日)された時点での老人福祉法による高齢者福祉制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 65歳以上の者についての養護老人ホームや特別養護老人ホームへの入所又は入所の委託の措置は,都道府県が採っていた。

2 特別養護老人ホームに入所又は入所の委託の措置が採られるのは,低所得の者に限られていた。

3 特別養護老人ホームは,無料又は低額な料金で65歳以上の者を入所させ,常時の介護等を供与することを目的とする施設だった。

4 養護老人ホームは,65歳以上の者であって,身体上若しくは精神上又は環境上の理由及び経済的理由により居宅での養護が困難な者を入所させた。

5 65歳以上の者についての養護老人ホームや特別養護老人ホームへの入所又は入所の委託の措置に要する費用の8割は,国が負担していた。

とてもユニークな出題だと思います。

そんな昔のことは知らないよ,と思う人もいたでしょう。

勉強しなかった,と自分を責める人もいたでしょう。

しかし,それはほとんどの受験者は同じことです。

難易度は高い問題は,多くの人が解けないので,正解できなくも合否にはそれほど関係しません。

なぜなら,難易度が高い問題が多かった場合は,合格基準点が下がるからです。

とは言うものの,正解できた方が良いので,しっかり思考して正解確率を高めましょう。
選択肢を一つでも多く消去できたら,正解確率が上がります。

さて,問題に戻ります。

正解は,

4 養護老人ホームは,65歳以上の者であって,身体上若しくは精神上又は環境上の理由及び経済的理由により居宅での養護が困難な者を入所させた。

養護老人ホームの現在の入所要件は,先述のように「環境上の理由及び経済的理由」です。

しかし,老人福祉法に規定されたときは「身体上若しくは精神上又は環境上の理由及び経済的理由」というように,「身体上若しくは精神上」が規定されていました。

この規定は,2005年改正によって,削除されて現在に至ります。

現在の法制度を知っていると「身体上若しくは精神上」というものが余計に思うので,正解しにくかったと思います。

設問でわざわざ「介護保険法が公布(平成9年12月17日)された時点」と設定しているのは,現在は変更になっている規定について,出題しているからです。

そこにポイントをおいて問題を読むことがくことができたら,この選択肢を選ぶ確率は高まったものと思われます。

他の選択肢も確認しましょう。


1 65歳以上の者についての養護老人ホームや特別養護老人ホームへの入所又は入所の委託の措置は,都道府県が採っていた。

入所の措置は,1990年(平成2年)の福祉関係八法改正で,都道府県から町村に権限移譲されています。


2 特別養護老人ホームに入所又は入所の委託の措置が採られるのは,低所得の者に限られていた。

経済的理由が入所要件に含まれているのは,養護老人ホームです。


3 特別養護老人ホームは,無料又は低額な料金で65歳以上の者を入所させ,常時の介護等を供与することを目的とする施設だった。

無料又は低額な料金で入所させるのは,経費老人ホームです。


5 65歳以上の者についての養護老人ホームや特別養護老人ホームへの入所又は入所の委託の措置に要する費用の8割は,国が負担していた。


この時点では,国は2分の1を負担していました。2005年の改正で,この規定は削除されて,現在は,負担することができるとされているだけです。


<今日の一言>

今日の問題が難しかった理由として,

身体上若しくは精神上又は環境上の理由及び経済的理由

という部分に引っ掛かりを感じてしまうからです。

引っ掛かりを感じる理由は,現在の規定は「環境上の理由及び経済的理由」だからです。

「身体上若しくは精神上」が余計だと感じます。

間違い選択肢を生成する時のポイントを一つ紹介します。

「身体上若しくは精神上」を間違い選択肢を生成するために付け加える処理を加えた場合は,以下のようになるのが一般的です。

環境上の理由及び経済的理由又は身体上若しくは精神上

といったように,正しいものの後に加えます。

このことによって,うっかり者の早とちりさんは,最初の部分を読んで,引っ掛けられる率が高まります。

この逆に余計な部分を正しいものの前に加えて間違い選択肢を生成する処理を行った問題は今まで見たことがありません。

間違い選択肢にするために加えた部分を先に持ってくると,違和感を強く感じてしまうので,引っ掛けられる人が少なくなるからかもしれません。

2019年9月26日木曜日

老人医療費の無料化の実施~日本の社会保障史の金字塔

老人福祉法は,老人福祉施設等を規定したものですが,法が成立した当時は,65歳以上の者に対する健康診査事業を規定するなど,老人保健を含んだものでした。

その後,1973年(昭和48年)には,70歳以上の医療保険の自己負担分を公費で支給する法改正が実施されて,老人医療費が無料化されました。

その後老人医療費の急増に伴い,1982年(昭和57年)に老人保健法を成立させて,老人医療費の一部負担が導入されました。

老人医療費の無料化は,1973年の老人福祉法改正に始まり,1982年の老人保健法制定に終わりました。たった9年間とは言え,日本の社会保障史の中で,老人医療費を無料化した施策は後世に語り継がれていくものでしょう。


さて,それでは今日の問題です。

第28回・問題127 次の記述のうち,老人福祉法において規定されたことのある制度や事業として,正しいものを1つ選びなさい。

1 市町村は,自らが行う介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施に関する計画を定める。

2 70歳以上の者で国民健康保険の被保険者又は被用者保険の被扶養者であるものに対して,その医療保険自己負担額を公費で支給する。

3 1961年(昭和36年)4月1日において,50歳を超える者等についてその者が70歳に達した時から老齢福祉年金を支給する。

4 高齢者専用賃貸住宅を設置し高齢者を入居させ,日常生活を営むために必要な福祉サービス等を提供する。

5 シルバー人材センター事業を実施し,高年齢退職者の希望に応じた就業で,臨時的かつ短期的なものや軽易な業務に係るものの機会を確保しその就業を援助する。


この問題は,秀逸な作問だと思います。

すべての選択肢は,嘘はなく,問題の設定によって,適切なものと不適切なものに分かれる問題だからです。

第32回国試は,試験委員の大半が入れ替わりましたが,こんな問題を出題してくれることを期待しています。


正解は選択肢2です。

2 70歳以上の者で国民健康保険の被保険者又は被用者保険の被扶養者であるものに対して,その医療保険自己負担額を公費で支給する。


一般的には,老人医療費無料化と表現されますが,どのように無料化が実施されたのかがよくわかる文章だと思います。

そういったところもこの問題の作問技術を際立たせているポイントです。

そのほかの選択肢も解説したいと思います。



1 市町村は,自らが行う介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施に関する計画を定める。

これは,介護保険法の規定です。



3 1961年(昭和36年)4月1日において,50歳を超える者等についてその者が70歳に達した時から老齢福祉年金を支給する。

これは,国民年金法の規定です。

国民年金法の実施でわが国は国民皆年金が出来上がりますが,老齢福祉年金を創設したことで隙間を埋めたのです。



4 高齢者専用賃貸住宅を設置し高齢者を入居させ,日常生活を営むために必要な福祉サービス等を提供する。

これは,高齢者住まい法の規定です。現在は,高齢者専用賃貸住宅(高専賃)は廃止され,サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)が規定されています。



5 シルバー人材センター事業を実施し,高年齢退職者の希望に応じた就業で,臨時的かつ短期的なものや軽易な業務に係るものの機会を確保しその就業を援助する。

これは,高年齢者雇用安定法の規定です。



<今日の一言>

今日の問題は,社会福祉士の国試らしい問題だと言えます。

というのは,社会福祉士は,法制度に精通したスペシャリストとして期待されていることもあり,国試では,制度の根拠法が問われるからです。

社会福祉士の国試には,法制度系の問題があります。

法制度を勉強する際,その制度はどの法律にもとづいたものであるのかをぜひ意識してみてください。

障害者なら,障害者基本法,障害者総合支援法,障害者雇用促進法などがあります。

高齢者なら,介護保険法,老人福祉法などがあります。

どの法律が根拠になった法制度なのかを意識することで,得点力の底上げが期待できます。

(おまけ)

老人医療費の無料化は,今となっては,国民医療費の高騰を招いたなど様々な批判もあるでしょう,

しかしそれは結果論です。

医者に診てもらうのは,死んだあと,つまり死亡診断書を書いてもらうためだけだったという時代もあります。

豊かな社会の実現を夢見て,熱く語り合った時代であったことは忘れてはなりません。

2019年9月25日水曜日

福祉関係八法改正で何が変わったのか?

1990年(平成2年)の通称「福祉関係八法改正」は,「老人福祉法等の一部を改正する法律」によって,老人福祉法を含む法律を改正したことをいいます。

1989年(平成元年)に今後10年間の高齢者施策の数値目標が掲げたゴールドプランを推進するために改正されたものです。

主だった改正点は,

老人福祉法では,老人福祉計画の策定義務。特別養護老人ホームなど入所にかかわる措置権限を都道府県から町村への移譲。この権限移譲は,身体障害者福祉法でも実施されています。

老人保健法では,老人保健計画の策定義務。老人福祉計画と老人保健計画の2つ合わせて老人保健福祉計画といいます。

社会福祉事業法では,デイサービスなど居宅支援サービスを第二種社会福祉事業に追加。

などです。

実際には,市町村が策定した老人保健福祉計画の数値を積み上げるとゴールドプランの数値よりも上回ったため,1994年(平成6年)に数値目標を引き上げた新ゴールドプランを策定しなおしています。


さて,それでは今日の問題です。


第29回・問題127 老人福祉法の展開に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 老人福祉法制定時(1963年(昭和38年))には,特別養護老人ホームは経済的理由により居宅において養護を受けることが困難な老人を収容するものとされていた。

2 65歳以上の者に対する健康診査事業は,老人医療費支給制度の導入時(1972年(昭和47年))に法定化された。

3 高齢者保健福祉推進十か年戦略(1989年(平成元年))を円滑に実施するため,老人福祉計画の法定化を含む老人福祉法の改正(1990年(平成2年))が行われた。

4 老人家庭奉仕員派遺制度は,老人福祉法改正時(1990年(平成2年))に,デイサービスやショートステイと共に法定化された。

5 介護保険法の全面施行(2000年(平成12年))に合わせて,老人福祉施設等の入所事務が都道府県から町村に権限移譲された。


前回の問題と違い,選択肢の内容が文章問題になっています。

文章問題の方が難易度が高くなります。


正解は,選択肢3です。

3 高齢者保健福祉推進十か年戦略(1989年(平成元年))を円滑に実施するため,老人福祉計画の法定化を含む老人福祉法の改正(1990年(平成2年))が行われた。


1990年の福祉関係八法改正は,高齢者福祉を含めた福祉制度のターニングポイントの一つです。

しっかり覚えておきたいです。

そのほかの選択肢はどこが間違っているのかを解説しましょう。



1 老人福祉法制定時(1963年(昭和38年))には,特別養護老人ホームは経済的理由により居宅において養護を受けることが困難な老人を収容するものとされていた。

入所要件に経済的要件が規定されているのは「養護老人ホーム」です。

養護老人ホームの歴史的発展は,何度も何度も繰り返して出題されています。



2 65歳以上の者に対する健康診査事業は,老人医療費支給制度の導入時(1972年(昭和47年))に法定化された。

65歳以上の者に対する健康診査事業は,老人福祉法が制定された1963年(昭和38年)に法定化されたものです。



4 老人家庭奉仕員派遺制度は,老人福祉法改正時(1990年(平成2年))に,デイサービスやショートステイと共に法定化された。


老人家庭奉仕員派遺制度は,現代のホームヘルプサービス(訪問介護)です。老人福祉法制定時に法定化されました。



5 介護保険法の全面施行(2000年(平成12年))に合わせて,老人福祉施設等の入所事務が都道府県から町村に権限移譲された。

老人福祉施設等の入所事務が都道府県から町村に権限移譲されたのは,1990年(平成2年)の福祉関係八法改正です。


<今日の一言>

歴史を覚えるのは面倒かもしれません。

しかし,歴史は過去のものではなく,現在を形作るものです。

そして未来につながります。

2019年9月24日火曜日

高齢者福祉の発展過程~老人保健制度

社会福祉士の国試は,歴史の試験ではありません。

〇〇年に〇〇があったというような覚え方が必要な問題はほとんどありません。

必要なのは,いつ頃の時代の出来事なのかということです。

さて,高齢者福祉の発展過程に出題される内容はほぼ決まっています。
とんでもなくマイナーな施策が出題されたことはありません。

それでは今日の問題です。


第30回・問題131 高齢者に関わる保健医療福祉施策に関する次の記述のうち,施策の開始時期が最も早いものを1つ選びなさい。

1 老人福祉法による70歳以上の者に対する老人医療費支給制度

2 老人保健制度

3 老人福祉法による65歳以上の者に対する健康診査

4 介護保険制度

5 高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)


時代を聞かれる出題は,現行カリキュラムでは初めての問題です。


最後に,これに似たような問題が出題されたのは第21回が最後でした。

第21回・問題101 児童福祉分野の法律等の制定に関する次の記述のうち,年代の古い順に並べたときに第3番目に位置するものとして,正しいものを一つ選びなさい。
1 「児童手当法」が制定される。
2 「児童扶養手当法」が制定される。
3 「児童虐待の防止等に関する法律」が制定される。
4 「次世代育成支援対策推進法」が制定される。
5 「児童憲章」が制定される。

この問題では,第3番目に来るものを当てさせることが大切な問題であったように思います。

というのは,日本において,児童手当の創設は社会保障制度の中では遅い時期になったからです。

順番は

①1951年 児童憲章
②1961年 児童扶養手当法
③1971年 児童手当法
④2000年 児童虐待防止法
⑤2003年 次世代育成支援対策推進法

この問題では出題されていませんが,特別児童扶養手当法が制定されたのは,1964年です。

わが国では,児童に関する手当は,特別ニーズのある児童の手当てが先に創設されて,普遍的な手当てである児童手当がそのあとに創設されていることが特徴です。


さて,今日の問題に戻ります。

順番は

①1963年 老人福祉法による65歳以上の者に対する健康診査
②1973年 老人福祉法による70歳以上の者に対する老人医療費支給制度
③1982年 老人保健制度
④1989年 高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)
⑤2000年 介護保険制度

となります。


<今日の一言>

国試問題の中の正解選択肢は,その試験委員が最も知ってもらいたいものを意味しています。
そういった意味で,老人保健制度は,老人福祉法に含められていたということを知ってもらいたかったことなのだと推測できます。

高齢者福祉の発展過程は,内容が繰り返されているので,正解になったものが,別の回では間違いとして出題されたり,間違いになったものが,別の回では正解として出題されたり,が繰り返されています。

今日の問題は,高齢者福祉の発展過程を学ぶときの骨組みとなるものです。
しっかり覚えておきたいです。

2019年9月23日月曜日

高齢者福祉の発展過程の出題確率は70%!!

今回から「高齢者に対する支援と介護保険制度」を取り上げています。

この科目は,10問もある科目です。

法制度の科目は,「福祉サービスの組織と経営」のような理論を学ぶ科目よりも覚えやすいという印象があるかもしれません。

しかし,覚えやすさと得点は直結しないことに注意が必要です。

理論は覚えるのは大変かもしれませんが,知識がなくても解ける問題が存在します。

問題を前にして,ひるまなければ答えを引き出すことができる可能性があります。

それに対して,法制度は,きっちり覚えることで正解に結び付くので,実は結構ハードルが高いと言えます。あいまいな知識は許されないからです。

法制度の中に入る前に,歴史から入っていきたいと思います。

福祉の歴史と言っても,太古のものはありません。さかのぼったとしても,せいぜい近世であり,多くは近代です。大昔の出来事ではありせん。

高齢者福祉の発展過程に関する出題確率は・・・

なんと70%!!

驚異的な出題確率です。

現行カリキュラムでの国試となった第22回以降の出題は,

第22・24・26・28・29・30・31回です。

出題されなかったのは,第23・25・27回のわずか3回です。

しかも第28回以降は必ず出題されています。

苦手だと思うにはもったない領域です。

法制度の中でも,歴史は現在のトピックに左右されないこともあり,出題内容は安定しています。

つまり過去問を使っての対策が効果的だと言える領域です。

それでは,前説なしに問題です。

第31回・問題126 日本における高齢者の保健・福祉に係る政策に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 老人福祉法制定前の施策として,生活保護法に基づく特別養護老人ホームでの保護が実施されていた。

2 老人福祉法の一部改正により実施された老人医療費支給制度では,65歳以上の高齢者の医療費負担が無料化された。

3 老人医療費支給制度による老人医療費の急増等に対応するため,老人保健法が制定された。

4 高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)の中で,老人保健福祉計画の策定が各地方自治体に義務づけられた。

5 介護保険法の制定により,それまで医療保険制度が担っていた高齢者医療部分は全て介護保険法に移行した。


歴史が苦手だと思う人にとっては,いやだと思う問題かもしれません。

しかし,ここに出題されている部分の多くは,過去に出題された内容の繰り返しです。
ちゃんと手を打つことができるものです。


正解は,選択肢3


3 老人医療費支給制度による老人医療費の急増等に対応するため,老人保健法が制定された。

1973年(昭和48年)の老人福祉法の改正によって,70歳以上の高齢者の医療費が無料となりました。

老人医療費を含む社会保障費が高くなってもそれに見合う歳入があれば,問題はありません。

しかし,その後2回のオイルショックを経験し,時代は低成長時代となりました。日本は欧米に比べると早期に立ち直ったと言えますが,高度経済成長のような成長は見込まれません。

そこで,1982年(昭和57年)に老人保健法を制定し,老人医療費の一部負担を規定しました。

ここでもう一つ覚えておきたいことは,65歳以上の健康診査などの老人保健は,もともと老人福祉法に規定されていましたが,老人保健法によって,老人保健は老人福祉から独立した領域として確立されたことです。

老人保健法は,その後2008年に改正されて,「高齢者の医療を確保する法律」に改称されています。


それでは,ほかの選択肢もどのように間違っているのかを確認していきましょう。


1 老人福祉法制定前の施策として,生活保護法に基づく特別養護老人ホームでの保護が実施されていた。

特別養護老人ホームは,老人福祉法で創設されたものです。

老人福祉法ができる前に,生活保護法に規定される保護施設だったのは,養護老人ホームです。

そのために,現在でも養護老人ホームの入所要件には,「経済的理由」が規定されています。

養護老人ホームの出題は多いので,しっかり覚えておきたいです。

養護老人ホームの歴史を紐解くと

1929年(昭和4年)の救護法で「養老院」が規定されたことに始まります。旧生活保護法で「養老施設」となり,老人福祉法で「養護老人ホーム」となり,現在に至ります。

養護老人ホームの利用者が介護が必要となった場合は,介護保険法に規定される特定施設入居者生活介護等として介護保険サービスを提供しますが,他の介護保険サービスと違って,利用にあたって契約を締結しないのが特徴です。

そのほかに,養護老人ホームの特徴として,社会復帰の促進及び自立のために必要な指導や訓練を行うが規定されていることが挙げられます。この規定は養護老人ホームがかつて保護施設であったことを物語るものだと言えるでしょう。


2 老人福祉法の一部改正により実施された老人医療費支給制度では,65歳以上の高齢者の医療費負担が無料化された。

先述のように,1973年(昭和48年)の老人福祉法の改正によって,老人医療費が無料化されました。ただし,年齢は65歳以上ではなく70歳以上です。


4 高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)の中で,老人保健福祉計画の策定が各地方自治体に義務づけられた。

ゴールドプランは,老人福祉サービスの整備計画です。

老人保健福祉計画の策定を義務づけたのは,1990年(平成2年)の福祉関係八法改正です。


5 介護保険法の制定により,それまで医療保険制度が担っていた高齢者医療部分は全て介護保険法に移行した。

介護保険法が施行されても,医療療養病床は,介護保険法ではなく,医療保険の制度に規定されています。

「すべて」という記述があるので,この規定が分からなくても,何らかの仕掛けがあることは想像することができるでしょう。


<今日の一言>

高齢者福祉の発展過程で中心テーマとなるのは老人福祉法の制定及び改正についてです。

次回からは,問題を解きながら,それらをしっかり覚えていきましょう。

2019年9月22日日曜日

「福祉サービスの組織と経営」のまとめとして~

約2か月にわたって「福祉サービスの組織の経営」の国試問題について紹介してきました。

社会福祉士の国試は,難しいと思えば難しいですし,簡単だと思えば簡単です。

「福祉サービスの組織と経営」は,多くの人が難しいと思う科目だと思います。
その理由は,日常生活でなじみのない内容だからでしょう。

逆に比較的簡単だと思う科目は,相談援助の理論と方法でしょう。
事例があるからです。

しかし,しっかり知識をつけなければ,どちらの科目も得点することができないのは,同じです。

つまり,難しい,簡単は主観に過ぎないということです。

すべては主観です。

主観は,考え方次第で変えることができます。

多くの人に知っておいていただきたいのは,国試問題は一つひとつを分解してみると,それほど複雑に作られていないということです。

国試の文字数は,第30回と第31回から比べると若干長くなりましたが,それでも最も分量が多かった第24・25回から比べると,15,000字以上短くなっています。

引っ掛けポイントは,その分少なくなりますので,しっかり勉強した人は得点しやすくなっています。

短くなれば,余計な言い回しがなくなるので,正解選択肢は驚くほどストレートな表現となります。

前回の問題をもう一度紹介します。


第30回・問題124 福祉・介護サービス提供体制の確保に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 福祉サービス第三者評価事業は,福祉サービスの質の向上を目的に創設された。

2 介護サービス情報の公表制度では,介護保険事業を行う全事業所への調査が義務づけられている。

3 社会福祉事業の経営者は,利用者等からの苦情の解決を所在地の市町村に委ねなくてはならない。

4 市町村は,社会福祉法に基づき,運営適正化委員会を設けなければならない。

5 個人データは,利用する必要がなくなった場合でも,電子データとして保存するよう努めなければならない。


この中で,絶対に覚えておかなければならないのは,選択肢4

4 市町村は,社会福祉法に基づき,運営適正化委員会を設けなければならない。

この文章は,どこの科目でも出題されるかなり出現度が高いものです。

おそらく勉強不足の人は判断できないでしょう。

運営適正化委員会が設置されるのは,都道府県社会福祉協議会です。

この問題では,おそらくこの選択肢を避けることができれば,正解できる可能性が高まります。


しかし,正解選択肢

1 福祉サービス第三者評価事業は,福祉サービスの質の向上を目的に創設された。

は,あまりにもひねりがない文章のため,本当に正解なのか,と不安に思う人もいます。

国試合格には,確かな知識が必要です。
そしてもう一つ必要なのは,確かな知識に培われる自信です。

最後の最後は,実はそんなところの差が表れるものです。
今やっている勉強は辛いと思いますが,それは国試当日に力を発揮するために必要なことです。

覚えても覚えても忘れてしまうというのは,誰もが経験する試練です。

しかし,国試はマーク式。

底力をつけた人は,必ず答えにたどり着くことができます。

これから,国試までは国試に対してネガティブな言葉を口に出すことは禁止です。

ネガティブな言葉は,百害あって一利なし。

ポジティブな言葉は,主観を変えます。

合格した自分をイメージしましょう。

私は国試に合格できた。

ポジティブな言葉は,明るい明日を拓きます。

「福祉サービスの組織と経営」は今回で終わります。
次回からは,「高齢者に対する支援と介護保険制度」に取り組んでいきたいと思います。

2019年9月21日土曜日

問題からちょっと目を遠ざけてみることの重要性

社会福祉士の国家試験は,現在は150問出題されています。第1・2回の国試問題は非公開だったため,本物の問題はわかりませんが,第3回国試問題は170問出題されているので,第1・2回も170問の出題であったと考えるのが順当でしょう。

精神保健福祉士の国試は,163問なので多いと思いますが,社会福祉士の国試はもっと多かった時代があったのです。

問題数は多くても,問題の作り方がシンプルなものが多いため,知識があればそれほど考えることなく答えられたのではないかと思います。

現在の問題の多くは,文章で構成されています。

文章問題は,よくよく読まないと勘違いをすることもあるので要注意ですが,逆に文章で判断できることもあります。

字面だけを追いかけていると,全体像が見えなくなりますが,ちょっと引いて問題を見てみると,答えが見えてくる問題があります。

それでは今日の問題です。

第30回・問題124 福祉・介護サービス提供体制の確保に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 福祉サービス第三者評価事業は,福祉サービスの質の向上を目的に創設された。

2 介護サービス情報の公表制度では,介護保険事業を行う全事業所への調査が義務づけられている。

3 社会福祉事業の経営者は,利用者等からの苦情の解決を所在地の市町村に委ねなくてはならない。

4 市町村は,社会福祉法に基づき,運営適正化委員会を設けなければならない。

5 個人データは,利用する必要がなくなった場合でも,電子データとして保存するよう努めなければならない。

焦ると混乱しそうな問題です。


正解は,選択肢1

1 福祉サービス第三者評価事業は,福祉サービスの質の向上を目的に創設された。

目的を聞かれるとドキッとしてしまいますが,よくよく考えるとそうなんだろうと思います。


ほかの選択肢をもう一度読んでみましょう。

2 介護サービス情報の公表制度では,介護保険事業を行う全事業所への調査が義務づけられている。
3 社会福祉事業の経営者は,利用者等からの苦情の解決を所在地の市町村に委ねなくてはならない。
4 市町村は,社会福祉法に基づき,運営適正化委員会を設けなければならない。
5 個人データは,利用する必要がなくなった場合でも,電子データとして保存するよう努めなければならない。

なんとなく,正解選択肢と違って,説明的な感じがしませんか?

簡単に説明します。

2 介護サービス情報の公表制度では,介護保険事業を行う全事業所への調査が義務づけられている。

これが正解なら

介護サービス情報の公表制度では,介護保険事業を行う事業所への調査が義務づけられている。

でよいはずです。「全」とつけているのは,本当は「全」ではないと推測することができるでしょう。


3 社会福祉事業の経営者は,利用者等からの苦情の解決を所在地の市町村に委ねなくてはならない。

社会福祉法では,「社会福祉事業の経営者は,常にその提供する福祉サービスについて,利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならない」とされています。
当然ですよね。解決をゆだねるのは他力本願すぎます。


また,市町村はそんなことを請け負う余裕もありませんし,社会福祉事業は市町村の管轄にはありません。


4 市町村は,社会福祉法に基づき,運営適正化委員会を設けなければならない。

運営適正委員会が出されるときのポイントは,たった2つしかありません。

①どこに設置されるか。
②何を行うのか。

①は,都道府県社協です。
②は,福祉サービスの苦情を受け付け,解決のためのあっせんを行います。
指導権限はもちません。また受け付けるのは苦情であって,審査請求ではありません。


5 個人データは,利用する必要がなくなった場合でも,電子データとして保存するよう努めなければならない。

これは解説するまでもないでしょう。


<今日の一言>

今日の問題のようなタイプは,勉強が足りない人でも正解できる可能性があります。
なぜなら,知識がない分,余計な考えを持たないからです。

勉強した人が解けないのは,悔しいですね。
そうならないように,呼吸を整えて,問題から目を遠ざけて,問題全体を眺めることをおすすめします。

そうすると,私が答えですよ,と正解選択肢がささやいているのが聞こえてくることでしょう。

2019年9月20日金曜日

あと数点をアップさせる問題文の読み方~キレキレの解答テクニック

社会福祉士の国試問題は,大別すると2つのタイプがあります。

①勉強した知識で解く問題
②知恵を使って解く問題

①は,必要不可欠なものは知識です。
知識がなければ到底戦うことはできません。

ただし,①も2つのタイプに分かれます。

①-1 知識がストレートに答えになる問題
①-2 消去法を使って答えをあぶりだす問題

難易度が近いのは,①-2のタイプの問題です。

中には,知識を使って消去することで,正解が残り,その方法でなければ正解できないという超難しい問題も存在します。

今日は,「②知恵を使って解く問題」について考えてみたいと思います。

それでは,今日の問題です。


第25回・問題122 コトラー(Kotler,P.)らが提唱する「ソーシャル・マーケティング」という考え方について,正しいものを1つ選びなさい。

1 ターゲット及び社会に便益をもたらすターゲットの行動に対して影響を与えるため,価値を創造し,伝達,流通させるというマーケティングの原理・手法を適用するプロセスである。

2 消費者による選択や顧客志向という考え方を,あまり重要視しない。

3 援助が必要なターゲットについて,細分化せず,同一の性格を有した,同一の集団ととらえることが特徴である。

4 社会問題の解決について,企業に対して社会貢献や社会的責任を求める一方,製品やサービスを開発・供給することは期待していない。

5 マーケティングミックス戦略の順序として,Promotion(プロモーション)が最初に決定され,次いでProduct(製品),Price(価格),Place(流通)の順番で決定される。


合格基準点が72点という過去最低となった「魔の25回国試」の問題です。

ソーシャル・マーケティングは,おそらく現在は参考書などに出ていると思いますが,この国試を受験した人の多くは,この言葉を知らなかったはずです。

心の弱い人がこういった問題を見たとき,心が打ち崩されて思考をやめてしまいます。

たくさん勉強してきたはずなのに「わからない,どうしよう?」と思います。

「教科書も参考書も過去問も模擬試験も完璧に覚えた。こんなはずではなかった」と思うかもしれません。

初めての問題なのですから知らなくて当然です。

つまり受験生全員同じ条件となります。

第25回国試の問題の多くは,国試として適切ではないものであったように思います。

なぜなら,問題が難しかったために,

勉強した人でも解けない。
勉強しない人でも解ける。

という現象が起きたためです。

国家試験の問題は,勉強した人が解けて,勉強が足りない人が解けないのが理想です。



第30回国試よりも第31回国試の方が問題の文字数が増えたことで第32回も文字数が長くなりそうなことと第32回国試の試験委員の3分の2程度が入れ替わったことで,問題に破綻が生じやすくなると予想しています。


これはとても重要なことです。知識にプラスして知恵を使うことで鬼に金棒となるでしょう。

さて今日の問題の解説です。


絶対に正解にならない選択肢は

2 消費者による選択や顧客志向という考え方を,あまり重要視しない。

4 社会問題の解決について,企業に対して社会貢献や社会的責任を求める一方,製品やサービスを開発・供給することは期待していない。



これらの文章に違和感がない人はよくよく注意してみてください。

これらの文章は,正解文章を作ってから,否定形に変える作問法が使われています。


それぞれのもともとの文章は,

2 消費者による選択や顧客志向という考え方を重要視する。

4 社会問題の解決について,企業に対して社会貢献や社会的責任を求めるとともに,製品やサービスを開発・供給することを期待している。



だったと考えられます。

正しい文章を否定形にする作問法は,国試問題を作ることに慣れていない人にとっては,らくらく作問法です。

簡単ですが,問題文に違和感を生じることが難点です。

違和感のある選択肢は,ほとんど正解にならないと言えます。ここに気が付けば,うっかりミスは防ぐことができるでしょう。


3 援助が必要なターゲットについて,細分化せず,同一の性格を有した,同一の集団ととらえることが特徴である。


これは,「人は嘘をつくとき饒舌になる」というタイプの文章です。
この文章が適切であれば,

3 援助が必要なターゲットについて,同一の性格を有した,同一の集団ととらえることが特徴である。

これでよいはずです。

しかしこれでは完全に間違いだと言えなく,不適切問題になってしまう恐れがあります。

そのため「細分化せず」という余計なものを付け加えることで,慎重に確実に間違い選択肢を生成しています。

このタイプの作問法は,数年前までは見られましたが,文字数が短くなる中であまり見られなくなったものです。しかし,問題の文字数が長くなったことで,また頻繁に使われるでしょう。


5 マーケティングミックス戦略の順序として,Promotion(プロモーション)が最初に決定され,次いでProduct(製品),Price(価格),Place(流通)の順番で決定される。

順番のあるものは,順番を入れ替えることで間違い選択肢を生成する作問法です。

しかし,社会福祉士の国試は,順番のあるものはあまりないので,めったに見かけませんが,らくらく作問法です。順番のあるものは,要注意です。

順番のあるものの例としては,

脳幹の並んでいる順番は「中脳→橋→延髄」です。この順番を入れ替えることで間違い選択肢になります。らくらくだと思いませんか?


そうなると残りは

1 ターゲット及び社会に便益をもたらすターゲットの行動に対して影響を与えるため,価値を創造し,伝達,流通させるというマーケティングの原理・手法を適用するプロセスである。

これが正解です。

ソーシャル・マーケティングの意味が分からなくても,解答テクニックで正解にたどり着いてしまう問題です。


<今日の問題>

今日の問題は,

①-2 消去法を使って答えをあぶりだす問題

に近いように思うかもしれません。

しかし,これとはまったく違うタイプです。

なぜなら,今日の問題は,知識で消去するものではなく,解答テクニックで消去するものだからです。

こんな問題は,国賀資格を取得するための問題としては,最悪です。
勉強した人と勉強しない人の差がつかないからです。

真面目な人は,本当に注意しなければなりません。
勘の良い人が解けて,知識偏重の人は解けないことにつながります。

それでは真面目に勉強した人は報われません。そのため,今の国試は,今日のような問題の出題は極力避けるように考えられているように思います。しかし,似たタイプの問題は出題されています。

勘を働かせることは,得点力を上げることにつながるので,しっかり身につけて国試に臨みたいです。


問題が難しいほど解答テクニックは活用できます。過去問を解くときは,そこを意識することが大切です。そのために過去問を解くと言ってもよいでしょう。

試験委員は,その分野のエキスパートが選ばれます。
しかし,国試問題をつくることは,素人です。

そのため,作問が下手な人は,文章に破綻を来す可能性があります。そこが正解するための手がかりとなります。

文字数が長くなれば,その分破綻しやすくなります。

2019年9月19日木曜日

人が人を管理する人事管理

福祉サービス組織の管理は

①サービスの質の管理
②人の管理

に大別することができます。

今回は,そのうちの「②人の管理」を取り上げたいと思います。

一般的には,人事管理,労務管理と呼ばれるものです。

組織のパフォーマンスを最大限に発揮するために,現在の人材(あるいは人財)を伸ばすための組織戦略だと言えるでしょう。

現場レベルでの人事管理で大きな意味を持つのは,職務満足に関する「動機付け要因」につながるものです。

不適切な人間関係などを解消しても,職務不満足を解消するものに過ぎないからです。

これらは,ハーズバーグの動機付け・衛生理論で学びました。

https://fukufuku21.blogspot.com/2019/08/20190808.html

重要なことは,やりがいを持って仕事ができる環境づくりであることが分かります。

それでは今日の問題です。

第24回・問題116 人事管理に関する次の記述のうち,適切なものを一つ選びなさい。

1 ドラッカー(Drucker,P.)が提唱した「目標による管理」は,目標の設定と結果に基づく評価とのシステム化により,従業員満足ではなく組織業績向上を目的とした管理手法である。

2 人材を評価する場合の評価基準としては,個々の法人が求める人材像を基準とする。

3 人材を評価する場合,評価者が陥りやすいエラーとして対比誤差があるが,これは職員同士を対比し評価してしまうエラーである。

4 考課者訓練とは,考課する職員が考課される職員に対して行う訓練をいう。

5 360度評価(多面評価制度)は,評価者である上司が職員の能力や業績だけでなく性格,志向,特技などを多面的に評価することである。


この問題では,人事管理の中でも評価に関したものです。
評価を誤ると,やりがいは一気に下がります。

正解は,

2 人材を評価する場合の評価基準としては,個々の法人が求める人材像を基準とする。

人事採用では,組織の理念に合致した人材を採用していきます。
法人が求める人材像とは,組織の理念を具現化するだと言い換えることができます。

面談などを通して,理念を確認することは欠かせません。
そうしないと少しずつずれていき,気づいたときには,修正できないところまで行きついてしまいます。

ほかの選択肢も見てみましょう。

1 ドラッカー(Drucker,P.)が提唱した「目標による管理」は,目標の設定と結果に基づく評価とのシステム化により,従業員満足ではなく組織業績向上を目的とした管理手法である。

ドラッカーの「目標による管理」を知らなくても,従業員満足(ES)を高めることをしない管理は,必ず破綻します。


3 人材を評価する場合,評価者が陥りやすいエラーとして対比誤差があるが,これは職員同士を対比し評価してしまうエラーである。

対比誤差は,評価者自身と職員を対比してしまうエラーです。
自分と違う人を低く評価してしまう,逆に高く評価してしまうことなどが知られています。


4 考課者訓練とは,考課する職員が考課される職員に対して行う訓練をいう。

考課者訓練は,考課する職員に対して行う訓練です。

対比誤差やハロー効果などを発生させず,正しい評価を行うために行われます。


5 360度評価(多面評価制度)は,評価者である上司が職員の能力や業績だけでなく性格,志向,特技などを多面的に評価することである。

360度評価は,上司だけではなく,同僚,関係する人などによって多面的に評価するものです。

2019年9月18日水曜日

得点力を上げる勉強方法

社会福祉士の国試問題には2種類あります。

①知識がすぐ得点につながる問題

②よくよく考えることで得点できる問題

どちらも必要最低限の知識は求められます。

社会福祉士の国試は親切だなぁ,と時々思うような問題があります。

そういった問題に気付くことができることは,極めて重要です。

さて,今日の問題です。

第29回・問題121 次の記述のうち,個人が暗黙的に行ってきた仕事の仕方(暗黙知)を形式知化する方法に当たるものとして,正しいものを1つ選びなさい。

1 OJTを通して,先輩職員の仕事の仕方を模倣する。

2 各担当係が紙媒体で管理していた業務記録を電子データベース化する。

3 熟練の職員が行う仕事の仕方を文章化し,マニュアルを作る。

4 法人の理念と行動規範を毎日唱和し,職員に周知させる。

5 新人教育でマニュアルの読み合わせを徹底し,マニュアルがなくても仕事ができるようにする。


この問題が親切だなぁと思う理由は

単に「暗黙知」と出題せずに「個人が暗黙的に行ってきた仕事の仕方(暗黙知)」と説明を加えていることです。

それによって,思考が可能となります。

具体的には,

「個人が暗黙的に行ってきた仕事の仕方ではないものは何か」

を考えることです。

そうすると

3 熟練の職員が行う仕事の仕方を文章化し,マニュアルを作る。

がクローズアップされてきます。

これが正解です。

この問題が親切だなぁ,と思うもう一つの理由は,

この選択肢の中に問題文と同じ「仕事の仕方」というフレーズを入れて,この選択肢に無意識に気が向くようにしてくれていることです。

暗黙知は,個人の経験から得られた知識・技能
形式知は,暗黙知をチームなどで共有するための工夫

このようなものだと思えれば,正解できます。


真面目な人は,勉強の段階で,知らないものが出てくると調べます。

それは正しい勉強方法です。

わからない → 調べる → わかった

という図式になります。

しかし,国試会場では調べることはできません。

わからない → 調べられない → わからない,困った,どうしよう

という図式に陥る恐れがあります。

何でも完璧にわからないと気が済まない
完璧にわからないと先に進めない

というタイプの人は注意が必要です。


<今日の一言>

わからないものが出てきたときは,すぐに調べることなく,どのようなものなのかを考えてみることが必要です。

国試会場では調べることができないからです。

この癖をつけると,その言葉はわからなくても類推することができるようになります。
勉強不足の人は,当然ですが合格できません。

何年間も勉強を続けているにもかかわらず,合格できないという人はたくさんいます。

合格できない理由を「勉強不足だ」と思うと,知識をつけることを優先しがちです。

①知識がすぐ得点につながる問題

には対応できるでしょう。

しかし,思考する訓練をしなければ

②よくよく考えることで得点できる問題

で得点することは難しいと思います。

複数回受験しても合格できない,という人は,ぜひ勉強方法を見つめなおしてみることをおすすめします。

知識をつけることに特化した勉強方法では,今日の問題のように,せっかく親切なヒントを出してくれている問題に気が付かず,わからない → 困った というパターンに陥る可能性大です。

別なパターンに変えるためには

わからない → 考えてみる → おおよその見当が当たっていればよしと思う

調べるのは,その次の段階にしましょう。


2019年9月17日火曜日

イージーミスをしない問題の読み方

社会福祉士の国試は,現時点(2019年9月)では,31回実施されています。

今までの推移は,以下の通りです。

受験者数
合格者数
合格率
ボーダー
得点率
1
1,033
180
17.4
 
 
2
1,617
378
23.4
 
 
3
2,565
528
20.6
 
 
4
3,309
874
26.4
 
 
5
3,886
924
23.8
 
 
6
4,698
1,049
22.3
 
 
7
5,887
1,560
26.5
 
 
8
7,633
2,291
30.0
 
 
9
9,649
2,832
29.4
 
 
10
12,535
3,460
27.6
 
 
11
16,206
4,774
29.5
 
 
12
19,812
5,749
29.0
 
 
13
22,962
6,074
26.5
 
 
14
28,329
8,343
29.5
 
 
15
33,452
10,501
31.4
91
60.7
16
37,657
10,733
28.5
85
56.7
17
41,044
12,241
29.8
83
55.3
18
43,701
12,222
28.0
80
53.3
19
45,022
12,345
27.5
81
54.0
20
45,324
13,865
30.6
87
58.0
21
46,099
13,436
29.1
85
56.7
22
43,631
11,989
27.5
84
56.0
23
43,568
12,255
28.1
81
54.0
24
42,882
11,282
26.3
81
54.0
25
42,841
8,058
18.8
72
48.8
26
45,578
12,540
27.5
84
56.0
27
45,187
12,181
27.0
88
58.7
28
44,735
11,735
26.2
88
58.7
29
45,828
11,828
25.8
86
57.3
30
43,937
13,288
30.2
99
66.0
31
41,639
12,456
29.9
89
59.3
合計
872,246
241,971
26.9
84.9
56.7


合格率の最大値は31.4%(第15回),最小値は18.8%(第25回),平均は,26.9%です。

決して楽に合格できる資格ではないことがわかることでしょう。
しかし,合格率ほどには実は難しい問題が出題されているわけではありません。

得点できる問題をミスせず確実に正解できることが何よりも大切です。

さて,今日の問題です。

第25回・問題125 労働契約や就業規則に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 事業所の規模に関係なく,使用者は就業規則を作成し,所轄の労働基準監督署に届け出なければならない。

2 使用者は就業規則を,労働者に対して周知する必要がある。

3 労働契約が就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める場合は,労働契約で定める基準が有効になる。

4 使用者は時間外労働や休日労働について,就業規則に規定しておくことで,労働者に命令することができる。

5 使用者は就業規則の変更によって労働条件を変更しようとする場合,労働者に不利益な内容であっても,労働者の過半数の合意をとれば変更できる。


この問題は,以前に一度取り上げているので,解説等はそちらを参考にしてみてください。
https://fukufuku21.blogspot.com/2017/11/blog-post.html

今回は,問題の読み方を考えてみたいと思います。

正解は,

2 使用者は就業規則を,労働者に対して周知する必要がある。

極めて当たり前のことでしよう。

しかし,実際には,ほかの選択肢があるために,この選択肢を素直に正解にすることができません。国試問題の恐ろしさを感じます。

国試は,実はそれほどひねったりしていません。
それにもかかわらず,変な勘繰りをすると正解から遠ざかってしまいます。

問題文の読み方に着目して解説します。


1 事業所の規模に関係なく,使用者は就業規則を作成し,所轄の労働基準監督署に届け出なければならない。

この文章が正しければ,

使用者は就業規則を作成し,所轄の労働基準監督署に届け出なければならない。

で良いはずです。

それをわざわざ

事業所の規模に関係なく

を付け加えていることで,事業所の規模に関係がありそうだと見当をつけることができます。


3 労働契約が就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める場合は,労働契約で定める基準が有効になる。

これは柔らか頭が必要となります。

労働契約と就業規則の関係性で考えた場合,就業規則で定める基準に達しない労働条件を定めたとき,労働契約が優先されるのであれば,就業規則を定める意味がなくなります。


4 使用者は時間外労働や休日労働について,就業規則に規定しておくことで,労働者に命令することができる。

労働基準法は,労働者の権利を保障するものです。
そんなに簡単には命令することはできません。
36協定と呼ばれるものが必要です。
内容までは詳しく覚える必要はありません。


5 使用者は就業規則の変更によって労働条件を変更しようとする場合,労働者に不利益な内容であっても,労働者の過半数の合意をとれば変更できる。

労働法規は,労働者の権利を保障するためのものです。
労働者は,法で守らないとブースやラウントリーが明らかにしたような貧困を生じる可能性があるほど弱い存在です。

労働者に不利益な内容に変更することは認められるものではありません。


<今日の一言>

今日の問題と,問題のつくり方がそっくりなものが第31回国試に出題されています。

第31回・問題31 日本の最低賃金制度に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 地域別最低賃金額は,特定最低賃金額を上回るものでなければならない。
2 地域別最低賃金額は,労働者の生計費を考慮せずに決定される。
3 地域別最低賃金額は,労使が行う賃金交渉によって決定される。
4 最低賃金の適用を受ける使用者は,労働者にその概要を周知しなければならない。
5 支払能力のない事業者は,地域別最低賃金の減額適用を受けることができる。

正解は,選択肢4です。
2つの問題の正解を並べてみると・・・

4 最低賃金の適用を受ける使用者は,労働者にその概要を周知しなければならない。
2 使用者は就業規則を,労働者に対して周知する必要がある。

内容は違っても,文章はほとんど同じです。

答えがわかると「あぁ,なるほど」だと思うでしょう。

しかし,今日の問題のように,簡単に正解できるようには作られません。
なぜなら,王将を守る将棋の駒のように,間違い選択肢が正解選択肢を守っているからです。

こういったタイプの問題は,これからも出題されるでしょう。
正解自体は,それほど難しくはありません。

それだけを取り上げると,至極当たり前の内容です。

間違い選択肢が巧妙に配置されているので,正解にたどり着くのは,決して簡単ではありません。
勉強をしたことがないものが出題されたことに驚き,慌てふためく人は,正解にたどり着くことが難しいと言えます。

どんなに勉強しても,勉強したことがない問題は出題されます。
しかし,決して慌てることなく,落ち着いて問題を読むことができれば,正解にたどり着くことができます。

この時に,変に勘繰って,こんなに単純なものが正解になるわけがない,と思う人は正解にたどり着くことはできないでしょう。

変に勘繰らないことが大切です。
こういった問題の場合は,正解選択肢を正解にできないと,消去法がうまく使えないものもあるため,注意が必要です。

最新の記事

その分野の基本法をまず押さえよう!

  勉強にはいろいろなやり方がありますが,枝葉だけを見ていると見えるものも見えなくなってしまうものもあります。   法制度は,必然性があって出来上がるものです。   法制度を勉強する時には,必ずそれを押さえておくようにしましょう。   そうすれば,試験当日...

過去一週間でよく読まれている記事