日本は,第二次世界大戦によって大打撃を受けて,戦後は多くの人が貧困にあえぎます。
1950年の朝鮮戦争をきっかけに,経済は息を吹き返し,日本は高度経済成長の時代へと突入していきます。
これは,歴史で学ぶことでしょう。
高度経済成長の時代には,ニュータウンと称する大規模団地が造成され,核家族化が進行していきます。
高齢者に対する施策は,恤救規則以降,長らく救貧制度の中にありました。
しかし,高齢者対策は,所得補償では対応できなくなり,制定されたのが老人福祉法です。
これによって,高齢者施策は,救貧から福祉制度に変貌します。
その後,2000年の介護保険によって,高齢者施策は,一般所得者層を対象とする社会保険制度が取り入れていきます。
介護保険ができるまでは,高齢者施策の屋台骨を支えた老人福祉法は極めて重要な意味を持つ法制度です。
それでは,今日の問題です。
第26回・問題128 老人福祉法が制定された1963年(昭和38年)当時の状況に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 老人福祉法の制定に先立つ1960年(昭和35年)の国勢調査において,我が国の人口の高齢化率は7%を超え,高齢化社会に突入した。
2 老人福祉法では,市町村による老人家庭奉仕員に関する規定が置かれた。
3 老人福祉法において,特別養護老人ホームの制度が創設されたが,常時介護を要する者であれば,市町村の措置でなくても,施設との契約により入所することができた。
4 老人福祉法には,有料老人ホームに関する規定は設けられていなかった。
5 老人福祉法において,70歳以上の老人の医療費の一部負担分を国と地方自治体が支給することにより,1963年(昭和38年)から老人医療費は無料とされた。
正解は,選択肢2です。
2 老人福祉法では,市町村による老人家庭奉仕員に関する規定が置かれた。
老人家庭奉仕員は,今の訪問介護員です。
核家族化などにより,介護を必要とする高齢者に対する施策として老人家庭奉仕員が規定されたのです。
同じ理由で,特別養護老人ホームなどが創設されています。
それでは,ほかの選択肢も確認しましょう。
1 老人福祉法の制定に先立つ1960年(昭和35年)の国勢調査において,我が国の人口の高齢化率は7%を超え,高齢化社会に突入した。
WHOの定義では,高齢化率が7%を超えると「高齢化社会」,14%を超えると「高齢社会」,21%を超えると「超高齢社会」とされます。
日本が高齢化社会になったのは,1970年(昭和45年)です。老人福祉法は高齢化が進行したこともあって制定されていますが,高齢化社会になってから制定されたものではありません。
3 老人福祉法において,特別養護老人ホームの制度が創設されたが,常時介護を要する者であれば,市町村の措置でなくても,施設との契約により入所することができた。
先述のように,老人福祉法では,特別養護老人ホームが規定され,常時介護を要する者を対象とする入所施設となりました。
しかし,市町村の措置によって入所します。
これは,この時も現在も同じです。
契約で利用するようになったのは,介護保険です。
老人福祉法で規定する特別養護老人ホームを介護保険法による介護老人福祉施設として都道府県が指定します。これによって介護保険施設となります。
特別養護老人ホームは,老人福祉法の施設,つまり措置によって利用する施設と介護保険施設,つまり契約によって利用する施設の2面を合わせもつことになります。
4 老人福祉法には,有料老人ホームに関する規定は設けられていなかった。
老人福祉法が制定されたときに創設された老人ホームは
特別養護老人ホーム
有料老人ホーム
軽費老人ホーム
の3つです。
生活保護法に規定されていた養老施設は,老人福祉法で規定され直して「養護老人ホーム」となりました。
5 老人福祉法において,70歳以上の老人の医療費の一部負担分を国と地方自治体が支給することにより,1963年(昭和38年)から老人医療費は無料とされた。
老人福祉法が制定されたときに,老人保健に関する規定があったのは,65歳以上の高齢者に対する健康診査です。
老人医療費無料化は,1973年(昭和48年)の老人福祉法改正によって実施されました。
その後,2度のオイルショックを経験した日本は低成長時代になり,1982年(昭和57年)の老人保健法の制定により,老人医療費の一部負担が実施されることになります。
<今日の一言>
戦後の日本は,生活を大きく変貌してきました。
その一つが核家族化の進行です。
これにより,新しい福祉ニーズとして,介護の問題と子育ての問題が生まれていきます。
高齢者に対する施策は比較的早くから実施されたと言えますが,子育て支援はかなり遅れます。
一般家庭を対象とした児童手当の創設は,1971年(昭和46年)です。
それはさておき,日本はその後世界でも類を見ないスピードで高齢化が進行していきます。
現在は社会福祉制度としての老人福祉法,社会保険制度としての介護保険法の2つがあるのが,高齢者施策の特徴です。
障害者,児童,低所得者などにはこのように2つある制度はありません。
最新の記事
パーキンソン病について
今回は,パーキンソン病を学びます。 パーキンソン病は,ドーパミンが減少することで発症すると言われています。 主症状は4つです。 パーキンソン病の4つの主症状 振戦 静止時に手足が震える。 ...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
丁度可知差異は,超難読です。 ちょうどかちさい と読みます。 光や音などの刺激,重さなどの違いを感じ取ることができる最小の違いが, 丁度可知差異 といいます。 厳密に言えば異なるのかもしれませんが, 弁別閾 (べんべついき)とも言い...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
グループワークは以下の過程で実施されます。 準備期 ワーカーがグループワークを行う準備を行う段階です。 この段階には「波長合わせ」と呼ばれるクライエントの抱える問題,環境,行動特性をワーカーが事前に把握する段階が含まれます。波長合わせは,準備期に行うので注意が必要です。 ...
-
国試での出題実績のあるアプローチは以下の12種類です。 出題基準に示されているもの ・心理社会的アプローチ ・機能的アプローチ ・問題解決アプローチ ・課題中心アプローチ ・危...
-
人は,一人で存在するものではなく,環境の中で生きています。 人と環境を一体のものとしてとらえるのが「システム理論」です。 人は環境に影響を受けて,人は環境に影響を与えます。 人⇔環境 この双方向性を「交互作用」と言います。 多くのソーシャルワークの理論家が「人...
-
ICFで用いられる用語の定義 健康状態 疾病,変調,傷害など 心身機能 身体系の生理的機能(心理的機能を含む) 身体構造 身体の解剖学的部分 ...