老人福祉法は,老人福祉施設等を規定したものですが,法が成立した当時は,65歳以上の者に対する健康診査事業を規定するなど,老人保健を含んだものでした。
その後,1973年(昭和48年)には,70歳以上の医療保険の自己負担分を公費で支給する法改正が実施されて,老人医療費が無料化されました。
その後老人医療費の急増に伴い,1982年(昭和57年)に老人保健法を成立させて,老人医療費の一部負担が導入されました。
老人医療費の無料化は,1973年の老人福祉法改正に始まり,1982年の老人保健法制定に終わりました。たった9年間とは言え,日本の社会保障史の中で,老人医療費を無料化した施策は後世に語り継がれていくものでしょう。
さて,それでは今日の問題です。
第28回・問題127 次の記述のうち,老人福祉法において規定されたことのある制度や事業として,正しいものを1つ選びなさい。
1 市町村は,自らが行う介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施に関する計画を定める。
2 70歳以上の者で国民健康保険の被保険者又は被用者保険の被扶養者であるものに対して,その医療保険自己負担額を公費で支給する。
3 1961年(昭和36年)4月1日において,50歳を超える者等についてその者が70歳に達した時から老齢福祉年金を支給する。
4 高齢者専用賃貸住宅を設置し高齢者を入居させ,日常生活を営むために必要な福祉サービス等を提供する。
5 シルバー人材センター事業を実施し,高年齢退職者の希望に応じた就業で,臨時的かつ短期的なものや軽易な業務に係るものの機会を確保しその就業を援助する。
この問題は,秀逸な作問だと思います。
すべての選択肢は,嘘はなく,問題の設定によって,適切なものと不適切なものに分かれる問題だからです。
第32回国試は,試験委員の大半が入れ替わりましたが,こんな問題を出題してくれることを期待しています。
正解は選択肢2です。
2 70歳以上の者で国民健康保険の被保険者又は被用者保険の被扶養者であるものに対して,その医療保険自己負担額を公費で支給する。
一般的には,老人医療費無料化と表現されますが,どのように無料化が実施されたのかがよくわかる文章だと思います。
そういったところもこの問題の作問技術を際立たせているポイントです。
そのほかの選択肢も解説したいと思います。
1 市町村は,自らが行う介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施に関する計画を定める。
これは,介護保険法の規定です。
3 1961年(昭和36年)4月1日において,50歳を超える者等についてその者が70歳に達した時から老齢福祉年金を支給する。
これは,国民年金法の規定です。
国民年金法の実施でわが国は国民皆年金が出来上がりますが,老齢福祉年金を創設したことで隙間を埋めたのです。
4 高齢者専用賃貸住宅を設置し高齢者を入居させ,日常生活を営むために必要な福祉サービス等を提供する。
これは,高齢者住まい法の規定です。現在は,高齢者専用賃貸住宅(高専賃)は廃止され,サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)が規定されています。
5 シルバー人材センター事業を実施し,高年齢退職者の希望に応じた就業で,臨時的かつ短期的なものや軽易な業務に係るものの機会を確保しその就業を援助する。
これは,高年齢者雇用安定法の規定です。
<今日の一言>
今日の問題は,社会福祉士の国試らしい問題だと言えます。
というのは,社会福祉士は,法制度に精通したスペシャリストとして期待されていることもあり,国試では,制度の根拠法が問われるからです。
社会福祉士の国試には,法制度系の問題があります。
法制度を勉強する際,その制度はどの法律にもとづいたものであるのかをぜひ意識してみてください。
障害者なら,障害者基本法,障害者総合支援法,障害者雇用促進法などがあります。
高齢者なら,介護保険法,老人福祉法などがあります。
どの法律が根拠になった法制度なのかを意識することで,得点力の底上げが期待できます。
(おまけ)
老人医療費の無料化は,今となっては,国民医療費の高騰を招いたなど様々な批判もあるでしょう,
しかしそれは結果論です。
医者に診てもらうのは,死んだあと,つまり死亡診断書を書いてもらうためだけだったという時代もあります。
豊かな社会の実現を夢見て,熱く語り合った時代であったことは忘れてはなりません。
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